-国際連合を中心とする国際協力-

 

第15節 国際連合を中心とする国際協力

 

 

1.概    況

 

 

 (1)第24回国連総会は,9月16日から12月17日までニュー・ヨーク国連本部で開催され,107の議題につき審議を重ね,127の決議を採択したが,この決議の数は前総会より43件少なく,また討議の内容も実質的な決定を次回総会にまわした形のものが少なくなく,25周年記念の準備総会的な色彩が強かった。

 今次総会においても,国連がかかえている種々の問題について,先進諸国と発展途上国との間に意見の対立が見られた。特に米,ソの大国主義や,先進国の開発援助に対する消極的態度に対する中小国の反発が目立ち,特に米,ソ両国がジュネーブ軍縮委員会でまとめた海底大量破壊兵器禁止条約草案は,大国本位との非難を受け,同委員会に差し戻される結果となった。また新しい核兵器の実験・配備を一切停止するよう求める決議案も採択された。海底平和利用に関しても,深海海底に関する国際レジームができるまで,いかなる国もまた個人もこの地域の資源開発をさし控えるべきであるとの決議が米ソ等の先進国の反対を押し切って,発展途上国の多数意見により採択された。一方経済開発問題に関しても,最近南北間の較差の拡大傾向が見られることにもかんがみ,発展途上国の要求はきびしく,70年代の第2次国連開発の10年の戦略について,そのマスター・プランの作成に関し,先進諸国と発展途上国との間の基本的な見解の相違を解消することができなかった。一方現在世界平和の実現にとって大きな障害となっているヴィエトナム,中東問題に関しては,今回も国連の場では何ら有効な措置がとられず,これらは国連の議場外における関係国による直接交渉の問題として残された。またウ・タン事務総長が1969年の年次報告序文で特に重要性を指摘した中国代表権問題に関しても,従来通り「重要問題指定確認決議」が採択され,「中共招請,国府追放」のいわゆるアルバニア決議案は表決で賛成が4票ふえたが,代表権問題に関する基本的事態に変化はなかった。特にソ連が中共の国連加盟に消極的な態度をとり,今回始めて支持演説さえ行なわなかったことが注目された。

 (2)国連創設25周年を1970年秋に控えて,このような国連の姿に対し,国際世論の一部には,国連が無力で本来の使命をはたしていないという反省の声もあり,今回の総会一般討論においても,変化した国際情勢に有効に対処できるよう国連の機構,手続を再検討し,国連の平和維持機能を強化すべきであるとの意見を表明する国がふえたことが注目された。これに対しソ連はもとより米英仏などの安保理常任理事国は従来どおり国連強化は慣行によって相当程度可能であるとして,憲章の改正に対しては消極的態度をとり続け,結局本件は次回の総会で審議されることが決められた。このような状態の中で,わが国としては,国連が超大国の基本的な利害に反する行動をとることは実際上不可能であり,現在のように国連をとりまく現実の国際社会が東西の二大陣営に分裂している以上,国連の平和維持機能には一定の限界があることは明らかであるが,この現実をふまえた上で,憲章のレビューを通じて過去を反省し,国連創立の理念を実現する最善の道は何であるかを真剣に探求すべきであると考えており,特に安保理が実効性を高めるためには,世界各地域を真に代表して,平和と安全に貢献できる加盟国を結集すべきであることを愛知外務大臣も総会一般討論の際特に強調した。

 

2.第24回国連総会

 

(1) 一 般 討 論

一般討論演説では,114ヵ国の大統領,首相,外相,国連常駐代表等が,ヴィエトナム,中東,南部アフリカ,ビアフラ,軍縮,中国代表権,第2次国連開発10年などの諸問題につき発言したが,特に今回の総会では国連創立25周年記念を1970年に控えて,国連の機構改革,憲章の改正の問題に関して言及した代表が少なくなかった。ヴィエトナム問題に関しては,ニクソン米大統領は,北爆停止後1年近くたち,6万にのぼる米軍撤兵の重要措置をとった現在,北越側が対応措置のイニシアティヴをとるべきであり,各国代表に北越を説得するために,最善の外交的協力を払うよう要望し,この努力が成功すれば戦争は終結できるであろうと述べた。これに対しソ連は,パリ会談で北越と臨時革命政府の提起した建設的な提案を米国が承認するよう強く要求した。一般に,ヴィエトナム戦争を終らせる鍵は,双方の戦闘行為縮小であり,まず米側がそのイニシアティヴをとるべきであるとする意見が多かった。

また,中東紛争に関しても,アラブ圏,共産圏諸国は,中東問題の解決を遅らせているのはイスラエルが1967年11月22日の安保理決議の履行を拒んでいることに起因して居るとし,イスラエルに対し,その履行を強く要求したが,イスラエルは,中東地域が1967年以前の状態に戻ることに反対し,アラブ側との直接交渉を主張し,国連の強いイニシアティヴによる紛争の解決には強い警戒的な態度をとっている。

