二 国際連合における活動とその他の国際協力
国際連合第二〇回総会
国連第一九回総会を事実上流会させた国連の平和維持活動の経費問題は、日本を含む三三カ国委員会が三月から八月末まで審議を続け、具体的な問題点については何等解決が見出せなかったが、国連総会の正常化を望む声が特にAA諸国を中心にして強く、結局問題を棚上げの形とすることになり、第一九回総会は、九月一日に一日だけ再開して右特別委員会の報告を受理して閉会した。また、第一八回総会によって決議された安保理事会及び経社理事会の議席拡大のための憲章改正は、必要数の加盟国の批准を得て八月三一日に発効した。
かくして、国連第二〇回総会は、二年ぶりに正常な議事のもとに九月二一日開会された。過去二年間の議題が山積し、議事は繁忙を極めたが、総会は、よくその一〇八の議題を消化して一二月二一日閉会した。
なお、本総会において、新たに、ガンビア、モルディヴ及びシンガポールの加盟を得て、国連加盟国数は一一七カ国(インドネシアを含まず)となった。
国連第二〇回総会に対するわが国代表団の主要構成員は、次のとおりであった。
政府代表 椎 名 悦三郎 外務大臣
政府代表 松 井 明 国連代表部大使
〃 鶴 岡 千 仭 駐スウェーデン大使
〃 近 藤 晋 一 駐ニュー・ジーランド大使
〃 服 部 五 郎 駐セネガル大使
〃 安 倍 勲 国連代表部大使
顧 問 星 文 七 国際連合局長
〃 島 内 敏 郎 駐ロス・アンゼルス総領事
代表代理 滝 川 正 久 国際連合局参事官
〃 木 本 三 郎 在カナダ大使館参事官
〃 人 見 宏 国連代表部参事官
〃 横 田 弘 〃
〃 久保田 キ ヌ 立教大学教授
椎名外務大臣は、九月二八日の総会本会議において一般討論演説を行ない、要旨次の如く述べた。
(1) 国際連合は言語に絶する戦争の惨害の中から、正義と平和を求める人類の念願を土台として築き上げられたものであり、この世界平和の殿堂をあらゆる風雨から護りぬかねばならない。第一九回総会は不幸にして憲章第一九条の適用問題をめぐって行詰ったが、国連加盟諸国の国連に対する信頼と期待は揺ぎない。その証左として、憲章第一九条の適用問題についての対立は各国の基本的態度の相異にかかわらず、大乗的見地から解消され、かくして総会の正常復帰が実現しているし、また、安全保障理事会と経済社会理事会の議席を拡大する憲章改正は、加盟国多数の批准を得て、短時日の間に発効の運びに至っている。
(2) 国際の平和と安全の維持について第一義的責任を有しているのは、いうまでもなく安全保障理事会である。新たに拡大された安全保障理事会は、その任務を充分果しうるよう真剣な努力を傾げる必要がある。しかし安保理事会がその任務をはたし得ない場合、総会は、憲章によって与えられている機能と権限に基づいて、問題を直ちに審議し、適当と考えられる平和維持活動について勧告を行なうべきである。
また、将来の平和維持活動経費については、自発的拠金、当事国負担等の特殊方式による場合を除き、全加盟国の共同責任の原則が堅持されるべきであり、かつ、総会の経費割当権限も維持されるべきである。
(3) 紛争の平和的解決の方途の一つとして、世界の各地域になんらかの形の国際連合の代表を設けることを示唆したい。
政治の面においても、経済の面における各地域経済委員会のように国際連合の代表、例えば事務総長の代表が、各地域に配置されることが有益と考えられる。
また、紛争発生の際に、調査団や調停委員会等の構成および派遣を容易かつ迅速ならしめるための方法として、第三総会の決議があることについて注意を喚起したいと思う。
(4) ヴィエトナム問題については、共産側が頑くなな態度を改め、無条件話合い開始の提案に対し、歩み寄りの態度をもって臨むならば、ヴィエトナムの平和を実現する契機が生まれてくると信ずる。わが国は、すべての紛争当事者が早急に話合いに入ることによって、平和的解決をはかるよう強く要請する。同時に、この目的実現のため、全国際連合加盟国が援助と協力を行ならよう呼びかける。
(5) わが国は、中国と地理的、歴史的、文化的に極めて密接な関係をもっており、中国問題の帰趨に重大な関心をもたざるを得ない立場にある。
わが国が従来、この問題の審議は、関連するすべての要素の現実的かつ均衡のとれた評価の上に立って、慎重に行なう必要があると主張してきたのは、中国問題が困難かつ複雑な性格を有し、アジアの平和に重大な関係をもつものと信ずるがためである。中国代表権問題は、中国問題の本質に関係する重要問題であるので、今次総会はこの問題の審議に当って引続き慎重な態度をとることが必要である。
(6) いわゆる南北問題の解決は、今日世界平和の観点からみても重要な課題である。
わが国は、低開発国の輸出の拡大および多様化のために、できる限り協力すると同時に、これらの国に対する援助の充実についても、国民所得の一パーセントを援助目標としつつ、一層の拡充を図りたい。
また、わが国は、同委員会が推進しているアジア開発銀行設立計画には、当初より積極的に協力してきており、この銀行に二億ドルの出資を行なう予定である。
(7) 本年四月、国際連合軍縮委員会が五年振りに開催され、同委員会の勧告に基づき、昨年来休会していた一八カ国軍縮委員会が再開されるに至ったことを歓迎する。
今や核実験全面禁止の実現と核兵器拡散防止の実施は、世界にとり焦眉の急を要する問題となっている。このときに当り、中共が第二回核爆発実験を行なったことは誠に遺憾にたえない。
中共およびフランスが世界の要望に応え、部分的核兵器実験禁止条約に速やかに参加することを熱望する。
核実験停止は、非核保有国が新たに核兵器の開発を行なうに際し、核実験を必要とする点を考慮するとき、核兵器拡散防止の有効な手段であるといえる。
関係国がその見解を調整し全面核実験停止条約が一日も早く締結されることを希望する。なお、地下核実験の探知および査察の方法につき、核保有国のみならず、地震研究等の進んでいる非核保有国が共に協議、研究することが望ましいと考えわが国も、この面においてできる限り協力したいと思う。
核兵器の拡散防止措置については、各国の安全保障について充分な配慮が払われるべきであり、また、核保有国および非核保有国の双方がいずれも犠牲を払うとの立場から検討されなければならない。この問題については、核兵器製造能力を有する非核保有国の自覚と自粛が要望される。これと同時に、これらの国の発言権は尊重されなければならない。
世界軍縮会議の開催に原則的に賛成する。この会議が実質的成果を収めるためには、参加国の範囲、開催の時期、優先的に審議すべき議題を決定するなど慎重な検討と準備を要する。
(1) 平和維持活動特別委員会の活動と総会の正常化復帰
平和維持活動特別委員会(本委員会設立の経緯については「わが外交の近況(第九号)」五三頁以下参照)は、一九六五年三月から八月の間一八回会議を行い、総会に対する中間報告および第二次報告を採択し、(イ)国連総会を正常化すべきこと、(ロ)スエズ、コンゴー派遣国連軍経費に関しては憲章第一九条適用は提起されないこと、(ハ)加盟国の自発的かつ実質的拠金により国連財政の窮状を解消すべきことの三点について委員会の合意が得られた旨確認したが、将来における国連の平和維持活動方式については、各種の議論が対立ないし並列したままなんらの合意も成立せず、単にその概括的指針を示すにとどまったので、同委員会は上記中間報告の中で今後も活動を継続することを決定した旨報告した。
九月一日、平和維持活動特別委員会の右の報告を審議するため再開し、右報告を採択した。これにより国連第二〇回総会は、正常な議事運営による審議に復帰することが決定した。
(2) 国連第二〇回総会における審議
国連第二〇回総会は、アイルランドの提出した議題「将来における平和維持活動の決定および経費割当問題」、および事務総長の提出した議題「平和維持活動の全面的再検討(平和維持活動特別委員会の報告)」の二議題を一括し「平和維持活動のあらゆる分野にわたる全ての問題の包括的検討、(a)平和維持活動特別委員会の報告、(b)将来の平和維持活動の設置および経費の支弁」として採択し、右議題を特別政治委員会に割当てた。
一一月一七日、アイルランド等八カ国は、総会における平和維持活動の設置に関する決議案の表決については特別の規則を適用し、かつ、その経費の支弁についても特別の分担方式をもって各国に分担せしめる趣旨の決議案を提出したが、これら八カ国は、一二月六日、右の決議案を全面的に改訂し、要旨次の決議案を提出した。
