アフリカ諸国(北アフリカを除く)と日本
1 アフリカ諸国との貿易の現状
わが国のサハラ以南のアフリカ諸国との貿易は一九六〇年より一九六二年まで、停滞状態が続いたが、一九六三年に至ってやや増大傾向を示し、一九六四年の輸出は五億五、六四六万ドルで、このうちリベりア向け便宜置籍船輸出一億三、〇〇九万ドルを除いても輸出額は四億二、六三七万ドルとなり、前年比二六・四%の大幅な増加を示した。これは主として南アフリカ共和国ナイジェリア、ケニア、タンザニア(タンガニイカとザンジバーの合邦)等諸国向け輸出増大によるものであるが、スターリング地域以外のアフリカ諸国との貿易も著しい増加を示しており、金額的には小さいが前年比四〇%と大幅な増加を示した。
他方、輸入は三億三、六六七万ドルで前年の二億二、九二〇万ドルに比し三九・一%と大幅な増加を示した。これは主として南ア及びザンビア(旧北ローデシア)からの輸入増加によるものである。アフリカにおけるわが国の主要な貿易相手国はスターリング地域に属する諸国であり、輸出先としては南アフリカ(一億一、六〇〇万ドル)、ナイジェリア(七、九五〇万ドル)、ケニア(三、一五〇万ドル)、ガーナ(二、二〇〇万ドル)が大きく、輸入先としては南アフリカ(一億五、三七〇万ドル)、旧ロ・ニ連邦(七、五〇〇万ドル)、ガーナ(一、三九〇万ドル)が大きい。
わが国の対アフリカの貿易拡大の阻害要因としては、第一に、各国が日本に対して採用している差別的輸入制限がある。ガーナ、南ローデシア及びマダガスカルは日本との貿易取極締結を契機としてガット三十五条援用をはじめとする対日差別を撤廃したが、旧英領アフリカ諸国では南アフリカの最高関税率適用、ナイジェリアの対日繊維品個別ライセンス制があり、又西アフリカ関税同盟諸国(モリタニア、セネガル、マリ、ニジェール、上ヴォルタ、ダホメ、象牙海岸の七カ国)は最低税率の三倍の一般税率をわが国産品に通用している等旧仏領アフリカ諸国の多くはわが国に対し関税上、数量制限上差別的輸入制限を課している。しかもこれら諸国はEECとの連合により旧宗主国フランスに加えて他のEEC諸国との経済関係を強化しつつある。従って政府はこれら諸国との貿易取極の締結を進めることにより対日差別の撤廃をはかり相互貿易の拡大に努力している。
第二の障害は片貿易の問題である。南アフリカ、ザンビア等一部の諸国を除いて、わが国の対アフリカ貿易はわが国の著しい出超となっており、有望な輸出市場であるナイジェリアの場合は一〇対一のわが国輸出超過となっている。すでにナイジェリアは日本との片貿易を理由として繊維品の対日輸入制限を実施したが、ケニア、ウガンダ及びタンザニアの東アフリカ三国も片貿易問題をとり上げており、わが国としてはこれらの国からの一次産品買付努力をさらに強化する必要にせまられている。
第三の問題はわが国のアフリカ向輸出の品目構成である。わが国の対アフリカ輸出の七〇ないし八○%が繊維品であるが、これらの国では繊維品の自給化が進み、繊維品を輸入制限の対象とする傾向が強くなっている。独立したばかりの国では意欲的な開発計画を推進している例が多く、それに応じて近年資本財の輸入が増加しているので、わが国としては繊維品、雑貨中心の軽工業品輸出から脱し、機械類などの輸出にも努めるなど輸出品の多様化に努力する必要である。
わが国の対ナイジェリア貿易は従来よりわが国の極端な出超による片貿易関係となっているため、一九六三年八月二十二日ナイジェリア政府は、繊維品の対日輸入を従来の一般包括輸入許可制(OGL)から個別ライセンス制の下におく措置をとったが、その後依然としてわが国のナイジェリア産品の買付が促進されないことを不満として、一九六四年五月にいたり、繊維品の対日輸入ライセンスの発給を停止する措置をとるとともに、今後ナイジェリア産品を対日輸出した者に対してのみ、それに見合う対日繊維品の輸入ライセンスを発給する旨発表した。
