三 わが国と各国との間の諸問題

公海の漁業などに関する諸問題

1 国際捕鯨問題

(1) 国際捕鯨委員会第一八回会合

国際捕鯨委員会第一八回会合は、一九六六年六月二七日より七月一日までロンドンで開催され、わが国からは藤田捕鯨委員以下の代表が出席した。主要な討議点は次のとおりである。

(イ) 南氷洋における捕獲総頭数

一九六六/六七年漁期の母船式ひげ鯨の総捕獲頭数を三五〇〇頭(白ながす鯨換算)とすることが決定された。

(ロ) 基 地 捕 鯨

基地捕鯨の規制問題については、捕獲頭数の過半数を占めるチリ、ペルーが捕鯨条約に加盟していないことから本委員会議長が右二国に然るべき連絡をとることとし、また条約加盟国の基地捕鯨操業国には、自主規制措置を勧告することとした。

(ハ) 国際監視員制度

この制度の必要性は、各国とも強調したが、母船式捕鯨と基地捕鯨との取扱い振りにつき意見が対立し結論をみるに至らず、作業部会を設置して今後具体策を検討することとなった。

(ニ) 南氷洋鯨資源調査船の派遣

南氷洋における鯨資源については、まだ十分な科学的データが得られていないところから、わが方より、南氷洋の鯨資源調査のため、日本は独自の調査船を派遣し外国科学者との共同調査を行なう用意ある旨を表明し、好感をもって受入れられた。ついで国際捕鯨委員会を通じて、英国及びニュー・ジーランドの学者が右調査に参加希望を表明してきたので、東京水産大学の海鷹丸及び第五千代田丸に乗船せしめ、わが国の科学者と共同調査を行ない多大の成果をおさめた。

なお、わが方代表の藤田捕鯨委員は、本委員会の副議長(任期三年)に選出された。

(2) 南氷洋捕鯨国別割当会議

一九六五年九月東京で開催され、一九六六/六七年漁期以降の割当率につき討議を行なったが、何らの合意をみなかった南氷洋捕鯨国別割当会議の継続会議が、前記国際捕鯨委員会第一八回会合と並行して、日、ソ、ノールウェー、英の四カ国参加のもとに開催され、わが方より藤田捕鯨委員以下の代表が出席した。

討議は一九六二年の南氷洋捕鯨国別割当取決めが前漁期(一九六五/六六年)で失効しているので、これの新取決めの作成につき行なわれたが、割当方法につき合意に至らないまま、同年八月下旬東京で再会合する含みで散会した。

前記ロンドンでの会議に引続き、一九六六年八月三一日より九月七日まで東京において南氷洋捕鯨国別割当継続会議が開催され、わが方より藤田捕鯨委員以下の代表が出席した。

会議はロンドン会議の討議を継続し行ない、来漁期(一九六六/六七年)の南氷洋捕鯨の国別割当は、これを頭数表現とし、総捕獲頭数三五〇〇(白ながす鯨換算、以下同じ)に対し、ノールウェー八○○頭、ソ連一〇六七頭、日本一六三三頭と割当てることで合意をみ、新国別割当取決めが作成され、有効期限一年(一九六六/六七年漁期)限りとし、日本、ソ連、ノールウェー三国により調印、即日発効した。

(3) 北太平洋捕鯨会議

一九六六年二月ホノルルで開催された北太平洋捕鯨会議(「わが外交の近況」第十号一〇五項参照)の継続会議が、前記国際捕鯨委員会第一八回会合と並行して、日、ソ、米、加の四カ国参加のもとに開催され、わが方より藤田捕鯨委員以下の代表が出席した。主要な討議点は次のとおりである。

(イ) 一九六六年のながす鯨の規制については、日、ソは母船式の捕獲頭数を一九六五年の一〇%減とし、基地捕鯨については、各国とも一九六四、六五年平均以下とする自主規制措置をとることを認める紳士協定が合意された。

