四 貿易経済に関する諸外国との関係および国際協力の進展
わが国の経済外交の動き
今や、わが国経済は世界有数の先進工業国としての規模をもち、貿易額も往復二百億ドルを誇るに至っているが、かかる発展段階に到達したわが国は、世界経済発展のために重大な責務を負っていることを忘れてはならない。過去一カ年におけるわが国の経済外交は、わが国のいっそうの経済発展を図るという目的に、かかる観点も加えて、ケネディ・ラウンド交渉、資本自由化、南北問題、対アジア・太平洋外交、東西貿易の拡大等多くの問題に積極的に取組んできた。
まず、わが国外交の新たな一つの方向としてアジア・太平洋構想が打ち出された。これは世界的な地域協力促進の流れの中で、アジアの経済発展促進のために太平洋先進諸国と協力して積極的に取組むことを主目的とし、それと同時に、わが国として将来太平洋先進諸国との連携を強化して行こうとする発想によるものである。
ケネディ・ラウンド交渉に関しては、自由無差別の原則にもとづいた世界貿易の拡大の中にわが国経済の繁栄を図ろうとしている日本としては、この交渉に積極的に参加し、わが国の実情を勘案しつつ応分の寄与を行ない、交渉をまとめるよう努力を払った。
ケネディ・ラウンド交渉と並んでわが国経済外交上大きな問題となったのは、資本自由化問題である。わが国は貿易面では戦後自由化を促進し、現在までに相当の進捗を示しているが、資本取引については、殆んどみるべき改善を行なわないまま今日に至っており、最近海外諸国からのわが国に対する資本自由化、特に対内直接投資の自由化を要請する声は、一段と高まってきている。わが国はOECD加盟に際し、直接投資の自由化については、「将来、経済に著しく有害な影響を与える惧れがある例外的な場合にのみ制限する」旨を了解事項として表明しており、加盟後三年を経過した今日、改めてわが国のこの問題に対する政策を検討すべき立場に置かれている。かかる状況のもとで、対内直接投資の自由化問題はわが国経済の今後の発展にとって、大きな問題であるという認識の下に、国内各方面で本問題に関し強い関心が寄せられてきたことは周知のとおりである。
こうした情勢にかんがみ、政府は外資審議会を改組して民間人を主体とする新たな外資審議会を一九六七年二月より発足させ、同審議会は、その後四カ月余りの間の検討の結果、対内直接投資自由化問題についての答申を作成した。政府は、六月六日の閣議において、本答申の内容を全面的に取り入れた政府決定を正式に行ない七月一日より実施することとなった。
アジアに位し、低開発国貿易依存度の高いわが国は、南北問題にも積極的に取り組んできた。
まず、多角的な場においては、国連貿易開発理事会、ガット(なかんずくCTD-貿易開発委員会-)、OECD等の場における南北問題の討議に積極的に参加し、また、ケネディ・ラウンド交渉においても熱帯産品等の低開発国関心品目の関税引下げ等を相互主義に基づかず約束した。特にアジアにおいては、東南アジア開発閣僚会議、東南アジア農業開発会議、ECAFE、アジア開発銀行等を通じ、アジア諸国との協力強化に努めてきた。ケネディ・ラウンド終了後の国際経済社会において議論の焦点になりつつある低開発国特恵問題について、低開発国の要求は高まる一方であり、従来消極的な態度をとってきた米国もケネディ・ラウンド交渉終了後この問題に積極的に取り組む姿勢を見せている以上、わが国としても態度を明確化する必要に迫られている。
他方、二国間関係を見ると、過去一カ年間に、訪パキスタン経済使節団、アラビア半島調査団、中米カリブ海調査チーム、東南アジア経済事情調査チームの四つのミッションが低開発諸国向けに派遣され、それぞれの地域との経済交流の強化が図られた。
しかしながら、わが国の低開発諸国との貿易関係をみると、わが国と片貿易関係にある国が依然として多数にのぼっており、片貿易を理由に、対日輸入制限措置をとる国が相変らずあとを絶たない。対低開発国片貿易問題は、わが国の外交上重要な二国間の懸案であるのみならず、南北問題という世界的な観点からも積極的に対処していかねばならない問題である。従来、片貿易の極度に悪化している国については、借款供与など経済協力を主体とする方法を講じたり、民間レベルのコンペ制(輸入価格差損補償制度)による割高産品の買付け増進を図ってきたが、一次産品輸入のいっそうの自由化等により一次産品の買付け増大の道を開くとともに長期的な見地に立って開発輸入を推進する必要がある。
共産圏諸国との貿易関係は順調に推移し、特に、ソ連との関係では一九六六年九月に派遣した第二次訪ソ使節団が成功をおさめ、シベリア開発での日ソ協力の話し合いが進められつつある。また、東欧との関係でも、ブルガリアとの間に、東欧諸国では初めての長期貿易協定が一九六七年三月締結されたのを初め、ポーランド、ルーマニア、ユーゴー等東欧諸国との経済関係強化の気運が高まりつつあり、貿易量はまださほど大きくはないが急速に拡大の途をたどっている。中共との貿易は、一九六五年に比べ伸び率はやや鈍化したが、かなり順調に増大し、中共はわが国にとり、米、豪、カナダに次ぐ第四位の貿易相手国となった。