わが方はかねてナイジェリア産品買付促進につき、政府としてとり得べき措置を検討し、一九六一年十二月業界代表二〇名から成る一次産品買付調査団を派遣したのを初めとし、その後もナイジェリア産品買付促進のため、一九六三年十一月には綿花買付調査団、一九六四年十一月には油糧種子調査団及びアフリカ木材資源調査団を派遣した。他方コマーシャル・べースにのらないナイジェリア産品買付機関として日本・ナイジェリア有限会社が一九六三年十一月に設立され、現在までに綿花二万俵、落花生四千トンの輸入が行なわれている。その他ココア豆、綿実等の買付に努力した結果、一九六四年の対ナイジェリア輸入は七三五万ドルで前年に比し五九万ドルの増加をみた。こうした買付努力を背景として対日輸入制限の拡大を阻止すると共に、ナイジェリア政府に対し、対日ライセンスの発給を極力押えないよう申入れた結果、わが国の一九六四年の対ナイジェリア輸出は七、九〇〇万ドルと前年に比し五四〇万ドルの増加を示した。
わが国とガーナとの間には一九六三年三月に貿易協定が締結され、以来両国の貿易は安定した基礎のもとに拡大が期待されている。貿易協定が締結された年のわが国の対ガーナ輸出はガーナの対外貿易悪化にともなう輸入抑制にも拘らず二、三七〇万ドルと前年比二六・五%の増加を示した。しかし、開発計画の推進にともなう資本財の輸入増加と主要輸出産品たるココア豆の国際価格下落とにより、ガーナの対外貿易は悪化し、外貨保有高は一九六三年には一九五九年の一億八、○○○万ポンドの半分以下である四、七〇〇万ポンドに減少した。そのためガーナ政府は一九六四年に再び輸入抑制策をとると共に貿易協定相手国に対し、総輸入額の三〇%をリザーブしたため、わが国の対ガーナ輸出も一九六四年二、二〇〇万ドルと前年に比し僅かに減少してきた。またガーナ政府は一九六四年二月、既発給ライセンスの取消を行なったが、わが国の対ガーナ輸出品目中特殊な輸出品目である花むしろについては輸入ライセンス取消によって既契約分約一〇〇万枚が滞貨となり、しかも図柄等その製品の特殊性から他市場への転売が不可能であるため、これが救済につき、わが方がガーナ政府にライセンスの再発給方申入れた結果漸く解決をみた。
シエラ・レオーネ外相が一九六四年三月台湾訪問の途次来日した際、鉄鉱石資源開発と対日輸出につきわが国に協力方申入れがあり、又両国間において貿易協定締結の希望表明があったのでわが国は目下検討している。
4 南ローデシア、ザンビア、マラウイ(旧ローデシア・ニアサランド連邦)との貿易関係
わが国と旧ローデシア・ニアサランド連邦との間には一九六三年八月新貿易取決めが締結され、同時に連邦の対日ガット三十五条援用が撤回された。これを基礎として両国間の貿易は一層安定した基礎のもとにおかれ、将来の増大が期待されている。
その後同連邦は一九六三年十二月末をもって解体したが、その際前記新貿易取決めの効力を日本と南ローデシアとの間で引続き存続させることが確認された。(連邦は南ローデシア、北ローデシア及びニアサランドの三国により構成されていたが、解体後南ローデシアは英国の自治領として残り、ニアサランドは一九六四年七月六日マラウイとして独立し、北ローデシアは同年十月二十四日ザンビアとして独立した。)
南ローデシアとその間に引続き効力を有することが確認された現行貿易取決めの有効期間は一九六四年末言でとなっていたので、両国間政府の間で新貿易取決め締結の可能性も検討されたが、南ローデシア政府は隣接諸国との通商関係の調整ができないことなどのため、わが国と本格交渉に入る態勢になく、またいずれにしても本格交渉には相当長期間を要するので、有効期間を一九六五年末まで延長するが、それまでに新しい貿易取決めができればその発効まで延長することに両政府の意見が一致し、一九六四年十二月三十一日、ソールズベリーにおいて両国代表の間でその旨の書簡が交換された。他方わが国とマラウイ政府との間には一九六四年十一月書簡をもって両国は旧ロ・ニ連邦が締結した貿易取決めを事実上適用している旨確認された。またザンビア政府当局者は旧ロ・ニ連邦が締結した貿易取決めによって与えられていた待遇を事実上わが国に与えている旨述べている。
