ラテン・アメリカ諸国と日本

 

1 ラテン・アメリカ諸国経済の動向と地域協力の動き

一九六七年におけるラテン・アメリカ諸国の経済の実質成長率は前年の三・七%を上廻り、四・三%(CIAP-進歩の為の同盟全米委員会-推定)を記録したが、注目すべきことは前年のラテン・アメリカ経済停滞の主な要因となっていたアルゼンティン、ブラジルの両国が革命政権下でインフレ抑圧努力を続け、いずれもGNP成長率を改善した点である。特にアルゼンティンについてみれば、その外貨準備は一〇億ドルという未曾有の水準に達しており、物価上昇率も前年の二九・九%から二七・三%に下降している。またブラジルも物価上昇率を四一・一%から二四・五%に改善することに成功し、その外貨準備も六八年三月現在五億ドルに達しており、これら両国の経済は調整段階を終って開発努力を再開せんとする段階に移行しつつある。他方、ラテン・アメリカで最も経済発展度が高く安定した成長を続けるメキシコは、引き続き実質六・四%の順調な発展を遂げた。パナマ、コスタ・リカ、ボリヴィア、エクアドルの四カ国も一応順調な発展を続けたが(一人当りGNPの成長率はいずれもCIAPの目標たる二・五%を超えている)、ペルー及びウルグアイの経済は国際収支難から困難に逢着し、特にウルグァイの経済危機はかなり深刻なものがある。またチリ経済は同国の主要産品である銅の国際市況が前年の異常騰貴のあとをうけて下降に転じたため、若干の後退を余儀なくされた。

ラテン・アメリカ地域においては従来中米共同市場、LAFTA(ラテン・アメリカ自由貿易連合)を中心に経済面での地域協力の動きが進められてきたが、一九六七年四月ウルグァイのプンタ・デル・エステにおいて開催された米州大統領会議では、一九八五年までに、中米共同市場およびLAFTAの統合を基盤としつつ、その他のラ米諸国をも包含するラテン・アメリカ共同市場を設立することが決議され、その後これを実現するための準備が始められている。また、かかる全般的な動きのほか、来たるべきラ米共同市場の形成にそなえて、LAFTA内での自らの地位を強化するため、LAFTA加盟諸国中アンデス諸国(ヴェネズエラ、コロンビア、ペルー、エクアドル、ボリヴィア、チリ)の間では、まずこれら六カ国の間で早期に経済統合を実現しようという動きも具体化している。これら諸国の間では既にアンデス開発公団設立協定が署名され、遠からず発効の見通しであり、その今後の動向はラテン・アメリカ地域協力全般の動きにも影響を及ぼすものとして注目されている。

なお、域内海運を原則として域内船舶により運営することを目的として起草され、一九六六年五月に調印されたLAFTA水上輸送協定は、その後域内諸国間の意見調整が進まず、未だ発効に至っていない。

また、以上とは別に、カリブ海の英連邦諸国および英属領の間で、カリブ海自由貿易連合が一九六八年五月から発足しているが、他のラ米経済統合との関係でその帰趨が注目されている。

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2 ラテン・アメリカとの貿易関係

一九六七年におけるわが国とラ米諸国(属領を含む)との貿易は、輸出六億一、二〇〇万ドルで対前年比一〇%増、輸入は八億五、五〇〇万ドルで九・五%増となっているが、収支尻は二億四、三〇〇万ドルの入超で、入超幅は前年に比べ八%増加している。

ラテン・アメリカは豊富な資源と大きな市場をもっているが、一九六七年においてわが国の総輸出の五・九%、総輸入の七・三%を占めるにすぎない。しかし今後ラテン・アメリカ各国がインフレ抑圧の努力を続け、経済の安定的発展に努める場合には、資本財を中心とする輸出市場としての重要性を増すものと期待される。

