資 料
佐藤内閣総理大臣および椎名外務大臣の国会演説
第四十七回国会における佐藤内閣総理大臣所信表明演説
(外交に関する部分)
(昭和三十九年十一月二十一日)
このたび、私は、内閣総理大臣として、国政をになうことになりました。国民各位の信頼と期待にこたえるべく、決意を新たにし、精根をかたむけて、その職責を果たしてまいりたいと存じます。
この秋には、東京でIMF総会、オリンピックなど、世界的行事が開催され、大きな成功をおさめました。これは、国民の英知と努力の成果を象徴したものであり、国民の一人として、わが国の復興と発展に深い感慨を覚えるものであります。わが国の高度の発展は、諸外国の驚異の的でありますが、とくに、私は、池田内閣が寛容の精神によって議会政治を正常化し、高度経済成長政策の推進によって国力の発展につとめた功績を忘れることはできません。池田前総理が病のため、志半ばにして辞任されたことを心から惜しみ、一日も早く健康を回復されんことを祈るものであります。
新しい内閣に課せられた使命は、まことにきびしいものがあります。私は、当面、流動する内外の諸情勢に対応して、前内閣の諸施策を正しく発展させるとともに、長期的な展望のもと、いそぎつつも、あせらず、勇断をもって、国政をすすめてまいりたいと存じます。ことさらに新しきを求め、国政の安定をそこなうがごときことは、私のとらぬところであります。
私は、政治の基本的な姿勢を寛容と調和におき、あらゆる分野において、民主主義が正しく実現されるよう努力し、国民とともにすすむ政治を行なうことを信条といたします。国民の一人一人が新しい内閣に何を求めているか、時代が要求するものは何かを正しく把握し、それを愛情と理解をもって、実践にうつしてゆくことこそ、政府の課題であり、政治の根幹であると思います。
中国問題をはじめとする外交政策の樹立、日韓問題、ILO条約の批准、経済成長にたちおくれた社会開発の推進、物価問題など、当面、政府の解決すべき内外の重大な諸懸案が山積しており、政府は、国民の協力のもとに、全力をあげて、これらの解決にとりくんでまいる決意であります。
(外交)
私は、平和に徹し自由を守り、自主外交を展開し、世界の福祉の向上に貢献することを、わが国外交の基本姿勢にしたいと思います。
最近数週間の間に、国際関係に重要な影響を及ぼす幾多の事件が発生しました。この中で、われわれ国民にとっての最大の関心事は、中共による核爆発実験であったことは申すまでもありません。わが国は、世界唯一の原子爆弾被災国として、終始一貫、あらゆる国の核実験に反対し続けてきました。昨年成立し、すでに大多数の国の参加をみるにいたった部分的核実験禁止条約は、全面核実験禁止にいたる歴史的な第一歩であります。われわれは、この条約の成立を心から祝福しました。わが国に隣接する中共が、このようなわが国民の念願と、世界のすう勢を無視して、あえて核実験を行なったことに対し、私は、日本国民の名において、心から遺憾の意を表明せざるを得ないのであります。私は、中共がこれ以上の核実験を中止し、すみやかにすすんで部分的核実験禁止条約に参加することを強く要望するものであります。
政府は、従来、中華民国政府との間に正規の外交関係を維持しつつ、中国大陸との間には、政経分離の原則に立って、民間において、貿易その他事実上の接触を続けてまいりました。私は、中共が核実験を行なった現在においても、この基本方針を変える考えはありませんが、中国問題のもつ重要性は、ますます強まっていると申さねばなりません。私は、今後国際情勢の推移をも勘案しつつ、慎重、かつ、真剣にこの問題に対処してゆく考えであります。
ソ連における政変後も、後継首脳は、引き続いて平和共存の政策を続けることを明らかにしました。他方、米国においてはジョンソン大統領が再選され、これまた、従来の外交政策を踏襲し、東西緊張緩和への努力を続けることが期待されます。これらのことは、世界情勢の基本には大きな変更のないことを示すものであります。したがって、私は、従来の外交政策の基調を堅持し、わが国の国際的地位の向上に即応しつつ、世界の平和維持のため、積極的に貢献する考えであります。
わが国は、従来より米国との協力関係の維持増進を外交政策の中心としてまいりました。今後も、日米安全保障条約を確固たる基盤の上に維持することによって、わが国の安全を確保するとともに、条約に明示された経済的協力を一層推進するなど、相互の理解と信頼のもと、両国の関係を、より緊密ならしめねばなりません。同時に、わが国は、自由陣営との協力関係を、広い基盤に立って発展させてゆかねばならないと考えます。
永続的で安定した世界平和は、東西間の平和共存のみで達成されるものではなく、まして、世界の平和を米ソ両国関係の動向にのみ、依存せしめるべきではありません。軍縮、南北問題、植民地および人種差別問題等の解決が、恒久的世界平和の実現に不可欠の要件であります。国際連合こそ、これらの問題の総合的、かつ、秩序ある解決を促進するための主たる役割を果たすべきであります。私は、このような見地に立って、今後国際連合において、わが国が世界平和維持のため、一層、積極的な貢献をなしうるよう努力する所存であります。
