五 貿易経済に関する諸外国との関係および国際協力の進展

諸外国との貿易経済関係

北米諸国と日本

1 米国との貿易の現状

一九六四年におけるわが国の対米貿易は、為替べースで輸出が前年比二三・三パーセント増の一九億七、〇五一万ドル(通関べースでは一八億四、一五八万ドル)と戦後の最高記録を更新し、輸入も前年比一六・八パーセント増の二二億三、五〇三万ドル(通関ベースでは二三億三、六〇四万ドル)と過去の記録である六一年の一九億七、八○○万ドルを一二・九パーセント上廻わる最高記録を樹立した。

六四年の米国に対する輸出入がわが国総輸出入に占める割合は、輸出が六三年の三〇パーセントから二九・九パーセントに、輸入は六三年の三四パーセントから三四・五パーセントに夫々極めて僅かな増減を示した。

商品別にみると繊維品のうちの生糸とスフ織物が若干減少した他は、各商品とも増加を示し、なかでも鉄鋼(前年比通関べースで四四・三パーセント増)、機械(前年比三八パーセント増、うち乗用自動車、バス、トラック類は一・六倍強)等の伸長が著しく、また、輸入では、食料品、鉄鉱石、鉄鋼くず、木材等の原材料、動植物性油脂、化学品の増加が顕著であった。

米国の経済は依然拡大傾向を辿っているので、わが国の対米貿易も引続き拡大するものと期待される。

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2 米国における輸入制限の動き

米国は、厳密な意味での差別的対日輸入制限を行っていないが、米国業界からの提訴にもとづいて特定の品目について調査を行い、その結果如何により関税を引上げたり、制限を課したりすることができる成文法上の諸規定がある。即ち、エスケープ・クローズ、国防条項、関税評価関係条項、更にダンピング規制等である。更に、一部の米国国内産業は、前記規定に基づく調査申請を行い、輸入制限的効果を狙う一方、関係議員に働きかけ、米国議会に特定商品に関する輸入制限法案を提出せしめ、輸入制限運動を行う傾向がうかがわれる。

一九六三年四月より一九六四年四月まで期間におけるこの種の動きは、次のとおりである。

(1) 議会の動き

一九六四年の第八十八議会第二会期では、輸入制限的効果をねらう各種の法案が上程されたが、これら法案のうちわが国が関心を有する法案について成立、不成立に分けて記せば次のとおりである。

(イ) 成立した法案

(i) 都市交通機関を新設、拡充するため地方公共団体等に対し、三年間に三億七千五百万ドルの連邦補助を与えることを内容とした都市大量交通法案は、下院審議の大詰で、この補助を受けた計画については、米国品買付義務を課するというセーラー議員の修正条項が付け加えられた上で、一九六四年六月二十六日に下院を通過、六月三十日に上院を通過し、七月九日大統領の署名を得て成立した。(後記5、ドル防衛政策の強化の項参照)

(ii) 食肉の輸入実績を基準として国別割当を設けることを内容とした食肉輸入制限法案は、上下両院合同委員会の再審議妥協案の作成を経て、一九六四年八月十八日、両院を通過、八月二十一日に大統領の署名を得て成立した。

(ロ) 不成立に終った法案

全部または大部分が輸入鉄鋼で製造されたドラム缶等に原産地表示を要求する鉄鋼製輸送用容器原産地表示法案、輸入される織りネームに製造国名を織り込むことを要求する輸入織りネーム法案、非営利用電子顕微鏡輸入免税措置廃止法案、ヴァージン・アイランド経由輸入品の関税待遇修正法案は、本格的審議が行われ、輸入織りネーム法案以外は下院を通過したが、結局、いずれも不成立に終り、廃案となった。この他ダンピング防止法改正法案、通商拡大法改正法案などは本格的審議に入らず、廃案となった。

