二 国際連合における活動とその他の国際協力

国際連合第二一回総会

1 概  観

国連第二一回総会は、一九六六年九月二〇日開会し、議長にパズワック・アフガニスタン代表を選出した後、一二月二〇日閉会するまで三カ月間審議を行なって、九八の議題を処理した。

今次総会は、南西アフリカ問題が冒頭の一般討論演説と並行審議される等、第二〇回総会にもまして「アフリカ総会」の観が強かった。

また、ウ・タン事務総長の任期は一一月三日で終了することになっていたところ、同事務総長は加盟国一致の要請により再任されて一九七一年一二月末までの期間事務総長に在任することになった。

なお、今次総会においては、インドネシアが一年半ぶりに国連に復帰し、ガイアナ、レソト、ボツワナ、バルバドスが加盟して、国連加盟国は一二二カ国となった。

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2 わが国代表団の構成と椎名外務大臣の一般討論演説

国連第二一回総会に対するわが国代表団の主要構成員は、次のとおりであった。

政府代表  椎名悦三郎  外務大臣

〃     松 井 明  国連代表部大使

政府代表  鶴岡千仭   駐スイス大使

〃     高 橋 覚  特命全権大使

〃     安 倍 勲  国連代表部大使

〃     山中俊夫   駐サウディ・アラビア大使

顧  問  服部五郎   外務省国連局長

〃     滝川正久   外務省国連局参事官

〃     島内敏郎   在ロス・アンゼルス総領事

代表代理  魚本藤吉郎  国連代表部参事官

〃     久 米 愛  日本婦人法律家協会会長

〃     山崎敏夫   国連代表部参事官

〃     吉田長雄   外務省国連局政治課長

〃     松永信雄   外務省条約局条約課長

椎名外務大臣は、九月二三日の総会本会議において一般討論演説を行ない、要旨次のごとく述べた。

(1) 全ての国家は、自国の利益のみならず国際社会の理想実現のためにも努力すべきであり、その理想を実現する方法として世界各国がその思想の如何を問わず一致しているのは、国連を強化育成することである。

今日の国連の現状は、不満足なものではあるが、国連は人類の将来に理想を与えている機関であり、国連の価値は大きく評価されるべきである。

(2) 今や世界は、平等の原則のもとに新しい秩序を築きつつあるが、国連は植民地独立の理想実現のため偉大な役割を果している。

国連は開発途上の地域の政治的安定のため、数々の平和維持活動を行なう等大いに努力してきた。

開発途上の諸国と先進国との貧富の差は国家間の不和、あつれきを惹起する要因となりかねないが、国連及びその専門機関は、この要因除去のため、あらゆる分野で大きな努力を傾けてきた。

(3) アジアに今や新しい気運が起りつつある。その新しい気運は、アジアに起りつつある協調と融和の気運と、紛争を話し合いによって解決しようとする傾向にみられる。

本年東京においては東南アジア経済開発閣僚会議、ソウルにおいてはアジア太平洋協議会閣僚会議が開催され、来る一一月にはアジア開発銀行創立総会が、一二月には東南アジア農業開発会議が、いずれも東京において開催される予定である。また、国際連合としてもエカフェをしてアジア地域の経済社会問題について引続き広範な活動を行なわせており、その努力の一つの成果としてアジア開銀が発足した次第である。

昨年一二月には日韓国交正常化が実現し、本年一月タシケントにおけるインド・パキスタン両国首脳会談の結果、カシミール紛争の戦火が静まり、更に八月、インドネシア・マレイシア間の紛争についても、両国のたゆまざる努力の結果、終止符が打たれた。

(4) アジアにはまだヴィエトナム問題という暗雲がある。

ヴィエトナムにおいて本来アジアの建設に向けられるべき貴いアジアの資源と人力が浪費されつつあることは遺憾である。

この紛争の話し合いによる早期解決を強く希望し、そのためには双方が戦闘行為を停止するとともに話し合いのテーブルにつくことが肝要であると考える。

わが国は、今後ともあらゆる機会をとらえて和平探究への努力を続けていくことを強く表明する。

(5) ヴィエトナム問題等とともに中国問題は単にアジアのみならず、世界の平和と安全に密接につながる重要問題である。

中国代表権問題についてのわが国の態度は、例年の総会においてわが代表団が繰り返し述べたところであるが、要約すれば、わが国の態度は、中国問題は現在の世界の平和と安全に関する重大な問題であり、中国代表権問題はその本質に関係する重要問題であるので、この問題の審議は関連するすべての要素の現実的かつ均衡のとれた評価の上に立って慎重に行なう必要があり、また、この問題は総会で決定される他の重要問題と同様、重要問題として、三分の二の多数をもって決定されるべき問題であるということである。

(6) 南部アフリカにおける人種差別は世界における重要な政治問題の一つとなっている。

南西アフリカ問題に関する国際司法裁判所判決は実質問題について触れなかったのであり、同地における南アの諸政策を正当化するものではない。南西アフリカの自治独立の実現、人種差別政策の停止のための法的、政治的方法について総会が検討すべきである。

また、わが国はローデシアの一方的独立宣言には一貫して反対する。安保理の決議に従って経済制裁等の措置を忠実に実行し、ローデシアからの輸入は実質上皆無に等しくなった。

南アの人種差別政策は全く遺憾であり、対南ア武器禁輸を今後も遂行していく方針である。

植民地問題、人種差別問題に関しては、基本的な正義がアジア・アフリカ諸国側にあることを信じて疑わない。ただそれを実現する手段を選ぶに当っては、人類の理想を荷っている国連としては、その行動が後世に与える重大な影響を考慮して責任ある行動をとるべきである。

(7) 明年の国連貿易開発会議に関し、先進国及び低開発国双方が、理解と信頼と善意にもとづき努力することが望まれる。

低開発国問題のうち農業問題特に人口増加と関連する食糧問題は深刻であり、わが国としては本年末東京での東南アジア農業開発会議の開催を予定し、まず東南アジア諸国の協力により本問題の解決に貢献したいと考える。

低開発国援助のため、わが国の国民所得の一パーセントをふりむけることを目標として、わが国の許す限りの援助活動の拡充を図る覚悟である。

(8) 国連の平和維持活動機能の効果的発揮及びその有効な財政的裏付けの問題解決のため一致協力が望まれる。

わが国は今総会において自発的拠出として近く二五〇万ドルの拠出を行なう所存である。

(9) 軍縮については、核兵器拡散防止条約に関し関係国がその困難を克服して条約がすみやかに締結されることを希望する。

また全面的核兵器実験禁止実現のため、地下核実験はすみやかに禁止されるべきである。

わが国は、スウェーデン政府提唱の核探知クラブの発展のためできる限り寄与したいと考える。

(10) 宇宙開発に関して、国連宇宙空間平和利用委員会が審議報告した宇宙天体条約案がすみやかに締結されることを希望する。

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3 南西アフリカ問題

(1) 経  緯

(一) 南西アフリカは、南アフリカ共和国の北西に位置し、人口約五〇万、総面積は日本の約二倍で、現在全く未開発ではあるが、天然資源に富み、その将来性が期待されている地域である。

(二) この南西アフリカは、第一次大戦以降国際連盟の下に南アフリカ連邦(現在の南アフリカ共和国)の委任統治地域となり、第二一回総会に至るまで南ア政府により統治されてきたのであるが、国際連盟消滅後、新たに発足した国際連合において、主としてアフリカ諸国は、同地域におけるアパルトヘイト政策を非難する一方、同地域は国際連合において設置された信託統治制度の下に置かれるべしとの主張を行ない、第一回総会以降、再三にわたって、南ア政府に対し、同地域を信託統治制度の下に置くべしとの勧告決議が採択された。

しかしながら、南ア政府は、同地域の施政は、国際連盟と南ア政府との委任統治条項にもとづくものであり、国際連盟が消滅した以上、国際連合は、同地域に関し干渉するなんらの権限もないとの立場を固持し、前記諸勧告決議を拒否し続けた。

(三) 一九六〇年に至り、旧国際連盟加盟国たるエティオピア、リベリアの両国は、国際司法裁判所に対し、同地域におけるアパルトヘイト政策を委任統治条項違反として、南アを相手どって提訴し、その判決は、本問題の趨勢に重大な影響を有するものとして、極めて注目されていたのであるが、同裁判所は、六年間の長きにわたる審議の結果、一九六六年七月、エティオピア、リベリア両国に、本件に関する提訴権なしとの判決を下し、実質問題はなんら言及されずに終った。

(四) この判決は、従来から、本間題に関し、国連がなんら実効的措置をとり得ないことに不満を持ちながらも、今回、国連側に有利な判決が下されることを予想し、その国際的司法機関の判定を武器に、本間題の解決を強力に推進せんとしていたアフリカ諸国を著しく激昂せしめた。

かくして、第二一回総会は、本問題の解決は政治的解決、すなわち南アとの対決しかないとするアフリカ諸国の激情と興奮のうちに開幕したのであり、これが、今次総会が「アフリカ総会」と呼ばれたゆえんでもあった。