つぎに、アジア安定への道は、長期的観点に立った場合、アジア諸国民の健全な民族的願望の達成を助長し、これら諸国の政治的不安を除去し、社会的、経済的発展の基盤を育成強化する以外にないのであります。アジアにおいて、自由民主主義体制のもとに、高度の経済発展をなし遂げたわが国が、アジア諸国の政治的安定と経済的繁栄に寄与すべき責任は、まことに重大であると申さねばなりません。私は、このような責任の自覚のもとに、今後アジア諸国との善隣友好関係をいよいよ密接にするとともに、これら諸国に対する経済技術協力を重点的に推進する考えであります。このため、これら諸国首脳との友誼をさらに深めてまいりたいと存じます。
日韓問題については、すみやかな国交正常化をのぞむ両国国民大多数の願望を背景とし、将来にしこりを残さないよう、公正、妥当な内容をもって諸懸案の早期妥結に努力する方針に変わりありません。私は、日韓両国が相互に理解と信頼を深め、国交正常化が一日も早く実現できることを心からのぞんでおります。
最近、自由先進諸国は、その経済政策を相互に調和させ、世界経済の繁栄に寄与しようとする動きが顕著であります。わが国もガット関税一括引下げ交渉を始め、国際的協議の場を活用して、貿易の拡大等につとめるつもりであります。これら先進諸国との協調は、あくまで自由無差別な貿易の増大を基調とし、差別的対日輸入制限を撤廃させるなど、わが国の主張を十分に反映させてゆかねばなりません。
他方、アジア、アフリカ、中近東、中南米等には、幾多の開発途上にある国があることを忘れてはなりません。南北問題の解決なくして、世界経済の真の繁栄、ひいては、世界平和の実現は期し得ないのであります。いまや、一国の福祉を一国のみが考える時代ではなく、世界人類の福祉を世界が考える時代になろうとしております。わが国は、経済協力を始めとする諸対策を推進し、これら地域の経済力の強化に資し、もって国際的貧富の差の縮小に寄与したいと存じます。
(外交に関する部分)
(昭和四十年一月二十五日)
第四十八回通常国会の再開に際し、当面する内外の諸問題について、政府の所信を率直に申し述べたいと存じます。
私は、先般訪米し、ジョンソン大統領始め米国の指導者と国際情勢一般について忌憚ない意見の交換を行ないました。世界平和維持のためには、アジアの安定が重要であることを強調し、平和に徹する精神のもと、民生の安定と生活水準の向上を通じて、アジア諸国民の福祉増進に貢献しようとするわが国の方針を説明し、米国側も賛意を表しました。また、わが国の安全の確保がアジアの平和維持に不可欠であるとの確信のもとに、日米安全保障条約体制を今後とも堅持することを再確認いたしました。中国問題については、それぞれの立場に立って意見の交換を行ない、今後情勢の重要な変化に応じて、常に緊密な連絡をとりつつ、話合ってゆくことに意見の一致をみました。さらに沖縄、小笠原諸島の施政権の返還が日本国民の熾烈な願望であることを強く主張しました。とくに、沖縄については、日米協議委員会の権限を拡大し、今後は、経済援助の問題にとどまらず、住民福祉の向上のための諸問題についても協議することといたしました。また、小笠原島民代表の墓参については、好意的に検討する旨の確約を得ました。私は、米国が従来にましてアジアの問題について深い関心を持ち、解決への努力を行なおうとしているとの強い印象を受けたのであります。また、米国当局者の態度から、相互の立場と国家利益を十分尊重しつつ、世界平和の達成のために協力し、同時に、日米間の懸案事項の解決に当たろうとする強い意欲を感じました。単に抽象的な問題についてではなく、切実な個々の問題につき、具体的に、胸襟を開いて話合いを進めたことが、成果をあげることができたゆえんであると信じます。私は、今回の会談を通じて日米関係は新しい発展段階を迎えたものと信じて疑いません。
今日のアジアは、紛争が各地において継続しているのみならず、地域内には開発途上にある諸国が多数存するなど、世界の悩みを集約している感があります。アジアの安定を確保するためには、まずアジア諸国民の健全な民族的願望を理解し、その上に立って、これら諸国の政治的不安の除去に努め、その社会的、経済的発展を助長することが肝要であります。アジアにあって、自由民主主義体制のもとに高度の経済成長をなしとげたわが国は、ともすれば自由民主主義に対する自信を喪失しがちなアジアの諸国民に対し好個の模範を示してきたのでありますが、今後は、さらにアジアの緊張緩和と平和的建設に寄与すべき使命と責任の重大さを深く感ずるものであります。したがって、わが国は、アジア諸国民との接触を一層密にし、相互の理解の増進に努めねばなりません。このため、私は、機会をみて東南アジアの諸国を訪問し、各国首脳との接触を深めるとともに、経済技術協力等につき積極的な話合いを進めたいと思います。なお、工業、農業等の技術を身につけた青少年が東南アジア等の開発途上にある国々の青少年と起居を共にし、共に働きつつ理解を深め合い、親善の実をあげることは意義深いと考え、これら青少年の派遣準備を進めております。
