安全保障理事会
わが国は、一九六五年の国連第二〇回総会において、一九六六年一月一日より一九六七年一二月三一日までの二年の任期で安全保障理事会の非常任理事国として選出され(「わが外交の近況」第十号六〇頁参照)、同理事会が国際の平和と安全の維持について有する責任の一端を負っている。
わが国は、国際連合日本政府代表部松井大使を代表に、安倍大使を代表代理にそれぞれ任命し、同理事会の審議に積極的に貢献している。
一九六六年の理事国は、中華民国、フランス、英国、米国、ソ連の五常任理事国のほかに、非常任理事国として、日本、ジョルダン(アジア)、マリ、ナィジェリア、ウガンダ(アフリカ)、ブルガリア(東欧)、アルゼンティン、ウルグァイ(ラ米)、オランダ、ニュー・ジーランド(西欧その他)の一〇カ国であった。
安全保障理事会が一九六六年中に審議した問題は、ヴィエトナム問題、サイプラス問題、南ローデシア問題、加盟問題、パレスチナ問題(シリア・イスラエル紛争およびイスラエル・ジョルダン紛争)、南アラビア連邦問題、コンゴー(キンシャサ)・ポルトガル紛争、国際司法裁判所裁判官の選挙、事務総長の任命(非公開)、報告書の審議(非公開)、等であり、この間、わが松井代表は二月の月番議長として、ベトナム問題の審議を司会した。なお、一九六六年一一月一四日・シリア・イスラエル紛争に関する米、英共同決議案にソ連が拒否権を行使したこと(右のソ連の拒否権は、一九六四年一二月二一日、同じくシリア・イスラエル紛争に関する米、英共同決議案に対する同国の拒否権行使以来はじめて行使されたものである。)、および、南ローデシア問題に関して理事会が一九六六年一二月一六日、国連創設以来はじめて、憲章第七章に基づく強制的経済制裁決議を採択したこと等が注目される。主要議題の審議概要次のとおり。
(1) ゴールドバーグ米国国連常駐代表は、一九六六年一月三一日付理事会議長あて書簡をもって、米国は、前提条件なしの交渉および一九五四年のジュネーヴ協定の基礎に立つヴィエトナム紛争の平和的解決を国連の内外において忍耐強く探求し続け、三七日間にわたり北爆を停止して北越側との交渉に応ずる意向を示したにもかかわらず、北越側は右北爆停止は詐欺にすぎないと繰返して、北越側の求める解決方法を交渉の前提条件として認めるよう主張しているため、米国としては理事会の開催を正式に求めざるを得ない旨述べるとともに、「ヴィエトナム問題の平和的かつ名誉ある解決のために、一九五四年および一九六二年のジュネーヴ協定の適用を求める会議を開催するため、関係国が前提条件なしに即時討議を行なうよう求め、かつ、この会議の最初の審議順位を効果的な監視の下で敵対行為を停止するための取決めとするよう勧告する」趣旨を含む決議案を提出した。
(2) 本件理事会は、二月一日午前、わが松井代表を議長として開会された。議題の採択について論議が紛糾したが、結局二日の理事会において、賛成九(日本、米、英、中華民国、アルゼンティン、オランダ、ニュー・ジーランド、ウルグァイ、ジョルダン)、反対二(ブルガリア、ソ連)、棄権四(フランス、マリ、ナイジェリア、ウガンダ)をもって議題を採択した。しかしながら、松井議長の提案により、今後の議事の効果的かつ妥当な方法を検討する目的をもって非公式協議を行なうため、追って決定するまで暫時会議を延期することを異議なく決定して散会した。
(3) 松井議長は、二月四日から開始された非公式協議を行なうに際し、紛争の平和的解決のための交渉の糸口をつかむことを基本的な自的とし、そのためには、米、ソの激突を避けつつ慎重に各理事国の態度を打診し、できる限り理事国間の合意点の発見に努めた。右非公式協議においては、会議を再開して、議長より非公式協議の結果として、各理事国の態度の一致点(コンセンサス)を述べる方法等種々論議されたが、ソ連およびブルガリア(何れも非公式協議には正式に参加しなかった)は、本問題を理事会で審議することに反対し、理事会が本問題について何らかの決定を行なわんとするときは断固反対するとの従来の態度を固執し、理事会を再開すれば、米、ソの激突は避け得ないことが明らかとなった。
よって、松井議長は、理事会再開を断念し、非公式協議の結果を議長書簡の形式で取りまとめ、二月二六日、各理事国代表に送付した。本書簡においては、多数の理事国間の共通の感触として、「(イ)ヴィエトナムにおける戦闘の継続に関し、一般的に重大な関心とますます増大する憂慮の念があり、戦闘の早期停止とヴィエトナム問題の平和的解決に対する強い希望が存在すること、(ロ)ジュネーヴ協定の実施をはかるため、適当な場所において、交渉によってヴィエトナム紛争の終結をはかるべしとの気持もあるとみられること」の二点を指摘した。