(2) 審  議

(一) 本問題の審議は、総会本会議において、九月二三日より開始され一〇月二七日終了したのであるが、先ず九月二七日、アジア・アフリカ四九カ国(わが国を含まず)共同決議案が提出された。

その骨子は次の三点である。

(イ) 南西アフリカに関する南アの委任統治権を剥奪し、

(ロ) 国連のために、現地に赴いて同地域の施政を行ない、同地域の独立時期を総会に報告することを任務とする「国連施政機関」を設置し、

(ハ) 同機関の任務履行のため、安保理が実効的措置を取るよう要請する。

(二) このアジア・アフリカ共同決議案に対し、西欧、ラ米等の諸国は、国連が本問題に関し、なんらかの措置をとる必要を認めながらも、国連の直接統治機関の設置及びその実施のための安保理の対南ア措置の二点について、消極的態度を示した。

そこで、アジア・アフリカグループとラ米・西欧グループとの間で舞台裏の協議が重ねられた結果、妥協が成立し、一〇月二六日、ラ米二一カ国修正案として提出された。

同修正案骨子次の通り。

(イ) 南アの南西アフリカに対する委任統治権は終了したことを決定する。

(ロ) 南西アフリカは、今後、国連の直接の責任下に入るものとする。

(ハ) 一四カ国委員会を設置し、南西アフリカ施政のための実効的措置を一九六七年四月の特別総会に報告せしめることとする。

(三) 一〇月二七日、ラ米修正案によって修正されたアジア・アフリカ案は、一一四(わが国を含む)対二(南ア、ポルトガル)、棄権三(英、仏、マラウイ)をもって採択された。

(3) わが国の態度

鶴岡代表は、九月二七日、要旨次の通りの一般演説を行なったのであるが、「法の支配」の原則にもとづいた公正、妥当な解決を強調したわが国の発言は、「理性の声」として、広く共感を呼んだ。

鶴岡代表発言要旨

(イ) 日本国政府は、総会の大多数と同様、南西アフリカは直ちに国連の信託統治制度の下に置かれるべきであり、植民地独立付与宣言は、南西アフリカに適用され、この地域におけるアパルトヘイト政策は直ちに終止されるべきである。

(ロ) また、わが国は、南アに対し、国際司法裁判所の勧告的意見によって明らかにされた諸義務の履行を呼びかける。

(ハ) 南西アフリカにおけるアパルトヘイトは、当該住民の福祉及び進歩にとって有害なものであり、従って、アパルトヘイト政策は、委任統治条項及び国連憲章の精神に反する。

(ニ) わが国は、法の支配の確立の見地から、アパルトヘイト政策は、委任統治条項に違反しないか、国連憲章第七三条は南西アフリカに適用しうるのか、等の問題について、国際司法裁判所の勧告的意見を求めることが適当であると考える。

(ホ) 日本は、本問題を公正にかつ実効的現実的に解決するためのあらゆる提案、示唆を検討する用意がある。南西アフリカ問題に関するあらゆる諸問題を検討するための特別委員会を設置することが有益であろう。

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4 中国代表権問題

(1) 一九六六年八月二九日、アルバニアなど九カ国は、「国連における中華人民共和国の合法的権利の回復」を緊急問題として、第二一回総会の議題として採択するよう要請し、同年九月二四日、総会本会議は、これを正式に議題として採択した。

総会本会議は、同年一一月一八日から二九日まで本議題に関し一般討論を行ない、この間五六カ国が発言した。わが松井代表は一一月二八日、要旨次のごとき演説を行なった。

「中国代表権問題は国連が直面した諸問題の中で最も複雑、重要かつ処理し難い問題の一つである。中華人民共和国が中国大陸を有効に支配している事実は確かに無視できないが、中華民国政府が中国本土と全く異なった自由かつ民主的な体制を確立し、台湾およびその隣接諸島で商い生活水準を享受する一、二〇〇万の人民に有効な支配を及ぼしている事実を決して見落してはならない。さらにこの二つの政権は、過去一七年間、狭い海峡をはさんで大軍事力を擁し互いに対峙して来た。かかる状態においては、二つの抗争する当事国の一方をこの機構で正当に占めていた議席から追放し、他の一方にとって代らせることによって中国の代表権を変えようとする試みは、現実に全く矛盾すると言わざるを得ず、アルバニア等一一カ国の共同提案になる決議案は、アジア、太平洋地域における平和と安全を危うくしかねない重大な事態を引き起すおそれがある。

またこの両政権の国連に対する態度は大きく異なっている。中華民国は国連発足以来、国連の発展に非常に貢献し、また憲章上の義務を一貫して履行して来たことは広く認められているのに対し、中華人民共和国は、国連加盟国としての義務と責任を進んで完全に遂行するかどうか、また国連の威信と権威の高揚に努力する用意があるかどうか一般に疑問が持たれている。

一九六一年以降現在も有効である決議一六六八(XVI)による総会の決定(重要事項指定決議)は、中華人民共和国の国連への参加を阻止するための故意の術策ではなく、万人にとって受諾可能な解決を確保するための賢明な決定である。中国代表権問題は第一義的にはアジアの問題であり、アジアの全ての国家にとって特に重要であり、かつ、死活的関心事である。中国代表権問題が総会において性急かつ無分別な解決を強制された場合、アジアは更に止むことのない不安に脅かされる恐れがある。

本問題審議のための委員会設置に関するイタリア等六カ国共同決議案の説明において、イタリア代表は、本件決定には憲章第一八条による三分の二の多数を要するとする決議案を支持すると述べ、イタリアは重要事項指定決議案の共同提案国に加わった。イタリアは本間題が極めて重要であり、委員会の制限の中で、可能なあらゆる角度から慎重に研究する必要があるという理由からこの新たなイニシアティヴをとったものであり、かかる見地から、イタリア等共同提案国の努力を多とする。」

(2) 同年一一月一四日、オーストラリア、ベルギー、ボリヴィア、ブラジル、コロンビア、ガボン、日本、マダガスカル、ニュー・ジーランド、ニカラグア、フィリピン、タイ、米国(のち、イタリアおよびトーゴーが参加した)の各国は、「中国の代表権を変更するいかなる提案も国連憲章第一八条に従って重要問題であるとの第一六回総会決議の決定および、これが依然有効なる旨の第二〇回総会決議の確認を想起し、右決定は依然有効であることを再び確認する」との趣旨の決議案を提出した。つづいて一一月一六日、アルバニア、アルジェリア、カンボディア、コン・ゴー(ブラザヴィル)、キューバ、ギニア、マリ、パキスタン、ルーマニア、シリア(のちモーリタニアが参加した)の各国は本件に関し、「中華人民共和国のすべての権利を回復し、その代表を国連における中国唯一の合法的代表と認め、かつ、蒋介石の代表を国連およびそのすべての関連機関において不合法に占めている席から即時追放することを決定する」旨の決議案を提出した。さらに、一一月二六日、ベルギー、ボリヴィァ、ブラジル、チリ、イタリア、トリニダッド・トバゴの各国は、「憲章の原則および目的に従った国連におげる中国代表権問題の公平、かつ、実際的な解決のために、第二二回総会に適切な勧告を行なうため、国連総会が指名する・・・・加盟国の委員会の創設を決定し、全関係国政府に対し、右委員会に援助を与えるよう訴える」趣旨の決議案(イタリア案)を提出した。

一一月二九日、総会本会議は右三決議案の表決に入り、先ず(i)わが国を含む一五カ国提出の重要事項指定再確認決議案を賛成六六(わが国を含む)、反対四八、棄権七で可決、ついで(ii)アルバニア等一一カ国決議案を賛成四六、反対五七(わが国を含む)、棄権一七、欠席一で否決した。(iii)右表決後シリアが、重要事項指定再確認決議案が採択された以上、イタリア等六カ国決議案に対しても三分の二の多数決の原則が適用さるべきであるとの動議を提出、右動議は賛成五一、反対三七(わが国を含む)、棄権三〇で採択された。最後に、(iv)イタリア等六カ国決議案が賛成三四(わが国を含む)、反対六二、棄権二五で否決された。

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5 国連の平和維持活動問題

(1) 平和維持活動問題の意義と推移

国連の最大の使命の一つが国際の平和と安全の確保にある以上、いわゆる平和維持活動の問題が国連のあり方全般、ひいてはその存続自体にもかかわる重大問題であることはいうまでもない。平和維持活動の問題とは、大きく分類して、(イ)過去の国連の平和維持活動に伴って発生した法律的、財政的諸問題、並びに(ロ)将来の平和維持活動をいかなる方式により決定し、またいかにしてそのための経費を支弁するかの問題、の二面に分けることができる。しかし第一九回総会において、特定の過去の平和維持活動については、そのための経費分担を拒否し滞納を重ねた諸国(ソ連、仏、その他)に対し、国連憲章第一九条に基づく罰則を適用しないことが決定されて以来、平和維持活動の問題に対する加盟諸国の熱意は若干薄らいだ観があり、その後は平和維持活動特別委員会の活動も必ずしも活発ではなかった。

