四 わが国の経済協力の現状と問題点
経済協力に関する国際協調の動き
わが国は、低開発国援助のための国際協力活動には、OECDの開発援助委員会(DAC)の前身である開発援助グループ(DAG)の創設以来積極的に参加しているが、一九六四年から六五年にかけては、援助条件緩和の問題および援助努力増大の問題に関連して、DACの活動上その設立以来もっとも画期的な発展が行なわれた。即ち、国連貿易開発会議の勧告に対応し、また、DACの従来の作業を更に掘り下げるために、一九六四年秋に三つの作業部会(開発援助の資金的側面の諸問題に関する作業部会、援助需要作業部会、国連貿易開発会議作業部会)が設置され、これら作業部会においては、DACにとって重要な援助政策のいくつかの部門についての検討が行なわれた。これらの委員会において、援助条件緩和に関する勧告案および援助努力に関する勧告案の二つが作成され、一九六五年の七月に開かれたDACの最高機関である上級会議に提出され、修正うえDACの二つの勧告(援助条件勧告および援助努力・開発努力勧告)として採択された(詳細については、DACの活動の項を参照)。
一九六五年のDAC上級会議は、DAC設立以来はじめて加盟国の閣僚レベルの援助担当責任者の参加を得て開催され、わが国からも椎名外務大臣が出席し、国民所得の一%を援助に振り向けるという国連貿易開発会議の勧告に沿って目標達成に努力したいとの趣旨を明らかにし、日本政府の誠意を披瀝した。
DAC(Development Assistance Committee)は、低開発国への資金の流れを増大し、援助の有効性を高め、また、加盟国の援助努力の調整を行なうことを主な目的とするOECDの一機構である。現在、DACには、オーストリア、ベルギー、カナダ、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、日本、オランダ、ノールウェー、ポルトガル、スウェーデン、英国、米国および一九六六年二月に参加したオーストラリアならびにEEC(欧州経済共同体)委員会が加盟している。DACの活動の主要なものは次のとおりである。
(1) 第四回年次審査
年次審査は、加盟国の援助政策と実績とを参加国による審査の方式によって検討するもので、DACの活動の中心をなす。第四回年次審査は、一九六五年五月から六月にかけて実施され、このうちわが国に対する審査会議は、六月一日に、米国、ポルトガルおよびオーストリアが審査国となり、全DAC加盟国の代表の出席の下に開催された。
論議の中心は、わが国の援助量拡大の努力、援助の制約要因、海外経済協力基金の活用、援助条件等に置かれた。援助量の増大については、わが国は、経済協力総額を国民所得の一%とすることを目標として努力するとの発言を行なったが、これに対してDAC側からは、わが国に対し、援助努力を重ねるとともに援助条件の緩和を行なうべきである等次のような要請があった。
(イ) 日本が、これまで以上に、開発援助の分野において責任をもって、低開発国に対する援助計画の作成、プロジエクトの開発およびその有効な実施に努力することが望まれる。
(ロ) 援助資金源の問題については、広範囲な援助計画を実施することにつとめ、国家予算においてもその優先順位を高めるよう努力し、援助の増大に努力することが望まれる。
(ハ) 援助条件緩和の措置を早急にとることが必要である。
(ニ) 援助担当機関の関係を調整し、また、援助問題の重要性を高めるため、援助担当機関の地位を高めることが望まれる。
(ホ) 援助問題に関し、輿論の啓発のため一層努力することが必要である。
(2) 共同援助努力の改善
一九六四年の国連貿易開発会議において、先進国はおのおのその援助努力を国民所得の1%とすべき旨の勧告が全参加国一致して採択され、また、先進国の低開発国向け融資の条件を、返済期周二〇年、利率三%を準則とすべしとの勧告が、主として低開発国の賛成により採択されたが、一九六五年七月のDAC上級会議では、これらの勧告に対応して、(イ)援助条件と低開発国の債務累積との関係、(ロ)援助需要と自助努力などの問題に関して討議が行なわれ、その結果、援助条件勧告および援助努力開発努力勧告の二つの勧告が採択された。
援助条件勧告
