諸外国との貿易経済関係
北米諸国と日本
一九六六年におけるわが国の対米貿易を見れば、為替ベースで輸出は前年比二一・二パーセント増の三一億七、六一〇万ドル(通関ベースでは二九億六、八八〇万ドル)と順調な伸びを示し、他方輸入は前年比九・四パーセント増の二五億八、八九七万ドル(通関ベースでは二六億五、七四二万ドル)であった。このため対米貿易収支は為替べースで五億八、七一三万ドル、通関ベースで三億一、一三八万ドルの出超を記録した。この出超幅は、為替べース、通関べースともに戦後初めて出超となった六五年のそれを二倍以上も上廻るものである。
六六年の米国に対する輸出入がわが国総輸出入に占める割合は、輸入は六五年の三四・一パーセントから三二・一パーセントと減少したが、輸出は三一・五パーセントから三三・三パーセントに増加した。
主要輸出商品中特に著しい増加を示したものは化学製品(対前年比五七・三パーセント増)、機械・機器(四一・一パーセント増)、食料品(三三・五パーセント増)であった。細分品目では、電気計測機器(対前年比一、五〇三・〇パーセント増)、テープレコーダー(三〇三・一パーセント増)、金属加工機械(二三九・〇パーセント増)、乗用自動車(一二一・三パーセント増)の伸びが著しかった。
主要輸入商品中、六五年に比して減少した商品の主なものは、非鉄金属鉱(対前年比三一・九パーセント減)、金属加工機械(二六・〇パーセント減)、綿花(一五・五パーセント減)等で、反面、木材(対前年比三三・八パーセント増)、鉄鉱石(四三・八パーセント増)、石油(三二・九パーセント増)、大豆(二三・八パーセント増)、化学製品(二〇・五パーセント増)、小麦(一三・六パーセント増)等が増加した。
(イ) 一九六六年の米国連邦議会(第八九議会第二会期)においては、例年に比べると保護主義的法案の成立にみるべきものはなかったといえる。これは、米国経済の繁栄のため米国内関連業界の不満が少なく、あっても説得力が弱かったこと、議会の各委員会が、「偉大な社会」関係の国内施策及びヴィエトナム戦争に関連する法案の討議で手一杯であったこと、KR(ケネディ・ラウンド)交渉が進行中であり、輸入制限的な動きに対して行政府は、KR交渉に差しさわるとの理由をもって、かかる動きを抑えることができたこと等の要因によるものと考えられる。
(ロ) しかし、一九六七年の議会(第九〇議会第一会期)は、一九六六年一一月の中間選挙の結果、下院における共和党の大量進出により議会の構成が変ったこと、米国内の景気鈍化傾向に備えて、国内関連産業が、保護措置を求める動きを活発化していること、一九六七年六月末に通商拡大法上の大統領の関税一括引下げ権限が失効すること等のため保護主義的色彩を強めるであろうとみられており、既に提出され、また今後提出されるであろう各種保護法案の動向が注目される。
(イ) 関税調整問題
一九六二年の通商拡大法には、通商協定により譲許を与えられた商品が、譲許の結果、米国産業に被害を与えるか、または与えるおそれがあるほど多量に輸入されるときには、大統領が関税委員会の報告に基づいて関税引上げまたはその他の輸入制限措置をとりうる、いわゆるエスケープ・クローズ措置(免責条項)の規定がある。
一九六六年四月より一九六七年三月までの期間には、同法に基づく関税調整申請は行なわれなかった。通商拡大法発効後、現在まで関税調整申請が行なわれた商品は、五品目であるが、関税委員会は、調査の結果、いずれも申請を却下している。
なお、通商拡大法の前身である一九五一年通商協定法延長法によりエスケープ・クローズ措置がとられ、通商拡大法施行後も引き続き同措置がとられていたものは、(i)鉛および亜鉛、(ii)時計ムーブメント、(iii)体温計、(iv)安全ピン、(v)板ガラス、(vi)金属洋食器、(vii)ウイルトン・カーペット、(viii)綿製タイプライター・リボン・クロスの八品目であるが、前記各品目のうち(i)~(vi)の六品目については、通商拡大法に基づき関税委員会でエスケープ・クローズ措置を撤廃した場合の関連国内産業に及ぼす影響について調査が行なわれ、それぞれ大統領に調査報告書が提出されていたが、大統領は前記報告を検討の上、一九六六年三月までに鉛および亜鉛、体温計、安全ピンの三品目につきエスケープ・クローズ措置の撤廃、金属洋食器については同措置の緩和を公表し、さらに一九六七年一月一一日には、時計ムーブメントにつき同措置の撤廃、板ガラスについては同措置の緩和を公表した。
