資金を中心とする経済協力の現状
国連貿易開発会議において示された低開発国側の経済協力の強化拡大の要請は、アジアにおける唯一の先進工業国たるわが国とアジア諸国との外交関係において、今後経済協力がますます重要な地位を占めることを示唆している。
戦後二〇年の間にアジア諸国が自らの努力と先進諸国との協力によってなしとげた経済開発の実績は決して過小評価さるべきではないが、輸出の伸び悩みと開発に伴う輸入の増大による国際収支の悪化、更には政情の不安定なども相俟って、アジア諸国の経済開発は必ずしも順調な一路をたどっているとは云い難い。この様な事態に対応してわが国の経済協力を効果的に行なうためには、それぞれの相手国の実情に応じて最も有効とみとめられる協力の内容と方式を見究める必要があり、わが国の対アジア経済協力は、今後の長期的な政策を推進するに先立っての綜合的な再検討を行なうべき時期に来ているものと考えられる。
アジア諸国の多くは、わが国と密接な政治・経済関係を有し、特に貿易面ではわが国の重要な輸出市場となっているが、わが国の輸出超過による片貿易問題を生じている国も少なくなく、今後のわが国の対アジア経済協力にあたっては相手国との貿易、資金協力、技術協力など各般の関係を有機的に結合・調整し、経済協力がわが国と相手国との友好関係の強化に真に有効な役割りを果すようきめの細かい対策を実施することが必要と考えられる。
わが国としては従来より経済協力を通じアジア諸国の資源開発とこれに伴う輸入増大を計り、当該国の外貨収入の増大に寄与しようとする努力を続けて来ており、過去一年の間にも、インドネシアのカリマンタン森林開発、セラム島の製糖事業、タイの製糖事業、マレイシア、サバの石油開発、森林開発等に対する投資を行なっている。
アジア諸国に対するわが国の経済協力の規模を一九六四年十二月における実情についてみれば、民間直接投資一一、八一〇万ドル、借款ならびに延払輸出債権五一、八五〇万ドル計六三、六〇〇万ドルに達しており、わが国海外投融資総額二四八、一七〇万ドル(国際機関への出資を含む)の約二七%を占め、地域的にも第一位にある。(別表参照)とくにこれら諸国の工業化の進展とともに生産事業に対するわが国民間投資の伸びは目覚しく過去一年における実績は件数三一件直接投資額九五二万ドル、貸付債権取得額六〇〇万ドル計一、五五二万ドルとなっている。
次に過去一年におけるアジア諸国との経済協力を国別に概観するに、先づインド、パキスタン両国に対する円借款の供与が挙げられる(別項参照)。これは夫々第四次の円借款供与であるが、いづれも世銀主催の援助国会議での討議を背景とし自由諸国の協調による低開発国援助の典型的な例であり、わが国の行なっている経済協力の中で最も大規模且つ組織的なものと云えよう。また、インドネシアに対しては同国の開発計画に協力して鉄道車輌、製紙工場、タンカー、マイクロ通信設備などの延払輸出を認めた。
なお一般に低開発国側よりする援助条件の緩和、ノン・プロジェクト援助供与の要請は益々強くなって来ており、特にわが国に対してはアジア諸国からの要請が最も盛んである。
(2) なお民間直接投資の面では、経済的に安定しているタイに対する投資が著しい増加を示し、この一年間に投資案件一五、直接投資額六〇〇万ドル、債権取得額五五〇万ドル対一、一五〇万ドルの増加となっておりアジア諸国に対する新規投資額の大半を占めている。
わが国の民間企業がアジア諸国で実施している民間投資の業種別件数は、一九六四年十二月末現在つぎのとおりとなっている。
証券取得による合弁事業(合計一八八件、但し生産事業のみ)
イ ン ド 鉄鋼業一、水産業一、繊維工業三、化学工業三、窯業三、機械工業四、電気工業五、その他八
パキスタン 窯業一、機械工業一、電気工業二、金属工業一、繊維工業一、その他一
セイロン 水産業一、繊維工業四、窯業一、電気工業二、その他一
ビ ル マ その他一
マ ラ ヤ 鉱業六、食品工業三、繊維工業一、化学工業一、窯業三、鉄鋼金属工業二、その他一
シンガポール 建設業一、化学工業二、窯業二、鉄鋼金属工業五、機械工業二、繊維工業二、その他五
タ イ 鉱業三、建設業二、食品工業四、繊維工業一一、化学工業二、鉄鋼金属工業六、機械工業六、電気工業四、窯業一、その他一
ヴィエトナム 化学工業一、窯業一
英領ボルネオ 水産業一、鉱業二、林業一、その他一
フィリピン 鉱業二
香 港 水産業一、食品工業一、繊雑工業一〇、鉄鋼金属工業三、電気工業五、その他五