(2) 関税調整申請に基く調査

一九六二年の通商拡大法には、通商協定により譲許を与えられた商品が、譲許の主たる結果として、米国産業に被害を与えるかまたは与えるおそれがあるほど多量に輸入されるときには、大統領が関税委員会の報告に基づいて関税引上げまたはその他の輸入制限措置をとりうる、所謂エスケープ・クローズ(免責条項)の規定がある。

一九六四年四月より一九六五年三月まで向法に基く関税調整申請の行われるものは、洋傘及び洋傘の骨、腕時計及び同部品(既にとられているエスケープ・クローズ措置を不充分として追加の関税調整を要請)、きのこ類調製品、アイス・スケート靴及び同部品の四件であるが、関税委員会で調査の結果、いずれも却下された。

なお、現在、通商拡大法の前身である一九五一年の互恵通商協定法延長法によりエスケープ・クローズ措置のとられているものは、(イ)板ガラス、(ロ)金属洋食器、(ハ)安全ピン、(ニ)腕時計及び同部品、(ホ)体温計、(ヘ)ウイルトン・カーペット及び(ト)綿製タイプライター・リボン・クロスの七品目であるが、前記各品目のうち(イ)~(ホ)の五品目は通商拡大法に基き関税委員会でエスケープ・クローズ措置を撤廃した場合の関連国内産業に及ぼす影響について調査が開始され、腕時計及び同部品については、一九六五年三月五日、大統領に調査の結果が報告された。

(3) 産業調整援助申請に基く調査

通商拡大法では、米国の会社および労働者は、関税引下げの主たる結果として被害を蒙った場合、輸入制限措置による救済ではなく、産業調整援助をうける途が開かれている。これは、輸入制限措置とは言い難いが、関税委員会の認定要件が前記関税調整援助申請と同一であるため、その認定如何によっては、関税調整に影響を及ぼすことになる。それ故参考までに前記(2)と同一期間における申請案件を記せば、石油精製業者と陶製タイル製造業者からの申請が挙げられるが、関税委員会で調査の結果、いずれも却下された。

なお、前記(2)及び(3)のとおり関税調整および産業調整援助の申請が関税委員会において却下されているのは、通商拡大法の認定要件上、関税譲許が輸入増大の主たる原因であることを立証しなければならなくなったためであるとされている。

(4) ダンピング調査

米国ダンピング防止法によれば、ある輸入商品が公正価額以下で販売され、しかも輸入により米国の産業に被害を与えるか、または与えるおそれがある場合にダンピング税を徴収できることになっており、価格が公正であるかについては、財務省が判定し、国内産業に対する被害の有無は、関税委員会が判定することになっている。

一九六四年に米国財務省が米国国内業者の提訴に基き、わが国の対米輸出商品につきダンピング容疑の調査を行った案件は、対米輸出の大宗を占める鉄鋼四件(熱間圧延鋼板、熱間冷延鋼板、熔接鋼管、鋼撚り線)をはじめ、白色ポートランド・セメント、二酸化チタン二件、プラスチック製ベビー・キャリヤー、発泡剤二件及びライターの計十一件であるが、このうち鉄鋼四件、白色ポートランド・セメントの一部については、ダンピングの事実なしとの決定が行なわれた。また、二酸化チタンの一件、プラスチック製ベビー・キャリヤー、発泡剤の一件、白色ポートランド・セメントの一部については、ダンピングの事実ありと決定し、関税委員会に付託された。その他三件(発泡剤、ライター、二酸化チタン)は目下、財務省で調査中である。

関税委員会における調査の結果は、目下調査中の発泡剤一件以外の三件はいずれも被害なしとの認定が行われた。

これらの調査に際し、政府は、わが国関係業界に対し助言を与え、所要の情報を収集提供する等の対策を通じ、できる限りの措置をとって対処している。

この他、米国財務省は、一九六四年四月二十三日にダンピング防止法施行規則改正案を発表したが、これには情報の公開及び仮決定後の対決、討論等わが国にとって重要な項目が含まれていたので、政府は、OECD貿易委員会作業部会の会議でこの問題が討議された際、わが国の見解を明らかにし、更に米国政府に意見書を提出した。結局、この新規則は一九六五年一月三日より実施されたが、わが国の意見は、必ずしも充分に反映されていなかったので、政府は、米国政府にこれを遺憾とする旨を伝えた。