わが国は、ラテン・アメリカ諸国との貿易の拡大均衡をめざす見地から、片貿易対策にはかなりの重点を置いている。コスタ・リカ、パナマ、ドミニカ、ジャマイカ、ガイアナおよびコロンビアとの貿易はわが方の一方的な出超が続いているが、一九六七年においてもこの傾向は改まらなかった。わが国としてはこれら諸国との間の片貿易問題に対処するため、一次産品の買付けや、経済技術協力の供与等種々努力をして来ており、ドミニカの一次産品展の東京での開催(六七年一二月)、同国への農業専門家の派遣(六八年二月)等を行なったほか、地中海ミバエ発生により輸入を禁止されているパナマ、コスタ・リカ、ニカラグァのバナナ輸入の解禁について検討するための専門家の派遣をも考慮中である。なお、片貿易を理由に従来対日輸入制限を実施しているジャマイカは、一九六七年一二月右制限を一部緩和した。

他方、メキシコ、ペルー、チリについては、綿花(メキシコ)、鉄鉱石(ペルー)、銅(チリ)を中心とする輸入のため、貿易バランスは恒常的にわが方の入超となっており、またブラジルとの貿易も、鉄鉱石の長期大量買付け契約により入超幅が拡大する傾向にあるため、政府としては、これら不均衡の是正のため日伯、日墨両経済合同委員会を設置して問題の検討を行なう等、真剣な努力を続けているが、問題はなお今後の課題として残されている。

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3 メキシコとの貿易関係

メキシコとの貿易関係は恒常的に一億ドル前後の入超傾向にあるが、一九六七年には輸出が前年の五〇・五百万ドルから九一・八百万ドルと大幅に増大したのに対し、輸入は一七七・八百万ドルから一七一・八百万ドルと減少したため、入超幅は八千万ドルとやや縮小した。

同国との関係で特記すべきことは、一九六七年九月に三木外務大臣がメキシコを公式訪問した際、設立が合意された日墨経済合同委員会(両国政府間の事務レベルの会議)の第一回会議が、一九六八年三月東京において開催されたことである。合同委員会は今後東京とメキシコで毎年交互に開催される予定であるが、わが国はこの会議を、両国間経済問題の解決を促進し、均衡のとれた貿易の拡大をはかるための場としていきたいと考えている。

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4 ブラジルとの貿易関係

一九六七年のブラジルとの貿易は、前年に比べて輸出入ともに伸びたが、特に長期買付契約に基づく鉄鉱石の輸入を中心として、輸入の伸びが大きかったので、入超幅は前年の一六・六百万ドルから三一・〇百万ドルに拡大した。

同国との間ではつとに政府間の経済合同委員会の設立が検討されていたが、一九六八年二月ブラジルのマガリャンエス・ピント外務大臣が公賓として訪日した際、東京で第一回の会議が開催された。この会議においてわが国は貿易バランスの改善を求め、ブラジルはわが国からの経済技術協力を要望したが、今後両国間の諸問題はブラジルに対する借款供与の問題を含め、毎年日本とブラジルで交互に開催される経済合同委員会で討議されることになろう。

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5 アルゼンティンとの貿易関係

一九六七年のわが国とアルゼンティンとの貿易は、輸出が三九・三百万ドルと前年の三〇・六百万ドルに比しかなりの増大をみせたのに対し、輸入は五三・三百万ドルから五二・三百万ドルへと減少したため、入超幅は二二・七百万ドルから一三・〇百万ドルに縮小した。一九六七年には日亜経済関係をめぐって種々の動きがあったが、特に数年来の懸案であった日ア通商航海条約の批准書の交換が行なわれ、同年九月二五日に同条約が発効をみたことは、今後の両国間の経済関係を進めていく上で歓迎すべき出来事であった。

また、同年一〇月には第二回日亜経済合同委員会(民間レベル)がアルゼンティンにおいて開催され、わが方からは足立日本商工会議所会頭ら多数の民間代表が出席した。さらに、一九六八年三月にはクリーゲル・バセナ経済労働大臣が訪日し、両国間の諸懸案事項や、経済関係の発表のための方策につき、佐藤総理をはじめ関係閣僚と協議した。その際わが国は、アルゼンティン側の要望に応えて、とりあえず五百万ドルの借款供与を約したが、同国はわが国に対し食肉、小麦等一次産品の買付についても強い希望を表明している。牛肉、羊肉については口蹄疫の問題があり、小麦については品質及び供給条件の問題があって、これら一次産品の買付け問題は現在までのところ解決を見ていないが、わが国としてはアルゼンティン側の要望について今後とも検討を続けていくこととしている。

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