現在の国際政治において、中国問題の占める重要性がきわめて大きいことは多言を要しません。とくに中国とは、歴史的にも地理的にも近いわが国にとっては、この問題は、影響の大きな重要な問題であります。したがって、わが国としては、いたずらに結論を急ぐことなく、自主的な観点から慎重に対処すべきであると信ずるのであります。現在の段階においては、わが国は、正規の外交関係を有している中華民国との友好関係を維持しつつ、中共に対しては、政経分離の基本方針に立って、経済および文化面での交流を促進してゆきたいと考えます。
韓国との国交を正常化し、両国間に善隣友好関係を確立することは、きわめて重要であります。諸懸案の解決に当たり、両国は、両国国民大多数の支持を得られる方向で互いに歩みよりをはからねばならないと考えます。私は、大局的見地に立って、多年にわたる交渉を、早期に妥結させるため、最善の努力を傾注する決意であります。
先般、コスイギン・ソ連首相から個人的接触を希望する趣旨の書簡を受領しましたが、私は、機会があればその招請に応じ、両国の親善を深めるとともに、国際情勢および当面の諸案件につき、腹蔵のない意見の交換を行ないたいと考えます。ソ連が今後ますます日ソ諸懸案の解決について、積極的かつ具体的な態度を示してくることを望むものであります。また、現在まで未解決のまま残されている北方領土問題については、今後もあらゆる機会をとらえてソ連との間に話合いを進める所存であります。
私は、今回の訪米中、ウ・タン国連事務総長と親しく会談の機会を得ました。世界が多元的な傾向を示しつつある今日、諸国の行動を調和するための中心となる国際連合の果すべき役割は、きわめて大なるものがあります。創設後二十年に当たる本年、国際連合は、重大な試練にさらされております。インドネシアの国連脱退は、国連史上初の事件であり、まことに遺憾であるといわねばなりません。国際連合の権威と機能を高めるため、積極的に貢献することは、わが国外交の基本であります。私は、ウ・タン事務総長に対し国際連合の強化につき、日本が全面的に協力してゆくことを話合ってまいりました。
私は、自由と正義を基調とした世界平和の確立と維持を最高の目標としつつ、自主外交を推進し、わが国の安全と国家利益を十分に追求してゆく考えであります。もとより、私の求める国家利益は、あくまで世界平和と結び付き、国際協調を基礎とするものであります。私は、国際社会においてわが国の正しい利益を堂々と主張するとともに、向上した国際的地位にふさわしい責任を果たしてゆきたいと存じます。
(昭和三十九年十一月二十一日)
最近の国際情勢を概観しつつ、わが国が当面している主要な外交問題について、政府の考えを御説明申し上げます。
最近起りました国際的に重要な一連の事件の中でも、ソ連における政変と、中共の核爆発とは、わが国として、特に関心を払わざるを得ません。まずフルシチョフ首相退陣の真相については、未だ納得のゆく説明がなされておりませんが、ソ連政府は、直ちに従来の平和共存外交を踏襲する旨を明らかにし、わが国に対しても、その対日外交方針には変更のないことを通告して参りました。
米国におきましては、ジョンソン大統領が再選され、従来の外交方針は引き続き推進されるものと考えます。従って、国際緊張の激化を避けようとする努力は、今後も東西関係の基調として継続して行くものとみられます。
このように、国際情勢なかんずく東西関係について、特に重要な変化は認められず、また近い将来において、基本的な変化が起ることも予想されません。しかしながら、国際情勢の推移については、今後も注意深くこれを見守り、機動的に情勢の変化に対処して行かなければなりません。著しい国力の充実をみたわが国としては、その主体性をあくまでも維持しつつ、国際政局の上で、わが国の国際的地位に相応わしい、責務と役割を果さなければなりません。同時に、今後自由陣営の間における国家関係が、益々複雑化し多様化するに従って、自由諸国の団結維持の重要性は、増すことがあっても減ることはないと信じます。わが国の国益増進は、常に自由諸国間の団結と調和の中に求めて行かなければなりません。
世界の大多数の国が、国際緊張緩和への希望と期待を強めている時に、特に放射能の危険を身近にうけるわが国民にとって、中共が核爆発を行なったことは誠に遺憾と申すほかありません。自ら核兵器の廃棄を主張しつつ、核爆発を行なうという中共の態度は、平和を希求する世界の人々にとり、誠に理解しがたいところであります。私は中共が今後このような無謀なことを繰り返さず、いかなる政府にも開放されている、部分的核実験禁止条約にまず参加することを、強く望むものであります。
流動する国際情勢の下においても、わが国民がその安全について、何等の不安をいだかないでいられるのは、日米安全保障条約が厳存するからにほかなりません。日米安全保障条約本来の目的が、戦争に備えることではなく、戦争を未然に防止することに存することは、今更申すまでもないところであります。日米間の信頼と理解に基づく密接な協力によって、過去十数年にわたりこの安全保障条約本来の目的が達成されてきたことは、国民大多数の御理解を得ているところであると信じます。