(ロ) 産業調整問題
通商拡大法では、米国の会社および労働者は、関税引下げの結果、被害を蒙った場合、輸入制限措置による救済のほかに、産業調整援助をうける途が開かれている。一九六六年四月から一九六七年三月までの期間には、同法に基づく産業調整の申請は行なわれなかった。
通商拡大法発効後、現在まで、産業調整申請が行なわれたものは、一〇件に及んでいるが、関税委員会は、調査の結果、要請資格なしと認定し、申請を却下した。
なお、前記(イ)および(ロ)のとおり、関税調整および産業調整援助の申請が関税委員会において却下されているのは、通商拡大法の認定要件上、関税譲許が輸入増大の主たる原因であることを立証しなければならなくなったためであるとされている。
一方、米国業界には特に産業調整条項につき認定要件の緩和の要望が出ており、既に、一九六五年の連邦議会で成立した米加自動車協定施行法において、同協定により影響を受けた米国自動車産業を救済するため通商拡大法と別途に産業調整について認定要件を緩和し、認定権限を大統領に与える(併行的な調査を関税委員会に求めることになっているが)ことを内容とした規定が設けられている。
なお、同法施行後、産業調整の申請が行なわれたのは三件であるが、このうち一件は認められ、あとの二件は現在審査中である。
(ハ) 国防条項問題
通商拡大法第二三二条に規定されているいわゆる国防条項によれば、ある商品が米国の安全を害するほど多量にまたは安全を害するような状態で輸入されている場合は、大統領は、緊急計画局の調査に基づいて、輸入制限等の措置をとることができることになっている。
一九六六年四月より一九六七年三月までの期間における同条項に基づく調査状況は次のとおりである。
(i) 緊急計画局長官は、米国業界の申請に基づき国防条項の調査を行なっていた輸入ベアリング及び同部品について、一九六六年一一月二日に至り提訴側が提訴を取下げたので、調査を打切った。
(ii) ハーター・オフィスの要請により、大統領が同長官に調査を命じた時計ムーブメントにつき、同長官は、一九六七年一月一一日、大統領に対し、時計部品の輸入増大は国家安全保障に被害を与えていない旨の調査報告を提出した。
(iii) なお、現在、同長官により国防条項に係る調査が行なわれている輸入商品は、綿、毛、絹などの全繊維製品(通商拡大法の前身である通商協定法延長法の国防条項にもとづくもので、一九六一年以降引き続き調査中)一件である。
米国ダンピング防止法によれば、ある輸入商品が公正価格以下で販売され、しかも輸入により米国の産業に被害を与えるか、または与えるおそれがある場合にダンピング税を徴収できることになっており、価格が公正であるかどうかについては財務省が決定し、国内産業に対する被害の有無は関税委員会が認定することになっている。
一九六六年四月より一九六七年三月までの期間における同法に基づくわが国商品に対する調査状況は次のとおりである。
(i) 一九六五年八月より米国財務省が米国内業者の提訴に基づき調査を行なっていた白色ポートランド・セメントについて、同省は、一九六六年一〇月一七日、公正価格以下の販売ではない旨の決定を行なった。
(ii) 二酸化チタンのダンピング調査対象七社のうち三社につき、一九六六年二月二四日財務省は公正価格以下で販売したと決定し、関税委員会に付託したが、右三社については、一九六六年五月一八日、同委員会により産業被害なしと認定された。
(iii) 財務省は、一九六五年一二月一六日に米国タイル業界を代表する弁護士からの提訴により壁タイルについての調査を開始し、予備調査の結果、一九六六年七月一八日に「関税評価差止め措置」をとった。
