六 海外移住の現状と邦人の海外渡航

 

 

海外移住をめぐる内外の情勢

 

1 概   況

(1) 概   況

一九六七年度(わが国会計年度)におけるわが国からの海外移住者総数は四、七一一名(前年度は五、二三○名)で、このうち海外移住事業団から渡航費の支給をうけた対中南米移住者は八八四名(前年度は一、〇五九名)であった。また、北米については、カナダに対する移住者数は八五八名(暦年、前年度は五〇〇名)で、米国に対する移住者数(米会計年度)は三、九四六名(前年実績三、三九四名)であった。

移住者受入諸国の移住に関する動向としては、一九六七年度は、中南米諸国については特に注目すべき移住政策上の変化はみられなかったが、わが国からの対ブラジル及び対アルゼンティン移住は前年度に引続き単身青年の技術移住が大きな割合を占めた。

他方、カナダ政府は、移住者受入の選考基準を改正し、移住者受入体制の改善を計った。また、米国では、一九六八年七月から修正移民国籍法に基づき、世界各国から人種の差別なしに移住者を受入れることとなるが、それまでの間暫定的に行なわれている移住者受入制度の下においても、わが国からの技術者、専門家を中心とする優先順位に基づく移住(後述対米国移住の項参照)は着実な伸展を示している。

目次へ

(2) 世論調査の結果

国内の海外移住に関する動向については、一九六六年一〇月、外務省は、国内における海外移住希望者の実態と世論の動向を把握するため、全国一せいに海外移住に関する世論調査を実施し、一九六七年一一月にその調査結果を発表した。この調査結果の中で注目すべき諸点は次のとおりである。

(イ) 海外移住希望者は、全国調査対象者の六・二%で、前回調査の二・六%を大幅に上回る水準を示している。

(ロ) 移住希望者は、年令の低い者、学歴の高い者、専門技術職員、学生などに特に多い。

(ハ) 希望移住先国の順位は、米国、ブラジル、カナダ、スイス、オーストラリアで、前回調査のブラジル、米国、中国、オーストラリア、カナダに比べ相当変動した。

(ニ) 移住後の希望職業は、商業二四・三%、技術二二・二%、自営農二一・八%であった。

目次へ

(3) 沖繩からの移住に関する業務

また、一九六七年度においては、長年の懸案であった沖繩移住業務の引継ぎ問題が最終的に処理された。

すなわち、戦後沖繩からの海外移住は、一九四八年頃より、ブラジル、アルゼンティン等への呼寄せ移住によって開始されたが、一九五四年には米国政府のあっせんによりボリヴィア向けの計画移住も始まり、六七年度末現在における送出総数は約二六、二〇〇名となっている。これら移住者の大部分は、琉球政府からの援助により沖繩から直接移住していた。従って、従来沖繩の海外移住はわが国の海外移住と殆んど関係なく進められてきた。ところが、一九六六年五月、東京において開催された沖繩に関する第九回日米協議委員会は、沖繩住民の旅券および移住の問題を中心に協議した結果、移住に関しては、日本政府および海外移住事業団が米国民政府、琉球政府およびその他の移住関係機関と協力して移住計画の作成および実施に当ることの原則的合意が見られた。その後の引続く交渉において、わが国が在那覇日本政府南方連絡事務所に移住担当官を派遣して、沖繩の海外移住に関する事務を行なうこと、および海外移住事業団が那覇に事務所を設置し、本土において行なっていると同様の業務を行なうことが合意され、一九六七年二月二〇日、日米間に口上書の交換を了した。

これらの合意に基づき、旅券移住担当官が南方連絡事務所に派遣され、九月一六日付をもって、沖繩における日本旅券発給事務および移住関係事務が開始されたが、これに先立ち、七月一日には海外移住事業団沖繩事務所が開設された。同事業団は沖繩事務所の開設に当り、かつて沖繩側の移住実務機関であった琉球海外移住公社および沖繩海外協会の職員を吸収し、沖繩およびボリヴィアにおける業務を引継いだので、七月一日以降沖繩の海外移住業務は海外移住事業団の責任の下に一本化されることとなった。

目次へ

2 対米国移住

(1) 一九六五年一二月に修正された米国移民国籍法はいよいよ一九六八年七月一日より完全施行されるので、従来、米国市民の配偶者、未成年の子供を除き、年間一八五名の国別割当を受けていた日本人の対米移住は、新優先順位に基づき、年間二万名まで移住できることとなる。しかしながら、この新制度に移行するまでの期間でも他国の査証割当枠に未使用分が生じた場合、これをプールし、割当以上に移住希望者がでた国に配分することとなっているため、わが国民も新優先順位に基づき移住が認められており、米国務省の統計によれば、一九六七年度(米会計年度)における日本人移住者総数は三、九四六名で、その中、優先順位該当者は一、三五五名であり、その内訳は次のとおりである。

