海外移住の観点からみた国内情勢
昭和三五年度に八、〇〇〇名を越えた移住者数(渡航費の貸付を受けたもののみ)は、三六年には六、〇〇〇台、三七年は二、〇〇〇台にと減少し、三九年は一、一〇五名、四〇年度は八一八名に止まった。
この現象は、海外に関心の強い戦後の引揚者層の再移住が一応完了したこと、わが国経済の成長に伴い、労働力が国内産業に吸収される傾向が強いこと等によるものと判断されるが、この点に関連し注目すべきは、移住希望者そのものは減少せずにむしろ増加しているという事実である。即ち、一九六五年一月総理府で実施した世論調査によれば、昭和三六年の調査に比べ、移住希望者は一・六%から二・四%へとかなり増加しており、その内訳を見ると、青年層、知識層、都市居住者など学歴の高いものに、より希望者が多いことを示している。しかし問題は、これら希望者の希望移住先国を見ると、ブラジル、米国、中国、豪州、カナダが五位までを占めており、調査実施当時、少くとも移住者として顕在化し得たのはブラジルのみであったということである。
既に述べた如く、米国、カナダ移住が現実に動き始めており、また、中南米移住についても、青年層中心の移住、技術者移住、新しい型態の集団移住は僅かずつながら増加傾向をたどっているので、今後は海外移住に対する国民の認識と理解が進むにつれ、再び海外移住が盛り上りを見せるものと期待される。