国連の財政状況および国連人事問題

 

1 概   観

国連財政再検討のための特別専門家委員会は、一九六六年三月、国連財政の実情を分析し、一九六五年九月三〇日現在の財政赤字を最小五、二〇〇万ドル、最大七、三四〇万ドルと見積り、その額からすでに誓約された自発的拠出二、〇一〇万ドルを差引いた三、一九〇万ドルないし五、三三〇万ドルの自発的拠出を要するとしていた。

わが国は、以上の実情にかんがみ、未拠出国(特に仏ソ)の拠出を促進することを期待して一九六六年一二月二五〇万ドルを拠出した。更にその後ソ連およびフランスは、国連財政困難を克服するために自発的拠出を行なう用意のあることを明らかにした(しかし一九六八年三月現在いずれも拠出していない)。

その後国連財政赤字は通常予算およびスエズ国連軍経費の未支払が累積し、一九六五年当時五、二〇〇万ドルと見積られていた赤字最小額は一九六七年九月現在六、○○○万ドルないし六、二〇〇万ドルに達している。他方これに対する自発的拠出は、若干の加盟国が国連平和維持活動に対する態度を変更していない結果、二、三六〇万ドルにしか達せず、最小限三、六五〇ないし三、八五〇万ドルの拠出が今後必要とされている。

事務総長は、その第二二回総会に対する年次報告の序文において、国連の財政状態は年々悪化の一途をたどっており、この傾向に終止符を打つためには、多額の支払を伴う平和維持活動には従来に比較してより確固とした基礎にもとづく支弁方法を案出することが必要である旨強調している。

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2 一九六八年度予算額等の決定および本邦分担金

第二二回総会は一九六七年度国連通常経費改訂見積及び一九六八年度国連通常予算を次の通り決定した。

(1) 一九六七年度通常予算の改訂見積

第二一回総会は、一九六七年度国連通常経費として、支出一三〇、三一四、二五〇ドル、収入二一、六四二、四二六ドルを承認したが、その後第五回緊急総会、UNTSO(国連パレスチナ休戦監視機構)増強、UNIDO(国連工業開発機関)

移転等に係る追加費用が生じた結果、事務総長は支出について一三三、三一四、三〇〇ドル(二、七四四、〇七〇ドル増)、収入について二二、六四四、八九四ドル(一、〇〇二、四六八ドル増、支払純増は一、七四一、六〇二ドル)の改訂見積を第二二回総会に提出した。ACABQ(行政予算問題諮問委員会)は、事務総長改訂案につき支出額の二七五、○○○ドル削減(収入については事務総長案どおり)を勧告し、総会はACABQの勧告どおり、支出について一二二、七八三、三〇〇ドルを承認した。

(2) 一九六八年度通常予算

事務総長は、第二二回総会開会に先立ち、支出について一四一、六一九、三〇〇ドル、収入について二三、九三六、七〇〇ドルの見積りを提出したが、ACABQは、支出の部を五、六二六、七〇〇ドル減額した一三五、九九二、六〇〇ドル、収入の部を四四五、九〇〇ドル減額した二三、四九〇、八〇〇ドルを勧告した。その後本部一般職々員俸給改訂、国連パレスチナ休戦監視団強化等に係わる追加見積りを考慮した結果、総会は支出総額一四〇、四三〇、九五〇ドル(対前年比八.六六%増)、収入総額二三、六三五、〇〇〇ドルを承認した。

(3) スエズ国連軍経費

第二一回国連総会は、一九六七年のスエズ国連軍経費を一四、三〇四、〇〇〇ドルと決定したが、一九六七年五月スエズ国連軍が撤退した結果、事務総長は第二二回総会に対し、経費は当初見積を下廻り、一一、三九六、〇〇〇ドル(二、六〇四、〇〇〇ドル減)となる予定である旨報告し、総会は事務総長に対し、右残高をスエズ国連軍清算費用にあてることを承認した。

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3 一九六八-一九七〇年度国連分担率改定

国際連合の通常経費は、総会の定める分担率に従って加盟国が負担する。この分担率は各国の支払能力を基礎として算定され三年ごとに改定されるが、一九六七年はこの改定の年にあたっていた。国連分担金委員会は一九六八年-一九七〇年の各国の新分担率を総会に勧告したが、わが国については、一九六五-一九六七年の二・七七%から一挙に三・七八%(増加率三六・五%)へ引上げることを勧告した。総会においてはわが国のほか大幅引上げを勧告されたイタリア、スペイン等が強い不満を表明したが、結局右の勧告は多数の支持をえて採択された。この結果わが国の分担率はカナダを抜いて第六位に進み、〇・二二%の差で安全保障常任理事国たる中華民国ときびすを接することとなった。

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4 人事問題および国連常用語の問題

(1) 事務局の構成

国連事務局職員の国別及び地域別配分の問題は、各国または地域の利害とからみあって、従来国連総会における財政行政問題審議の中で大きな比重を占めてきた。第二一回総会は、単に職員の数の上での衡平な配分では不充分であって、各国別の高級ポストの任用の適正配分をはかることが必要であるとして、ポストの重要性を考慮に入れて各国別の「望ましい範囲」を決定することを研究するよう事務総長に求める趣旨の決議案を採択した。事務総長は右決議に基づきこの問題を検討した結果、ポストの重要性を加重して望ましい範囲を決定することは事態の根本的改善には資するところがないとして消極的な結論を下した旨総会に報告した。わが国、パキスタン等高級職員の任用状況の悪い国はこれを不満として、今後重要性に応じて各ポストを点数で表示した事務局職員の構成状況を次期総会に提出することを事務総長に求める趣旨の決議案を提出した。この制度は人事に関する事務総長の裁量を制限するとして、最初は消極的であった米国、英国等も、共同提案国が求めているのは単に情報としてだけであり、また事務局もこの点につき次期総会に報告することには何の困難もない旨明らかにするに及び、決議案は殆んど全会一致(棄権一)で採択された。

(2) 国連常用語問題

国連の公用語は、英語、フランス語、スペイン語、ロシア語及び中国語と定められているが、常用語は各機関により異なり、事務局内部では英語及びフランス語が従来常用語として扱われてきた。

各国語の事務局内部における使用状況は、その国語を使用する職員の任用状況と密接に関連するため各国の利害が対立し、特にフランス語圏諸国は、フランス語が英語に比して差別待遇をうけているといら不満を持っていた。

第二一回総会は、フランス等の主張に基づき、事務局の職員特に高級職員の任用に際し常用語のバランスを保つよう要請した。第二二回総会において、フランス語及びスペイン語圏三八カ国は、この要請の趣旨を実際に実現するために、職員の語学訓練計画および語学ボーナス制度を導入するよう要請する趣旨の決議案を提出した。この決議案に対して、日本、米国、英国等は、この提案は事務局の能率を害し、財政負担を増大させるものとして反対したが、総会は右決議を賛成八八、棄権三〇で採択した。

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