ラテン・アメリカ諸国と日本

1 最近の中南米諸国の経済動向とわが国との貿易の現状

一九六六年における中南米経済を概観すると、特にアルゼンティン、ブラジルの両大国が一九六五年に比べ景気が停滞気味だったことが指摘される。ことにアルゼンティンは一九六六年年央に起こったクーデターによる政権交替前後の経済活動の一時的停滞を脱しきれず、一方、ブラジルは主要農作物が伸び悩んだが種々の引締策が功を奏してインフレ抑制の効果があがり、かつて八五%に達した年間生計費上昇を一九六五年より若干低い四一%に抑えたほか、外貨準備が記録的な七億ドルに到達したことは注目に値する。その他の諸国ではヴェネズエラ、メキシコ、ペルーの鉱工業が概して一九六五年に劣らぬ伸びを見せた。またチリ、パナマでも経済成長が目立ち、ドミニカ共和国は内戦の傷手から回復しつつある。

なお、中米諸国間では第六年目を迎えた中米共同市場を中心に経済成長をみた反面、新たにヴェネズエラ、ボリヴィアの参加を得て南米のすべての国とメキシコとで構成されているLAFTA(ラテン・アメリカ自由貿易連合)は、依然加盟国の利害の調整が進まないため域内関税障壁の撤廃や工業相互補完のメカニズムが期待どおり進捗しておらず、域内貿易総額中に占める率も一九六五年一四%程度にとどまっている。しかし、このような停滞を打破するため、LAFTA水上輸送協定の調印、二国間貿易支払クレジット機構の発足、外相会議の創設のような新しい政策が採択されたので今後注目を要する。更に、一九六七年四月ジョンソン米大統領を迎えてウルグァイのプンタ・デル・エステで開かれた中南米大統領会議は主要議題の一つとして、経済統合の推進をとりあげ、一九七〇年を出発期として一九八五年を目標に徐々に関税障壁を撤去し、LAFTAとCACM(中米共同市場)を一体化するラテン・アメリカ経済統合を達成することが決議され一歩前進を示したことが注目に値する。

なお米州機構の発表によると、一九六六年における米国及び国際機関の対中南米長期資金援助実績は一三億ドルという新記録を達成しこれが同年の中南米経済の一つの支えとなった効果は見逃せない。

わが国と中南米地域との一九六六年(一月-一二月)における貿易の現状は、わが国の輸出四億八、三二〇万ドル(カリブ海及び大陸の属領をも含めると五億五、六〇〇万ドル)、輸入七億五、六〇〇万ドル(属領を含めると七億八、一〇〇万ドル)であり、この結果六六年の対中南米入超額は二億七、二八○万ドルに達し、今後もブラジルからの鉄鉱石大量長期輸入契約の実施とともに輸入の増大が見通される結果年々増大の一途をたどっている。わが国からの主要輸出品は、重化学工業品が主体で、全体の約七〇%を占め、軽工業品、食糧がこれに次いでいる。輸入は主として原料品であって、綿花が約三〇%、鉄鉱石が約二五%を占めている。輸出は対前年比一四%増、輸入は対前年比一〇%増であり、延払い供与等の積極的な経済協力と相まって、欧米との激しい競争を克服しつつ輸出は順調な伸びを見せている。更に、現在まで停滞気味であった中南米諸国の経済開発が近い将来軌道に乗ってくるに従い、わが国のこれら諸国に対する経済協力の実施いかんによっては、資本財等の輸出が急速に伸びて行くものと考えられる。ただし、対中南米貿易がわが国の入超となっていると一概にいっても、国別にみればわが国の出超となっている国(コロンビア、ヴェネズエラ、ドミニカ共和国、ジャマイカ、コスタ・リカ等)もあり、これら諸国は粗糖、綿花、コーヒー、ラム酒、岩塩、タバコ等一次産品買付による片貿易の是正を強く要求し初めており、すでにジャマイカの対日輸入制限によりわが国の同国向け輸出が痛手を蒙っている現状(次項参照)にかんがみ、今後これら諸国に何らかの対策を講ずる必要のあることが痛感される。

目次へ

2 ジャマイカの対日輸入制限

一九六五年四月七日以来ジャマイカ政府は片貿易を理由に対日輸入制限を実施中であり、(経緯については、「わが外交の近況」第十号二二七頁参照)一九六六年のわが国輸出は一九六五年の八一〇万ドルから四六六万ドル(繊維産業の原料)に減少した。

政府は本件解決の緒を発見するため、一九六七年三月中米・カリブ海経済調査団を同地に派遣するなど努力しているが、当面経済技術協力の供与により本件を解決する可能性につき検討中である。

目次へ

3 コスタ・リカとの片貿易問題

中米コスタ・リカとわが国との貿易は毎年わが方の大幅な出超となっているところ、一九六六年は、わが国の輸出が前年より若干減少したのに対し、輸入はコーヒーの買付け増加に努力した結果約三〇%伸び、出超福は前年よりも縮少をみた。しかしながら、輸出入の比率は依然一〇対一である。今後はコーヒー、綿花の買付け増により、出超幅は徐々に縮少するものとみられる。

目次へ

4 LAFTA水上輸送協定の締結

LAFTA加盟七カ国は、一九六六年五月中旬モンテ・ヴィデオにおいて「LAFTA水上(海運、河川、湖沼)輸送協定」に署名した。同協定は五カ国の批准によって発効することになっており、現在のところメキシコが批准している(一九六七年二月)に過ぎないが、本協定は、域内貿易拡大のために加盟各国の海運を育成することを主眼とし、そのための方法として貨物輸送を原則として加盟国の船舶に依存することなどを掲げており、従来域内輸送に従事しているわが国をふくむ伝統的海運諸国に今後影響を与えるおそれがあるので、政府としても在外公館と密接な連絡をとりつつ、関係諸国とその対策を検討中である。

目次へ