西欧諸国と日本

1 西欧諸国の経済と貿易関係

一九六六年度の西欧経済の推移は、国によって鮮やかな対照を示した。まず、フランス、イタリアにおいては、前年度に既に回復過程に入り、年間を通じて好況を続け、四・五%ないし五・三%程度の成長を達成したものと推定される。しかも、国内供給の余力が充分であったため、物価動向も安定的であったし、また国際収支も黒字基調を維持することができた。これに対して、英国、ベルギー等は、前年度に引続き停滞に終始した。特に英国においては、ポンド危機打開のため、労働党内閣の命運をかけた内需抑制政策の浸透によって、国際収支は一九六六年度後半にようやく黒字に転じ、少なくともポンドはやや生色を取り戻した感があるが、その反面、経済成長は大幅に低下し、わずかに一%前後のところに落着くのではないかと見込まれている。

他方、ドイツ、オランダ等の諸国は、年度上期の過熱状態から下期の停滞へと劇的な転換を示した。例えばドイツにおいては、一九六五年秋以降設備投資の急激な減少が起こり、更にこれから消費の停滞が派生して不況の様相を呈するに至った。この原因は、従来金融政策と乖離している感のあった財政政策がようやく内需抑制の方向に向い、この両面を通ずるポリシー・ミックス(財政政策と金融政策の両者を組み合わせて用いる政策)の効果が急激に現われてきた点にあると考えられる。一九六七年に入っては、金利の国際的デスカレーションと相まって、各国は相次いで公定歩合の引下げを行ない、懸命な景気刺激策を講じている。なおドイツにおいては、輸出が依然好調であったため、下期の不況にもかかわらず、名目で六%程度の成長率を維持するものと見込まれている。このように、一九六六年度は国によってかなりの景気後退が見られたが、全般的には、西欧経済はほぼ前年度並みの拡大を遂げたものと考えられ、これを反映して、わが国の対西欧貿易も概して順調であった。

一九六六年のわが国の対西欧貿易は、輸出一二億八、四七六万三〇〇〇ドル(うちEFTA五億二、六九二万四○○○ドル、EEC五億九、五〇六万六〇〇〇ドル)、輸入八億五、八一五万ドル(うちEFTA三億六、八四〇万ドル、EEC四億四、六六三万五〇〇〇ドル)であり、対前年比で、それぞれわが国の貿易総額の伸びを上廻る一八・四%及び一八・二%の拡大を示した。対西欧輸出が好調であった理由は、いうまでもなく長年にわたる市場拡大の努力が実を結びつつあることを示すものであるが、同時に輸出構造の重化学工業化傾向を考慮すれば、わが国の産業が国際競争力を身につけてきたことを如実に物語るものといえよう。また輸入の増勢については、前年の対西欧輸入が異常な低水準に止まった点を考えると、高過ぎる伸び率であるとは考えられない。対西欧貿易バランスも、前年度を上廻る三億八、九〇〇万ドルの出超であり、わが国の国際収支に大きな貢献を果した。

わが国の貿易総額に占める西欧の地位は、輸出一三・一%、輸入九・○%であって、いずれも徐々に増加する傾向にあるが、西欧が世界貿易の四〇%を占める大経済圏であることを考えれば、未だ不満足な状態にあるというべく、今後とも、政府、民間を通ずる輸出の振興及び西欧諸国の対日輸入阻害要因撤廃の努力の積重ねが必要であろう。

一九六六年度においても、対日輸入制限縮少を中心として西欧諸国との二国間交渉が行なわれ、ベネルックス(実質的交渉は前年度)、オーストリア、英国、フランス、ノールウェー等において差別の縮少を見たが、そのほか特にEEC諸国については、ケネディ・ラウンドにおける多国間の関税引下げ交渉が大詰を迎えた一九六六年度より、そのなりゆきを見つつ今後の対日数量制限撤廃について二国間で予備的意見交換を行なってきた。