(ロ) 一九六七年以降については、一九六九年に捕獲総頭数を持続的生産量以下とすることが合意されたのみで、一九六七年の漁期前に再会合することとなった。

前記ロンドン会議に引続き、一九六七年二月六日から一〇日までワシントンにおいて北太平洋捕鯨継続会議が開催され、わが方より山中捕鯨委員代理以下の代表が出席した。

討議は主として、一九六七年以降のながす鯨の捕獲規制につき行なわれたが、母船式捕鯨と基地捕鯨の取扱い振りにつき合意をみるに至らず、一九六七年六月ロンドンで開催される国際捕鯨委員会と並行して再会合し、規制方法につき更に討議を継続することとし散会した。

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2 ソ連との漁業交渉

(1) 日ソ漁業委員会第一〇回会議

北西太平洋日ソ漁業委員会第一〇回会議は一九六六年三月一日よりモスクワで開催され、四月一四日日ソ双方の委員による合意議事録の署名をもって審議を終了した。同年は、さけ・ますの不漁年であり、特に、ソ側が「ます」の資源が前例がないほど悪化している旨主張したこと、また、「かに」についても、その資源状態の評価について日ソ間の見解がくい違ったので、会議は前年に比べ難航したが、相互理解と互譲の精神により、双方にとりほぼ満足すべき線で交渉が妥結した。

今回の会議では、さけ・ますの年間漁獲量はA・B両区域につき、それぞれ四万八千トン計九万六千トン(但し、B区域については一〇パーセントの増減がありうる)と定められ、これは対応年である一九六四年の漁獲実績A.B両区域合計九万九千トン(漁獲量一一万トン)を若干下廻るものである。また、同年のさけ.ます漁業期間については、同年限りの措置として資源保護の見地から、(1)A区域における漁撈の終期を七月二五日とすること(従来は八月一〇日)及び(2)A区域の一定水域において七月一日より七月一四日までの間漁撈を行なわないことが決定された。

「かに」漁業については、日本側二四万箱、ソ連側四二万箱(何れも一箱半ポンド缶四八個入)の缶詰製造箱数が決定され、出漁船団数は日本側四、ソ連側七、漁区割は日本側四、ソ連側六といずれも前年同様に決定された。

(2) 日ソ間の漁業に関する学識経験者の交換

日ソ漁業委員会第一〇回会議における合意に従い、一九六六年においても漁業に関する学識経験者の交換が行なわれた。

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3 その他各国との公海漁業問題

(1) 韓国の北洋漁業進出計画

韓国水産界は、一九六六年夏頃より秋にかけて、北太平洋においてさけ・ます漁業等の試験操業を行なった。わが国としては、韓国が独自に北太平洋に進出して行くこと自体は「公海自由の原則」にもかんがみ、これをとやかくいえる立場にはないが、北太平洋には、永年にわたる関係国の努力と犠牲により築かれた漁業資源保存と最大の持続的生産確保のための漁業秩序があり、日米加漁業条約及び日ソ漁業条約の締約国としてわが国にはこの秩序の維持に努めるべき義務があることにかんがみ、政府は同年一二月農林省令をもって外国人による漁獲物の本邦陸揚げを禁止する措置をとった。

更に韓国の水産会社は、一九六七年一月富山県下でさけ・ます漁業等の指導員として日本人漁業経験者を相当数募集したが、わが国民がこれに応募参加することは日米加漁業条約の規定の違反を構成するおそれがあると認められたので、政府は同年二月日本船舶以外の船舶で日本国民がさけ・ます採捕に従事することを禁止する農林省令を公布した。

なお、韓国は少なくとも一九六七年は、北太平洋のさけ・ます漁業に進出しないと伝えられている。

(2) 日韓漁業共同委員会

日韓漁業協定の目的達成のため同協定により設置されている日韓漁業共同委員会は、その第一次定例年次会議を一九六六年二月より七月にかけ、前後三回にわたりソウルにおいて開催した。

これらの会議において共同委員会は、共同委員会議事規則を採択し、共同資源調査水域の範囲、漁業資源の科学的調査内容、研究者及び科学的資材の交換及び資料、統計の提出要請等の諸事項に関し審議し、いくつかの細目につき合意に達し、それにそって両政府に勧告を行なった。また、共同資源調査水域の範囲及び漁業資源の科学的調査内容についても討議が行なわれ、近く公文の交換が行なわれる予定である。

