資  料

国会における内閣総理大臣および外務大臣の演説

第五十二回臨時国会における佐藤内閣総理大臣所信表明演説

(外交に関する部分)

(昭和四一年七月一二日)

わが国外交の基本は、平和で豊かな国際社会の実現にあります。最近、世界諸国においてこのようなわが国の基本理念に対する理解と認識が深まり、わが国の役割に対する期待が高まりつつあります。わが国の責務は、国際的地位の向上とともにいよいよ重きを加えつつあるといわねばなりません。このため、政府は、友好国との親善と協力を強め、世界の安定と繁栄に資する諸施策を積極的に進めてまいりたいと考えます。

七月五日より三日間、日米貿易経済合同委員会が開催されました。この委員会においては、日米両国がアジアにおける平和と繁栄のためいつそう努力し、両国の経済成長を促進するとともに、貿易の持統的発展のため協力することを約束しました。さらに、両国がともに関心を持つ広範な国際的諸問題についても相互の立場を尊重しつつ、いまだかってないほど率直かつ活発に意見を交換しました。日米両国が、このような緊密な関係にあることは、まことに喜ばしいことであります。また、わたくしは、ラスク国務長官とアジアの情勢について忌憚のない意見を交換いたしましたが、その際、ヴィエトナム紛争の拡大に関する日本国民の関心を率直に伝え、平和解決への努力を重ねて要請しました。なお、北ヴィエトナム側においても、アジアの平和のため、従来の態度にこだわらず、進んで平和解決への話し合いに応ずることを強く要望するものであります。

最近、アジアの開発途上にある諸国は、先般東京で開かれた東南アジア開発閣僚会議で示されたように、それぞれの立場の相違にかかわらず、新しい連帯感に立って経済発展のために地道な協力をしようとの気運をみせております。政府は、これに対応して、インドネシアの窮状を打開するため、三、〇○○万ドルにおよぶ経済援助の手を差しのべるなど、発展途上にある諸国の経済開発に進んで協力する方針であります。また、アジアにとって最も緊要な食糧増産の問題に対処するため、今秋、東京において農業開発のための会議を開催すべく、近く関係国に呼びかけたいと考えております。

今国会におきましては、さきに継続審査となった諸案件の審議をお願いいたすこととしておりますが、特に、アジア開発銀行を設立する協定および関係法案につきましては、今後のアジア地域の安定と発展に大きな役割を果たすものと期待されますので、なにとぞ、すみやかに可決されることをお願いするものであります。

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第五十三回臨時国会における佐藤内閣総理大臣所信表明演説

(外交に関する部分)

(昭和四一年一二月一五日)

わが国外交の基本方針が世界の平和と繁栄の追求にあることは、申すまでもありません。近時このようなわが国の基本的方針に対する世界各国の理解が深まり、ことにアジアにおいて、わが国の果たす役割に対し、諸国の寄せる期待はますます大きくなってまいりました。わたくしは、アジアに安定と繁栄をもたらすためには、アジア諸国の相互理解を促進し、その連帯感を強化するための地道な努力の積み重ねが最も大切であると信じます。このため、私自身アジアの指導者と親しく膝を交えて懇談し、また関係閣僚を相次いで東南アジア諸国との友好促進のため派遣いたしました。最近においては、アジア開発銀行の創立総会、東南アジア農業開発会議を東京において開催するなど、アジア諸国の連帯強化のため真摯な努力を続けております。

他方、アジアの一角ヴィエトナムにおいては、平和をもたらそうとする諸国の幾多の努力にもかかわらず、依然として戦闘状態が続いていることは、アジアひいては世界の平和のため、まことに憂慮に堪えません。紛争当事者がその立場の相違にかかわらず、まず戦闘を停止し、そのエネルギーを国内建設に振り向けることこそ大切であると信じます。わが国としても独自の立場からあらゆる機会をとらえて和平実現のため努力したいと考えます。

中国問題は、わが国外交の当面する最も重要な課題であります。わたくしは、中共の動向が世界の平和に大きく影響するものであるだけに、中共内部の情勢が今後どのように変化し、これが対外政策に反映されるかを重大な関心をもって見守っております。中国をめぐる事態の安定なくしては、アジアにおける真の平和と繁栄を達成することは困難であります。わたくしは、中共に対しては、従来から政経分離の原則のもとに貿易、文化の交流を進めてまいりました。中国の人々との平和的な共存関係を求めるわたくしの願いは、今日も変っていません。しかしながら、現実には中共のとりつつある対外路線は中共が国際社会において暖かく迎えられることを妨げ、さらに日中関係の望ましい進展をも妨げております。今次国連総会における中国代表権問題の表決に際しても、政府はこの問題がアジアのみならず世界の平和と安全に対し重大なる影響をもつ重要案件であるとの立場に立って臨んだ次第でありますが、表決の結果は、世界の多くの国がわが国と同様の認識に立っている事実を示したものと考えるのであります。わたくしは、流動する国際情勢に考慮を払いつつ、本間題に対処してまいる所存であります。

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第五十五回特別国会における佐藤内閣総理大臣施政方針演説

(外交に関する部分)

(昭和四二年三月一四日)

最近の国際情勢は、協調を通じて繁栄を求める国際融和の方向に動きつつあります。去る一月にはわが国をも含めた宇宙天体条約が締結され、核兵器拡散防止条約締結の機運も高まっております。また、米ソ関係は和解の度を深め、欧州においては仏ソ関係、ドイツ東欧関係等も新たな展開をみせております。

しかるに、アジアの一部においては、ヴィエトナム紛争がいまだに解決をみず、中ソ両国間の不和も深まり、中共をめぐる情勢は依然として緊張をはらんでおります。

わたくしは、自由を守り平和に徹する外交の基本方針を堅持しつつわが国のおかれた環境の現実に即して外交を積極的に推進してまいる決意であります。

ヴィエトナム紛争については、従来関係諸国により再三和平への努力が試みられ、わが国も関係国と接触し、和平実現の端緒を得ることに努めてまいりました。これらの努力がいまだに成功するにいたらないことは、まことに残念であります。わたくしは、この際紛争当事者が平和交渉の発展に信頼を寄せ、勇断をもって、話合いのテーブルにつくよう強く訴えるとともに、一日も早く南北ヴィエトナムの人々が平和な国家建設にいそしむことができるよう心から望むものであります。政府は、今後とも、和平実現のため最善の努力を尽くし、戦火に悩む現地住民の民生安定のために協力を続けてまいります。

中共のいわゆる文化大革命の帰すうは予断を許しません。この中共の動向は、アジアはもとより世界の平和に大きく影響するので、引き続き、重大な関心をもって事態の推移を注視してまいります。政府は従来どおり、政経分離の原則の下に中共に対し慎重に対処いたします。

昨年来わが国において開催された一連の国際会議などを通じて、アジア諸国に相互の連帯と協力の機運が高まっていることは、まことに喜ばしいことであります。すでに、アジアの近隣地域においては、めざましい発展を遂げつつある諸国もありますが、東南アジア等の諸国は、なお多くの困難に当面しております。わが国は、アジアの一員として、さらに世界における有数の先進工業国としての責務を自覚し、広く発展途上の諸国に対しいっそうの協力に努めてまいります。

沖繩百万同胞を含めた全国民が、沖繩の祖国復帰を熱望していることはいまさら申し上げるまでもありません。わたくしは、先年沖繩訪問の際「沖繩の祖国復帰なくしては戦後は終らない。」と述べましたが、この国民の念願が一日もすみやかに達成できるように、あらゆる機会をとらえて努力してまいりました。この間、沖繩住民の民生福祉の向上など本土との格差是正のための施策は、大幅に充実し、またこのほど沖繩船舶に日の丸を掲揚する問題についても解決をみました。今後とも沖繩の施政権の返還に備えて積極的な施策を進めてまいります。

核兵器拡散の傾向は、わが国の安全保障にとって大きな問題を提起しております。わが国は、世界平和を確立するため、国際融和と軍縮の方向へいっそうの努力が必要であるとの観点に立って、核兵器拡散防止条約の精神に賛同するものであります。条約の作成にあたっては、核を持たない国の意見が十分に反映され、その正当な利益が尊重されるよう強く主張いたします。

わが国の戦後におけるめざましい発展も、国民が享受している平和な生活も、国の長期的な安全保障なくして達成し得なかったことは、明らかであります。政府は、日米安全保障条約のもとにわが国の安全と平和を確保してまいったのでありますが、今後ともこの条約関係を堅持するとともに、国際的環境に慎重に配意し、わが国力と国情に即して自衛力の自主的整備を進め、わが国の安全保障に万全を期する決意であります。

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第五十五回特別国会における三木外務大臣の外交演説

(昭和四二年三月一四日)

ここに外交に関する私の基本的考え方と日本外交の重要政策について所信を述べる機会を与えられましたことは、私の光栄とするところであります。

人類は今や二十世紀最後の「三分の一世紀」に足を踏み入れました。

第一、第二の「三分の一世紀」ともそれぞれ悲惨なる世界大戦に見舞われましたが、この残された最後の「三分の一世紀」を世界大戦-然も人類破滅の核戦争-なしに過ごし、輝かしい平和の二十一世紀を迎えることができるかどうかに現代最大の課題があると考えます。

しかもその重大課題の中心は、核をめぐる安全の問題と先進国と低開発国との間のいわゆる「南北問題」であります。この二つの重要問題はいずれもわが国とは深い関連のある問題であるだけに、私はこの二大問題に「戦争と平和」の問題が懸っていることを銘記し、わが国としてこれにどう対処すべきかに日夜心を砕いている次第であります。

日本外交の指針が日本の安全と繁栄の確保、増進にあることは申すまでもありませんが、それをアジアの安定と繁栄の中に、ひいては広く世界の安定と繁栄の中に求めるのが現実の外交政策だと考えております。