(5) 国防条項に基く調査

通商拡大法第二三二条に規定されているいわゆる国防条項によれば、ある商品が米国の安全を害する程多量にまたは安全を害するような状態で輸入されている場合は、大統領は、緊急計画局の調査に基いて、輸入制限等の措置をとることができることになっている。

一九六四年四月より一九六五年三月までの期間に、緊急計画局長官は、米国業界の申請に基き国防条項の調査を行っていた輸入フエロ・マンガン及びフェロ・クロームについて「米国の安全を害する恐れはない」と判定し、申請を却下した。なお、現在、米国業界の申請に基き同長官により国防条項の調査が行われている物品は、タングステン合金及び同製品(一九六四年一月調査開始)、ベアリング(一九六四年十月調査開始)及び綿、毛、絹などの全繊維製品(一九六一年以来引続き調査)の三件である。

(6) 関税評価の問題

米国の関税法及び関税表の規定によれば、ある種の商品の評価額の決定にあたっては、インボイス価格に関係なく、関税徴収のために画一的な評価を行い得るようになっている。

こうした米国関税評価制度の下で、一六四年四月から一九六五年五月までに問題となったケースは、次のとおりである。

(イ) 関税法第四〇二条

第四〇二条では、原則として輸出価額を輸入品評価の基準としているが、この輸出価額とは、輸出国の主要市場で同様の商品が通常の取引方法で米国への輸出向けに自由に販売され、またはオファーされる価格であり、更に本支店間のような系列取引は通商の輸出価額とは認めないと定義されている。

右の系列取引の条項に関連し、日本製理・美容椅子の評価基準の問題が生じたので、目下、わが方は米国関税当局と折衝を行っている。

(ロ) 関税法第四〇二a条

第四〇二a条によれば、一九五六年関税簡素化法に基いて財務長官の発表した品目に対しては、関税局は、輸出国の国内価額を評価基準とすることができることになっている。

前記財務長官の発表した品目表は、化学薬品、機械類、電気製品等約四〇〇品目に及んでおり、これら品目中には、真空管のほか、ベアリング、テレビ、ラジオ付電蓄、抵抗器などのわが国にとって関心の深い品目が含まれている。

本条項に基き、米関税局は、わが国から輸出している真空管に対し、一九六一年末頃よりインボイス価格の約三倍にも達する評価を行わんとしたので、輸入業者は、関税当局に抗議を行ったが、受け入れられず、この問題を関税裁判所に提訴した。裁判の結果、一九六四年十月二十日に判決が下され、輸入業者側の勝訴となったが、米国政府は、この判決に対し、同年十一月十九日に中間控訴裁判所の役割を果す関税裁判所第三法廷に控訴したので、引続き係争中である。

(ハ) ASP

米国では、特定の輸入品の場合には、輸入品と同種の米国産品の米国内での販売価格(ASP)を基準として関税が課されることになっている。

このような方法で課税価格を決定される商品は、二種類に分かれている。その一は、米国関税表中にその旨が特記されているもので、コールタールおよび同関連製品がこれに該当する。

その二は、関税法第三三六条に基くもので、同条によれば、外国産品と国内産品の生産原価の均等化を図るため、大統領は、関税委員会の調査に基き、関税率につき五〇%以内の増減を行うこと、これでも目的が達せられないときは、ASPを基準として課税ができることになっている。

