中近東諸国と日本
1 中近東諸国との貿易の現状(トルコ、北アフリカ諸国を含む)
一九六四年の中近東諸国に対する輸出は、前年の大幅な増加のあとを受けて、更に前年比一五・九%増加し二億九、〇七一万ドル(通関統計)となった。わが国の輸出総額に占めるシェアは、四・三六%となっている。
わが国の対中近東輸出の内訳は次の四グループに分けて分析するのが便宜であろう。
(1) 石油産出国であり、しかも、人口が余り多くないため、国際収支に心配がなく、輸入制限を行なっていない国(クウェイト、サウディアラビア、ペルシャ湾土侯国、リビア)に対する輸出は年々急激に増大している。これら諸国に対する輸出は六四年八、八三〇万ドルに達した。
(2) わが国の従来からの大手市場であるイラン、イラク両国に対する輸出は、五九年以降差別的な対日輸入制限等のため減少傾向にあったが、六四年対日輸入制限が撤廃されたため再び順調に伸び六四年には六、四一九万ドルとほぼ五八年の線まで回復した。
(3) 貿易仲継地であるアデン、レバノン、バーレンに対する輸出は年々着実に伸び、六四年には五、一九三万ドルとなった。
(4) 中近東の大手市場であるア連合、スーダン、トルコに対する輸出が近年頭打ちの傾向を示していたが六四年には三、八四五万ドルと減少した。
わが国は石油需要の約七〇%を中近東地域に依存しており、わが国のエネルギー需要の増加に伴って対中近東輸入の規模は毎年大幅に増大している。一九六四年中近東諸国よりの輸入は前年比二一%増加して九億六、二三九万ドルとなり、そのうち、石油が九二・四%を占めた。石油を除くその他の品目も、アラブ連合、スーダンの長繊維綿花をはじめ鉱石、塩等の工業用原材料を中心に七、三二八万ドルに達し、前年に比し三八%増加しており、わが国の一次産品買付努力を反映するものと云える。
中近東諸国との貿易振興上の問題点としては、次の5点が指摘できる。
(1) 相互認識の増進の必要性
わが国と中近東諸国とは従来歴史的な交渉が少なかったため、相互の認識に欠ける憾みがあった。わが国の業界には、中近東諸国の政治不安、商習慣の特殊性などに対する正しい理解に欠け、また中近東諸国にとっても、伝統的な西欧諸国との関係から、わが国の商品、技術に対する信頼感に欠けるところがある。
これに対しては、国内において正確な知識をPRすると同時に、中近東諸国政府幹部のわが国に対する評価を高めることが必要である。
(2) 各国の輸入制限強化
他の後進国と同じく中近東諸国においても、一次産品の交易条件の悪化、経済開発の強行、などの原因により外貨事情が悪化しているため、各国は消費財輸入の制限を強化する傾向があらわれている。またこれら諸国は国内産業の開発に着手しているが、国内産業保護の見地から、消費財の輸入制限措置をとっている。その結果わが国の中近東諸国に対する輸出は繊維品等消費財を中心としているので、受ける影響が大きい。従ってわが国のとるべき対策としては、輸入制限の対象にならない品目の輸出に努力すること、即ち次項で述べる如き輸出構造の高度化に努力することが必要である。
(3) 輸出構造の高度化
繊維品中心の伝統的な消費財輸出努力を継続することは必要であるが、それ以上の努力を資本財およびプラント輸出増大に払うことが必要である。現在中近東におけるわが国輸出の市場占拠率が五%に満たないという事実を考えるとき、まだまだ大幅に輸出の伸びる余地はあるものと考えられる。
具体的には、まず各国の経済開発計画のプロジェクトの把握研究に始まって、専門的な外国語のカタログづくり、セールス・エンジニアの配置、国際入札に迅速に対応しうる態勢の強化など、有形無形の準備態勢が必要である。
(4) 一次産品買付問題
中近東諸国のうち、片貿易を理由に対日輸入制限を行なってきたイラン、イラクが現在それを廃止したので、わが国の繊維品四〇品目に対して差別関税を課しているレバノンの外には差別的な対日輸入制限措置をとっている国は中近東にはない。しかし中近東諸国のうちには、わが国の大幅な出超になっている国が多く、今後わが国がこれら諸国の一次産品貸付けに努力しない限り、対日輸入制限を惹起する危険性がある。
(5) イスラエル・ボイコット問題
アラブ諸国がイスラエルとの取引関係にある第三国業者に対するボイコット活動が活発化しているのみならず、イスラエル側が対抗措置として同様の政策をとろうとしているので、現在アラブ・イスラエル紛争はわが国の対中近東貿易振興の阻害要因となっている。
近年のわが国とイランとの貿易関係は、イラン側が石油輸出を輸出入比率に含めない方針により西欧諸国に比較して日本側の著しい輸出超過の状態にあるとして、一九六一年十月貿易協定失効以来差別的な対日輸入制限を実施していた。わが国としては両国間に正常な貿易関係を回復するため、新貿易協定の締結交渉をすすめ、一九六三年十月二十七日一応両国間に合意をみたが、わが国が協定締結の前提条件としてイラン側に要求していた対日輸入特別賦課金制度の廃止に関する法案がイラン議会の通過がおくれたため、正式調印は一九六四年七月十二日に持ち越され、同月発効した。なお協定の有効期間は本年七月十一日迄の一カ年である。