(イ)平和維持活動特別委員会の作業を継続し、平和維持活動と憲章第七章との関係、平和維持活動の設置に関する総会と安保理事会の権限の調整、平和維持活動に関する決議の履行に必要な人員や便益の供与についての取極め、平和維持活動の経費の支弁の諸問題について検討するよう勧誘する。(ロ)将来の平和維持活動問題の解決までの期間の経費分担方式として、低開発諸国、安保理常任理事国を除く先進諸国、安保理常任理事国(但し当該平和維持活動の設置に賛成した常任理事国のみ)がそれぞれ経費の五%、二五%、七〇%を負担するようにすべきである。
ついで一二月七日、わが国を含む一九カ国は、要旨次の決議案を提出した。
(イ)平和維持活動特別委員会に対し、作業を継続し第二一回総会に報告することを要請する、(ロ)本件議題に関する現総会中の討論の記録を特別委員会に送る、(ハ)特別委員会が、委員の中から役員を選出するよう要請するとともに、引続き総会議長および事務総長の緊密な協力を受けるよう希望する、(ニ)国連加盟諸国が自発的に拠金をし、新たな希望と自信とをもって将来に向うことが出来るよう要請する。
特別政治委員会は、一二月一〇日、前記の一九カ国決議案を賛成八八、反対一、棄権三をもって採択したが、一三日、テュニジア等九カ国が、前記のアイルランド等八カ国決議案を平和維持活動特別委員会に付託し、その検討を勧誘する趣旨の決議案を提出、この九カ国決議案を先議し、賛成五四、反対一八、棄権二三をもって採択した。これにより、アイルランド等八カ国決議案は表決に付する意味がなくなり、同決議案の提案国はこれを撤回した。
一二月一五日、総会本会議は本件を審議し、一九カ国決議案および九カ国決議案を、それぞれ賛成八七、反対一、棄権五、および賛成九三、反対一、棄権七をもってそれぞれ採択した。
(3) 国連財政の救済問題
ソ連、フランス等のスエズ、コンゴー国連軍経費不払いにより生じている国連財政の救済問題(赤字額約一億ドル)については、第一九回総会(九月一日の再開総会)が採択した平和維持活動特別委員会の前記の報告書により、全加盟国の自発的拠出、特に先進国の実質的拠金により解消すべきことが決定したが、これまでに英国(一千万ドル)、カナダ(四百万ドル)をはじめ、北欧諸国、英連邦諸国等を中心に約二千万ドルの拠金が行なわれており、わが国も右の拠金に応ずる旨の意向を表明している。
(1) 一九六五年八月二五日、アルバニアなど一一カ国は、「国連における中華人民共和国の合法的権利の回復」なる問題を第二〇回総会の議題として採択するよう要請し、同年九月二四日、総会本会議は、これを正式に議題として採択した。
同年一一月八日、本会議は本件審議を開始し、同月一六日まで一般討論を行なったが、この間、五一カ国が発言した。わが松井代表は一一月一一日、要旨次のごとき演説を行なった。
「わが代表団は、本問題に対する従来のわが国の態度を変更する必要を感じていないことを述べたい。なぜならば、中華民国政府も中華人民共和国政府も、現実にそれぞれの領域に対し、有効な支配を行なっており、この両政権はともに唯一の合法的政府として排他的地位を要求し続けている事実は、今日においても変化していない。また、この両政権の国連に対する態度には差があり、国府は今日まで一貫して憲章の義務を忠実に履行し、国連の発展に貢献してきたのに対し、中共は国連の権威を認め、加盟国としての義務と責任を守る意向を有しているかどうか疑問がある。さらに、最近の国際情勢よりして本間題の帰趨いかんが、アジアひいては、世界の平和と安全に重大関係を持つのみならず、国際連合の基礎に直接影響する重大問題であることは明らかであるからである。したがって、わが国としては、国府を追放し、中共の代表権を承認するというごときいかなる解決提案にも反対である。私は第一六回総会で採択された重要事項指定方式が、万人の納得しうる解決を確保するために適切で、永続的効力を有するものと信ずる。」
(2) 同年一一月一五日、フィリピン、日本、米国、イタリア、コロンビア、オーストラリア、タイ、ブラジル、ガボン、マダガスカル、(のち、ニカラグアが参加した)の各国は、「中国の代表権を変更するいかなる提案も国連憲章第一八条に従って重要問題であることを決定するとの第一六回総会の決定を想起し、この決定は依然有効である旨確認する」との趣旨の決議案を提出した。また、同日、アルバニア、アルジェリア、カンボディア、コンゴー、キューバ、ガーナ、ギニア、マリ、ブルンディ、ルーマニア、シリア(のち、ブルンディが共同提案国より脱退し、パキスタンおよびソマリアがこれに参加した。)の各国は本件に関し、「一九六四年一〇月の非同盟諸国元首会議の勧告に従い中華人民共和国のすべての権利を回復し、その代表を国連における中国唯一の合法的代表と認め、蒋介石の代表を国連及びそのすべての関連機関において不法に占めている席から即時、追放することを決定する。」旨の決議案を提出した。同日午後より決議案についての審議に入ったが、この間、一二カ国決議案に対し、セイロンが、「国府の追放」を意味する同決議案第二項を実質的に削除する修正案を提出し、また、モーリタニアが同決議案第二項について分割投票を要求したが、結局、両国は表決前それぞれの提案を撤回した。
一一月一七日、本会議において、先ず、わが国を含む一一カ国決議案に対する表決が行なわれた結果、これが賛成五六、(わが国を含む)反対四九、棄権一一、投票不参加一で可決され、次いで一二カ国決議案が表決に付され、これが、賛成四七、反対四七、棄権二〇、投票不参加三で否決され、これによって、今次総会における本件審議は終了した。
わが国は、一九六五年一二月、第二〇回国連総会において行なわれた安全保障理事会非常任理事国選挙において、必要多数の支持票を得て、一九六六年一月一日より一九六七年一二月三一日までの二年任期理事国に当選した。今回わが国の立候補は、アジアの一国としてアジアの平和のために努力したいとの願望に基づき、六月二九日の閣議の了承を得た後行なったもので、アジア・グループの統一候補としてグループ内各国の支持を得ていたものである。
安保理事会は、従来五常任理事国と二年の任期で選出される六非常任理事国により構成され、非常任理事国は、毎年国連通常総会においてその半数が改選される建前となっていたが、第一八回国連総会において採択された安全保障および経済社会両理事会の議席拡大(安全保障理事会は非常任理事国議席を四議席増加して一〇席とする)に関する憲章改正決議が八月三一日発効したので、第二〇回総会における安保理選挙は、一九六五年末任期満了となる三議席と右の憲章改正で増加される四議席(このうち二議席は一年任期)との合計七議席について行なわれた。
第二〇回国連総会は、一二月一〇日本件選挙を行ない、まず理事会議席増加前の旧三議席を占めて来た理事国の退任に伴う空席を補充するための選挙を行ない、これら議席にアルゼンティン、ブルガリアおよびマリを選出し(有効投票一一五票、必要得票数七七票、アルゼンティン一一三票、ブルガリア一〇八票、マリ一〇五票)、ついで理事会拡大に伴い増加された四新議席に日本、ナイジェリア、ウガンダおよびニュー・ジーランドを選出した(有効投票一一五票、必要得票数七七票ナイジェリア一〇七票、ウガンダ一〇二票、ニュー・ジーランド一〇一票、日本九八票)。
同日、総会本会議は、右の投票にひきつづき、新議席に選出された四理事国のうち、二年任期の二理事国を決定するための投票を行い、まずナイジェリアの二年任期を決定したが、残る二年任期の一理事国については再度の投票を行なったが決定せず、この一理事国を決定する投票は一二月一三日に延期され、一三日の最初の投票においてわが国の二年任期が決定した。任期決定のための各次投票内訳は次のとおり。
第一回投票(有効投票一一五、必要得票数五八票。ナイジェリア七七票、日本五六票、ニュー・ジーランド四九票、ウガンダ三入票)
第二回投票(有効投票一〇九、必要得票数五五票、日本五二票、ウガンダ三六票、ニュー・ジーランド二一票。)
第三回投票(有効投票一一二、必要得票数五七票、日本五七票、ウガンダ三九票、ニュー・ジーランド一六票。)
(1) 核拡散防止問題
軍縮問題のうち、近時最も注目をあびている問題は核拡散防止問題であるが、本件については、一九六五年中、まず、四月-六月の国連軍縮委員会、ついで七月-九月の一八カ国軍縮委員会および第二〇回国連総会において累次審議され、一九六六年に入ってからも再び一八カ国軍縮委員会で審議されている。これら審議概要は次の通りである。