米側は、これに基き、ゴム履物、蛤缶詰、毛編手袋の三品目に対し、ASPを基準として課税を行っている。

一般に米国品は、輸入品よりもかなり高価なため、評価額は、インボイス価格に比して高くなり、実質的に高率関税となっている。

前記四品目のうち、わが国の関心品目は、ゴム底布靴で、米国産品の卸売価格が現状に即していないというわが方の抗議に対し、米国関税局は、一九六三年二月以降関税評価を差止め、前記価格の実勢調査を行っているが、二カ年を経過しても未だ本件調査の結論を出していないので、商取引に大きな支障を来たしており、政府は、米側にその決定促進を要請している。

また、このような米国の関税評価制度は、米国の国内産業の保護に偏した不合理なもので、貿易自由化の理念に反するものであるので、政府としては、ガット、その他を通じ機会のあるごとに米政府の善処を求めている。

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3 対米繊維製品輸出問題

(1) 日米綿製品取決め修正交渉

(イ) わが国は、一九六三年八月二十七日、八カ月にわたる交渉の末、「綿製品の国際貿易に関する長期取決め」第四条に基づき、一九六三年より六五年までの三カ年にわたる日本からの対米綿製品輸出を規制する双務取決めを締結した。(取決めの内容については「わが国外交の近況」第八号一九一ぺージ以下参照)

(ロ) 日米綿製品取決め締結後の二カ年間の対米綿製品輸出の輸出規制枠に対する遂行率は規制方法が極めて複雑、厳格であるため、一九六三年九〇・四%、一九六四年九三・六%に留まり、いずれも規制枠を消化できない状況にある。

また、過去二年間の取極の運用に照らしてみると、過度の諸規制の結果、行政的負担もかなりの量にのぼり、取極運用上の困難が少なくない。

他方、米国繊維業界は、一九六四年農業法(後項参照)の影響もあり、活況を呈している。

(ハ) 前記のような状況に鑑み、日米綿製品取極の修正が必要であると感じられるに至り、わが国は同取決め第十項bに基づき、同取決めの一九六五年度分の修正交渉開始の意向を本年一月十一日申し入れ、一月二十九日、規制方法の緩和、取極の弾力的運用の確保を目的とした修正要求事項を米国に提示した。

(2) 毛製品問題

米国政府及び関係業界は、機会あるごとに毛製品に関する国際会議開催、国際取決め締結について各国にアプローチを行ってきたが主な動きは次の通りである。

(イ) 一九六四年七月、米政府は英国及びイタリアに使節団を派遣し、毛製品に関する国際会議を提案したが、両国はこれを拒否した。

(i) 八月三日、わが国に対し、前記(イ)と同様の申し入れを行なったが、わが国は八月二十日これに反対の旨を伝えた。

(ii) 九月二十六日、ジョンソン大統領は毛製品問題についてステートメントを発表し、「国際会議開催について強力な努力を続けるつもりである」と述べた。

(iii) 十二月、国際羊毛研究会第八回総会において毛製品問題を研究対象とすること提案したが、この問題は同研究会の運営委員会に検討させることになった。

(ロ) 前記のように現在のところ米国の国際的働きかけは成功してはいないが、新規立法措置による輸入制限及び政府の行政措置による輸入規制の動きがあるのでわが国としても十分対策に留意する要がある。

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4 対米輸入に係わる問題

(1) レモンの自由化

レモンの自由化は一九五六年十月にも行なわれたが、輸入量が急増し、価格が下落したため、輸入団体および国内生産者団体の強い反対にあい、一九五七年三月に再び外貨資金割当制度にもどった。

一九六四年に至り、国内の物価問題に及ぼす影響をも考慮し、五月八日よりレモンの自由化が決定された。

(2) 黒くるみ材の輸出制限解除と丸太材の輸出制限運動

黒くるみ材について米国商務省は、主に資源の保護を理由として、一九六四年二月十四日から一年間、輸出統制法に基づき輸出を制限した。

一九六五年二月十三日、米国商務省は、輸出制限措置の延長を認めず、同日を以て輸出制限を解除した。その主な理由は次のとおりである。

(イ) 輸出制限は、ガット違反であるとの声が強いこと

(ロ) 輸出制限措置によっても、資源保存の見地からは国内消費制限(千五百万ボードに押える)の実効が挙らなかったこと

(ハ) 国際収支上の見地

この輸出制限によりわが国の国内価格は上昇したが、黒くるみ材は薄く剥いで使用するため、原木コストの上昇が最終消費品の価格に対し大幅な影響はなく、大きな混乱はなかった。