私はこの意味におきましても、過日佐世保における第一回の米国原子力潜水艦の寄港に際し、大多数の国民が、冷静に良識をもってこれを迎えられたことを、心から喜ぶものであります。原子力潜水艦が危険なものでないことが、既に世界の常識となっていることは、政府が繰り返えし明らかにしたところであります。私は今回の寄港に際して行なった、綿密な放射能調査の結果によっても、このことが立証されるであろうことを疑いません。
来るべき第十九回国際連合総会においては、特に、国際連合の平和維持機能強化の問題及び南北問題が、最も重要な討議の対象となるものと予想されます。
国際連合の平和維持機能の強化につき、本年七月ソ連がいわゆる国除連合軍の常設を提案いたしました。しかしながらかかる制度の前提となるべき大国間の協調が達成されない限り、ソ連の提案に沿って、直ちに国際連合軍が常設されることは困難ではないかと考えます。安全保障理事会が拒否権の行使のため、平和維持活動を十分行ない得ないという事態において、総会がこれに代る機能を行ない、幾多の業績を挙げていることは御承知のとおりであります。政府はこのような平和維持の方式を維持し更に強化するよう、できるだけ協力を惜しまない考えであります。なお共産圏諸国等が支払を拒んでいる、スエズ、コンゴー等における国際連合の、平和維持活動に伴う経費の分担問題の帰すう如何は、今後の国際連合のあり方にも影響を及ぼす、重要な問題であります。政府は、国際連合の平和維持活動の経費は、全加盟国の共同責任であるとの建前を堅持しつつ、関係諸国と協力しこの問題解決に努力する考えであります。
東西間の緊張緩和に伴って、南北問題の重要性が、最近とみに世界の注目を集めつつあります。ここ十年来、開発途上にある諸国の輸出は不振をきわめ、これ等諸国の対外債務は累増の一途をたどっております。かくて南北間の富の格差の拡大は、国際経済の上においてのみならず、政治外交上においても重要な国際問題に発展したのであります。
本年三月から六月までジュネーブで開催された国連主催の貿易開発会議も、この問題解決のための国際協力の進め方をみいだすことを目的としたものであります。今次総会の承認を得て、貿易開発問題のための新しい機構が国連の枠内で発足することとなっております。このような新局面の展開を前にして、アジアにおける唯一の先進工業国たるわが国は、積極的に南北問題にとり組み、貿易及び開発の面で、建設的な施策を積み重ねて行く気構えをもたねばなりません。このような観点からわが国も、貿易開発会議で国民所得の一%を目標として援助を拡大強化することを、積極的に支持したのであります。
国連総会におる中国代表権問題については、その及ぼす重要な国際的影響にかんがみ、中共に代表権を認める当然の結果として、国民政府は国際連合から追放されるべきであるという考え方は、決して問題の妥当な解決をもたらすゆえんではないと考え、わが国は従来よりこのような決議に反対してまいりました。政府としては現在においても、この従来の態度を維持すべきものと考えます。
アジアの政治情勢は極めて流動的であり、しかもこのような政治的不安定は、多分に経済の低迷と渋帯に起因することは見逃せない事実であります。このことは直ちにわが国の安全と繁栄につながる問題であります。このような立場にあるわが国としては、アジア諸国との民族的、歴史的、文化的親近感と連帯感にのっとりながら、資金と技術協力を通じて、アジア諸国の人造りと国造りに、積極的に貢献して行くことが必要であります。しかるに、従来のわが国の経済協力の実態については、なお改善すべき幾多の問題をかかえております。政府はアジアの平和と繁栄という大局的見地に立って、これ等の問題に対し十分な検討を加え、わが国の経済協力の内容を、量質ともに充実して、行きたいと考えております。
政府は、日韓国交正常化のための交渉について、相互理解と互譲の精神に基づき、公正妥当な内容をもってその早期妥結をはかる方針であります。日本側としては、討議再開の条件につき韓国側との協議が整い次第、できれば年内にでも、漁業問題を中心として、諸懸案の討議を再開する考えであります。なお、諸懸案の接触と離れて、私が自ら韓国を訪問することが、いささかなりとも両国間の相互理解と友好関係の増進に貢献できるのであれば、なるべく早く適当な機会をえらびこれを実現したいと考えております。
韓国側の主張する李ライン水域において、韓国警備艇による日本漁船の拿捕追跡が依然として跡を絶たないことは、誠に遺憾であります。日韓両国が、会談再開のために努力を払っているこの際、韓国側が、船員、船体の即時釈放は勿論、公海上における日本漁船の操業に、不当な圧迫を加えないよう、良識ある態度をとることを切に期待するものであります。