(イ) 国連軍縮委員会における審議
本委員会は、中共核実験以後はじめて国連が軍縮問題を審議するものであるため、その成り行きが注目されていたが、この審議の過程において、米英等核保有国は核拡散防止条約締結の緊急性を強調し、従来のいわゆるアイルランド決議(わが外交の近況第六号第三〇頁参照)に従った核拡散防止条約を他の軍縮措置と切離し、かつ、これに先立って締結する必要があると力説した。これに対し、インド、カナダ、アラブ連合、スウェーデン等核兵器製造能力を有する非核保有国は、核拡散防止条約実現のためには、非保有国の安全を確実に保障することが前提条件であるとし、このためには核拡散防止条約の締結と併行して核保有国自身の核軍縮が必要であり、かつ、非核保有国の安全保障を確保するための措置を考えるべきであるとの趣旨の見解を披瀝した。他方ソ連は、核拡散の危険を防止することの必要性を強調しつつも、西側諸国が構想中の欧州における多角的核戦力計画は核兵器の拡散に他ならずとし、西側がこの構想を放棄しないかぎりいかなる核拡散防止条約も無意味であるとの態度をとった。
右不一致を反映して、国連軍縮委員会においては、核拡散防止に関する単独の決議案は採択されるにいたらず、結局一八カ国軍縮委員会における軍縮問題審議の一般方針に関する決議の中で、非核保有国の見解を反映せしめつつ「核拡散防止条約の締結は各種関連軍縮措置に関する計画を採用することにより容易にされ得るとの示唆に留意しつつ、一八カ国軍縮委員会が本問題を優先的に審議するよう要請する」との趣旨の一項が採択されるに止まった。
(ロ) 一八カ国軍縮委員会における審議
本委員会においても、核兵器拡散防止問題が審議の中心となった。この間、米国は英国、カナダ、イタリア等西側諸国と協議の上、核拡散防止条約の米国案を提出し、イタリアも単独に核拡散防止のためのいわゆる一方的宣言案(非核保有国は、一定期間を定めて核兵器の管理権を製造その他の方法により取得しない旨自発的に宣言し、のち、関係国が協議の上、この期間を延長してゆくとの趣旨のもの)を提出するなど、種々提案(米国条約案、イタリア案要旨については下記註参照)が行われた。ソ連等東欧諸国は、西側諸国が依然MLF、ANFのごとき多角的核戦力計画を通じて、西独への核兵器拡散を企画している旨非難し、右米国条約案についても、MLF、ANFのごとき核戦力計画の設立を排除するものではないので、これは討議の基礎たり得ずとの態度をとった。他方、インドをはじめとする中立諸国は核拡散防止措置とともに核保有国の軍縮(貯蔵核兵器の廃棄、運搬手段の削減等)を促進することが不可欠であるとの態度をとった。かくのごとく各委員国間の見解が相当分れたため、結局本委員会においては何らの合意も達成されなかった。
(前文省略)
第一条(核保有国の義務)
1 本条約締約国たる核保有国は、直接的に、または軍事同盟を通じて間接的に、核兵器を非核保有国の国家管理(コントロール)に移譲しないことを約束する。また、核保有国は、核兵器を使用する独立の権能を有する国および他の機構の総数を増加せしめるようないかなるその他の行動もとらないことを約束する。
2 本条約締約国たる核保有国は非核保有国の核兵器製造を援助しないことを約束する。
第二条(非核保有国の義務)
1 本条約締約国たる非核保有国は、核兵器を製造しないことを約束する。非核保有国は、直接的に、または軍事同盟を通じて間接的に、兵器を自国の国家管理(コントロール)に移すことを求めないことを、またはこれを受領しないことを約束する。また、非核保有国は、核兵器を使用する独立の権能を有する国および他の機構の総数を増加せしめるようないかなるその他の行動もとらないことを約束する。
2 本条約締約国たる非核保有国は、核兵器製造に関する援助を求めないこと、またはこれを受領しないこと、もしくは自らかかる援助を供与しないことを約束する。
第三条(保障措置)
本条約の締約国は、国際原子力機関の保障措置ないし類似の国際的保障措置を、あらゆる平和的原子力活動に適用することを促進するよう協力することを約束する。
第四条(定義)
本条約において
(A) 「核保有国」とは・・・・(年月日)現在核兵器を使用する独立の権限を有する国を言う。
(B) 「非核保有国」とは核保有国でない国を言う。
(第五条以下省略)
イタリアの核兵器不取得に関する一方的宣言案
核兵器の国家管理を有せざる・・・・国政府は、・・・・(省略)・・・・次のことを宣言する。
本宣言発效の日から・・・・カ年の期間、
1 核兵器を製造し、もしくは、その他の方法で核兵器の国家管理を獲得しないこと。
2 核兵器の製造に関し、他の国から援助を求め、もしくはこれを受理しないこと。
3 核活動に関し、国際原子力機関もしくは類似の国際保障の適用を受諾すること。
またさらに、次のことを宣言する。
1 この宣言の署名から六カ月以内に最少・・・・カ国によって同様の宣言がなされることを条件としてこの約束はなされること。
2 ・・・・カ年の前記期間満了三カ月前に、同様宣言に署名した他の諸国と協議し、核兵器拡散防止条約締結、もしくは、核軍備競争停止や核貯蔵削減のための国際協定達成の方向へ向っての進捗状況を考慮し、前記約束を延長すること。
3 ・・・・カ年の前記期間内に非核保有国が何らかの方法で核兵器の国家管理を獲得した場合には、あらゆる行動の自由を留保すること。
(ハ) 第二〇回国連総会における審議
第二〇回国連総会は前記(2)の一八カ国軍縮委員会の報告およびソ連より提出された核拡散防止条約案(下記註参照)を基礎として、核拡散防止問題を審議し、この結果、総会は一一月一九日、賛成九三(わが国を含む)、反対なし、棄権五(キューバ、フランス、パキスタン、ルーマニア、ギニア)をもって一八カ国軍縮委員会に対し、次の五点を考慮に入れた核拡散防止条約の締結につき審議することを求める決議[二〇二八(XX)]を採択した。
(i) 条約は、直接または間接に核兵器の拡散を許す「抜け穴」を含むものでないこと。
(ii) 条約は、核保有国、非核保有国の間における責任と義務の均衡を保つものであること。
(iii) 条約は、全面完全軍縮、特に核軍縮実現に向っての一歩たるべきこと。
(iv) 条約は、その有効性を確保するための受諾可能で、かつ、実施可能な規定を含むべきこと。
(v) 核兵器の「完全な不存在」を確保するために、各国家群が、地域的条約を締結する権利を害しないものであること。
(前文省略)
第一条 (核保有国の義務)
1 核兵器を保有する締約国は、いかなる形においても-直接あるいは間接たると、第三国あるいは国家群を通ずると否とを問わず-核兵器を、核兵器を保有しない諸国あるいは国家群の所有または管理に移譲せず、かつ、前記諸国あるいは国家群に対し核兵器の所有、管理または使用に参加する権利を与えないことを約束する。
前記の締約国は核兵器を保有しない諸国の軍隊または軍人に対し、たとえその軍隊または軍人がなんらかの軍事同盟の指揮下におかれている場合であっても、核兵器を移譲せず、核兵器の管理、または核兵器の配備ならびに使用に関する管理を移譲しないものとする。
2 核兵器を保有する締約国は、直接あるいは間接たると、第三国あるいは国家群を通ずると否とを問わず、現に核兵器を保有しない諸国に対し、核兵器の製造、製造準備またはこれら兵器の実験を援助せず、かつ、その他核兵器の製造もしくは使用のため利用され得る製造上、研究上、その他のいかなる情報または資料をも移譲しない旨約束する。
第二条 (非核保有国の義務)
1 核兵器を保有しない締約国は、単独たると他国との共同によると、自国領域におけると他国領域におけるとを問わず、核兵器の開発、製造または製造の準備を行なわない旨約束する。また核兵器を自国の所有、管理あるいは使用のため、いかなる形においても-直接たると間接たると、第三国あるいは国家群を通ずると否とを問わず-受領することを差控え、核兵器の所有、管理あるいは使用ならびに実験に参加しない旨約束する。
前記の締約国は自国の軍隊または軍人のために、たとえこれら軍隊または軍人がなんらかの軍事同盟の指揮下におかれている場合であっても、核兵器、核兵器の配置および使用に関する管理を入手しようとしないものとする。
