海外広報の現状
世界中の諸国民の本邦に対する理解を増進し、近代工業国であり高度の文化を有し、自由主義諸国の主要な一員として、民主々義の擁護と後進国援助につとめるわが国の実情を広く一般に知らせることはわが国の外交を推進する上で極めて重要である。この観点から外務省は従来ややもすれば誤ったイメージで紹介されて来たわが国の実情を正しく紹介する資料、映画等を作成、配布するかたわら、かかる誤ったイメージを抱かせる原因と考えられる各国教育資料の日本関係記述の是正に努め、また、各国報道関係者を本邦に招待するなど積極的な広報活動に努めている。
海外広報用として外務省が発行し在外公館を通じ各方面に配布している刊行物のうち、最も重要なものは、わが国の現状に関する基本的事実を全般的に説明した小冊子「今日の日本」である。この小冊子はカラー写真挿絵二一ぺージ、白黒写真挿絵二〇ページを含む八〇ページ余りのもので、昭和四〇年度には英、仏、西、タイ、イタリア、ポルトガルの六カ国語により合計一四一、〇〇〇部を作成した(いずれも改訂増刷)。このほか、すでに独、ヒンディ、ウルドウ、マレー、インドネシア、ペルシア、アラビア、トルコ、韓国、中国、ロシア、セルビア、デンマーク、ベンガリ、シンハリ、ハンガリー、スウェーデンの各国語版も作成している(あわせて二三カ国語版となる)。この「今日の日本」は内容、写真ともに海外各方面において多大の好評を博している。
「今日の日本」は高校生以上を対象としたものであるが、これを要約して中学生程度を対象とするように編集した「今日の日本」縮小版を作成しており、昭和四〇年度はタイ語版を加え、既存の英、西、ポルトガル、アラビア、イタリアの各国語版の改訂増刷と合わせ六カ国語で合計一七五、〇〇〇部作成した。(既に作成した独、仏、フィンランド語版と合わせて九カ国語となる。)
次に、主として小学生を対象としたリーフレットは現在まで英、西、仏、アラビア、ポルトガル、タイの六ケ国語を刊行したが、昭和四〇年度は、英語版を改訂し四〇〇、〇〇〇部を作成した。
また、各項日別に四ページ乃至八ページを当てて説明を行なっている基本資料ファクト・シーツは英語版三四種類、西、仏語版二五乃至三〇種類が作成されており、各種の照会に迅速適切に回答できるよう年々改訂を加えている。
なお、昭和三九年度からドイツ語版の作成も始め、現在一三種を刊行した。その他日本の産業及び観光地を紹介する各種ポスターや、学校教材用として分り易く日本の家庭生活、産業等を図解した教材用ポスターを英、仏、西語版で作成しているほか、大、小日本地図(英語版のみ)、カラー絵はがき、年二回発行する写真グラフ誌「ジャパン」、「建築」カレンダーなどもそれぞれ英、仏、西の三カ国で作成し、また「乗物」カレンダー(英、仏文)を作成した。色彩印刷の美しいこれら広報刊行物は多大の好評を博し、わが国の高度の印刷技術の海外紹介に役立っている。
また、わが国に関する各般の話題を定期的に紹介する英文インフォメーション・ブレティンを毎月二回外務省で発行しており、各在外公館ではこれを基礎として、それぞれの駐在国の特殊事情および言語を考慮し、再編集の上これを各国語にて発行、配布している。現在、インフォメーション・ブレティンは五一公館が発行し、二〇カ国語で毎号合計約五二、〇〇〇部におよんでいる。
(1) 広報用映画
映画は、直接視聴覚にうったえる極めて効果的な広報手段であるので、できるだけよい広報映画を数多く作成して、世界各国の人々が日本の現状を理解するのに役立つよう努力している。外務省作成の広報映画には、英、仏、独、スペイン、ポルトガル、アラビア、イタリア、マレー、タイ語などの各国語版があり、全在外公館に配布の上、在外公館主催の映画会、一般貸出し、テレビ上映、巡回映画用広報車による上映などを実施して非常な好評を博している。
