原子力の平和利用に関する国際協力

1 日米特殊核物質賃貸借協定の署名

政府は、米国原子力委員会と特殊核物質賃貸借に関する新協定の締結のため交渉していたが、一九六四年十月三十日、ワシントンにおいて同協定に署名した。この協定は、一九五八年署名された日米原子力協定に基づき一九六一年署名された日米特殊核物質賃貸借協定が一九六三年六月三十日に失効したので、この代りに結ばれたものである。この協定は、一九六一年の協定と同様、日本政府が日本原子力研究所はじめ各大学および民間会社の原子力施設のために米国の原子力委員会から濃縮ウランなどの特殊核物質を賃借するのに共通な基本条件を定めた包括的な協定である。

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2 第三回原子力平和利用国際会議への参加

国際連合第十七回総会の決議により、ジュネーヴにおいて開催されることとなった原子力平和利用国際会議(ジュネーヴ会議)は、一九五五年および一九五八年のそれに継ぐ第三回目の国連主催にかかる大規模な科学技術情報交換の場として、世界の視聴を集め、世界七七カ国及び国際原子力機関(IAEA)を含め一一国際機関より一九九二名の代表が出席した他、一九四九名のオブザーヴァーが出席した。中でも原子力界の先進諸国は大規模な官民合同の代表団を派遣し、会期に併行して関連機器類の大展示会を行なった。わが国も極東諸国中の最先進国のそれにふさわしく、代表的科学者、専門家および産業界代表者四九名の代表団を構成し、原子力委員会の駒形委員を首席代表に任命して、会議に積極的に参加した他、展示会にも参加した。

今次会議は、前二回が原子力の揺藍期における啓蒙宣伝を狙って総花的談論に流れたのを反省して、今や実用期に入りつつある原子力発電および原子炉の技術的成果を中心議題に据えて、学術論文も約七四七篇を精選し(前回は二、一三五篇)また議事の運営も本会議と併行して三部門の技術部会を開くなど、討議をつくすことを眼目とした。八月三十一日の開会式から九月九日閉会に至るまで約三、九〇〇名の参加者があり、その半数は各国代表団で占められていたが、原子力専門家のほかに電力エネルギー業界、機械工業、冶金、化学等、多方面からの参加者が熱意もって討論に列席していたことは、原子力の影響が一般産業界に浸透したことを示すものとして報道された。

今次会議の成果としては、先ず英・米・カナダ等の開発した実用的原子力発電炉の経済性が一般的に承認され、従って世界各国のエネルギー計画および業界の建設企画が再検討されるようになったのが挙げられよう、また原子力による海水脱塩法についても、これを契機として米・ソ両国間に共同研究協定が成立する等、いわば原子力普及の一時的停滞を脱却せしめる刺戟を与えたものとして、今次企画は高く評価されてよいであろう。

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3 国際原子力機関第八総会

国際原子力機関はその第八回通常総会を、九月十四日より十八日までの五日間にわたり、本部所在地のウィーンにおいて開催した。加盟国中七五カ国および関係国際機関の代表者等三九〇名が出席、わが国は在オーストリア内田大使を代表として七名が参加した。

今年次総会は、前年八月の部分的核兵器実験禁止条約の調印以来引続いての緊張緩和ムードの漂う中に、直前のジュネーヴ原子力平和利用会議で醸された経済的原子力実用化に対する楽観的雰囲気に包まれて開催された。東西両陣営とも相応じて和気靄々と国際原子力機関の役割を更めて賞揚し、その平和利用推進のための努力を継続し具体的事業に対する各国の援助結集を支持するという態度に終始した。一方低開発諸国も、従来ややともすれば陥り勝ちであった政治闘争的言論を差し控えて、二重目的原子炉による海水脱塩兼灌漑用水計画のような研究開発計画に大きな関心を示し、積極的発言が多くなったことは、先進国の研究推進と相侯って原子力平和利用の画期的展開の近いことを期待させるものがあった。

原子力発電の経済性達成については、ジュネーヴ会議で遺憾ない迄に論じられているが、国際原子力機関は低開発国における利用を念頭において中小型発電炉の建設援助に重点を置いており、従来機関に調査検定を依頼したパキスタン、フィリピン、フィンランド等に加えて、アラブ連合、韓国等が動力炉建設計画を発表する等、普及の趨勢が表われてきた。

原子力発電の普及に伴って、燃料に用いる核物質の軍事転用防止を確保することが重要関心事となって来たが、そのための査察を担任する国際原子力機関は、「保障措置規則」を作成し、その適用範囲を発電用原子炉にまで拡大することになったのであるが、一部の加盟国の反響は必らずしも良好でなく、この方面での国際協力は将来の問題として残された感があった。

放射性廃棄物の処理の問題、放射性物質安全輸送規程の改訂、原子力事故に際しての国際緊急相互援助協定の立案等についても重要な論議が行なわれたが、具体化は今後に持ち越された。

低開発諸国に対する援助計画は円滑に進行しているが、国連関係機関一般の傾向と同じく、地域的活動の強化が主張されるようになったことは注目される。

わが代表の内田大使は、一般討論の席上で以上の諸問題に触れつつ、特に機関の保障措置制度の適用拡大および各種基準の設定運用に重大な関心を有するものであり、また低開発諸国に対してその国情に応じて適切な技術援助を与えることは目下の急務であるから、わが国としてもその遂行について積極的協力を惜しまないと述べ、わが国における原子力の発展状況を説明した後、第九総会の東京への招せいが受諾されることを希望する旨付言した。

第九総会の東京招せいの件は、開会勇頭一般委員会において異議なく承認され、総会最終日に議長が同委員会の勧告を上程し、採択された。その結果、開催日程等細目については日本政府が同機関事務局長と必要な取極を締結するための交渉を行なうとの条件で、国際原子力機関開設以来、初めての外国における総会開催が決定された。

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