経済協力に関する国際協力
DAC(Development Assistance Commitee)は、低開発国への資金の流れを増大し、援助の有効性を高め、また、加盟国の援助努力の調整を行なうことを主な目的とするOECDの一機構である。現在、DACには、オーストリア、ベルギー、カナダ、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、日本、オランダ、ノールウェー、ポルトガル、スウェーデン、英国、米国および一九六六年二月に参加したオーストラリアならびにEEC(欧州経済共同体)委員会が加盟している。DACの活動の主なものは次のとおりである。
年次審査は、加盟国の援助政策を参加国同士の間の審査の方式によって検討するもので、DACの活動の中心をなしている。第五回年次審査は、一九六六年五月、六月および一〇月に実施されたが、このうちわが国に対する審査は、六月一六日開催された。
論議の中心は、わが国の今後の援助努力増大の計画、技術協力の拡充、援助条件の緩和、農業開発援助などに置かれた。わが国の一九六五年の援助実績が四億八五九〇万ドル(国民所得比〇・七一パーセント)と、前年の二億九一〇〇万ドル(国民所得比○・四八パーセント)にくらべ大きな増加を示したことに対しては歓迎の意が表明されたが、援助条件が依然きびしいことおよび技術協力の努力が小さいことについては、かなり厳しい批判を受け、DACから、わが国に対し次のような講評が行なわれた。
(イ) 日本の援助実績が大幅に拡大したことはよろこばしく賞讃に値するが、今後DAC諸国の援助の平均水準に到達するよう努力願いたい。
(ロ) 日本が東南アジア開発閣僚会議を開催し、その経済開発のためにとったイニシアティヴを歓迎する。
(ハ) 日本が直接借款供与計画を拡充する等、開発援助の分野において新しい機会と責任とを持つにいたったことは健全な発展の方向であり、日本が個々の低開発国の事情に即応した援助を実施できるよう、行政機構上の責任の集権化を行なうことを考慮されたい。
(ニ) 低開発国の債務累積の解決と先進国の間の援助条件の協調を図るために、援助条件緩和のための特段の努力を行なわれたい。
(ホ) 日本の援助計画の中で技術援助の占める割合はきわめて小さいが、技術援助の拡充のために、諸困難を克服して努力することを望む。
低開発国における人口の増加と食糧生産の相対的な遅れとから、低開発国の食糧事情が逼迫しているという認識に立って、DACは、一九六六年上級会議において、「低開発国の食糧問題についての勧告」を採択した。同勧告において、DAC加盟国は、低開発国がその農業生産を向上させることを奨励し、そのため農業生産性向上に資する資金・技術援助を強化し、暫定的な措置として食糧援助を増大することにつとめることに合意した。
開発援助を一層効果的に実施するため、DACは特定の低開発国または低開発地域に対する援助調整のための国別会議または地域会議を開催する。この会議にはDACに加盟している援助国が参加し、対象国の経済開発状況の分析、開発計画、開発事業等についての情報、意見の交換、援助の調整等を行なう。DAC加盟国は、一九六三年以来バンコックにDACの対タイ援助調整グループを設置し、タイに対する技術援助に関する情報交換、援助需要の検討等を行なっている。
開発センター
OHCD開発センターは、一九六二年、先進国が経済開発に関し有する知識を集中し、低開発国の利用に供することを目的として設立された。
(イ) 知識の交換と経験の交流
経済専門家チームの派遣による巡回セミナーの開催(一九六四年にはアフリカ諸国、一九六五年にはラテン・アメリカ諸国、一九六六年にはチリおよびセイロン)、人的資源開発のための専門家の派遣、工業生産性問題に関する経験交流のための国際会議の開催および低開発諸国から寄せられる各種の質問に対する回答等を行なっている。
(ロ) 訓練または研究のための活動
