ラテン・アメリカ諸国と日本
1 ラテン・アメリカ諸国との貿易の現状
一九六四年におけるラテン・アメリカ経済を概観すると、ラテン・アメリカの主要国たるブラジル、アルゼンティン、チリは依然財政赤字、インフレの昂進、国際収支の悪化に悩んでいるが、メキシコ、中米その他の諸国の経済は一般に前年に比し堅調である。
ラテン・アメリカ二二カ国とわが国との貿易の現状をみると、わが国の対ラテン・アメリカ輸出は一九六二年以降年間三億二、九〇〇万ドル前後(通関ベース)に停滞していたが、一九六四年において四億一、五〇〇万ドル(通関べース)と大幅な増加をみせた。これは六三年比二六%増で、六四年のわが国輸出総額の対六三年増加率を若干上廻っている。
しかしわが国のラテン・アメリカからの輸入はここ数年来顕著な増加せ、六四年もまた六億六、二〇〇万ドルと六三年比一七・八%の増加を示した。この結果六四年の対ラテン・アメリカ入超額は二億四、七〇〇万ドルに達し、入超額もまた年々増大の一途を示している。
前述のように一九六四年におけるわが国の対ラテン・アメリカ輸出が六二-六三年における停滞を破ったのは、ラテン・アメリカの大部分の国で経済活動が上向き、資本財を中心とする輸入需要が刺激されたことによるところが大きい。これを国別にみれば、第一に、六二年以降増加の一途をづづげるメキシコ、中米地峡、カリブ海諸国への輸出が六四年もまた二億九〇〇万ドル、六三年比五六%増と好調を示したことである。ことに従来巨額の入超を示しているメキシコ市場が数年来の輸出の漸増傾向を六四年も保ち、三、四〇〇万ドル、六三年比三九%増を示したことは注目される。第二に、従来繊維製品等消費財の好市場であったヴエネズエラが六、二〇〇万ドル、六三年比五八%と著しい増加を示していることで、これは同国向け鉄鋼(六三年実績の三倍)、機械(二倍)、化学工業製品(三倍)の輸出が快調だったためである。同国は六四年にスタートした四カ年開発計画の発展に伴ないわが国資本財輸出の絶好の市場となるものと期待されている。またチリを除くアンデス諸国への輸出も七、六〇〇万ドル、六三年比三七%増で好調であった。したがって、南米の主要国ブラジル、アルゼンティン、チリヘの輸出がふるわず、ことに対ブラジル輸出は二、九〇〇万ドルと一九五八年以来の最低を記録したにも拘わらず、ラ・米市場全体としてみると、輸出が伸びた結果になっている。
南米主要国への輸出不振の理由は、(イ)国産保護、国際収支対策としての輸入抑制策の強化(ブラジル、アルゼンティン、チリ)、(ロ)為替レートの悪化による輸入品の価格騰貴の結果輸入意欲の減退(アルゼンティン、チリ)、(ハ)一般経済活動の沈滞(アルゼンティン、チリ)等にあるものと考えられる。
一方、一九六四年の一次産品の輸入は、メキシコ、中米諸国等の綿花(二億一、六〇〇万ドル)、ペルー、ボリヴィア等の銅鉱石(一、五〇〇万ドル)は一九六三年並の水準にあり、ペルー、チリ、ブラジル等の鉄鉱石(一億三、五〇〇万ドル)をはじめコーヒー豆、ふすまは一九六三年を更に上廻っている。このような対ラテン・アメリカ一次産品の輸入はわが国の開発輸入が進めば今後とも一層増大するものと考えられるが、この輸入を挺子として輸出の拡大をはかる要があるものと考えられる。
しかし一概に対ラ・米入超といっても、国別にみれば年々わが国が出超で一次産品買付による片貿易是正を要求する国(コロンビア、コスタ・リカ、ドミニカ、ジャマイカ、パラグァイ)も出てきており、そのうち若干の国は一次産品買付の約束拡大を含むような通商協定の締結を希望する動きを見せているが、わが国としては先方の希望にはそのまま応じ得ないにしても相互の利益のために貿易の拡大をはかり得るようなものであれば、積極的に考慮することとしている。
ブラジルは政府の特恵または政府関係金融機関の融資を受けて輸入される物資等は同国船会社の船舶およびその用船によって輸送されなければならない旨を政令をもって定めている。
ノールウェー船等を用船し六三年十月以降わが国に配船を行っているリオ・グランデンセ海運会社は、右政令をたてに該当貨物の殆んど全量を積取っており、これがため従来ブラジルとの間に就航していた「極東リヴァープレート・ブラジル」同盟と前記リオ・グランデラインとの間に問題が生じた。わが方は海運自由の原則よりこれを遺憾としていたが六四年六月末パリで開催されたブラジルに対する債権繰延に関する会議においてブラジル代表は債権国との間において速かに海運問題の解決に努力する旨宣言した。これに基き六五年二月一九日に調印されたブラジルの対日延払債務再融資に関する交換書簡でも同国政府はわが国政府とともに遅滞なく海運問題の解決を図る旨の一項が挿入された。