(イ) 加盟国は、政府べース援助の約八○%を、贈与もしくは贈与に準ずる援助または利率三%は返済期間二五年、金利三%を基準とする緩和された条件の借款により供与するよう努力する。借款の据置期間は平均七年とするよう努める。なお、援助の七〇%を贈与、または贈与に準ずる援助をもって供与している国には、この義務が課されない。
(ロ) 援助額の構成(贈与、贈与に準ずる援助、無利子借款、ごく低利の借款等の占める割合)にも考慮を払う。
(ハ) 加盟国は、(イ)の援助目標を三年以内に達成するよう努力する。但し、現行の援助条件が目標と著しくかけ離れている国は、それ以上の期間を要しても差支えない。
(ニ) 緩和された条件による援助を限られた地域に集中している国は、その供与の範囲を一層拡大するよう努力する。
(ホ) 援助資金による買付け先制限を緩和縮小するよう努力する。
(ヘ) コンソーシアムその他の機構を通じて、被援助国ごとに妥当な援助条件を設定するよう努力する。
(ト) 加盟国は、援助条件緩和の進展およびそのためにとった制度上、予算上および法律上の措置につき報告し、年次審査の一部として審査を受ける。
援助努力・開発努力勧告
(イ) 加盟国は、国連貿易開発会議の採択した国民所得の一%という援助目標の達成、さらにはそれを超えて援助努力を行なうよう勧告される。
(ロ) 援助の有効性が、低開発国の援助受入れ能力、開発能力に大きく依存していることを認識し、援助供与を低開発国側の資源利用能力に関連づけるよう努める。
(3) 勧告とDAC加盟国の援助の実情
(イ) 前記の勧告のうち、援助条件緩和の問題は、DAC開発援助の資金的側面の諸問題に関する作業部会において、また、援助努力の問題は、援助需要作業部会においてそれぞれ検討、作成された原案が、DAC本会議における討議を経て、上級会議で修正の上、採択されたものであるが、わが国の援助の実情は、勧告にかかげられた目標とはかなりかけ離れている。即ち、一九六四年のわが国の政府ベースの援助額(コミットメント・べース)一億八、三一〇万ドルのうち、賠償、技術援助、国際機関への拠出、出資金など緩和された条件の援助の合計額の比率は五一%に過ず、また援助額の国民所得に対する比率は、○・四%台であって、目標の半分以下に過ぎなかった。一九六五年に入っては、アジア開発銀行へ二億ドル拠出の約束、日韓国交正常化に伴なう無償協力三億ドル、利率三・五%、期間二〇年の長期低利の借款二億ドル、中華民国に対する一億五千万ドルの借款の一部を期間二〇年、利率三・五%で供与する等、勧告目標の達成のために最善の努力を払っている。
(ロ) わが国以外のDAC加盟国の援助の実情をみると、援助量については次表のとおりで、米国、英国、ドイツはそれぞれ国民所得の一%に近い援助実績を持ち、フランスは二%近くに達している。援助条件では、贈与および贈与に準ずる援助の比率が七〇%を超える国(条件緩和義務を課されない国)は、ノールウェー、ベルギー、フランス、デンマークの四カ国、贈与および贈与に準ずる援助は七〇%に達していないが、援助条件が緩和目標に達している国は、米国、オランダの二カ国、また、これに準じてかなりよい実績のある国は、ドィッ、英国、カナダなどであり、わが国(期間および利率についての目標達成率はともに五一%)と、イタリア(同上二五%)は勧告のいう目標からかなり離れている(一九六三年の実績による)。
(4) 援助の調整
開発援助を一層効果的に実施するため、DACは特定の低開発国または低開発地域に対する援助調整のための、国別会議または地域会議を開催している。この会議には、DACに加盟している援助国が参加し、対象国の経済開発状況の分析、開発計画、開発事業等についての情報、意見の交換、援助の調整等が行なわれる。一九六五年三月には、前年に引き続き、ラテン・アメリカに関する第三回の会議が開かれた。またタイに対する援助については、バンコックにDACの対タイ援助調整グループが設置されており、タイに対する技術援助に関する情報交換、援助需要の検討等が行なわれている。
(5) その他の関連事項
開発センター
OECD開発センターは、一九六二年、先進国が経済開発に関し有する知識を集中し、低開発国の利用に供することを目的として設立された。センターの活動は次のとおりである。
(イ) 知識の交換と、経験の交流
経済専門家チームの派遣による巡回セミナーの開催(一九六四年にはアフリカ諸国、一九六五年にはラテン・アメリカ諸国で開催された。)、人的資源開発のための専門家の派遣、工業生性問題に関する経験交流のための国際会議の開催および低開発諸国から寄せられる各種の質問に対する回答等を行なっている。
