アジア・太平洋地域

 

1 佐藤総理の東南アジア・大洋州諸国訪問

佐藤総理は夫人ならびに随員を伴い、一九六七年九月二〇日から三〇日にかけて、ビルマ、マレイシア、シンガポール、タイおよびラオスの諸国を、また一〇月八日から二一日にかけて、インドネシア、オーストラリア、ニュー・ジーランド、フィリピンおよびヴィエトナムの諸国計一〇カ国を歴訪した。

今回の佐藤総理の訪問は、一九五七年の岸元総理の訪問および一九六三年の故池田元総理の訪問に続くものであるが、これらの訪問が戦後処理と個別的経済技術協力を主目的としたものに対し、今回の訪問は、世界第三位に躍進した工業力をバックに、すべての分野において、本格的にアジアの問題と取り組み、アジアと命運をともにしようとの意欲と意識を背景にして、(一)アジア諸国との友好親善の増進、(二)アジアに平和と安定を回復、維持するための方途の探求、(三)アジア諸国の社会、経済開発への協力強化-などを目的としたものであった。

かかる意義を有する佐藤総理の東南アジア、大洋州諸国訪問が、最近東南アジア、大洋州諸国間で推進されつつある相互連携地域協力への動きと、アジアにおける唯一の先進国でかつ戦後驚異的発展をなしとげたわが国への期待などもあって、これら諸国で熱烈な歓迎をうけ、多大の成果を挙げたことは、それぞれの訪問先で発表された共同声明に明らかであるが、その概要を示せば次のとおりである。

(1) 第一次訪問

(一) ビ ル マ

(イ) 動   静

佐藤総理は、まず九月二〇日から二二日まで、ビルマを訪問した。総理は同国滞在中、ネ・ウイン議長と二回にわたり会談を行なった。また、オンサン廟に献花し、日本人墓地に参拝、在留邦人と懇談するほか、賠償プロジェクト工場等を視察した。

(ロ) 会 談 要 旨

ネ・ウィン議長及び総理は、経済および技術の分野における両国間の協力関係が着実な進展を遂げていることに満足の意を表した。また、東南アジアにおける最近の情勢、特にヴィエトナムについては深い関心を表明し、すべての国が同国に恒久的平和をもたらすため、一層努力するよう希望した。

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(二) マレイシア

(イ) 動   静

佐藤総理は次に、九月二二日から二五日まで、マレイシアを訪問した。総理は同国滞在中、国王に謁見したほかラーマン首相と会談した。また、無名戦士記念碑に献花し、ナショナル・オペレイションズ・ルームを見学したほか、留学生および在留邦人、青年海外協力隊員と懇談した。

(ロ) 会 談 要 旨

両首相は、懸案であった血債問題についての協定が成立したことに満足の意を表し、この協定が今後両国の相互理解と緊密な協力の増進に大きく寄与するとの確信を表明した。

また、両首相はマレイシアとインドネシアとの間の外交関係の再開を歓迎したほか、ヴィエトナムの情勢に言及し、紛争の早期和平実現のため、すべての当事者が一層積極的な努力を払らよう要望した。

さらに両首相は、アジア・大洋州諸国間に地域協力促進の気運が高まっていることを歓迎し、東南アジア開発閣僚会議、アジア開発銀行、アジア・太平洋閣僚会議および東南アジア諸国連合等諸機構に緊密に協力して行くことを再確認した。

最後に両首相は、最近のゴム価格の低落傾向について討議し、ゴム価格安定のため、国際的な基盤において、協調的に努力すべきことに意見の一致をみた。

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(三) シンガポール

(イ) 動   静

佐藤総理は次いで、九月二五日および二六日の両日、シンガポールを訪問した。総理は同国滞在中、大統領に表敬し、リー首相と会談した。また、在留邦人、原型生産訓練センター関係者と懇談したほか、わが国より多数の企業が進出しているジュロン工業地帯を視察した。

(ロ) 会 談 要 旨

両首相は、東南アジア情勢、とくにヴィエトナムについて意見の交換を行ない、紛争の早期平和解決と永続的な平和実現を図るため、関係国が積極的に努力するよう要望した。

また両首相は、アジア・太平洋地域諸国間の地域協力促進について、一層緊密に協力していくことに合意をみた。

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(四) タ   イ

(イ) 動   静

佐藤総理は、九月二六日から二八日まで、タイを訪問した。総理は同国滞在中、国王ならびに王妃両陛下に謁見したほか、タノム首相と会談した。また、戦勝記念塔の献花および王宮、エメラルド寺院の見学を行ない、留学生および在留邦人と懇談した。なお、タマサート大学より名誉学位を授与された。

(ロ) 会 談 要 旨

両首相は、現下の国際情勢、なかんずくヴィエトナムについて卒直な意見の交換を行ない、同国に公正かつ永続的な平和が実現するために、両国が努力することに意見の一致をみた。