私は今後の日本外交の目標として、アジアの繁栄、日本の安全保障及び世界平和への寄与ということが極めて重要な課題であると考えております。

しかしアジアといい世界といい、その情勢は激しく移り変りつつあります。

アジアには一方に協力と連帯の喜ぶべき「新風」が吹きはじめましたが、他方ヴィエトナム戦争は依然として継続され、中国問題とともに困難なるアジア情勢をかもしだしております。

ヨーロッパにおいては「東西融和」の新時代が訪れ、またアフリカ等にはイデオロギーを離れて現実的に経済建設を進めようとする風潮が見受けられます。

こうした激動と複雑化した世界情勢に処して日本外交は、日本の国益擁護に誤りなきを期さなければなりません。幸にして、国民各位の御理解と御協力の下に私は全力を傾けてこの重い責任を果たす決意であります。

つきましては日本外交の重要目標たるアジアの繁栄、日本の安全保障及び世界平和への寄与について、いま少し詳しく所信を述べさせて頂きたいと存じます。

まず、第一に、アジアの繁栄についてでありますが、アジアの繁栄の達成は、アジアの一員としてのわが国の最も希求してやまないところであります。幸いに、最近アジア諸国の間に、政治的立場の相違を越えて、経済建設のための連帯と協力の必要性が次第に認識されつつあることは、誠に喜ばしいところであります。

昨年はこのアジアの連帯と協力にとって記念すべき一年でありました。すなわち東南アジア経済開発閣僚会議、東南アジア農業開発会議、またアスパックと呼ばれるアジア太平洋閣僚会議、さらにはアジア開発銀行の発足等、人をして「アジアの新風」と呼ばしめたアジア地域協力への動きが活発でありました。

アジアの開発は、アジア人の発意により推進さるべきものであります。その意味においてアジアの地域協力への気運を助長し、かつ、具体的成果が生れるようわが国としては努力を傾けてまいりたいと存じます。差し当り本年四月マニラで開催される第二回東南アジア経済開発閣僚会議に出席して経済協力の一層の具体化を図りたいと考えております。

他方オーストラリア、ニュー・ジーランドはもとより、米国、カナダの太平洋諸国においても、最近、アジアに対する関心がとみに高まりつつあります。これは当然の動きというべきであります。私は、今やアジア問題は、アジア太平洋という広さにおいて考えることが今日の時代の要請であるとともに歴史の方向でもあると確信するものであります。

私はアジア太平洋地域に動きつつあるこのような歴史的な流れを自覚し、当面、既存の二国間および多数国間の会議の場はもとより、あらゆる機会を利用して、アジア太平洋地域諸国間の相互理解と連帯協力の精神を、地道に培ってまいりたいと考えております。すでにわが民間においても、日豪経済合同委員会、太平洋産業会議をはじめとし、この線に沿った話合いが行なわれるに至っておりますことはまことに歓迎すべきことであり、政府としてもこれらの動きに側面的支援を惜しまない考えであります。

しかし、他方不幸なことは、アジアの一角たるヴィエトナムにおける戦いが、未だに終息をみないことであります。アジアの平和と繁栄をこいねがうわが国として、こんな残念なことはありません。私は、この際紛争当事者が勇気をもって平和回復への決断を下すよう要望してやみません。そして、戦いではなく、アジア本来の課題たる平和的国内建設に取組む日の速かな到来を切望するものであります。政府は従来より関係国との接触を重ね、和平への糸口の探究に努めてまいりました。他の多くの国々の政府やローマ法王、ウ・タント国連事務総長によっても和平実現のための努力が払われてきましたが、未だ成果はあがっておりません。しかし、情勢の変化は常におこり得る可能性をもっています。平和への努力はあきらめるべきではありません。わが国としてもかかる目的達成のため、今後とも外交機能をあげてできる限りの努力を重ねてまいりたいと考えております。

他方、今もって戦火に悩む現地の人々には深い同情の念を禁じ得ません。わが国はこれらの人々のために医療・農業等の面で適切な援助を提供したいと考えております。

ひるがえって、目をわが近隣諸国に転じますと、わが国と最も近い隣国の関係にある韓国が政治的安定と経済建設の道を着実に歩んでいることは力強く感じております。

また中国との関係につきましては、わが国は従来より中華民国と正式の外交関係を維持しており、両国間の友情と理解はますます深まっております。一方、わが国は中国大陸とは隣りどうしの歴史的に深い関係にありますが、現在中共内部には、いわゆる文化大革命が進められており、中ソ関係の悪化等中共をめぐる内外の情勢は大きく動いております。政府としては、日中接触の道を常に開放しながら、事態の推移を十分見きわめ、当面は従来の方針を続ける考えであります。

第二に、わが国の安全保障問題について申し述べたいと存じます。わが国の安全を守ることは、国民一人一人がこれを真剣に考えなければならない根本の問題であると同時に、政府として国民に対して負うべき第一義的責務であると考えております。しかし今日の世界においては、独力で国土を防衛できる国はほとんどありません。戦後わが国もまた米国との間に安全保障条約を締結し、わが国安全保障政策の基調といたしました。

波瀾に富んだ戦後の国際情勢の中にあって、わが国がよく平和と繁栄を享受しえたことは、この政策の妥当なるゆえんを十二分に証明しているものであります。私は、今後とも日米安全保障条約をわが安全保障政策の中核として堅持してまいる考えであります。

わが国と米国との関係は単に安全保障の分野のみにとどまらず、広く政治、経済、文化等あらゆる面において極めて緊密かつ良好であります。両国はまた世界特にアジアの開発のために互に協力してまいっております。両国が共通の関心を有する現下の国際問題についても随時卒直かつ有益な意見の交換を行なっております。政府としては今後ともこの友好緊密な日米関係を維持してゆくことがわが国の国益に合致するのみならず、世界の平和と繁栄にも役立つものであることを確信するものであります。

なお沖繩については、わが国を含む極東における安全保障の問題を考えるとき、沖繩の果している重要な役割を無視することはできませんが、他方戦後二十数年を経た今日なお、わが国土の一部が他国の施政下におかれていることは不自然な事実であります。

この安全保障の要請と不自然な状態の是正とをいかに調節するかが、今日、日米間に横たわっている重要問題であります。

政府としては、究極の目標である施政権返還について今後とも不断の努力を続けますとともに、それと併行して、やがては返ってくる沖繩における自治の拡大、民生福祉の向上、本土との格差是正等当面の諸問題については、米国との協議を続け、現実的解決を行なってゆく考えであります。

第三は、わが国の世界平和への寄与についてであります。

わが国としては、引続き世界の平和維持機構である国連に対する協力に努めながら、西欧諸国との関係を一層緊密化するとともに、ソ連および東欧諸国とも友好関係の増進に努力し、もって東西融和の促進に寄与したいと考えております。

日ソ関係は、両国外相の相互訪問等の人的及び経済交流の増進を中心として着実な発展を遂げております。近く領事館の相互設置が実現されることになっており、また本年四月には、日ソ直通航空路も開通する予定であります。政府といたしましては、(今後とも日ソ友好関係の一層の発展に努めるとともに、領土問題その他両国間の懸案の解決に引き続き努力する考えであります。

また、私は、ラテン・アメリカ、中近東及びアフリカの諸国が、自らの国家の建設と、よりよい世界実現の努力を通じ国際社会でますます重要な地位を占めつつある事実に対し多大の敬意を表するものであります。

一方、世界平和の確立は、世界経済の繁栄と表裏をなすものであります。従って、わが国が世界経済の繁栄に貢献するため努力をいたすことは当然であります。この努力がわが経済の繁栄にも役立つものであることは申すまでもありません。日本は今や米国、ソ連に次ぎ、英国、EECと並ぶ先進工業国の地位に立つに至りました。わが国はこの世界経済における自らの地位と責務を自覚しながらケネディ・ラウンド等を通ずる貿易の自由化、OECD等の場を通ずる資本の自由化にも、できる限り積極的に協力すると同時に、外交を通じて日本経済発展のための国際的基盤の拡充に努力したいと存じます。

さらに世界の平和を促進するためには、単に経済面の協力にとどまらず、広く文化的交流を通じて相互の理解を深めることが必要であります。この見地から、海外におけるわが国の広報文化活動も一層強化してゆきたいと考えております。

次に私は、軍縮と核兵器拡散防止の問題について所信を明らかにしたいと考えます。

核兵器の拡散は核戦争の危険を増大し、世界平和の重大な脅威となることは明らかであります。したがって政府としては、核兵器の拡散を防止しようという核兵器拡散防止条約の精神に賛成であります。しかしこの条約がその目的を達成するためには、核兵器を持つものも持たないものも、できるだけ多くの国がこれに参加することが必要であり、そのためにも核兵器を持たない国の安全保障について十分の考慮が払われなければなりません。

しかもこの条約が、核兵器の拡散による人類の不安を除去しようというのが真の狙いである以上、単に核兵器を持たない国への核拡散を防止するというだけにとどまらず、核兵器を持っている国々が核軍縮、ひいては一般軍縮に努力するという誠実な意図が明確にさるべきであります。もちろん一挙に軍縮が達成できるものではありませんが、核兵器をなくしてもらいたいという人類の悲願に一歩一歩近づけるための具体的措置が講ぜられなければなりません。そうでなければ、この条約はその道義的基礎を失うことになると思います。

またこの条約は原子力の平和利用とその研究、開発をいささかも妨げるものであってはならないということであります。

さらにこの条約は原子力平和利用について核兵器を持つ国と持たぬ国との間に区別を設けるべきではありません。将来核爆発エネルギーが平和目的のために実用化される段階になれば、現在の非核保有国も、それを平和目的に差別なく平等に利用し得る機会が保障されなければなりません。もとより今日政府は自ら核爆発装置を開発する意思は持っておりません。ただ、平和利用のための原子科学の進歩への参加の機会を後世のわが国民から奪うようなことがあってはならないということであります。

