資金を中心とする経済協力の現状
わが国とアジア地域との経済協力関係の強化拡大は、近年ますますその必要性が痛感されるに至っている。これはアジア地域においてわが国が積極的な外交を展開するためには、具体的な行動を通じて、アジア諸国の信頼をかちうることが基本的な要件となるが、そのような活動の内容として、経済協力の比重はますます増大していると考えられるからである。
また、通商上の考慮からも、アジア地域との貿易がわが国の経済において占める重要性は極めて大きいが、アジア諸国のおかれた経済環境は必ずしも安易なものではなく、このような諸国との貿易関係の強化のためには、経済協力を通じて相手国の経済体質を強化改善する努力を払わない限り、長期的には通商関係の拡大はあり得ないであろう。
この観点から政府としては、一九六七年度もアジア地域に対する経済協力の促進には格段の努力を払っている。
また、最近低開発国に対する援助は単に開発援助のみならず、国際収支援助も必要となるケースが多くなってきているが、アジア諸国においても、インドネシア、インド及びセイロン等、国際収支をバランスさせるための援助を強く要望してくる国々が増加し、今後のわが国の援助のあり方の多角化が一そう必要となってきている。更に最近の傾向として注目すべきは、これまで政府ベース援助ないし民間の延払輸出信用を大幅に受け入れて来た諸国中で、これらの結果生ずる債務の支払に困難を生じ、その繰延等による救済を求める例が次第に増加して来ていることである。一九六七年度においては、わが国はインドネシア及びインドに対して債務救済を行なったが、このほかアラブ連合、ガーナ等とも交渉を進めている。
アジア諸国に対する国別経済協力で、一九六七年度中に取決めが成立し、ないしは話し合いの進行した政府べースの主な案件は次のとおりである。
(1) わが国の韓国に対する経済協力は、一九六五年一二月一八日発効した「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国の間の協定」に基づいて実施されており、わが国は一九六五年一二月一八日から一九七五年一二月一七日までの一〇年間にわたり、総額三億ドル相当の無償供与及び二億ドルの長期低利貸付を韓国に対して行なうこととなっている。これら無償、有償(長期低利貸付)の供与は、各年均等に分けて年度別実施計画に従って行なわれることとなっている。
一九六六年四月三〇日に成立した第一年度実施計画には、無償四七・八百万ドル、有償(長期低利の貸付)四五・八百万ドルが計上されたが、実際の支払い額は協定限度額の無償三〇百万ドル、有償二〇百万ドルをこえないよう両国が留意することになっていた。
第二年度実施計画は六七年三月一〇日に成立したが、同計画には無償五〇百万ドル(内繰越し分一三・五百万ドル、新興計上分三六・五百ドル、有償三六・四百万ドルが計上された、、同計画についても第一年度計画と同様実際の支払い額は前記の協定上の支払い限度額を超えないよう韓国側が協力することとなっている。
第三年度実施計画は、韓国側から六八年二月に提案があり、現在両国間で折衝中である。
このような無償有償の経済協力に加えて、前記の日韓請求権経済協力協定の署名と同時に、交換された交換公文により、三億ドルをこえると期待される商業上の民間信用が韓国の政府または国民に対して提供されることを容易にし、かつ促進することが約束されている。
この商業信用は通常の延払輸出の形でわが国の輸出業者側から韓国側輸入業者に対して供与されるものである。但し、このうち特に漁業協力のため漁船及び漁業関係設備、器材類について九〇百万ドル、船舶(貨物船等)輸出のために三〇百万ドルがそれぞれ使用されることとなっている。一九六七年三月末までにこれらの延払輸出は総額約二億五千万ドルが承認されている。
(2) 中華民国に対する一億五、〇〇〇万ドルの円借款供与に関する取決めは、一九六五年四月二六日に成立し、更に同取決めに基づく第一年度実施計画に関する合意が同年一二月一〇日、第二年度実施計画に関する合意が一九六六年一二月二三日、第三年度実施計画に関する合意が一九六七年一二月一一日にそれぞれ行なわれた。
(3) ラオスの為替安定、国内インフレ防止を目的として設立されたラオス外国為替操作基金に対し、わが国より一九六五年に五〇万ドル、六六年には一月に一二〇万ドル、更に追加分として同年一二月に五〇万ドルの計一七〇万ドル、六七年には一七〇万ドルを拠出した。一九六八年度分として前年と同額の一七〇万ドルを拠出することを約束した。なお同基金の拠出国はわが国のほか、米国、英国、フランス、オーストラリアである。
(4) インドに対する世銀コンソーシアムに基づくわが国の協力として、一九六七年八月二九日債務救済のため六・一百万ドル、また同年九月五日第七次円借款三八・九百万ドル供与に関する取決めが成立した。
(5) 世銀主催のセイロン援助会議に基づき、セイロンの外貨不足に対する援助として一九六七年九月、同国に対し五百万ドルの第三次円借款を供与した。
(6) パキスタンに対する世銀コンソーシアムに基づくわが国の協力として、一九六六年五月に、第五次円借款として三〇百万ドル、一九六七年二月に、第六次円借款として、三〇百万ドル、一九六七年一〇月に、第七次円借款として三〇百万ドルの供与に関する取決めが成立した。
(7) インドネシアの経済安定再建を援助するため、一九六七年六月九日、五〇百万ドルの円借款、一〇百万ドルの贈与および四五百万ドルの再融資をそれぞれ供与する書簡の交換が行なわれた。
(8) タイに対し、その第二次経済社会開発計画を援助するために、三年間にわたり六〇百万ドルの円借款を供与する取決めが一九六八年一月一二日締結された。
