アジア諸国(西アジア諸国、共産圏諸国を除く)と日本
1 アジア諸国との貿易の現状(共産圏諸国を除く)
一九六四年のわが国の対アジア貿易は輸出一七億七、三六六万ドル(以下何れも通関統計、前年同期一五億九、八九三万ドル)、輸入一二億九、三二二万ドル(一二億一、〇五八万ドル)で前年同期に比し輸出一〇・九%、輸入六・八%の増加であった。
香港、タイ、フィリピン、インド、マレイシア、中華民国、インドネシア、韓国の八カ国については、輸出額は一億ドルを超え、輸入額では、マレィシア、フィリピン、インド、タイ、インドネシアなど五ヵ国が一億ドル以上の額を記録している。
わが国の主要輸出品はこれまでと同様、機械、繊維製品、化学製品などで、主要輸入品は原材料(鉄鉱石、木材、ゴム、コプラ等)、食料品(砂糖、とうもろこし、米等)、燃料、化学原料などである。
わが国の対アジア貿易は年々増加しているが、その増加率はわが国全体の貿易の伸びに比して低く、これを換言するならば、わが国総貿易額に占めるアジアとの貿易の比重が下降傾向を辿っていることを意味している。一九六三年にはわが国の総輸出額中アジアの占めていた比率は二九・三%であったが、この比率は一九六四年には二六・六%と低下している。輸入についてみても一九六三年わが国輸入総額中にアジアの占めた比率は一八・〇%であったが一九六四年には一六・三%となっている。
一九六三年から六四年にかけては、先進工業諸国の好況により非鉄金属価格が高騰を続けたので、非鉄金属産品輸出が大きなウエイトを占めている国(マレイシア、インドネシア、タイ、フィリピン等)はこの恩恵に浴したが、アジアの主要農産品価格は低迷を続け、また一時高騰した砂糖も反落した。アジア諸国の外貨事情は一部の国(タイ、中華民国)を除いて依然窮迫状態を脱し切れず、外貨事情よりする輸入の抑制、発展期にある自国産業保護のための輸入規制、バイ・アメリカン政策の強化、中共の進出等がわが国のアジア貿易の一層の拡大を阻む要因となっている。
このため、わが国の同地域向輸出中に占める延払い及び円借款による輸出の割合は次第に大きくなって来ており、今後とも輸出の維持拡大を図るためにはこのような手段にたよる他はないが、その結果相手国の債務が増大していることは今後解決すべき問題である。
またわが国の対アジア貿易は、わが国の輸出超過を基調としており、これも貿易拡大阻止要因として作用していると言えよう。一九六三年には、とくにわが国の輸入増加が顕著であったことは、貿易不均衡改善の見地から歓迎されたが、一九六四年にも調査団の派遣、輸入懇談会の開催、技術協力等引続いて不均衡是正のため努力が強化された。わが国輸入の自由化が進展している現在、アジア諸国からの一次産品輸入も増勢を辿っているが、この地域から輸入される一次産品は多様性に欠け、また品質価格等で他地域、殊に先進国産品との競合が問題となっている。外貨不足に悩むアジア諸国との貿易では、わが国の輸入を増大し、相手国側に輸入余力を与えることが肝要で、わが国としては引続き貿易の均衡拡大のために経済協力と結びついた綜合的な施策をとることが課題とされている。
2 フィリピンとの友好通商航海条約のフィリピン側批准と暫定取決め問題
わが国とフィリピンの間の友好通商航海条約は、一九六〇年十二月九日に署名され、わが国の国会は翌年十月三十一日これを承認したが、フィリピン側ではまだ批准に必要な措置をとっておらず、本条約は今日に至る迄発効していない。
フィリピン側の批准手続としては、大統領は上院全議員(二四名)の三分の二の同意を要することとなっている。
一昨年三月、マカパガル大統領は、国内産業保護の立法措置をとるまで本条約を批准しない旨決定したが、現在までのところこのような国内法は未制定であり、また現在与党の自由党は上院定員中二名を占めるにすぎず、このような事情を背景に、本条約は上院に上程されていない。本年も十一月に大統領選挙ならびに一部上院議員の改選が行われる予定で、本年度の議会会期中に、本条約が上程されるか否か、明確な見通しは得られない状況にある。
わが国は、依然として本条約の早期発効を希望し、フィリピン側の批准促進方努力を続けている。
他方、条約発効までに長期間を費しているため、入国滞在、事業活動、合弁事業などの面で、条約未批准によりわが国が蒙っている支障を排除する必要が生じ、一昨年九月池田総理のフィリピン訪問の際、同総理とマカパガル大統領との間で、本条約批准までの間、これらの障害除去のため、暫定的な取決めを行うことにつき話合を行うことに合意をみた。(「わが外交の近況」第八号二八八頁参照)