平和維持活動特別委員会は一九六六年二月から九月までの間に前後六回会合を設けたが、何ら具体的成果を挙げることなく、第二〇回総会に対して、「委員長は加盟国間の意見の相違の調整に努めたが成功しなかった」との趣旨の結論を盛った報告を提出するのみに終わった。

(2) 国連第二一回総会における審議

国連第二一回総会は、一九六六年一一月一五日から一二月一日まで、次いで一二月一三、一四日、「平和維持活動のあらゆる分野にわたるすべての問題の包括的検討、平和維持活動特別委員会の報告」の議題を特別政治委員会において審議した。

右の特別政治委員会における審議においては、前回本間題について積極的な活動を行なったアイルランドのほかにカナダ、ジャマイカ、メキシコ、インド等の諸国がそれぞれ決議案を提出し、審議の最終段階において、かなりの紛糾がみられた。提出された決議案は六、これらに対する改訂案および修正案は一一を数えたが、これを大別すると、

(イ) アイルランド等一二カ国共同決議案(平和維持活動経費の割当方式を低開発国五パーセント、安保理常任理事国を除く先進国二五パーセント、安保理五常任理事国七〇パーセントと決定し、更に安保理常任理事国については、その特殊地位に基づき、そのいずれかが反対する平和維持活動に関しては経費分担を免除しうるとの趣旨のもの)、

(ロ) カナダ等七カ国共同決議案(経費については割当方式、当事者支弁方式、自発的拠出方式、およびこれらの組合せがあるとの前提に立ち、割当方式が採用される際には、低開発国の負担総額を一五パーセント以内とする、また安保理に対し、憲章第四三条および四七条に基づく協定締結の問題を含め平和維持活動の準備につき検討の開始を勧告するとの趣旨のもの)、

(ハ) インド、アラブ連合、ユーゴースラヴィア三カ国共同決議案(平和維持活動特別委員会の作業継続を求めるもの)、

(ニ) その他

に分けることができるが、特別政治委員会における表決の結果、前記(イ)のアイルランド等一二カ国共同決議案が賛成三三、反対二七、棄権四八で、また前記(ロ)カナダ等七カ国決議案が賛成五四、反対一四、棄権四二で、それぞれ採択され、(ハ)のインド等三カ国決議案は先議要求が破れた結果、撤回された。

かように、アイルランド案およびカナダ案については、このまま進めば本会議においても採択される見通しが強まってきたところ、ソ連は本会議における本問題審議の直前、異例の声明を発表し、「憲章に違反する決議を強行する試みが一部加盟国の間で行なわれているが、かかる決議はたとえ採択されてもソ連はこれに拘束されるものではなく、またかかる行為を強行するときは、国連にとり極めて重大な事態を招来するであろう」との警告を発し、是が非でもカナダ案等の採択を阻止せんとする気構えを見せた。

本会議は、一二月一七日から一九日まで本件を審議したが、その間ソ連、仏等の諸国は本問題審議の中断ないし延期を画策し、また低開発諸国に対しカナダ案、アイルランド案からの離脱を工作した結果、一二月一九日、総会の土壇場に至り、右(ハ)のインド、アラブ連合等三カ国の提案と同趣旨の決議案が提示され、カナダ案(アイルランド案は撤回され、同案の共同提案国はカナダ案提案国と合流した)との先議争いを行なった結果、賛成四九、反対四一でインド、アラブ連合案が先議権を取得し、次いで賛成五六、反対三六、棄権二五でこれが採択された。この結果、平和維持活動特別委員会はその作業を継続し、一九六七年四月に予定される特別総会に報告を提出することが決定され、カナダ案の最終的採択は将来に持越されることとなった。

(3) 国連第五回特別総会までの経緯

平和維持活動特別委員会は一九六七年二月一七日以降審議を継続し、もっぱら経費支弁方式、特に全加盟国に対する割当方式が採用される場合の分担比率の点に焦点を合わせて審議が行なわれたが、依然見るべき成果をあげるに至っていない。

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6 植民地独立付与宣言問題

(1) 植民地独立付与宣言履行特別委員会

植民地独立付与宣言履行特別委員会(以下特別委員会と略称)は、第一五回総会において採択された植民地独立付与宣言の適用状況を審議し、その結果を各総会毎に報告している。

特別委員会は、一九六六年度もその活動を続け、三月八日より六月二二日を第一期、七月六日より一一月三〇日までを第二期として、南ローデシア、ポルトガル施政地域、南西アフリカ、アデン、バストランド、ベチュアナランド、スワジランド、仏領ソマリーランド等を審議したが、その間、前年と同様、五月二三日より六月二二日まで、アフリカ各地において委員会を開催、アフリカ地域における植民地問題の審議、同地域における請願人の陳述聴取等を行なった。同委員会は一一月三〇日、第二一回総会に対する報告書を採択した。

(2) 国連第二一回総会

(イ) 植民地独立付与宣言履行に関する一般問題

第二一回総会は、特別委員会報告のうち、個々の地域に関する報告の部分は、第四委員会において審議し、植民地独立付与宣言履行に関する一般問題のみ、本会議において審議した。

総会本会議は、一二月六日より一三日まで本件一般問題を審議し、一三日、AA(アジア、アフリカ)九カ国提案の修正を加えたAA等一七カ国共同決議案の表決を行なった。表決に先立ち、米国より、主文第一一項(要旨後述)は憲章上重要問題であり、その採択には三分の二の同意が必要であるとの動議が提出され、タンザニア、ソ連、ギニア等が反対したが、結局、表決の結果、賛成三八(わが国を含む)、反対五五、棄権九をもって、右米国動議は否決された。続いて決議案の表決に入り、先ず主文第六項、七項、一一項を分割投票により採択の上、決議案全体を賛成七六、反対七、棄権二〇(わが国を含む)をもって採択した。採択された決議二一八九(XXI)の主な項目の要旨は次のとおりである。

「総会は、(イ) 植民地宣言の完全かつ普遍的履行のこれ以上の遅延は、世界の平和と安全を危くする国際的摩擦と困難の根源となると信じ(前文第一〇項)、

(ロ) 植民地的支配の継続が国際の平和と安全を脅かし、アパルトヘイトおよびあらゆる形態の人種差別が人道に対する罪を構成することを宣言する(主文第六項)。

(ハ) 自決と独立の権利行使のための植民地支配下住民の闘争の合法性を再確認し、あらゆる国に対し植民地における国民解放運動に物質的精神的援助を与えるよう要請する(主文第七項)。

(二) 植民国に対し、植民地における軍事基地および施設を撤去するよう、かつ、新たに設置したり既存のものを利用することを差し控えるよう要請する(主文第一一項)。

(ホ) 特別委員会に対し、国際の平和と安全を脅かすおそれのある事態の進展を安全保障理事会に通報し、安保理事会が考慮すべき適当な措置につき、安保理事会に具体的示唆を与えるよう要請する(主文第一四項)。

(ヘ) 特別委員会に対し、住民の意思と宣言の規定に従い、適当と認めるときは独立の期限を勧告するよう勧奨する(主文第一五項)。」

総会第四委員会は、特別委員会報告に基づき、バストランド、ベチュアナランド、スワジランド、フィジー、ジブラルタル、イフニ、スペイン領サハラ、赤道ギニア、オマン等の各地域を審議し、それぞれ決議を採決した。

また、一九六五年に引き続き、群小諸島に関する決議案において、植民地における軍事基地が問題となったが、群小諸島における軍事基地および施設の設置が憲章の目的と原則および植民地独立付与宣言に反するとの宣言を繰り返すとの項目を含む決議が賛成九三、反対○、棄権二四(わが国を含む)をもって採択された。

(ロ) 南ローデシア問題

総会第四委員会は、一九六六年一〇月一一日より、特別委員会の報告に基づき、南ローデシア問題を審議した。先ず一般討論続行中の一〇月二一日、AA諸国は、「英国とスミス政権との会談はクライマックスに達しつつある」との新聞報道(二一日付ニューヨーク・タイムズ)を問題とし、「(イ)英・ロ会談を原住民の固有の権利を危険に陥れるものと了解し(前文第三項)、かつ(ロ)原住民の自決と独立の固有の権利を認めないような英・ロ間取決めを非難し(主文第一項)、(ハ)普通選挙(一人一票)に基づき、ジムバヴェ人民に権限を移譲すべき施政国の義務を再確認する(主文第二項)」との趣旨の決議案を急きょ提出し、即日表決を要請、右決議案は賛成七八、反対二、棄権九(わが国を含む)をもって採択された。本会議は翌二二日、右決議案を賛成八六(わが国を含む)、反対二、棄権一八をもって採択した。なお、わが国は、第四委員会における右決議案の表決に際し、決議案の実質に関係なく棄権する旨発言した。

第四委員会は、引き続き本件を審議し、一一月三一日、本会議に対し、AA等五三カ国共同決議案採択方を勧告した。本会議は、一二月一七日、右決議案の表決を行ない、賛成八九(わが国を含む)、反対二、棄権一七をもってこれを採択した。採択された決議二一五一(XXI)の主な項目の要旨は次のとおりである。

