中近東諸国と日本

 

1 中近東諸国との貿易の現状(北アフリカ諸国を含む)

一九六五年の中近東経済は、石油産出国を中心に順調な発展をとげた。わが国の中近東諸国に対する輸出は、近年年率二〇%以上で増加しつつあるが、一九六五年は更に前年比二五・八%増加し、三億六、五六四万ドル(通関統計)となった。わが国の輸出総額に占めるシェアは、四・三三%となっている。

このようにわが国の対中近東輸出が増加しつつあるのは、尨大な石油収入を背景に野心的な開発計画を推進している石油産出国イラン、イラク、サウディ・アラビア、クウェイト、ペルシヤ湾土侯国、リビア、アルジェリアに対する輸出が急増していることに主として起因している。これら諸国に対する輸出は、六五年には、二億一、二三二万ドルに達し、わが国の対中近東輸出のうち五八%を占めている。

また、貿易中継国であるアデン、バーレン、レバノンに対する輸出は年々着実に伸び、六五年には五、二六九万ドルとなった。

石油産出国ではないが、伝統的なわが国の大手市場であるア連合、トルコ、スーダンに対する輸出は近年頭打ちの傾向を示していたが、六五年には四、七六四万ドルと伸びを示した。

しかしながら、わが国の極端な出超となっているアフガニスタン、シリア、ジョルダンに対する輸出は停滞気味で六五年には二、四二〇万ドルとなった。

わが国の対中近東石油依存度は年々高まっており、わが国のエネルギー需要の増加とあいまって、わが国の対中近東輸入は石油を中心に毎年大幅に増加している。

一九六五年中近東諸国よりの輸入は前年比一六・三%増加して、一一億一、八八二万ドルとなり、そのうち石油が九二・八%を占めた。石油を除くその他の品目は、アラブ連合、スーダンの長繊維綿花をはじめ、鉱石、塩等の工業用原材料を中心に八、〇一九万ドルに達し、前年に比し九・四三%増加した。

わが国と中近東諸国とは従来歴史的な交渉が少なかったため、相互認識に欠ける憾みがあったが、最近わが国業界も次第に中近東に対する認識を深めつつあり、他方、伝統的な欧米諸国と関係が深い中近東諸国も対日関心を高めつつある。しかしながら、まだ相互認識は充分と云えず、これがわが国の対中近東輸出(とくに資本財輸出)振興上大きな隘路となっている。この隘路打開のためには、先ず人的交流を強化して行なうことが必要である。特に、外貨事情が豊かな石油産出国に対する資本財輸出は、相互認識さえ強化されればさらに飛躍的に伸びるものと思われる。

従来、中近東諸国のうち、わが国の繊維品四〇品目に対して差別関税を課しているレバノンの外には、差別的な対日輸入制限をとっている国はなかったが、六五年七月アフガニスタンが対日片貿易を理由にミシン等一一品目の対日輸入につきバーター制を導入し、さらに六六年に入って新たにスーダンおよびアルジェリアが、対日片貿易を理由に対日輸入制限を行なおうとしている様子がみえる。その外、イラン、イラクについては、わが国政府産業界が協力して一次産品買付に努力している結果、一応片貿易問題がおさまっているが、わが国としては今後これら片貿易国に対し輸出を安定的基盤の上に伸ばすためには、一次産品買付けに一層努力する必要がある。

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2 イランとの貿易協定の延長

わが国政府は、イランとの間に正常な貿易関係を回復するために、貿易協定を一九六四年七月一二日に締結した。この協定の成立により、イランは対日輸入制限措置(五%の対日課徴金)を撤廃したので、わが国の対イラン輸出は急速に増加し、また輸入については、政府業界が協力してイラン側の要求している石油以外の一次産品の買付増加をはかるよう努力した。