(1) 一九六五年一一月一一日の南ローデシアのスミス政権の行なった一方的独立宣言に対し、安全保障理事会は同月一二日、一方的独立宣言を非難し、すべての国に南ローデシアの不法な少数派政権を承認しないよう要請する決議二一六を、次いで同月二〇日、すべての国に対して非合法政権と外交その他の関係を維持しないよう、また、武器等の供給の停止、石油および石油製品の禁輸を含む南ローデシアとのあらゆる経済関係の断絶のため、全力を尽すよう要請する決議二一七を採択した(「わが外交の近況」第十号七九頁参照)。
(2) 各国は、アフリカ諸国および英国の強い要請もあり、これらの決議に従って南ローデシアに対する経済措置をはじめ各種の措置をとったが、南アおよびポルトガルの二国のみは非協力的態度を示し、とくに石油の禁輸について両国を通ずる南ローデシアヘの石油の流入が、対南ローデシア経済制裁の抜け穴として各国の非難と注目を集めていた。このような状況のうちにあって、一九六六年四月初旬、南ローデシアヘの石油の主要供給地であるベイラ港(アフリカ東岸、ポルトガル領モザンビク)に、英国の警告を無視してギリシャの石油タンカーが入港する事態が生じた。理事会は四月九日、英国の要請にもとづいて本問題を審議し、同日、英国提出の、「この結果生ずる事態が平和に対する脅威であることを決定し、英国に対し、必要に応じ、実力を行使してでもローデシア向の石油を積載する船舶のベイラ入港を阻止するよう要請する」趣旨を含む決議案を、賛成一〇(わが国を含む)、反対○、棄権五(ソ連、ブルガリア、マリ、フランス、ウルグァイ)で採択した(決議二二一)。
なお、マリ、ナイジェリアおよびウガンダのアフリカ三カ国は、右英国決議案に対し、「(イ)タンカーのベイラ入港に限定せず、南ローデシアにおける一般的事態が、平和と安全に対する脅威なりとし、(ロ)南ア政府に対し、対南ローデシア石油禁輸に必要なあらゆる措置をとるよう要請し、(ハ)英国政府に対し、実力を行使して、石油のみならず、他の商品の南ローデシア向輸送をも阻止するよう要請し、(ニ)すべての国に対し、憲章第四一条、第四二条に基づき、南ローデシアとの経済関係および運輸通信手段を断絶するよう要請し、(ホ)英国政府に対し、武力を行使してでも、少数派政権を屈服させるよう要請する」共同修正案を提出したが、本案は英国案に先立ち分割投票に付された結果、いずれも否決(わが方はいずれも棄権した)された。
(3) しかしながら、右の石油禁輸措置のみをもって満足しないアフリカ諸国は、植民地二四カ国委員会が四月二一日に、英国の武力行使による少数派政権の打倒を要請するとともに、理事会に対し、憲章第七章に基づく措置について速やかに検討するよう勧告した決議を採択するや、本問題を審議するための理事会の開催について協議を行なった結果、五月一一日、三一カ国名をもって理事会の審議を要請し、次いで翌一二日、マリ、ナイジェリア、ウガンダのアフリカ三カ国は、「(イ)南ローデシアにおける事態が平和と安全に対する脅威であることを決定し、(ロ)すべての国、とくに南アとポルトガルに対し、憲章第四一条に従い、南ローデシアとの経済関係および運輸通信手段を断絶するための措置をとるよう要請し、(ハ)英国に対し、憲章第七章に基づく武力行使により南口ーデシアヘの石油および石油製品の輸入を阻止するよう要請し、(ニ)英国に対し、少数派政権打倒のために実力を行使するよう要請する」趣旨を含む決議案を提出した。
理事会は、五月二七日に本問題の審議を開始したが、アフリカ、ソ連圏諸国等の過激な態度に対し、英国をはじめ、米国、日本、オランダ、ニュー・ジーランド等は、現に進行中の英国とローデシアとの話し合いの結果をみた上で、理事会として態度を決定すべきであるとの立場をとったために、解決策の採択が困難となり、非常任理事国の事態収拾のための非公式協議も行なわれたが、まとまらないまま、結局五月二日、アフリカ三カ国決議案を表決の結果、賛成六(ブルガリア、ジョルダン、マリ、ナイジェリア、ウガンダ、ソ連)、反対一(ニュー・ジーランド)、棄権八(アルゼンティン、中華民国、仏、日本、オランダ、英国、米国、ウルグァイ)でこれを否決した。