「総会は、(イ) ジムバヴェ人民による独立達成の障害となる南ローデシアにおける外国独占企業および利権の増大する有害な影響を憂慮して了知し(前文第八項)、

(ロ) ジムバヴェ人民の自由と独立の固有の権利およびこれらの権利行使のための彼らの闘争の合法性を再確認する(主文第一項)。

(ハ) いかなる基礎においても南ローデシアの現政権に権限を移譲し、ジムバヴェ人民の自由と独立の固有の権利を認めないような施政国と南ローデシアの現政権とのいかなる協定も非難する(主文第三項)。

(ニ) 南ローデシアの現政権を援助しているポルトガルおよび南ア政府を非難する(主文第四項)。

(ホ) 南ローデシアにおける外国経済その他の利権の活動を非難し、関係国政府に対しそのような活動を停止せしめるためあらゆる必要な措置をとるよう要請する(主文第五項)。

(ヘ) 英国政府に対し、石油および石油製品を含め、いかなる物資の南ローデシア到着も阻止するため敏速かつ効果的な措置をとるよう要請する(主文第七項)。

(ト) 英国政府に対し、南ローデシア現政権を終熄せしめるため、特に、武力行使を含め必要なあらゆる措置をとるよう再び要請する(主文第八項)。」

なお、わが国は一一月八日の第四委員会において、「(イ)日本の南ローデシアからの輸入は事実上零に等しい。(ロ)特別委員会は、わが国に関し事実に反する記述を行なっているが、これは本問題に対するわが国の誠意と努力を誤解せしめるものである。(ハ)AA五三カ国決議案は全体としては賛成し得るが、主文第八項の武力行使の決定権は施政国にあり、われわれは暴力によらずに本件を解決することを期待している。また強制的経済措置については、これは安保理の権限であり、日本は安保理が決定するそのような措置には全面的に支持する用意がある。」旨の発言を行なった。

(ハ) ポルトガル施政地域

総会第四委員会は、一九六六年一一月一六日よりポルトガル施政地域問題を審議したが、世銀がポルトガルに借款を与えたことを遺憾とするとのソ連発言に基づき、一一月二八日、世銀代表を喚問した。右世銀代表はその発言において、世銀としては融資に当って当該国の政治的動向によって左右されないが、その政治的動向の及ぼす経済的影響に盲目であるわけでない旨のウッズ総裁の発言を繰り返した。本会議は、一二月一二日、第四委員会の勧告に基づき、AA等四八カ国提出の決議案を賛成七六(わが国を含む)、反対一二、棄権一六をもって採決した。採決された決議二一八四(XXI)の主文要旨は次のとおりである。

「総会は、(イ) アフリカ人民の自由と独立の願望実現を阻害する当該地域における外国企業の活動が減少していないことを深く憂慮して了知し(前文第七項)、

(ロ) ポルトガル支配地域人民の自由と独立の固有の権利を再確認し、この権利達成のための彼らの闘争の合法性を承認する(主文第一項)。

(ハ) 外人入植者を定住せしめアフリカ人労働者を南アに輸出することによって原住民の経済的政治的権利を侵害しているポルトガル政府の政策を人道に対する罪として非難する(主文第三項)。

(ニ) 人的物的資源を搾取し、同地域人民の自由と独立への発展を妨げるポルトガル支配地域の外国企業の活動を非難する(主文第四項)。

(ホ) あらゆる国に対し、自国民が特に同地域における投資の分野でポルトガルに協力することを阻止するよう訴える(主文第六項)。

(ヘ) 安保理に対し、直接に、および自国が加入している適当な国際機関における行動を通して、総会決議二一〇七(XX)(要旨「わが外交の近況」第十号七八頁参照)、特にその主文第七項の措置の実施をあらゆる国に義務的とするよう勧告する(主文第七項)。

(ト) あらゆる国、特にNATO(北大西洋条約機構)内のポルトガルとの軍事同盟国に対し、武器および軍事施設、ならびに武器および弾薬の製造または維持のための施設および資材のポルトガル政府への売却、または供給を停止するよう要請する(主文第八項)。

(チ) あらゆる専門機関、特に、世銀およびIMF(国際通貨基金)に対し、ポルトガル政府が総会決議一五一四(XX)を実施しない限り、ポルトガルにいかなる財政的、経済的または技術的援助の供与をも差し控えるよう訴える(主文第九項)。」

なお、わが国は、一二月五日の第四委員会および一二日の本会議において、それぞれ決議案に対する同趣旨の投票理由の説明を行ない、「わが国は主文第六項、第七項および第八項に留保を有し、特に、主文第七項には強い留保を有する。わが国は制裁のごとき強制的措置は安保理の権限であると考える。」旨述べた。

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7 南アフリカ共和国政府の人種隔離(アパルトヘイト)政策問題

(1) 南アフリカ共和国政府のアパルトヘイト政策に起因する人種紛争問題は、一九五二年の国連第七回総会以来毎総会において審議されており、総会はそのつど、南ア政府に対して反省を求める決議を採択してきたが、南ア政府はこれらの決議を無視し続けたため、とくに一九六〇年の第一五回総会以来、新たに国連加盟国となった多数の新興アフリカ諸国を交えたAA諸国を中心として、南アに対する外交、経済上の強硬な制裁措置を求める動きが活発となり、一九六二年の第一七回総会においては、南アとの外交、経済関係の断絶、国連から除名の検討を求める制裁措置および本問題審議のための特別委員会の設置等を含む決議が採択され(わが国および西欧諸国は反対)、さらに、一九六五年の第二〇回総会は、アパルトヘイト問題を解決するためには、国連憲章第七章の措置が必要であること、および、経済制裁のみが問題の平和的解決の唯一の手段であることにつき安保理の注意を喚起した決議を採択(わが国および西欧諸国の大部分は棄権)した。

第一七回総会決議に基づいて設置された「南ア政府のアパルトヘイト政策に関する特別委員会」は、一九六三年四月より活動を開始し、アパルトヘイト政策の実施状況、人種紛争と圧制の実態、南アにおける軍隊および警察力の増強ぶり、各国の対南ア貿易および投資の状況等について調査、審議して、第一八回総会以降毎総会および安全保障理事会に報告書を提出しているが、一九六六年一〇月二一日、第二一回総会および安全保障理事会に報告書を提出し、南アの事態の悪化は、これを援助している米、英、仏の安全保障理事会常任理事国を含む対南ア主要貿易相手国の責任であるとし、本問題を平和的に解決するための唯一の方法は、憲章第七章下の全世界的強制経済制裁であることを重ねて強調する一方、部分的措置として、武器禁輸の完全実施のほかに、石油および石油製品を禁輸すべきことを主張し、さらに、アパルトヘイト犠牲者ならびに南ア人のための人道的な諸計画に対する各加盟国の精神的、物質的援助を要請するよう勧告した。

また、特別委員会は、人権委員会と協議して、一九六六年八月二三日から九月五日までブラジリアにおいて、「アパルトヘイト問題に関する国際セミナー」を開催した。本件セミナーにはわが国を含む三〇カ国の代表が個人の資格で参加した。本セミナーは、第二一回総会に対し、憲章第七章に基づく対南ア経済制裁の実施、武器禁輸に関する安全保障理事会決議の完全な履行、すべての国に対する南アとの経済、財政関係断絶の要請等三〇に及ぶ勧告を行なった。

第二一回総会は、一九六六年一二月一六日、AA等四三カ国提出の、

「南ア政府の実施しているアパルトヘイト政策を人類に対する犯罪として弾劾し、安全保障理事会三常任理事国を含む対南ア主要貿易相手国の態度を遺憾とし、主要貿易相手国の南ア政府との協力の増加は南アにおける紛争の危機を激化せしめているという事実につき主要貿易相手国の注意を喚起し、かつ、南アとの関係断絶のために緊急に措置をとるよう要請し、南アにおける事態は国際の平和および安全に対する脅威を構成するものであり、憲章第七章に基づく措置がアパルトヘイト問題の解決のために必要であり、普遍的に適用される強制的経済制裁が平和的解決を達成する唯一の手段であるとの事実につき安全保障理事会の注意を再び喚起する」

趣旨を含む決議を採択し(わが国および西欧諸国の大部分は棄権)、また、アルジェリア等六カ国提出の、「国連信託基金に十分拠出が行なわれるよう改めて訴える」趣旨の決議をわが国を含む圧倒的多数で採択した。本総会においては、少数のアフリカ諸国がわが国の対南ア貿易を非難したほか、従来対南ア制裁決議案に棄権してきた北欧諸国が挙って賛成したのが注目された。

(2) 一方、AA諸国の要請に基づいて本間題を審議した安全保障理事会は、一九六三年には南アに対する武器、弾薬、軍用車輌ならびにこれらの製造、維持のための設備および資材の禁輸、「専門家グループ」の設置を決議し、また、南ア人の海外教育を提唱し、さらに一九六四年には「専門家委員会」を設置した(わが外交の近況」第十号七三頁参照)が、その後、本問題の審議は行なっていない。