政府としては、核拡散防止条約の中に、このようなわが方の見解が十分に反映されるよう、今後とも努力し、公正な条約の実現を希望するものであります。

最後に「南北問題」について更に一言申上げて国民各位の御理解を得たいと存じます。

私は、世界に紛争の種がつきない大きな原因の一つは、先進国と低開発国の格差が余りにもありすぎるところにあると考えております。結局貧困の問題に帰着いたします。

貧困、無智、偏見、疾ぺいはことごとく平和の敵であります。イデオロギーの争いもこうした情勢がこれを激化しております。アジア不安定の最大原因もまたここにあると考えます。

わが国といたしましては未だ国内公共投資、社会開発投資が立遅れておりますが、にも拘らずアジア唯一の先進工業国としてこの重大な「南北問題」に真剣に取組む道義的責任があることを痛感いたします。特にアジア諸国に対する経済、技術援助の分野では、わが国は出来る限りの援助をいたしたい考えであります。そのために、進んでわが国の経済協力推進の体制を改善し、その機能を強化し、もって経済協力外交を強く推進する決意であります。

今日世界の歴史の流れは、イデオロギーの観念論から離れ、実際的に具体的にそれぞれの国の安定を求めようとする方向を目指して動いております。

私は、この変貌する国際情勢の下で平和と繁栄へのあらゆる可能性を捉えて柔軟性のある外交を推進し、もってわが国に寄せられた世界の期待に副う決意であります。ここに国民各位の御理解と御援助を切に希望するものであります。

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東南アジア開発閣僚会議共同コミュニケ

(昭和四一年四月七日)

一 東南アジア開発閣僚会議は、一九六六年四月六日及び七日の両日、東京において開催された。

二 会議には、ラオス王国からスヴァナ・プーマ総理大臣兼外務大臣及びインペン・スルヤタイ計画大臣、マレイシアからアブドゥル・ラザック副総理兼国家開発大臣、フィリピン共和国からフィレモン・ロドリゲス経済審議庁長官、シンガポール共和国からリム・キム・サン財務大臣、タイ王国からポット・サラシン国家開発大臣、ヴィエトナム共和国からアウ・チューン・タン経済財務大臣、日本国から椎名悦三郎外務大臣、福田赳夫大蔵大臣、中村梅吉文部大臣、鈴木善幸厚生大臣、坂田英一農林大臣、三木武夫通商産業大臣、中村寅太運輸大臣、郡祐一郵政大臣、小平久雄労働大臣、瀬戸山三郎建設大臣、藤山愛一郎経済企画庁長官、上原正吉科学技術庁長官及び橋本登美三郎内閣官房長官が出席した。

三 会議には、またインドネシア共和国からルクミト・ヘンドラニングラット駐日大使、カンボディア王国からイアット・ブンタン駐日臨時代理大使が出席した。

四 佐藤総理大臣は、歓迎の挨拶において、アジアに平和と繁栄とを確立するためには、アジア諸国が、平等、相互尊重及び連帯の精神に基づいて、協力することが必要であり、このような協力の基礎の上に経済開発を進めることが望ましいことを強調した。同総理は、さらに、日本国が、地理的、歴史的に密接な関係にある東南アジア諸国の開発のため積極的に協力する決意を有する旨を述べた。これに関連し、同総理は、この地域に対する日本国の援助を大幅に拡充することを考慮している旨を述べた。

五 会議は、終始友好的で打ちとけた雰囲気の下で進められ、東南アジアの経済開発に関連する諸問題について、活発な討議が行なわれた。会議は、東南アジア諸国が経済開発に関して協力しうる分野の少なくないこと及びこれらの諸国は相互の利益のために緊密で友好的な協力関係を維持すべきであることを一般的に再確認した。

六 会議は、経済開発において農業がはたすべき役割が極めて重要であること、特に、現在のアジアにおける人口増加の趨勢にかんがみ食糧生産の増大が緊急に必要であることを強調し、農業生産性の向上及び一次産品市場の改善が望ましいことを認めた。会議は、農業開発問題の検討をさらに進めるため、しかるべき時期における農業開発会議の開催についてさらに検討することを合意し、また、そのような会議を開催するために必要な準備につき具体的に検討することに合意した。また、東南アジアにおける食糧事情を改善するための一助として、水産業の振興に関する研究の必要性が指摘され、さらに、日本国の協力の下に海洋漁業研究開発センターを東南アジアに設置することが提案された。

七 経済協力の具体的プロジェクトを検討するために、東南アジア経済促進開発センターを設立することが提案された。この問題に関する詳細な提案は参加諸国の検討のために追って提示される。

八 会議は、工業化の促進について、各国の経済の実情に即した計画に基づいた工業化を進める必要があることを認め、また、農村電化及び地下資源の開発に努力する必要があることを認めた。また、工業化を進めるに当たっては、民間のイニシアティヴを効果的に利用することが必要であり、このため、各国における投資環境の改善が必要であることが指摘された。また、各国の単純加工品に対する市場が限られていることが重大な障害となっていることが示唆され、域内及び域外の先進国は、資本及び技術が利用されるよう援助するとともに、より広範にその市場を提供すべきであることが認められた。

九 会議は、域内の経済開発を阻んでいる疾病その他の要因を除去するために一層の努力をする必要があることを再確認し、開発の基盤である教育及び職業技術訓練の振興のために地域的協力が重要であることを認めた。

一〇 会議は、運輸通信の施設の拡充整備が必要であることを認め、実行可能な場合には現存の港湾施設及び内陸運輸施設の改善に重点をおいた地域開発計画の作成を奨励すること及びそのような計画の作成のために必要な調査をできるだけ早い機会に行なうことを決定した。この点に関し、この会議に参加した発展途上にある諸国は、地域的海運施設の改善及び拡大の可能性の研究を行なうことが望ましいことを指摘した。

一一 会議は、従来のこの地域に対する先進国及び国際機関からの援助が比較的少なかったという事実に注目し、この地域の発展途上にある諸国に対する開発援助の増大を容易にすることが必要であり、また、健全でよく検討された開発計画の作成を含む適当な措置を講ずることが緊要であることを認めた。会議は、また、国際機関及び先進国がこの地域の経済開発に対し、より深い関心を示すことが必要であることを認めた。これに関連し、この会議に参加した発展途上にある諸国は、発展途上にある諸国に対する援助を国民所得の一パーセントまで拡大し、かつ、そのかなりの部分を東南アジアに振りむけるという日本国の声明を歓迎した。会議は、また、近く設立されるアジア開発銀行が果す役割に対し大きな期待を示した。

一二 会議は、このような会議が東南アジア諸国の経済開発を促進する上に極めて有用であり、また、アジアに繁栄と安定とをもたらすことに大きく貢献するであろうことを認め、一九六七年にマニラにおいて、再びこの会議を開催することに合意した。

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東南アジア農業開発会議共同コミュニケ

(昭和四一年一二月八日)

一 東南アジア農業開発会議は、本年四月東京において開催された東南アジア開発閣僚会議の合意に基づき、一九六六年十二月六日、七日および八日の三日間にわたり、東京において開催された。

二 会議には、カンボディア王国からホー・トン・リップ農業省農業研究局長、インドネシア共和国からアミン・チョクロスセノ農業省次官、ラオス王国からブァパット・チャンタパンヤ経済計画省森林灌漑局長、マレイシアからチュー・ホン・ジュン農業省農業局次長、フィリピン共和国からウマリ農業天然資源省農業次官、シンガポール共和国からチョイ・トーン・ローク法務・国家開発省一次産品局次長、タイ王国からチャクラトーン・トーンヤイ農業省農業次官、ヴィエトナム共和国からトン・タット・トゥリン大統領府顧問、日本から大野勝巳大使および武田誠三農林省農林次官が出席した。

三 会議には、また、アジア開発銀行から渡辺武総裁、国際連合アジア極東経済委員会から山下貢アジア極東経済委員会および国際連合食糧農業機関合同農業部長、国際連合食糧農業機関からアーサン・ウ・ディーン・アジア極東地域事務所長がオブザーバーとして出席した。

四 佐藤総理大臣は、歓迎の挨拶においてアジアにおける人口増加の趨勢にかんがみ食糧生産の増大が緊急に必要であることに言及しつつ、東南アジアの経済発展に占める農業の重要性を強調し、農業開発を進めるにあたっては、英知と忍耐が必要であり、また、真摯な自助の努力が継続的に積み重ねられなければならない旨述べた。同総理は、さらに日本がこの会議を契機とし、今後、農業分野における経済、技術協力を一層推進する旨述べた。

五 会議は終始友好的で打ちとけた雰囲気の下で進められ、東南アジアの農業開発に関連する諸問題について活発な討議が行なわれた。

会議は、東南アジアの経済開発において、農業の果すべき役割が極めて重要であることを再確認し、農業開発に伴う各種の困難をも十分認識しつつも、これらの困難を克服するため、東南アジア諸国が相互に協力しうる分野の大きいことを認めた。

会議は、また、人口の著しい増加に対処するために、食糧生産特にこの地域の主要食糧である米の生産を安定的に拡大することが東南アジアの農業開発において最も緊要かつ共通の課題であることを認めた。

会議は、東南アジアの農業開発を行なうにあたっては、より大きな財政資金が必要であることを強調した。

六 会議は、農業技術の改善に関する諸問題を討議し、東南アジア諸国の農業の中心である稲作の単位面積当り収量を向上させることが重要であることを特に再確認した。このために会議は、また、品種改良、施肥、栽培法の改善、病虫害の防除等各般にわたる農業技術の改善を、各国の又は各国内の各地域における農業の実情に即した方法で行なうことが必要であることを強調した。

会議は、農業技術の改善に関し、技術を農民に伝達する普及事業の果す重要な役割を特に強調した。

これと関連して、会議は、農民が新しい技術を容易に理解し、利用しうるように普及方法を改善するために努力すべきであること、並びに、試験研究に際しては、実用的な技術の開発に重点が置かれるべきことを再確認した。普及事業を行なうにあたっては、各種の農業資材が供給されなければならず、また、最大限の農業生産をあげるため、当該地域の資源を開発するための確固たる手段が取られなければならない旨の発言があった。同時に、普及の分野においては生活改善の重要性が指摘された。