(ロ) 訓練または研究のための活動
低開発国に対する援助需要量に関する援助供与国と援助受入れ国との間の意見の交換のための研究会、各国の開発調査および訓練機関の代表者会議等、研究、訓練のための会議を主催している。
(1) 協議グループの結成
援助国間の援助調整機関として、世銀の斡旋の下に、協議グループが結成されている。これは、特定低開発国の経済開発を援助するため、多くの場合被援助国も含めて、参加国および国際機関との間で援助の実績、援助計画、被援助国の開発計画、資金需要、資金供与の見込みなどについて意見や情報を交換し、援助政策の調整を行なおうとするものである。しかし、協議グループは債権国会議(コンソーシアム)のように開発計画に要する外貨資金の供与を前提としたものではなく、必ずしも資金供与と結びついたものではない。協議グループの結成に際しては、国際金融機関としての世銀が、その経験と機能を充分に発揮しうるよう配慮されている。
現在までに、ナイジェリア(一九六二年四月発足)、テュニジア(一九六二年五月発足)、コロンビア(一九六三年一月発足)、スーダン(一九六三年一一月発足)、タイ(一九六五年一〇月発足)、マレイシア(一九六五年一〇月発足)の六カ国について世銀協議グループが結成されているが、わが国も、開発援助における国際協調に参加する意味から、ナイジェリア、コロンビア、スーダン、タイおよびマレイシアの協議グループに参加している。
(2) 投資紛争解決に関する条約
国際復興開発銀行(いわゆる世銀)は、低開発国の経済開発には、民間投資が重要な役割をもつことを認識し、民間投資に関連して民間の投資家と投資先の国の政府の間で紛争が起った場合、これを国際的な調停ないし仲裁により解決することが民間投資促進に有益であると考えて、一九六二年以来、世銀が中心となって投資紛争解決のための国際センターの設立およびその手続に関する条約案の検討をすすめてきたが、一九六三年六月に、世銀で投資紛争解決に関する条約の草案が作成された。この草案につき、世銀は一九六三年一〇月から翌年五月にかけて、ヨーロッパ、アフリカ、ラテン・アメリカおよびアジア・極東の四地域のそれぞれにおいて世銀加盟国が指名する法律専門家の会議を開催して意見を求めた。一九六四年九月の世銀東京総会の決議に従い、世銀理事会は、加盟国政府が任命する法律専門家からなる法律委員会の協力の下に、条約案の審議を行ない、一九六五年三月「国家と他国の私人との間の投資紛争の解決に関する条約」を作成して加盟国政府に送付し、署名および批准を求めた。
この条約は、二〇カ国の署名および批准をもって発効するが、一九六六年二月一日現在、三三カ国が署名しており、三カ国(ナイジェリア、モーリタニア、象牙海岸)が批准している。わが国は、一九六五年九月二三日に、これに署名した。
アジア生産性機構は、一九六一年五月にアジア諸国における生産性の向上を目的として設立された国際機関であり、加盟国は日本、フィリピン、中華民国、韓国、タイ、ヴィエトナム、パキスタン、インド、ネパール、イランの一〇カ国および香港である。加盟国各一名の政府代表理事から構成される理事会は、機構の最高機関であり、事務局は東京におかれている。機構の事業活動は次のとおりであるが、事業の実施のため、わが国は積極的な協力を行なっている。
(1) 訓練コース、セミナーおよびシンポジウムの開催
中小企業の経営改善、生産技術の向上等を内容として、加盟国からの研修員あるいは専門家に対し、訓練コース、セミナーおよびシンポジウムを実施しており、実施にあたっては、わが国の企業が多大の協力を行なっている。
(2) 視 察 団
生産性向上のため、機構は、加盟国の専門家からなる視察団を派遣し、見学・学習にあたらせている。また、その報告に基づき報告書を作成し、加盟国に配布している。
(3) 専門家の派遣
機構は加盟国に専門家を短期間提供し、加盟国の関係者に技術的助言を与えている。
(4) そ の 他
機構は、加盟国から生産性向上に必要な技術上の相談を受け、回答を与え、また調査、広報活動として、生産性関係文献の翻訳、視聴覚用教材の作成、PR資料の配布を行なっている。
なお、わが国は、APOの活動を強化するため、一九六五年には六万六、五〇〇ドルの分担金のほか、八万ドルの特別拠出金およびわが国で実施される機構の事業費の一部として、八万七、四〇〇ドルを支出した。