(3) 本問題は、国連専門機関においても取上げられ、南アのこれら機関からの除名ないし参加拒否の動きが活発となっているが、さらに最近では経済社会理事会およびその下部機関である人権委員会においても審議されている。すなわち、第四〇回経済社会理事会は、一九六六年三月四日、「人権委員会に対し、すべての国における人種差別政策ならびにアパルトヘイト政策を含め、人権と基本的自由の侵犯問題につき緊急に審議するよう勧誘する」趣旨の決議を採択したところ、さらに、第四一回経済社会理事会は同年八月二日および八月五日、国連総会に対し、人種差別およびアパルトヘイト撤廃計画を実施するよう勧告し、また、総会が南ア、南西アフリカその他においてアパルトヘイト政策が執ように実施されていることにつき深い懸念を表明し、すべての国に対して対南ア武器禁輸に関する安全保障理事会決議に従うよう要請し、さらに、とくにアパルトヘイト政策の犠牲者に対する援助について世論に訴えるよう勧誘する趣旨の決議をそれぞれ採択した。また、第二二回人権委員会は一九六六年五月二五日、「経済社会理事会に対し、総会がすべての国に経済、外交制裁決議を履行するよう要請し、また、世論とくに法律団体に対し、アパルトヘイト政策の犠牲者に援助方訴えるよう要請する」趣旨を含む決議を採択した。

(4) わが国は、第二一回総会においては、わが国が従来から一貫して人種差別に反対するとの基本的態度を維持していること、南アにおける事態の推移につき重大な関心を有することを明らかにし、南ア政府が国連憲章の目的の一つである人権と基本的自由を尊重してアパルトヘイトを直ちに廃止するよう訴え、南アとの経済、外交関係の断絶、国連からの除名等の制裁措置が取上げられた場合には、これが元来安全保障理事会の専管事項であって、総会の権限外であると考えるので、原則の問題として賛成し得ない旨を明らかにするとともに、わが国としては、安全保障理事会による措置を通じて対南ア主要貿易国を含むすべての国の間に対南ア経済制裁に関する一致した行動が確保される場合にはこれに従う用意があるとの態度をもって本間題の審議に臨んだが、決議案の審議に際しては、(イ)国際の平和と安全に対する脅威の認定は安全保障理事会の責任である、(ロ)わが国の対南ア貿易はアパルトヘイト促進のために行なっているものではない、との立場を明らかにするとともに、前記AA四三カ国決議案全体に棄権した。

なお、国連は、安全保障理事会の決議に基づいて、「南ア人教育訓練計画」を実施しているが、わが国は、アフリカ人にできるだけ多く教育の機会を与えることは望ましいとの理由から本計画の目的に賛成しており、また、安全保障理事会の非常任理事国であるわが国として、同理事会の決議に基づいて設置された本計画に積極的に協力することは極めて望ましいこと等の理由から、一九六六年一二月二八日、国連代表部を通じて本計画に対して二万ドルの拠出を行なった。

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8 軍縮問題

(1) 核兵器拡散防止問題

軍縮問題のうち、近時最も注目をあびている問題は核兵器拡散防止問題であるが、本件については、従来より各種国連関係の軍縮問題審議機関において審議され、一九六五年の第二〇回国連総会において、核兵器拡散防止条約のあり方に関する五項目の原則を示す決議[総会決議二〇二八]が採択された(これらの原則の内容については参照)。その後、本件については一九六六年の一八カ国軍縮委員会、国連第二一回総会および一九六七年の一八カ国軍縮委員会において審議が続けられている。

(イ) 一九六六年の一八カ国軍縮委員会における審議

一八カ国軍縮委員会は一九六六年一月より右国連第二〇回総会決議によって示された原則に従った核兵器拡散防止条約案作成のための審議を行なったが、この間、一方においてMLF・ANF等のいわゆる西欧多角的核戦力構想はこれを通じてドイツ(西)に核兵器を拡散するためのかくれみのであり、この計画が放棄されない限り核兵器拡散防止問題の審議に応じ得ないと主張するソ連とこれを否定する米国とが対立し、他方において、核兵器拡散防止条約を締結するに当っては核兵器保有国も核軍縮を行なうべきであり、また非保有国の安全保障につき十分なる配慮をすべし等主張する非保有国と核兵器拡散防止条約の早期締結を主張する核兵器保有国とが対立し、結局このため、一八カ国軍縮委員会はなんらの結論も出すことが出来なかった。

(ロ) 国連第二一回総会における審議

本総会における軍縮問題審議に先立ち、グロムイコ・ソ連外相は米側首脳と一連の会議を行ない、主として核兵器拡散防止問題の取扱い、特に多角的核戦力構想と核兵器拡散防止問題との関連につき協議したが、この結果米ソ間にはかなりの歩み寄りが実現したと考えられた。

かかる事情を背景として、国連第二一回総会は、一八カ国軍縮委員会の報告およびソ連の要請にもとづき、核兵器拡散防止問題につき、一九六六年一〇月二〇日より一一月一七日まで審議を行なった。この間、米ソ両国は、両国首脳間の会談を通じて得られた歩み寄りを基礎として、核兵器拡散防止条約の締結を促進するよう努力すべしとの主張を行ない、他方、非保有国より、非保有国の安全保障についても十分な配慮を行なうべしとする意見、非保有国が自ら核武装を放棄する以上、核兵器保有国も軍縮、特に核軍縮を遂行する義務を負うべしとする意見、原子力の平和利用を確保すべしとする意見、核兵器拡散防止条約の作成に当っては非保有国の見解を十分尊重すべしとする意見等各種の意見を開陳した。

総会はこれら諸見解を勘案の上、結局(イ)第二〇回総会で採択された決議二〇二八(XX)によって確立された五原則に従った核兵器拡散防止条約の締結を阻害するいかなる行為もとらないよう各国に要請する趣旨の決議(二一四九(XXI))、(ロ)右の原則を確認するとともに、非保有国の安全保障をも考慮しつつ、核兵器拡散防止問題を優先的に審議するよう、一八カ国軍縮委員会に要請する趣旨の決議(二一五三A(XXI))、(ハ)非保有国が核兵器拡散防止のためいかなる貢献をしうるか、非保有国の安全保障をいかにして確保するか等の問題につき審議するための非保有国会議を遅くとも一九六八年上半期までに開催することとするとの決議(二一五三B(XXI))をそれぞれ採択した。採択された各決議の主文要旨は下記のとおりである。

(一) 核兵器拡散防止条約の成立を阻害する行為の否認に関する決議(総会決議二一四九)

   すべての国に対し、このような条約が成立するまでの間、

(イ) 総会決議二〇二八(XX)に掲げられた原則に従った核兵器拡散防止条約のもっともすみやかな成立を容易にするためあらゆる必要な措置をとること。

(ロ) 核兵器の拡散をもたらす行為、または核兵器拡散防止条約の成立を阻害する惧れのあるいかなる行為をも慎しむことを緊急要請する。

(二) 核兵器拡散防止問題一般(総会決議二一五三A(XXI))

一 総会決議二〇二八(XX)を再確認する。

二 すべての国に対し、核兵器拡散防止条約を最もすみやかに成立させるために必要なすべての措置をとるよう、強く訴える。

三 核兵器保有国に対し、総会決議二〇二八(XX)第2項(ホ)に規定された性質の条約を締結する国に対する核兵器の使用又は核兵器による威嚇を慎むよう要請する。

四 一八カ国軍縮委員会に対し、核兵器保有国は、その領域に核兵器を有していない非保有国に対して、核兵器を使用し、又は核兵器による威嚇を与えない旨の確証を与えるべきであるとの提案ならびにこの問題の解決のため、既になされ又は今後なされるべき他の提案につき早急に審議するよう要請する。

五 すべての国に対し、上記条約の交渉に際しては、総会決議二〇二八(XX)に掲げられた原則を遵守するよう要請する。

六 一八カ国軍縮委員会に対し、総会決議二〇二八(XX)の規定に従い、核兵器拡散防止問題を優先審議するよう要請する。

七 省略(記録の送付)

八 一八カ国軍縮委員会に対し、核兵器拡散防止問題に関する審議の結果を速かに総会に報告するよう要請する。

(三) 非保有国会議開催に関する決議(総会決議二一五三B(XXI))

一 下記の諸問題並びに他の関連問題につき、審議するため遅くとも一九六八年七月までに非保有国の会議を召集することを決定する。

(イ) いかにすれば非保有国の安全は最もよく確保されるか。

(ロ) いかにして、非保有国は核兵器の拡散を防止するため、相互に協力することができるか。

(ハ) いかにすれば核爆発装置を平和目的にのみ限定して利用することができるか。

二 総会議長に対し、この会議を召集するための適正な措置をとり、この会議の作業に核兵器保有国を参加させる問題につき検討し、かつその結果につき第二二回総会に報告するため、非保有国を広く代表する準備委員会を設置するよう要請する。

なお、右審議の間、わが方松井代表は、一〇月二八日、第一委員会での本件審議において要旨次の通り発言した。

一 軍縮問題全般について日本政府の見解を述べることは、私の発言の目的ではないが、軍縮問題は世界の関心事であり、国連が処理しなければならない各種問題の中でも極めて重要な問題である。軍縮問題は人類の生存に関する問題であり、人類の将来は、今日のわれわれの討議にかかっている。