また両首相は、タイ国の第二次経済開発五カ年計画の実施援助として、六、〇〇〇万米ドルの円借款供与に関する協定が近く署名をみることになったことを歓迎した。

次いで両首相は、日・タイ両国間の貿易がタイ国の入超により不均衡になっている事実に留意し、現状を改善するため努力することに合意した。

最後に、両首相は近い将来にタノム首相の日本公式訪問を実現するために、両政府事務当局間で協議を進めることに合意した。

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(五) ラ オ ス

(イ) 動   静

佐藤総理は、九月二八日および二九日、ラオスを訪問した。総理は同国滞在中、国王に謁見したほか、プーマ首相と会談した。また、在留邦人および青年海外協力隊員と懇談した。

(ロ) 会 談 要 旨

両首相は、ヴィエトナムの平和回復にそれぞれの立場から、最大限の努力を継続することについて意見の一致をみた。

また両首相は、アジアの繁栄のために地域協力の重要性を強調し、必要な努力を払うことに同意した。

最後に両首相は、ラオスの経済、財政状態を改善するために、同国において開発計画を実現することの必要性を認め、佐藤総理はその計画の実現にできるだけ協力する旨表明した。

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(2) 第二次訪問

(一) インドネシア

(イ) 動  静

佐藤総理はまず、一〇月八日から一一日まで、インドネシアを訪問した。総理は同国滞在中、スハルト大統領代理と会談した。また、独立志士墓地に献花するほか、在留邦人、留学生と懇談した。

(ロ) 会 議 要 旨

佐藤総理は、インドネシアがマレイシアとシンガポールとの間に、それぞれ外交関係を樹立したことに歓迎の意を表した。

また大統領代理は、インドネシアの対外債務返済問題の解決および対インドネシア経済援助の供与に対し、日本が示した協力に感謝するとともに、日本が将来ともインドネシア経済の安定、開発のため協力するよう要望した。これに対し、佐藤総理は今後多数国間の協力の下に、インドネシアに対し引続き経済協力を行なう用意がある旨述べた。

次いで両首脳は、漁業問題について討議し、この早期解決のため特別の体制をつくり、具体的に検討を行なうことについて意見の一致をみた。

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(二) オーストラリア

(イ) 動   静

佐藤総理は次いで、一〇月一一日から一四日まで、オーストラリアを訪問した。総理は同国滞在中、ケーシー連邦総督に表敬し、ホルト連邦首相、閣僚ならびにウィットラム労働党々首と会談した。また、戦争記念館を訪れ戦没者記念碑に献花した。一三日には空路メルボルンに赴き、デラコーム・ヴィクトリア州総督を訪問するほか、ボルテ・ヴィクトリア州首相と午餐をともにした。その後シドニーを訪れ、アスキン・ニュー・サウス・ウエルズ州首相と晩餐をともにした。一四日はカトラー・ニュー・サウス・ウェルズ州総督を訪問した。

(ロ) ホルト連邦首相との会談要旨

両首相は、ヴィエトナム紛争の早期かつ公正な解決をもたらす方途につき協議し、国際連合が平和維持に効果的に貢献できるよう同機関に対する支持をさらに強化する決意を再確認した。

また軍縮の分野において、核兵器不拡散条約ができるだけ多くの国が加盟し得るような形で、早期に締結さるべきであるとの希望を表明した。

次いで両首相は、両国間の貿易が近年著しく拡大していることを確認し、今後とも円滑な発展をするために、両国間において、近く二重課税防止条約を締結するための交渉を始めることが望ましい旨、意見の一致をみた。

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(三) ニュー・ジーランド

(イ) 動   静

佐藤総理は、一〇月一四日から一八日まで、ニュー・ジーランドを訪問した。総理は同国滞在中、クライストチャーチにて同市々長および地元国会議員と面会したほか、ウェリントンでは、ファーガソン総督と午餐をともにし、あと国会議事堂内でホリオーク首相および閣僚と会談を行ない、ついでカーク労働党々首とも会談した。

一七日には空路ハミルトンに赴き、テ・ラパ酪農工場及びフィッシャー畜産場などを見学した。そのあと、オークランドにて同市長主催レセプションに出席、歓談した。

(ロ) ホリオーク首相との会談要旨

両首相は、漁業問題が両国にとり満足すべき協定の締結によって最近解決したことを歓迎した。

また両首相は、両国間の提携をさらに強固なものにするために、両国間の人的および文化的交流を一層増進することに意見の一致をみ、ホリオーク首相はニュー・ジーランド政府が明年「日本文化基金」よりニュー・ジーランドにおいて、大学院課程の畜産研究を行なう日本人に対し、奨学金を供与する用意がある旨明らかにした。

