中近東諸国(北アフリカを含む)と日本

1 中近東諸国との貿易の現状

一九六六年わが国の中近東からの輸入は、一二億六、四〇〇万ドル(前年比一二・九%増)とわが国総輸入の一三・三%を占め、他方輸出は四億三、二〇〇万ドル(前年比一八・二%増)と総輸出の四・四%を占めている。これをもって見れば、対中近東貿易は五対一でわが方の入超である。しかしわが国は精製用の原油の九割を中近東に依存しており、この地域からの輸入一二億ドル余のうち一一億ドル余は石油類で占められており、従って石油を除げばわが国の輸入は一億ドルで貿易バランスは四対一でわが方の出超となる。事実中近東の石油産出国のうちイラン、イラクは石油操業各社のわが国に対するぼう大な石油輸出を自国の輸出とは見なさず、わが国に対し極端な片貿易となっていると主張している。

かくして、わが国と中近東諸国との貿易関係上最大の問題は対日片貿易を理由とする現地産品買付け要求、さらにわが国の買付不足を理由とする対日輸入制限問題である。この問題がとくに顕在化している国としてはイラン、イラク、アフガニスタン、アルジェリア、スーダンがある。

次に中近東各国の工業化の進展に伴う消費財の輸入制限の動きに対応したわが国輸出構造高度化、すなわち資本財輸出促進の問題がある。またクウェイト、サウディ・アラビア、アラビア湾土侯国の多くは石油収入による資金が潤沢であるが人口が少いため石油関連産業のほかは工業が育ちにくい。従ってこれらの国は今後とも安定した消費財市場であるとともに、これら諸国に対する輸出は石油精製、石油化学関係のプラント、港湾、通信網の建設といったいわゆるインフラストラクチヤーが本命となるものと思われる。

従来中近東向けプラントおよび建設役務の輸出は必ずしも活発でなかった。その原因としては、輸入国側の資金不足およびわが国工業水準に対する認識不足、わが方のPRおよび現地事情の認識不足等が挙げられる。

こうした情勢にかんがみ、わが国としては対日輸入制限を排除するため各国と貿易交渉を行なうとともに、中近東諸国に対する経済協力を徐々に推進し、招待外交、調査団の派遣、産業映画の配布、現地公館を通じわが国業界の活動に対する側面的援助を行なうなどこれらの障害の除去に努力している。関係業界においても輸出を伸ばす前提としての現地産品買付げ、各国との人的交流促進等の施策を積極的に推し進めて行くことが肝要と思われる。

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2 イランとの貿易協定の延長交渉

一九六四年七月イランとの間に結ばれた貿易協定は、一九六六年七月まで延長され、再延長のため同年六月から交渉を行なっている。

貿易協定締結以来両国間の貿易は急速に拡大し、わが国の対イラン輸出は一九六五年の五、八三八万ドルから一九六六年は七、一八九万ドルとなった。他方、わが国は一九六六年三億五、四二六万ドルの石油を輸入しているが、イラン側は石油輸出を輸出として計算しない。石油を除く一次産品の輸入は、一九六三年二〇六万ドル、一九六六年七八九万ドルである。

イラン側は、貿易協定延長交渉において、日本のイラン産品の買付増大、殊にイラン国有石油会社(、、、、、、、、、)からの石油買付を強く要求した。このため交渉は難航を続け、貿易協定は延長されることなく、一九六六年七月一一日自然消滅することになった。その後イラン産品の買付けにつき実質的な合意が成立したが、イラン側は種々の理由により協定調印に応じていない。

なお、イラン経済省は、一九六七年三月二一日に始まるイラン暦一三四六年度輸出入規則でわが国の対イ輸出関心品目であるタイヤ、チューブ、スフ綿、板ガラス、モーターサイクル等を事前許可制品目とした。この措置は運用の如何によっては、事実上相当程度の対日差別制限が行なわれるおそれがあり、その成行きが憂慮される。

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3 イラクとの貿易協定更新

イラクにとって石油を除く輸出産品のうち最も重要なものはデーツであり、デーツの輸出の如何は直接農民の生活にひびくものとして、その増進を貿易政策の基本としており、各国との貿易協定の締結にあたっては常にデーツの買付けを要求している。日本に対しても一九五九年日本側のデーツ買付状況に対する不満及び極端な片貿易を理由に、対日輸入制限を行なって以来、再々同じ理由で対日輸入制限を行なってきた。そのためわが方は両国貿易関係改善のため、一九六四年九月イラクとの間に貿易協定を締結したが、これによりイラク側は対日差別制限を全面的に廃止した。

その後わが国の対イラク輸出は急激な伸長をみ、一九六三年七四七万ドルから、一九六六年には二、八一七万ドルに達した。またイラクとの貿易協定も毎年更新され、現在第三協定年度(一九六六年九月~一九六七年九月)にある。

他方、イラク・デーツの買付けも政府業界の協力のもとに毎年徐々に伸びており、一九六四年一、三〇〇トン(七万ドル)から六六年には八、二六九トン(四九万ドル)に達した。特にイラク側の希望している食用デーツの買付けも六五年三〇〇トンから六六年六〇〇トンと倍増し、業界では食用デーツの新規需要、イラクデーツのPR等に一層の努力を傾けている。

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4 アラブ諸国のイスラエル・ボイコット問題

アラブ諸国は、現在もなおイスラエルの存在を認めておらず、過去十数年にわたり紛争を続けており、貿易面においては、イスラエル・ボイコット政策をとっている。各国におけるその実施振りについては、必ずしも同一ではないが、アラブ諸国が保守革新に分極化の傾向を示しながらも、イスラエル問題ともなれば、一応共同の行動をとり得るところにイスラエル・アラブの対立がいかに根深いものであるかを示している。