なお、第二次定例年次会議は、一九六七年六月東京において開催されることになっている。

(3) 漁業水域に近接する韓国海軍の射撃演習

韓国海軍は従来随時韓国沿岸の公海上で射撃演習を行なって来たが、一九六六年一〇月対馬海峡に近いわが方漁業水域において操業中の日本漁船に至近弾が落下するという事件が発生した。政府は、外交経路を通じ韓国側に対し、公海上の演習とはいいながら、漁業協定の精神に基づき、演習水城が漁業水域に重なることのないように注意を喚起し、また、危険を未然に防ぐよう万全の措置をとるよう要請した。

韓国政府は、この要請の趣旨に応じ、同年一一月に入って以降海軍の射撃演習を日本の漁業水域の外で行なうこととし、また毎回演習は事前に外交経路を通じ通報越している。

(4) 豪州の漁業水域設定問題

豪州政府は一九六七年三月一五日、距岸一二海里まで漁業水域を設定することを決定し、右決定をおりこんだ法案をできるだけ早い機会に議会に提出する意向である旨発表した。

わが国は豪州近海に古くから出漁しており、かかる水域の設定が実現される際は、少からぬ影響を蒙ることになるので、事態を注視し、外交経路を通じ、わが方の重大な関心を豪側に表明している。

(5) ニュー・ジーランドの漁業水域設定問題

(イ) ニュー・ジーランドは、一九六五年九月「領海及び漁業水域法」を制定し、一九六六年一月一日よりこれを実施した。この法律はニュー・ジーランド領海(幅三海里)の基線のとり方を規定するとともに、その外側に幅九海里の漁業水域を設定し、同水域より外国漁船を排除することを狙いとしている。ニュー・ジーランド近海には従来よりトロールおよび網底はえなわ漁業のためわが方漁船が多数出漁しており、わが方は重大な影響を蒙ることになること、および確立せる国際法によれば沿岸国が一方的に漁業水域を設定しても特別の合意なき限り第三国を拘束することにはならないとのわが方の基本的立場から一九六六年三月一五日駐ニュー・ジーランド大使を通じニュー・ジーランドと共同で国際司法裁判所に本件問題を提訴することを提案し、共同付託文案を提示した(「わが外交の近況」第十号参照)。

(ロ) これに対し、ニュー・ジーランドは一九六七年三月一五日、在京ニュー・ジーランド大使館を通じわが方に対し裁判所付託に代り、両国の友好関係にかんがみ両国間の取決め締結のため交渉に応ずる用意ある旨回答して来た。わが方としては、わが国の基本的立場を害しないでわが方の漁業の利益を正当な範囲において確保することを可能ならしめるような協定を締結するための交渉であるならば、これに応ずる用意があるとの立場により、ニュー・ジーランドの回答に応じ、五月中旬ごろより二国間の漁業取決め交渉をウエリントンにおいて開催する運びとする意向である。

(6) 米国の漁業水域設定問題

一九六六年一〇月五日、米国議会は漁業水域設定法案(前年六月バートレット上院議員等により提出されていた)を可決し、同月一四日、同法はジョンソン大統領の署名を得て発効した。

この法律は、距岸三海里の米国の領海の外側に隣接して、九海里の幅の漁業水域を設定し、米国政府はこの水域内においては、漁業に関し領海におけると同様の排他的権利を行使する、ただし、米国が認める外国の伝統的漁業は同水域内で継続されることを内容としており、この法律に違反する外国の国民および漁船は一九六四年五月に制定された「外国漁船の米領海等内操業禁止法」に基づき処罰されることとなった。

わが国は従来からこの法律の対象とされる水域において各種の漁業を相当の規模で行なっており、このようなものには、アリューシャン列島をはじめとするアラスカ州の沿岸における底引き、はえなわ漁業、捕鯨業、「たらばがに」漁業および「さけ」漁業ならびに、主として一二海里以遠の公海で行なわれているが、その操業が一部米国沿岸十二海里内にも及んでいる「まぐろ」漁業がある。