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(四) フィリピン

(イ) 動   静

佐藤総理は、一〇月一八日から二一日まで、フィリピンを訪問した。総理は同国滞在中、マルコス大統領と会談したほか、上下両院議長と午餐をともにしながら歓談した。また、アジア開発銀行および小規模工業技術訓練センターを訪問した。そのほか在留邦人、青年海外協力隊員と懇談した。なお、佐藤総理は二〇日吉田元首相の訃報に接したので、同日夜の公式行事をすべて取止めた。

(ロ) 会 談 要 旨

大統領および総理は、日比友好道路計画についての日比合同委員会による交渉が妥結したことを歓迎するとともに、総理は大統領に対し、日本政府は同計画を完成させるため借款を供与する用意がある旨確言した。

また両首脳は、優先開発計画につき討議したほか、カガヤン渓谷鉄道延長計画およびソルソゴン鉄道延長計画を推進するため、日比合同委員会において討議することに合意した。

次いで両首脳は、日比両国間の緊密な経済関係にかんがみ、租税協定を締結するため早期に交渉を始めることが望ましい旨意見の一致をみた。

最後に両首脳は、両国の航空会社により両国間に定期航空業務が開始される見込みであることを歓迎し、両国間において航空協定締結のため早期に交渉が行なわれることを希望した。

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(五) ヴィエトナム

(イ) 動   静

佐藤総理は一〇月二〇日、最後の訪問国ヴィエトナムを訪問した。総理は吉田元首相逝去の結果、二日間の滞在予定を一日に短縮し、チュウ国家指導委員会議長およびキィ首相と独立宮で別個に会談したあと、僅か三時間の滞在のみで帰国の途についた。

(ロ) 議長、首相と総理との会談要旨

両首相は、ヴィエトナムにおける情勢がアジアの平和と安定に対する大きな脅威となっていることを認め、紛争の早期解決のために和平への努力を一層強化していく決意を表明した。

また両首脳は、長期的なアジアにおける繁栄を増進するため、アジアにおいて地域的協力の発展にそれぞれ努力する旨合意した。

最後にチュウ議長は、日本からの医療協力等に対し感謝の意を表明するとともに、これらの援助の継続を要望したが、これに対し佐藤総理は、この種の民生安定に寄与する援助を引き続き行なう旨述べた。

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2 アジア・太平洋協議会(ASPAC)第二回閣僚会議の開催

アジア・太平洋協議会第二回閣僚会議は、一九六七年七月五日から七日までバンコックにおいて開催され、出席した各国閣僚の間で、地域内の共通の諸問題について活発な討議が行なわれた。

会議は、また、ASPACが「この地域の発展のため、政治・経済・社会・文化の諸般の分野において、自由な意見の交換を通じて相互理解の増進を図り、地域内諸国の結び付きを強めることを目的とすること」を再確認するとともに、「外部との対抗ないし対決を意図するものではなく、また、その運営上すべての点で実際的、弾力的アプローチを旨とすること」を確認し、この旨を含む共同声明を発出した。

その他、ASPACの事業として「文化社会センター」を韓国に、「専門家登録機関」を豪州に設けることが、この会議によって決定された。

第三回閣僚会議は、一九六八年キャンベラで開催されることとなり、それまでの間同地に常任委員会を設け、引続き加盟国間の協議および所要の作業に当らせることになった。常任委員会は、ほぼ毎月会合し、随時諸問題について意見の交換等を行なったほか、作業部会を設けて文化社会センター協定案の作成に当った。

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3 東南アジア諸国連合(ASEAN)の成立

マレイシアの結成を契機として発生したインドネシア、フィリピン両国とマレイシアとの間の紛争と対立は、インドネシアにおける政権の交代によってようやく終結をみ、一九六六年六月にはマレイシア・フィリピン両国間の復交、インドネシアのシンガポール承認が実現し、次いで同年八月にはインドネシア・マレイシア両国間の国交が正常化された。このような事情を背景として、東南アジア諸国間の協力の気運は急速な高まりをみせ、地域協力機構創設の動きがみられることとなった。

かくして、一九六七年八月五日から八日まで、タイ・フィリピン・インドネシア・マレイシア・シンガポールの五カ国外相(マレィシァは副首相が出席)がバンコックで会合し、これら五カ国を参加国とする東南アジア諸国連合(ASEAN)の設立を決定した。

その創立宣言によれば、ASEANは、東南アジアの地域協力を促進し、外国の干渉から域内諸国の安全と安定を守り、経済、社会、技術、文化、行政の各分野で相互の援助を図ることを目的としている。またその運営は毎年外相会議を持回りで開催するほか、次期会議主催国に常任委員会を設けることとされている。

第二回外相会議は、ジャカルタで開催されることが決定された。

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