(4) その後も英国政府は、非合法スミス政権を終熄せしめるため、同政権と交渉を進めていたが、南ローデシア政府は一九六六年一ニ月五日、本問題解決のための英国側の作業文書の受諾を拒否した。このため、英国は同日、南ローデシアに対する追加的措置を提案するため、理事会の緊急開催を要請した。
理事会は一二月八日、本問題の審議を開始した。英国は同日、「憲章第七章の規定に従い、すべての国に対し、南ローデシアを原産地とするアスベスト、鉄鉱石、クローム、銑鉄、砂糖、煙草、銅、肉類および食肉加工品、原皮および皮革の輸入、取引、輸送等を阻止し、かつ、武器、弾薬等の南ローデシア向輸出禁止を決定すること」を趣旨とする決議案(英国は一ニ月一六日、航空機および自動車の禁輸を含む改訂を行なった)を提出したが、アフリカ諸国はこれでは生ぬるいとして、マリ、ナイジェリアおよびウガンダの三カ国が、一二月一三日、「英国および南ア、ポルトガルの態度を非難し、石油および石油製品の南ローデシア向禁輸を追加し、かつ、すべての国に対し、南ローデシアのスミス政権に財政的またはその他の経済援助を行なわないよう要請する」趣旨等を含む六項目にわたる修正案を提出し、本案はアフリカ諸国の総意であり、英国案に欠けている点をうめる最少限のものであることを表明した(本修正案はその後改訂された)。
一二月一六日、理事会は決議の表決に入り、まずアフリカ修正案の各項を分割投票に付してその一部を採択し、これによって修正された英国決議案全体を、賛成一一、反対○、棄権四(仏、マリ、ソ連、ブルガリア)で採択して本問題の審議を終了した。右決議は、南ローデシアの事態が国際の平和と安全に対する脅威であるとした上、国連創立以来はじめて、憲章第七章の下の強制的経済制裁措置として、既契約、既発給ライセンスによるものを含め、全加盟国が、(イ)アスベスト、鉄鉱石、クローム、銑鉄、砂糖、煙草、銅、肉類および食肉加工品、原皮および皮革の南ローデシアからの輸入、(ロ)石油および石油製品の南ローデシアヘの供給、(ハ)武器、弾薬およびその製造設備ならびに軍用以外の航空機、自動車およびその製造、組立、維持のための設備、資材の南ローデシアヘの輸出をそれぞれ停止すべきこと、ならびに、右の停止に関連する商活動、輸送、送金等を停止すべき旨を規定するものである。
(5) わが国は、従来、南ローデシア問題に関する理事会の決議を尊重して、南ローデシアからの輸入停止等につき最大の努力を払ってきたが、決議二三二の有する法的性格にかんがみ、一九六六年一二月一六日の閣議において、右決議の履行のために必要な措置をとるとの閣議了解を行ない、今回の決議二三二の実施のために、一九六六年一二月二八日付の官報に右決議全文を掲載したほか、次のごとき措置を追加した。
(イ) 外務省は都道府県知事あて通達をもって、本決議により禁止された活動を目的とする邦人の南ローデシアヘの渡航を停止するために必要な措置をとった。
(ロ) 運輸省は、日本船主協会に対し、本決議により禁止された物資の輸送の停止を通報し、右は実施されている。
(ハ) 一九六六年一ニ月二六日、南ローデシア向自動車およびその部分品等の輸出を停止するため、輸出貿易管理令の改正が行なわれ、即日実施された。
(1) シリア・イスラエル紛争
(i) 理事会は、一九六六年七月二五日、イスラエル空軍によるシリア領内のジョルダン河転流工事現場爆撃事件を中心とするシリア・イスラエル紛争について審議を開始した。理事会における討論において、アラブ諸国は、イスラエルの侵略行為を激しく非難して、理事会がかかる行為に対して断固たる措置をとるべき旨主張するとともに、イスラエルの混合休戦委員会への非協力を非難し、また、イスラエルの非難するアラブ側の破壊活動については、パレスチナ・アラブ人の失地回復の行為に対してアラブ諸国としては責任を負えない旨を強調した。
これに対し、イスラエルは、アラブ諸国はイスラエルとの全面戦争を意図して破壊活動を支援しているとして非難するとともに、イスラエルは混合休戦委員会に協力する意向があることを示した。ソ連圏は、イスラエルの報復行為を非難してこれを強く弾劾する一方、西欧帝国主義者がイスラエルを援助していると述べ、とくにソ連は、ベトナム問題をとり上げたため、米国は答弁権を行使してこれに反駁した。アフリカ諸国は概ねアラブおよびソ連圏の態度に同調したが、西欧およびラ米諸国は報復措置を非難する一方、シリア側の破壊活動を遺憾とし、当事者双方が混合休戦委員会を活用するよう強調した。ジョルダンおよびマリは、「イスラエルによる攻撃と報復措置を非難し、双方に対し国連パレスチナ休戦監視機構(UNTSO)参謀長に協力し、かつ、混合休戦委員会の再開とその活用を要請する」趣旨の決議案を提出したが、八月三日表決の結果、賛成六(ジョルダン、マリ、ブルガリア、ソ連、ナイジェリア、ウガンダ)、反対○、棄権九(わが国を含む)で否決された。
