今後の海外移住政策の基調
海外移住をめぐる国際情勢の項で述べたように、今日の海外移住は、質的に高度のマンパワーが主体となり、不熟練労働力の流動の余地は益々狭められるという世界的傾向をたどりつつあるが、かかる環境の中で、今後わが国の海外移住をどのように推進すべきかが重要な検討課題となっている。
勿論、個人の立場からみれば、学者であれ、技術者であれ、有能な農業経営者であれ、自己の幸福追求のために、よりよい生活条件を求めて海外に移住することは自由であり、何人もこれを阻止し得ないことは言うにまたないが、国の立場からは、かかる高度マンパワーの国際的流動化の事態に如何に対処するかはやや問題である。
この問題は、本質的にみれば、貿易、経済協力、或いは国際政治等、国際関係一般の諸問題と同様、インターナショナリズムとナショナリズムの相剋或は調和の問題に関連する。
高度な人的資源の移動は、インターナショナルな立場からは、国際協力、受入国との友好関係の増進として理解されるのに対し、狭いナショナリズムの見地からすれば、その流出は損失に他ならない。
そこで、わが国の場合、何が国民的利益であるかが問われねばならない。国民的利益を単に一時的な物的利益として考えるか、或は国際社会におけるわが国の地位を向上せしめ、日本人の評価を高めることもその重要な要素の一つであると考えるかということである。
ヨーロッパ民族が主体となって活動した近代史の過程でアジアはその後じんを拝することを余儀なくされ、その中で、わずかにわが国だけが急速な近代化を遂げ、今日の経済的地位の向上を達し得たのである。
この意味で、日本民族が世界の舞台で活躍することは、ひとり日本のみならず、アジア、アフリカ諸国にとっても測り知れない利益をもたらすと云わなければならない。
したがって、わが国から優れた移住者が外国に赴くことは、むしろ望ましいことであり、それは若干の国内的損失を補って余りあると判断されるのであり、一九六五年三月一五日に開催された海外移住審議会においても、この観点が支持された。ただ、具体的な移住施策の実施に当っては、国内の産業、労働、文化等の諸政策と充分な調整を計って行くべきこと論をまたない。