その後昨年の議会に本条約上程の気運があったので、暫定取決の交渉の申入れは見合されていたが、通常会期後の特別国会にも上程されなかったので、七月に至り本件交渉を開始したい旨申入れを行った。フィリピン政府は現在わが方申入れにつき検討中で、フィリピン側の準備が整い次第交渉に入ることが期待されている。
一九五三年十二月八日に締結されたビルマとの貿易取決めは、その後毎年交換公文により一年間ずつ単純延長されてきた。一九六四年十二月末の更新時期に際し、両国政府は同取決めをさらに一年間単純延長することに合意したので、一九六四年十二月二十八日ラングーンにおいて公文の交換を行ない、一九六五年十二月末まで単純延長することとした。
一九六〇年二月十日に締結された日本とカンボディアとの間の貿易取決め(同年二月十五日発効)は、一ヵ年の有効期間満了後、毎年交換公文により一カ年ずつ延長されてきている。わが国産品は、この取決めに基き、カンボディア側より最低税率の適用をうけてきたが、一九六五年二月十四日にその有効期間が満了することとなった(「わが外交の近況」第八号二八八頁参照)ので、カンボディア政府と折衝した結果、取決めの効力をさらに一ヵ年延長することに合意が成立し、同年二月九日プノンペンで、駐カンボディア田村大使とノロドム・カントールカンボディア外務大臣臨時代理との間で取決め延長に関する書簡の交換が行なわれた。
日韓貿易は、一九五〇年六月二日に署名された日韓貿易協定及び日韓金融協定に基づいて、日本銀行に設定されている米ドル建清算勘定を通じて決済されるのを原則としている。両国の貿易は、輸出入とも年々増大傾向にあり、韓国向け輸出は、一九六四年一億八八四万ドル(前年同期一億五、九六一万ドル)、輸入は一九六四年四、一六七万ドル(前年同期二、六九八万ドル)であるが、このようにわが国の大幅な出超となっている。
わが国の主要輸出品は、化学肥料、鉄鋼、鉄道車輌、繊維機械等であり、主要輸入品は魚介類、のり、米、無煙炭、鉄鉱石、黒鉛等の一次産品である。両国間の貿易は前述のようにわが方の著るしい出超となっているため、また、特に一九六二年から始まった韓国の経済開発五カ年計画の遂行のため必要な輸出振興との関連において、韓国政府は、同国総輸出の約三〇%を占める対日輸出の増大に期待しており、機会あるごとに、のり、ぶり、するめ、葉タバコ、無煙炭、牛、豚等の新規もしくは増加買付を求めてきている。
これら品目のうちには、わが国の同種産品と競合し、需給上買付困難なもの、また、韓国産品の国際競争力の乏しさとも関連し、わが国で市場性のあまりないものもあるので、対韓輸入促進は必らずしも容易でない状況にあるが、わが国の輸出市場としての韓国の重要性にも鑑みできる限り同国からの輸入をも増大することが必要であろう。
なお、二月に行なわれた椎名外務大臣の訪韓に際して発表された日韓共同コミュニケで、健全で相互に利益のある両国間貿易関係の維持が極めて重要であるとの認織の下に、より均衡した基礎による相互間貿易の拡大をはかるため、両国の輸出力増強の可能性の問題をも含め両国間貿易関係につき討議するためできるだけ早い機会に会議を開くことが合意されたところ、この日韓貿易会議は三月十一日から同二十七日まで東京において開催され、日韓片貿易是正のためのわが国による韓国諸産品輸入増大をはじめ両国間経済提携強化の諸方策につき討議が行なわれた。この会議では、閉会に当り発表された「日韓貿易会議に関する共同コミュニケ」にもあるとおり、(イ) のり、魚介類、畜産物、米、葉タバコ、無煙炭等韓国側がとくにわが国の輸入増大を要望しているものにつき、日本側はこの要望を実現するための諸措置を可能なものから逐次講じていくこと、(ロ) 韓国の保税加工輸出促進についての日韓協力のため今後更に検討を続けるとともに、可能な措置があれば具体的事例に則して実施していくこと、(ハ) 韓国工業化についても同国の輸出力増大のため両国が緊密に協力し、このため日本は技術指導者派遣又は韓国技術研修生の受け入れも積極的に考慮すること、並びに日本は韓国一次産品の開発輸入の可能性を調査するため調査団派遣を考慮すること、(ニ) 両国間に事実上適用されている貿易、金融及び海運に関する三協定を現状に沿うよう速かに改廃するため今後継続して交渉すること、(ホ) 貿易を目的とする両国人の往来、相手国における滞在等ができる限り円滑に行なわれるよう両国政府が考慮を与えること及び、(ヘ) 本年中の適当な時期にソウルにおいて再び貿易会議を開催すること、等につき意見の一致をみた。