台 湾 水産業一、建設業一、食品工業四、繊雑工業四、化学工業一三、機械工業二、電気工業六、その他一
カンボディア 林業一
ラ・米諸国は、豊富な未開発天然資源を擁し、比較的民度も高いに拘らず、政治的・社会的後進性から脱却がおくれ、従来経済社会開発は必ずしも順調な進展をみせていなかった。一九六一年故ケネディ米大統領により提唱され、現在実施中の「進歩のための同盟」計画は、その目指すラ・米諸国の社会改革においては必ずしも円滑な進展をみせてはいないが、経済的体制の改善については、他の先進諸国や国際金融機関の援助と併せて、徐々にその効果を生ずるに至っている。
また、ラ・米諸国貿易は、域外輸出については、今なお一次産品がその大宗をなしているが、これら諸国の多くは既にある程度の工業化を達成し、国際金融機関などの協力を得て更に産業の高度化、多角化への努力を払っており、今後、ラ・米自由貿易連合体制下における域内貿易については貿易構造及び貿易量の両面で見るべき発展が期待される。
ラ・米諸国においては、その経済開発、産業の高度化、多角化の進展に伴ない、資本財、原材料などの輸入が増大しているので、国際収支の調整には慎重な計画が必要であるが、他面、なお今後とも長期的な経済の開発と安定を図る要があり、このためラ・米諸国は引続き先進国よりの資本と技術の導入につとめており、とくに多年政治的・経済的に密接な関係にある米国よりの資本、技術の導入はラ・米経済において極めて大きな地位を占めている。
わが国とラ・米諸国との関係は、ブラジルなど若干の例外を除き比較的馴染がうすいが、近年、人的・物的交流の促進によりそのつながりは次第に密接となり、これら諸国に対するわが国延払輸出、民間投資などの経済協力案件も増加の傾向を示してきた。
しかしながら、これら地域において有力な地位を占めるブラジル、アルゼンティン、チリなどは最近相次いで国内にインフレと国際収支の困難を来し、わが国を含む欧米債権国に対し債権の繰延べを求めるに至っており、勢いわが国のこれら諸国に対する新規信用供与は慎重とならざるを得ず、従って貿易面におけるわが国総輸出に占める対ラ・米比率は最近漸減の傾向を示している。
ラ・米地域に対するわが国の企業進出は、一九六四年末現在で生産事業に対する直接投資六五件、投資額合計九、八二七万ドルに達し、地域、業種も広範多岐に亘ってはいるが、ラ・米地域のかかる経済情勢を反映してその実績は最近むしろ頭打ちの傾向を示すに至っている。
わが国としては、今後とも輸出の増大、海外投資の伸長などを通じてラ・米諸国との経済関係をさらに強化すべきであり、このためには地域内各国の経済情勢、先進諸国の援助状況などを十分注視し、世銀、全米銀行などの国際機関との連繋も緊密にしつつできる限り民間の創意を生かした経済協力を推進することが望ましいと考えられる。
なお、ラ・米地域に対するわが国の直投投資企業数は次のとおり。
アルゼンティン 水産業二、織維工業一
ブ ラ ジ ル 製鉄業一、水産業三、繊維工業五、機械工業八、その他一七
ボリヴィア 鉱業一
コロンビア 機械工業一、その他一二
チ リ 鉱業二、その他一
コスタリカ 製造業一
エル・サルヴァドル 繊維工業一
エクアドル 農業一
グァテマラ 水産業二
メ キ シ コ 鉱業一、水産業一、機械工業三、その他三
ニカラグァ 製造業一
ペ ル ー 鉱業一、機械工業二
ヴェネズエラ 水産業一、機械工業二
中近東諸国は従来概して経済発展段階が低く、産業の開発も遅れていたが、このような状態から脱却するため、数年来、各国とも経済開発計画を実施し、国内の経済開発および工業化に努力して来た結果、最近ではそれぞれの国によって程度の差はあるが、いずれも相当の実績を収めるに至っている。
しかしながらこれら諸国は一部産油国を除いては対外支払能力に乏しいため、主要先進国からの資金援助を求めており、これに対し、伝統的に中近東諸国と密接な経済貿易関係を有する西欧諸国およびこれと対抗して新たに中近東諸国への進出を試みようとする共産圏諸国等が活発な資金援助を行なっている。
また、クウェイト、サウディ・アラビアの如く一部産油国による域内アラブ諸国に対する資金援助を行なわれ始めている。
中近東諸国はわが国とは地理的に遠く、経済関係は未だ必ずしも密接とは言えない。貿易面では、これら諸国に対するわが国からの輸出は繊維雑貨等の消費財が大部分を占め、資本財プラント類は、これら諸国における工業化計画が未だ充分軌道に乗っておらず、且つわが国産業技術水準に対する認識が乏しいためもあって、未だ小さな割合を占めているに過ぎない。
