西欧諸国と日本

 

1 西欧諸国との貿易経済関係

一九六五年のわが国の対西欧輸出額は、通関統計で一〇億八、五四一万ドル(うち対EFTA四億六、〇一五万ドル、対EEC四億八、四七五万ドル)に達し、前年に比べ二五・九%とわが国の輸出の全般的拡大基調を反映する高い増加率を示した。これに対し、西欧諸国よりの輸入は七億二、六〇八万ドル(うちEFTAより三億二、〇一一万ドル、EEC三億九、一六二万ドル)にとどまり、前年に比べ一〇・七%も減少した結果、わが国の対西欧貿易は、三億五、九三三万ドルの大幅出超となった。輸入の減少はわが国の景気沈滞によるところが多いと思われるが、輸出の伸長は、わが国の産業の国際競争力が強化されたこと、西欧諸国の経済が緩慢ながらも上向きの基調を維持したこと、従来よりの西欧諸国の対日輸入制限緩和が効果を現わしたことなどに基づくものと考えられる。

西欧諸国においては、一九六五年、前年に引続いて賃金、物価の上昇圧力が感ぜられ、主要国において慎重な財政、金融政策がとられたため、米国におけるが如き急速な経済活動の拡大はみられなかった。もとより、景気動向は一様でなく、英国においては依然停滞傾向がみられたのに反し、西欧経済は拡大局面を持続して過熱の徴候を呈し、国際収支は年末には七年半ぶりに赤字基調に転じた。

他方、フランス、イタリアにおいては、下半期より生産活動がゆるやかながら上昇の気運にある。いずれにせよ、西欧の一部諸国にみられた活動の伸び悩みは、わが国の対西欧輸出を抑制する要因とはならなかった。

わが国の総貿易額に占める対西欧貿易額の比率は、輸出では前年とほぼ同様一二・八%、輸入では減少して八・九%となっている。

西欧が世界生産の約三〇%、世界貿易の約四〇%を占める経済圏であることを考えれば、この割合は未だ不充分なものであり、わが国の対西欧貿易はなお伸長の余地を残していると思われるので、今後とも政府及び民間において輸出振興をはかると同時に、西欧諸国における対日輸入阻害要因をとり除く努力を続ける必要がある。

一九六五年においても、前年に引続き、わが国の対西欧輸出拡大の阻害要因の一つである対日差別制限縮小を中心とする交渉が進められた結果、独、墺、伊、仏等の諸国において対日差別制限が緩和されたほか、一九六三年以来無協定状態となっていたスペインとの間に新たな貿易協定が締結された。しかし、ドイツ、英国等一部の諸国については、対日輸入制限品目がいわゆるハード・コアに近づいていることや、わが国との貿易が逆調傾向にあること等の理由により、大幅な対日待遇改善は困難になりつつある。

また、従来わが国と西欧諸国との経済関係は二国間の貿易問題が中心であったが、最近はOECD、ケネディ・ラウンドのような多数国間の場における接触もますますひんぱんになる一方、資本、技術の交流、産業界指導層の間の人的交流、物価、所得、社会政策等に関する共通の問題意識、国際流動性問題等のような新しい接点が増加している。一九六五年において、西欧の一部諸国がわが国に資本技術の自由化を要請し、また産業間の人的交流が、日仏経済委員会の結成や日英財界人会議の形で現われたことは注目される。

外務省としては、今後の対西欧経済外交については、従来どおり、二国間交渉、ケネディ・ラウンド、OECD、その他あらゆる場においてわが国の輸出環境の改善に努力するほか、資本技術の交流の如き新しい問題についても、開放経済体制樹立への要請と、わが国経済の特殊性との調和をはかりつつ、綜合的に国益をはかるよう弾力的な対外折衝を行なって行く考えである。

