技術による経済協力の現状
1 概 観
わが国の政府べースの技術協力は、受益国との間の二国間方式によるものと、国際機関を通ずる多数国間方式によるものとに大別できる。
二国間方式による技術協力は、コロンボ計画に基づき、一九五四年、専門家の海外派遣および海外からの研修員受入れを行なったことに始まる。協力の規模は、その後、対象地域、援助の形態、また援助額のいずれにおいても拡充強化されてきた。すなわち、対象地域については、当初東南アジア、西南アジアのいわゆるコロンボ計画地域を対象としていたが、現在ではラテン・アメリカ、アフリカ等のすべての低開発地域に拡げられている。援助形態についても、現在では、研修員の受入、専門家の派遣、機材の贈与、技術訓練センターの設置、各分野にわたる開発調査など多岐にわたっており、また、一九六五年度からは「日本青年海外協力隊」が創設されることとなり、本年末頃五〇ないし六〇名程度の隊員が東南アジア等の諸国に派遣される予定である。更に経費の面から見ても、一九五四年度の技術協力に対する外務省予算は一、三〇〇万円であったが、一九六四年度には約一七億四、七〇〇万円、一九六五年度には約二〇億七、七〇〇万円と前年度比三億六、○○○万円の増加であり、逐次増強の方向に向っている。
一九五四年から一九六五年二月までの実績の累計は(詳細は各地域別に後述する)、研修員の受入れ五、九四四名、専門家の派遣七五五名、技術訓練センターについては一五カ所に上っている。又メコン河の開発調査は国連の積極的支持を受けて進められているが、わが国も一九五九年以来協力を行っている。その他の開発調査についても一九五七年から一九六五年二月末までに五四の調査団を派遣した(賠償契約による技術協力については別項参照)。
なおこのほか、通商産業省が開発調査の実施、民間機関の研修員受入れに対する補助などによって、また文部省が海外からの国費留学生の受入れによって技術協力を実施している。外務省等これら各省の技術協力に対する一九六四暦年の支出額の合計は、約二一億二〇〇万円である。
つぎに、多数国間方式による技術協力としては、国連、国連専門機関および国際原子力機関を通ずるものと、アジア生産性機構を通ずるものとがある。一九六四年わが国は、国連特別基金に対し約七億九、九〇〇万円、国連拡大技術援助計画に対し約二億二、七〇〇万円の拠出を行ない、アジア生産性機構に対し合計四、四六六万円の分担金、拠出金を支出し、この面でも積極的な貢献を行なっている。
(わが国が単独で実施しているもの)
(1) コロンボ計画によるアジア諸国
わが国のアジア諸国に対する二国間技術協力は、わが国が一九五四年コロンボ計画に加盟後開始され、二国間技術協力の中核をなしている。一九五四年以来一九六五年二月末までのこの地域への援助実績は(詳細は別表参照)、累計で研修員受入れ一、七三二名、専門家派遣五六九名にのぼっており、昭和四〇年度予算による援助計画では、研修員受入れ五四〇名、専門家派遣二八○名程度を予定している。
また、一九六〇年から、コロンボ計画に加盟していない中華民国、韓国などの北東アジア諸国を対象とする独自の技術協力計画を開始したが、一九六二年一〇月韓国がコロンボ計画に加盟した結果、現在では中華民国のみとなり、同国に対する一九六五年二月末までの実績は、研修員受入れ六五名、専門家派遣二四名であった。昭和四〇年度においては、研修員受入れ六〇名、専門家派遣一一名を予定している。
(2) 中近東およびアフリカ諸国
中近東およびアフリカ諸国に対する技術協力は、一九五七年度から実施されている。一九六五年二月末までの実績は(詳細は別表参照)、累計で研修員受入れ三二三名、専門家派遣一〇八名を数えている。また、昭和四十年度予算による援助計画では、研修員受入れ一〇〇名、専門家派遣三九名を予定している。
(3) ラテン・アメリカ諸国
ラテン・アメリカ諸国に対する技術協力は一九五八年から、中近東およびアフリカ諸国に対する技術協力計画と同様に、わが国独自の計画として始められた。一九六五年二月末までの実績は(詳細は別表参照)、累計で研修員受入れ二一五名、専門家派遣四一名を数えている。また、昭和四〇年度予算による援助計画では、研修員受入れ四〇名、専門家派遣二三名を予定している。