低開発国に対する援助需要の量に関する援助供与国と援助受入れ国との間の意見の交換のための研究会、各国の開発調査および訓練機関の代表者会議等、研究・訓練のための会議を主催している。
2 世界銀行の活動およびそれを中心とする多角的経済協力の動向
世界銀行(国際復興開発銀行)は、一九四六年業務を開始した国際金融機関であるが、戦後の加盟国の経済復興という任務を終り、現在は専ら低開発国に対する開発融資活動を主要業務としており、姉妹機関として一九五六年設立された国際金融公社(IFC)および一九六〇年設立された国際開発協会(IDA)とともに、有機的に連携を保ちつつ、低開発国の経済開発に重要な役割を演じている。ちなみに、一九六五/六六年度の一年間をとってみると世銀グループ全体としての投融資の承諾額は、一一億六千万ドルに上っている。世界銀行の活動は、融資活動のみにとどまらず、加盟国の経済開発計画の策定についての助言、技術的調査、人材の養成などの技術援助の供与活動およびコンソーシアム・協議グループを主催することを通じての先進国の援助調整の活動などを行なっている。
援助国間の援助調整機関として、世銀のあっ旋の下に、協議グループが結成されている。これは、特定低開発国の経済開発を援助するため、多くの場合被援助国も含めて、参加国および国際機関との間で援助の実績、援助計画・被援助国の開発計画・資金需要・資金供与の見込などについて意見や情報を交換し、援助政策の調整を行なおうとするものである。しかし、協議グループは債権国会議(コンソーシアム)のように開発計画に要する外貨資金の供与を前提としたものではなく、必ずしも資金供与と結びついたものではない。協議グループの結成に際しては、国際金融機関としての世銀が、その経験と機能を充分に発揮しうるよう配慮されている。
現在までに、ナイジェリア(一九六二年四月発足)、テュニジア(一九六二年五月発足)、コロンビア(一九六三年一月発足)、スーダン(一九六三年一一月発足)、タイ(一九六五年一〇月発足)、マレイシア(一九六五年一〇月発足)、ペルー(一九六六年七月発足)、韓国(一九六六年一二月発足)、モロッコ(一九六六年三月発足)の九カ国について世銀協議グループが結成されているが、わが国も、開発援助における国際協調に参加する意味から、ナイジェリア、コロンビア、スーダン、タイ、マレイシア、ペルーおよび韓国の協議グループに参加している。
なお、一九六六年九月世銀主催で開催された協議グループに関する会合において、世銀側は、今後の協議グループに対する政策として、(イ)今後一年間はグループの数を余り増加しない、(ロ)既存のグループの主要開発プロジェクトの融資状況に関する情報交換の改善、(ハ)共同融資のアレンジの役を世銀は積極的に果したい等の発言を行なった。
また、インドおよびパキスタンについて設けられているコンソーシアムの活動は、例年どおり続けられている。
国際開発協会は、一九六〇年一〇億ドルの資本金により発足したが、その融資条件が、無利子(但し、手数料〇・七五パーセント)、すえ置き一〇年後四〇年間返済という極めて緩和されたものであるため、まず、一九六四年中には、新規融資承諾のための財源の枯渇が予想されるに至り、一九六三年主要先進国の全てを含む加盟第一部国(低開発国以外の加盟国)により総額七億五千万ドル、一九六五年以降毎年二億五千万ドルあて分割払いによる財源補充(投票権を伴わない特別拠出)が行なわれた。さらに、世界銀行は、一九六六年九月の年次総会における決定により、その純益の中から七五百万ドルを、国際開発協会に贈与することを決定したが、これを含めて、同協会が世界銀行から受けた贈与は、総額二億ドルに達することとなった。これらの措置にもかかわらず、対外債務の累積に悩む低開発国に対し、同協会が緩和された条件による融資を続けるための資金は、再び枯渇するに至り、一九六七年中には新規融資承諾を続けられなくなる見込となったため、一九六六年七月ウッズ総裁は、わが国を含む第一部国に対し、年間一〇億ドル・総額三〇億ドルの規模の第二回財源補充を行なうよう呼びかけを行なった。この問題は、先進国の国際機関を通ずる低開発国援助問題の最重要事項として、本年わが国を含む関係国間において討議、検討を要するものと予想される。