なお前記壁タイル及び一九六六年六月より財務省が米国国内業者の提訴に基づき調査を開始したアイス・スケートの刃およびチオ尿素の三件については、調査継続中である。
(イ) 米国の関税評価方式に関する関税委員会調査問題
一九六六年二月九日、上院財政委員会は、関税委員会に対し、一九六七年二月二八日までに現行のFOB課税方式を世界の大部分の国が採用しているCIF課税方式に移行させることの適否につき調査の上、見解を提出すること、更に関税評価にかかわる米国関税法制の改善についての示唆と勧告を提出することを内容とする決議を採択した。
関税委員会は、同年二月一一日調査を開始し、同年七月、予備調査の結果を取纏めた報告書を財政委員会に提出し、公表した。
この報告書は、諸外国の関税評価方式に関する法規の研究とその分析及び複雑多様な米国の関税評価制度(特に、関税法第四〇二条及び第四〇二a条)の詳細な説明を骨子としているため、FOB課税方式よりCIF課税方式への移行の是非及びこれに対する関税委員会の見解については触れていない。
次いで、同委員会は、最終報告に備え、同年一一月三日、四日の両日にわたり公聴会を開催し、各界の意見を聴取の上、最終報告を一九六七年三月上旬に上院財政委員会に提出した。なお、最終報告は現在のところ公表されていないので、内容不明であるが、米紙の報道によれば、FOBからCIFへの課税方式の移行は望ましくないこと、ASP及び関税法第四〇二a条は撤廃すべきこと等を勧告している趣である。
(ロ) 関税評価方式に係わる問題
米国の関税法及び関税表の規定によれば、ある種の商品の評価額の決定にあたっては、インボイス価格に関係なく、画一的な評価を行ない得るようになっている。
こうした米国関税評価制度との関係で、一九六六年四月から一九六七年三月までに問題となった案件は次のとおりである。
(i) 関税法第四〇二a条
第四〇二a条によれば、一九五六年関税簡素化法に基づいて財務長官が発表した品目に対しては、関税局は、輸出国の国内価格を評価基準とすることができることになっている。前記財務長官の発表した品目表は、化学品、機械類、電気製品、ガラス製品、紙、繊維品、鉱産品等広範囲にわたり約四〇〇品用(ブラッセル関税分類表四けた相当の分類による)に及んでおり、これらの品目中には、真空管のほか、ベアリング、テレビ、ラジオ付き電蓄、抵抗器、旋盤などのわが国にとって関心の深い品目が含まれている。
本条項に関連し、対米輸出商品で問題となっているものは、一九六一年より生じている真空管の関税評価に係わる関税裁判問題である(なお、本問題の詳細については、「わが外交の近況」第十号五2(4)(イ)参照)。
第四〇二a条による関税評価は、その運用いかんによっては、極めて強い輸入制限的効果を発揮することになるので、政府としては、非関税貿易障害として米政府に対し、機会あるごとに同制度の早期撤廃を要求している。
(ii) ASP
米国では、特定の輸入品については、輸入品と同種の米国産品の米国内での販売価格(ASP)を基準として、関税が課されることになっている。
このような方法で課税価格を決定される商品は、二種類に分かれている。
その一は、米国関税表中にその旨が特記されているもので、ベンゼノイド系化学製品がこれに該当する。
その二は、関税法第三三六条に基づくもので、同条によれば、外国産品と国内原価の均等化を図るため、大統領は、関税委員会の調査に基づき、関税率につき五〇%以内の増減を行なうこと、それでも目的が達せられないときは、ASPを基準として課税ができることになっている。米側は、これに基づきゴム履物、小貝缶詰、毛糸編み手袋の三品目に対し、ASPを基準として課税を行なっている。
ASPにもとづく関税評価方式は、米国の国内産業の保護に偏した不合理なもので、貿易自由化の理念に反し、きわめて強い輸入制限的効果を発揮するものであり、わが国は、米政府に対し、機会あるごとに同制度の早期撤廃を要求している。