普及が効果的に行なわれるために、会議は普及員とその訓練の果す重要な役割を強調した。この意味で、農業普及職員のための訓練センターの設置が示唆され、これと関連して、国際機関の活動を調整する必要性が指摘された。

普及事業における大学など教育機関の役割の重要性が強調された。

会議は、新しい農業技術と知識に関する情報の交換のために、地域協力を促進することが望ましい旨強調した。

七 会議は、農業基盤の整備に関する諸問題を討議し、農業生産の着実な増大を図るためには、灌漑排水施設の建設および治水事業の実施により水の安定した供給を確保することが必要であることを再確認した。

会議は、水資源の効果的利用の見地から灌漑排水事業が大規模、かつ、多目的な水資源開発計画の一環として実施されることが望ましいことを認めた。

しかし、会議は、食糧生産を早急かつ効果的に増大するためには、営農改善と農地拡大の促進に必要な諸措置をとるとともに農業生産に直結し、農業開発にとりより効果が高い中小規模の灌漑排水事業に重点を置く必要があることを認めた。

八 会議は、肥料、農薬、農業機械および漁具の製造ならびに農産物および水産物の加工等の農水産業関連産業が農業開発の促進にあたって果す重要な役割を認めた。会議は、また、計画的な関連産業の育成を図るためには、業種ごとにその発展の可能性を十分に研究しなければならないことを指摘した。これに関連して、各国の農業の発展段階および経済計画について十分な配慮が与えられなければならないことが強調された。

さらに、肥料工業等大規模生産が必要とされる産業に関しては、地域的協力が必要であることが指摘された。

九 会議は、農産物の市場性の改善に関する諸問題を討議し、農業生産を拡大し、かつ、農産物の国際競争力を強化するためには、農産物の生産費を引きさげ、品質を向上し、農業協同組合の育成ならびに輸送、貯蔵等農産物の流通施設の改善に関する必要な措置をとることが必要であることを認めた。

また、農産物の市場性の改善を図るためには、東南アジアの諸国間における地域的協力が有効であることが指摘された。この点に関し、国際商品協定の重要性が強調され、同時に、国連貿易開発会議、国連食糧農業機関等の国際機関が十分に活用されるべきであることが指摘された。

さらに、会議においては、一次産品価格の低下について懸念が表明され、また、交易条件の悪化を阻止することの緊急な必要性について、国際機関の注意が喚起された。

一〇 会議は、農業開発の資金的側面に関し、中小規模または末端の灌漑排水事業および農業関連産業の開発への投資の増大が必要であることを認めるとともに、このために必要な資金を政府および民間の努力により国内的に確保することの重要性を指摘した。しかしながら、この地域の各国の一般的な国内資金の不足にかんがみ、会議は、東南アジア地域の農業開発事業に対し緩和された条件で融資を行なうための基金をアジア開発銀行の特別基金として設置する必要があることを認めた。会議は、先進国およびアジア開発銀行に対し、かかる基金の設置について呼びかけるとともに、アジア開発銀行が本会議出席国および関係者の意見を聞いて、すみやかに基金設置に関する諸問題の検討を開始することを同銀行に対して要請することに合意した。

一一 会議は、食糧供給の増大と栄養水準の改善とくに動物性蛋白質の供給増大の見地から漁業開発の促進が必要であることを認めた。また、東南アジアに適合した漁業技術の研究、開発および普及、漁業技術者の養成及び漁業資源の調査に努めつつ、沿岸漁業の近代化と沖合漁業の開発を促進することが重要であることを認めた。

さらに、いくつかの国にとっては内水面漁業が極めて重要であり、内水面漁業資源の保存と増大が必要であることが指摘された。

本年四月の東南アジア開発閣僚会議において提案された地域的海洋漁業研究開発センターにつき、タイ及びシンガポールの両国から設立具体案が提出された。

会議は、東南アジア漁業開発センター設立に関連する問題の細目についてこれらの提案およびこれに関連して行なわれた討議を十分に考慮しつつ関係各国の専門家よりなる作業部会に検討させることとし、作業部会の設置につき議長国に一任することに合意した。

一二 会議は、このような会議が東南アジアの農業開発を促進する上に有用であり、また、東南アジアに繁栄と安定をもたらすことに大きく寄与するであろうことを認め、この種の会議を将来開催すべきか否かの決定を、一九六七年にマニラにおいて開かれる東南アジア開発閣僚会議に委ねることに同意した。

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日本政府と各国政府との共同コミュニケ

ソヴィエト連邦漁業大臣ア・ア・イシコフの日本国訪問に関する共同コミュニケ

        (昭和四一年六月二八日)

ソヴィエト連邦漁業大臣ア・ア・イシコフは、日本国政府の招待により、一九六六年六月一九日から二九日まで、日本国を公式訪問した。

イシコフ漁業大臣は、東京、札幌、根室、京都及びその他の地を訪問した。

イシコフ漁業大臣は、日本国に滞在中、佐藤総理大臣と会見した。

イシコフ漁業大臣は、椎名外務大臣、坂田農林大臣、赤城前農林大臣と一連の会談を行なった。

相互理解の雰囲気のうちに行なわれた会談を通じて、日ソ両国が共通の関心を有する漁業に関連する一連の問題について有益な意見の交換が行なわれ、双方は漁業の分野における良好な協力関係が近年著しく拡大され、かつ多面的なものとなり、日ソ関係の強化に寄与していることを満足の念をもって認めた。

会談に際して北方諸島周辺水域における操業の問題、海難救助協定の運用の改善、一九五六年の北西太平洋における漁業に関する条約の今後の運用の問題、漁業及び水産物加工の分野における学術及び技術協力の発展並びにその他の問題がとりあげられた。

日本側は北方諸島周辺水域全般における日本人漁夫による操業についての問題を提起した。これに対してソ側は、日本側の希望にそい、双方の間で合意されるところにより、貝殻島地区における日本の漁船による操業水域を拡大するための計画を、最も近い将来、具体的に検討する用意がある旨述べた。

双方は、また海上において遭難した人の救助のための協力に関するソ連邦と日本国との間の協定の若干の事項の改善に関し、近い将来検討し、具体的措置を執ることに合意した。

双方は漁業条約がさけ・ます漁業の秩序の維持に貢献しており、その効力を存続させることが合目的的であることにつき意見の一致をみ、この問題に関して近い将来話し合いを行なうことを合意した。

双方は、今次会談において取り上げられた問題のうち、合意をみなかったものについては、今後引続きその解決のため双方が協議を行なうべきことを合意した。

日ソ間の漁業の分野における学術及び技術協力について、双方は、協定案に合意しこれに仮調印した。

双方は日ソ間の善隣関係強化のために、漁業の分野における協力を今後とも促進する用意ある旨を表明した。

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第五回日米貿易経済合同委員会共同コミュニケ

(昭和四一年七月七日)

一 第五回日米貿易経済合同委員会は、昭和四一年七月五日、六日、七日、京都において椎名悦三郎外務大臣議長の下に、開催された。

委員会は、アジアにおける最近の事態の発展に重点をおいて世界情勢一般を検討し、アジアには世界の諸国に対する憂慮の原因となる大きな問題があることに留意した。

委員会は、この地域における諸国の間における協力関係を強化する必要についての自覚が増加していることに元気づけられた。

委員会は、アジアにおける情勢が同地域の平和及び繁栄を達成することを助けるため、日米両国の側における一層の努力を必要としていることを認めた。

二(一) 委員会は、互恵的な経済関係を育成するための両国政府の努力が過去一年間に二、三の重要な二国間懸案に満足すべき解決をもたらしたことを満足の念をもって認めた。

しかしながら、委員会は、両国間の急速に増大している経済関係に伴い、両国間に問題が時おり生じうることを認識した。両国代表団は、両国の経済成長を促進し、かつ、貿易の持続的発展を保証するに当り、相互に役立つような政策の効果的遂行のために、日米両国間において協力する必要があることにつき合意した。

(二) 委員会は、米国における持続的な好況及び日本の一九六五年の不況からの着実な回復に満足した。両国代表団は、両国の経済及び今後の着実な成長の見通しに関し、長時間にわたって意見を交換した。委員会は、日米両国間の一九六五年の貿易が驚異的な成長を示し、総額四五億ドルに達したことを認めた。

(三) 委員会は、国際収支の均衡を達成するための米国の努力の進捗ぶりを検討し、日本の現在の国際収支の改善を認めた。

(四) 両国代表団は、両国間における商品と資本の流れに関し、活発な意見の行換を行なった。同代表団は、米国政府によって行なわれている関税評価方法の検討と、日本国政府によるその輸入数量制限に関する継続的検討に留意した。同代表団は両国政府が過度に制限的になる可能性のある貿易慣行を軽減する可能性を二国間においてのみならず、多角的場においても、不断に再検討すべきことに合意した。

日本及び米国は、経済成長に寄与する要素としての国際投資の重要性を認め、また、双方における対外投資の水準の上昇が、実質的な利益をもたらすであろうとの確信を表明した。米国代表団は、日本の対米投資に対する歓迎の意を繰返した。日本代表団は、日本における外国の直接投資に関する制限を、緩和する意図を表明したが、日本の経済構造に内在する過渡的問題に関する適当な配慮の必要性を説明した。

(五) 委員会は、漁業に関する諸問題につき意見を交換した。

両国は、北太平洋漁業条約改訂に関する諸懸案及び漁業の分野につき両国間に生ずることあるべきその他の問題を相互理解と協力の精神をもって解決する努力を継続することを合意した。