一九六六年一一月クウェイトで開催の第二四回イスラエル・ボイコット連絡官会議では、中近東諸国に大市場を有するコカコラ、フォード、RCA等の大商社のボイコットを決定した。

また、最近の事例としては、イスラエルと直接関係のある商社がボイコットされた場合には、さらに当該会社に関連する商社、またその関連会社までボイコットされる事例が現われている。

わが国としては、本問題を容認しているわけではなく、国際法上問題もあり極めて遺憾であると考えている。

諸外国政府も、何れもこの種ボイコットの国際法上の合法性は認めていないが、問題がおこった場合、政府としては直接介入することは差し控え、側面からサポートするにとどめている。

わが国としては、問題が発生した際は、随時関係者と連絡をとり、ボイコットの一般原則、先例等を参照し、ケース・バイ・ケースで対処しており、また紛争を起しているわが国関係者の要請に応じ、必要かつ有効と認められる場合は、非公式に交渉を行ない、側面から協力している。

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5 アラブ連合との貿易関係

一九六六年のわが国の対アラブ連合貿易は、輸出は前年比四七%増の二、四七四万ドル、輸入は同三七%減の一、七七九万ドルであり、一九六五年の貿易バランスが一、一一一万ドルの入超であったのに対して、一九六六年には六九五万ドルの出超に転じている。これは、エジプト綿買付の減少(一九六五年の七万四、○○○俵から一九六六年は五万俵へ)及び既契約分の機械類船積の増加が原因している。

最近、ア連合は、国際収支悪化に伴い外貨事情が極度に悪化して、約一〇億ドルという膨大な対外債務をかかえ、その返済の遅れに悩み、諸外国に対して債権繰延を要請して来たが、わが国に対しても一九六六年一一月同様の申入れがあった。わが国の対ア連合輸出の九〇%以上は重化学工業品で占められ、その多くは延払決済の形をとっているが、輸出債権未回収分は約七〇〇万ドル(一九六七年六月までに期限が来る分)に上っている。わが方としては、同国との政治経済関係をそこなうことなくこれを解決すべく、ア連合側と折衝している。

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6 モロッコとの貿易取決めの改訂

わが国とモロッコとの貿易取決めは、一九六〇年一二月に発効し、その後一年毎に更新されその間一九六五年五月に付表の一部その他が改正されたが、モロッコ側の輸入制限の緩和、わが方の輸入自由化品目の追加により、同取決め付属品目表は再び現状にそぐわなくなったため、一九六六年一〇月両国間の交渉の結果、同品目表の改訂が行なわれた。

今次の改訂により、モロッコ側は合繊漁網、カメラ、ラジオ、農機具等について総額三二四万ドルの対日輸入割当を設定した。その他の品目についてもモロッロ側は従来どおり日木品がモロッコのグローバル割当に均てんすることを認め、日本側も従来どおりモロッコ産品が日本の自由化および輸入割当てに均てんすることを認めている。

なお、一九六六年のわが国の対モロッコ輸出はラジオ、亜鉛鉄板等約三七一万ドル、輸入は約八二七万ドルで、うち約七三四万ドルが燐鉱石となっている。

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7 アルジェリアの対日差別関税の適用

一九六六年の初めにアルジェリア政府は対日輸入抑制の措置をとったが、同年におけるわが国の輸出は一、四三一万ドルに達した(一九六五年は一、五二一万ドル)。他方、わが国の輸入は一九六五年の五万ドルから一九六六年は六一万ドルとやや改善されたものの、引続きわが国の著しい出超であった。

わが国政府がこのようなアルジェリアに対する片貿易の是正対策に苦慮していた矢先、アルジェリア政府は、一九六七年二月、日本及び香港の原産品にこれまで適用していた共通税率の三倍に当る一般税率(報復関税)の適用を決定した。

わが国はガット関係にないアルジェリアに対し便益関税即ち事実上の最恵国待遇を与えているが、アルジェリア側は、先方の法制上最恵国待遇を与えない国に適用される一般税率をわが国産品に適用したものである。

アルジェリア政府は、アルジェリア産品の買付調査をもかねて事態収拾について話合うため、日本政府が然るべき使節団を派遣するならばこれを歓迎する意向を有している模様であるので、わが国政府はその可能性をも含め事態収拾策について目下検討中である。

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8 スーダンの輸入制限

スーダンの主要輸出品は綿花であり、その収穫及び輸出の如何により同国の国際収支は左右される。そのためスーダン政府は、一九六六年、綿花を多く買付ける国との貿易を優先する政策を強化するに至り、日本に対しても六五年度の綿花買付けを不満として、六六年五月繊維品、タイヤ、チューブについての対日輸入制限措置をとった。また、開発計画に伴う資本財の輸入の増加等が原因して、極端な外貨事情の悪化を招き、同年七月にはグローバルな全面的輸入禁止措置をとるに至ったが、一一月末には綿花輸出の好転、IMFからの借款等により外貨事情も立直り、輸入禁止は解除され、日本に対する輸入停止措置も同時に解除きれたが具体的な輸入割当については依然国別に綿花等の買付量を勘案して割当てるなど、厳しい態度をとっている。

他方、わが方業界はスーダン綿買付けに努力しており、一九六六年の両国間の貿易収支はほぼ均衡するに至っている。

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