戦後最大の関税交渉といわれるガット関税一括引き下げ交渉は、去る十一月十六日関係各国より例外品目リストが提出され、いよいよ開始の運びとなりました。わが国は自由陣営における主要貿易及び工業国として、この交渉に応分の貢献を行なうとともに、これに見あう十分の利益を獲得し、もってわが国輸出の振興に資するとの基本的態度をもって交渉に臨んでおります。同時に交渉に当っては、わが国経済が包蔵する鉱工業部門及び農林水産部門の諸問題についても十分配慮し、他方今なお残存している対日差別待遇の撤廃を強く要求する方針であります。
本年四月二十八日わが国がOECDに正式加盟して以来、その広範な諸活動を通じ、わが国の実情に対する理解を深めるとともに、先進諸国の当面する重要問題を明確に把握することを得ました。政府は今後OECDという多角的な場を通じて、国際金融、経済、通商、産業等諸政策について、先進工業国との調整と協調をはかり、もってわが国経済の伸張をはかって行く考えであります。
去る十月開催されましたオリンピック東京大会は、新しいわが国の姿を、世界の人々に示す上に、極めて大きな役割を果しました。大会を機会に来日したすべての人々は、秩序立った大会の運営ぶり、礼儀正しく親切なわが国民の美風に接し、全世界の新聞は、これを讃える見出しで埋まった観がありました。これはひとえに国民各位の御協力によるものでありまして、外務大臣として深く感謝いたします。
諸外国において、わが国についての認識が高まるに伴い、アジアの安定、ひいては世界の平和に貢献するためのわが国の役割に対する期待は益々強まっております。私は国民各位が政府と一体となって、このような期待に添うよう努力されることを心から念願するものであります。
(昭和四十年一月二十五日)
現下の国際情勢と、これに対処すべきわが国の外交のあり方について、所信を申し述べたいと存じます。
今日の世界においては、いぜん東西間の対立という基本的情勢は変っておりませんが、この間にあって東西いずれの側においても、各国がそれぞれ自主的主張を強め、いわゆる分極化、多元化の傾向が生じてきております。また、開発途上の諸国と先進工業諸国との間のいわゆる南北問題も深刻化し、今日の世界における一つの不安定要素を成しております。
一九六五年を迎えた世界の情勢は、このように多元化した東西関係と深刻化した南北関係が相互にからみ合って、極めて複雑かつ流動的であります。このような国際情勢の下において、あくまで自由と正義に基づく世界平和を求めつつ、同時に民族的利益の増進を図らなければならないわが国外交の任務は、益々重大となって参りました。
世界の平和は、一つであり、分割することはできません。同じく世界の繁栄も、一つであり、分割することができません。しかも、今日の世界平和は、米ソ二大国のみの動向に左右されるものではなくなりました。また、貧困に悩む諸国が存する限り、世界の安定は実現できません。世界の平和と繁栄を実現するためには、各国がそれぞれの国力と国際的地位にふさわしい貢献をしなければならないのであります。
わが国は、世界の平和の中に日本の平和を見出し、世界の繁栄の中に日本の繁栄を見出すものであります。今や戦後二十年、わが国は増大した国力を背景として、国際社会において正しい権利、利益はこれを堂々と主張し、確保しなければなりませんが、同時に世界全体の平和と繁栄のために、向上した国際的地位にふさわしい責任を果さねばなりません。私は、このような認識の下に、世界平和の維持、確保を最高目標としつつ、積極的に自主外交を推進して参りたいと存じます。そのためには、われわれは、複雑かつ流動的な国際情勢の現実を冷静に認識しつつ、自由陣営の一員としての、また、アジアの一国としての立場に立って、真の世界平和を確立するための方途を真剣に探究して行かなければならないのであります。
このたび、佐藤総理が訪米し、ジョンソン大統領と会談を行ないましたのも、わが国の安全と繁栄にとって重要な、米国との関係を益々緊密化するためでありました。その際大統領は、わが国の安全を確保することがアジアの安定と平和に不可欠であるとの確信に基づき、外部からのいかなる武力攻撃に対しても日本を防衛するとの米国の決意を再確認されました。わが国にとって誠に心強い限りであります。この会談において、沖縄問題、経済問題等日米間の重要な問題についても討議されたことはもちろんでありますが、より重要なことは、国際情勢一般について忌憚ない意見の交換を行ない、相互の理解を一層深め得たことであります。更に日米両国首脳は、日米両国が信条と目的を共通にする盟邦として、世界全体の平和と繁栄のために今後一層緊密な協力を行なうべきことを確認いたしました。これは、日米間に新しい重要な局面を開いたものでありまして、このように日米間の協力関係が従来よりも一層高い次元において、益々強化されつつあることは誠に喜ばしいところであります。