(六) 両国代表団は、海運、航空及び観光問題に関し、活発な意見の交換を行ない、今後協議を継続することにつき合意した。

三 委員会は、次の如き分野において日米両国のみならずその他の諸国にとって関心のある事項につき密接な協力を継続することの重要性を認めた。

(一) 委員会は、世界貿易に対する関税及び非関税障害の低減のためのケネディ・ラウンド関税交渉の成功が両国にとって極めて重要なことを認めた。

両国代表団は、交渉のぺ-スが促進されているという徴侯を歓迎し、世界貿易の拡大に向っての一層の前進を実質的に強化する如き結論に一九六七年春までに到達する必要を強調した。

委員会のメンバーは、両国政府が両国のオファーから最大限の通商上の利益を獲得するために現実的な方法で、かつ他の関係諸国と協力の上、努力を継続すべきことを合意した。

(二) 委員会は、東西貿易関係における発展及びこの分野における両国政府の政策につき意見を交換した。日本及び共産圏諸国の間の貿易の増大をもたらした経済環境に言及しつつ、日本代表団は、日本政府がこれらの国との通商関係を政経分離の原則に基づいて発展させる意向であることを述べた。米国代表団は、中共、北鮮、または北ヴィエトナムと経済関係をもたない理由及び米州機構によるキューバに対する経済禁輸の理由について述べた。共産圏諸国に対する長期信用に対する反対を表明する一方、米国代表団は、ソ連及び東欧諸国との非戦略物資の貿易を、これら諸国とのコミュニケーション及び接触の途を発展させることに対する米国の関心に関連して検討中であることを指摘した。

四 委員会は、低開発諸国に対する経済援助に関する諸問題を討議し、両国の援助政策に関し、意見を交換した。

委員会は、アジア及び極東諸国における地域的協力に対する関心の増大の証拠を歓迎した。委員会は、両国が関係している諸活動を検討し、さらに日本が積極的に参加しているその他の活動に留意した。委員会は、その将来の役割がきわめて広範な潜在的意義をもつものとみられるアジア開発銀行の設立に期待した。日本代表団は、一九六六年四月東京で開催された東南アジア開発閣僚会議において、参加諸国がその経済開発のために一層の努力を行ないたいとの強い希望を表明し、また、農業開発がこの地域の安定した進歩のために最も重要であることにつき合意したことを報告した。委員会は、日本がその経済援助を大幅に拡充する意図を有する旨の同会議における佐藤総理大臣の言明に留意した。米国代表団は、一九六五年四月七日、ジョンソン大統領が、経済及び政治制度の間に存在する多様性にもかかわらず平和のために専心している東南アジアにおけるそれら社会の経済的、社会的必要を充たすために行なわれるアジアの諸計画に対し、米国の資源による援助を約束した際にジョンソン大統領が求めた広範な目的に対する米国の関心を再確認した。委員会は、アジア地域、特に東南アジアにおける永続的平和が、国民の福祉を向上するためアジア人によって取られるイニシアティヴに対する先進国からの協力に依存することを合意した。

五(一) 両国代表団は、米国における日本の農業労働者の訓練を継続するための両国間の合意に対し、満足の意を表明した。委員会は、一九六一年箱根における第一回合同委員会において両国における賃金問題をよりよく理解するものと信じて、開始された賃金共同研究が近く成功裡に終了する見込みであることを満足をもって予見した。委員会は、人的資源の開発促進は、人間の潜在能力を活用し、かつ経済成長に伴って生ずる雇用問題に対処するための重要な手段であることに留意した。

(二) 委員会は、天然資源の開発利用に関する日米会議の中間報告を受領した。委員会は、天然資源問題に関する日米専門家間の理解の促進に貢献する交流活動が引続き進捗していることに満足した。

六 委員会は、第五回合同委員会が同国の相互理解と両国関係の強化に貢献したことを合意した。両国代表団は、米国における次回会合に期待する。

七 日本側委員は、椎名外務大臣、福田大蔵大臣、坂田農林大臣、三木通産大臣、小平労働大臣、中村運輸大臣、藤山経済企画庁長官であり、武内駐米大使が同席した。

米国側委員は、ラスク国務長官、ユードル内務長官、フリーマン農務長官、コナー商務長官、ワーツ労働長官、バー財務次官、オーカン大統領府経済諮問委員会委員であり、ライシャワー駐日大使が同席した。

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ソヴィエト連邦グロムイコ外務大臣訪日に際しての日ソ共同コミュニケ

(昭和四一年七月三○日)

ソヴィエト社会主義共和国連邦外務大臣ア・ア・グロムイコは、日本国政府の招待により一九六六年七月二四日から同月三〇日まで日本国を公式訪問した。

グロムイコ外務大臣は、東京、京都及び大阪を訪問した。

グロムイコ外務大臣は、日本国に滞在中、夫人とともに、天皇陛下及び皇后陛下から謁見を賜った。

グロムイコ外務大臣は、また、佐藤総理大臣と会見し、会談した。

グロムイコ外務大臣は、椎名外務大臣と二回にわたり会談し、会談には、日本側から下田外務事務次官、中川駐ソ大使、牛場外務審議官、北原欧亜局長その他が参加し、ソ連側からは、ヴィノグラードフ駐日大使、スダリコフ・ソ連外務省参与、ザミヤーティン・ソ連外務省参与、イッポリトフ参事官、その他が参加した。友好と相互理解の精神のもとに行なわれたこれらの会談において、日ソ両国間の諸問題及び両国が共通の関心を有する重要国際問題について有益な意見の交換が行なわれた。

これらの会談を通じて、双方は、日ソ両国がその政治信条と社会体制を異にするにかかわらず、一九五六年の日ソ共同宣言の精神にしたがい、互恵平等と内政不干渉の原則に基づき、あらゆる分野における関係を今後ますます発展させていくことが可能であるとの一致した見解に到達した。また、双方は、このような日ソ両国間の友好善隣関係の増進が、アジアにおける平和と安全の維持、ひいては世界の平和に貢献するところが大であることを認めた。

交渉の結果、一九六六年七月二九日、東京において、日ソ領事条約の署名が行なわれた。条約には日本側からは椎名外務大臣が、ソ連側からはグロムイコ外務大臣が、署名した。双方は、この条約が日ソ両国間のあらゆる分野における交流を容易ならしめ、日ソ関係を更に緊密化することに役立つことを期待し、相互に領事館を設置するための交渉を速やかに開始することに合意した。

双方は、日ソ関係をさらに恒久的に安定した基礎におくために、平和条約を締結する必要があることを認め、これに関連し、それぞれの見地を表明した。

双方は、漁業の分野において協力関係が着実に発展しつつあることを満足をもって認め、両国が世界の有数な漁業国として、今後とも協力する用意があることを表明した。双方は、この分野に関する若干の問題につき、相互の利益を考慮して、近い将来に、話合いを継続することに合意した。

双方は、近年日ソ両国間において、各種使節団の相互派遣、人の往来、貿易、経済、科学、文化その他の分野における交流が順調に進展しつつあることを認めた。このような交流は両国民の相互理解の増進に貢献するものである。

双方は、今後とも、科学及び文化の分野における交流の発展のため努力することに合意し、その具体的方策について今後協議を続けることに意見の一致をみた。

双方は、国際情勢が、全体としては、人類の破滅をもたらす核戦争を起してはならないとのすべての民族の確信を基礎として、社会制度を異にする諸国が平和裡に共存するという方向に進んでいることに満足の意を表明した。

双方は、東南アジアの情勢に関し、それぞれの立場を述べた。

双方は、国際連合が真に有効な平和維持機構として発展するよう、これを活用し、その権威を高めるため、相互に協力すべきことを合意した。

双方は、世界の恒久的平和を確立するために、有効な管理の下における軍縮の達成を促進する用意があることを表明し、また、第二十回国際連合総会の決議に述べられているとおり、核兵器の拡散を防止することが重要であることを認めた。

双方は、本年一月の椎名外務大臣の訪ソ及び今回のグロムイコ外務大臣の訪日が、日ソ国交史上初めての両国外務大臣の相互訪問であって、両国関係の今後の発展のため、大きな意義をもつものであることを認めた。双方は今回のソ連邦外務大臣の訪日の機会に、日ソ間の諸問題について話合いを行なうとともに、両国が共通の関心を有する国際問題について協議を行なったことは、両国政府首脳の間の相互理解を深める上で有益であったことを認めた。なお、双方は、日ソ間の問題並びに双方がその解決に関心を有する国際問題について定期的に協議を行なうことを合意した。

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マルコス・フィリピン大統領日本国訪問に関する日本・フィリピン共同コミュニケ

(昭和四一年一〇月三日)

一 フェルディナンド・E・マルコス・フィリピン大統領は日本国政府の招待により、夫人を伴い、ラモス外務大臣、ロムアルデス大蔵大臣、サラス官房長官、アスピラス広報担当大臣その他の随員とともに、一九六六年九月二八日から一〇月三日まで日本を訪問した。

二 マルコス大統領夫妻は日本滞在中、天皇、皇后両陛下と会見した。マルコス大統領はまた佐藤総理大臣及びその他の日本国政府首脳と会談し、現下の国際情勢と両国が関心を有する諸問題について意見を交換した。この会談は極めて友好的かつ率直な雰囲気の下に行なわれた。

三 右会談において大統領と総理大臣は国連が世界の平和維持ならびに人類の福祉向上のため果してきた大きな役割を高く評価するとともに、この世界機構がますますその機能を強化し、その権威を向上するよう今後とも真摯な努力を傾けるとの決意を表明した。両国首脳はまた最近国連においてアジア諸国の間に協力関係を一層緊密にしてゆこうという気運がみられることを歓迎するとともに、今後ますますかかる気運を促進するため両国が努力する旨を表明した。

四 右会談において、大統領と総理大臣は、最近インドネシアとマレイシアとの間の紛争が両当事国指導者の真摯な努力により解決に至ったことに対し歓迎の意を表するとともに、アジアにおけるかかる和解への気運が一層促進さるべきことについて意見の一致をみた。両首脳は、他方、ヴィエトナムにおいて依然紛争解決への見通しが立たないまま戦闘が継続されていることに対し深い優慮の念を表明し、一日も早く平和裡に同紛争の解決がもたらされるよう強い希望を述べるとともに、和平実現のため両国が今後とも、それぞれの立場から努力を重ねてゆくことに同意した。