ASP課税対象品目のうち従来のわが国関心品目はゴム履物であるが、ゴム履物のうち「総ゴム靴」については、一九六五年一〇月七日成立した米国関税表技術的修正法によりその適用が除外されたので、現在ゴム履物でASP課税が行なわれているのは「ゴム底布靴」である(ゴム履物をめぐる従来の問題は「わが外交の近況」第十号五2(4)(ロ)参照)。
なお、一九六五年一二月二二日にハーター米通商特別代表は、大統領の指令に基づき、関税委員会に対し、第一に現行ASP課税対象四品目につきASP課税方式を撤廃した場合、現行ASP課税に相当する保護を与えるためにはいかなる税率を課すべきか、第二にASP課税方式が果たしてきた国内産業保護の効果をどうみるかの二点につき速やかに調査、検討を行ない、結果を報告するよう要請した旨公表し、翌二三日、関税委員会は右調査を開始した。
同委員会は、一九六六年五月二日、予備調査の結果として、現行ASP対象四品目につきASP課税に相当する換算税率の中間暫定案を策定し、公表した。
更に、同委員会は、右暫定案につき公聴会を開催の上、七月二七日、ハーター・オフィスにASP換算率に関する最終報告書を提出、公表した。
更に同委員会はハーター・オフィスに対し不公表の報告も行なった模様であり、ハーター・オフィスは、これらを勘案、検討の上、大統領に報告し、決定を仰ぎ、KR交渉上のASP問題に対処した趣である。
米国司法省は、一九六六年八月一日、日本系商社六社に対し、壁タイルおよびモザイク・タイルの輸入に関するシャーマン法第一条、第二条、第八条の違反容疑により予備調査を開始した。
容疑の内容は、米国市場における価格操作および販路の割り当て等である。
司法省は、同日付で調査要求質問書を関係各社に発出したが、各社は、それぞれ弁護士を通じて回答制限の同年一〇月六日、関係統計資料を提出した。この予備調査は現在も継続中である。
連邦政府による米国内物資調達については、一九三三年の連邦バイ・アメリカン法により原則として米国品を購入すべきこととなっているが、米国外における調達については、一九六〇年のアイゼンハワー大統領指令に基づき、ドル防衛策の一環として国防省、AIDその他各省庁の規則により同様の定めがなされている。
一九六六年中には、連邦政府のバイ・アメリカン政策について特に大きな動きはなかったが、域外調達に関し、農務省が、かねてより事実上実施してきた五〇%価格差基準を明文化したほか、AIDがベトナムで使用される鉄鋼製品を調達する場合には、その構成品の九〇%以上が米国またはAIDの指定した韓国等自由圏の特定国の産品でなければならない旨の、対外援助歳出法追加修正(通称ベイ修正)が採択された。
他方、州その他の地方政府によるバイ・アメリカン問題については、カリフォルニア州バイ・アメリカン法をめぐる米国製鉄会社ベスレヘム社の提訴事件がある。本件について一九六六年一二月、ロス・アンゼルス郡加州高等裁判所は、国際入札を実施したロス市水道電気局、応・落札した日本商社等を相手とする「ベ」社の仮処分申請を却下したが、「ベ」社はこれを不服とし、現在係争中である。同州が日米貿易に占める重要な地位にかんがみ、本件訴訟の成り行きが注目される。
(1) 米国は、わが国鉄鋼の最大の輸出市場であり、一九六六年の対米鉄鋼輸出はわが国鉄鋼総輸出の四七・二%に達している。
一方、米国の鉄鋼輸入は、一九六五年以降急激に伸びており、米国内消費との対比では一九六六年は一〇・八%に達している。
また、わが国は米国市場における主要供給国の地位を占めており、逐年その輸入におけるシェアーは増加の傾向にあり、一九六六年には四四・九%となっている。
(2) 米国鉄鋼業界は、一九六六年においては国内市況の好況等のため、上院財政委員会におけるハートケ決議案の公聴会で証言したほかは、積極的に輸入制限の動きを示さず、比較的平穏に終始した。
しかし、一九六七年に入り、自動車の売れ行きが予想以上に悪化したこと等により、鉄鋼輸入防あつの動きを活発に示し始めている。
即ち、米国鉄鋼業界首脳は、政府に対し、通商政策の変更を要請するとともに、議会関係者に対しては、輸入増大の警告、鉄鋼保護立法の必要性を強調し、さらに、暫定的輸入関税の設定を提案している。
(イ) わが国は一九五七年以来、自主的に綿製品の対米輸出を規制している。