中近東諸国は、自然的立地条件の不利や政治、行政、社会制度の後進性のため、従来経済開発はおくれていたが、最近は各国とも開発計画を実施し、国内産業の開発、工業化へ眼を向けるに至っている。
しかしながら、これら諸国は一部の産油国を除いては、開発のための自己資本の蓄積がなく、先進諸国からの資金援助を求めている。これに対し、中近東諸国との間に密接な経済関係を有する西欧諸国、および新たに中近東諸国への進出を目指している共産諸国は何れも活発な経済援助を行なっている。
中近東諸国はわが国とは地理的に遠く、貿易関係も、わが国からの繊維、雑貨類の輸出、先方産油国からの石油の輸入を除いては概して小規模にとどまっている。わが国からの資本財輸出も、先方工業化計画の未整備、わが国の技術に対する馴染み不足などの理由により、未だみるべき実績を収めていない。
このような事情にかんがみ、わが国としては、本邦の産業技術水準に対する外国の認識を深め得るような効果を持ったプロジェクトに重点をおいて対中近東経済協力を進める方針をとっており、例えば、スエズ運河の改修工事やイランの電気通信網計画に対して経済技術協力を行なっている。特に後者に対しては、政府ベースの資金協力も行なうこととし、一九六五年七月イラン政府との間に、一七百万ドルの円借款供与に関する取決めを結んだが、これに基づく輸出契約が一九六七年一一月に正式に締結されるに至った。
中近東地域に対する民間投資としては、アラビア石油が最大のものであり、クウェイト=サウディ・アラビア間の中立地帯において年産一、〇〇〇万キロリットル程度の原油生産を行なっている。
アフリカ地域は、その大部分が最近独立したばかりの国であり、自立経済の基礎となる経済、社会体制が未だ充分に整備されていない国が多い。したがって経済的には依然として旧宗主国を始めとする欧米先進諸国に対する依存度が大きい。一方欧米諸国としても、アフリカ市場に対する影響力を維持するために、積極的に経済技術協力を行なっている。
アフリカ諸国とわが国との経済関係は、アフリカ市場に対するわが国よりの繊維、その他の消費材輸出を中心とする貿易関係が主となっているが、先方よりの輸入品目が乏しいため、わが方の恒常的な出超になっている国が多く、ナイジェリア、東ア三国など片貿易を理由として日本品に対する輸入制限を実施する国もあらわれている。このためわが方としても、先方よりの買付け増大に努力するとともに、政府ベースにおいてもウガンダ、タンザニア、ケニア、ナイジェリア等に対して協力を行なっているが、この地域に対しては民間企業の進出はもっとも有効な方式と考えられ、本邦企業によるアフリカ市場の調査も盛んに行なわれているので、将来はかなり多部門へわたっての投資活動が行なわれるものと期待され、また銅など鉱物資源開発輸入のための大規模な民間ベースの投融資がコンゴー、ザンビア等を中心に行なわれる動きが見られる。
ラテン・アメリカは低開発地域中にあっては、最も開発の進んだ地域であるが、「進歩のための同盟」計画および地域協力としてのLAFTA(ラ米自由貿易連合)や中米共同市場の進展は、今後ともこの地域の開発発展を効果的に推進するものと見られる。しかし、他方、この地域の多くの国が、その構造的要因に基づく経済上の諸困難や、急速な経済開発の推進等によって、インフレの昂進や国際収支の悪化をもたらしたことも事実である。しかし、最近は、CIAP(進歩のための同盟全米委員会)の勧告や指導等に基づく、各国の自助努力や地域協力活動の促進により、漸次改善の方向にあるものと認められる。
ラ米諸国とわが国との経済協力関係は、地理的にも離れており、またわが国と同地域との経済交流の開始が、欧米諸国に比し、相対的に遅かったこと等もあって、その増進緊密化にはなお今後の努力に待つものが多い。しかし、資本財の延払輸出については、わが国の優れた機器やプラント類に対する認識も漸次浸透して来ており、今後とも延払条件の緩和、IDB、世銀等の国際機関との協力に加えて更にクレジット供与等の措置をも進めるならば、同地域で有力な地位を占めるブラジル、アルゼンティン、チリ等の諸国の経済事情の先行改善と相俟って、この分野における協力関係の拡大増進が期待される。
ラ米地域に対する本邦企業の投資事業は、一九六七年三月末で一〇〇件、その業種は重工業、軽工業、さらに鉱業、水産業にまで及んでおり、その投資額合計は三二一百万ドルで、わが国の対外投資総額の二八・二%を占めた。
わが方のラ米地域に対する投資は一時一巡したともいわれたが、その後の各国における経済発展および産業開発の進展に伴い、新規の分野、特に自動車、電機、電子工業、電気通信、時計等の分野における投資が引続いて行なわれており、今後の傾向としても注目されるところである。
わが国の経済協力は、賠償、技術協力など無償で行なわれているものを除けば、大部分が対外融資(政府借款、民間延払輸出など)および投資(証券取得、債権取得など)の形で行なわれているが、低開発地域に対するわが国の投融資実績は次のとおりである。
(1) 投融資残高(一九六七年一二月末現在 単位百万米ドル)
延 払 輸 出 直 接 投 資
ア ジ ア 六七〇・三 二〇一・二
中 南 米 二七〇・七 三一〇・五
中 近 東 六一・九 二三三・四
ア フ リ カ 四九六・七 十五・六
大 洋 州 一・三 三六・六
北 米 〇・三 三二九・三
西 欧 四一一・六 四四・一
共 産 圏 三九五・二 -
計 二、三〇八・〇 一、一七〇・七
(注) 延払輸出は、既船積残高ベース、直接投資は許可残高ベースである。