丸太材については、主にワシントンおよびオレゴン両州において、中小製材業者の保護を理由に数年前から中小製材業者が中心となった「木材保護委員会」が輸出制限運動を行なってきたが、同委員会の請願により農務長官は、一九六五年三月十日シアトル、同十一月ポートランドにおいて公聴会の開催を決定した。

公聴会の結果をみて、農務長官が断を下すことになるが、その決定はかなり遅れる模様である。

わが国は、米国産木材を約三百三十万立方メートル(約一億二千一万ドル)輸入して全国的に製材用として使用しており、(米国北西部丸太材輸出の大部分は、日本向けである。)もし輸出制限措置がとられると、米国産に代る木材を見出すことも困難なので日本の受ける打撃はかなり大きい。

(3) 小麦価格の引下げ

一九六五年一月二十五日、カナダが対中共輸出契約成立を機に、マニトバ・ノーザン・No.5およびNo.6の価格の値下げを発表したことを発端とし、米国は米国産小麦の輸出価格について一月二十五日および二十八日の再度にわたり大幅な引下げを発表した。このため世界小麦市場は、かなりの衝撃を受け事態の進展が危惧されたが、米側は、これを世界的な需給事情を反映した措置であると説明した。その後価格の引下げはみられず、事態は安定を取戻した模様であり、二月四日および五日ロンドンで開かれた小麦理事会において、「小麦価格は安定した」旨の発表が行なわれた。

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5 ドル防衛政策の強化

(1) 国際収支対策

一九六〇年以降の「ドル危機」に対処して、米国政府は、一九六〇年十二月のアイゼンハウアー大統領のドル防衛指令、一九六三年七月のケネデイー大統領の国際収支特別教書等相次いで各般にわたる対策を行なってきた。この間米国の国際収支(通常取引)の赤字は、一九六〇年の三九億ドルから、一九六二年には三六億ドル、一九六三年には三三億ドル、一九六四年には三〇億ドルと漸次縮少してはきたが、その改善のテンポははかばかしくなく、このような年々の国際収支の大幅な赤字を反映して、米国財務省の金保有額は、一九五九年末の一九五億ドルから逐年減少を続け、一九六四年末には一五四億ドルに低下した。とくに一九六四年第四・四半期における国際収支の年率六〇億ドルという大幅な赤字は、同年十月のポンド危機と相伴って、内外の関心を集めるに至った。

米国国際収支の改善がはかばかしく進まなかったのは、貿易収支の好調(一九六四年には商業貿易収支の黒字三六億ドル)、対外援助及び軍事支出におけるドル払の節減等があったにもかかわらず、民間資本の巨額な海外流出がこれをかなり相殺したためである。とくに、一九六三年七月の利子平衡税発表以降は、その適用を除外された銀行借款及び直接投資の増加が目立った。