なお、一九六五年に行なわれた西欧諸国との交渉の成果は次の通りである。

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2 日墺貿易取決め

日墺貿易は一九六二年九月一七日ウィーンで年間取決めが署名されて以来、順次締結される年間取決めによって律せられている。一九六五年五月から一九六六年四月までの期間について貿易交渉は一九六五年四月ウィーンで行なわれ、同年四月三〇日次の如き内容の公文が交換された。

(1) オーストリアは日本に対し、新たに鉄鋼製品、金属加工機械等四三品目を完全自由化する。(この結果、オーストリアの対日自由化品目は六五五品目となった。)

(2) オーストリアは、綿以外の繊維、陶磁器、玩具、発電機等八一品目の対日非自由化品目について、一五八万ドルの二国間割当枠を設定する。わが国の対墺綿製品輸出については、ジュネーブの綿製品長期取極に基づき、一九六二年九月一七日に有効期間五年の日墺綿製品取決めが締結されている。

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3 第五次日伊混合委員会

一九六〇年春の第一六回ガット総会の決定により、イタリアはその残存輸入制限について関係各国と二国間協議を行なうべきこととされ、この決定に基づいて日伊協議が両国代表からなる混合委員会の形で同年秋より開始された。この協議は、一九六一年夏の小坂・セーニ両国外相間の了解によって促進され、その後毎年行なわれている。一九六五年においては、六月に東京で第五次混合委員会が開かれた結果、伊側において次のような対日待遇改善が行なわれることとなった。

(1) イタリアは日本に対し、チュール・レース、さけ缶等計二六品目を(うち一品目は部分的に)自由化する。(この結果対日差別制限は九七品目となった。)

(2) 非自由化品目については、対日枠を拡大する。

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4 日本・ノールウェー貿易取決め

日本とノールウェーとの貿易関係については、一九六二年以来毎年貿易交渉が行なわれノールウェーの対日待遇は漸進的に改善されている。一九六五年においても、一一月に東京で両国代表団の間に協議が行なわれた結果、ノールウェーはわが国に対し繊維製品六品目を自由化した。

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5 日本とスペインとの貿易協定の締結

スペインは一九六二年に締結された取決めによってわが国はOECD諸国に対するものと同じ待遇を与えていたが、両国間貿易がわが国の大幅出超になったため、スペイン側はこの取決めの延長を望まず、取決めは一九六三年三月に終了したのでその後両国間は無取決め状態となっていた。両国政府の間には一九六四年以来非公式な話合いが進められ、さらに一九六五年一二月にマドリッドにおいて正式交渉が行なわれた結果、本年二月二二日新協定が署名された。この協定は本年一月一日より一年間有効であるが、その後も両国政府間の合意により延長が可能である。協定の主な内容は次のとおり。

(1) スペイン政府は、市場攪乱が起されるおそれのない限り、輸入が許可される品目及び目下スペイン政府が輸入を約束できない品目計約三〇〇品目を除き、日本産品の輸入に対し自由化及び全地域向け割当制度の利益を無差別に与える。

(2) 日本政府は、スペイン産品の輸入に対し、自由化及び全地域向け割当制度の利益を無差別に与える。

(3) 相互に法令の範囲内で相手国船舶に対し無差別待遇を与える。

この協定の締結の結果、今後の両国間貿易に安定した拡大の基礎が与えられるとともに、日本船舶のスペイン寄港についても無差別待遇が確保されることとなった。

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6 日仏貿易年次協議

一九六三年五月一四日署名の日仏通商協定及びその付属議定書に基づく年次協議が、一九六五年一一月一六日よりパリで、両国代表団の間に行なわれていたが、本年三月二日右協議の結果に関する公文がパリで交換され関係文書が署名された。今回の協議によりフランスはわが国に対し、合板等四品目を完全自由化したので、フランスの対OECD制限品目数と日本を含むその他諸国に対する制限品目数との差は八七品目となった。また、フランスはジュネーヴの綿製品長期取極に基づき、日本製綿製品の輸入のための枠を一九六五年四月一日より一九六六年三月三一日までの期間につき前年比約一〇%拡大した。

