第二一回総会を中心とする国際連合の活動

(1) 一九六六年七月、過去六年間にわたり国際司法裁判所において審議されてきた南西アフリカ問題が同裁判所により当事者適格の欠如を理由に実質審議を却下された結果、この判決を不満とするアフリカ諸国は、南部アフリカ問題についてもはや法廷闘争では十分な効果をあげえず、これを政治闘争に切換えて、国連総会において大々的に本問題を取上げ表決によって黒白を決すべしとの態度をとった。このようなアフリカ諸国の意向を受けて、第二一回総会は冒頭の一般討論演説と並行して、本会議において南西アフリカ問題を取上げるという異例の措置をとり、長期間に及ぶ激しい討論の結果、南西アフリカに対する南ア政府の統治権剥奪および本問題検討のための特別委員会の設置を内容とするAA五〇カ国提出の決議案を採択した。このように第二一回国連総会は当初の予想のとおりアフリカ問題をもって開幕した。

(2) 国連に関する限り、一九六六年が専らアフリカの年であり、第二一回総会がある意味でアフリカ総会と呼びうるゆえんは同年中安全保障理事会がローデシア問題について審議を重ねた後、同年末にいたり、英国の要請に基づき、国連史上はじめて憲章第七章に基づく対ローデシア強制的制裁措置を採択したことによっても裏書きされる(中近東とアフリカの情勢の項参照)。

(3) 右のごとく第二一回国連総会においては、アフリカ色がかなり鮮明に示されたことは事実であるが、いわゆるアフリカ問題以外についても同総会が極めて重要な多くの成果をあげたことは看過しえない。国連総会はいわば国際政治の動向を反映する鏡であり、その時々の世界情勢は国連における審議に再現されるものである。第二一回総会はアジアにおいてはヴィエトナム戦乱の拡大、中共国内における混乱等の事情を背景として開始されたものであるが、これらの諸事件は国連における討議の趨勢に幾多の影響を及ぼさないではおかなかった。ヴィエトナム問題は直接国連において議題としては取上げられなかったし、また国連は本問題について実質的に介入する権限をも能力をも欠いているとの認識が多数加盟国の間に広く持たれていたが、他面唯一の世界的機構としての国連は本間題の帰趨について

無関心ではありえないとの一般的傾向も顕著に見られた。第二一回総会の主要な成果の一つとして、ウ・タン事務総長の留任実現をあげる向きが多いが、ヴィエトナム問題に関するウ・タンの和平努力を支持する声が同氏の事務総長留任要請の大きな理由の一つとなったと見ることも可能であろう。

(4) 中国代表権問題については、イタリア等一部西欧諸国から本問題の審議について新しい方式を導入しようとする試みが行なわれたにもかかわらず、従来どおり本問題を重要事項とするいわゆる重要事項方式が多数の支持を得て再確認され、中華民国の国連からの追放並びに中共の国連加入を呼びかけるアルバニア等の決議案が否決され、見方によっては従来よりもいっそう中華民国にとって有利な結果を得たということも出来よう。右は中共国内の諸情勢およびその外交政策が多数諸国の疑惑と批判を招いたためとも見られるが、他方本問題の重要性、とくにこれがアジア・太平洋地域の平和と安全に対して及ぼすべき影響について次第に諸国の理解が深まってきた証拠であるということも出来よう。

(5) ヴィエトナム問題等米ソが正面から相対立する問題が多数あったにもかかわらず、その反面米ソ協調という底流が強く存在した事実も第二一回総会の顕著な特徴の一つと見られ、宇宙天体条約の成立はその一例であり、また軍縮問題、とくに核兵器拡散防止条約問題について米ソ間に根本的な利害の一致が見られるという傾向もうかがわれた。

(6) いわゆる政治面を離れても、経済面においては国連貿易開発会議の進展、国連工業開発機関の発足等重要な幾多の成果をあげ、かつ国際人権規約の採択も特筆すべき大きな収穫であったといえよう。これを要するに第二一回総会は当初におけるアフリカ総会という呼び声にもかかわらず、その内容においてはバランスのとれた、かつ充実した有意義な総会であったということが出来よう。

(7) しかしながら、発足後二〇余年を経過し、国連の能力の限界について現実的な反省を行なうとの機運が次第に高まりつつある風潮のあることも看過しえないところである。国連の最も重要な任務の一つである国際の平和と安全の維持については、いわゆる平和維持活動の問題について若干の諸大国間の利害の一致が見られないために、この問題の解決がいたずらに遷延されていることは、国連の将来にとって暗い影を投げかげるものといわざるをえない。また国連の加盟国が今や一二二の多数に達し、かつその多くがアジア・アフリカ地域の新興独立国であることは、国連総会の決定が原則として多数決により行なわれることと思い合わせるとき、種々将来にわたって問題を投げかけるものとも思われる。

(8) わが国は一九六六年初頭以来、安全保障理事会に非常任理事国の一つとして参加しており、アジア・アフリカ・グループにおける責任ある大国の一つとして、国際平和の維持および全面的な国連協力の立場から多大の努力を傾け、かつ国連の諸事業に対し積極的に貢献してきた。わが国の積年の努力は各国の利害の錯綜する国連の場において、次第に高く評価され、国連関係諸問題に関するわが国の発言権は今や目に見えて増大しつつあるといえよう。

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