2 核兵器を保有しない締約国は核兵器を保有する国から核兵器の製造に対する援助、あるいは核兵器の製造もしくは使用のため利用され得る製造上、科学研究上、その他の関係ある情報および資料を受領しない旨約束する。
第三条(締約国の義務)
本条約締約国は核兵器の所有、製造または管理を得ようとする諸国に対していかなる支持、奨励または誘因を与えることをも差控えるものとする。
(第四条以下省略)
なお、わが方松井代表は、第一委員会での本件審議において、一〇月二二日要旨次のとおりの発言を行なった。
(イ) まず、核兵器拡散防止のため、多数の国が自発的努力を行なっていることを歓迎したい。特に米国がカナダ、イタリアおよび英国の支持を受けて提出した核兵器拡散防止条約案(ENDC/一五二)およびソ連が総会に提出した核兵器不拡散条約案(A/五九七六)は今後の交渉に適正な基礎を与えるものと考える。また一八カ国軍縮委員会中立八カ国が提出した本件に関する共同覚書およびイタリアが提出した核兵器不取得に関する一方的宣言案も重要と考える。
(ロ) 近年科学技術の急速な発達に伴い核兵器の製造は多数の国にとり容易になった結果、かつては参加困難とみられていた核クラブに入らんとする国も出て来る惧れがあり、これを早急に喰止め、逆にしない限り、近く核兵器が局地紛争解決のために使用せられ、結局、これが世界的規模における核兵器による紛争-それが今から二〇年前、日本国民が経験した恐怖と悲哀を伴うことはいうまでもない-にまで発展する危険が生ずることは想像に難くない。核兵器拡散防止が今日の最緊急事であり、最優先的に取扱わねばならぬとわれわれが考えるのは、このように恐しい経験の記憶が未だわれわれの心に生々しく残っているからである。
(ハ) 去る九月二八日椎名外務大臣は本会議において、
「核兵器の拡散防止措置については、各国の安全保障について充分な配慮が払われるべきであり、また、核保有国および非核保有国の双方が、いずれも犠牲を払うとの立場から検討されなければならないと考える。また、この問題については、核兵器製造能力を有する非核保有国の自覚と自粛が要望される次第であるが、これと同時に、これらの国の発言権は尊重されなければならないと考える。」
旨の発言を行なったが、核拡散防止条約の締結およびその実施に当っては、核兵器製造能力を有する非核保有国の参加と協力が不可欠なのであって、従ってこれらの国の見解、立場および希望は、核拡散防止条約の作成に際しても充分勘案されねばならない。
また、近時核兵器保有国たることをもって、一般の非保有国と異なる特殊の地位につくことなりとみる風潮が存在するところ、かかる風潮は核兵器製造能力をもちつつもこれの製造を自粛して核拡散防止に努力しつつある国の努力を無に帰するものであって、わが国はこれを遺憾とする。
(ニ) 核兵器拡散防止条約のあり方については、まず第一にこの条約は、核軍縮全体の一環として、核保有国および非保有国が共に犠牲と責任を分ちつつ締結されねばならないと考える。一八カ国軍縮委員会の中立八カ国は一九六五年九月一五日付共同覚書において「核拡散防止措置は、核軍備競争の停止および核兵器貯蔵ならびに運搬手段の削減および廃棄等に関する実質的手段とともに行なわれ、また、これによって補完される必要がある」旨述べているが、わが国はこの見解を完全に支持する。
つぎに核兵器拡散防止との関係において全面的核実験禁止のもつ重要性を指摘しておきたい。非保有国が核爆発実験を行なわずに核兵器を開発することは不可能でないにしても極めて困難である以上、全面的核実験禁止条約の締結は核兵器拡散防止のための効果的手段であると考えられる。かかる条約が既成の核保有国がさらに核兵器を開発することを防止するのにも役立つことはいうまでもない。
また、核兵器拡散防止条約は、核保有国に対しては現在の立場と政策を確認するに止まり、何らの損失をも意味しないが、非核保有国はこれによってその安全保障のあり方が重大な影響を蒙ることとなる。
従って、非核保有国に対する核の脅威または攻撃からの保障措置を設けることが、非核保有国の核拡散防止条約への参加を確保するために不可欠と考えられていることも納得し得るところである。もっとも、かかる保障措置につていは、未だ種々の問題点もあり、これを核拡散防止条約中で明示かつ詳細の規定として含ましめることが困難であることは、充分理解し得るところである。かかる事情の下においては、核兵器拡散防止条約中には、「非核保有国が、集団的または個別的に、核攻撃または脅威に対する保障として、その必要と考える防衛取極を結ぶことを防げない」との趣旨の規定が含まれるか、またはこの旨が明確に了解されることが必要であろう。
(ホ) つぎに、核拡散防止条約米・ソ案についてわが方の見解を簡単に述べたい。
一般的に云って、米国案は、ソ連案に比し非核保有国の要望を幾分よりよく充たしていると考えられるが、ソ連案は、核保有国非核保有国の間の利害の均衡を適正に考慮に入れていないと考えられる。
米国案第三条は、国際原子力機関の保障措置ないし、これと類似の国際保障措置をあらゆる平和的原子力活動に適用することに言及しているが、これはすべての国の利益に沿うものであるが、特に非核保有国にとっては、これは他の非保有国の条約遵守を確信せしめる上に有益であろう。また、米国案第六条第二項は、条約発効数カ年後にこの条約の運用について検討するための加盟国間会議を開くとの趣旨を規定しているが、この会議は、非核保有国に対し、核保有国の核軍縮に関する努力如何を評価するための機会を提供することになろう。
また、米国案前文には「核兵器競争を停止し、特に貯蔵核兵器を含む軍備を削減するための有効な協定をとりきめることを希望する」との規定があり、われわれの関心をひくが、これは単なる希望の表明に止まっているので、たとえ一般的表現によってでもよりはっきりとした誓約を意味するような条項が本条約中に含まれることを希望したい。
(ヘ) なおこの際、私は九月二三日米国連常駐代表が行った事実上の核軍縮に関する種々の提案に対する支持を表明したい。特に米国およびソ連がそれぞれ六万KGおよび四万KGの核物質(U-二三五)を平和目的に転換するとの提案は、核兵器そのものの廃棄をも意味するものであって、わが国はこの提案に満足の意を表しておきたい。
(2) 核実験停止問題
(イ) 一九六五年四月-六月開催された国連軍縮委員会は、「部分核停条約の地下実験への適用拡大につき緊急審議すべし」との一項を含む、一八カ国軍縮委員会における軍縮問題審議の方針に関する決議を採択した。
また七月-九月開催された一八カ国軍縮委員会においては、スウェーデンが九月二日付「地下爆発探知のための国際協力に関する覚書」(現在地下爆発探知の唯一の技術的方法は地震学的方法のみなるところ、部分核停条約成立以来の地震探知分野における進歩は顕著なものがあるので、今後各国における地震観測技術の開発・資料交換につき国際協力を促進することにより、探知手段が充分開発されさえすれば、地下実験の禁止の障害となっている査察・検証問題の解決も容易にされうるとして、かかる国際協力を推進するためのいわゆる「探知クラブ」設立を提唱するもの。なお探知クラブ設立問題については下記(ホ)参照)を、英国が「地震と地下爆発の識別技術に関する英国の研究に関する覚書」(九月九日付)を、また、中立八カ国が「全面核実験禁止に関する共同覚書」(九月一五日付)を夫々提出し、核兵器実験禁止の実現を要望した。ただ同委員会における審議は核拡散防止問題が中心となったため、核兵器実験禁止問題に関する審議は余り進捗が見られなかった。
(ロ) かかる背景の下に、国連第二〇回総会は、「核実験停止の緊要性」なる議題を正式に議題として採択するとともに、第一委員会においてこれを審議した。各国は、部分核停条約への未加入国が依然存在し、また、全面核停条約達成へ向って余り進展が見られないことについて、遺憾の意を表明した。他方、地下核実験探知の検証は、国内探知手段のみで充分であるとするソ連等共産圏諸国と、現地査察が依然必要であるとする米国等西側諸国との間に何ら歩み寄りが見られなかった。この間にあって、地下爆発探知のための国際協力を提唱する前記スウェーデン等の提唱が多くの国によって歓迎された。
(ハ) 椎名外務大臣は、総会一般討論において、右スウェーデンのイニシアティヴを歓迎する旨述べたが、わが方松井代表は、第一委員会において、さらに、かかる探知クラブないし類似の機構が国連のauthorizationまたはbless-ingを受けて設置されることについて討議が行われれば、わが国はそれに参加する用意がある旨およびわが国は計器の基準やデータの形式等の技術的問題に関する会議が招集されるならば、この会議に専門家を派遣する用意がある旨発言した。
