二 国際連合における活動その他の国際協力
国際連合第十九回総会
国際連合第十九回総会は、国連分担金の滞納国に対する憲章第十九条の適用問題をめぐる米ソ間の対立の事情等もあって、一九六四年九月十五日に予定されていた開会を、まず十一月十日まで、ついで十二月一日まで延期したが、遂に前記問題の解決をみないまま、十二月一日、ニューヨークの国連本部で開会された。総会はへき頭、第十九条適用問題が提起されることをさけるため一般討論演説終了までは表決を要する問題はとりあげないこととして、まずケソン・サッケイ・ガーナ代表を満場一致をもって議長に選出し、マラウイ、マルタ、ザンビアの三カ国の加盟を承認した後、直ちに一般討論演説に入り、九四ヵ国が演説を行って一月二十七日これを終了した。その間第十九条適用問題の解決と総会運営の正常化のため、総会議長、事務総長等を中心に舞台裏工作が行なわれたが成功せず、一般討論演説終了後も努力が続けられたが結局行詰りは打開を見るに至らず、総会は二月十八日の本会議終了とともに、九月一日まで長期休会に入った。
このため今次総会においては、一般討論演説のほかは、安保理事会、経社理事会の理事国選挙、国連貿易開発会議の設置、予算措置、平和維持活動特別委員会の設置等、最小限必要な事項を満場一致をもって決定したのみで、議事日程に予定されていた九十二の議題についての実質的審議は行なわれず、事実上流会に等しい結果に終った。
第十九条適用問題が解決をみなかったのは、それが単に財政的あるいは手続的な問題ではなく、国連の最も重要な任務である平和維持活動の根本的なあり方に直接つらなる問題であるためであり、今後、国際連合の平和維持活動を包括的に審議するために設置された三三カ国(わが国を含む)平和維持活動特別委員会における審議が注目される。
なお、インドネシアは、一九六四年十二月三十一日、国連総会議長ならびに事務総長に対し国連脱退を通告、これに対し佐藤総理をはじめ各国首脳、国連総会議長、事務総長他は同国の再考を促したが、同国は、一月二十一日、事務総長に対し、文書により正式に脱退を通告するとともに、脱退後も憲章の国際協力の原則を支持することを強調した。又同国は、二月十二日、ユネスコ事務局長に対し、ユネスコ脱退を通告した。国連事務総長は、安保理事会理事国他と協議した後、二月二十六日、インドネシアに対して書簡を送り、同国の脱退の通告を受領した旨通報するとともに、同国の脱退決定は遺憾であり、同国が国連との全面的協力関係を再び確立するよう希望すると述べた。インドネシア国連代表部の公式の地位は、三月一日以降消滅しており、現在の国連加盟国数は一一四カ国となっている。
国連第十九回総会に対するわが国代表団の主要構成員は、次のとおりであった。
政府代表 椎 名 悦三郎 外務大臣
〃 松 井 明 国連常駐代表
〃 福 島 慎太郎 ジャパン・タイムス社長
〃 千 葉 皓 国連代表部大使
〃 蓮 見 幸 雄 特命全権大使
〃 服 部 五 郎 在セネガル大使
顧 問 星 文 七 外務省国連局長
代表代理 島 内 敏 郎 在ロス・アンゼルス総領事
〃 人 見 宏 国連代表部参事官
〃 滝 川 正 久 在アルゼンティン大使館参事官
〃 横 田 弘 国連代表部参事官
〃 久 米 愛 日本婦人法律家協会会長
椎名外務大臣は、十二月四日の総会本会議において一般討論演説を行ない、要旨次の如く述べた。
(1) 昨年来の東西間の緊張緩和に伴い、われわれが真の世界平和実現のため、より積極的、より建設的な面に努力を傾け得る素地が生れつつあることは否定できず、今日のこの世界の趨勢は、先頃起った諸事件によっても、根本的に変化することはないと信ずる。今や全面的な核兵器実験禁止その他の軍縮措置を実現するため一層努力し、緊張の緩和を更に促進すべきであるが、かかる観点から、核軍備その他有力な軍備を保持する諸国の責任は極めて大である。
現在、われわれの当面する課題は極めて多岐かつ複雑であるが、国連こそ、これが解決のため主導的役割を果すべきであり、この点についてわが国としてもあらゆる努力を惜しまない。
(2) 中共が、核戦力の保持を目指して核実験を開始したことは、今日の世界の趨勢にもとり、遺憾に堪えない。中共が今後の実験を停止することは勿論、一日も速やかに昨年の部分的核兵器実験禁止条約に参加することを希望する。