世界銀行は、低開発国の経済開発にとって、民間資本が重要な役割をもつことを認識し、先進国から低開発国への民間投資の増大を図るために、一九六二年以来民間投資家と受入国側政府との間で投資に関連して起こる法律上の紛争を国際的な調停ないし仲裁により解決する制度の検討をすすめてきたところ、一九六五年三月成案を得て条約案の形で加盟国の署名のために開放する決定を行なった。わが国は、この「国家と他の国家の国民との間の投資紛争の解決に関する条約」に一九六五年九月二三日署名を行なったが、一九六七年三月末現在五二カ国が署名している。さらに、この条約は、それに定めるところにより、一九六六年一〇月一四日効力を発生し、それに応じて、世界銀行は、この条約によって設けられる投資紛争解決国際センターの創立総会を、一九六七年二月二日世界銀行本店(ワシントン)において開催した。一九六七年三月末現在これに加盟している国は、三〇カ国である。
第一回東南アジア開発閣僚会議は、一九六六年四月六日および七日に、東京において開催された。この会議には、ラオス、マレイシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ヴィエトナムおよび日本の閣僚と、インドネシアおよびカンボディアの代表が参加した。東南アジア諸国の中で参加しなかったのはビルマのみで、同国は、本会議の趣旨には賛成したが、国連の主催する会議およびコロンボ・プランの会議以外の多数国間会議には参加しないという外交方針からこのような立場をとったものである。
会議においては、各国代表がそれぞれ自国の経済開発の基本方針および経済開発上直面している諸問題につき一般演説を行なった後、農林水産問題、工業化問題、運輸・通信問題、医療・教育・訓練問題等について討議が行なわれた。
東南アジア諸国の代表がこのように一堂に会し、政治的立場をはなれて純粋の経済開発問題について討議を行なった結果、東南アジア諸国の新たな連帯感が生み出され、地域協力の基盤が形成されたと認めることができる。
わが国は、この会議において、国連貿易開発会議の「成長と援助勧告」にいう国民所得の一パーセントの援助目標をできるだけ速やかに達成するよう努カする決意を表明するとともに、とくに、東南アジアに対する援助を大幅に拡充する意向を明らかにした。わが国のこの態度は、関係各国から歓迎された。
会議においては、経済開発に占める農業開発問題の重要性が確認され、また、各国がその発展段階および現状に即した工業開発計画を推進することの必要が認識された。その結果、(イ)東南アジア農業開発会議の開催、(ロ)海洋漁業研究開発センターの設立の検討、(ハ)第二回東南アジア開発閣僚会議を一九六七年にマニラにおいて開催することが決定された。
第一回東南アジア開発閣僚会議の合意に基づき、東南アジア農業開発会議は、一九六六年一二月六日から八日まで、東京において開催された。この会議には、カンボディア、インドネシア、ラオス、マレイシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ヴィェトナムおよび日本の代表ならびにFAO、ECAFE、アジア開発銀行からのオブザーバーが参加した。
参加各国代表は、その一般ステートメントにおいて、それぞれの国の経済において農業の占める重要性を強調し、それに続いて、農業技術改善の問題、農業基盤整備の問題、農業関連産業整備の問題、農産物の市場性改善の問題、農業開発の資金的側面の問題、漁業開発問題等についての討議が行なわれた。会議における討議を通じて、農業開発とくに食糧増産の重要性について共通の認識が深められ、また、農業分野における東南アジア諸国の地域協力の必要性が認識された。