第一優先(米国市民の未婚の子)              一九

第二優先(永住権を有する外国人の配偶者及びその同伴者) 二一七

第三優先(技能専門家、科学者およびその同伴者)     四九一

第四優先(米国市民の既婚の子)              四九

第五優先(米国市民の兄弟姉妹)             二六八

第六優先(熟練、未熟練を問わず、米国内に不足する職業に従事する勤労者およびその同伴者)   三〇六

その他                          五

(2) また、前記移行期間における各国からの米国移住につき注目すべき動向次のとおり。

(イ) 南欧を除く西欧諸国からの移住者が相対的に減少した。

(ロ) 南欧およびアジアからの移住者が急増した。

(ハ) 第一優先順位該当移住者は割当を満たさなかったが、第三および第六優先該当移住者は割当を大幅に越え、両者の枠がそれぞれ一〇%であるため、余りにも割当が少ないことが明らかとなった。

(ニ) 第五優先該当者は各国ともに多数出ており、イタリアからの移住者は特に多い。

目次へ

3 対カナダ移住

(1) カナダ政府はカナダ経済発展に必要な人材を技能および教育を基準として広く世界各国から受入れる政策をとり、一九六二年移民法施行規則を改正した。わが国に対しては、一九六六年六月東京にカナダ大使館査証部を開設し、移住業務を開始し、同年九月には、マルシャン移民大臣一行が外務省の招客として訪日し、椎名前外務大臣と移住問題につき意見を交換し、さらに同年一〇月に開催された第四回日加閣僚会議において、両国は協力してカナダ移住を推進することが確認された。(「わが外交の近況」第十号及び第十一号参照)

このような背景をもとにわが国民の対加移住は、急速な進展をみせたため、海外移住事業団は、一九六七年七月に移住者の実態およびカナダ国内事情調査のため、トロントに駐在員事務所を開設した。一方、カナダは同年一〇月に移住者の選考基準を緩和し、移住者受入れに一層積極的な政策を採用したので、今後とも対加移住者はさらに増加すると思われる。なお、対加移住施策検討のため、外務省は同年一二月、関係各省よりなる海外移住審議会幹事会を開催したが、引続き一九六八年四月に審議会を開き、その基本的施策につき答申を求める予定である。

(2) 近年におけるわが国民の対加移住実績は次のとおり。

一九六五年(暦年)          一八八

一九六六年             五〇〇

一九六七年             八五八

目次へ

4 対中南米移住

近年低調を続けている中南米向け移住は、一九六七年度においてもさして振るわなかったが、他方中南米各移住地の長期的未来像を策定して、移住者の定着安定を促進するための援護措置を一層充実することの必要性がますます重視されてきており、そのため、外務省および海外移住事業団は、その第一段階として、いくつかの移住地調査を行なったが、一九六七年度においてとられた主な施策をあげれば次の通りである。

(1) 一九六七年七月一日付をもって、わが国が沖繩移住業務を引継いだことに伴ない、戦後沖繩の集団移住地が建設されたボリヴイアにおいては、海外移住事業団サンタ・クルス支部が、それまで琉球政府および琉球海外移住公社の現地駐在事務所が実施してきた一切の業務および職員を吸収し、支部の機構、業務を拡充した。

(2) パラグァイにおいては、移住者が栽培する桐油を加工するための搾油工場建設の要望が強かったが、既に現地の基礎調査も終り、同年八月末東京に日本・イタプア製油投資株式会社が設立された。これにより、いよいよ本格的な工場設置の準備がすすめられることとなる。

(3) 海外移住事業団直轄移住地および受入国設定移住地入植者の生活文化の向上と生産力の増大を計るため、同事業団は各移住地に電気を導入するについての技術的基礎調査を実施した。この調査結果を検討した上、工事可能地区より逐次工事に着手することとなる。

(4) 移住地においては、農協が農協本来の業務を遂行するにとどまらず、教育、医療、治安、道路の維持管理等行政部門に係わる一切の業務を行なっている場合が多く、農協の事業活動如何が移住地の発展を左右している面が強い。そこで、今後の農協の在り方および育成指導方針を確立するため、中南米各移住地にわたって農協の実態調査を行なった。

(5) 移住者が入植したロッテの地券を速やかに取得することは、移住者の定着安定のためにも極めて重要なことであるが、ブラジルの連邦植民地によっては地券の交付がかなり遅れているところもあるので、わが方では日伯混合委員会を通じてブラジル政府に対し、地券の交付を促進するよう要請している。

なお、中南米諸国への移住者数は、一九六七年度一、〇四九名であり、このうち政府からの渡航費支給を受けたものは八八四名で、その国別内訳は次表の通りである。また、渡航費支給移住者八八四名について、業種別内訳をみると、農業移住者四三七名、工業技術移住者二〇一名、その他二四六名で、工業技術移住者が約二五%を占めている。

渡航費貸付及び支給移住者送出実績表

目次へ