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7 日独貿易交渉

一九六〇年七月一日の日独貿易協定及び一九六二年一〇月五日のドイツの輸入制限についての協議に関する議定書に基づき、日独間の貿易に関する協議が一九六五年一〇月一四日よりボンで開催された。

今回の協議の結果、ドイツはわが国に対し漁網を自由化したので、ドイツの対日差別制限品目は一九品目を残すのみとなった。また独側は、これら制限品目の日本よりの輸入のために開設される枠を一九六六年について、前年より大幅に拡大する用意がある旨を明らかにした。

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8 日本・ベネルックス貿易年次協議

日本とベネルックスとの間の貿易問題については、一九六〇年署名の通商協定及び一九六三年署名の貿易関係に関する議定書に基づき、毎年協議が行なわれているが、一九六五年においても一二月よりハーグで協議が行なわれた。この協議の結果、ベネルックスはわが国に対し人絹糸、鉛筆等五品目を自由化したので、ベネルックスの対日差別制限品目数は二八品目となった。

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9 英国との貿易関係

わが国と英国との貿易は、一九六二年の通商航海条約の締結を契機として拡大のテンポにあり、一九六五年のわが国の対英輸出は二〇五百万ドル、対英輸入は一六三百万ドルとなっている。わが国は英国に対し、主にさけます缶詰、船舶、二輪車、軽機械、繊維品、雑貨を輸出し、英国からは繊維機械、事務用機器、毛織物等を輸入しており、一九六二年以来若干の出超を続けている。

一九六四年一〇月、英政府は、国際収支改善のため輸入課徴金制度を導入し、各国の英国向け輸出商品のうち、食料品、原材料、船舶等を除く全てのものにつき従価一五%の課徴金を付加することとした。わが国は、この制度の対英輸出に与える影響が大であるとして、ガット、OECDの場における討議に加え、二国間の場において右課徴金の早期撤廃、経過措置による既契約分の救済等の申し入れを行なったが、英国の方も、諸般の情勢を考慮し昨年四月から課徴金の賦課率を一〇%に引下げた。

わが国は英国との間で、一九六五年八月から、本年の日英貿易についての交渉を行ない、一二月末まで続けられた。本年については、一九六二年の日英通商航海条約締結当時のスケジュールに従い、金属洋食器及び一部の玩具が自由化され、この結果、輸入制限の対象品目は陶磁器及び金属製玩具の二品目のみとなる。また、わが国は、本年以降軽めの絹織物およびトランジスターラジオに対する輸出自主規制を廃止したため、自主規制の対象となる品目は繊維製品のみとなる。

英国は、一九六四年一〇月、わが国のサッカリン対英輸出にダンピング容疑があるとして、日本側の説明を求めて来たため、わが国は過去の輸出事例につきダンピングでない旨回答していたところ、突然、昨年八月に日本及び韓国産サッカリンに対し、ダンピング関税を課する旨通告して来た。これに対し、わが方は在京英大使館を通じ英側に強く抗議を申し入れている。

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10 アイルランドとの貿易関係

わが国の対アイルランド貿易は、ここ数年わが国の出超となっており、一九六五年についても輸出九一五万ドルに対し、輸入は一五〇万ドルに止まっているが、輸入は少額ながら漸増傾向にある。

主要輸出品目は綿製品、ミシンであり、他方輸入については、少額であるため各年の偶発的な取引に左右される状態にある。

アイルランドは昨年一一月二日から国際収支難を理由として一五%の輸入課徴金を実施したため(但し英国、カナダ及び南ア産品に対してはその一部につき一〇%を適用)、わが国は、ガット、OECD等の場を通じ、本課徴金措置が当初の予定通り本年三月末に撤廃されるよう希望している。

なお、アイルランドは昨年一二月一四日、英国との間で本年七月一日から一九七五年七月一日までに自由貿易地域を設定する協定に署名している。

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