わが国は、第一回東南アジア開発閣僚会議に引続き、東南アジアに対する協力の姿勢を明らかにし、東南アジア諸国に対する農業分野の技術協力を更に拡充し、また、農業開発のための資金援助を、二国間援助およびアジア開発銀行の農業開発特別基金を通じて実施する決意を明らかにした。会議の結果、農業開発基金および漁業開発センターの二つの地域経済協力プロジェクトの推進が決定された。
わが国のイニシアティヴにより開催された東南アジア開発閣僚会議および東南アジア農業開発会議を通じて、東南アジア諸国の経済開発の分野における協力関係は一段と緊密化してきた。東南アジア諸国間に芽ばえたかかる地域協力の定着化を、今後ともますます明確なものとしてゆくことが望まれる。このような東南アジアの地域協力の進展の中核的存在は、農業開発基金および漁業開発センターである。農業開発基金は、アジア開発銀行の信託基金として設置されることが見込まれており、東南アジア漁業開発センターは、わが国の援助によりバンコックおよびシンガポールに設けられる予定である。
アジア開発銀行は、アジアおよび極東の地域における経済成長および経済協力を助長し、地域内の開発途上にある加盟国の経済開発を促進することを目的とする地域的国際金融機関であり、地域内の自己資本による開発投資の促進、開発事業への融資、プロジェクト策定に対する技術援助等を行なうことを目的とする。加盟国は、ECAFE地域の低開発国および地域の内外の先進国三一カ国であって、域内からはアフガニスタン、カンボディア、セイロン、中華民国、インド、インドネシア、韓国、ラオス、マレイシア、ネパール、パキスタン、フィリピン、ヴィエトナム、シンガポール、タイ、西サモアの低開発国およびオーストラリア、日本、ニュー・ジーランドの一九カ国、域外からは、ベルギー、カナダ、デンマーク、ドイツ、イタリア、オランダ、英国、米国、オーストリア、フィンランド、スウェーデン、ノールウェーの一二カ国である。そのほか、スイスが加盟を認められており、国内手続終了次第加盟国となる。アジア開発銀行の授権資本は一〇億ドルであって、そのうち九億六、五〇〇万ドルがすでに応募されている。日本の応募資本は二億ドルで、域内国中では最大である。アジア開発銀行の設立はアジアの歴史に輝かしい新時代を画するものであり、アジアの諸国民が同地域の経済発展のために結束して努力を行なうという意志を結実せしめたものである。アジアには莫大な開発資金需要があることを考えるとき、域外先進国一二カ国が加盟しており、さらにスイスが加盟することは重要な意義を有する。この点一九五九年設立の米州開発銀行および一九六三年設立のアフリカ開発銀行との大きな差異を示している。
アジア生産性機構は、一九六一年五月に、アジア諸国における生産性の向上を目的として設立された国際機関であり、加盟国は日本、フィリピン、中華民国、韓国、タイ、ヴィエトナム、パキスタン、インド、ネパール、イラン、セイロンの一一カ国および香港である。加盟国各一名の政府代表理事から構成される理事会は、機構の最高機関であり、事務局は東京におかれている。機構の事業活動は次のとおりであるが、事業の実施については、わが国は積極的な協力を行なっている。
中小企業の経営改善、生産技術の向上等を内容として、加盟国からの研修員あるいは専門家に対し、訓練コース、セミナーおよびシンポジウムを実施しており、実施にあたっては、わが国の企業が多大の協力を行なっている。
生産性向上のため、機構は、加盟国の専門家からなる視察団を派遣し、見学・学習にあたらせている。また、その報告に基づき報告書を作成し、加盟国に配布している。
機構は加盟国に専門家を短期間提供し、加盟国の関係者に技術的助言を与えている。
機構は、加盟国から生産性向上に必要な技術上の相談を受け、回答を与え、また調査、広報活動として、生産性関係文献の翻訳、視聴覚用教材の作成、PR資料の配布を行なっている。
なお、わが国は、APOの活動を強化するため、一九六六年には七万五、五〇〇ドルの分担金を支払ったほか、一〇万ドルの特別拠出金およびわが国で実施される機構の事業費の一部として、一六万一、○○○ドルを支出した。