(ニ) 一二月三日、総会本会議は、わが国等三五カ国より提出の核兵器実験禁止問題に関する決議案を賛成九二(わが国を含む)、反対一(アルバニア)、棄権一四をもって採択したが、右決議の主文要旨次の通り。
(i) すべての核兵器実験が停止さるべきことを強く訴える。
(ii) すべての国に対し、モスコー部分核停条約の規定および精神を尊重するよう要請する。
(iii) 一八カ国軍縮委員会に対し、地震探知の分野における国際協力の可能性が改善されていることを考慮に入れ、あらゆる環境におけるすべての核兵器実験を效果的に禁止する全面核停条約および取極に関し、その緊急性を念頭におきつつ作業を継続し、総会に対し報告することを要求する。
(ホ) 同総会における審議において核探知クラブ設置につき好意的反応を得たスウェーデンは、その構想を具体化する方針を決定し、北欧諸国と協議の上、核探知クラブ設立のため一九六六年五月頃関係国専門家会議を開催することとし、これに先立ち主要関係国間で予備的協議を行なうため一九六六年二月同国外務省エーデルスタム国連課長および国防研究所エリクソン助教授をわが国に派遣した。わが国は、前記のとおり、同構想に積極的に協力することとし、将来採用すべき探知のための具体的方法の選定、観測データ交換の可能性および方法等についてこれらスウェーデン代表と意見を交換し、同代表はわが国の地震観測施設を視察した。
(3) 世界軍縮会議開催問題
(イ) 一九六四年一〇月カイロで開催された第二回非同盟諸国会議は、中共の参加なき限り、軍縮問題審議の実効性を期待し得ずとの考え方の下に、国連総会が世界軍縮会議開催問題を審議するよう要望する旨、同会議最終宣言に取入れたのを本間題の嚆矢とする。その後一九六五年四月-六月開催された国連軍縮委員会において、ユーゴ、アラブ連合両国のイニシァティヴの下に、この問題は再び取上げられ、前記第二回非同盟諸国の提案を歓迎し、国連第二〇回総会においてこれを緊急審議するよう要請する旨の三六カ国決議案が採択された。
(ロ) かかる背景の下に、第二〇回国連総会に世界軍縮会議開催問題は正式議題として採択され、軍縮問題審議の一焦点となった。同議題の審議は第一委員会に割り当てられたが、ユーゴ、アラブ連合をはじめとする非同盟諸国は、「遅くとも一九六七年までに世界軍縮会議を開催するため、広範囲を代表する準備委員会を設立する目的をもって、すべての国との「協議」が行われるよう強く要請する」旨の共同決議案を提出した。結局、総会本会議は一一月二九日、右共同決議修正案(準備委員会の成果に関する通報の項目を加えた)を賛成一一二(わが国を含む)、反対なし、棄権一(フランス)をもって採択した。
(ハ) なお、第一委員会における表決に先立ち、米国は要旨次の通り、自国の本件立場を明らかにした。
(何ものも一八カ国軍縮委員会の交渉を阻害すべきではなく、また現在の状況の下での世界軍縮会議の有用性につき留保するとの従来の立場を繰返した後)
(i) 本決議案は、世界軍縮会議を開催すべしとの原則のみを決定するものであるとの共同提案国側の発言に留意し、実際の決定は「協議」および準備の結果をまって行なわれるものと了解する。
(ii) 準備委員会の成果に関する通報の項目の追加は改善であり、これを多とする。
(iii) 招待さるべき諸国中には、国連および専門機関加盟国を含むべきは当然であるが、それ以外のいかなる国を含むかは未決定である。
(iv) 世界軍縮会議の準備段階として、軍縮問題につき合意に達し得る分野を検討する小グループに参加する用意がある。
(v) 右グループには、世界軍縮会議の構想に指導的役割を果した諸国のほか、原子力平和利用計画を推進している主要諸国を加えるべきである。
(vi) 世界軍縮会議開催に対する米国の留保は、特定国(中共を指す)との有意義な軍縮交渉に米国が参加することを欲しないことを意味せず、本件会議には充分準備が必要との立場に基づくものである。
(ニ) わが方松井代表は一一月一九日、第一委員会における本件審議に際し、要旨次のとおり述べた。
「去る九月二八日椎名外務大臣は、本会議において『今次総会の議題となっている世界軍縮会議開催問題については、わが代表団はこの会議の開催に原則的に賛成する。この会議が実質的成果を収めるためには参加国の範囲、開催の時期、優先的に審議すべき議題を決定するなど槙重な検討と準備を要すると考えられるので、今次総会がこれら諸点につき充分な審議をするよう希望する』旨述べたが、世界軍縮会議を成功させるためには、すべての国がこの会議に参加し協力し得るよう準備が行なわれねばならない筈である。云うまでもなく、すべての国には、すべての核保有国、核兵器製造能力を有する国および通常兵器を保有する大小すべての国が含まれねばならない。決議案の提案国に対しては、この決議案をすべての核保有国の世界軍縮会議への参加を確保し得るよう充分に配慮することを要望したい。
本決議案主文第二項はいかなる者、いかなる機関が「広範囲を代表する準備委員会設立のための『協議』」を行なう責任を負うかを明らかにしていない。共同提案国側がこの点を解明するよう希望する。
いずれにせよ世界軍縮会議の準備および開催によって国連および一八カ国軍縮委員会における軍縮努力が停滞せしめられてはならないと考える。
また、わが国は世界軍縮会議に関する『協議』および準備につき深い関心を有することを表明する。わが国としては、かかる『協議』の間、例えば、世界軍縮会議と国連との関係、参加国の範囲および優先的に審議すべき議題等の諸問題につき意見を述べる用意がある。」
7 南アフリカ共和国政府の人種隔離(アパルトヘイト)政策問題
(1) 南アフリカ共和国政府のアパルトヘイト政策に起因する人種紛争問題は、一九五二年の国連第七回総会以来、毎総会において審議されており、総会はその都度南ア政府に対し、反省を求める決議を採択してきたが、南ア政府はこれら決議を無視し続けたため、とくに第一五回総会以来、AA諸国を中心として南アに対する外交、経済上の強硬な制裁措置を求める動きが活発となり、一九六二年の第一七回総会においては、南アとの外交、経済関係の断絶、国連からの除名の検討を求める制裁措置および本問題審議のための特別委員会の設置等を含む決議が採択され(わが国および西欧諸国は反対した)、さらに一九六五年の第二〇回総会は、AA等四四カ国提出の、「南アの主要貿易相手国に対し、世界の与論に反し、アパルトヘイトを促進せしめる南アとの経済協力関係の増加を停止するよう要請し、特別委員会を拡大して世界貿易ならびに国際の平和と安全に主要な責任を負う諸国を含めるよう決定し、安保理に対し、南アの事態は国際の平和と安全に対する脅威を構成すること、アパルトヘイト問題を解決するためには憲章第七章の措置が必要であること、および、経済制裁のみが問題の平和的解決の唯一の手段であることにつき注意を喚起し、すべての国に対し、武器禁輸に関する安保理決議を完全に履行するよう要請し、専門機関に対し、南アに対する技術および経済協力を拒否し、南アの人種政策を廃止せしめるような措置をとるよう要請する。」等を含む決議を採択(わが国を含む主として西欧諸国は棄権)し、また、AA等二三カ国提出の、「アパルトヘイト反対者、政治犯ならびにそれらの家族の救済援助のために国連信託基金を設置する。」趣旨の決議を採択(わが方賛成)した。
「南ア政府のアパルトヘイト政策に関する特別委員会」は、一九六三年四月より活動を開始し、毎年総会および安保理に対し報告書を提出してきたが、一九六五年には、とくに、南アにおける軍事、警察力の増強と、外国投資の問題につき重点をおいて審議した結果、同年八月一〇日、第二〇回総会および安保理に報告書を提出し、対南ア主要貿易相手国の貿易と投資が増加の一途を辿り、直接間接にアパルトヘイト政策促進に貢献しているとして、遺憾の意を表するとともに、南アの事態の緊急性にかんがみ、憲章第七章の下で対南ア経済制裁措置を講ずること、特別委員会の構成を拡大して、安保理常任理事国および対南ア主要貿易相手国をも含めること等を勧告した。