政府は、沿岸国が三海里の領海を越える漁業水域を一方的な国内措置により設定することは国際法上認められないとの基本的立場に立ち、同法案が米国議会で審議されている段階から繰り返し米国政府に対し、前記のわが国の立場を伝え、米政府の善処方を要望するとともに、わが国としてはわが国の漁業活動がかかる米国政府による一方的措置により、いかなる意味においても影響を受けるものではないと考える旨を明らかにした。これに対し米国政府は、米国としては最近の国際慣行に徴し、沿岸国が一方的に距岸一二海里までの漁業水域を設定することは国際法に反すとは考えないが、同水域内の伝統的な外国漁業については考慮を払う用意があることを明らかにした。

政府としては前記の基本的立場に立ちつつも、同法が米国政府により一方的に実施されると、日米両国間に漁業をめぐり紛争が発生するおそれがあるので、日米両国政府間の取決めにより、わが国の従来の漁業実績を確保しつつ、問題を事前に解決するため、一九六六年一二月末から翌六七年初頭にかけ米国政府との間に第一次の協議を、同年二月に第二次の協議をそれぞれワシントンで行ない、更に同年四月東京において第三次の協議を行なった。その結果、日米両国の法律的立場はそのままとして、問題の現実的解決をはかることで日米間に合意が成立し、同年五月九日その合意の内容を確認する書簡が東京で、三木外務大臣とジョンソン駐日米国大使との間で交換され、同時に上記書簡の交換に際し合意された議事録が両国代表者間で署名された。これらの書簡および議事録の主たる内容はつぎのとおりである。

(i) アメリカ合衆国の地先沖合におけるある種の漁業に関する交換公文

(イ) 日本国政府は、日本国の国民及び船舶が、プリビロフ諸島沖の「かに」漁業、アリューシャン列島沖の一部の底引き、はえなわ漁業、米国本土沖及びハワイ諸島主要七島沖等を除く「まぐろ」漁業、アラスカ沖の大部分の捕鯨業およびアラスカ湾の二カ所における転載作業を除いては、米国の距岸一二海里内において漁業(「さけ」漁業を除く)に従事しないよう措置を執る。

(ロ) この取決めは、沿岸国の漁業管轄権に関するいずれの政府の主張をも害するものではない。

(ハ) この取決めは、一九六八年一二月三一日まで効力を存続する(ただし一部の底引き、はえなわ漁業については一九六九年五月三一日まで)。両国政府は、一九六八年一二月三一日までに、将来の取決めについて決定するため会合する。

(ii) 「さけ」漁業に関する交換公文

西経一七五度以西のアリューシャン列島沖の距岸一二海里以内の水域における「さけ」漁業に関し、各政府は、日米加漁業条約の解釈及び実施に関する他方の政府の立場に妥当な考慮を払う。

(iii) 特定の水域における底引き及びはえなわ漁業に関する日本側書簡

日本国政府は、前記(1)及び(2)の取決めが存続する限り、漁具が高度に集中する期間における漁具の競合を防止するため、米国の距岸一二海里の外側において、それぞれ次のとおり、日本国の国民及び船舶が底引き及びはえなわ漁業に従事しないよう措置を執る。

(イ) コディアック島沖合の六区域およびユニマック島沖合の区域において、九月から翌年の二月までの間。

(ロ) アラスカ半島南側の沖合の二区域において、五月九日から同月二三日までの間(同区域における「おひょう」の漁期が変更されたときは、これに従って期間は変更される)。

(iv) 合意議事録

(イ) 交換公文に掲げる取決めにいうアメリカ合衆国には、太平洋信託統治地域は含まれないことが合意された。

(ロ) 日本側代表は、米国距岸一二海里内における日本漁業の漁獲努力は現在の水準をこえないであろうと述べた。

(ハ) 漁具紛争が起こったときは、当事者間ですみやかに協議を行なうことが適当と認められた。

(二) 両国政府は、両国漁業の集中区域に関し、漁具破損防止のための措置を執ることが合意された。

(ホ) 「まぐろ」漁業のはえなわの一部が偶然一二海里内に入った場合は、取決めの違反とはみなされない。

(ヘ) 日本側代表は、日本の「まぐろ」漁業者は、「かじき」類の群を特に追い求めることはしないであろうと述べた。

(ト) 米国側代表は、オレゴン州及びワシントン州沖の日本漁業の資源保存に及ぼす影響と漁具競合の可能性に対して懸念を表明し、日本側代表は、日本国政府は、資源保存及び漁具競合の問題に関し、米国政府の協議の要請に応ずるであろうと述べた。