現行取決めは、一九六三年八月、「綿製品国際長期取決め」(同取決めは綿製品貿易の拡大及び輸入国における市場攪乱の防止を骨子としており、六七年九月末まで有効であるが、本年四月に三年間延長されることとなった)に基づき締結された期間三年の取決めに修正を加え、六七年末まで延長したものである。
(ロ) 日米綿製品問題は多年にわたり、日米通商関係における最も困難な問題の一つであったが、六五年五月及び六六年一月に取決め修正がなされた結果、わが国の対米綿製品輸出は安定した基礎におかれることとなった。
米国毛製品業界はかねてより綿製品国際取決めに倣い毛製品国際取決めを成立せしめることを望んでおり、米国政府も業界の意向を無視し得ず、六四年八月、英伊ヘミッションを派遣し更に六五年六月にはわが国へもミッションを派遣して毛製品国際会議の開催を提案してきたが、各国の反対に遇い、会議開催を実現し得なかった。
六五年後半以降、米国政府は各国政府ヘアプローチしておらず、一九六六年は毛製品問題は表面的には穏かであった。
ワシントン、オレゴン両州の中小製材業者を中心にして展開されてきた丸太材輸出禁止運動は、一九六五年にワシントン州議会に議員立法の形で提出された輸出制限法案が否決されたので、一九六六年には、ワシントン州憲法第二条第一項(a)の規定による州有林原木輸出禁止法案の形をとった。同州完全雇用委員会がそのスポンサーとなって署名運動を展開し、現地中小製材業者、合板業者等の協力のもとに一二月三〇日までには州憲法に規定されたところを上廻わる票を集め、一九六七年州議会に自動的にとりあげられるに至った。しかし、本輸出禁止法案も一九六七年三月七日夜の州上院本会議における投票の結果、過半数をとり得ず否決され、次回の総選挙における一般投票に付されることになった。なお、ハットフィールド連邦上院議員(オレゴン州選出、共和党前回州知事)は対日丸太材輸出問題を抜本的に解決するため、ジョンソン大統領に対し日米関係省間会議の開催を要請(一九六六年一〇月、一九六七年二月)した。
一九五八年以降、米国の国際収支は大幅な赤字を続け、いわゆるドルの危機を招いた。これに対し、アイゼンハウァー、ケネディ及びジョンソンの各政権は、各般にわたる国際収支改善対策、いわゆるドル防衛策をとってきたが、一九六〇年から一九六四年までの五年間の年平均赤字は二八億ドルに達している。このため、ジョンソン大統領は、一九六五年二月一〇日、一〇項目からなる国際収支特別教書を発表したが、その内容は、アイゼンハウァー政権以来とられてきた米政府の海外におけるドル支出の節減及びケネディ政権により提案され実施された利子平衡税等の従来の諸対策を拡大強化するとともに、あらたに米国民間資木の流出を削減するため、金融界及び産業界に対外投融資に関するガイド・ラインを示してその自主的抑制を要請するというものであった。
この特別教書における諸提案が実施に移された結果、一九六五年における米国の国際収支は著しい改善をみせ、同年における貿易収支の不振にもかかわらず、国際収支全体としての赤字は、前年の二八億ドルから一三億ドルへとほぼ半減した。
ジョンソン大統領は、引続き、六五年一二月六日に、一九六六年中に国際収支を均衡させることを目標とする新たなガイド・ラインを公表し、とくに米国企業による対外直接投資の抑制強化を要請したが、一九六六年の国際収支は、資本収支の大幅改善にもかかわらず、貿易収支の黒字幅の減少(約一〇億ドル)とヴィエトナム戦費の直接外貨コスト増加(六-七億ドルと見積られる)のため、一四億ドルの赤字となった。
ジョンソン大統領は、ヴィエトナム問題に対処するため相当な額の費用を支出して行く限り、早急に国際収支の均衡を達成するための努力が必要であり、そのためには引続き資本流出の抑制が必要であるとして、六六年一二月一三日、民間企業及び銀行の対外投融資に対する自主抑制措置を発表した。