(2) 一方、AA諸国の要請にもとづき本問題を審議した安保理事会は、一九六三年八月七日および一二月四日の二回に亘り、すべての国に対し、武器、弾薬および軍用車輌ならびにこれらの生産維持のための設備および資材の南ア向輸出禁止を要請する決議を採択した。また、「専門家グループ」を設置して、南アに基本的自由と人権を保証する多人種社会を創り出すため、国民会議の開催と南ア人の海外教育を提唱し、さらに一九六四年六月には、全理事国をもって構成し、安保理がとるべき措置の可能性、有効性および影響について検討する「専門家委員会」を設置した。同委員会は、各加盟国と南アとの経済、貿易関係の詳細について調査を行ない、一九六五年二月、南アに対する貿易の全面禁止、石油および石油製品の禁輸、武器禁輸、技術者および熟練労働者の移住禁止、交通々信の禁止等は、一定の条件の下では可能である趣旨の報告書を安保理に提出した。
(3) さらに本問題は、WHO、ILO、FAO、UPU、IAEA、ITU等の国連専門機関においても取り上げられ、南アのこれらの機関からの除名ないし参加拒否の動きが活発となっているが、非同盟諸国首脳会議、OAU元首会議等においても度々取り上げられて、対南ア制裁決議が採択されている。
(4) わが国は、第二〇回総会においては、わが国が従来より一貫して人種差別に反対するとの基本的態度を維持していること、南アにおける事態の推移につき重大な関心を有することを明らかにし、南ア政府が、国連憲章の目的の一つである人権と基本的自由を尊重して、アパルトヘイト政策を直ちに廃止するよう訴えるとともに、本問題の解決のためには、国連が加盟国の総意のもとに、南ア政府に対して道義的圧力をかけてその反省を求め、南アの内部から事態の改善のための努力が行なわれるよう促すことが最善の方法であると考えるとの立場をとり、南アとの経済、外交関係の断絶、国連からの除名等の制裁措置が取り上げられた場合には、これが元来安保理事会の専管事項であって、総会の権限外と考えるので、原則の問題として賛成し得ない旨を明らかにするとともに、わが国としては、安保理事会による措置を通じて、対南ア主要貿易国を含む大多数の国の間に対南ア経済制裁に関する一致した行動が確保される場合には、これに従う用意があるとの態度をもって本問題の審議に臨んだが、前記AA四四カ国決議案については、支持し得る部分も相当あったけれども、わが国の対南ア貿易は世界の与論に反してアパルトヘイト促進のために行なっているのではないこと、国際の平和に対する脅威の存在の認定は安保理の責務であり、制裁問題は第一義的には安保理の権限の下にあること、専門機関は技術的機関であり、政治的問題を取扱うことは適当ではないとの理由から、これらの項に棄権し、さらに、これらの項を含む決議案全体に対しても棄権したが、二三カ国決議案については人道上の見地から賛成した。
(1) 植民地独立付与宣言履行特別委員会
植民地独立付与宣言履行特別委員会(以下、特別委員会と略称)は、第一八回総会により承認された右宣言適用仮リスト(本書書第九号六〇頁参照)に従って各地域の審議を行ない、各総会毎に報告書を提出しているが、第一九回総会は正常化されず、議題の実質的審議を行ない得なかったので、総会は右特別委員会報告の受領を確認したにとどめた。
特別委員会は、一九六五年度もその活動を続け、四月六日より六月一八日を第一期、八月一七日より一一月一〇日を第二期として、南ローデシア、アデン、ポルトガル施政地域、南西アフリカ、バストランド、ベチュアナランド、スワジランド、クック島選挙監視団報告等を審議したが、特に、五月二五日より六月一八日までアフリカ各地において会合を開き、アフリカ地域の植民地問題につき審議し、請願人の陳述聴取等の後、多くの決議を採択した。特別委員会は、一一月一五日、右審議の結果を同特別委員会の結論および勧告を付して、第二〇回総会に報告した。
(2) 国連第二〇回総会
(イ) 植民地独立付与宣言履行に関する一般問題
第二〇回総会は、植民地独立付与宣言履行特別委員会報告のうち、個々の地域に関する報告の審議は第四委員会において審議し、植民地独立付与宣言履行に関する一般問題のみ本会議において審議することを決定した。
総会本会議は、一一旦二〇日より一二月二〇日まで本件の審議を行ない、二〇日、AA等二二カ国提出の決議案にソマリア修正案を加えた決議案の表決を行なった。表決に際し、マリは右決議案を単純多数により採択すべしとの動議を提出し、米国等がこれに反対したが、結局マリの右動議は賛成五九、反対四五(わが国を含む)、棄権四をもって可決された。続いて、右決議案を表決に付し、前文第九項、主文第一二項、一三項を分割投票により採択の後、決議案全体を賛成七四、反対二七(わが国を含む)、棄権一八をもって採択した。採択された決議二一〇五(XX)の主な項目の要旨は次のとおりである。
「総会は、(イ)植民地支配の継続とアパルトヘイトはあらゆる形態の人種差別とともに、国際の平和と安全を脅かし、人道に対する罪を構成すると考える(前文第九項)。(ロ)施政国に対し、外国移民を計画的に流入せしめ、原住民を移転せしめること等により、植民地住民の権利を侵害する政策を止めるよう要請する(主文第五項)。(ハ)特別委員会に対し、必要と認めるときは、住民の願望に従い、独立達成の期限を勧告するよう要請する(主文第九項)。(ニ)あらゆる国および専門機関を含む国際機構に対し、南アおよびポルトガルが植民地支配および人種差別政策を続ける限り、これら二カ国へのあらゆる援助を停止するよう要請する(主文第一一項)。(ホ)植民国に対し、植民地における軍事基地を撤去し、新たな基地を設置しないよう要請する。(主文第一二項)。」
今次総会においては、共産圏諸国および一部のAA諸国より植民地における軍事基地撤廃の問題がとりあげられ、群小諸島に関し、「(イ)軍事基地の存在および設置はこれら地域住民の自由と独立の障害となると考える、(ロ)施政諸国に対し、既存基地を撤去し、新たな基地を設置しないよう要請する」との項目を含む決議案が第四委員会において採択されたが、本会議の分割投票において右各項目は三分の二の多数を獲得することができず、右項目を削除した決議案が採択された。しかし他方前述の植民地独立付与宣言履行一般問題に関し、「植民国に対し、植民地における軍事基地を撤去し、新たな基地を設置しないよう要請する」との項目を含む決議案が提出され、本問題は、国際の平和と安全に関するものであるという意見や従来の先例にもかかわらず、結局単純多数により採択された。このような審議の経過に対し、欧米等穏健諸国は極めて批判的な態度を示している。
なお、第四委員会において審議された個々の地域に関しては、アデン、フォークランド、バストランド、ベチュアナランドおよびスワジランド三地域、フィジー、英領ギアナ等については個々に、その他の小地域に関しては一括して決議を採択し、それぞれ施政国に対し、速やかな植民地独立付与宣言の履行を要請したが、クック諸島選挙監視団報告については、「クック諸島が完全な国内自治を達成したので、憲章第七三条eに基づくクック諸島に関する情報提出は必要でない」との趣旨の決議を賛成七六(わが国を含む)反対○、棄権二四で採択した。
南ローデシア、南西アフリカおよびポルトガル施政地域に関する総会の審議については、別に略述する。
(ロ) 南ローデシア
別項参照
(ハ) 南西アフリカ
第二〇回総会第四委員会は一一月二二日より南西アフリカ関係の議題の審議を開始したが、本会議は、一二月一七日、第四委員会の勧告に従い、南西アフリカ問題一般に関し要旨次のとおりの決議二〇七四(XX)を賛成八五(わが国を含む)、反対二(南ア、ポルトガル)、棄権一九で採択した。
「総会は、(イ)南ローデシアにおける人種差別主義者の反乱により悪化されたアフリカ当該地域の国際の平和と安全に対する重大な脅威を憂慮して了知し(前文第九項)。(ロ) 南西アフリカにおいて経済上の利権を有する鉱業その他の国際企業の活動の持つ意味あいに関する報告に含まれる植民地二四カ国委員会の結論および勧告を支持する(主文第二項)(ハ) 当該地域の分割の企ておよび直接間接にその準備となるような如何なる一方的行動も委任統治条項および決議一五一四(XV)の違反となると考える(主文第五項)。(ニ) 南西アフリカ地域の一部または全部を併合しようとする如何なる試みも侵略行為となると考える(主文第六項)。(ホ) 住民および物的資源を無慈悲に搾取し同地域の発展と、住民の自由と独立の権利を阻害する南西アフリカにおける金融上の投資政策を非とする(主文第八項)。(ヘ) あらゆる国に対し、決議一八九九(XVIII)主文第七項(武器、石油の禁輸)を実施するよう要請する(主文第一一項)。」