一九六六年度に行なった貿易交渉の概要は次の通りである。

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2 日本・ベネルックス貿易年次協議

一九六〇年署名の通商協定及び一九六三年署名の貿易関係に関する議定書に基づく、一九六六年度分(四月から一年間)の貿易年次協議は、前年度よりハーグで開始され、七月に正式調印を行なった。

その結果、ベネルックスはわが国に対し、人絹糸、ボタン、鉛筆等五品目を自由化し、かつ残存制限品目の一部について輸入割当を増加することになった(対日差別品目は二八品目)。

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3 日仏通商協議

日仏通商協定に基づく第三回日仏貿易年次協議は、一九六六年五月より東京で開始され、同年七月、通商協議に関する議定書の署名が行なわれた。

この結果、フランスは、わが国に対しポリエチレン、家庭用ミシン、ライター等一〇品目について数量制限を廃止することになり、また相互に非自由化品目に関する輸入割当を拡大することとした(対日差別品目は七一品目)。

なお綿製品についても、フランスは長期協定に基づき対日輸入枠を拡大することになった。

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4 日本・オーストリア貿易取決め

一九六七年一月から一年間効力を有する日墺貿易取決めは、ウィーンで交渉が行なわれ、一九六六年一一月書簡の交換が行なわれた。

これにより、オーストリアは、わが国に対し自由化ポジ・リスト制度をネガ・リスト制度に改め、ガット・ネガ品目を含む二一四目以外の品目の対日輸入に関しては自由にライセンスを発給することになった(対日差別は約一六〇品目)。

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5 日本・英国貿易交渉

日英間相互の貿易拡大を目的とした日英貿易交渉は、一九六三年に発効した日英通商航海条約に基づき一九六六年一〇月東京で行なわれ、一二月二〇日に書簡の交換が行なわれた。その結果、絹メリヤス編物及びノイル絹織物、軽目の絹製衣類、メリヤス手袋、一部工業用綿製品ならびに陶磁器製玩具の対日輸入は、本年一月一日から自由化され、かつ残存規制品目である繊維製品、陶磁器ならびに一部金属製玩具の一九六七年規制枠が拡大されることとなった。

なお、一九六六年の対英輸出は二億二、五〇〇万ドル、輸入は二億一、四〇〇万ドルであり、過去五年間連続わが国の出超傾向を示しており、又輸出の対前年増加率は約九%、輸入は三二%と大幅な増加となった(対英貿易はわが国の総輸出入額において、ともに約二・三%程度を占めている)。

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6 日本・ノールウェー貿易取決め

ノールウェーとの貿易関係については、一九六二年の書簡交換以後、毎年交渉が行なわれ、対日待遇は漸次改善されてきた。一九六六年もオスロで交渉を行なった結果、同年一一月、一〇月より一年の有効期間を有する取決めを締結した。

本取決めにより、ノールウェーは対日輸入に関し、繊維製品等八品目を自由化することになり、対日輸入差別品目数は、七〇に減少した。

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7 日本・スペイン貿易取決め

一九六七年一月から一年間有効の日西貿易取決めに関する交渉は、一九六六年一一月マドリッドにおいて交渉を開始し、一二月、前回取決めをそのまま一年間延長する内容の書簡の交換を行なった。

取決めは、両国政府のそれぞれの相手国からの輸入に関する条件及び、相手国船舶に対する無差別待遇について定めている(「わが外交の近況」第十号二一九頁参照)。

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8 日本・ギリシャ貿易取決め

日希間の貿易関係は、一九六〇年に現金決済を基礎とした貿易取決めが結ばれて以来、一ないし二年毎に改訂交渉が行なわれてきた結果、極めて僅かの品目について対日輸入割当を行なっているほか、対OECD諸国なみに自由化された状態になっているが、一九六六年秋以来アテネで交渉を行なった結果、一九六七年二月、前回取決めと大体同内容の二年間有効の貿易取決めを結んだ。

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