賠償などの実施

賠償およびこれに準ずる無償経済協力の実施は、フィリピンについては約八カ年半、インドネシア約七カ年、カンボディア約五カ年半を経過し、ヴィエトナムとラオスについてはそれぞれ一九六五年一月一一日および一月二二日に終了した。また、ビルマに対する賠償も一九六五年四月一五日をもって完了し、同年四月一六日から日緬経済技術協力協定に基づく無償の供与が行なわれることになっている。これら全体の一九六五年三月末現在の支払総額は約一、九五五億円で、履行率は五三・三パーセントに達している。

このほか、一九六二年五月に発効したタイとの間の特別円問題新協定に基づく第一回、第二回および第三回の各一○億円計三〇億円の支払いが、それぞれ一九六二年、一九六三年および一九六四年の五月に行なわれた。

これら賠償および無償による供与は、受入れ国の戦後の復興および経済開発や民生安定に貢献しているばかりでなく、これを通じて、わが国の重機械や建設技術などの真価が認められ、これら諸国と日本との間の経済交流の基盤がかためられつつあるといえよう。

各受入れ国別の賠償および無償による経済協力の実施状況の概要は次ぎのとおりである。

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1 ビルマ

ビルマに対する賠償および経済協力協定(一九五五年四月一六日発効)の実施は、一九六四年四月一日から第九年度(最終年度)に入り、一九六五年四月一五日をもって一〇年間の供与期間を終了し、総額七二〇億円の供与を完了することになった。一九六五年三月末現在の契約認証額は約七一三億円、支払済額は七一九億八、○○○万円で、賠償総額に対する履行率は九九・九パーセントに達し順調な履行を示している。

賠償供与の内容を品目別に見ると、もっとも大きいものは、初年度から建設に着手されたバルーチャン水力発電所計画関係の機材および役務で、この計画に対する契約認証額は一〇三億円におよんでいる。このほか主なものとして、鉄道車両・自動車・自転車類・船舶などの輸送用機械類一八二億円、農業・土木・繊維関係などの一般機械類六六億円、電気器機類五八億円、プラント類一四億円、鋼材その他金属製品一三五億円、化学製品一〇億円、魚罐詰七億円、検査・輸送・技術者派遣などの役務一九億円などがあり、これらの中には、ビルマ鉄道復興計画関係の資材約八○億円が含まれている。

また、一九六二年以降ビルマ政府の要請に基づきわが国は賠償により家庭用電気器具(約三〇億円)、自動車(約五八億円)、農業用ポンプおよび耕うん機(約一五億円)の組立工場の建設、必要器材の供与、技術指導員の派遣を行なってきたが、これら諸工場の生産は既に開始され、同国の経済回復および発展ならびに社会福祉の増進に寄与している。

賠償および経済協力協定は前述のとおり一九六五年四月一五日に満了することになっているが、翌一六日からは、一九六三年三月二九日に調印された経済および技術協力協定による生産物、役務の供与が開始されることになっており、現行の賠償および経済協力協定の下で実施されている各種の長期事業計画も新協定に引継がれ、今後さらに推進されるものと思われる。

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2 フィリピン

(一) フィリピンとの賠償協定は昭和三一年七月二三日に発効した。賠償総額は一、九八○億円(五億五、○○○万ドル)であるが、最初の一〇年間は年平均九〇億円(二、五〇〇万ドル)次の一〇年間は年平均一〇八億円(三、○○○万ドル)ずつ計二〇年間で支払うことになっているが、後の一〇年の期間は、両国政府の合意があれば短縮することができることとなっている。

フィリピンとの間では賠償協定締結に先立ち、昭和二八年三月一二日中間賠償協定が結ばれ、これに基づいてわが国は昭和三〇年八月より昭和三七年三月までの間に三次にわたってフィリピン領海・主としてマニラ湾及びセブ港海域において沈没船舶の調査及び引揚解体作業を行なった。この一連の作業によって処理された沈没船舶は総計一五六隻であり、約一一二、○○○トンの屑鉄が回収されたが、その総費用約三二億円(八九七万ドル)はすべて賠償勘定より支払われた。その後、マニラ湾に残る二隻について通常の賠償契約により、第四次の引揚作業を行ない、これによりマニラ湾の沈船引揚作業は完了した。

(二) 対比賠償は昭和三一年一二月にセメント二万トンが賠償契約第一号として認証されて以来、順調に実施されていたが、昭和三五年一二月に発足したマカパガル政権が賠償に関する政策の全面的再検討を行なったことと、同政権の外国為替自由化により、従来一米ドルに対し、二ペソの公定相場が自由相場では三.九ペソ程度に下落したことにより、一時賠償調達は停滞するにいたったが、その後漸次順調    に調達が行われている。

