大洋州諸国と日本
1 大洋州地域との経済関係概観
わが国と大洋州諸国との貿易は、わが国が同地域から工業用原材料、食糧等を輸入し、主として繊維、雑貨などを中心とする工業品を輸出する貿易構造となっている。近年はとくにわが国の高度経済成長にともない、原材料の輸入が活発であるので、貿易尻は恒常時にわが方の大幅な入超となっている。一九六四年の対オーストラリア、ニュー・ジーランド貿易は、輸出二億八、○○○万ドル(前年比三九%増)、輸入六億三、九〇〇万ドル(前年比一二%増)に達した。輸出の増大に比し、輸入の増大幅が少なかったため、入超幅は若干減少した。
輸出増大の主なものは金属、機械類であり、このためわが国輸出に占める機械類の比重は大幅に増大し、逆に繊維品の比重は減少した。輸入では依然として羊毛が約半分を占めている。輸入は数量的には増大したが、羊毛、砂糖の値下りにより、金額の増加は低位におさえられた。地理的にみても、また、その所得水準からみても、オーストラリア、ニュー・ジーランド両国はわが国にとって極めて有望な市場であるが、今後の輸出伸長のためには輸出の重点を今までよりももっと重化学工業品の分野へ移行させる必要がある。
オーストラリアについては、一九五七年の日豪通商協定を改訂する議定書が五月に発効して両国が完全なガット関係に入ったこと、又鉄鉱石の長期輸入契約の商談が進展したこと、特に鉄鉱石開発に関連する資材の輸出についてはかなりの進展がみられたことなど、一九六四年中に日豪貿易拡大の基礎は一層強化された。オーストラリアはその輸入をほとんど自由化しているので、輸入管理上関税が極めて大きな地位を占めている。一九六四年は、一時的な国内産業保護よりも、むしろ基礎的な産業について、長期的な観点から保護のあり方について、検討しているといら態度がみられた。
ニュー・ジーランドは、オーストラリアに比して資源が少なく、貿易も殆んど全面的な輸入ライセンス制をとっており、英国へ大きく依存しているので、今後わが国のニュー・ジーランドとの貿易に飛躍的な伸びは期待するのは無理があろうが、地道な努力をつづければそれなりの着実な輸出の伸びは充分期待できよう。
一九六四年における主なる問題を列記すれば次のとおりである。
一九六三年八月五日東京で署名された日豪通商協定改訂議定書は、翌一九六四年五月二十七日キャンベラにおいて在豪太田大使とタンゲ・オーストラリア外務次官との間の批准書交換により効力を発生した。これにより、協定の有効期間は更に三年間延長され(以後自動更新)、オーストラリアの対日ガット三十五条援用の撤回、協定第五条のセーフガード条項の削除により、日豪両国は完全なガット関係に入った。
日豪通商協定第6条の規定による協議が、協定改定後始めて、一九六四年十一月三十日から三日間東京において、牛場外務審議官及びウェスタマン貿易産業省次官を日豪それぞれの代表として開催された。
この協議においては、オーストラリアの関税政策および日本の農産品輸入問題に双方の関心が集中したが、ケネディ・ラウンド関税一括引下交渉における農産品の取扱い及び工業品の関税引下げについても双方の基本的な考え方について意見交換が行なわれた。
オーストラリアにおける関税改正の動きは次の通りであった。
(1) 暫定関税の賦課
貿易大臣が暫定輸入制限措置の必要性につき関税委員会特別顧問に諮問した件数は一九六〇年七月以来一九六五年三月十日までの間九〇件であり、その内何らかの措置がとられたものが七二件、暫定措置不要とされたもの一八件となっている。なお、特別顧問に諮問された件数をオーストラリアの会計年度別(七月より翌年六月まで)に見ると、一九六〇-六一年度は一八件、六一-六二年度は三九件、六二-六三年度は二二件、六三-六四年度は二件となっている。一九六四年は、オーストラリアの好景気を反映して暫定関税の賦課を要求する業界の声は少なかったが、年末から一九六五年の初めにかけて、景気の行きづまりということもあり、矢つぎ早やに数件の要求があり、その内わが国の関心品目としては、小型ピストン・エンジン、銅線、X線フィルム、プライウッド等があった。(三月十日現在特別顧問に諮問されていない。)
(2) 基本関税の改訂
基本関税の改訂の要否につき関税委員会に付託された件数は、一九六〇年七月より一九六五年三月十日までの間に二三八件であり、年度別には一九六〇-六一年度五九件、六一-六二年度五三件、六二-六三年度七五件、六三-六四年五一件であった。このうちわが国の関心品目は、綿織物、化合繊織物、魚介缶詰、自動車部品、完成自動車、工業用化学品及び合成樹脂、はきもの等であり、わが国業界も各公聴会において関税引上げ反対の陳述を行なった。なお、上記品目のうち一九六五年三月現在結論の出ているものは魚介缶詰(関税すえ置き)のみである。
その他オーストラリアのケネディ・ラウンドヘの参加のため、関税委員会に対し、二三五品目(繊維品、宝石、文房具、楽器、写真、木製品、鉄鋼及び同製品、機械類等)の英連邦特恵マージン縮少の可否が諮問され、一九六四年三月政府にレポートが提出されたが、内容は公表されていない。
(3) ダンピング税
一九六二-六三豪会計年度においてダンピング税の賦課に関し関税委員会へ諮問されたのは八件であり、その内日本の関心品目としてはナイロン糸、燐酸ナトリューム、綿テープ等がある。また、一九六五年三月現在、オーストラリア政府においてダンピング容疑で調査中のわが国関心品目としては、合板、アセテート糸等がある。
(4) 関税委員の訪日
オーストラリア関税委員会では、主たる貿易相手国へ関税委員を派遣して、その国の産業事情を視察して今後の審議に役立てることとなり、その最初の試みとして二人の関税委員がマレーシア、香港、日本を訪問した。わが国には一九六四年十一月一日より約一カ月間滞在し、自動車、エレクトロニクス、繊維等の業界と懇談し、工場の見学を行なった。
日本鉄鋼業界では、将来の鉄鉱石需要を勘案して、地理的にもコスト的にも有利なオーストラリアの鉄鉱石に関心を示し、最近相次いで長期の輸入契約商談がすすめられている。これらの商談がまとまれば、数年後には、オーストラリア鉄鉱石は、わが国鉄鉱石輸入の1/4以上を占めることが予想され、今後これらの鉱床開発に関連する資林の輸出、技術者の派遣等両国経済関係の一層の緊密化がもたらされるものと考えられる。