また、流動する現下の国際情勢の下において、西欧諸国の動向は極めて重要でありますので、わが国が自由世界の有力な一員として外交政策を推進するに当っては、西欧諸国との間にも十分な意思疎通を図る必要があると考えます。私は、このような観点から、西欧諸国との友好関係を一層緊密化すべく努力する考えであります。私は、日米首脳会談に列席した後、第三回日英定期協議のため英国に赴き、ウィルソン首相初め英政府の指導者と有益な意見の交換を行ないました。今後折を見てフランス、ドイツ等との定期協議も実施する予定であります。
最近アジアにおいて、国際的緊張と対立がとみに高まるような現象が見られることは遺憾であります。同じアジアに位置するわが国として、重大な関心を抱かざるをえません。わが国がかかる緊張を緩和し、平和への脅威を除くために努力することは、単にわが国の安全と繁栄のためばかりでなく、世界の平和に貢献するゆえんでもあります。このためわが国は、アジア諸国民の願望に深い理解と同情を寄せ、その直面する困難の克服に率先協力して、これら諸国の安定と進歩に寄与するよう一段の努力をなすべきものと考えます。かかる使命の遂行に当っては、アジアにおけるわが国独自の立場を十分に活かして、これら諸国との間に経済協力はもちろん、あらゆる分野にわたって、相互理解を基礎とする永続的な親交関係をつくり上げるよう努めるべきであると信じます。
アジアにおける恒久的平和を確立するためには、中国問題の解決が極めて重要であります。特にわが国としては、中国とは歴史的、地理的に極めて密接かつ特殊な関係にありますので、とりわけ真剣かつ慎重な態度をもってこの問題を取扱う必要があります。わが国が正式な外交関係を有している中華民国政府と友好関係を維持して行くことは申すまでもありません。同時に中国大陸とは従来どおり民間における貿易及び文化面での交流を進めて行く考えであります。そして世界情勢の推移を見極めつつ、アジアに平和と安定をもたらし、ひいては世界平和の樹立に貢献する方向に沿って、中国問題に対処して参る所存であります。
日韓国交正常化のための交渉について、政府は、相互理解と互譲の精神に基づき、その早期妥結を図る方針を採ってきております。昨年十二月に再開された第七次全面会談においては、漁業問題を中心として、基本関係及び在日韓国人の法的地位の問題について鋭意討議が進められております。交渉妥結の気運は盛り上っており、双方が日韓関係の正常化が両国のためのみならず、アジアの繁栄と平和のために有する意義を意識しつつ、相互理解と決断をもって交渉に当るならば、交渉は遠からず妥結するものと期待しております。私は、近く韓国を訪問する予定であります。私はこの訪問が、両国間の友好親善関係を増進する上に役立つよう微力を尽す考えであります。
昨今ヴィエトナムの政情と治安はとみに困難の度を加え、ヴィエトナム国民の窮状には誠に同情すべきものがあります。また、インドネシアとマレイシアの紛争は、いぜんとして平和的解決の気運に立ち至っておりません。しかもインドネシアは、マレイシアが安全保障理事会理事国に選出されたのを契機として、国連脱退の挙に出るという不幸な事態も生じております。わが国は、このような東南アジア地域の緊張を深く憂慮し、事態の鎮静化を強く望むものであります。わが国がマレイシア紛争の平和的解決のため累次側面的協力を行なったのも、また、スカルノ大統領に国連脱退の決意を再考するよう要請したのも、かかる考慮から出たものであります。私は今後も、アジアの平和と安定のため努力を続けて行く所存であります。
最近、中近東及びアフリカの新興独立国はその国際的発言力を著しく強化して参りました。これらの諸国はいずれもわが国に大きな期待を寄せておりますので、政府としては、これら諸国との友好関係の増進に一段と努力する考えであります。
また、近年著しい発展を示している中南米諸国との関係は、政治、経済、移住の各面において、益々密接になってきております。政府としては、これら諸国との伝統的な友好関係を一段と増進したいと存じます。
ソ連の新政権は、いわゆる平和共存を基調とする従来の外交政策を変えず、わが国とも友好関係を増進して行きたいとの態度を示しており、昨年末の佐藤総理あてコスイギン首相の親書にもその旨が述べられております。わが国としても、日ソ間の諸懸案を解決すべく積極的に取組んで行く考えであります。
本年は、国際連合成立二十周年という記念すべき年に当ります。しかし、この意義深い年は、国際連合の平和維持活動のあり方についての加盟国の意見の対立と、インドネシアの脱退という二つの不幸な事件をもって始まりました。わが国としては、このような対立が解消され、第十九回総会が現在の変則的な状態より脱して、一日も早く実質的審議を開始することを希望してやみません。また、インドネシアの脱退が国際連合の危機につながることなく、かえってこの事件を契機として、すベての加盟国が国際連合創立の理念を再確認し、国際連合強化のために新たな決意と団結を固めるよう衷心希望いたします。
国際連合が、加盟国の増加と世界情勢の推移に応じて、漸次その機構を改革すべきことは当然であります。国際連合は過去十年以上にわたってこのための努力を行なって参りましたが、前総会において決議された安全保障理事会及び経済社会理事会の議席増加を目的とする国連憲章の改正は、まさに、その努力が最初に結実したものであります。政府としては、本国会が、この憲章改正の批准につき、できるだけ早く承認されるよう希望する次第であります。