(1) マレイシアは、共同市場の形成のために必要な関税の統一を図っており、既に関税諮問委員会を設けて検討すると共に、一九六四年十月一〇一品目を統一関税可能品目として発表、これら品目についての公聴会を開くとともに、シンガポール、ペナン、ラブアン等の自由市場における思惑輸入を阻止するために、前年度の輸入を基準として輸入制限を行った。これら品目は何れもマレイシア内部で国産中または国産可能なものばかりであり、わが国の進出企業の産品も含まれているので、わが国としては各品目につきこの輸入制限及び将来統一関税が設けられた際のわが国の輸出及び企業進出の蒙る影響を検討している。
(2) マレイシア政府は、共同市場結成の他にも経済的自立を達成するために努力しており、わが政府に対しても、一九六四年四月、鮪漁業育成のため訓練船の購入、ならびに漁船の用船についての斡旋方を要請して来たので、これに協力した。
(3) インドネシアとの経済断交について、一九六四年十一月十八日、マレイシア国防省は、インドネシア向け武器、弾薬等軍需品のみならず、あらゆる物資を輸送するすべての航空機、船舶のマレイシア寄港に全般的禁輸を課する必要がある旨発表したが、これは海運の自由を阻害するものであり、低開発貿易拡大の見地からも好ましくないという見地からこれを中止するよう、わが国を初め、各国から申し入れた。その結果、十二月に至り、マレイシア政府は全面的禁輸の実施を見合せ、武器、弾薬等軍需品の禁輸のみを行なうこととした。
(4) わが国はマレイシアに対しては現在大幅の入超であるが、この入超幅は、わが国の輸入が横這い乃至減少しているため次第に狭って来ており、先方政府も鉄鉱石の長期買付契約の更新にあたって、わが方政府の斡旋による買付増量、価格引上げ乃至維持を要請して来ている。
(5) マレイシアは現地駐在の本邦商社支店に対し、第三国間貿易の禁止、支店邦人数の制限を課しているが、これは日・マ通商協定上疑問があり、かつ、本邦商社支店がマレイシア経済発展に貢献している点を無視するものであるとして、わが方から繰り返し先方政府に善処を申し入れている。
(6) 現在シンガポール州政府は、マレイシア政府と連絡をとりつつ、工業規格の整備に努力しているが、わが国としては同地域の経済の発展のためのわが国の経済協力を促進すべく、一九六四年七月、日本工業規格(JIS)一式の寄贈を行なった。
インドは人口増加、食糧不足、中共に対抗するための軍備補強の必要等からインフレに悩むと共に外貨準備の減少に苦しんでおり、相当厳しい輸入制限を行っているが、その上一九六五年二月には輸入関税を更に一〇%引上げる措置をとった。輸入制限をこれ以上強化することはインド工業を維持して行くための原料、資材の供給を断つことになる。従ってインドとしては同時に各種の方策により、自国産品の輸出振興を図っており、その一環としてわが国に対しても紅茶や半なめしの皮革、山羊皮革の自由化、カシューナッツ等の関税引下げなどの要求を再三提示して来ている。
(1) インドの輸出関心品目のうちバナナについてはコロンボ計画にもとずき調査員を派遣し病害虫のいないことが判明したので、植物防疲法別表の輸入禁止区域からインドを除外するよう手続中である。
(2) 紅茶については、在京インド大使館よりオリンピックの機会に宣伝配布用として三トンの紅茶の無為替輸入を認められたい旨要請越したので、わが国は日印貿易拡大の見地より右の内一トンの無為替輸入を認めることとした。
(3) 一九六四年インドは国内の食糧不足に対処するため食糧増産用肥料の対印輸出及び早期積出しを要請越したので、関係省間で協議し、同年九月関係業界の尿素及び塩安等の対印輸出契約の実現に協力した。
(1) セイロン政府は外貨事情改善及び貿易のセイロニゼーシヨンを目的として輸入ライセンスをC・W・E・(協同卸売機構)に対し偏重発給する傾向にあり、さらに国家貿易公社を創立して重要輸入品を一手に取り扱うよう計画している。このような傾向に対して市場の安定を図るためわが国のセイロン向け綿布輸出業者は日本セイロン貿易有限会社を設立した。