このため、ジョンソン大統領は、一九六五年二月十日、国際収支特別教書を発表し、主として民間資本の流出抑制を内容とする次の十項目の国際収支対策を発表した。

(i)  利子平衡税の有効期間の二年延長(一九六七年末まで)及び一年以上三年未満の非銀行借款への適用範囲拡大。

(ii) ゴア条項の発動による一年以上の銀行借款への利子平衡税の適用。

(iii) カナダヘの資本流出の制限に関するカナダ政府の確約。

(iv)  銀行業界に対する対外融資の制限への協力要請。

(v)  政府の要請に基づいて行なう銀行業界の自発的協力に対する反トラスト法適用排除。

(vi)  海外直接投資、外国銀行への預金及び在外流動資産の保有を制限することに関する米国企業への協力要請。

(vii) 国防計画及び対外援助計画におけるドル支出の最大限の節減。

(viii) 米国内観光の促進及び米国人の海外からの持帰り品免税点の一〇〇ドルから五〇ドルヘの引下げ。

(ix)  輸出の促進。

(x)  外国人の米国証券への投資の促進をはかるための税制措置。

(2) バイ・アメリカン政策

連邦政府の海外ドル支出節減のためのバイ・アメリカン政策は、一九六〇年十一月のアイゼンハワー大統領指令以来逐年強化され、今日ではほぼ実行可能な極限にまで近づいているとみられる。AIDの一九六四年七-九月の実績によれば、海外向調達の九四パーセントまでが米国品の購入にあてられており、残りの部分も日本を含む一九先進工業国以外からの購入がそのほとんどであって、工業国からの購入は一パーセントに過ぎない。

又、連邦政府の米国内調達に関しては、一九三三年のバイ・アメリカン法及び一九五四年の大統領令により六パーセント(不況地域については一二パーセント)の米国品優先価格差基準があるほか、国防省は一九六二年以降この価格差基準として五〇パーセントを適用しており、一九六四年十一月には財務省所管の沿岸警備隊も正式に五〇パーセント基準を採用した。

さらに、一九六四年七月成立した都市交通法(地方公共団体が行なう都市交通機関の新設拡充に対し連邦政府が補助金を与えることができるとしたもの)には、連邦補助を受けた工事には米国品を使用すべき旨を無条件に義務づけたセイラー下院議員提案の修正条項が付加されており、バイ・アメリカン立法の新たな動きとして注目された。わが国は、直ちに本条項に反対の意向を表明し、早期撤廃を求めた。米国政府は、本条項が政府の通商政策に反するとして、一九六五年三月、これを廃止する法案を議会に提出した。

次に、州政府のバイ・アメリカン政策に関しては、カリフォルニア州において、一九三三年以来存在するバイ・アメリカン法の廃止運動が進められており、一九六五年三月には、同法廃止法案が再度州議会に提出された。他方、オハイオ州においては、一九六五年三月新たにバイ・アメリカン法案が議会に提出された。

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6 利子平衡税の対日適用免除

(1) 一九六三年七月十八日、故ケネディ大統領は、国際収支教書を議会に提出、外国人が米国長期資本を調達する場合に、その金利負担を実質的に一パーセント高めることを目的とする利子平衡税を発表した。同税は、その後、八月八日に提出された利子平衡税法案に盛り込まれ、議会の審議を経て、六四年八月十八日議会を通過、九月二日、ジョンソン大統領が署名成立した。

(2) わが国は、米国からの対日証券投資の途を閉す効果を持つ利子平衡税に関しては、六三年七月来、大平前外務大臣の訪米接衝を含め、鋭意協議を続け、特に、六四年九月のIMF東京総会においては、田中大蔵大臣より、ディロン財務長官に対し、対日免除を強く要請した。

(3) ところで、米国の国際収支は、利子平衡税等の措置により、六三年後半から、実質的改善を示していたが、六四年第四・四半期に入り、種々の特殊要因もあり、再び悪化した。特に、利子平衡税の適用対象外となっていた直接投資、米市銀の借款対加証券投資の急増等米国民間資本流出が激化した。

(4) その結果、米政府は、六五年一月に入り、利子平衡税の米市銀借款への適用を規定したいわゆる「ゴア」条項の発動を含め、新たな国際収支対策を発表するとの観測が強まった。わが国は、米市銀借款をかなり導入して来たため、「ゴア」条項発動の影響については国内各方面から憂慮され、佐藤総理訪米を契機として、利子平衡税の対日免除交渉が改めて開始された。すなわち、在米武内大使は、米政府当局に対し、日本政府の強い関心を示し、配慮を求めたのに対し、米政府は、二月初旬、トルイド財務次官補臨時代理、トレザィス国務次官補代理を派日し、政府当局者との協議に当らしめた。