更に、米国の資本流出を抑制する上で大きな効果を発揮した利子平衡税(六七年七月未で失効)について、ジョンソン大統領は六七年一月二六日大統領経済教書において次の提案を行なった。即ち(1)利子平衡税の有効期限を一九六九年七月三一日まで二年間延長する、(2)利子平衡税の実効税率を現行の一%から年率ゼロないし二%の間で弾力的に変動させる権限を大統領に与える、(3)思惑的投資を防止するため一月二六日に遡って、実効税率を年二%に引上げる、(4)輸出信用、直接投資、低開発国投融資は従来通り適用除外とし、対日加特例も継続する。
議会における本提案の審議は先ず下院歳入委員会で行なわれたが、同委員会は二月二七日以下の修正を加えて本法案を通過させた。(1)暫定税率を一・五%に引上げる。この引上げは一月二六日に遡及して実施し、本改正法案の成立後三〇日までの間適用する、(2)その後の税率は一%にもどるものとする、ただし、大統領は国際収支上の理由により税率引上げが必要である旨を認めた場合には、○・五%までの範囲内で税率を弾力的に変更する権限を有する。
なお一億ドルの利子平衡税免除枠を利用しての米国市場におけるわが国の政府債、政府保証債の一九六六年中の起債は、米国起債環境の悪化を反映して皆無であった。
一九六六年七月の第五回日米貿易経済合同委員会において、米国は、わが国の対内直接投資規制に関し、相互主義と経済的利益の見地から、わが国に対し規制の緩和をはかるよう要請した。これに対しわが方よりは、業種別に段階的に自由化を実施すべく検討しており、次の合同委員会までにはもっと明らかな方針を説明し得るであろう旨を述べた。
日米間定期航路における運賃格差問題(米国連邦海事委員会は、輸出運賃に比し輸入運賃が割高であると主張している)については、一九六六年一月OECD海運委員会における討議の結果、日米両国政府間の協議によって、日米合同作業グループを設置し、さらに検討を進めることとなった。
また、海運自由を標ぼうする欧州及び日本の海運一二カ国は、一九六六年六月オスロにおいて、米国のとっている海運規制政策問題等を中心に閣僚会議を開催した。その結果、これら一二カ国は、米国の海運規制政策が「事実上政治的に重要な問題」とみなされる段階に達したことを確認するとともに、法的対抗手段を用意することが有益であるとの結論に達した。
日米貿易経済合同委員会は、日米間の貿易経済関係を一層緊密化し、かつ、両国の経済閣僚が相互に直面する諸問題につき理解を深めることを目的として、一九六一年に設立され、第一回会合は六一年一一月に箱根で、第二回会合は六二年一二月にワシントンで、第三回会合は六四年一月に東京で、第四回会合は六五年七月にワシントンでそれぞれ開催された。
第五回会合は、六六年七月五、六、七日の三日間にわたり京都で開催され、会議には、日本側から、椎名外務大臣、福田大蔵大臣、坂田農林大臣、三木通商産業大臣、小平労働大臣、中村運輸大臣、藤山経済企画庁長官の各委員が出席し、米側からはラスク国務長官、ユードル内務長官、フリーマン農務長官、コナー商務長官、ワーツ労働長官、バー財務次官、オーカン大統領府経済諮問委員会委員の各委員が出席した。
第五回委員会の討議は、椎名外務大臣を議長として、次の議題について行なった。
(1) 日米経済情勢(財政・金融および国際収支事情を含む)
(イ) 米国経済情勢
(ロ) 日本経済情勢
(2) 日米貿易経済関係の推移
(イ) 日米貿易関係の拡大
(ロ) 日米経済関係の推移
(3) 国際貿易経済関係の推移
(イ) GATT・ケネディ・ラウンド交渉
(ロ) 低開発国貿易および国連貿易開発会議
(ハ) 東 西 貿 易
(4) 低開発諸国の経済開発における協力
(イ) 日米の経済協力政策と活動
(ロ) アジア開発のための経済協力
(5) そ の 他
以上の各議題につき活発な意見と自由討議が行なわれた結果、本書資料編掲載の日米共同コミュニケが採択された。
この会議において日米両国の貿易経済関係ならびに両国の直面する国際経済問題に関する見解について相互理解が深められたことは、今後の両国貿易経済関係の一層の緊密化に資するところ大であろう。