(4) 青年技術者等の派遣
青年技術者派遣計画は昭和三八年度から実施され、同年中に九名の技術者が派遣された。
三十九年度には、インド、インドネシア、カンボディアの各国に各二名、マレイシアに三名、タイに五名、合計一四名の技術者が派遣された。この中昭和四〇年度にまたがり在務する者は一〇名である。
なお、本件青年技術者派遣計画は、四〇年度以降、次節(5)項の日本青年海外協力隊派遣計画に吸収されることとなった。
(5) 日本青年海外協力隊の創設
かねてより論議されていた平和部隊ないし奉仕隊の創設問題に関しては、昭和三九年六月に実施した海外調査の結果、低開発国の多くが、単に若さないし奉仕精神による協力ではなく、技術を持った者の派遣による経済的、社会的開発発展に対する協力を強く望んでいるということであったので、わが国としては米国と同様の「平和部隊」式のものではなく、あくまで技術協力の一環として実施することとし、昭和四〇年度より新たに「日本青年海外協力隊」を創設することになった。
本海外協力隊の目的および性格は政府ベース技術協力の一環として、低開発国政府の要請に応じて派遣するものであり、技術協力専門家または高級技術者とは異り、社会的経済的開発のために必要とする中級技術または技能を身につけた心身ともに健全な青年を派遣し、相手国の人々とともに自ら開発のために実践的な活動を行なわんとするものである。
本事業遂行のため昭和四〇年度外務省技術協力予算中に七、六八〇万円が計上された。その実施は海外技術協力事業団に委託される予定である。
昭和四〇年度には、差当り東南アジア地域を主して、農業、水産、林業、家畜防疫、土木建設、保健衛生、教育等の分野における派遣を考えている。
(国際機関または外国政府と協力して実施しているもの)
(1) 国連関係機関の技術援助計画に対する協力
国連は、通常技術援助計画、拡大技術援助計画および特別基金による技術援助計画により、また、国連の各専門機関および国際原子力機関は、独自の援助計画により、または、国連拡大技術援助計画および特別基金の実施機関となってわが国に研修員を派遣している。わが国は、この場合日本国内で必要とする付帯経費を負担して、研修の便宜を供与しているが、この種の受入れ研修員の総数は(詳細は別表参照)、一九六五年二月末までに四二二名に達している。また、国際原子力機関からは前記のわが国が付帯経費のみを負担して受入れる研修員のほか、わが国が経費全額を負担して、一九六五年二月末までに五二名の研修員を受入れた。
国連関係機関の募集する国連技術援助専門家についても、わが国はこれら専門家の募集につき斡旋を行っている。しかし、国連技術援助専門家は、本来専門家と国連関係機関との個人契約により派遣されており、派遣専門家の累計数は明かでないが、一九六五年一月一日現在四三名の日本人専門家が海外において活躍している。
(2) 日米合同による第三国人の訓練
わが国は一九五四年以来ICA第三国計画により主として東南アジア諸国の研修員を受入れてきたが、一九六〇年三月二三日付日米両国間の交換公文によって、米国側が往復航空賃、滞在費、国内研修旅費等の研修費用の大部分を負担し、わが国は通訳料、指導員旅費、研修資材費等のいわゆる付帯費を負担する旨正式に合意された。この計画にもとづきわが国は一九六五年二月末までに合計二、一九八名(通産省の受入れ分を含む)の研修員を受入れたが、一九六四年七月一日以降は、米国側が往復渡航費のみを負担し、わが国はその他経費の全額を負担する方法に変更実施した。
なお日米合同計画は本年度をもって終了した。
(3) その他諸外国政府の訓練計画に対する協力およびわが国技術専門家の派遣斡旋
低開発地域の諸外国政府は、それぞれの訓練計画により、わが国に自国研修員を派遣しており、わが国はこの場合にも付帯経費を負担して、研修の便宜を供与している。この種の受入れ研修員の総数は、一九六五年月末までに九三七名に達している。また、専門家についてもわが国技術者の派遣を斡旋方要請してくることがあり、これに対しわが国は積極的に協力している。