前記の貿易協定の有効期間は、一九六五年七月一一日までの一カ年間なので、同年七月両国政府は、この協定の有効期間をさらに一年間延長することに合意した。

この協定延長により、わが国の対イラン輸出は益々増加を示し、一九六四年の四、一六二万ドルから一九六五年は五、八三八万ドルとなった。他方、わが国は、一九六四年一億九、六七六万ドル、一九六五年二億四、二六八万ドルの石油を輸入しているが、イラン側は、石油輸出を輸出として計算せず、わが国の石油を除くイラン産品の輸入が六四年に比し、六五年はむしろ減少したため(一九六四年五六〇万ドル、一九六五年四二六万ドル)、イラン側は不満を表明してきている。しかし、昨年末以来、政府業界が協力してイラン側の要望にそうべくクローム鉱石、干ぶどう、綿花等の買付に努力中である。

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3 イラクとの貿易協定更新

イラクは、イランと同様欧米石油資本による石油輸出を輸出としてカウントしないため、同国より石油以外の産品をほとんど買付けていないわが国に対し、従来よりデーツの買付けを強く要望し、片貿易を理由に一九六二年五月以来、広範囲の対日輸入制限を行なって来た。

よって、両国貿易関係改善のため、一九六四年九月、イラクとの間に貿易協定を締結し、これによりイラク側は、対日制限を全面的に廃止した。その後、わが国の対イラク輸出は急激に伸び、一九六三年の七四七万ドルに比し、一九六四年は一、七三六万ドルに、一九六五年には二、四三〇万ドルに達した。

他方、わが国では、政府業界が協力してデーツ買付促進に努力しており、必ずしもイラク側の満足すべきレベルに達していないが、徐々にデーツ輸入は増加しつつあり、一九六四年一、三〇〇トン(七万ドル)、六五年八、八〇〇トン(三八万ドル)となった。しかし、わが国の輸入は主として工業用デーツを中心としており、イラク側は、工業用デーツよりも食用デーツの買付を要望しているので、業界では食用デーツの新規需要開拓、イラク・デーツのPR等に努力中である。

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4 アフガニスタンとの片貿易問題

わが国の対アフガニスタン貿易は、毎年わが国の著しい出超が続き、これが両国間の恒常的な問題となっている。昨年同国の外貨事情の悪化から、アフガニスタン当局は、実質的に日本品の輸入制限を目的として輸入事前承認制を採用する旨指示し、わが国の対ア輸出は事実上ストップすることも一時心配されたが、七月に決定された対日輸入制限措置は、輸入禁止品目は設けず、一一輸入制限品目を設定し、これら品目の輸入はバーター制によってのみ認められることになった。

前記一一品目の一九六四年の対ア輸出は一〇〇万ドル程度であり、わが方の対ア主要輸出品目である人造繊維織物、タイヤ、チューブ、陶磁器等が前記制限品目に入っていないので、この制限措置の打撃はわが国にとって比較的少なかった。わが方の輸出は、一九六四年の八六七万ドルに対し、一九六五年は七六八万ドルであった。

しかし、アフガニスタン側は、今後アフガン産品の買付および経済協力等にわが方が一層努力することを期待しているので、昨年九月には皮革買付促進調査団、一二月には中近東経済使節団をアフガニスタンに派遣したりして、問題の改善策について目下審議検討中である。

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5 レバノンの対日差別関税撤廃交渉

レバノンは、一九四一年よりわが国産品全品目に対して普通税率の二倍に達する差別関税を適用してきたが、戦後わが国の撤廃要求に応じ対象品目は、五九品目に縮小され、更に、一九六三年七月繊維品四〇品目を除く一九品目が除外された。その後わが国の申し入れにより、レバノン政府は、原則的に関税をグローバルに引き上げることにより、対日差別関税の撤廃を決めているが、同国の大統領改選、内閣改造、さらに紡績業界の反対にあって以後進展していない。しかしながら、繊維品以外の製品を中心に一九六五年のわが国のレバノン向け輸出は、一、六六〇万ドルと順調な伸びを示している。

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6 アラブ連合との貿易関係

従来順調に伸長していたわが国のアラブ連合に対する輸出は、同国の経済開発計画が最近思うように進展せず輸出余力の増大が計れず極端な国際収支の悪化をきたしたことや、一九五八年の高碕借款が使いきられたことが原因して、一九六四年には、前年の二、四二〇万ドルに比較して、一、七七〇万ドルに激減し、更に、一九六五年には一、六九〇万ドルとなった。他方、わが国の長繊維綿花需要の増大につれ、エジプト綿買付は進み、一九六五年輸入は、二、七九八万ドルに達し、貿易バランスは、一九六四年よりわが国の入超に転じた。