対比賠償は現在第九年度に入り、契約認証総額は本年三月三一日現在で約六〇七億円、支払総額は沈船引揚分約三三億円を含め約六〇七億円(約一億六、八六五万ドル)で賠償総額の三〇.七%に達している。

認証ずみ契約中主なものは船舶二五四億円、プラント類(セメント、製紙、製材等)一六五億円、などである。

なお、フィリピンに供与された賠償物資の大部分は資本財であり同国の経済基盤の強化および産業開発に大いに寄与貢献している。

(三) また、マリキナ河多目的開発計画および電気通信設備拡張改良計画については、賠償を引当とする借款供与の交渉が妥結し、昭和三四年九月両国政府間に交換公文が行われ、マリキナ計画に対しては、三、五五〇万ドル、電気通信計画に対しては、一、二三〇万ドルの信用を供与することになった。しかし、その後比側の要望により電気通信計画については、初年度計画分(約六五〇万ドル)を除く残額五八○万ドルをカガヤン鉄道延長計画に振替えることになり、昭和三六年一〇月これに関する公文交換が行われた。

マリキナ計画については入札が行われたが、その後業者の適格性、ダムの安全性等の問題が起り、比側は本計画の実施に興味を失った模様である。電気通信計画については、次々に資材を船積中であり、カガヤン鉄道計画は昭和三九年四月全資材の引渡しを完了した。

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3 インドネシア

(一) インドネシアに対する賠償協定(一九五八年四月一五日発効)の実施は、一九六四年四月から第七年度に入っている。

賠償総額八〇三億八八○万円のうち、一九六五年三月末現在における契約認証額は四九〇億円、支払い済額は教育訓練計画などを含めて四六四億円であり、賠償総額に対する履行率は五七・八パーセントとなっている。

この認証額を品目別に見ると、船舶七六億円、鉄道車輌五億円、自動車類四八億円、土木農耕用機械・繊維機械などの機械類および設備計六八億円、製紙工場三五億円、合板工場九億円、綿紡績工場三一億円、乾電池工場五億円、鋼材およびレール類二三億円、肥料七億円、パルプおよび繊維製品一一億円、コーラン(経典)およびバイブル七億円、ブランタス河計画などの河川多目的開発計画八九億円、ムシ河橋梁関係費一五億円、役務など一五億円、アスファルト工場三億円、ウイスマ・ヌサンタラ・ビル一一億円、三ホテル関係費七億円などが主なものである。

インドネシアに対する賠償供与について注目されるものに、賠償第三年度から始められた教育訓練計画がある。この計画によれば、留学生については、五年間にわたって毎年約一〇〇名、合計約五〇〇名を受入れ、まず一年間国際学友会において日本語その他の基礎科目を修学させたのち、国立または私立大学に在学させて造船・電気工学・電気通信・鉱業・冶金・航海・漁業・農業・繊維・銀行業・商業・医学などの各分野の教育をほどこし、また研修員については、七年間にわたり毎年約二五〇名、合計約一、七五〇名を最高二年半の期間わが国に滞在させ、海外技術協力事業団の斡旋によって造船・海運・漁業・農業・繊維・観光業・手工業・銀行業務など多岐にわたる分野で技術訓練を行なう。一九六五年三月末現在の在日インドネシア人学生数は、三七一名で、うち三六五名は所定の大学で勉学中である。また、現在までに二九三名の研修員を受入れたが二五八名はすでに研修を終了帰国し目下三五名が研修中である。

(二) 一九五九年一〇月両国政府の間で、賠償を引当てとする借款に関する交換公文が行なわれたが、これに基づく船舶(二、○○○万ドル)一六隻の供与については、全部の引渡しを完了し、ホテル(八○○万ドル)については、一九六二年七月ジャカルタに「ホテル・インドネシア」の建設を完成した。

つづいて一九六二年四月六日、第二次賠償引当借款についての合意が成立した。これによって、七三五万ドル(巡視艇十隻)および一、四〇〇万ドル(ジャワ島のジョク・ジャカルタ、プラブハンラトゥおよびバリ島サヌールの三カ所にホテルを建設)の借款が供与されることになり、さらに同年八月二一日、第三次賠償引当借款として、六二五万ドル(ムシ河橋梁)・八五〇万ドル(竹パルプによる製紙工場)および六六〇万ドル(スラバや港のドック式造船所建設)の供与が合意された。最後に一九六三年六月一、一〇〇万ドル(ジャカルタに一四階建百貨店の建設)の供与が第四次賠償引当借款として合意された。

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4 ヴィエトナム

ヴィエトナムに対する賠償協定(一九六〇年一月一二日発効)の実施は、一九六五年一月一一日をもって供与期間が終了し、総額一四〇億四、○○○万円の供与を終了した。

ヴィエトナムに対する賠償資金の大部分はサイゴン東北方二五〇キロの地点にあるダニム水力発電所建設に当てられた。この発電所建設工事に当てられた資金は、現地通貨調達のための消費材の供与をも含め、一二六億円にのぼり、賠償総額の約九〇パーセントを占めている。