(1) 機材供与計画
機材供与による技術協力は新たに一九六四年度より実施することとなった。
本件機材供与計画は、発展途上にある国が経済的・社会的開発発展のために必要とする特定の分野の技術または知識をすでに有しているにも拘らず、必要な機材がなく、あるいは不足しているため、現に有している技術または知識の一層の開発あるいは伝達普及教育訓練等が充分に行なわれにくい場合、必要な機材を供与し、技術協力を実施するものである。
昭和三九年度は約五、〇〇〇万円の予算をもって東南アジアを中心に、ビルマ(レントゲン、カメラおよび診療車一台)セイロン(農機具)、インドネシア(大学医学部用医療器材)、ラオス(医療器材)、マレイシア(トランジスタラジオ、義手・義足製造機械その他テープレコーダー等)、パキスタン(技術学校繊維科実習機材、教育用テレビセット)、フィリピン(電子工学関係機材)、タイ(脳外科病院用機材)、ブラジル(熱帯医学研究所用機材)の各国にそれぞれ機材を供与した。
一九六五年度も五、〇○○万円の予算をもって機材供与の実施を計画中である。
(2) 海外技術協力センターの設置
海外技術協力センターは、低開発諸国の技術者を現地において訓練することを目的として、わが国がこれら諸国と協力して各国に設置する施設であり、わが国の低開発国に対する技術協力の大きい柱の一つとなっている。
昭和三三年(一九五八年)度にセンター設置の関係予算が計上されて以来、この計画の実施はかなり進捗を示している。一九六五年二月までにインドの小規模工業(通産省予算によるもの)、パキスタンの農業技術、タイの電気通信、イランの小規模工業、セイロンの漁業技術、タイのヴィールス研究、インドの模範農業、アフガニスタンの小規模工業、インドの水産加工、パキスタンの電気通信研究、ブラジルの繊維工業、ガーナの繊維工業、ケニヤの小規模工業、タイの道路建設、インドの模範農場(追加)の一五センターの設置に関し、それぞれ相手国政府との間に協定が締結された。このうち最初の一〇のセンターはすでに開設されて活動を開始しており、また他の五センターも、一九六五年には開所の運びとなる予定である。
これらセンターの設置および運営の原則は、ほぼつぎのとおりである。
(イ) 機械および訓練技術者は日本側が供与する。その場合、日本側は機械などの輸送費および保険料ならびに技術者の往復旅費、給与なども負担する。
(ロ) 土地、建物、施設運営および日本側技術者の宿舎ならびにセンターの職員は受益国側が負担する。
(ハ) センター開所後は、両国政府は必要に応じ協議を行ない、センターの円滑な運営をはかる。
設置済みのセンターのうち運営状況について若干の例をあげれば、一九六一年一月開所したタイの電気通信訓練センターは、タイにおいては文部省所管であるが、タイ郵政局、電々公社、国鉄、陸海空軍、気象台などの各機関から派遣された委託生を含め、現在までに研修員約五〇〇名の技術再訓練を終り、タイの中堅以上の電気通信技術者の養成に貢献している。タイ側はこのセンターの実績を高く評価し、従来の高校卒業者に対する一カ年の普通科を高校出身者のための三カ年の単科大学のレベルにするとともに、訓練コースに新たにテレビジョンおよびラジオ放送部門を含む電気通信の綜合大学となっている。一九六五年三月第一回卒業生が出たが四〇名全員就職が決定している。
一九六二年七月に発足したインドの模範農業センターは、インド主要米作地域四州を選んで模範農業を設置した特異なセンターであるが、日本式の農機具および農法によって多収穫をあげる稲作技術の紹介は、大なる効果をあげインド官民から大いに注目をあび、全国農業改革と技術向上に多くの示唆を与えて感謝されている。インド側の要請によりわが国はさらに四カ所増設することとなりこのための第二次協定が一九六四年一一月一七日成立した。目下供与機械を購送中であり、また技術者派遣準備中である。