五 大統領と総理大臣はさらに、アジアの諸国がそれぞれの国造りに邁進し、経済の発展と住民の福祉の向上をはかることがアジアに現存する緊張を緩和し、この地域に平和と安定をもたらす所以であることについて意見の一致をみた。

六 大統領と総理大臣は、アジアに起こりつつある相互理解と地域協力の新たな気運に満足の意を表明した。両国首脳は、近く正式に発足するアジア開発銀行を歓迎するとともに、同銀行が成功裡に運営されるよう両国政府が十分協力することを約した。両者は、第二回会議が明年マニラで開催されることとなっている東南アジア開発閣僚会議が、東南アジア諸国の経済開発を促進する上において最も効果的であることを認めた。

七 マルコス大統領と佐藤総理大臣は、最近日比貿易が着実に増進しつつあることを喜び、両国貿易の増進のため一層努力することに合意をみた。佐藤総理大臣は長期にわたり懸案となっている友好通商航海条約の早期批准を日本政府が希望する旨表明したのに対し、大統領は条約の早期批准を達成するよう、また、既に議会に審議のため上程されている関係法案と同時に、あるいはこれとの関連において同条約を早期審議のため上院に提出するようあらゆる努力を傾けると答えた。

八 右会談において、マルコス大統領は日本のフィリピンに対する経済及び技術協力を一層拡大する必要性を強調するとともに、鉄道、学校、道路及び橋梁の如き各種の開発計画を遂行するに当って、フィリピンにおける現地通貨を含む融資の必要につき総理大臣の注意を喚起し、これら計画の実施に関し、日本政府の協力を要請した。

前記に関連し、大統領は総理大臣に対し日比合同委員会の設置を提案するとともに、同委員会が一九五六年五月九日マニラにおいて両国政府代表の署名した交換書簡に述べられている二億五、○○○万ドルの借款を含む公共及び民間両部門への融資に関連した諸問題をも検討することにしては如何と述べた。

佐藤総理大臣は、大統領がフィリピンの経済開発の推進に努力を傾注しておられることに対し深甚な敬意と理解を有する旨表明し、両国政府による決定に先立ち、特定の賠償計画に対する融資の方法を検討し勧告すること及び前記二億五、○○○万ドル借款に関する諸問題を取り上げることを目的として合同委員会を出来るだけ速やかに設置することに合意した。

九 大統領の要請に対し、総理大臣はカガヤン鉄道延長計画の実施に対して然るべき考慮を払う旨を約し、また同計画に関し必要な調査及び設計ができる限り速やかに行なわれるべきであると提案した。大統領はソルソゴン延長計画を含めるよう希望を表明したのに対し、総理大臣は、同計画は、カガヤン鉄道延長計画の成果をみきわめた上で協議のため取り上げたいと述べた。

一〇 大統領は、フィリピンの農業開発計画に関連し日本政府が海外経済協力基金、日本輸出入銀行及びその他の資金源からの必要な援助を行なうようにとの希望を表明した。総理大臣は、農業開発の分野において、日本政府は、両国政府の合意する方式で大統領の要請に応じうるよう最善の努力を払う旨述べた。

一一 総理大臣は家内小規模工業技術開発センター設置に関する日本国政府とフィリピン共和国政府との間の協定が、両国間の技術協力に新しい一頁を加えたことを強調した。大統領は同協定の署名は日本のフィリピン共和国に対する技術協力の強化を示すものとして歓迎するとともに、この協定の円滑な実施に協力することを約した。

一二 マルコス大統領及び佐藤総理大臣は、日本青年海外協力隊がフィリピンの地域開発に貢献するとともに、日比両国青年間の相互理解及び親善の増進に寄与していることを認め、今後更に他の分野においても協力隊の派遣が望ましい旨合意をみた。

一三 大統領と総理大臣は、政治、経済及び文化等あらゆる分野における両国の友好的かつ協力的関係が今後ますます発展することを強く希望した。

一四 大統領は日本国総理大臣がフィリピン共和国を訪問するよう鄭重な招待の意を表明し、総理大臣は喜んで右招待を受諾した。

一五 マルコス大統領は日本滞在中に大統領夫妻一行が受けた友情にみちた暖い歓迎に対し、日本政府および国民に深く感謝の意を表明した。

マルコス大統領の今次訪日は日本とフィリピン共和国との間の相互理解と友好関係の増進に大いに貢献した。

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第四回日加閣僚委員会共同コミュニケ

(昭和四一年一〇月六日)

一 日加閣僚委員会の第四回会合は、昭和四一年一〇月五日及び六日オタワの国会議事堂西館で開催された。

この会合に出席した日本側代表は椎名外務大臣、福田大蔵大臣、松野農林大臣、三木通産大臣、藤山経企庁長官及び板垣駐加日本大使であった。

カナダ側代表はマーティン外務大臣、ウインタース通商大臣、シャープ大蔵大臣、ロビショー漁業大臣、ドルリー工業大臣、マルシャン移民大臣、グリーン農業大臣及びモラン駐日カナダ大使であった。

委員会は太平洋をはさんだ隣国として、また、国際社会のメンバーとして両国が有する共通の利益及び拡大しつつある両国間の貿易その他の関係を反映して広範な分野に亘る問題を討議した。

二 委員会は最近のアジア情勢を中心として世界情勢一般について、有益な意見の交換を行なった。

両国閣僚は友好と融和の基礎の上にアジア地域の平和と安定を促進するため、アジア諸国が自らとりつつある諸措置を歓迎した。

両国閣僚はヴィエトナムにおける情勢の発展を討議した。両国閣僚はこの紛争において問題とされている争点は、交渉によってのみ解決し得ることを確信した。両国閣僚は紛争当時者の間の利害の調整をもたらすために、従来提示されてきた調停案に留意した。さらに両国閣僚は当事者間の立場の差異を交渉が可能になるところまでせばめ得るか否かを試みるため日本及びカナダがそれぞれ行なってきた努力を検討した。

両国閣僚はこの紛争が国際の平和と安全、とくにアジアの将来に及ぼす影響を深く憂慮し、その反映としてさらにこれらの努力を続ける決意を表明した。両国閣僚は、ヴィエトナム紛争およびアジアの平和と安定に関する一層広範な諸問題の永続的な解決のためには中共が建設的な寄与をしなければならないことに意見が一致した。両国閣僚は中共としても国際協力の利益を受け入れその責任を負うようにとの希望を表明した。さらに、両国閣僚は中国国民との間の接触と交流がこの目的のために貢献しうることを重視した。

さらに、両国閣僚は、両国が共通の関心を有する他の諸分野についても意見を交換した。特に両国閣僚はローデシア情勢および同国の不法政権に対する制裁の適用に当り国際協力を維持するための最善の方途を検討した。さらに両国閣僚は最近の東西関係の方向を検討し関係国間の理解と接触の分野を拡大するためあらゆる機会を探索することが引き続き望ましいことに意見が一致した。

両国閣僚は国際連合が世界平和の促進のため必須の機関であるとの両国の信念を再確認した。

両国閣僚は、国連における両国間の緊密な協力関係を維持し特に国連の平和維持能力の強化のため努力することに合意した。

両国閣僚は、核兵器保有国がさらに出現することは国際安全と世界平和に対する新たな脅威となるであろうとの確信を表明した。両国閣僚は、核兵器の拡散を防止し、また部分的核実験禁止条約を地下核実験の禁止にまで拡大することによって総ての核兵器実験に終止符を打つために国際的合意を達成する努力を継続することを約した。両国閣僚はかかる合意が有効であるためには検証と管理のための適切な取り決めが含まれなければならないと信じた。さらに両国閣僚は、大国間の軍拡競争の継続に対する憂慮を表明し軍縮のための適切且つ有効な手段によってこの傾向を阻止するためあらゆる可能性を探索することを約束した。

委員会は、国際情勢特にアジア情勢に関するかかる討議の結果、日加両国にとってアジア諸国の安定を促進し開発を援助するため相互に協力しうる機会が増加して行くことに合意した。

三 委員会はカナダにおける当面の経済情勢を検討し、現在、進行中の前例をみない経済の拡大に留意した。

カナダ側代表は一人当り平均実質所得が過去五年間に約二五パーセント上昇したことおよび貿易の好調がこの経済拡大の重要な原因であると同時に結果であることを指摘した。

カナダ側代表はまた過去数年間にわたる非常に大幅な生産能力の伸びにもかかわらず資源に対する圧力が昨年半ばまでに表面化し、カナダ当局が需要の拡大を緩和する必要を認めたことに留意した。委員会は、カナダにおける需要の抑制が長期にわたって維持し得る経済成長率および貿易拡大率の確保を目的としたものであることに留意した。

委員会は、日本における現下の経済情勢を取り上げ、日本経済が昨年の景気停滞を脱して本格的な回復過程を歩んでいることを満足の意をもって迎えた。

日本側代表は今後の経済運営上物価問題、低生産部門の近代化、社会資本の充実及び企業の体質改善に重点が置かれることを明らかにした。現在作成中の経済五カ年計画の関連においてこれらの諸問題を解決し、国民経済の各部門の調和のとれた発展をはかるために、具体的な措置が検討されている。

