-南 北 問 題-
第14節 南 北 問 題
南北問題とは発展途上国の経済社会開発に関連する諸問題,とくに貿易と援助問題を指す総称である。1960年代に入って以来,この問題は次第に世界の注目するところとなった。しかしながら国連貿易開発会議(UNCTAD)を始めとするその他諸機構の整備にもかかわらず,先進国と発展途上国との絶対的な経済社会格差は広がるばかりであり,それゆえ1970年代を控えたここ1年間の本問題に対する関心はますます高まってきたといいうる。
特に具体的な動きとして,特恵および「第2次国連開発の10年」の準備の2つがあげられる。
発展途上国に対する一般特恵許与については,1969年3月に米国を除く先進国が特恵許与品目の暫定的リストをOECDに提出した。米国は7月にリストを提出したが,そのリストは具体性を欠いており,いかなる特恵供与を行なうかについてはなんらふれていなかった。しかしながら,発展途上国の要望にもかんがみ,これ以上実質的作業を遅らせることは好ましくないとの配慮もあり,先進国は1969年11月15日までに品目供与リストを主にしたなんらかの文書を,UNCTADに提出するとの方向で作業を進めていった結果,米国も11月初めに,より具体的なリストを提出し,またわが国もリストに手直しを加え,11月14日に先進国の一般特恵に関する態度を示した文書がUNCTAD事務局長に手交された。
発展途上国と先進国との協議の場であるUNCTAD特恵特別委員会は1969年中に2度開催されたが,それまでに先進国側から品目リストが提出されていなかったので,実質的な活動は行なわれなかった。11月にOECDを通じてリストが提出されたことにより,本格的に発展途上国と先進国間で特恵問題の審議を行なうことが可能となったわけであり,今後進展がみられるものと予想されている。
「第2次国連開発の10年」についても,その準備は一応の進展をみた。国連開発の10年とは,10カ年間の努力を通じて,60年代の終りには発展途上国の年間経済成長率を5%に引上げようとするものであったが,その10年も終ろうとしているので,1970年代を第2次国連開発の10年として,60年代のごとく単にスローガンをかかげるのみでなく,スローガン実施のための具体的措置を考慮して,実質的に南北問題解決をはからんとするものである。
そのため,それらの措置を列記した世界開発戦略を作成する必要があるとの認識のもとに「第2次国連開発の10年準備委員会」設置が第23回国連総会で決定された。同準備委員会は1969年中,4回開催され,開発戦略に関し具体的作業を行なってきた。発展途上国はとくに,貿易と援助面でのUNCTADの重要な役割を強調し,第2次国連開発の10年発足に際し,これまでUNCTADでとりあげられてきた両分野での広範囲な国際的措置について合意に達するよう,先進国側に迫っている。
世界開発戦略の内容については,今後2度開催される準備委員会で改革案を作成し,1970年の国連総会において最終的文案を確定して1971年からの第2次開発の10年発足を宣言することとなっている。
その他,世銀総裁マクナマラの要請をうけたピアソン元カナダ首相を委員長とする国際開発委員会(同氏他7名の世界の学者をメンバーとする)は,1969年10月,1年間にわたる研究・討議の後,今後の開発戦略のあり方,とくに発展途上国の自助努力による経済発展を促進するためとられるべき国際的措置についての報告書を世銀・IMF総会に提出した。この報告は世界的な注目をあびており,南北問題解決に当っている各国政府,諸国際機関などの実質的な政策策定に影響を与えることが予想される。
発展途上国は先進国に対して種々の措置をとることを要求する一方,国内において経済社会の総合的開発を急務として,自助努力を意欲的に進める意向であることを随時表明してきている。しかしながら発展途上国において,健全な財政金融政策が実施され,また所得配分の公平化がはかられ,さらに開発にとり最も重要な要素である人材の養成が行なわれて,豊かな経済体制が打ちたてられることを早急に期待することは,必ずしも現実的でないといえよう。
ただ,経済成長を妨げている古い障害物や抵抗を克服するための発展途上国国民の熱烈な意欲,政府による賢明な自助政策の遂行こそが南北問題の基本的解決をもたらす鍵であり,それゆえにこそその自助努力を補足するために豊かな経済社会生活を享受している先進国が,とくに貿易と援助の両分野において協力の姿勢を示すことは先進国の国際社会の一員としての義務であるといえる。また発展途上国の安定した繁栄なくして世界平和の確立も望み難いという事実を考えれば,先進国の協力は国際社会にとっての必要要件であるといえよう。このような意味において近年経済大国としての実力をつけつつあるわが国も,その国力に応じ南北問題の解決に努めるべきものと考えられる。