今次国連総会が昨年末、国連貿易開発会議の機構に関する決議を満場一致で採択した結果、いよいよ本年より同会議及びその下部機構を通じて、国際経済面における南北問題の解決への努力が本格的に行なわれることとなりました。開発途上にある諸国の経済の安定と繁栄は、その政治的安定に不可欠のものであり、それなくしては、先進諸国の繁栄も不可能であります。今日主要先進国が一致して南北問題に積極的に取り組む姿勢を示しているのも、かかる基本的認識に基づくものであります。
このような観点より政府は、開発途上の諸国、特にアジア諸国に対する経済協力を積極的に推進したいと考えております。政府としては、内外の要請を十分勘案して、目先きの利益のみに捉われることなく、世界の平和と繁栄という広い視野に立って、経済協力の一層の拡充を図りたいと考えております。
開発途上の諸国は、開発所要資金とともに、開発に不可欠な人的資源と技術にも不足しております。わが国とアジア諸国との間には地理的、民族的、歴史的に親近感と連帯感が存しますので、わが国は、この分野において独自の貢献を行ないうる立場にあります。政府は、このような認識に基づき、今日まで積極的に技術協力を推進して参りました。本年はその規模を更に拡大するとともに、新たに青年海外協力隊の派遣、職業訓練センターの設置等を予定しており、アジアを中心とする開発途上の諸国における人造りに一層貢献できるものと期待しております。
これらの経済技術援助と関連して、政府は更に、従来より海外移住について積極的に各種の援助措置を講じております。これは、海外移住が国際的に発展しようとする日本民族の将来に対して、極めて高い精神的意義をもつという認識に基づくものであります。また開発途上にある諸国へのわが国民の移住そのものが、農業、技術、中小企業等の分野におけるこれら諸国に対する協力を推進する結果になるのであります。この見地からも、政府としましては、今後とも移住の振興に一段の努力をいたします。
国際経済の面においては、昨年は世界貿易の飛躍的拡大を期するガット関税一括引下げ交渉、いわゆるケネディ・ラウンドを初め、国連貿易開発会議など極めて多彩な動きのあった年でありました。また、わが国にとりましても昨年は、IMF八条国への移行、OECDへの正式加盟等を通じ、国際経済社会において先進工業国としての地位を確立した意味深い年でありました。同時に、わが国は、世界における有数な先進工業国として、世界経済全体に対する責務も加重されて来ているのであります。
私は、世界経済の繁栄なくしてはわが国の繁栄もあり得ないという国際協調の観念に立脚しつつ、ケネディ・ラウンド等多角的協議の場を通じ、あるいは二国間交渉を通じて、わが国の立場を十分に主張し、あらゆる機会を利用して積極的に貿易の伸長を図って行きたいと考えます。また、依然として残っているわが国に対する差別待遇の撤廃を強く要求する等、わが国の貿易環境改善のためにも一段の努力を傾ける所存であります。共産圏貿易につきましても、自由主義諸国との協調を崩さない範囲において、わが国の資金力や国際情勢等を勘案しつつ、できるだけこれを進めて行く考えであります。中国大陸との貿易は、政経分離の原則のもとに発展を図って行きたいと考えております。
全世界にわたり民主主義が高揚し、世論の力が強まりつつあるこの時代には、各国との政治経済関係をより密接にし円滑に推進するためにも、これら諸国民のわが国に対する理解を深め、友好感情を醸成することが益々必要となっております。かかる観点から政府は、諸外国に対するわが国の広報文化活動を積極的に展開すべく努力して参り、その成果はかなり見るべきものがあると存じます。わが国としては、今後特にその重点をアジア・アフリカ諸国に指向し、留学生の招致、諸外国の大学における日本学科の設置など、これら諸国の教育と結びついた文化協力の推進に努力いたしたい所存であります。他方、近年わが国とヨーロッパとの結び付きが益々強まって来たことにかんがみ、本年秋に歌舞伎を文化使節として始めてヨーロッパへ派遣することになっております。このようにして、伝統ある日本古典演劇の精ずいを紹介することは、日本固有の文化に対する認識と評価を高めるのみならず、ひいてはわが国との友好関係の促進に資するものと考えます。
今や、わが国は、政治、経済、文化あらゆる分野において、アジアの日本、世界の日本としての国際的地位を確立するに至りました。私は、この増大した国力と向上した国際的地位を背景として、わが国の自主外交を強力に展開して行く所存であります。しかし、そのためには、わが国が世界の平和と繁栄のために、今までよりも一層大きい貢献をなすべき責務を有するに至ったことを十分に認識していただきたいと存じます。私は、国民各位が政府の推進する自主平和外交の方針及び施策に対し、深い理解と積極的な協力を示されるよう期待するものであります。