(3) 科学技術の発達は極めて著るしいものがあるが、今日、科学の力が世界の運命を左右すべき重要な要素となっている事実に深く思いを致し、これを真の平和建設のため積極的に利用し得るよう国際協力を促進すべきである。
(4) 国連の平和維持機能を強化することは当面の最大の課題であり、ソ連の憲章第四十三条に基づく国連軍設置の提案は注目すべきものであるが、安保理による平和維持活動の専管等に問題がある。国連の平和維持機能は、憲章の目的と精神に沿って、現実に即した実際的な組織、機構のもとに強化すべきである。従って従来行なわれてきた方式を維持強化すべきであり、またカナダ、オランダ、北欧諸国にみられる国連待機部隊設置の動きも時宜を得たものである。
国連軍常設の問題が真剣に討議されるようになったことは、よろこばしく、速やかに国連軍の常設が実現され、これが更に国連平和軍に進化することを希望するが、このため、わが国を含むすべての加盟国が、関連する諸問題解決の方途の検討に、より一層協力すべきである。
(5) 平和維持の問題に関連し、現在世界の各地に地域的な紛争、緊張が存在することは遺憾であり、特にアジアの現状に対しては多大の憂慮と危惧を禁じ得ない。すべての関係諸国が、相互理解と協力の精神をもって、問題の速やかなる平和的解決に努めるよう希望するが、わが国としても、このためできる限りの貢献をしたい。
かかるアジアの情勢において中国問題が重要な地位を占めていることは、あらためていうまでもなく、中国代表権問題の決定に当っては、引続き慎重な検討を要すると考える。
(6) 紛争の平和的解決は、平和維持の目的達成のため憲章が最も重視しているところであり加盟国の最大の義務である。従って、われわれは、自衛上やむを得ざる場合の他は一切の武力行使はもちろん間接的な侵略行動も、これを
すべて非とする態度に徹して、平和的手段による問題の解決に努力を集中すべきである。
(7) 真の永続的な平和を確保するためには、世界経済全般の進歩と繁栄をはからなければならないことはもちろんであり、特に南北問題の解決は緊急の課題である。この点で国連貿易開発会議開催の意義は極めて大なるものがあり、貿易開発理事会を中心とする新らしい諸機関が国連経済機関の一部として、速やかに発足することを希望する。
わが国としては後進諸国からの輸出拡大、その多様化のためにできる限りの協力を惜しまないものであり、後進諸国に対する経済技術援助についても、これら諸国の側における努力を一層支援すべく、援助強化の努力を積み重ねてゆく決意である。
(8) 国連創設二十周年を明年に控えた今こそ、憲章の再審議を真剣に考慮すべき好機である。前回総会で、安保理、経社理の議席拡大のための憲章改正に関する決議が成立したが、わが国としても可及的速やかに批准の手続をとる意向である。
(1) 第十九回総会を麻痺させた国連財政問題は、国連軍経費問題を含む国連の平和維持活動は安保理事会の専管であり、総会がこれを決定するのは憲章違反であるとするソ連等の諸国の主張と、平和維持経費の分担は総会が決定し、分担金の滞納国に対しては憲章第十九条を自動的に適用すべしとする米英等大多数の西側諸国の主張との対立から生じた。ソ連等は右のごとき立場からスエズ、コンゴー両国連軍経費の分担に応る義務なしとして、支払いを拒否していたが国際司法裁判所は、一九六一年、スエズ、コンゴー、両国連軍経費は通常の国連経費と同様各加盟国に支払い義務ありとの勧告的意見を出し、第十七回総会は決議により同意見を受諾した。しかし、ソ連等は依然これを認めず、国連は深刻な財政的危機に直面することとなった。かかるうちに、ソ連、東欧諸国等十数カ国の国連軍経費滞納額は、一九六四年初め(フランスは一九六五年初め)から、二カ年分の分担金額を越えるに至り、このため米英等が、憲章第十九条の自動的適用によりソ連等の総会における投票権は失なわれるべきであると主張するのに対して、ソ連等は第十九条適用の場合に該当しないとの立場をとり、第十九条適用の可否をめぐって両者の主張は鋭く対立した。