わが国の対カナダ貿易の規模は、わが国の対外貿易中、日米貿易、日豪貿易に次いで第三位に当っているが、貿易収支は、戦後わが国の恒常的な入超となっており、一九五七年から一九六六年に至るわが国の対カナダ支払超過は約一三億ドルに達している。ことに近年、わが国の高度経済成長に伴い、カナダからの工業用原料買付が増大し、しかも二国間貿易の拡大につれて、その金額的な赤字幅は拡大の一途をたどってきた。しかし六五年には、輸出が通関実績で対前年比二九パーセントの増加を示したのに対し、輸入はわが国内の不況を反映して対前年比六パーセントの減少となったため、入超額は対前年比七千万ドルの大幅な改善をみた。
一九六六年におけるわが国の対加貿易は、為替ベースで輸出が前年比一七・八パーセント増の二億六、五四七万ドル(通関ベースでは二億五、五八○万ドル)と順調な伸びを示し、他方輸入はわが国景気の立直りを反映して、前年比二七・一パーセント増の三億九、一九三万ドル(通関ベースでは四億五、一二三万ドル)を記録した。このため対加貿易収支は為替ベースで一億二、六四六万ドル、通関ベースで一億九、五四三万ドルの入超となり、入超幅は対前年比五、三〇〇万ドルの悪化となった。
商品別にみると、輸出では、従来繊維、合板、ラジオ、雑貨等の消費物資が主要商品であったが、近年は鉄鋼、電気関係機械、自動車等資本財の伸びが著しい。しかし、六六年は、電気関係機械は前年に引続き大きな伸び(対前年比五一パーセント)を示したが、鉄鋼、自動車等は伸び悩みを示している。また輸入では、小麦を中心とする穀物類と、鉄鉱石、銅鉱石、石炭、加里塩を中心とする工業用原材料品がその大宗であるが、六六年は屑鉄輸入の大幅減少(対前年比七七・八パーセント)を除いて、小麦輸入の二、一〇〇万ドルにのぼる増加を中心に軒並み増加している。なお、順調な伸びを示した輸出については、その総額のうち約十分の一を占める品目に対して、カナダ側の要請により、わが国で輸出自主規制を行なっており、これら規制対象品目については大幅な伸張は困難な状況にある。
カナダはその国土に比し極度に人口が過少であるため、わが国消費物資の市場としては自ら限度があるので、今後わが国として対加輸出の拡大をはかるためには、輸出商品の多様化、特に重化学工業製品等を中心とずる資本財の輸出に一層の努力を払う必要がある。この点ブリティッシュ・コロンビア州、平原三州、大西洋岸マリタイム諸州等において主として資源開発を目的とする日加間の企業提携、合弁事業及びこれに伴う資本財の輸出促進の機運が熟し、既に一部企業の進出がみられているのは注目に値する。
(1) 一九五四年日加通商協定が締結されて以来日加貿易は拡大を続けているが、カナダ国内産業の政府に対する輸入制限の働きかけを理由とするカナダ政府の要請により、わが国は輸出規制を行なっている。
一九六六年の貿易交渉は六六年九月に妥結したが、現在のわが国の対加自主規制品目は、繊維、金属洋食器、真空管、ポリエステルボタンの四品目である。
(2) カナダ国税省は、主要輸入国に関税調査官を派遣しているが、日本に対しても東京に調査官を常駐させ、国内価格や生産費について調査を行なっている。一九六六年における関税調査対象品目としては、繊維品、化学製品、自転車、鉄材等があげられる。
一九六一年六月、日加両国首相間(池田首相及びディフェンベーカー首相)で合意をみた「日加両国閣僚の相互理解増進」を目的とする日加閣僚委員会は、一九六三年一月に東京で初会合が行なわれ、第二回会合は六三年九月にオタワで、第三回会合は六四年九月に東京で、それぞれ開かれた。第四回会合は、一九六六年一〇月にオタワで開催され、国際情勢、日加貿易、漁業、移住問題等を討議し、一三項目にわたる共同コミュ二ケを採択して二日間にわたる討議を終った(共同コミュニケについては巻末資料参照)。出席者は日本側から椎名外務大臣、福田大蔵大臣、松野農林大臣、三木通商産業大臣、藤山経済企画庁長官及び板垣駐加大使、カナダ側からはマーティン外務大臣、ウィンタース通商大臣、シャープ大蔵大臣、ロビショー漁業大臣、ドルーリー工業大臣、マルシャン人的資源移民大臣、グリーン農業大臣及びモラン駐日大使であった。
なお、日加閣僚委員会は東京とオタワで交互に行なわれることになっている。