(チ) 転載区域については、必要ならば、追加的区域を設定すべきことが合意された。

(リ) 日本側代表は、一二海里内の日本の「さけ」漁業は、ブリストル系「さけ」の来遊状態に妥当な考慮を払う旨を述べ、この問題に関して両国政府は必要に応じ協議すべきことが合意された。

(7) 「たらばがに」漁業に関する取決めの更新

一九六四年一一月日米両国間に締結された東部べ-リング海の「たらばがに」漁業に関する取決めは、一九六五年および一九六六年のわが国の「たらばがに」漁獲量を半ポンド缶詰四十八個入りの箱数に換算して年間一八万五千箱としていたが、同取決めは二年間の暫定取決めであり、その後の取決めについては両国政府が一九六六年末までに会合して決定することが規定されていた(同取決めの詳細については「わが外交の近況」第九号七七-七九頁参照)。

一九六六年一一月ヴァンクーヴァーで開催された北太平洋漁業国際委員会第一三回年次会議において、同会議に先立って開かれた生物学調査小委員会の「たらばがに」に関する報告書が採択された。この報告書は日米両国の科学者の検討の結果として、東部べ-リング海において商業的に捕獲されるおすの「たらばがに」の平均甲長は近年次第に小型化した事実について指摘したが、それが資源の減少を示すものかどうかは必らずしも明らかでないのでさらに調査研究を強化すべきであるとした。

日米両国科学者によるこの資源評価の結果等に基づき、同年一一月一四日から一週間にわたりワシントンで行なわれた日米間協議において、米側は資源の回復がどの位みられるかを知る意味から日本の漁獲量を前回の取決めのそれより約一二%削減し、一九六七年および一九六八年につきそれぞれ年間一六万三千箱とすることを提案し、わが国も甲長の小さくなったことは一つの警戒信号であるので予防的措置としてこの米提案を受諾した。かくて前回取決めの漁獲量を上述のごとく修正する書簡が一一月二九日ワシントンにおいて武内駐米大使とラスク国務長官との間で交換された。また新取決めは、将来の取決めにつき両国政府は一九六八年末までに会合することを規定している。

(8) 中南米諸国の領海及び漁業水域問題

エクアドルは、チリ、ペルー及びエクアドルの三国が一九五二年八月一八日に調印した海洋資源保存のためのいわゆる「サンチァゴ宣言」等を理由として、一九六六年一一月一〇日付法令をもって「エクアドルの海岸線の最突出点及び最低潮点より測って二〇〇海里の海域及び同点を通って引かれる一線内に含まれる湾、入江、海峡、水道、またコロン群島(ガラパゴス群島)の最外郭をなす島々の最突出点より二〇〇海里の中の海域は領海であり、国家主権が及ぶ」とした。

ブラジルは、一九六六年一一月一八日付法令をもって、領海を六海里としたうえ漁業水域をその外側六海里に一方的に設定し、更に同日付の別の法令をもって、「領土、領海及び大陸棚を含む同国の管轄権が及ぶ水域の上空」を領空とし、完全且つ排他的に主権を行使することとした(なお、後口の改正により、「大陸棚を含む」の表現は削除された)。

アルゼンティンは、一九六七年一月四日付法律をもって、領海を二〇〇海里(従前は領海三海里、漁業水域七海里)まで拡張すると同時に、アルゼンティン領土に接続する大陸棚にも主権が及ぶこととし、これに伴い上記海域内で操業する外国漁船は、同国海軍当局の許可を取付けるべきことを定めた。