その他ソ連が国際安全保障強化問題をとり上げ,総会が平和共存,内政不干渉,領土不可侵,占領地域からの外国軍隊の撤退などの原則を宣言として採択すべきであるとして,議題とするよう提案したことが注目をひいたが,結局本件は次回総会で引き続き審議されることになった。また,最近頻発している民間航空機の乗取りの問題について,ニクソン大統領は,乗客,乗員,および航空機のすみやかな釈放を定めた1963年のいわゆる東京条約に続いて,乗取り犯人を罰するための新たな協定の必要を強調したことが注目された。

(2)中国代表権間題

前回同様重要問題指定決議が採択され,「中共に代表権を与え国府を国連より追放せよ」とのいわゆるアルバニア型決議案が否決されたが,前回の表決と比較すると今次総会では重要問題決議案の賛成票が2票減少し,他方,アルバニア型決議案の賛成票が4票増加して全体としてやや中共側に有利な結果に終った。

しかし中共支持国であるソ連が,首席代表グロムイコ外相の総会冒頭における一般討論演説で中国代表権について一言もふれず,また,代表権問題審議の際一般討論にも参加しなかったばかりか,国府代表の発言の際にも従来のように全員退場しなかったことが各国の注目を集めた。

(3)南部アフリカ問題

話し合いによる本問題の解決を唱った「南部アフリカ・マニフェスト」を歓迎するとの決議が採択されたことが注目される。しかしポルトガル施政地域問題,ナミビア問題,南ローデシア問題等に関する諸決議には従来同様非現実的,過激な箇所が少なくなく,アフリカ諸国が上記マニフェストに関する決議採択により急に現実的な態度になったとは言えない。

(4)国連のあり方再検討問題

総会一般討論演説で,愛知外務大臣がこれを取り上げたのをはじめ,多くの国が本問題に触れた。これら諸国のうち,特にコロンビアは国連憲章改正を審議するための特別委員会の設置を提案し,本提案は第6委員会で審議されたが,米,ソ,英,仏等の安全保障理事会常任理事国が消極的態度を示したため,結論をみるにいたらなかった。その結果コロンビアは憲章再審議問題を第25総会の議事日程に含めるとの趣旨の手続決議案を提出し,これが採択されたため,本問題は次回総会で引き続き審議されることになった。

(5)軍縮問題

総会では,軍縮委員会での審議のあとを受け,海底軍事利用禁止,化学・生物兵器禁止,地下核兵器実験禁止の各問題を中心に審議が行なわれたが,いづれの案件についても実質的な進展はみられず,これら案件を軍縮委員会に差し戻し,あらためて審議のうえ報告書を国連総会に提出すべしとの決議が採択されたに止まった。

なお,1969年夏軍縮委員会加入を実現したわが国はイタリア,アイルランドとともに,「1970年代を軍縮の10年とし,全面完全軍縮条約を目標とし,軍縮により節約される経費を発展途上国援助に向けるべし」との趣旨の決議案を提出し,これを採択させた。

(6)海底開発問題

国家管轄権の範囲以遠の海底に新制度を設けるための努力が国連で続けられているが,先進国と発展途上国の利害が必ずしも一致しないなどの理由から大きな発展を見ていない。他方,科学技術の進歩はより深い海底での資源開発を単に技術的のみならず経済的にも可能とするに至った。従って,先進国がますます深海へとその開発を進める傾向にある。かかる情勢を不満とする発展途上国等が,国家管轄の範囲を現在のままにして,新制度ができるまでは,(イ)それ以遠の海底での資源開発を自制することを求め,(ロ)その地域と資源に対する権利の主張を認めない,との趣旨の国連総会宣言を成立させた。しかし,新制度では正義と公平の原則が守られるよう,国連での真摯な努力が続行されることが望まれる。

(7)経済問題

最も注目された,「第2次国連開発の10年」のための国際開発戦略の策定の問題については,国連貿易開発会議(UNCTAD),あるいは,第2次国連開発の10年準備委員会等戦略案の検討を委ねられた下部機関での作業が遅れたため,当初予定されたような戦略の内容をめぐる討議は行なわれなかった。発展途上国側は,このような作業の遅れは,先進国側に開発問題に真剣に取り組む政治的意志が欠如しているためであるとして,先進国側を強く非難し,特に南米を中心とする一部の強硬論者は,この問題に関する決議の中に先進国は「開発の10年」の目的達成のため,援助あるいは貿易等の政策措置に関し法的拘束力を有する約束を行なうべし,との趣旨を挿入するよう強く求めた。しかし,大部分の先進国はこれに反対し,結局国際開発戦略策定の作業を促進すべし,という手続的な決議が採択されるにとどまった。

(8)社会・人権問題

社会の進歩と開発に関する宣言が採択されたことが注目された。この宣言は,社会発展のための共通の基盤として各国が採るべき広範な措置を定めたものであり,その採択は国連において社会開発問題の重要性がようやく認識され始めた証左と言えよう。先進国,発展途上国のいずれもそれぞれの社会問題の解決に迫られており,本宣言は,第2次国連発展10年の開発戦略とともに,今後の国連における社会開発活動の第一歩として注目に値する。

 

 

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