(5) ジョンソン大統領は、二月十日の国際収支特別教書において、わが国の米国市場で発行する政府債、政府保証債を年間一億ドルにつき利子平衡税を免除する旨明かにした、この対日免除に関する行政命令は四月六日発布された。

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7 日米海運問題

(1) 一九六三年五月の両院経済合同委員会における米国鉄鋼製品の国際競争力問題審議に端を発した連邦海事委員会(FMC)の輸出入運賃格差に関する調査は、同委員会が同年十一日に発した海運法二一条に基づく情報提出命令に対する日本及び欧州海運国の強い反対を招いて難航を続けていたが、OECD海運委員会における折衝の結果、一九六四年十二月十五日パリにおいて関係一五カ国の間に情報を政府レベルで交換する趣旨の合意が成立した。これにより情報収集の手続問題は一応解決したので、問題は、交換された情報の分析及びその結果米国が提起することあるべき問題の解決方法に移ることとなった。

(2) FMCは、一九六四年三月末、二重運賃契約制を実施中の六〇余の海運同盟に対し、契約の細部にわたる改訂を命令し、イギリスを中心とする海運国の反発を招いたが、結局同年末までに各同盟とFMCとの間で折衝の結果妥協的な解決をみるに至った。日本関係では、復航二同盟がかねて二重運賃制を実施中であったが、同年九月概ねFMCの命令に沿った修正を行なった。往航二同盟は、二重運賃制を新たに申請中であったところ、同年十月末FMCの修正認可があったが、同盟は未だこれを実施していない。

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8 米加自動車協定

一九六五年一月十六日、ジョンソン米大統領とカナダのピアソン首相との間で米加自動車協定が締結された。

この協定は米加両国が自動車産業については、本質的に同種の市場を構成しておりかつ、密接な資本関係にあることを理由として、米加両国が相互に自動車および部品(但し補修用は含まず)について関税を相互に撤廃することと規定している。

この協定において、米政府はカナダ産の自動車及び部品について関税(現行六・五パーセントないし八・五パーセント)を撤廃するための法案を議会に提出すること、カナダ政府はカナダの自動車製造業者が輸入する完成車及び自動車生産に直接使用される、部品の関税を(現行一七・五パーセント)撤廃すること(一月十八日より実施)をそれで約束している。

この協定の結果カナダにおける自動車及び部品の生産の増大、米加間の自動車及び部品生産の分業の促進等の効果が期待されているが、わが国の対米及び対加自動車輸出に与える影響が危惧せられ、また、本協定に基ずく米国の措置は明らかにガット第一条の最恵国待遇の原則に違反するので、わが国としても米加両国政府に対し、またガットの場における本協定の検討に際しても累次強い関心を表明してきた。

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9 カナダとの貿易の現状

わが国の対カナダ貿易は、戦後毎年入超を続けているが、殊に近年はわが国の高度経済成長に伴い、カナダからの工業用原材料買付が増大し、二国国貿易が伸びると同時に、この入超幅も大きくなっている。すなわち、一九六三年は通関実績で輸出は一億二、五〇〇万ドル、輸入は三億一、九〇〇万ドルと、入超額は一億九、四〇〇万ドルであったのに対し、六四年には輸出は一億六、六〇〇万ドルと前年比三二パーセントと大きく増加を示したが、他方輸入は三億七、九〇〇万ドルと前年比一九パーセントの増加を示したため、入超額は二億一、三〇〇万ドル(対前年比一、九〇〇万ドル増)と大幅に増加した。

商品別にみると、輸出では繊維、合板、ラジオ等の消費物資が大宗商品であったが、六四年は鉄鋼、電気関係機械及び殊に自動車など資本財の伸びが著るしいのが注目される。また輸入では一億ドルに達する小麦のほか亜麻仁種、鉄鉱石、石綿・石炭、銅などの工業用原材料品であるが、六四年は特に非鉄金属・鉄鉱石・銅等の輸入が増え、入超幅を大きくする原因ともなった。他方かなりの伸びを示した輸出も、この総額のうち約四分の一程度に対しては、カナダ側の要請により、わが国で輸出自主規制を行っており、これら規制対象品目については大幅な伸張は困難な状況にある。

