安全保障理事会
中東問題に関する審議
一九六七年春、シリアからする対イスラエル・ゲリラ活動が激化したため、イスラエル首脳は強硬発言を行なうとともに、ゲリラ活動に対しては空軍まで使用して断乎たる措置をとった。このため、シリアと同盟関係にあるアラブ連合は五月一八日、アラブ連合領域およびガザ地帯の国連緊急軍の撤退を要求、さらに五月二二日、アカバ湾封鎖宣言を行なう等強硬措置をもってこれに対抗し、極度の緊張状態が醸成された。このため安全保障理事会が急遽開催され、現地の平和維持のため努力したが、ついに戦闘の勃発を防止し得ず、六月五日、イスラエルとアラブ諸国の間に戦端が開かれた。安全保障理事会は数次にわたって決議を採択し、六月一〇日、一応双方の停戦に成功した。しかし問題の実質的解決については、理事国間で早急に合意が達成されず、さらにソ連の要請により開催された第五回緊急特別総会も見るべき成果を挙げ得ず、問題の解決を第二二回通常総会に持ち越して閉幕した。しかし、同総会会期中、アラブ諸国の間で、問題は総会よりも安保理事会で審議さるべしとの動きが生じ、わが国は一〇月の安保理議長国として、非公式協議における関係諸国間の意見調整の面で積極的な役割を果した。右を土台として、安全保障理事会は一一月九日開催され、同月二二日、イスラエル軍の撤退と交戦状態の終結、事務総長特使の現地派遣を内容とする決議をした。事務総長特使に任命されたヤーリング(スウェーデンの駐ソ大使)は右に基づき、現地に急行し、問題の具体的解決のため、関係当事国(受入れを拒否したシリアを除く)との接触を続け現在に至っている。
なおこの間、イスラエル軍とアラブ連合軍との間の小競り合いを審議するため、安全保障理事会が二回(七月および一〇月)開催された。
(1) 五月二四日、カナダ、デンマーク両国の要請に基づき、安保理事会が開催されたが、事態鎮静のため急ぎカイロに赴いた事務総長の帰任報告をまって審議すべしとの意見が大勢を占め、いったん審議を打切った。
(2) 安保理事会は五月二九日再開されたが、事態鎮静化のため自制を求めるカナダ、デンマーク決議案、これとほぼ同趣旨の米国決議案、ならびにイスラエルに対し一九四九年エジプト・イスラエル休戦協定の遵守を求めるアラブ連合決議案が提出されたが、いずれも採択には至らなかった。
六月五日、アラブ連合とイスラエルの間に武力衝突が生じ、右は直ちにイスラエル・アラブ諸国間の全面的戦闘に発展したため、同日緊急安保理事会が召集された。
(1) 理事会の冒頭、事務総長は「アラブ連合、イスラエルのいずれの側が先に攻撃をしかけたか確認し得ない」旨明らかにした後、両国の軍事活動につき報告した。また、イスラエルおよびアラブ連合はいずれも相手国が先に攻撃した旨を強調した。審議の過程において、インド決議案、インド決議案に対するラ米修正案、デンマーク決議案の三決議案が提示された。これらはいずれも即時停戦を要求する点において共通であったが、停戦後の撤退の問題について相違しており、米国は各当事国の立場を害さないため撤退のラインについては明確な規定を避けるべしとの態度であったのに対し、ソ連、インド等は戦闘勃発以前の六月四日のラインに撤退すべしと主張し、結局、撤兵問題に触れないことで妥協が成立した。六日夜、議長より(一)当事国に、とりあえず即時停戦と軍事活動停止のための措置を直ちにとるよう要請する。(二)事務総長に引き続き情報提供を求める、との趣旨の決議案が提示され、右が全会一致で採択された。議長は事務総長に対し、右決議を直ちに交戦当事国に伝達するよう要求するとともに、当事国がすみやかにこの決議に従うよう訴えた。
(2) 右安保理事会の即時停戦決議に対し、イスラエルはアラブ側の停戦受諾を条件に受諾する旨、また、ジョルダンも受諾の意向を表明したが、当初、シリア、イラク、サウディ・アラビア等のアラブ側諸国は、受諾拒否を表明した。このため、安保理事会はさらに次の二決議を全会一致で採択し、六月一〇日はじめて停戦の実施が確認された。
(一) グリニッチ標準時六月七日二〇時(日本時間八日午前五時)の時限付で停戦および軍事行動停止を求めたソ連の口頭提案に基づく決議(六月八日)
(二) シリア、イスラエルの即時停戦を求める決議(六月九日)
(3) 安保理事会は六月一四日再開し、これまでに提出された次の四つの決議案について審議した。
(一) 安保理議長と事務総長に停戦決議履行確保を求めたカナダ決議案。
(二) 紛争当事国に対し、国連または第三者の助力を得て交渉を行なうよう訴えた米国決議案。
(三) イスラエルの侵略を非難し、同国軍の即時、無条件撤退を求めたソ連決議案。