なお、わが国は、投票理由の説明を行ない、「(イ) わが国は南西アフリカにおける住民の基本的人権と自由の確立、自治と独立への前進という目的達成のために他の諸国と協力する用意がある。(ロ) この観点から決議案全体には賛成するが、前文第九項、主文第六項、第一一項については、これらは国際の平和と安全に対する安保理の第一義的責任を侵害している。また、日本としては武器、弾薬等の輸出は禁止しているほか石油も輸出していない。安保理の決定する合法的かつ効果的措置には協力する用意がある」旨述べた。
(ニ) ポルトガル施政地域
本間題に関し、一一月四日先ず安保理事会が審議を開始し、一一月二三日、すべての国に対し、ポルトガル施政地域住民が弾圧の継続を可能にするような援助を差し控え、武器、軍事資材をポルトガルに供給しないよう要請する」決議二一八を採択したが、その後、総会は、ポルトガル施政地域関係議題を審議し、一二月二一日、ポルトガル施政地域一般に関する要旨次のとおりの決議二一〇七(XX)を賛成六六、反対二六、棄権一五(わが国を含む)をもって採択した。
「総会は、(イ)同国植民地および隣接のアフリカ人民に対するポルトガルの態度は国際の平和と安全に対する脅威を構成するものと信ずる(前文第八項) (ロ)あらゆる国に対し、住民の自由と独立の合法的権利の行使を妨げる外国経済利権に関する自国民の活動を阻止するよう要請する(主文第六項) (ハ)加盟国に対し、個別的または集団的に左記の措置をとるよう要請する(主文第七項)
(a)ポルトガルとの外交および領事関係を断絶し、そのような関係を設立することをひかえる。(b)ポルトガル国旗を掲げ、またはポルトガルに雇用されている船舶の入港を拒絶する。(c)自国の船舶がポルトガルおよび同国植民地の港に入ることを禁止する。(d)ポルトガルに属し、または、ポルトガルの法令の下に登録されている会社に雇用されている航空機の着陸および通過を拒絶する。(e)ポルトガルとのあらゆる貿易を拒絶する。(ニ)あらゆる国、なかんづくNATO内のポルトガルの軍事同盟国に対し、下記の措置をとるよう要請する(主文第八項) (a)ポルトガル施政地域のアフリカ住民の抑圧を可能にするいかなる援助もポルトガル政府に供与することを差し控えるよう (b)ポルトガル政府に武器または軍事施設の売渡または供給を防止するため必要なすべての措置をとるよう (c)武器および弾薬の製造または維持に必要な施設および物資の売渡または積出を停止する (ホ)安保理に対し、ポルトガルの支配地域に関する安保理決議履行のため憲章上の適当な措置をとるよう要請する(主文第一一項)」
国連第二〇回総会は、植民地独立付与宣言履行特別委員会の報告に基づき、本件を審議し、一〇月一二日、「南ローデシア当局が、少数支配を恒久化するため、非合法的手段により独立を獲得せんとする如何なる試みも非難し、英国および全加盟国に対し、南ローデシアの独立宣言を認めないよう、また、それに基づくいかなる権威も承認しないよう要請し、英国に対し、一方的独立宣言を阻止するため可能なあらゆる手段を用いるよう要請する」との決議二〇一二(XX)を賛成一〇七(わが国を含む)、反対二(ポルトガル、南ア)、棄権一(フランス)で採択した。
続いて総会は、一一月五日、「南ローデシアにおける人種差別と隔離政策を非難し、英国に対し、政治犯の釈放、差別立法の廃止、制憲会議の招集およびこれらを実施するため武力を含むあらゆる必要な措置等を要請し、すべての国に対し、南ローデシア住民の自由と独立の戦いに精神的物質的援助を与えるよう要請し、南ローデシアの爆発的事態に対し、安保理事会の注意を喚起する」趣旨の決議二〇二二(XX)を賛成八二(わが国を含む)、反対九、棄権一八で採択した。
南ローデシア政権は、再度の総会決議にも拘らず、一一月一一日、遂に一方的独立宣言を行なった。これに対し、総会は、即日、本件を緊急審議し、「一方的独立宣言を非難し、英国に対し、南ローデシア非合法政権の反乱を停止するため総会および安保理決議を履行するよう要請し、安保理事会に対し、本件を緊急審議するよう要請する」との決議二〇二四(XX)を賛成一〇七(わが国を含む)、反対二(ポルトガル、南ア)、棄権一(フランス)をもって採択した。
一方、安保理事会は、英国、アフリカ三五カ国、およびAA二二カ国の緊急開催要請に基づき、一一月一二日開催され、同日「一方的独立宣言を非難し、全加盟国に対し、南ローデシアの不法な人種差別少数政権を認めないよう、また、同政権に対し、いかなる援助も差し控えるよう要請する」との暫定的決議二一六を採決した。
その後、安保理事会は本件の審議を続け、一一月二〇日、「英国政府に対し、少数白人の反逆を鎮圧するよう、また、英国政府が既に発表したすべての措置を至急かつ強力に断行するよう要請し、すべての国に対し、同非合法政権といかなる外交的またはその他の関係を維持しないよう、また、この非合法政権を援助し、かつ、鼓舞するいかなる行動も行なわないこと、特に、武器、施設、軍需物資を供給しないこと並びに石油および石油製品の輸出を含む南ローデシアとのあらゆる経済関係を断絶するため全力を尽すことを要請する」等を骨子とする決議二一七を採択した。
なお、右安保理決議履行に関し、一九六五年一二月三日、国連松井代表発事務総長宛書簡をもって、わが国は、既にソールズベリーの総領事を引揚げたが、南ローデシアに如何なる援助も与えず、また、同地に対する武器弾薬の輸出に許可を与えないことを決定した旨、既契約のものを除き、南ローデシア産砂糖およびタバコを輸入せず、また、南ローデシアに石油および石油製品を輸出しない旨通報した。続いて、一九六六年一月二八日、同様書簡をもって南ローデシアから銑鉄を輸入せず、今後、南ローデシアからのすべての輸入は政府の許可を必要とすることとし、そのために必要な法的措置をとった旨を通報した。
この委員会は一九六五年一一月一五日から二三日までジュネーヴで開かれ、次の三事項につき科学的討論を行なった。わが国からは放射線医学総合研究所長塚本憲甫博士らが出席した。
(一) 放射線感受性(ただし遺伝的危険度の評価)。
(二) 自然放射能から人類が受けている線量の評価。
(三) 一九六四年報告以後における放射能による環境汚染水準の検討。
これら事項に関する報告書は一九六六年六月の委員会の会合で完成の上、国連第二一回総会に提出ざれる。
国連第二〇回総会は一九六五年一二月一八日この委員会に関する決議二〇七八(XX)を採択した。同決議は第一八回総会決議と同様、この委員会に現在の事業を続けるよう要請している。
一九六五年に宇宙空間平和利用委員会(以下、宇宙委員会と略称)は、法律問題については法律小委員会による審議を行なったが、科学技術問題については特に新しく審議すべき事項もなかったので科学技術小委員会を開かなかった。
法律小委員会は、一九六五年九月二〇日から一〇月一日までニューヨークで開かれ、主として宇宙飛行士と宇宙飛しよう体に対する救助とその返還に関する協定案、および宇宙空間に発射された物体によって生じた損害に対する賠償責任に関する協定案につき審議を重ねたが、両協定案とも問題となっている諸点に関し東西間の意見の喰違いが大きく、審議に進展は見られたかった。また、総会決議一九六二(XVIII)で採択された「国家の宇宙活動を規制する法的原則宣言」について、共産圏は、その早期条約化を従来主張しているが、西側、特に米国は、宣言でも規制力は充分あるとの立場から、これに反対しているため、実質的な審議は全く行なわれなかった。
一九六四年の宇宙委員会において、一九六七年に宇宙開発一〇周年(スプートニク一号は一九五七年一〇月四日打上げられた)を記念して国際会議を開催すべしとの提案がオーストリアからあり、この会議開催の是非、組織、および目的などを検討するための作業グループ(宇宙委員会メンバー二八カ国からなる)の設立を決めた。この作業グループは一九六五年秋までに会合し検討結果を宇宙委員会に報告するはずであったが、その開催日程につき各国の妥協がならず、結局開催されなかった。この国際会議について、共産圏諸国は、スプートニク打上げ成功一〇周年は記念するに値いするとの立場から開催に強い賛成の意を表し、かつ国連主催による大規模なものとするよう主張した。また、一部の中立国(アラブ連合およびレバノン)も、この国際会議を原子力平和利用国際会議のような性格のものにすれば、低開発国の科学技術発達および国民福祉向上に貢献するとの立場から、大規模な国際会議とすることを積極的に支持した。しかし西欧側を含むその他の諸国は、一〇周年を何らかの形で記念することにはおおむね同意したが、これを国連主催の大規模な国際会議とすることには消極的であった。すなわち、既に逼迫している国連財政を更に困窮させるようなことはなるべく避けるべきであるということと、宇宙開発研究の成果発表その他関係情報の交換は、学界その他関係国際機関が現に開いている種類の国際会議を適宜活用すれば充分であるというのがその主な理由であった。