今日核兵器保有国は五カ国となっている。そして核兵器戦争の恐るべき影響を蒙った国は過去においてただ一カ国、日本のみである。私は、この恐るべき戦争がいかなる場所においても、いかなる国に対しても起ることのないよう祈る。

今日すでに核兵器を保有している五カ国に加えて、かかる兵器を製造する潜在的能力を有する国がある。かかる事態の下において、世界はやがて核兵器が広く拡散してしまうという最も重大な危険に直面している。かかる危険を避けるため、何よりも核兵器拡散防止条約を早急に締結しなければならない。私が今回発言しようとするのもこの点についてである。

二 過去二カ年にわたり、核兵器拡散防止問題は軍縮問題の魚点となっている。これは、多くの国において原子力の平和利用が発達した結果、この原子力を核兵器のために利用する能力をもつ国が増加して来たことによるものである。核兵器保有国が増加すれば、それだけ核戦争の危険も増加する。従って、今日、直ちに核兵器の拡散を防止するためのあらゆる措置をとることが絶対に必要である。

三 本年一月以来、一八カ国軍縮委員会はジュネーヴに会合し、昨年の国連総会が採択した本件決議にもとづく核兵器拡散防止条約の草案作成に努力した。同委員会の努力は具体的成果をあげ得なかったが、その審議は、各種間題点を解明する上に極めて有益であった。

同委員会群議の結果の一つとして、一〇月二○日ゴールドバーグ米国連代表は、「米国およびソ速は残りの相違点を克服するため相互に受諾可能な方法を共同で探究しつつある」と述べたが、われわれは、この発言に大いに力づけられている。

これら二大核兵器保有国間には、まだかなりの意見の対立が残っているが、われわれは双方のたゆみない努力と善意により、これらの困難が、速やかに解決されることを心から希望している。

ゴールドバーグ米代表は、さらに、「討議に進展があり次第助言を求めるため、各国政府と協議する」と述べているが、われわれは、核兵器拡散防止条約に出来るだけ多数の国が参加することが必要である以上、この条約によって、案質的影響を受ける国は、この条約の作成に当り、十分に協議されねばならないと考えるので、この部分に関する米代表の発言を特に歓迎する。

われわれとしては、このような協議が今次総会中に行なわれるべきであると考える。少くとも、この協議を行なうための機構と手続きについて、合意に達する必要があろう。

四 今年、一八カ国軍縮委員会での核兵器拡散防止問題審議の進展を阻害した最大の障害は、「核兵器拡散」という言葉の意味が種々異なって解釈されたということにあると思われる。われわれはこの点について早急に意見が統一されるよう希望する。ただわが国としては、この言葉の意味を広く解することによって、非保有国が自ら核兵器を持つことなしに、二国間または、多数国間取決めにより、核攻撃または核の脅威に対し、自国の安全保障のために必要と考える措置をとることまでも妨げる結果となることは避けるべきであると考える。

また、これとともに核兵器保有国と共同防衛関係にない非保有国の安全保障問題についても、十分な注意が払われるべきである。わが国は、核兵器拡散防止条約にできるだけ多数の国が加入しうるようにするためには、この問題についても十分な配慮が不可欠であると考える。

五 一〇月二七日中共は核爆発実験を行なったと伝えられているが、この事実からみても上記のことはますます重要である。この点に関し、わが国の愛知内閣官房長官は、一〇月二八日下記の談話を発表した。

「日本政府及び国会は、あらゆる国の核実験に反対してきている。中共の核実験に対しても、その都度強く抗議してきたが、それにもかかわらず四たび核実験が行なわれたことは、まことに遺憾である。

中共政府は、核爆発実験をもって平和実現の手段と称しているが、この行為は人類の理想実現に逆行するものであることは明らかである。

現在、国連総会において『核兵器拡散防止条約の締結を阻害する行為の否認』に関し、わが国を含む三三カ国の共同決議案が提出された矢先に、かかる核実験が行なわれたことは、世界の大勢に逆行するものであり遺憾にたえない。

わが国は平和に徹する立場を堅持し、いかなる国をも敵視しない。したがってわが国は、核開発の技術と能力をもっているがこれを実行に移す考えはない。

われわれは今回の核実験に対し国民の名において強く抗議するとともに、中共指導者に対し今後再び核実験を繰り返すことのないよう猛省を促すものである。」

六 非保有国が、核武装の可能性を自ら放棄するのは、核兵器なき世界を実現したいとの真剣な願望に基づくものである。核兵器保有国は、非保有国側のこのような協力的態度に応えるためにも、この条約の締結に際し、今後、核軍縮の具体的措置実現のため、最大限の努力をする意図を明らかにすべきであろう。この点に関し、一八カ国軍縮委員会の中立八カ国は、八月一九日付共同覚書において、昨年、採択された総会決議二〇二八によって確立された原則の(B)および(C)に言及しつつ、「核兵器拡散防止条約は、核軍備競争を停止し、核兵器およびその運搬手段の貯蔵を制限し、削減し、かつ廃棄するための、案質的な措置と結びつけられるか、または、これを伴うものでなければならない。」とのべているが、わが国はこの見解を完全に支持する。

七 次に原子力平和利用を行なっている非保有国の核兵器生産を防止するためにとるべき措置についてのべる。この点については、原子力平和利用を確保するための、国際的保障措置をとることが、最も有益であろう。この意味において、われわれは、七月二七日の一八カ国軍縮委員会において、フィッシャー米国代表が、米国条約案第三条を敷延して、「(1)非保有国はすべての原子力平和利用活動について、国際原子力機関(IAEA)またはこれに相当する国際的保障措置の適用を受諾することを約束する、(2)すべての国は、原料物質、核分裂性物質、特定器材、ならびに、核分裂性物質、原料物質の処理ないし使用および核分裂性物質の生産のために使われる非核物質を、これらの物質または器材がIAEAまたはこれに相当する国際的保障措置の下に置かれない限り、平和利用のために、他のいかなる国にも提供しないことを約束する」との二点よりなる提案を行なったことに関心をもっている。この点に関し、われわれはソ連が三月三日の一八カ国軍縮委員会においてIAEAの保障措置を利用する可能性を検対する用意があると述べたことを歓迎する。

ただ、米国提案を審議するにあたっては、IAEAが、米国提案中にあげられている物質および装置の平和利用を、効果的に保障する制度をすでに事実上備えているか否かを、知っておくことが有益と思われる。

よって、われわれとしては、総会IAEAに対し、IAEAは、核兵器拡散防止との関連において、どのような役割を有効に果しうるか、また、現在のIAHAの保障措置は有効であるかの点について報告することを求めることが適切と考える。

八 今日のごとき変動の絶えない国際情勢の下においては、この条約に参加する国が、随時この条約の運用を検討する機会をもちたいと考えるのは当然のことである。この点に関し、今年の一八カ国軍縮委員会においても、核兵器拡散防止条約の有効期間を限定した上、一定期間経過後すべての国が事態を自由に検討する機会をもてるようにすべきであるとの示唆があったが、わが国としては、すべての締約国が条約に関連するあらゆる問題-条約の運営ならびに核兵器とその運搬手段の削減および廃棄に向っての進展状況を含めて-を頻繁に再審議できるような規定を設けることが望ましいと考える。このための常設委員会を設置することも一案であろう。いずれにせよ条約の有効期間と再審議の問題は条約を締結するに先立ち、十分検討されねばならないと考える。

九 軍縮は極めて複雑な問題であり、これに核武装という要素が加わって問題は一層複雑になっている。事務総長は国連の事業に関する本年度年次報告の序文において「国連の適当な機関が核兵器の発明が及ぼしている影響について全面的に研究するよう」示唆したが、わが国は軍縮問題の複雑さと重要性に鑑み、これを支持する。

一〇 私は改めて核兵器拡散防止の目的を達成するには潜在的核能力国の自制が最も重要な要素であることを強調したい。それ故にこそこれらの国の意見は、核兵器拡散防止条約の条文に十分に反映されるべきである。われわれはすべての国にとって満足のいく条約の作成に協力する用意がある。

一一 わが国は「核兵器拡散防止条約の締結を阻害する行為の否認に関する決議案」の共同提案国となっている。その理由は、この決議案がすべての国によって忠実に守られれば、この条約の早期締結に貢献すると考えたからである。わが国としては、この決議案が全会一致で採択されることを希望する。

(ハ) 一九六七年の一八カ国軍縮委員会における審議

前述(ロ)の次第により、一八カ国軍縮委員会は、再び核兵器拡散防止問題につき審議することとなり、米ソ両国は同委員会に提出する目的をもって核兵器拡散防止条約案の作成に関する交渉を行なった。しかしながらこの交渉においては、米ソ両国は全面的合意に達することができず、また、それぞれの同盟諸国との協議を行なう必要もあったため、結局、最終的に条約草案をとりまとめ得るに至らなかった。かくて、一八カ国軍縮委員会は一九六七年二月二一日、開会されたものの何ら具体的審議を行ない得ず、約一カ月後の三月二三日には再び休会に入らざるを得なくなった。なお同委員会は五月に再開される予定であり、米ソ両国をはじめとする関係国間に条約案作成のための協議が行なわれつつある。