(四) アラブ難民の救済および捕虜の人道的取り扱いを訴えたアルゼンティン、ブラジル、エティオピア決議案。
ソ連は前記(三)の同国決議案の表決を求めたが、分割投票の結果、否決された。否決後、ソ連代表は安保理事会が行動を起すことに失敗したことが明らかになった旨述べ、緊急特別総会開催の必要性を示唆した。
ついで安保理事会は前記(四)の難民救済に関する決議案を全会一致で採択した後、六月一四日夜、次回会合の日時を定めることなく休会した。
(1) 国連第五回緊急特別総会は中東問題を第二二回通常総会の最重要問題の一つとして優先的に審議する旨決議して閉幕した(前出「国際連合第五回緊急特別総会」項参照)が、第二二回総会々期中、本件審議は総会よりも安保理事会の方が望ましいとの考え方が大勢を占めるにいたり、一〇月の安保理議長たる鶴岡大使を中心に、一〇月中旬頃より非公式協議が進められていたところ、アラブ連合の要請に基づき、安保理事会は一一月九日より二二日まで本件審議を行なった。
(2) 右審議において、インド、マリ、ナイジェリアの三カ国決議案と米国決議案が検討された。両案とも、中東の恒久的平和を目的とし、占領軍の撤退、交戦状態の終結および政治的独立の確保の三つの原則を確認し、かつ、事務総長の代表を派遣することを主たる内容とする点では共通であったが、(一)イスラエルの撤兵ライン、(二)イスラエル船舶のスエズ運河自由航行、(三)事務総長代表の任務等の諸点については意見が対立した。
このため両決議案の対立を回避し、一本化した妥協案作成のための努力が続けられたが、一一月一六日、英国が決議案を提出し、右が二二日の理事会で満場一致採択された。
採択された決議は前記二案の中間を行くもので、中東の恒久平和のためには、イスラエル軍隊の占領地域からの撤退および交戦状態の終結、国家主権の尊重、領土保全が必要なことを謳い、(二)さらに具体的に、国際水路の通航の自由の保証、難民問題の解決、非武装地帯の設定等の諸措置の必要性を挙げ、(三)事務総長代表の任務は「決議の原則と条項に従い、平和的かつ受諾可能な解決を達成するための合意を促進し、また、そのための努力を援助する」ことにあるとし、かつ、事務総長は特別代表の任務の進捗状況を可及的速やかに安保理事会に報告すべきものとする内容のものである。
(3) 一一月二二日、わが鶴岡代表は投票理由の説明を行ない、要旨次のとおり述べた。
「英国決議案の採択は中東における公正かつ恒久的平和の達成に実質的に寄与するものである。戦争による領土の獲得は許し得ざるものであり、各国が同地域内で安全に生活し得るよう公正かつ恒久的平和を求め、努力する必要がある。そのためには、(一)最近の紛争において占領された地域からのイスラエル軍の撤退、(二)あらゆる交戦の権利、ないしは状態を終了し、地域内各国の主権、領土保全、政治的独立を尊重かつ承認するとともに兵力の脅迫、行使のない安全かつ承認された国境内で平和に生活する権利を守ることが必要である。
事務総長特使に対し与えられる命令が当事国間の合意の促進ならびに平和的解決達成の努力助成を可能ならしめることを希望する。特別代表の任務は容易ではないが、これに成功するためには、安保理事会の最大の支持および全国連加盟国の全面的かつ効果的な協力、特に、関係当事国の協力が絶対に必要である」
右中東問題全般の政治的解決を求めた安保理事会とは別個に、イスラエルとアラブ連合との間の小競り合いを審議するため、次のとおり安保理事会が開催された。
(1) スエズ運河発砲事件(七月八日-一〇日)
アラブ連合、イスラエル両国は、スエズ運河地帯の発砲事件に関し七月八日、緊急安保理事会の開催を要請し、同日より一〇日まで安保理事会は本問題を審議し、一〇日、次の趣旨の議長ステートメントを理事会の合意として採択した。
「国連休戦監視機構(UNTSO)司令官をしてアラブ連合およびイスラエル政府と交渉せしめ、スエズ運河地帯にUNTSO軍事監視団を駐留せしめるとの事務総長の提案を実施に移すべきであるというのが、安保理事会の見解であると信ずる。」
(2) イスラエルのスエズ市砲撃事件(一〇月二四日-二五日)
一〇月二一日、イスラエル駆逐艦はポートサイド沖でアラブ連合のミサイル攻撃により撃沈されたが、イスラエルはこれに対する報復として、同月二四日スエズ市を砲撃した。この事件に関し、同日、アラブ連合、イスラエル両国の要請に基き緊急安保理事会が開催された。米・ソ両国よりそれぞれ決議案が提出されたが、鶴岡議長、ナイジェリア代表等を中心とする妥協工作が成功し、安保理事会で二五日、停戦違反を非難(但し当事国の国名を明記せず)した決議が全会一致で採択された。