昭和四〇年度にはカラー広報映画「日本の買物」、「能」、「日本の大学」、「日本の科学技術」(いずれも上映時間二二分ないし二九分)の四本を作成した。また、同年度中に来日した国賓の動静および日本の現状をあわせて紹介する広報用記録映画「ラオス国皇太子ご夫妻の訪日」、「ニュー・ジーランド、ホリオーク首相夫妻の訪日」、「ウガンダ、オボテ首相の訪日」、「中華民国、沈外交部長夫妻の訪日」および「マダガスカル、チラナナ大統領夫妻の訪日」の五本(いずれも上映時間二〇分ないし三〇分)を作成し、関係在外公館に配布した。
さらに、諸官庁、団体、会社等が作成した映画の中で海外広報上有効と認められる広報映画「日本の祭」、「日本の宝」、「日本のやきもの」、「法隆寺」、「自衛隊」(いずれも英語版)等三一種七二本を購入し在外公館に配布した。また、外務省企画広報映画については三一種一、五一一本を在外公館に配布した。
右のほか、昭和三六年七月以降、外務省企画テレビ用映画「ジャパン・スクリーン・トピックス」(白黒一五分)を月間一本作成しており、在ニュー・ヨーク総領事館、在カナダ、メキシコ、アルゼンティン、タイ、アラブ連合の各大使館、ジュネーヴ総領事館等の二五在外公館に配布している。本映画は、配布先公館の所在する各国テレビ局の番組に組み入れられて毎月定期的に放送されており、日本の現状紹介に大きな役割を果している。また、在アルゼンティン大使館には、右テレビ用一六ミリ版プリントのほか、本映画の三五ミリ版プリントをあわせ配布しており、同プリントは同国常設映画館でニュース映画として毎月定期的に上映されている。
昭和四〇年度中に在外公館に配布した映画プリント数は、総数二、〇〇六本でその内訳は次のとおりである。
(イ) 外務省企画広報映画(記録映画を含む) 一、五一七本
(ロ) 外務省企画テレビ用映画 三〇〇本
(ハ) 購入映画 七二本
(ニ) 諸官庁、団体および会社からの寄贈映画 二七本
なお、広報映画による在外公館(アジア、アフリカ、中南米地域)の広報活動の強化、特に電気のない辺地での映画による広報活動を行なうために、昭和三五年度以降、発電装置を備え、映写機、スクリーン、テープ・レコーダー、レコード・プレーヤー、拡声器等を塔載した巡回映画用広報車を配布し、広報上大きな効果をあげている。昭和四〇年度には、在メキシコ、インド(買替え)およびガーナ各大使館にこれを配布した。本広報車を保有する公館は、在マレーシア、パキスタン、セイロン、インド、ナイジェリア、タイ、フィリピン、アラブ連合、インドネシア、アルゼンティンおよびブラジルの一三公館となっている。
(2) スライド
カラー・スライドの利用は、映画に次ぐ視聴覚広報手段として多大の効果があるので、在外公館保有スライドの充実と、その利用に努めている。在外公館では、日本事情紹介講演会、その他の催しにあたってスライドを利用し、また貸出しを行なっている。
(3) 写 真
昭和四〇年度においては広報写真五、三六〇種、五三、七五〇枚を作成、全在外公館に配布した。これらの写真は、各国主要新聞、百科辞典、教育用図書および雑誌等に頻繁に掲載利用されており、また各在外公館主催の写真展に展示され大きな効果をあげている。
右のほか、本邦事情紹介のための展示用写真一三〇組(全紙大のカラー写真二〇枚および白黒写真六〇枚計八〇枚一組)を作成し、全在外公館に配布した。
海外の有力報道関係者をわが国に招待し、わが国の実情を認識せしめたり、訪日報道関係者に各分野にわたる視察、懇談などを斡旋することは、これら報道関係者が新聞、雑誌、テレビ、ラジオ等を通じ日本紹介を行なうことができるので、きわめて効果的な広報手段である。このため、外務省は世界各国から年間三~四〇名の報道関係者を招待している。昭和四〇年度中に外務省の招待で来日した報道関係者は次のとおりである。
昭和四〇年
四 月 タイ、陸軍テレビ放送局長、プラシット・チェンブーン氏夫妻他一名
四 月 英国、「ザ・ティチャー」紙副主筆、ブライアン・ハモンド氏
四 月 スイス、「ランパルシアル」紙編集長、ピエール・シャンピオン氏
五 月 英国、「ザ・スコッツマン」紙副主筆、E・B・マッカイ氏