(2) このように第十九条適用の問題が未解決のまま第十九回総会を迎える場合には、ソ連の投票権の有無につき冒頭から波欄を生ずることは必至と考えられたため、二一カ国委員会(国連軍経費の分担方式および滞納問題を検討するため努力が続けられたが、妥協案を見出すに至らず、十二月一日、第十九回総会開会後も、ウ・タン事務総長、ケソンサッケイ議長、アジア・アフリカグループ等が活発な舞台裏工作を行なった。特にわが国を含むアジア・アフリカグループは積極的な動きを示し、(イ) 今次総会において第十九条適用問題をとりあげない、(ロ) 財政問題を含む平和維持活動の全問題を総合的に再検討する、(ハ) 全加盟国の自発的拠出により国連財政状態を改善する、との案をもって解決に努力し、ソ連はこれに同意したが、自発的拠出の具体的金額およびその支払時期を明示せず、先ず総会を正常化すべしとして、これを固執した。このため、先ず充分な金額を支払うべきであり、かかる支払が行なわれれば総会の正常化に同意すると主張する米との間に意見の一致を見るに至らず、一時は、かなり弾力的な態度をとっていた米も、ソ連が譲歩しない限り、対決に訴えるもやむなしとの強硬な態度に転ずるに至った。当初正常化を強く要求していたアジア・アフリカグループも、正常化を図ろうとする限り米ソの対決は不可避なることが明らかとなるに及んで、対決回避の途を選ばざるを得ないこととなり、結局、これが大勢を支配した。
(3) 以上の経緯の後、第十九回総会は、九月一日までの長期休会に入ることとなったが、休会をきめた二月十八日の本会議において、議長提案に基ずき、平和維持活動特別委員会の設置を満場一致をもって決議し、同委員会に対し、総会の正常化のため総会休会中、国連の財政的危機の克服のための方途を含む平和維持活動の包括的検討を行ない、六月十五日までに総会に報告書を提出せしめることとした。
右の決議に基き、その後総会議長は、次の三三カ国を特別委員会構成国として発表した。
アフガニスタン、アルジェリア、アルゼンティン、オーストラリヤ、オーストリヤ、ブラジル、カナダ、チェッコスロヴァキア、エル・サルヴァドル、エティオピア、フランス、ハンガリー、インド、イラク、イタリア、日本、モーリタニア、メキシコ、オランダ、ナイジェリア、パキスタン、ポーランド、ルーマニア、シェラ・レオーネ、スペイン、スウェーデン、タイ、ソ連、アラブ連合、英、米、ヴェネズェラ、ユーゴースウラヴィア
(1) 一九六四年一月末フランスが中共を承認したのち、アフリカ諸国、とくに旧仏領系諸国の動向が一般に注目されていたが、当時これら諸国はフランスの措置を比較的冷静にうけとり、コンゴー(ブラザヴィル)が中共を承認したにとどまった。しかるに、同年八月から九月にかけ盧緒章を団長とする中共使節団が旧仏領系諸国を訪問したこと、十月上旬カイロで開催された第二回非同盟諸国首脳会議において中共の国連における代表権回復を要望する趣旨の決議が採択されたこと、同年十月中旬中共が核爆発実験に成功したことなどの影響もあり、九月末以降、セネガル、中央アフリカ、ダホメおよび独立直後のザンビアが中共を承認し、ここに国連における中国代表権問題の成行きがあらためて注目されることとなった。
(2) かかる事情のもとに、一九六四年十月二十日、国連第十九回総会開会に先立ち、まず、カンボディアが事務総長あて書簡をもって、従来と同一の「国連における中華人民共和国の合法的権利の回復を同総会の議題として追加するよう要請し、その後、アルジェリア、コンゴー(ブラザヴィル)、ギニア、マリ、インドネシア、ルーマニア、ブルンディ、ガーナおよびキューバの九カ国がこれに参加した。また、アルバニアも別途、これと同名の議題採択方要請した。
かかる状況に鑑み、今次総会においても、これら中共支持諸国より従来と同様の決議案が提出され、これをめぐって審議が行なわれるものとみられていたが、前記(概説参照)の事情によって、総会は結局何らの審議も行なわぬまま休会に入った。
なお、アルバニアは、総会が休会に入る直前、国名を明示することは避けつつ、二大国が国連を支配して、その正常化を妨げている現状は許し難いとして、正常化すべきか否かにつき投票を行なうことを要求し、多少の混乱の後、結局、投票が行なわれ、その結果正常化の要求は否決されたが、その際、アルバニアは、今次総会が人為的に変則状態におかれている主たる原因の一つは、若干の大国が協調して、今次総会での中共の国連参加を阻止しようとしていることにある、というのが各国代表団の間の一般的確信であることを強調しなければならないと述べ、また、モーリタニアも、米ソは、少なくとも本年、中共の国連参加を如何なる犠牲を払っても阻止しようとしている、との発言を行ない注目された。