日本側代表は国際収支の均衡の維持がこれらの目的を達成するために基本的な要件であることを指摘した。

四 委員会は、国際経済関係の分野における主な動きにつき討議を行なった。委員会は、関税および非関税貿易障壁を無差別の原則のもとで大幅に削減しようとしているケネディ・ラウンド交渉の成功が両国に対して有する重大な意義を認めた。両国代表団は工業製品および穀物を含む農産物貿易のためのこれらの交渉から最大限の成果を確保するために、他の関係国と協力してあらゆる努力を払うべきことにつき、意見の一致をみた。この点に関連して両国代表団は、相互の市場に対するアクセスに相当の改善をはかることが重要であることを、強調した。日本側代表は広範な産品について事態の改善が実現をみることを強く希望した。カナダ側代表は農産物及び製品、半製品に対する関心を強調した。両国閣僚は、低開発地域における経済開発を促進することが緊要であることを強調した。両国閣僚は第二回国連貿易開発会議の重要性をあらためて確認し、会議の主眼を実際的な成果を期待し得る特定の問題に置くようあらゆる努力を払うべきであるとの点に同意した。両国閣僚は、またケネディ・ラウンドは特に低開発国の関心品目の貿易拡大に重要な役割を果すことを期待した。両国閣僚は、低開発国にとって国際商品協定の有する重要性を認めた。

委員会は、規模の拡大をみている両国の開発援助計画を検討し、この分野における政策につき意見を交換した。委員会は、低開発国が自国民の福祉の増進のために従来にも増して払っている努力の跡を検討し、開発の過程においてこの様な努力が有する重要性を認めた。

日本側代表は、昭和四一年四月東京で開催された東南アジア開発閣僚会議について説明を行ない、特に各参加国が示したこの地域の生活水準を向上させようとの決意について述べた。日本側代表は、また、一二月初旬に東京で農業開発会議を開催する準備が進められていることを明らかにした。委員会は、四一年一二月に業務の開始を予定されており、両国が参加することとなっているアジア開発銀行の果たすべき重要な役割を指摘した。

両国閣僚は、共産圏諸国との貿易関係につき討議を行ない、これらの諸国との間で相互に有利な貿易を一層拡大する余地があるとの点につき意見の一致をみた。

委員会は咋年中に新たな国際的準備資産を創設するためのしかるべき取決めを成立させる努力が進展をみたことを認めた。委員会は十カ国の蔵相代理と国際通貨基金理事会との合同会議の開催につき十カ国グループと国際通貨基金が最近とったイニシアティヴを歓迎すると共に、今後、更に大幅な進展をはかる必要があることを強調した。委員会は適当な取決めについての合意が成立すれぱ国際通貨制度に対する世界の信頼を著しく強化することとなることを認めた。

委員会は主要工業国の国内経済政策が世界経済の発展におよぼす影響を検討し、金融政策と財政政策との間に妥当なバランスをはかることが望ましいことを認めた。

五 委員会は両国間の貿易の引き続く拡大を歓迎した。委員会は両国経済が引き続き拡大し、経済関係が緊密化するにともない貿易は、更に大幅に増加する余地があることを認めた。

両国間の貿易は昭和四一年には約六億ドルに達するものと考えられる。委員会は一部の産品のカナダへの輸出について討議し、過去数年間に実施された規制の緩和と一部の産品が規制品目リストから除去された事実に留意した。しかしながら日本側代表はなお現行の規制が実施に移されてから既にかなりの時日が経過している点に鑑み、これを現在の形で継続することの必要性につき綿密な検討を行うよう要望した。カナダ側代表はこれらの規制がカナダ市場の攪乱が発生するか又はその危機のある場合にのみ求められるものであると述べた。委員会は規制が最小限にとどめられるべきであること、また、特定の産品について不必要となった時にはいつでも撤廃されるべきであることにつき意見の一致をみた。

日本側代表はカナダの関税評価制度のうち、貿易に対して制限的効果を有すると考える諸点につき注意を喚起した。カナダ側代表は、カナダの関税法の目的を説明し、その無差別的な性格を強調した。カナダ側代表はカナダの輸出が非加工品に集中していることについて関心を表明し、より高度に加工された工業原料および製品を含むあらゆる産品の対日輸出の拡大に関心を有することを強調した。カナダ側代表はこれらの商品に対するアクセスを一層改善するよう要請した。日本側代表はこの方向に沿って措置が進められるべきことを言明した。

委員会は両国間の連けいが、企業投資を通じて深まりつつあることに歓迎の意を表した。カナダ側代表は日本におけるカナダの投資について、今なお残されている制限が、可及的速やかに撤廃されることおよびカナダに対する日本の投資者がカナダからの輸出品の加工度を増大せしめることが望ましいことに考慮を払うことを希望した。

六 委員会は漁業の分野における両国の協力を促進する必要を再確認し、両国政府がこの分野における未解決の諸問題につき早期かつ満足すべき解決を得るために緊密な協議を続けることに意見が一致した。

委員会は、本年東京に移民事務所が開設され、カナダヘの移民の申し込み件数の増加を通じて日本国民一般が積極的反応を示したことを歓迎した。両国代表団は自国政府が両国の相互の利益のために引きつづきこの計画の発展を助長することにつき意見の一致をみた。

日本側代表は大阪における一九七〇年日本万国博覧会の計画の概要を説明し、カナダがこれに積極的に参加するよう強く希望した。カナダ側代表はこの博覧会に参加するとのカナダ政府の決定を発表した。委員会はモントリオールにおける一九六七年世界博覧会及び大阪における日本万国博覧会が共に成功することを祈念した。

七 両国閣僚は委員会の第四回の会合が両国間の理解を深め、関係を強化する上に貢献するところが極めて大きかったとの確信を表明した。委員会は次回会合の日本における開催を招請する日本政府の申し出を受諾した。

八 日本国外務大臣は日本政府の名においてカナダ国首相に対し、訪日を招請した。同首相はこの招請に謝意を表明し、原則としてこれを受諾した。訪日の時期は両国政府間の今後の協議により決定される予定である。

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日英定期協議に関する日英共同コミュニケ

(昭和四一年一一月二日)

椎名外務大臣は、日英定期協議の第五回会談のため、昭和四一年一〇月二八日から一一月二日まで、夫人とともに、英国を訪問した。

椎名外務大臣はウィルソン首相を訪問した。椎名外務大臣は、ウィルソン首相に対し、日本国総理大臣からの訪日招待を再確認した。ウィルソン首相は、これに対し謝意を表するとともに、将来双方にとって都合のよい時期に訪日が可能となることを希望する旨表明した。

椎名外務大臣は、ブラウン外務大臣と、双方が共通の関心を有する広汎な諸問題につき意見を交換した。訪英の直前に東南アジア諸国を訪問した椎名外務大臣は、これらの開発途上にある諸国が自国の問題の解決のために示している自主的な動きに感銘を受けた旨述べた。椎名外務大臣は、同地域における平和と安定の促進のために日本が果し得る役割に関する考えを述べ、これら諸国がさらに経済発展を追求するにあたり、引続きこれら諸国と協力して行く日本の決意を披瀝した。ブラウン外務大臣は、これを歓迎し、椎名外務大臣に対し、英国がアジアで出来る貢献は、同国の経済状態によって制約されてはいるが、英国は同地域における約束を守りかつ、平和と進歩のために出来る限りの事を行なう決意を確認した。

両大臣は、ヴィエトナムに恒久的平和をもたらすことが極めて重要であることに意見の一致をみた。両大臣は、マレイシアとインドネシアの「対決」の終結を歓迎した。

両大臣は、また、ヨーロッパ情勢ならびに効果的な軍縮を達成し、かつ、核兵器の拡散を防止するための可能な方法について討議した。両大臣は、国連に対する支持が両国の政策の基礎でなければならないことについて、意見の一致をみた。

ブラウン外務大臣は、椎名外務大臣に対し、日本がローデシアの非合法政権に対する制裁政策に協力していることに感謝した。

ブラウン外務大臣は、英国の経済政策について概説し、英国政府のポンドの力の維持の決意を強調した。椎名大臣はこの保証を歓迎した。ブラウン外務大臣は、また、ヨーロッパ経済共同体に対する英国の立場について説明した。

椎名外務大臣は、また、ジェイ商務大臣を訪問し、通商、経済関係について討議した。その際両大臣は、最近東京において行なわれた日英貿易交渉の進捗について満足の意を表明した。両大臣は、また、将来の英国の対外貿易政策について討議した。

閣僚間の協議に先立ち、広汎な諸問題について事務レベルの討議が行なわれた。

今回の会談は率直かつ友好的に行なわれ、また、日英両国間の親善関係を再び明らかに示したものであった。また、今回の会談において国際問題についての両国の見解が極めて近いこと、および、世界の平和と安定を促進するため協力しようという両国の決意が確認された。

次回の定期協議は、来年、両国政府が合意する時期に、東京で開催されることに意見が一致した。

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レアブア・ジョナサン・レソト総理大臣日本国訪問に関する日本・レソト共同コミュニケ

(昭和四一年一二月四日)

レアブア・ジョナサン・レソト総理大臣は、日本政府の招待により、パトリック・モタ厚生大臣その他の随員を伴い、昭和四一年一一月二八日から一二月四日まで日本を訪問した。

滞日中ジョナサン総理大臣は、天皇陛下と会見し、またジョナサン総理大臣一行は佐藤総理大臣と会談した。

ジョナサン総理大臣一行は、一行のために行なわれた東京での諸行事に出席したほか京都、大阪を訪問し、各地で歓迎を受けた。大阪では、一行は府・市及び商工会議所のもてなしを受け、また農機具工場を視察した。

ジョナサン総理大臣は一一月二九日佐藤総理大臣と会談した。両総理大臣は、非常に友好的な雰囲気の下に、現在の重要な国際問題ならびに両国間の友好親善関係を増進する方法について討議した。

佐藤総理大臣は、今般レソトが独立を達成し、国際社会の仲間入りをしたことに対し祝意を表明し、今後両国が親交を結び多くの分野で互いに協力して世界の平和と繁栄のために積極的かつ建設的に貢献して行きたい旨希望を述べた。

ジョナサン総理大臣はレソトは発足したばかりの新興国であり、今後の国造りのためには、多くのことがなされなければならないが、就中、経済開発が焦眉の急務であり広範な諸国との協力が重要であるが、とりわけアジアの先進国たる日本の援助を国民が非常に期待している旨強調した。

