-米国の情勢-

 

第10節 米国の情勢

 

 

 ニクソン政権は,多数与党を擁したケネディ,ジョンソン民主党政権と比較すれば,議会の協力を必要とする施策に関しては未だそれほど目立った実績をあげていないが,その冷静かつ堅実な姿勢は,ヴィエトナム戦争など激動の60年代を経験した米国民の歓迎するところとなっている。

 

1.内    政

 

 ニクソン政権は発足以来,内政重視の姿勢をみせてきたが,その方針は70年1月の一般教書にも明確に打ち出されている。

 内政面の最大の問題であるインフレの克服については金利引上げ等の金融政策および黒字予算の編成等の財政政策により景気の引き締めをはかってきている。

 ニクソン政権の公約の一つである「法と秩序」については,凶悪犯罪の増加など事態は,いっそう深刻化していると伝えられるが,一般教書は犯罪対策にさらに積極的に取り組むことを明らかにしている。

 またニクソン政権発足以来,大規模な黒人暴動は発生していないが,基本的には事態は改善されておらず,犯罪問題と並んで社会不安の最大の要因の一つとなっているものとみられる。

 社会福祉の面では,69年8月いわゆる新連邦主義と称する新政策を提案し,社会福祉行政を連邦より地方に委せる方向を明らかにした。

 また,一般教書においては70年代の課題として環境の整備をとりあげるとの方針を明らかにした。

 

2.外    交

 

 ニクソン大統領は就任後,69年2月にはNATO諸国,7月から8月にかけてはアジア諸国およびルーマニアを訪問し,またロジャーズ長官,レアード長官,アグニュー副大統領,ロックフェラー特使をその他の各地域の諸国に派遣するなど積極的な訪間外交を行なった。ニクソン外交の基本路線は70年2月に公表された外交教書に示されているとおり,米国の外交目標とそのための手段とを明確に限定し,永続的平和の維持という目的のための手段として,(1)友好諸国との関係強化と新たなパートナーシップを探求する,(2)米国の軍事的力は維持し続ける,(3)同時に緊張緩和のために共産圏諸国との話し合いを進めるとするものである。特にパートナーシップのあり方としては,米国は既存のコミットメントは守り,核保有国からの攻撃に対するシールド(楯)は提供するが,その他の防衛の責務は第一義的には関係国が漸次これを引受けていくよう努力するべきであるとするいわゆるニクソン・ドクトリンを明らかにしている。

 外交上の最大問題であったヴィエトナム問題については,ニクソン政権は,69年6月の撒兵開始発表以降,撒兵を続行しつつ,ヴィエトナミゼーションを推進する政策を打ち出した。69年秋,ニクソン政権発足以来はじめて反戦運動が高まりを見せたが,ニクソン大統領は11月3日の演説で急激な撤兵は行なわず,ヴィエトナミゼーションの進展に応じて順次撒兵するとの方針を堅持することを明らかにしたが,このような毅然とした態度はかえって米国民の強く支持するところとなりヴィエトナム問題をめぐる国内世論は一応鎮 静化した。

 

 

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