この外、タイのヴィールス研究センターも、タイ国におけるデング熱、狂犬病、ポリオ等の熱帯病ヴィールスの検出と防疫および防疫ワクチン製造につき着実な効果をあげている。また南タイ道路建設技術訓練センターの協定も一九六四年十月十六日成立し近く開設の運びとなっている。センターについても円滑な運営が行なわれている。
(3) 投資前基礎調査の実施
昭和三七年度から外務省予算に投資前基礎調査委託費が、また通産省予算に海外開発計画調査委託費が認められ、これら二つの予算は調査の対象に従い、その使途を異にしているが、いずれも低開発諸国に対する政府べースの技術協力としてこれら諸国の経済開発計画に対し調査面で強力な協力を行なうことを目的としている。
即ち、相手国政府の要請に応じて、わが国の専門家チームを現地に派遣し(一~三カ月)、農林・水産・牧畜業・鉱工業・電気通信・道路・橋梁・港湾・河川開発などの分野で基礎的な技術的・経済的調査を行ない、報告書を作成して相手国政府に提出するもので、これは金融や建設などを含む開発計画実施の基礎を提供するものである。これらの調査に要する経費は一部の現地経費を除き全額わが方が負担する。これらの調査は開発の可能性の調査にとどまり、調査後の建設のための資金協力を約束するものではないが、低開発国に対し開発の基礎資料を提供し、同時にわが国がもつ高度の技術を海外に紹介するので、各国との経済協力の緊密化をもたらすこととなるなど、大きな意義をもっている。
これらの調査の実施は全て海外技術協力事業団に委託されるが、昭和三九年度には投資前基礎調査委託費八、○八二万円により一〇件、海外開発調査委託費六、五〇〇万円により九件の調査が実施された。
国連のエカフェ(アジア極東経済委員会)が提唱し、国連の後援によって行なわれているメコン河開発の調査は、タイ、カンボディア、ラオス、ヴィエトナムの下流域四カ国で設立されている「メコン河下流域調査調整委員会」を中心に援助国、被援助国の協同事業として一九五八年以来推進されてきたが、いまや基礎的調査もかなり進捗し、特定支流については建設の段階に入っている。これは流域四カ国はもとよりエカフェを初め二一にのぼる協力国、一一の国連諸機関等の積極的援助の成果によるものであり、これら諸協力国および諸機関ならびに流域四カ国の拠出金額(拠出約束額を含む)は一九六五年一月一一日現在、建設に伴なう借款も含めると約六、七七七万ドルの巨額にのぼっている。
わが国は、この計画に一九五八年はじめて参加し、三カ年にわたって主要支流の踏査を実施した。この調査の最終報告書は、三カ年にわたる踏査結果を集大成し、あわせて、支流開発の観点からみた本流開発に対する新しい見解を表明したものであり、一九六一年一〇月開かれた第一五回調査調整委員会に提出されたが、同委員会は賞讃と感謝をもってこれを受理した。
一九六一年にはカンボディァのプレクト・ノット計画(支流)およびタイのナム・プン計画(支流)の総合開発調査並びにヴィエトナムのアッパー・スレポック計画(支流)の水門調査を実施した。
つぎにメコン河下流域開発の主目的である本流有望地点の総合開発調査は、インドがトンレ・サップ(カンボディア)を、アメリカがパモン(タイ・ラオス)を、わが国がサンポール(カンボディア)を引受け、実施している。わが国は一九六一年度にサンボール計画予備踏査団を派遣し、以後毎年サンポール計画についての総合開発計画報告書の作成を目的とする調査を行っており、一九六四年度には第三年次の現地調査を実施したのみならず前年度に引き続きヴィエトナムのアッパー・スレポック計画(支流)の総合開発調査も実施した。
このようにメコン河下流域の開発調査は特定支流(タイのナン・ポン計画及びナン・プン計画、カンボディアのプレクト・ノット計画、ラオスの下流セドン計画及パン・ドン計画)では建設段階に入り、本流でも調査の中盤を迎えている。わが国としては、同地域の経済開発に貢献するため、また、エカフェを中心とする国際協力がますます高まり、調査調整委員会および国際連合諸機関もわが国からの援助に対し強い希望と信頼をかけているので、今後この計画に対し引続き援助を行なう方針である。