ダニム・ダムおよび発電所建設工事は、一九六一年四月一日の起工式以来順調に進み、一九六四年初め第一期工事の完了をみ八万キロワットの発電を行なうにいたったが、同年末にはさらに第二期工事が終了し、合計一六万キロワットの発電が可能となった。本工事の完成により電気料金が大幅に引下げられたのみならず、燃料輸入に要した外貨を節約し、立遅れていた諸工業の開発を促進することになり、ヴイエトナム国民生活水準引上げに貢献するものと思われる。

このほかボール紙工場三億円、沈船引揚作業二億円、ディーゼル・エンジン供与一億円、鍛鉄工場、ファンラン灌概工事調査設計等が実施された。

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5 ラ オ ス

ラオスとの経済・技術協力協定(一九五九年一月二三日発効)により、わが国は、ラオスに対し、経済開発を援助することを目的として二年間に一〇億円の援助を無償で供与することとなっている。援助期間は、当初二年間であったが、ヴィエンチャン上水道計画の遅延の事情もあり、期間中に援助支払いを完了することができなかった。このためラオス側の申出により一九六一年一月から三回にわたり援助期間を合計四年間延長した経緯がある。

対ラオス経済・技術協力の主なものはヴィエンチャン市の上水道および新発電所の建設であり、上水道建設計画は、特に現地通貨の不足のため前にも述べたとおり実施が遅れていたが、現地通貨分約四億円を海外経済協力基金の融資により調達する方法で実施することになり、一九六四年一〇月引渡式が行なわれた。また、新発電所もこれよりさき一九六四年一月引渡しを終ったが、両計画の完成はヴィエンチャン市民の生活水準向上に大いに貢献したのみならず両計画に従事した日本人技術者の勤勉さは、現地人に対し極めてよい印象を与えた。

対ラオス経済・技術協力としてはこの他、ナム・グム・ダム調査設計、ナム・グム河三橋梁建設のための調査設計、錫鉱山開発のための発電機の供与等が行なわれ一九六五年一月二二日をもって当該協定に基づく一〇億円の援助は完了した。

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6 カンボディア

カンボディアとの経済・技術協力協定(一九五九年七月六日発効)により、わが国はカンボディアに対し、両国間の友好関係を強化し、相互の経済協力を拡大するために、三年間に一五億円の援助を無償で供与することになっている。

対カンボディア経済・技術協力計画の大宗である農業技術センター、畜産センターおよび医療センターの設置、運営が、当初三年の援助期間内に見込めなくなったので、一九六二年七月から二回にわたり合計四年間の期間延長を行なった。一九六五年三月末現在の契約認証額は一四億四、〇七六万円、支払済額は一四億一、六四六万円であり、総額に対する履行率は、九四・四パーセントとなっている。

この認証額の内容は、首都プノンペン上水道建設四億七、五〇〇万円、トンレ・サップ橋梁建設用資材三億五〇〇万円、三センターの設計二、九〇〇万円、その建設二億五、二〇〇万円三センターの資材費一億七、〇三一万円などである。こののち、プノンペン上水道はすでに竣工し、トンレ・サップ架橋も、一九六四年七月竣工した。

農業技術センター、畜産センターおよび農村医療センターの建設については、当初の尨大な規模を予算内に縮小するため、再三調整が行なわれて手間取っていたが、一九六三年二月工事が開始され、一年後の一九六四年三月に完成し、カ側に引渡されたが、これら三センターに必要な資材類も一九六四年一〇月頃までに順次現地に到着し、また、同年六月以降農業、畜産関係の技術者一七名、医師など七名計二四名の専門家が次々に渡カし各センターの研究調査・診療活動に従事し、技術協力を行なっている。

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7 タ  イ

タイとの特別円新協定(一九六二年五月九日発効)によりわが国は一九六二年五月以降八年間にタイ国に対し総額九六億円を支払うことになっており、タイ政府はこの資金をもって資本財および設備を主とする日本国の生産物並びに日本国民の役務を調達することになっている。一九六五年三月末現在の支払済額は三〇億円で総額に対する履行率は三一・三パーセントとなっている。

これまでに調達された主な品目は発電機修理八八四万円、棒鋼一、三三九万円、ナム・プン水力発電所調査一、五一〇万円、繊維工場一六億七、七七四万円、漁業調査船二億五、七四〇万円、ナム・プン水力発電所コンサルタント契約四、三一六万円、同発電所電気資材一億八、○○○万円、貨物船一〇億九、三六〇万円、レールおよび継目板一九億四、八四八万円などである。

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