(2) またセイロンはわが国との片貿易是正のため機会ある毎にセイロン産品の買付増加を要請越しているが、わが国も紅茶についてはその輸入枠(グローバル)を可能な限り増大することにより、セイロン側の要請に応ずるよう措置している。
(3) さらにセイロンは、農業振興のため、一九六四年六月、わが国に対し、肥料の輸出を要請して来たが、これに対してもセイロン市場の維持及び同国との友好関係増進の見地から、関係業界による五、○○○トンの肥料のセイロン向け輸出実現に政府も協力した。
わが国とパキスタンとの間には一九六〇年締結された日・パ友好通商条約があるが、この条約中には所謂航海条項が含まれていないので、将来の必要性にかんがみ、パキスタンと交渉中である。
わが国と香港との貿易は、一九六四年三月に香港が対日ガット三十五条援用を撤回し、その後順調に拡大している。特にわが国の輸出の伸びは目覚しく、一九六四年には対前年比一八・五%増の二億九、二〇〇万ドルと米国に次いでわが国第二位の輸出市場となっている。一方輸入は対前年比〇・三%増の五、二〇〇万ドルであった。
六四年四月、わが国がIMF八条国へ移行したのに伴って、観光旅行も由自化されたが、近接地域(香港を特記)への旅行者に対し、他の地域への旅行者より携帯品の持込み免税基準を厳しくしたため、香港側に不満を起している。
この措置の必要性については在香港総領事より説明したが、
六五年二月には香港において銀行の取付け騒ぎが発生した。これは明徳銀行等の不動産に対する過大投資が原因であり、たまたま現金引出しの多い中国の旧正月にぶつかったためであるが香港政庁はこれら銀行を政庁管理に移し、一方ロンドンから英ポンド紙幣を急送する等の緊急措置をとった。わが国としてもこの取付げ騒ぎがわが国の香港向け輸出に大きな影響を与えるものとして成行きを注視していたが、本措置は同月十六日解除され、一応平静に帰った。
(1) 一九六四米穀年度(一九六三年十一月~六四年十月)の外米輸入交渉は、六四年三月中旬現在普通外米一一・五万トン準内地米三・四万トン計一四・九万トンの成約(「わが外交の近況」第八号一七八~九頁参照)に引続き、普通外米についてはヴィエトナム、カンボディアからの買付けとタイからの追加買付けが行なわれ、また、準内地米についてはアメリカからの追加買付けと台湾からの買付けが行われ、六月中旬のタイ米買付契約調印をもって完了した。
以上により、六四米穀年度の外米輸入量は左記のとおり合計三五・四万トンとなり前年度(一八・二万トン)と比較してほぼ倍増した。
一九六四米穀年度外米成約実積(単位万トン)
普 通 外 米
タ イ うるち丸米 一・五
うるち砕米 八・○
もち丸米 一・二
もち砕米 ○・三
ビ ル マ うるち丸米 三・五
ヴィエトナム うるち砕米 〇・五
カンボディア うるち砕米 〇・五
小 計 一五・五
準 内 地 米(すべてうるち丸米)
台 湾 七・五
ア メ リ カ 玄米 一〇・五(精米換算九・四)
ス ペ イ ン 三・○
小 計 一九・九
合 計 三五・四
(2) 一九六五米穀年度の国内生産高は、当初史上最高と予想されたが、その後台風および冷害等の影響により、最終的には前年度より二三万トン減の一、二五八万トンと推定されるに至った。このため普通外米の輸入予定量は国内需要が大体固定しているので砕米九万トンを含めて前年度なみの計一五万トンとし、準内地米については作柄の悪かった内地米の補てん、および本年初より消費者米価が引上げられたのに対処して低価格米を確保するため、前年度より増加して三三万トンと予定され、従って輸入予定量は合計四八万トンに及んだ。
このための外米輸入交渉は、六四年十二月から開始され、普通外米についてはタイおよびカンボディアと既に成約を見、さらにタイおよびビルマと交渉中である。また準内地米については、台湾、韓国、アメリカ、スぺインと既に成約を見、さらにアメリカおよびスペインと交渉が続けられている。一九六五年二月末日現在における買付成約実績は、次のとおりである。
一九六五米穀年度外米成約実績 (単位 万トン)
普 通 外 米
タ イ うるち丸米 二・一
うるち砕米 三・○
カンボディア うるち砕米 一・○
小 計 六・一
準 内 地 米(すべてうるち丸米)
台 湾 一五・○
韓 国 一・四
ア メ リ カ (玄米) 七・九(精米換算七・二)
ス ペ イ ン 一・二
小 計 二五・五
合 計 三一・六