現在、アラブ連合は、緊縮財政をとり、開発計画のスローダウンを行なうことなどにより、国際収支改善に努力し、その効果も最近は少々見えて来ているが、同国に対する資本財(一部の耐久消費財も含め)の輸出については、延払等による信用供与が要求されている。

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7 スーダン綿買付問題

スーダンは、戦後わが国が対エジプト0/Aの清算対策としてエジプト綿買付を促進する政策をとっていたため、これをスーダン綿に対する差別待遇として、一九五八年対日輸入制限を行なった。その後、わが国がエジプト綿とスーダン綿とを一括したグローバル割当制を実施した結果、スーダンは一九六〇年に至り対日輸入制限を廃止した。一九六一年、わが国において原綿輸入が自由化され、AA制に移行してから、スーダン綿の輸入は急速に増加し、一九六三年及び六四年には従来の三万俵台から一挙に六~七万俵に達し、貿易バランスも一九六四年には四〇万ドルながらわが国の入超を示した。

ところが、一九六五年は、わが国のスーダン綿買付が伸びず、約三万俵にとどまったため、わが国の輸出一、九六〇万ドル、輸入八九〇万ドルで、約二対一という片貿易となった。スーダン側は、わが国に対して、少なくとも前年度並の綿花買付を要望しているが、外貨事情も悪化しつつあるので、スーダン側は、本年一月七日より、繊維品及び紅茶の輸入を従来のOGL制からSL制に切替える措置をとった。これはグローバルな措置であるが、スーダンは、相手国の綿花買付状況に従って輸入政策を決めると表明しており、事実上、わが国や英国からの繊維品の輸入はストップしている状態である。

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8 アルジェリアとの貿易関係

わが国の対アルジェリア貿易は、近年急増しつつあったが、特に一九六五年の輸出は一、五二一万ドルと激増した(一九六四年、六六三万ドル)。一方、輸入は僅か五万ドルにすぎない(一九六四年八万ドル)。

主要輸出品目は合繊織物を中心とする繊維品、茶等である。

このように、わが国とアルジェリアとの貿易バランスは、極度に悪化しており、また、同国の外貨事情の悪化もあってアルジェリアは、一九六六年二月従来自由化品目であった合繊織物等九品目を割当品目とする商務省令を公布し、輸入抑制の動きをみせているので、今後のわが国の輸出に相当の影響があると見られる。

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9 アラブ諸国のイスラエル・ボイコット問題

アラブ諸国は、イスラエルに対する経済的ボイコットの一環として、イスラエルの戦力強化あるいは経済発展に寄与するとみなした外国会社を一致してボイコットする政策をとっている。アラブ諸国一三カ国は、ボイコットを統一的かつ有効に実施するために、アラブ連盟の下部機構としてイスラエル・ボイコット委員会を設け、シリアに本部を、また、各国に地域支部としてボイコット事務局を設置し、相互に連絡をとり、また、各国はボイコットに関する国内法規を制定している。しかしながら、国により厳格にボイコットを実施したり、殆んど実施しなかったりで差が見られる。

現在わが国の会社も四〇社以上がボイコットの対象となっており、その数は増加する傾向にある。さらに最終的にはボイコットの対象とならないまでもアラブ諸国により嫌疑をかけられ紛糾を起こす会社が多くなっている。

従来は、わが国業界においては、本間題を危惧する余り、イスラエルとの取引を全く省みない傾向が見られたが、最近イスラエル市場に専念する商社もでてきている。

ボイコット問題は、国際法上も微妙な問題を含んでいるが、外務省としては、ボイコットの対象となった会社、あるいは嫌疑をかけられ紛糾を起こしている会社の要請に基づいて必要かつ有効と認められる場合は、当該会社をボイコット・リストから外すよう関係政府と交渉する方針をとっている。

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