六 月 サウディ・アラビア、「アル・ビラード」紙取締役、ハッサン・M・クトビ氏
六 月 ポルトガル、「ディアリオ・デ・ノティシアス」紙外報部長、ホセ・フォルトゥナート・モライス・カブラル氏
六 月 ニュー・ジーランド、「ヘラルド」紙記者、キース・W・マクック氏
六 月 米国、「A・M」社代表、チャールズ・アレン氏
六 月 アラブ連合、「アル・アーラム」紙科学部長、サラー・エディン・モハメド・ガラール氏
九 月 フィリピン、「クロニクル」誌編集次長、イリアナ・マラマグ女史
九 月 フランス、「ル・フィガロ」紙論説委員、レイモン・アロン氏
一〇月 アイルランド、「アイリッシュ・プレス」紙会長、ヴィヴィオン・デ・ヴァレラ氏
一〇月 セイロン、「セイロン・デイリー・ニュース」紙編集長、セシル・グラハム氏他一名
一〇月 インド、「カルカタ・アムリタ・バザール・パトリカ」紙論説委員、アラン・バタチャルジー氏
一〇月 ハンガリー、「ネープサバチャーグ」紙記者、ぺーテル・ヴァイダ氏
一〇月 カナダ、「ラ・プレス」紙編集員、ギー・コルミエ氏
一〇月 ビルマ、情報省次官補、ウ・トゥン・ティン氏他四名
一〇月 フランス、「ル・モンド」紙経済部記者、ポール・ファブラ氏
一一月 米国、「ホノルル・アドヴァタイザー」紙編集長、ジョージ・チャップリン氏
一一月 米国、「アメリカン・ソサエティ・オブ・ニュースペーパー・エディターズ」理事、ウィリアム・ステイーヴン氏夫妻
一二月 フランス、「ル・プログレ・ド・リヨン」紙主幹、マルセル・ガブリエル・リヴィエール氏
昭和四一年
二 月 カナダ、「ル・ソレイユ・レヴェヌマン」紙編集長、レイモン・デュベ氏
二 月 アラブ連合、「アル・アーラム」紙主幹、モハメド・H・ヘイカル氏夫妻
三 月 ブラジル、「ディアリオ・デ・ペルナンブコ」紙コラムニスト、パウロ・卜・コウト・マルタ氏
三 月 ギリシャ、「エトノス」紙等政治外交記者、イーリアス・P・デメトラコプーロス氏
このほか、外務省の招待によらないで来日した報道関係者のうち、在外公館を通じての依頼、あるいは本人の直接の依頼により外務省が工場見学、インタヴューなどのあっせん、その他種々の便宜供与を行なったものの数は、昭和四〇年度で約一〇〇名にのぼった。
海外においては、各在外公館が資料の配布、映画の上映、日本事情に関する照会の処理、講演の実施などにより広報活動を行なっているが、とくに重要な国には順次広報文化センターを設けて広報活動の拡充強化をはかっている。現在、ニュー・ヨーク、ロンドン、バンコック、ジャカルタ、ブェノス・アイレス、ジュネーヴ、ニュー・デリー、カイロ、シドニーおよびラゴスの一〇カ所にこのような広報文化センターを設置している。
観光の振興は、国際収支の観点からますます重要となっている。このため在外公館において観光資料の配布、観光映画の上映を通じて観光日本の宣伝に努めている。特に、在仏大使館、在ニュー・ヨーク総領事館など、観光宣伝に重要と考えられる在外公館(現在一五公館)には、日本紹介デスクをおき、観光関係照会の処理、情報資料の提供などを行なっている。また、観光関係各省と緊密な連絡を保ちつつ、本邦関係機関の海外事務所による観光宣伝活動にも十分協力している。
諸外国で発行され、使用されている教科書ならびに百科辞典等の日本に関する誤った記述を是正することは、次代の諸国民の正しい対日理解を育くむ意味できわめて重要である。この目的のために設立された財団法人国際教育情報センター(理事長 藤井丙午)と緊密な連絡を保ちつつ、影響力の大きいとみられる国から順次重点的に、在外公館を通じ、資料、写真等を提供して誤った記述を是正するよう呼びかけている。
以上のほか、諸外国で発行される新聞、雑誌等の日本特集号に対する協力、わが国の実情に関する照会の処理(外務省に照会してくる向も月二〇〇件以上を数える)ならびにNHKの行なう国際放送に関する照会および中南米諸国との放送番組交換の仲介なども行なっている。