一九六五年一〇月五日から八日までニューヨークで開かれた宇宙委員会は、上記の作業グループの開催を一九六六年一月一八日からと決定した。また、この宇宙委員会では、さきに国連第一九回総会で審議未了となった宇宙科学技術関係の諸勧告を再確認の上、第二〇回総会に更めて勧告した。
第二〇回総会は一二月二一日宇宙空間平和利用に関する総会決議二一三〇(XX)を全会一致採択した。この決議の内容は、法律問題については決議一九六三(XVIII)と同趣旨であり、科学技術関係については宇宙委員会勧告をそのまま承認した。
国際会議に関する作業グループは、一九六六年一月一八日から二五日までニューヨークで開かれたが、この国際会議を国連主催により一九六七年後半に約二週間開くことを決め、また、会議の目的として、(1)宇宙の研究および開発から期待しうる実益を検討し、かつ特に低開発国がこの実益を享有できる範囲を検討すること、および(2)非宇宙活動国が参加しうる宇宙国際協力の機会を検討することを決めた。しかし、経費および具体的な開催時期と場所については、一九六六年九月の宇宙委員会開催までに検討するとの結論しか出なかった。
今回の総会には、国連貿易開発会議の最終議定書および貿易開発理事会の一九六五年度年次報告が提出された。総会は本議題審議の結果、(一)国連貿易開発会議最終議定書と貿易開発理事会の一九六五年度年次報告をテーク・ノートし、(二)国連貿易開発会議の事務局をジュネーブに設置することを決定する、(三)貿易開発会議のとりくんだ実質問題の解決に進展がないことを憂慮し、(四)貿易開発理事会に対し、一次産品貿易問題に特に留意するよう勧奨する、(五)貿易開発会議の諸勧告実施のため、その政策を検討して措置をとることを各国に要請する等を内容とする決議二〇八五が採択された。
本議題討議においてわが方は、(一)多くの困難にもかかわらず、機構の整備を終え、今後実質的活動の基礎が固まったことは喜ばしい、(二)「勧告実施」の意味をめぐり意見の対立が存するが、抽象論よりも具体的問題に早急に取り組むことがより肝要であり、この意味で既に下部機関が具体的問題の検討を開始していることを高く評価する、等発言した。
工業開発については、工業開発を専管する専門機関を新設すべしとする低開発国側と、既存の工業開発センターの強化を主張する先進国側とが対立したが、双方が歩み寄って、国連の枠内に国連工業開発機構(UNOID)という名称の新機構を設立することを決定した。新機構は、自立的性格をもち、管理費と研究費は通常予算から支出されるが、事業費は各国の自発的拠出金から支出する。新機構は、理事会と事務局を有し、事務局長の任命は国連総会により確認されることを要する。この新機構は国連の重要機関となるものと予想される。
ただし、同機構の権限、活動原則、活動範囲、組織、手続事項等の詳細は、アド・ホック委員会を設けて作成せしめることが決定され、わが国は米、英、フランス等と共に、同委員会のメンバーに選出された。
社会人権問題は第三委員会で審議され、わが国からは立教大学教授久保田きぬ代表代理が委員会に出席した。
第二〇回総会第三委員会における最大の成果は、「あらゆる形態の人種差別撤廃に関する国際条約」に関する審議を完了したことである。同条約は、一九六五年一二月二一日の本会議で全会一致で採択され、一九六六年三月七日国連、専門機関の加盟国等に対し署名のために開放きれた。
同条約は、前文のほか、実質条項七条、実施条項九条、最終条項九条の三部分計二五条から成っている。第一部の実質条項においては人種差別の定義、各種人権、基本的自由についての差別の禁止、人種差別を促す宣伝、活動の禁止、差別撤廃のための教育、啓蒙活動の奨励等につき規定している。第二部の実施条項においては、条約の実施状況についての各締約国の報告義務、条約違反に関する紛争の調停制度の設定、個人、団体からの請願の取扱について規定している。第三部の最終条項においては署名、批准、加入、発効、留保、廃棄、改正等の手続について規定している。
右条約のほか、第三委員会関係では「人民間の平和並びに相互の尊重及び理解の理念を青少年の間に促進するための宣言」、「婚姻の同意、最低年令及び登録に関する勧告」、「国際人権年」等に関する合計二二の決議が採択された。
再開第一九総会の合意に基づき、事務総長は、約一億ドルの赤字をかかえる国連財政の窮状を救うため、各加盟国が自発的拠出を行なうよう強く要請した。他方英国は、一九六五年六月独自に一、○○○万ドルの無条件拠出を行ない、これにひきつづきカナダ、デンマーク、スウェーデン、イタリア等英国を含む二一カ国が拠出乃至誓約した額は一二月二一日現在二、○○○万ドル以上となった。椎名大臣は、第二〇総会における一般演説の中で、わが国も国連機能の強化に対する熱意の証左として、応分の拠出を行なう用意がある旨を言明した。
第一九総会が何ら実質的審議を行なわなかったため、第二〇総会は、一九六五年及び一九六六年両年度の経費につき審議し、次のとおり決定した。
(1) 通常予算
一九六五年度通常予算については、事務総長は第一九総会決議二〇〇四に基づく支出見積りとして一〇七、六四二、八○○ドルを要請していたが、其の後再発したインド・パキスタン紛争のため強化されたインド・パキスタン軍事監察団(UNMOGIP)関係経費の追加見積りを加え、総額一〇八、四七二、八○○ドルが承認された。
一九六六年度通常予算支出総額として、事務総長は当初一一六、七三七、一一〇ドルを要請していたが、第二〇総会において国際公務員諮問委員会(ICSAB)の勧告する専門職及び高級国際公務員俸給体系改訂が承認されたため、インド・パキスタン軍事監察団増強のための追加見積り等とあわせ、総額一二一、五六七、四二〇ドルが承認された。
(2) スエズ国連軍経費
一九六五年度経費として一八、九一一、〇〇〇ドルを見積もり、三、九一一、〇〇〇ドルは国連財政救済のため既に行なわれた自発的拠出金より支弁し、残余の一五、〇〇〇、〇〇〇ドルについては八〇〇、〇〇〇ドルを低開発国の間で通常分担率に応じ割当て、一四、二〇〇、〇〇〇ドルを先進二六カ国に通常分担率に応じて割当てるとともに、予備的要請に対処するため、先進国各々の分担額の二五パーセント相当の追加割当てを行なうこと、並びに一九六六年度経費については一五、〇〇〇、〇〇〇ドルを見積もり、一九六五年度経費のうち一五、〇〇〇、〇〇〇ドルを加盟国に割当てたのと同じ方式で割当てを行なう趣旨の決議を採択した。
(3) 国連通常分担率
一九六五年から一九六七年までの通常分担率を決定し、その結果、わが国の分担率は二・二七パーセントから二・七七パーセント(全加盟国中第七位)に引上げられたo
新分担率に基づくわが国の分担金は、通常経費については一九六五年度二、四七五、八七四ドル、一九六六年度二、八二四、二九八ドル、スエズ経費は両年度共五九三、五二四ドルである。
財政検討専門家特別委員会の設置と活動
最近の国連財政の窮状及び国連・専門機関予算規模の膨脹化傾向を背景として、仏代表は、一九六五年一一月二日第五委員会において、国連財政再検討のための特別専門家委員会に関する決議案を提出、右提案に基づき同委員会が設置され(決議二〇四九XX)、わが国を含む一四カ国が総会議長によりメンバーに指定された。同委員会の任務は二段階に分れ、その第一は事務総長の提出する一九六五年九月三〇日現在の国連財政分析報告を審査し委員会の見解を、一九六六年三月三一日までに加盟国に伝達すること、第二は国連及び専門機関等の予算を検討し、予算形式の標準化、予算膨脹の適正化等につき第二一回総会に勧告を提出することである。
わが国は、国連及び関係諸機関の財政上の問題の綜合的検討を行なうことは極めて有意義と考え、仏決議案を支持した。