ラテン・アメリカ諸国と日本
一九六五年におけるラテン・アメリカ経済を概観すると、近年経済不振、財政赤字、インフレの昂進、国際収支の悪化に悩んで来た主要国アルゼンティン、ブラジル、チリが一般にやや成長と安定のテンポをとりもどしつつあることが指摘される。すなわちアルゼンティンは農業生産の好調をもとに高い経済成長率を達成し、ブラジルも種々の引締策が功を奏して待望のインフレ抑制の効果があがりつつあるほか、引締めのため一時停滞したとみられた経済活動も漸く活発なレベルにもどり、三国とも輸出が好調であった等、総じて見通しが明るくなって来たといえる。その他の諸国ではヴェネズェラ、メキシコ、ペルー及び中米の鉱工業の伸びが概して前年に劣らぬ堅調ぶりを見せた。
なお、中米諸国間では一九六一年発足した中米共同市場が着実に進展しつつある反面、南米の大部分の国とメキシコとで構成されているラフタ(ラテン・アメリカ自由貿易連合)は、加盟国の利害の調整が進まないため域内関税障壁の撤廃や工業相互補完のメカニズムが期待どおり進捗しておらず、域内貿易の貿易総額に占める比も一二%程度にとどまっている。しかしこのような停滞を打破するため、一九六五年四月有名なプレビッシュ等ラテン・アメリカの四大エコノミストによって、全ラテン・アメリカを包含し自動的な関税譲許方式を採用するなどの画期的な「ラテン・アメリカ共同市場」設立の提案がなされ、目下関係各国において検討中と伝えられるほか、これまで開かれなかったラフタ閣僚会議が同年一一月開催され、外相会議の創設はじめいくつかの政策が採択された。
ラテン・アメリカ二二カ国とわが国との貿易の現状をみると、わが国の対ラテン・アメリカ輸出は一九六三年まで年間三億二、九〇〇万ドル前後(通関べース)に停滞していたが一九六四年に大幅な伸長をみせた後、六五年は四億二、一〇〇万ドルで前年比一・五%増となり若干の伸びを示した(独立諸国のほか属領をも含めると四億八、八〇〇万ドル)。
しかしわが国のラテン・アメリカからの輸入はここ数年来拡大の傾向にあり、六五年もまた六億九、〇〇〇万ドルで前年比四%の伸長を示した(属領を含めると七億〇、七〇〇万ドル)。この結果六五年の対ラテン・アメリカ入超額は二億六、九〇〇万ドルに達し、入超額もまた年々増大の一途を辿っている。輸出が伸長した国を国別にみると、第一に、毎年増加の一途をつづけるメキシコ、中米諸国への輸出が六五年もまた一億〇、二〇〇万ドルと前年比二五%増を記録したこと、第二に、南米諸国のうち六四年には振わなかったチリ(経済活動の活発化による)、アルゼンティン(開発計画の進展に伴なう資本財輸入の増加)、ペルー(経済開発の進捗で近年わが輸出が伸びている)への輸出が増加したことが目立っている。一方輸出の前年比減少ではドミニカ(政変による)、コロンビア、ウルグァイ、ブラジル等が目立ち、対日輸入制限を実施したジャマイカヘの輸出は若干減少した。
南米諸国への輸出の伸び悩みは、これら諸国において国産保護または国際収支の改善策としての輸入抑制策がとられていることが最も大きな原因となっている。
一方、一九六五年の一次産品の輸入は、メキシコ、中米諸国等の綿花(二億二、四〇〇万ドル)チリ、ペルー、ブラジル等の鉄鉱石(一億七、九〇〇万ドル)、チリ、ペルー等の銅鉱及び銅マット(二、四〇〇万ドル)が前年水準を上廻ったほか、コーヒーも前年より輸入が増加している。このような対ラテン・アメリカ一次産品の輸入はわが国の鉱石開発輸入が進むとともに今後とも増大するものとみられる。
しかし一概に対ラテン・アメリカ貿易が我が国の入超となっているといっても、国別にみればわが国が出超となっている国(コロンビア、コスタ・リカ、ドミニカ、ジャマイカ、パラグアイ等)もあり、これら諸国は粗糖、綿花等一次産品買付による片貿易の是正を強く要求し出している。
わが国とジャマイカとの貿易は恒常的にわが国の大幅出超(わが国の輸出一〇〇に対し輸入は一〇以下の割合)であったところ、ジャマイカ政府は一九六五年四月七日、わが国からの全商品の輸入を制限する措置をとり、同日以前に契約済のものを除き即日実施した。
わが方は直ちに制限撤廃についてジャマイカ政府に対する折衝を開始したが、先方はジャマイカの代表的産品であるボーキサイト、アルミナ、粗糖の買付を要求し、これら産品買付によるわが方の片貿易是正の努力をみなければ制限撤廃はできないと主張しているが、これら産品は種々の理由から商業べースによる買付は困難であるので、本件折衝はその後進展をみていない。
しかしながら、わが方の輸出品の約七割は綿糸布、化繊織物等の繊維品であり、これらは殆どすべてジャマイカで縫製加工され再輸出されるため、輸入制限実施後もこれら品目の輸出は続いている。六五年のわが国の対ジャマイカ輸出は八一〇万ドル、輸入は四〇万ドルであり、輸入品の主なものはコーヒー、ラム酒などである。
コスタ・リカとわが国との貿易収支は年々わが方が著しい出超(一〇対一程度)を続けているところ、コスタ・リカはこれを不満として綿花等一次産品の買付を強く要望しているがいずれも商業べースによる買付が困難な状況にある。両国政府としては当面両国貿易を活発化する足掛りとして、両国政府間の貿易協定を締結するための交渉を進めて来たが、一九六五年九月ヒメネス同国経済財政大臣の来日を機に意見の一致を見るに至り、同月一八日東京において椎名外務大臣と同大臣が協定に署名した。
同協定は一〇カ条からなり、両国政府はそれぞれの国で施行されている法令の範囲内で、貿易および関税についてできるだけ好意的な待遇を相手国に与えるとともに、相手国国民の出入国、居住および事業活動を容易にすることを定めている。