この点に関連し、ジョナサン総理大臣は、レソトの経済開発のプログラムとして、ダイヤモンド資源及び水力発電用の水資源の開発、農業生産性の向上、軽工業の育成等を優先的に推進したき意向を述べ、日本に対し、総合的な開発計画調査のためのサーヴェイ・ティームの派遣実現方を要請した。

これに対し佐藤総理大臣は、レソトヘの調査団派遣を含む右援助要請について日本政府が十分検討を行なう旨述べた。

ジョナサン総理大臣は滞日中の同総理大臣一行に対する厚遇に深謝の意を表明した。

両総理大臣は、ジョナサン総理大臣の今次訪問が日本・レソト両国間の相互理解と友好関係の増進に大きく貢献したことを満足の意をもって認めた。

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ハズラック豪外務大臣訪日に際しての日豪コミュニケ

(昭和四二年三月三一日)

ハズラック・オーストラリア外務大臣は、日本政府の公賓として、夫人を伴い、三月二八日より六日間日本を公式訪問した。

ハズラック外務大臣夫妻は、滞日中、皇居において、天皇、皇后両陛下から拝謁を賜わった。ハズラック外務大臣は、また、佐藤総理大臣を訪問した。

ハズラック外務大臣は、滞日中、三木外務大臣と会談した。この会談は、中国、ヴィエトナムを始めとするアジアの情勢および国連政策など両国に共通の関心ある国際政治問題を広範にわたって討議したことに特色があった。両国外務大臣は、日本とオーストラリアの友好協力関係があらゆる分野で強化され発展していることに満足した。

両国外務大臣は、これらの会談を通じて、アジア・太平洋地域において、連帯感と進取の精神が急速に高揚していることを認めた。両国外務大臣は、両国にとって共通の問題は、「アジア・太平洋」という規模で取組むべきであることを強調し、さらにまた、経済的発展と政治的安定とは密接な関係があることを認めた。両国外務大臣は、経済的先進国にとって開発途上にある諸国が国民の生活水準を向上させるのを援助することが共通の義務であることを認めた。両国外務大臣は、アジア・太平洋地域における協力を更に促進するため、両国政府が一層努力することに意見の一致を見た。

両国外務大臣は、このたびのような訪問によって可能になった大臣レベルの協議が両国政府にとって重要なものであることを強調した。両国政府は、今後とも、両国が共通の関心を持っているあらゆる問題について互いに緊密な連絡を保って行くことを合意した。

ハズラック外務大臣は、三木外務大臣が、早い機会にオーストラリアを訪問するよう希望した。

ハズラック外務大臣は、公式訪問終了後、四月三日より東京において開催されるエカフェ第二三回総会にオーストラリア首席代表として出席する。

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わが国の安全保障問題

日米安保条約の問題点について

(昭和四一年四月一六日)

一 米国の核抑止力について

安保条約第五条は、日本が武力攻撃をうけた場合は、日米両国が共通の危険に対処するよう行動することを定めている。ここにいう「武力攻撃」は、核攻撃を含むあらゆる種類の武力攻撃を意味する。このことは、佐藤・ジョンソン共同声明が、米国が外部からの「いかなる武力攻撃」に対しても日本を防衛するという、安保条約に基づく誓約を遵守する決意であると、述べていることによっても確認されている。

安保条約の下において、米国の核戦力が、日本に対する核攻撃を未然に防止するための主たる抑止力をなしている。しかしこの事と、日本に核兵器を持ち込みあるいは日本が核戦略に参画するという事とは自ら別箇の問題である。米国の核抑止力は、大陸間弾道弾(ICBM)、ポラリス潜水艦、核装備した戦略爆撃機によって構成されている。核兵器の日本への持込みは、安保条約によって事前協議の対象とされており、政府は核兵器の持ち込みを認める意志のないことを明らかにしている。米国の核抑止力の主体をなす以上の様な核兵器は日本を基地とするものではなく、その必要性も存在しない。またこれらの核抑止力をいかに配備管理するかについて、日本がこれに参画し、または協議に加わることを、米国から求められたことはないし、また日本が米国に対しこのような意味での核戦略に対する参画ないし協議を求めたこともない。

二 米軍の基地使用によって日本が戦争にまきこまれる危険について

安保条約第六条は、米軍が日本の安全と極東における平和と安全の維持に寄与する目的のために、日本にある基地を使用することを認めている。もし米軍が日本の基地を使用していることを理由にして、ある国がわが国にある米軍基地を攻撃したとすれば、それは安保条約第五条にいう、日本に対する武力攻撃を意味するものにほかならない。従ってこのような武力攻撃を行なおうとする国は、安保条約第五条によって日本防衛に当る米国との間の、武力衝突を覚悟しなければならない。対米戦争の危険を冒して、対日武力攻撃を行なうことは、実際問題としてほとんど考えられないことであるから、米軍の基地使用により、日本が戦争にまきこまれると考えることは、非現実的であるといわざるをえない。そのような実際にはほとんど起こりえない危険性の面のみをとらえて、日本に対する侵略を未然に防止する抑止力としての安保条約本来の役割を無視することは安保条約を公正に評価するものとはいい難い。

全面完全軍縮の目的が達成されず、国際連合も世界平和維持機構としての機能を十分に果しえない現在の世界情勢の下において、いかなる国にとっても、絶対的にその国が安全で危険は全くないというような安全保障の道は存在しえない。そうであるとするならば、相対的意味での安全保障、すなわち、できる限り安全性が高く、危険性ができる限り低い安全保障の道を選ぶほかはない。米軍の基地使用によって戦争にまきこまれるという様な、実際にはほとんど起こりえない危険を排除するために、日米安保条約を廃棄し、さらに沖繩の軍事基地をも撤去して、日本を全くの無防備中立の状態に置いたと仮定した場合、米軍の基地使用という問題は起こらない。しかし同時に、日本に対する外部からの侵略を未然に防止するための抑止力も、全く失われてしまうことを見逃すことはできない。従って日本を非武装中立化することはかえって日本の安全に対する危険を増すことにならざるを得ない。

もし日本が安保条約を廃棄して、しかも侵略に対する十分な抑止力をもとうとすれば、現在米国が日本に対する侵略を抑止するために保有しているのと同程度の軍事力を、日本自らが保有する以外に道はない。このことは、日本にとって莫大な経済的負担を意味するにとどまらず、実際問題としてほとんど不可能に近いことといわざるを得ない。特に核攻撃の脅威に対処するためには、わが国自らの核武装をも考慮せざるをえないこととなる。

以上のことを考えると、現在の世界情勢の下において、日本の安全を保障するための方法、すなわち、日米安保体制、非武装中立、武装中立のそれぞれを比較した場合、現在の日米安保体制を維持することが、他の二つの方法に比べて、最も現実的であり、かつ、安全度が最も高く危険度の最も少ない方法であると考えざるをえない。

三 米軍の「有事駐留」について

わが国は憲法上、他国の防衛のために日本自らの武力を行使すること(自衛隊の海外派兵)は許されていない。従ってわが国としては、他の集団安全保障体制のように、他国と完全な意味の相互防衛関係を結ぶことはできない。しかし、外部からの侵略に対して、米国がわが国とともにその防衛の責を負うことを求める以上、わが国としてもそれに相応して、憲法の許す範囲においてなんらかの義務を果す用意がなければ、集団安全保障という国際通念に反することとなる。この意味において、米軍の基地使用特に事前協議を必要としない補給や訓練のための基地使用を許すことは、日本として最少限の義務を果していることに外ならない。もし米軍の有事駐留ということが「平時は邪魔になるから一切の米軍の駐留や基地の使用は認めない。しかし日本が侵略をうけた場合、米軍は日本の求めに応じて助けにこなければならない。」という意味であるならば、これは集団安全保障の国際通念に反するもので、いわば保険料の支払いを拒みながら、保険金の支払いは要求するというにひとしいこととなる。

もともと米軍が駐留し一定の基地を使用することが、侵略に対する有力な抑止力をなすものであるから、一切の米軍の駐留と基地の使用を認めないということは、それだけ戦争抑止力としての安保条約の効果を減殺することとなり、これは安保条約の建前と目的に反することとなる。

しかし日本に駐留する米軍や基地の規模は、わが国の防衛力の増強に応じて、逐次縮少の傾向を示している。陸軍については、現在戦闘部隊はすべて撤退し、一定の補給部隊が駐留しているにすぎない。海軍については第七艦隊の艦艇が補給修理等の目的で日本の港に出入する以外に、戦闘部隊と称される艦隊が常時日本に配備されているわけではない。空軍部隊の規模も数年前に比し相当程度縮少されている。

わが国としては核攻撃の脅威に対しては米国の核抑止力に依存せざるを得ないとしても、その他の分野においては、自国防衛のための主たる責任は、高度に発達した経済力と工業力をもつ独立国としての日本自らが負うべきことは当然であり、このことは、安保条約第三条が「締約国が武力攻撃に抵抗する能力を、憲法上の規定に従うことを条件とし、維持し発展させる」と規定しているところでもある。

四 安保条約の期限について

一九七〇年が安保条約の期限切れであるとか、あるいは安保条約の再改訂期であるとかいわれることがあり、往々にして一九七〇年に安保条約が失効してしまうか、あるいはなんらかの改訂を必要とするという意味に解されがちであるが、これは正しくない。安保条約第十条は、十年の期間経過後は、いずれか一方の締約国が条約を終了する意向を相手に通告すれば、一年後に条約が失効することを定めているにすぎない。従って一九七〇年以後は、日米いずれかが条約終了の意向を表明しない限り、条約は無期限に効力を存続することとなる。

一九七〇年においても国際情勢に基本的な変化がない限り、現在の日米安保体制が維持されることが望ましいと考えられる。そして日米安保体制を維持する以上、それができる限り安定した基礎に立つことが望ましいことはいうまでもない。しかし、そのために具体的にいかなる措置をとることが最も適切であるかについては、今後十分に検討すべき問題であって、今直ちに結論を下す必要のある問題ではない。

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