このような事情に鑑み、わが国はこれまで中近東諸国に対する資金協力に当っては、専ら将来のより本格的な協力への基礎を築くことに努力を向け、わが国の産業技術水準に対する認識を高める上に特に効果のあるプロジェクトを選んで重点的に行なうとともに、他方これら諸国の中でも比較的わが国との経済貿易関係が密接で、且つ経済開発、工業化も進んでおり、資本財輸出振興の機会も豊富な若干の国に対しては優先的に資金協力を行なう方針をとって来た。このような方針に基いてわが国はスエズ運河拡張計画やイラン電気通信網整備計画等を中近東における重点的プロジェクトとしてとりあげ、その具体化を図るとともにアラブ連合に対しては一九五八年に総額三、○○○万ドルの延払枠を設定して同国の工業化に積極的に協力して来た。このうち、スエズ運河拡張計画はすでにその第一期工事が完成し、目下第二期工事が進行中であるが、今後のわが国土建業の中近東進出の端著を開くこととなった。またアラブ連合に対する三、○○○万ドルの延払枠はすでにその全額が使用されており、わが国の同国向けプラント類輸出の促進に大きな効果を挙げている。
また一九六三年十一月世銀の主催でスーダンの経済開発一〇カ年計画に対する援助協議グループが結成されると同時にわが国も同グループに参加した。
この他にわが国民間企業が行なっている資金協力としては、アラビア石油がクウェイト、サウディ・アラビア間中立地帯において行なっている石油開発事業を挙げることができる。一九五九年の試掘開始以来一九六五年三月末までに合計五〇本の油井が掘さくされ、いずれも日産一、○○○キロリットル以上の極めて豊富な油井であることが実証されている。一九六一年四月より産油の日本向け積出が開始され、一九六五年三月までに合計二、四五〇万キロリットルが積出された。
最後にわが国民間企業が中近東で実施している投資活動の国別内訳を示すと次のとおりである。
(イ) 海外直接事業(一件)
クウェイトおよびサウディ・アラビア 石油事業一
(ロ) 証券取得による合弁事業(二件)
ス ー ダ ン 繊維工業一
イ ラ ン 窯業一
イスラエル 水産業一
アフリカ諸国は豊富な天然資源と労働力の活用による経済的自立の達成を目指して努力しているが、経済的には依然として旧宗主国である西欧諸国への依存から脱し切れない状態にある。他方主要先進諸国にとってもアフリカ市場の発展の可能性は無視し得ないものがあり、これ等諸国との経済関係を維持するため積極的に経済技術協力を行なっている。
わが国とアフリカ諸国との経済関係は未だ日が浅いが、近年顕著な進展を見せており、特にこれら諸国に対するわが国の消費財輸出は飛躍的増大を見た。しかしながら、これはわが国とこれら諸国との間に深刻な片貿易問題を惹起し、その解決は今後の対アフリカ貿易を左右する重大な問題となっている。しかしながら、アフリカからわが国が輸入し得る品目が著しく限られているため、貿易ベースのみによる片貿易問題の解決は極めて困難であり、したがって開発輸入、政府および民間部門の資金協力並びに技術協力を中心にアフリカ諸国の長期的な経済発展に寄与するような協力関係を発展させることが求められている。わが国としては先ずその手始めとして民間業界より各種の調査団を派遣しわが国業界のこれら諸国に対する認識を深めることに努力してきた。この結果わが国民間業界のアフリカ諸国に対する関心は次第に高まり、繊維産業、水産業等の分野では企業進出等もおいおい実現を見つつある。アフリカに対するわが国民間業界による企業進出の国別内訳は、次のとおりである。(何れも証券取得による合弁事業)
ナイジェリア 繊維工業二、金属工業二、水産業一
ケ ニ ア 繊維工業二
タンザニア 繊維工業二
南ローデシア 鉱業一
南西アフリカ 鉱業一
象 牙 海 岸 水産業一
マダガスカル 水産業一
エティオピア 繊維工業二、金属工業一
(一九六四年十二月末現在 単位百万米ドル)
一 投 融 資
二 そ の 他
国際機関に対する出資 三〇三・〇
オープン勘定債権 七四・七
合 計 三七七・七
総 計 二、四八一・七
註一 国際機関は国際通貨基金(IMF)、国際復興開発銀行(IBRD)、国際開発協会(IDA)、国際金融公社(IFC)に対する出資である。
註二 才ープン勘定債権は韓国、アルゼンティン、ブラジルの三国に対するものである。