(2) 核兵器実験禁止間題

核兵器実験禁止問題については、一九六三年いわゆる部分的核兵器実験禁止条約が締結されたのち、残る地下実験の禁止をめぐって審議が行なわれてきているが、この問題については、地下実験を禁止するに当り査察等適正な国際管理を必要と考える米国の立場とこの必要性を否定するソ連の立場が対峙したまま調整されず、未だ解決されるに至っていない。

ただ本件については、国連第二〇回総会において、スゥェーデンが、地下核兵器実験の探知を容易ならしめるため地殻震動に関する資料を交換する等国際協力を促准するよう提唱し、いわゆる「探知クラブ」が関係国(わが国を含む八カ国)間に設立されるなど問題解決に向っての地道な努力が行なわれつつある。なお、一九六六年の国連第二一回総会においては、かかる活動を支持するとともに、一八カ国軍縮委員会に対し問題解決のためあらゆる努力をするよう要請する趣旨の決議が採択された。これらの動きを概観すれば次のとおり。

(イ) 一九六六年五月二三日、スウェーデン政府の招請により、オーストラリア、カナダ、インド、日本、ポーランド、ルーマニア、スウェーデンおよびアラブ連合の八カ国代表が参集、いわゆる探知クラブ会議を開催し、全面的核兵器実験禁止との関連において有益とみられる国際協力を通ずる地震データ交換の組織を樹立することの可能性につき討議した。

なおわが国からは、宮村摂三東大教授および大塚博比古外務省科学課長が出席した。

同会議においては、各種地震観測所から収集されるデータの種類、データ入手に使用される計器の望ましい特性、データ交換の速度、データ記録の保存期間等につき討議した上、将来の地震データ交換のあり方につき意見を交換した。なお今後、探知クラブの活動を拡充強化するため、改めて、この種会議を開催することが考えられるが、この点については、今次会議の成果について検討した上、追って外交経路を通じて協議することとなっている。

(ロ) 一九六六年の国連第二一回総会は、「核実験停止の緊要性」なる議題を採択するとともに、第一委員会においてこれを審議した。各国は、この間、部分的核実験禁止条約への未加入国が依然存在し、、また地下実験禁止の達成に向って余り進展がみられないことについて遺憾の意を表明した。他方、地下実験探知の検証は国内探知手段のみで十分であるとするソ連等共産圏諸国と、現地査察が必要であるとする米国等西側諸国との間に何ら歩みよりが見られなかった。ただこの間にあって、地下実験探知のための国際協力に関する「探知クラブ」関係諸国の活動が多くの国によって高く評価された。

一二月二五日、総会本会議は、わが国等一一カ国より提出の核兵器実験禁止問題に関する決議案を賛成一〇〇(わが国を含む)、反対一(アルバニア)、棄権二、をもって採択したが、右決議の主文要旨つぎの通り。

(i) 大気圏内、宇宙空間及び水中での核実験禁止条約に加入していないすべての国に対し、加入方強く訴える。

(ii) すべての核兵器保有国に対し、あらゆる場所での核実験を中止するよう要請する。

(iii) 諸国が地殻振動に関するデータを国際間で有効に交換することに貢献するよう希望する。

(iv) 一八カ国軍縮委員会に対し、地下での核実験禁止条約を遅滞なく作成するよう要請する。

なお、わが松井代表は一一月二二日、第一委員会において本件につき要旨つぎの通り発言した。

一 三年前、部分的核実験禁止条約の締結をみた際、われわれは人類が放射性降下物の恐るべき危険から解放されるという明るい見通しに喜び、われわれの究極目標である核兵器の地上からの消滅へ向って進むものと信じた。しかし、その後、悲しむべきことにフランスと中共は依然として大気圏内の核実験を行なっている。この両国は核兵器を完成することによって、その独立と安全を確保しうると考えているようであるが、われわれはすべての国の平和と安全は軍縮と紛争の平和的解決にすべての国が一致協力して参加することにあると固く信じている。この両国が現在の行き方を改め、地国とともに核軍縮の達成に努力することを切望する。

二 部分的核実験禁止条約が締結された時、米、英、ソ三国は全面的核実験の禁止を達成するために交渉を続けると声明したが、その後実質的な進展はなかった。しかしわれわれは、今や核兵器拡散防止問題の進展にかんがみ、核兵器保有国が新たな決意と誠意をもって地下実験禁止のための交渉を続けるよう切に希望する。

三 地下核実験禁止の必要性については、いろいろなことがいわれている。第一はこれが、フランス、中共に対し核実験を停止させるための誘因となるということである。第二は、核兵器拡散防止条約が出来れば非保有国が核兵器の閥発を行なわないのにかかわらず、核兵器保有国が核兵器の改善のために実験を継続することは、核兵器保有国と非保有国の責任と義務の均衡という観点から正当化されないということである。第三は、核兵器拡散防止条約に伴うべき核軍縮の部分的措置として全面的核実験禁止問題は長期間にわたって討議されていることである。この間に各種の提案が出されておりまた大きな技術的な進展も見られているので、われわれは全面的核実験禁止条約は短期間に締結することが可能であると信ずる。

四 協定達成の前途に横たわる障害は、条約遵守を確保するための方法についての核兵器保有国間の意見の相違である。ソ連は各国の探知手段によって条約の遵守を確保することができると主張しているのに対し、米国はすべての地下核実験が探知され識別されるという科学的証拠がない限り現地査察を含む国際管理制度が不可欠であると主張している。われわれは両国が協力してこの点に関する意見の相違を解決することを希望する。

五 われわれはこの問題の解決を見出すため一八カ国軍縮委員会の非同盟諸国が種々の構想や示唆を行なっている努力を高く評価する。なかんずく「要請による検証」の構想はとくに注目に値すると考える。米ソ両国がこの案に対し、否定的態度をとっていることは残念である。短期間この案を試みに実行してみるのも一案ではないかと思われる。

六 カナダが提唱している「ブラック・ボックス」案も適当な地域に、十分な数が設置されるならば、この問題の解決に有益な役割を果すものと考える。

七 一定規模以上の地下核実験を禁止しようという案も、核実験の規模が科学的方法によって正確に測定されることができるなら地下核実験禁止にとって大きな前進となるであろう。

八 一定規模以下の地下核実験を自発的に停止するか、あるいは「要請による検証」を適用して一定規模以下の地下核実験を禁止しようというアラブ連合の案の自発的停止の点については、われわれとしては不安定かつ暫定的な方式よりは明確な協定の方が望ましいと考える。

九 昨年の総会決議で「地震学の分野における国際協力の改善された可能性」を考慮に入れるよう要求しているが、いわゆる「探知クラブ」は探知技術を改善し、国際協力を確保するという目的に沿ったものであり、われわれは喜んでこのクラブに参加し、クラブの活動を促進するためできる限り協力を惜しまない。

一〇 核実験の全面的禁止は困難な課題であるが、われわれは、この問題を早急に解決するため、あらゆる努力を払わねばならない。

一一われわれは一八カ国軍縮委員会の非同盟八カ国が提出した核実験禁止に関する決議案を全面的に支持し、その共同提案に参加した。この決議案が全会一致で採択されることを希望する。

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9 国際人権規約の採択

第二一回国連総会は、国連発足当初よりの主要課題の一つであった国際人権規約の審議を了し、一九六六年一二月一六日これを採択した。

第二次大戦後、人権及び基本的自由の国際的保障の重要性が認識され、第三回国連総会において世界人権宣言が採択されたが、同宣言はすべての国が達成すべき共通の基準を単に宣言したものであって法的拘束力がないため、人権宣言に掲げられた人権及び基本的自由をより具体的に、かつ明確に規定し、その尊重を締約国の義務とする条約の作成が急務とされていた。

国連総会は、第九回会期より人権委員会が作成した「経済的、社会的および文化的権利に関する規約案」(A案)および「市民的および政治的権利に関する規約案」(B案)を基礎として第三委員会において審議を開始し、以後ほとんど毎年の国連総会において逐条審議を行なってきた。両規約の実質条項(各々の権利の実質的内容につき規定した部分)は既に第一〇回総会から第一八回総会にわたり第三委員会における審議を終了していたので、第二一回総会第三委員会においては、その実施条項(規約の実施を確保するための制度につき規定した部分)および最終条項(署名、批准、加入、発効、改正等の手続につき規定した部分)の審議が行なわれた。

人権委員会の作成したA案の実施条項では、当事国は規約に認められた諸権利の尊重に関する進展状況報告を経済社会理事会に提出し、同理事会はこれを情報、研究および一般的勧告のために人権委員会に伝達できることになっていた。これに対し、経済社会理事会に代って報告を審議する専門家委員会を設置するとの米修正案および経済社会理事会の下に特別委員会を設置するとのイタリア案が提出されたが、反対が強かったためこれらの修正案は撤回され、原案の趣旨を明確にしたインド、イラン等AA諸国共同修正案が多数の支持を得て採択された。