近年これら三国との貿易は順調に増大しており、一九六四年の三国向け輸出は一、六八八万ドルで前年比三九・九%の増大を示し、輸入は七、五二〇万ドルで前年比一四〇・三%と驚異的な増大を示した。輸入の増大の大部分はザンビアからの銅の輸入増大によるものである。
5 東アフリカ三国(ケニア、タンザニア、ウガンダ)との貿易関係
わが国の東アフリカ三国との貿易は近年順調に増加傾向をたどっており、一九六四年の三国向け輸出は五、三〇〇万ドルで前年比十三・六%の増加を示し、輸入も一、九八○万ドルで前年比三八・三%と順調に増加している。従来からケニアが対日輸入を禁止していた六品目(自転車のタイヤ及びチューブ、セメント、履物、靴下、肌着)は一九六四年十一月の輸入制度改正の際に解禁され、対日差別が解消されたが、東ア三国との貿易はわが国の大幅な出超による片貿易関係となっているため、三国ともわが国に対し、一次産品買付促進による片貿易是正を強く要求している。わが方としても、ケニアのソーダ灰、ウガンダのコーヒー及び綿花等の買付に努力した結果、一九六四年の輸入が大幅に増加し、三国政府の対日態度の悪化を一応防止して今日に至っている。
また一九六三年以降行われてきたタンザニアとの貿易交渉は一九六四年十月以降中断となっており、タンザニア政府はむしろ一次産品の買付及び経済協力の供与における日本側の実績の方を重視するという態度をとっている。
一九六四年九月の東京でのIMF世銀総会に出席を兼ねて来日したジャン・マリ・コネ企画および経済財政問題調整担当国務大臣を団長とするマリ共和国貿易使節団と両国間の貿易取決めについて交渉した結果、合意に達したので、九月十六日その署名が行なわれ付属の書簡を交換した。
この取決めは、両国の法令の範囲内において、関税および輸出入許可について無差別の原則に従い、できる限り好意的な待遇を相互に与え、また入国、滞在、旅行、居住および諸種の活動を無差別の原則に従い容易にすること、両国がガットの締約国となる場合には、両国はガットに規定されている正常な関係の枠内で協力すること等を規定している。取決めは一九六四年十一月一日に発効し、有効期限は一カ年で、廃棄通告のない限り更新できることとなっている。また、付属交換書簡を適用することを定めている。
一九六四年九月の東京でのIMF・世銀総会に出席のため来日したミシェル・ジディンガール大蔵大臣を団長とするチャード共和国代表団と両国間の貿易取決めについて交渉した結果、合意に達したので、九月十六日その仮調印が行なわれ、この取決めはその後十一月二十四日チャードの首府フォール・ラミーで蓮見大使とラマナ、チャード経済大臣の間で署名され、また同時に付属の書簡交換が行なわれた。
この取決めの内容は前記のマリとの取決めとほぼ同様であり、本年一月一日から発効し、有効期間は一カ年で廃棄通告のない限り更新できることとなっている。
また付属交換書簡ではチャード政府は、対日ガット三十五条援用をできる限り早く撤回することを確認している。
わが国は一九六三年五月十日にマダガスカルと貿易取決めを締結したが、この締結と同時に発表された共同コミュニケで、マダガスカルがガットに加入する場合にはわが国に対してガット三十五条を援用しないとの意向を明らかにした。その後一九六三年十二月マダガスカルはガット規定第二十六条五項(C)によりガットに加入したが、わが国より再三の申入れの結果、一九六四年十二月十六日ガット事務局に対し三十五条の援用を撤回する旨を通報した。
それまで旧仏領アフリカ諸国のガット加盟国はすべて対日三十五条援用を行なっていたが、援用撤回を行なったのはマダガスカルが初てであるので、今回のマダガスカルの執った措置は他の諸国に対するわが国の交渉に好影響を与えるものと思われる。