メキシコは、一九六七年一月二〇日付法律をもって、九海里とする領海の外側に更に三海里の漁業水域を一方的に設定した。

パナマは、一九六七年二月一四日付法律をもって、領海(従前一二海里)を二〇〇海里に拡張した。

更にコロンビアは、領海を二〇〇海里まで拡張する法案を目下国会で審議中である。

このように、最近多くの中南米諸国は次々に領海を拡張したり又は漁業水域を一方的に設定しており、特に国際漁業上の問題を惹起しているが、わが国としては、現行国際法上確立した規則によれば、三海里を超える領海の主張は認められず、また、関係国の合意なしに沿岸国が一方的に漁業水域を設定することは認められないとの立場から、上記諸国の諸措置を認めることはできない旨及び関係水城において、わが国の国民及び船舶が行なってきた漁業はいかなる影響をも受けるものではなく、これら諸措置の適用の結果として生じうる一切の結果に関して日本国政府の立場を留保する旨をその都度当該国に対して申入れてきた。

(9) 大西洋のまぐろ類の保存のための国際条約の締結

一九六三年一〇月、ローマで、大西洋のまぐろ類の資源の合理的利用に関するFAO第一回作業部会が開かれ、「まぐろ資源枯渇防止のため早急に国際的調査機関を設置すべきである」との米国提案が出されたが、日本、フランス及びスペインが反対し、結論がでなかった。しかし、その後、関係国の多くが米国案に同調するに及んで、大西洋のまぐろ類の保存のための国際条約草案の審議を目的とするFAO第二回作業部会が一九六五年七月ローマで開かれ、わが国もこれに参加した。

その結果、「大西洋まぐろ類保存国際委員会」の設立を骨子とする条約草案が作成され、同年一一月のFAO総会で採択された。更に、同条約草案は一九六六年五月、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開かれた全権代表会議で「大西洋のまぐろ類の保存のための国際条約」として最終的に採択された。

同条約は、七カ国の政府が批准書、承認書又は加入書を寄託した時に効力を生じる(一九六七年四月末現在署名ずみの国は、米国、ブラジル、スペイン、韓国及び日本の五カ国であるが、批准した国は、米国のみで、わが国は、現在、国会の承認を求めている)。同条約に基づき設立される「大西洋まぐろ類保存国際委員会」に賦与される調査、研究及び勧告権により、わが国のまぐろ漁業がなんらかの影響を蒙ることも予想されるが、わが国は、世界最大のまぐろ漁業国として、まぐろ漁業における国際協調に貢献することは、長期的にみた場合、わが国益に合致するとの考えのもとに、同条約の成立のために積極的な態度をとってきた。

(10) モーリタニアの領海拡張等の措置に対する抗議申入れ

モーリタニアは、一九六七年一月二一日付法律によって、従来の「海運および海洋漁業法」の一部を改正し、一方的にブラン岬とティミリス岬を結ぶ領海基線を設定するとともに、同国の領海は右基線及びこれより南部の沿岸については低潮線から測定して一二海里に及ぶと規定し、従来の接続水域の概念を排除して領海内でのトロール漁業を全面的に禁止する措置をとった。

こうしたモーリタニアの措置によって、従来西アフリカ海域に進出しているわが国の漁業が今後相当な打撃を受けることも予想されるので、政府は、一九六七年四月、領海三海里の立場から、かかる領海拡張および一方的領海基線の設定は認めることが出来ず、従ってその結果として生じ得る一切の結果に関してわが方の立場を留保する旨の抗議を、在セネガル大使館を通じて行なった。

(11) ナイジェリアの領海幅員拡張

一九六七年一月三日付ナイジェリア情報省プレスリリースによると、ナイジェリア連邦政府は、ナイジェリアの領海幅員の拡張を決定した旨報じられているところ、同政府は三月一六日付布告“The Territorial Waters Decree1967(Decree No.5)"をもって、従来の領海三海里を一二海里に拡張した旨発表した。

これに対し、在ナイジェリア大使館は、三月六日付ナイジェリア外務省あて口上書をもって、日本政府は領海三海里の立場から、右拡張を認めることが出来ず、従って、その結果として生じ得る一切の結果に関して日本政府の立場を留保する旨申し入れた。

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