B案の実施条項原案は、(イ)規約実施措置に関する報告制度、(ロ)規約当事国による規約違反行為に関する他の当事国の申立ておよび新たに設置する人権委員会によるその事実確認と斡旋の制度、(ハ)国際司法裁判所に対する提訴を内容としていたが、第三委員会で各条項別審議に先立ち行なわれた一般討論においては、(1)委員会および苦情申立て制度(調停制度)の設定の是非、(2)苦情申立て制度は義務的にすべきか否か、(3)請願制度を認めるべきか否かの諸点に議論が集中した。わが国代表は、原案の義務的調停制度は先進国には受諾しやすいが国内事情の異なる多数の国にとっては厳格に過ぎることを指摘して、特別の委員会を設置して市民的、政治的権利を取扱わせることは望ましい旨発言して、委員会設置と任意的調停制度を支持するAA諸国に同調した。

第三委員会における逐条審議は主としてインド等AA諸国修正案を基礎に行なわれ、委員会の設置に関しては、原案の想定した国際司法裁判所に代って規約当事国により各当事国の指名する候補者リストから選ばれる一八人からなる人権委員会を設置することが決定された。また苦情申立て制度に関しては、当事国は他の当事国がこの規約の義務を履行していないとの申立てを受理し審議する権限を委員会に認めると宣言した国のみが同委員会に問題を付託することができ、人権委員会において当事国に満足のゆく解決がえられなかった場合には、人権委員会が設置する特別調停委員会の斡旋を求めることができるとする任意的調停制度が設けられることとなった。また当事国は実施措置に関する報告を、事務総長を通じて前記新設人権委員会に規約発効一年後、その後は人権委員会が要請するときに、提出することとなった。

請願制度については、個人または団体よりの請願を受理する権限を委員会に認めると宣言する国についてのみこれを実施する趣旨のオランダ案が提出されていたが、これに対し請願制度を義務的とすることを意図したジャマイカ修正案が提出された。個人の請願制度についてはヨーロッパ人権規約に先例があるとしてこれを実施条項に挿入すべしと主張するラ米、西欧諸国と、内政干渉のおそれがあるとして原則的に個人の請願制度に反対するソ連圏諸国等が対立した。わが国は、規約の実施制度は多数の国に受け入れられるものでなければ意味がないこと、請願制度は政治的に乱用されるおそれがあること、人権委員会は予想される多数の請願を処理する経験、時間的余裕、スタッフに欠けていること等の理由により、請願制度自体が不適当である旨発言した。レバノンは、規約に多数の国の同意しえない条項を含めることは望ましくないが、多くの国が議定書にすることには反対していないとの理由で請願制度を議定書として独立させる動議を提出し、これが賛成四一、反対三九、棄権一六で採択された。この結果、人権規約および議定書の当事国により人権を侵害されたと主張する個人は、問題が国内手段で解決しえなかったときは人権委員会に請願しうることを主眼とする一四カ条からなる選択議定書が賛成五九、反対二、棄権三二で採択された。わが国は右発言の理由によりこれに棄権した。

総会本会議は一二月一六日、「経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約」および「市民的および政治的権利に関する国際規約」を全会一致で、また「市民的および政治的権利に関する国際規約についての選択議定書」は賛成六六、反対二、棄権三八で採択した。

国際人権規約は、同一九日、国連加盟国、専門機関加盟国、国際司法裁判所規程当事国および本規約の当事国となるよう総会により招請された国に署名のために開放された。

第三委員会は国際人権規約のほか、アパルトヘイトを含む人権および基本的自由の侵害問題、国際人権年、世界社会情勢等の議題を審議し、合計一一の決議を採択した。

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10 放射線の影響に関する国連科学委員会

国連科学委員会は、一九六六年六月ニュー・ヨークで会合を開いて前年から検討を続けていた「環境放射線」および「電離放射線の遺伝的危険度」に関する報告を国連第二一回総会に提出した。六月の会合の際に、国連事務総長から、「委員会は立ちどまってよく考えるべき時期に来ているのではないか」との示唆が行なわれたが、六六年一二月国連総会は委員会が六七年も作業を行なうことを承認した。なおこの委員会はわが国を含む一五カ国の代表から構成され、六六年の会合にはわが国からは従来どおり放射線医学総合研究所長塚本憲甫博士が出席したほか三名の専門科学者も出席している。

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11 宇宙空間平和利用における国際協力

一九六六年における宇宙空間平和利用委員会(以下、宇宙委員会と略称)関係の活動には宇宙天体条約の成立(別項で説明)、宇宙平和利用国連会議の具体化など二〇世紀最終の三分の一の幕明けにふさわしいものがみられた。

(1) 宇宙平和利用国連会議(正式名称は「宇宙空間の探査と平和利用に関する国連会議」)については、宇宙委員会報告にもとづき、国連総会がこれを一九六七年九月ウイーンで開催することを決議し、また会議の目的および議題を承認した(総会決議二二二一(XXI))。

ところが六七年二月、この会議組織のための専門家パネルでソ連より突然会議を六八年に延期するよう提案があった。もともとこの会議の六七年開催は、ソ連が強く主張したものであり、従って各国は今回のソ連の一方的態度を不満としつつもこれに同意した。この会議延期は四月から開かれる国連特別総会にはかった上で決定される。

(2) その他の宇宙活動に関する一般的な科学技術協力については、六六年四月の宇宙委員会で従来からの情報交換、教育訓練などにつき具体的方針を審議した。

国連総会は、これらの具体的方針および単一の民間世界航行衛星システムの技術的検討開始を含む宇宙科学技術協力に関する一七カ国共同決議案を一二月一九日全会一致で採択した(総会決議二二二三(XXI))。

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12 宇宙天体条約の成立

国家の宇宙活動を律する法的原則の法典化については宇宙空間平和利用委員会設立当初から問題となっていたが、当時は「宇宙空間に関する知識に乏しくて問題が確実に把握されていない時点でそのような包括的条約を締結するのは時期尚早」という意見が大勢を占めていた。わが国は、好ましくない既成事実の積重ねが将来の原則条約の基礎となることは避けるべきであるとの立場から宇宙空間の平和利用原則等基本的な原則の早期法典化を主張していた。

以来、徐々に各国間に原則に関する意見の一致がみられるようになり、一九六三年には国連総会決議としての「宇宙空間の探査および利用における国家活動を律する法的原則の宣言」が採択された。

さらに最近、宇宙技術の発達に伴い、月への人間着陸も間近と見られるにいたり、天体の領有権をめぐる国際紛争を未然に防ぎ、あるいは宇宙空間および天体の探査利用を規制する実際上の必要が生じ、他方、地上の軍備管理に関連して対立の少ない宇宙空間および天体の非軍事化を押し進めて東西の協調をはかろうという配慮も働いて、まず一九六六年五月米国より本件条約の早期審議を国連に要請し、ソ連もまたこれに応じた。

国連の宇宙空間平和利用委員会は、同年七月から九月まで条約案を審議し、主要な規定九カ条につき合意が成立した。その後さらに委員会の主な構成国間で協議が続けられ、一二月上旬に条約案文全体につき意見の一致を見た。

この結果、国連総会は、わが国を含む四三カ国共同提案の決議案を一二月一九日全会一致で採択した(総会決議二二二二(XXI))。この決議で国連総会は宇宙天体条約を推奨し、かつ出来るだけ多くの国が条約に参加するよう希望している。

右の決議にもとづき、この条約は、六七年一月二七日ワシントン、ロンドンおよびモスクワの三都市で各国署名のため開放され、わが国を含む多数の国がこれに署名した(署名国は三月上旬現在、三都市を通算して八○カ国)。

この条約は、「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約」といい、宇宙空間への大量破壊兵器の配置禁止と天体の平和利用を規定し、宇宙空間の非軍事化を進めている点で一九五九年の南極条約および一九六三年の部分的核実験禁止条約に続く国際的な軍縮措置の一つであり、また人類の全く新しい活動分野である宇宙空間における探査と利用に関し種々の新原則、たとえば天体を含む宇宙空間の探査利用は自由であるが、すべての国の利益を目的としなければならないこと、天体を含む宇宙空間は国家の取得の対象となりえないこと、自国の宇宙活動については、それが非政府団体によって行なわれる場合でも国家が直接責任を負うこと、などを規定している点で画期的な条約である。

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(注) 国連第二〇回総会において採択された決議二〇二八に示された核兵器拡散防止条約の原則はつぎのとおり。

(i) 条約は、直接または間接に核兵器の拡散を許す「抜け穴」を含むものでないこと。

(ii) 条約は、核兵器保有国、非保有国の間における責任と義務の均衡を保つものであること。

(iii) 条約は、全面完全軍縮、特に核軍縮実現に向かっての一歩たるべきこと。

(iv) 条約は、その有効性を確保するための受諾可能で、かつ、実施可能な規定を含むべきこと。

(v) 核兵器の「完全な不存在」を確保するために、各国家群が、地域的条約を締結する権利を害しないものであること。