カナダはその国土に比し、極度に人口が過少であるため、わが国消費物資の市場として自ら限度があるが、最近はわが国内諸経費の値上りを反映してコスト高となり、併せてカナダ市場に対する香港、台湾、東欧諸国等からわが国規制の間げきをぬっての激烈な輸出攻勢もあって対加輸出は総じて楽観を許されない情勢にある。

今後わが国として対加輸出の拡大をはかるためには、輸出商品の多様化、特に重化学工業製品等を中心とする資本財の輸出に一層の努力を払う必要があるが、この点六四年十月の訪加経済使節団の派遣等を契機としてB・C州、平原三州、大西洋岸マリタイム諸州等で主として資源開発を目的として、日加間の企業提携、合弁事業及びこれに伴ら資本財の輸出促進等の機運が熟し、既に一部企業の進出がみられているのは注目に価する。

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10 カナダでの輸入制限の動き

(1) 一九五四年、日加通商協定締結以来、日加貿易は順調に発展してきたが、わが国の対加輸出が増大するに伴い、カナダ側の輸入制限運動も激化した。わが商品の進出により影響を受けた国内産業は、カナダ政府に働きかけ、わが国産品の輸出規制を要求し、その結果一九六四年現在繊維製品、金属洋食器、防水靴、布靴、トランジスターラジオ、真空管及びポリエステルボタンが対加自主規制の対象とされている。

一九六四年の対加輸出規制交渉は、六三年十二月からオタワでカナダ政府と協議を開始し、六四年八月二十五日に妥結をみた。

この結果、従来カナダに対し輸出規制をしていた八品目のうち、合板は規制が撤廃され、残り七品目の輸出枠は昨年と比べ品目により三%から七%程度の増加を見た。

(2) カナダには緊急輸入制限措置として関税法上の任意評価権制度(輸入が国内産業に被害を与えるような形で行われていると認められる場合、その輸入品に対する関税付課の基礎となる価格を任意にかつ高額に評価できる制度)があるが、わが国は、その発動を未然に防止するるため、秩序ある輸出の実施につとめており、現在迄のところわが国の輸出産品に対し、任意評価権が発動された例はない。

他方、カナダは伝統的に輸入品のダンピング問題に強い関心を示しているが、近年わが国の対加輸出品のなかにはカナダ政府による公正市場価格の調査を受ける事例が増加している。

この調査は、輸出国の国内販売価格や生産費について行われるものであり、六四年中にカナダ国税省がわが国につき調査を行うこととした品目は、繊維製品、鉄鋼製品、化学品等三〇品目で、調査対象は六〇社以上にのぼった。

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11 日加閣僚委員会第三回会合の開催

一九六一年六月日加両国首相間で合意をみた「日加両国閣僚の相互理解増進」を目的とする日加閣僚委員会は、六三年一月東京で初会合、同年九月オタワで開催された第二回会議にひきつづき、第三回委員会は六四年九月四日と五日の両日外務省で開かれた。

この会合に出席した日本側代表は、椎名外務大臣、田中大蔵大臣、赤城農林大臣、桜内通産大臣、高橋経済企画庁長官及び島津駐カナダ大使であった。これに対し、カナダ側代表はマーチィン外務大臣、ゴードン大蔵大臣、シャープ通商大臣、ロビショー漁業大臣及びバウア一駐日カナダ大使であった。

委員会の討議は椎名外務大臣司会のもとに

(1) 国際情勢一般

(2) 日加経済の現状と見通し

(3) 国際貿易経済に関する諸問題

(4) 日加貿易経済関係

(5) その他の問題

の五議題について行われた。

討議は、友好的で率直なふん囲気で行われ、両国間の理解の増進に貢献するところが極めて大きかった。

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