第四十八回通常国会における椎名外務大臣の東南アジア情勢について報告
(昭和四十年二月十六日衆・本会議)
最近の東南アジア情勢について、特に現在国際的に注目をあびている地域であるヴィエトナム及びラオスの事態ならびにマレイシア問題を中心にして御報告申上げます。
一、ヴィエトナム情勢
(1) 一九五四年のインドシナ休戦に関するジュネーヴ協定により、北緯十七度線にそう休線ラインにより、ヴィエトナムは南北に分れましたが、元来この休線ラインは南北ヴィエトナムを恒久的に分離する政治的境界線即ち国境と見做されるべきものではなかったのであります。
その後南ヴィエトナムにおいては、一九五九年頃から次第に北越の援助指導によるヴィエトコンの反政府ゲリラ活動が活発となったため、ヴィエトナム政府の要請に基づき米国は同政府に対する援助を強化せざるを得なくなったわけであります。その間南ヴィエトナムにおいては政情不安が続発し、ヴィエトコンはますますその勢力を伸張するようになりました。
(2) ヴィエトコンは二月七日プレイク米軍基地を攻撃、二月十日キニヨン米軍宿舎を爆撃したため、米ヴィエトナム空軍はこれら攻撃に直接関連をもつヴィエトコンの訓練補給基地となっている北越南部を報復爆撃しました。この報復爆撃に関し、二月九日中共は六億五、〇〇〇万の中国人民は絶対にこれを黙視できないとの政府声明を発し、偶々コスイギン首相を北越におくっていたソ連も同日、北越の安全を保障し防衛力を強化するため一層の措置を講ぜざるを得なくなったとの政府声明を発し、また、十一日のソ連・北越両国共同声明においては、両国は北越の防衛力強化のため、とるべき手段について合意に達したと述べました。
(3) インドシナ問題の解決策については、かつてド・ゴール大統領は南北ヴィエトナムの中立化を提案しましたが、上記北越爆撃を契機として、仏、インド等は国際会議による問題の解決を主張しています。
(4) 米国の今般の行動はヴィエトコンの攻撃に対応してとられたやむを得ざる措置であり、米国自身戦火の拡大を意図していないことを夙に宣明しております。わが方としてもヴィエトナム情勢の成行きには重大な関心を抱いており、平和的な解決をもたらし得る環境がすみやかに醸成されることを期待しております。この意味においてもまず北越側の侵透煽動工作が直ちに終熄されることが肝要であると信じます。
二、ラオス
一九六〇年末に勃発したラオス内戦は、一九六二年に右派、中立派、左派パテト・ラオより成る連合政府が成立し、ジュネーヴ十四カ国協定の調印をみて、漸く終熄したかにみえましたが、翌六三年四月に右派、中立派より成る政府軍とパテト・ラオ軍の間に内戦が再発し、左派閣僚はヴィエンチャンを引揚げ、連合政府から事実上脱落してしまいました。かくて、目下国内勢力は事実上二大勢力に分れて対立している有様であります。両派勢力融合のため、昨年夏パリにおいて三派首脳会談を開くなどの努力が払われたが、徒労に帰しました。最近、右派内部に勢力争いがありましたが、基本的な二大勢力の対立状態が今後当分続くものと思われます。
また、ラオス問題の解決は大きく、ヴィエトナム問題の解決に左右される傾向があります。
三、マレイシア問題
一九六三年九月十六日のマレイシアの成立をめぐり、インドネシア及びフィリピンとマレイシアとの間に発生したいわゆるマレイシア紛争については、同年九月十七日マレイシアと右二国間の外交関係が断絶されて以来すでに一年五カ月を経ました。本件紛争においてインドネシアとマレイシアとの関係は、マレイシアのサバ、サラワク両州国境におけるインドネシアのゲリラ活動の激化をめぐり、次第に悪化し今日に至っております。この間右両国関係の悪化は関係諸国の憂慮するところとなり、一九六四年一月に至り、アメリカのケネディ司法長官による調停工作を契機に同年二月及び三月バンコックにおいて関係三国閣僚会議が開かれ平和的解決促進の試みがなされたのであります。更に客年六月には東京において三国首脳及び閣僚会談が開かれ、平和的解決への努力が続けられ、その結果紛争の平和的解決について勧告するアジア・アフリカ四カ国調停委員会を設置することに三国は原則的に合意するにいたりました。
しかしながら、インドネシアの投入したゲリラ撤兵問題が片づかないため、右調停委員会は未だ設置されておらず、東京会談以後の情勢は必ずしも好転したものではなく、特に本年一月にいたり、マレイシアの安全保障理事会非常任理事国就任とともにインドネシアが国連から脱退する旨宣言するという事態の発展を見るにいたり、インドネシア・マレイシア両国間の軍事的緊張が高まっております。
わが国としては紛争発生以来本件紛争の平和的解決に側面的協力を進めてきたものであります。
アジアの平和を希求し、紛争の平和的解決を願うわが国としては、本件紛争が一日も早く解決されることを望むのはもとより関係諸国の平和的解決への努力がたゆまず続けられることを期待するとともに、わが国としても、紛争の平和的解決への雰囲気が醸成されるにおいては、そのタイミングを考慮しつつ、公正、妥当な解決のため協力をするに吝かではありません。