(ii) 理事会は一九六六年一〇月一四日、イスラエルの提訴にかかわるシリアによるエルサレムの住宅地帯およびガリレイ湖南方地域における爆発事件について審議を開始した。一〇月二八日、米、英両国は、「前文においてシリアにテロ組織が存在することを確認し、主文において、今回の事件を非難し、シリアに対しテロリスト行為を取り締るよう要請し、双方に対し混合休戦委員会を含む現存の国連関係機関に十分協力方要請し、事務総長に対し、関係国連諸機関の活動を効果的ならしめるための措置をとるよう要請する」趣旨の決議案を提出した。
しかしながら、本案に対するアラブおよび共産圏諸国等の強い反対にかんがみ、理事会はマリの提案にもとづき、コンセンサス方式をとることとし、日本、マリ、ナイジェリアおよびウガンダのAA四カ国をもって構成する起草委員会が、「シリアに対し、休戦協定違反を構成する事件を防止するための方策を強化するよう勧誘し、イスラエルに対し、混合休戦委員会に協力するよう勧誘し、双方に対し、国連休戦監視機関要員に便宜を供与するよう要請する」等を主旨とするコンセンサス案を作成したが、アラブおよび共産圏諸国の反対のために本案の成立が困難と見通されるに至ったので、アルゼンティン、日本、ニュー・ジーランド、オランダ、ナイジェリアおよびウガンダの六カ国は、右コンセンサス案の文言を多少改訂して決議案の形に改めて提出した。しかしながら、本案は一一月四日の理事会において表決の結果、賛成一〇、反対四(ブルガリア、ジョルダン、マリ、ソ連)、棄権一(中華民国)で、ソ連の拒否権行使のために採択されるに至らないまま、理事会は本問題の審議を終了した。
(2) イスラエル・ジョルダン紛争
理事会は一九六六年一一月一六日、ジョルダンの提訴にかかわるイスラエル軍によるジョルダン内の警察監視所および村落の家屋破壊事件について審議を開始した。
西欧側は当初イスラエルの攻撃を弾劾すると同時に、イスラエルの国内の頻発するアラブ側のテロ行為にかんがみ、イスラエルのみを責めることなく、ジョルダンに対しても、イスラエル領内への不法侵入の防止を要請する決議案の作成を考慮した。
これに対し、ウガンダ、ナイジェリア、マリのアフリカ三カ国は、イスラエル側のジョルダン攻撃を重視し、かかる攻撃を憲章および休戦協定違反として弾劾すると同時に、かかる行為が繰返される場合には、理事会としては憲章第七章の適用を含む断固たる措置をとらざるを得なくなるであろうとの趣旨の決議案を提出しようとした。
西欧側は右「憲章第七章の適用云々」の個所にとくに難色を示したが、理事国間で種々協議を行なった結果、マリおよびナイジェリアは、アフリカ三カ国が考えた案を基礎とし、これに西欧側の緩和案を取り入れた、「(イ)イスラエルの行動による人命の喪失および財産の損害を遺憾とし、(ロ)イスラエルの行動を国連憲章および休戦協定の違反として非難し、(ハ)軍事的報復行動は許容されず、もしこれが繰返されるならば、理事会は憲章に規定されている、より効果的な措置を考慮せざるを得ない旨をイスラエルに対して強調する」趣旨の決議案を提出した。右決議案は一一月二五日の理事会において表決に付された結果、賛成一四、反対○、棄権一(ニュー・ジーランド)で採択された。
(3) わが国の立場
わが国は、アラブ・イスラエルの問題については中立の立場をとり、一方の当事者に組しないとの従来よりの基本方針をもってパレスチナ問題の審議に臨み、理事会における発言においても、両当事国が最大限の自制をもって、事態の悪化を招くごとき行動を慎しむよう要望するとともに、休戦協定の遵守と、現地所在の国連機関への協力を強調した。従って、かかる趣旨を盛り込んだ決議案には賛成したが、シリア・イスラエル紛争に関するジョルダンおよびマリ提出の決議案については、わが方として同調し得る点はあったけれども、決議案全体として、両当事者のために長期にわたる紛争の真の解決に資するような建設的、積極的要素に欠けているので反対した。