本協定の成立によりわが国の対イラン輸出は急速に増加し、協定が発効後の一九六四年下半期には、上半期の約二倍の実績を示し、又輸入については政府業界が協力してイラン側の要求している同国一次産品の買付増加をはかるよう努力している。
イラクは同国から石油以外の産品をほとんど買付けていないわが国に対し、特に同国輸出の大宗であるデーツの買付ける強く要望し、一九六三年三月以来一四分類以外の品目の対日輸入を禁止する措置をとり、さらに右品目についても輸入ライセンスの発給を操作しつつ買付けを迫っていた。
わが国としてはこのように著しく不安定な貿易関係を改善すべく、昨年四月ジャミール経済次官を団長とするイラク貿易使節団の来日の機会に、同国との間の貿易協定交渉を行った結果、合意に達し、六月十七日バグダットで署名が行なわれ、次いで九月七日バグダットで公文が交換され即日発効した。
本協定は相互に輸出入許可の発給ならびに関税、租税その他の課徴金およびそれらに関連する手続きについて現行法令の範囲内で他の外国に対して、与えているよりも不利でない待遇を与えること、入国、滞在、旅行、居住および事務活動について、現行法令の範囲内で、無差別の原則に従い相互に相手国の国民に便宜を与えること等を規定している。
この結果イラクが行ってきた上述の対日輸入制限措置も撤廃され、わが国の対イラク輸出は飛躍的に増加し、一九六四年輸出は前年の七四七万ドルに比し一、七三六万ドルとなった、また、わが国政府業界が協力してイラク側の要求に従い、従来より内需の少ないデーソ(食用、果糖用およびアルコール用)買付けに努力してきている。
わが国の対アフガニスタン貿易は、毎年わが国の著しい出超となっているが、本年に至り同国の外貨事情が悪化傾向を辿るようになったため、アフガニスタン政府は外貨事情の改善を図る見地から一般的な輸入制限措置を強化するとともに、対日片貿易是正問題をとりあげる動きをみせ始めた。即ち昨年七月在アフガニスタン大使がユーセフ首相を表敬訪問の際同首相は本問題に言及し、また本年に至ってアフガン商業省アーサー・ポール顧問が二月来日し直接アフガン側の外貨事情悪化の窮状を説明するとともに日本政府の善処方を要望越した。
これに対し、目下本件対策を慎重検討中である。
レバノンは、従来わが国産品五九品目に対し普通税率の二倍に達する差別関税を適用していたが、わが国よりの強い撤廃要請に従い、一九六三年七月繊維品(四〇品目)を除く一九品目について差別関税を撤廃し、普通税率を適用することに決定した。しかしながら繊維品については、レバノンの国内繊維産業保護のため関税の引上げを検討中であることを理由に、この措置から除外されたので、わが国としては、引きつづき差別関税の全面的撤廃を強くレバノン政府に申入れてきた。同国政府は国内関税最高委員会において繊維品の関税をグローバルに引上げることにより、対日差別を廃止することを決定し、目下のところ同国政府部内の手続事項のみが残されている段階であり、同国政府もできるだけ早く手続を進める旨言明しているので、レバノンの対日差別関税は近い将来全廃される見通しである。
わが国とモロッコとの間の貿易取決めは、一九六〇年十二月締結され、以来今日まで毎年自動更新されている。同取決めにおいてモロッコは、わが国産品を同国のグローバル割当に全面的に均てんさせることを約するととともに、協定割当品目(緑茶、繊維品、漁網、電気器県、ミシン等合計二〇品目)について毎年四三七万ドルの対日シングル割当を設定している。しかしながらモロッコ政府は外貨事情の悪化に伴ない一九六四年十月全面的な輸入制限を実施し、あらたに必需品目のみを輸入許可品目とし許可品目以外の産品は暫定的に輸入を停止する措置を採った。
この輸入制度の変更により、わが国としては、貿易取決め上の対日割当の改訂を行なう必要が生じ、更には両国間の貿易促進対策を検討するため、近く貿易取決めにもとづく両国混合委員会をモロッコで開催することを予定している。
アラブ諸国はイスラエルの経済的ボイコットの一環として、イスラエルの戦力強化、あるいは経済発展に寄与するとみなされた外国会社を一致してボイコットする政策をとっている。アラブ諸国はボイコットを統一的、かつ有効に実施するために、アラブ連盟の下部機構としてイスラエル・ボイコット委員会を設け、シリアに本部を、また各国に地域支部としてボイコット事務局を置き、相互に連絡をとっている、また各国はボイコットに関する国内法規を制定している。
現在わが国の会社も四〇社近くがボイコットの対象となっており、その数は増加する傾向にある。さらに最終的にはボイコットの対象とならないまでも、アラブ諸国により嫌疑をかけられ紛糾を起す会社が多い。
ボイコット問題は、国際法上も微妙な問題を含んでおるが、外務省としては、ボイコットの対象となった会社、あるいは嫌疑をかけられて紛糾を起している会社の要請に基いて必要かつ有効と認められる場合は、当該会社をボイコット・リストより外すよう関係政府と交渉している。