世界経済の流れ

第二次世界大戦後の世界経済は、ブレトン・ウッヅ体制の下における自由世界諸国間の協調を基軸としてめざましい発展を遂げ、ことに一九六〇年代に入ってからは米国の好景気と欧州における経済統合の進展を背景に拡大歩調を更に早めた。

かかる趨勢の中に、一九六六年の先進諸国の経済は、主要先進国における物価上昇や金利高騰など種々の問題をはらみながらも、全体としては一九六五年に引続いてかなりの拡大基調を持統し、先進諸国全体の経済成長は四・八%に達した。

自由世界の先進諸国を中心とする繁栄のかたわら、低開発諸国の経済開発は遅れており、近年この問題は南北問題という形で著しく大きく取上げられてきた(南北問題の項参照)。

一九六六年における共産圏諸国の生産については、ソ連、東欧諸国では、農業における豊作ということもあり、おおむね順調に推移した模様である。中共経済については確たる情報は得られていないが、あまりかんばしい動きを示さなかったようである。

世界貿易の動きを見ると、昨年の世界輸出総額は、前年に比べ九・六%増大し、二、〇四〇億ドルと初めて二千億ドルを突破した。

過去一〇年間に先進国の世界輸出市場占有率は、六六・二%から六九・四%に上昇したが、これに反し、低開発国の占有率は、二四%から一九%に下がった。この間共産圏諸国の占有率は、九・八%から一一・五%に上昇した。

世界経済の流れにみられる最近の特徴として、国際経済上の諸問題を多角的な国際協調の場で解決しようとする動きが強まる一方、地域主義の傾向が顕著となってきたことについては、「わが外交の近況」第十号(四三頁)においても指摘したところであるが、この傾向はますます強まった。

ジュネーヴで数年来ガット(関税及び貿易に関する一般協定)の枠内で続けられてきた関税一括引下げ交渉、いわゆるケネディ・ラウンド交渉は、米国の通商拡大法に基づく大統領の関税引下げ権限の失効する一九六七年六月末までに調印に漕ぎつけるべく精力的に続けられ、五月一五日に穀物協定その他主要事項について実質的な妥結を見、六月三十日には最終議定書等に署名が行なわれ、国際貿易の進展を大きく促進することとなった。

経済協力開発機構(OECD)においても、その活動分野はますます多岐にわたり、一九六八年二月に第二回国連貿易開発会議(UNCTAD)を控え、援助、貿易(とくに特恵)、海運等の諸分野で低開発国問題をめぐって、先進国間の意見調整が行なわれているほか、最近の特徴として、加盟国の経済成長のための科学、技術面の協力、ことに米国と他の加盟国との間の技術格差の問題が大きく取上げられてきている。また、東西問題については、一九六六年、米国のイニシアティヴに基づき、東西貿易が一般的な形で取上げられることとなり、さらに、貿易以外の分野においてもOECDの場を利用して、東欧諸国との協力を促進すべしとの考え方が出ている事実は、OECDに対し新しい性格を与える可能性をもつものとして注目を要する。

このように、東西貿易問題が多角的な場で積極的に取上げられるようになった背後には、従来、もっとも消極的態度をとっていた米国が、一九六五年ごろから、ソ連、東欧諸国との貿易拡大を前向きに推進する姿勢をとるようになってきたという事実がある。

国際金融の面では、一九六六年夏を頂点とした国際的高金利の問題と国際流動性問題をめぐって、国際通貨基金(IMF)・一〇カ国蔵相会議並びにIMF理事会と一〇カ国蔵相代理会議の合同会議等の場でさかんな論議が行なわれ、その結果前者の問題は、主要先進国間の協調のもとにその後解決に向かい、後者についてもたび重なる論議の結果、かなりの範囲にわたり合意をみつつあり、残る二、三の対立点についても本年のIMF総会を目標に折衝が続けられている。

次に、地域主義の進展をみると、欧州においては、EEC、EFTAとも統合化の段階を進展させ、EFTAは一九六七年一月に工業品についての域内関税全廃を達成し、他方、EECの方でも、一九六八年七月一日に域内工業品関税の全廃を目標として漸次段階的に引下げが進んでいるほか、域外関税も着々共通関税への接近が図られている。かかるEECおよびEFTAの進展の中で、注目を集めているのは、英国のEEC加盟問題である(西欧の情勢の項参照)。英連邦のかなめとなっていた英国がEECに加入することになれば、従来の世界経済体制に著しい影響を及ぼすこととなり深い関心が寄せられている。

欧州以外の地域についても、一般的な地域経済協力は国連の地域経済委員会等を中心にかなり積極化しているが、経済統合化は、全般的に欧州におけるほど進展しておらず、とくにアジア・太平洋地域では、いろいろな提案や検討がなされてはいるものの、現に存在するものとしては、わずかに豪州・ニュー・ジーランド自由貿易地域、ASA(フィリピン、マレイシア、タイ)、といったような地域的に限られたものがあるにすぎない。もし、英国のEEC加盟が実現して大欧州統合体が形成されることとなれば、欧州以外の地域の統合の動きにも大きな刺戟を与えることとなるものと考えられ、今後地域主義がいかなる動向をたどるかは注目を要する。

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