(1) ジュネーヴ一八カ国軍縮委員会は、一九六四年一月二十一日より四月二十九日まで、および六月九日より九月十七日までの間、全面完全軍縮および核兵器実験禁止問題を含む各種部分的措置について審議を行なった。その概況はつぎのとおりである。
全面完全軍縮に関しては、米ソ両国より従来提出されていた軍縮案について、主としていわゆる「グロムイコ案」(米ソが特に合意する少数のミサイル、対ミサイル・ミサイルおよび航空機など戦略的核兵器運搬手段を、軍縮の第三段階の終りまで、米ソ両国が保持しつづけることを認める趣旨のもの。従来、ソ連はかかる兵器はより早期に廃棄するよう主張していた。なお、同提案の詳細は第八号三十九頁参照)をめぐっての審議が行なわれたが、米・英等が同案の具体的内容を充分説明するようソ連に要望したのに対し、ソ連はまず米・英等がグロムイコ案を原則として受諾することが先決であるとして応ぜず、この点についての対立が最後まで調整されなかったので、結局、何らの進展もみられないまま終った。
部分的措置については、戦略的核兵器運搬手段の凍結、兵器用核分裂物質の生産停止、偶発・奇襲などによる戦争防止のための監視所網設置、核兵器拡散防止、核兵器実験の全面禁止、核兵器運搬用爆撃機の廃棄等の措置がとりあげられたが、四月末、米・英・ソ三国が委員会外で双互に協議の上、それぞれ自発的に兵器用核分裂物質の生産削減措置をとる旨を一方的に公表したことを除けば、同委員会は何らの具体的成果をもあげ得なかった。
九月二十一日、委員会は、上記審議に関する簡単な報告を国連総会あて提出し、同総会における軍縮問題審議の成りゆきをみるため一旦休会に入った。なお、委員会は、米・ソ両共同議長が各委員国と協議の上決定する時期に、その審議を再開することとなっているが、一九六五年三月十五日現在、この再開期日はまだ決定されていない。
(2) 国連第十九回総会は上記一八カ国軍縮委員会の報告を「全面完全軍縮問題」、「核兵器実験停止の緊要性」、「核兵器使用禁止条約署名のための国際会議召集問題」の諸議題の下に審議する筈であったが、前述のごとき事情のため、これら諸議題についても何ら審議を行ない得ず、一九六五年二月十八日、議長の示唆にもとずいて、同委員会の報告を受理する旨および同委員会がその継続的責任に鑑み、今後もひきつづき活動をつづけることを要望する旨の二点を投票によることなく決定したにとどまった。
なお、上記諸議題とは別に、インドが「核兵器拡散防止問題」を補足議題として採択するよう要請していたが、総会は上記経緯に鑑み、本件を議題として採択するに至らなかった。
(1) 南アフリカ共和国政府の人種隔離政策(アパルトヘイト)に起因する人種紛争問題は、一九五二年の国連第七回総会以来、毎総会において審議されており、総会は、その都度南ア政府に対し反省を求める決議を採択してきた。しかしながら、南ア政府は、これらの決議を無視し続けたのみならず、一連の取締法令を施行して、人種差別政策の促進をはかる一方、軍事、警察力を増強して、アパルトヘイト政策に反対する者およびその家族に対する弾圧を強化するに至ったので、一九六三年の第十八回総会は、わが国を含むAA諸国提案の、「南ア政府に対し、アパルトヘイト反対者に対する恣意的裁判の即時停止と、政治犯等の即時釈放を要請する」趣旨の決議、ならびに、「南ア政府により迫害を受けているアパルトヘイト反対者の家族を救済援助する」趣旨の決議、および「すべての国に対し、南ア政府をしてアパルトヘイト政策を思い止まらしめるための努力の強化と、武器弾薬等の対南ア禁輸に関する安保理決議の完全履行を要請し、さらに、特別委員会の事業を継続せしめる」趣旨の決議を採択した。
「南アのアパルトヘイト政策に関する特別委員会」は、一九六三年四月より活動を開始し、同年中には三回に亘り、第十八回総会および安保理に報告書を提出し、安保理が速やかにより強力な政治的、外交的および経済的制裁措置をとる必要があることを強調したが、一九六四年には、三月二十五日、五月二十五日に引続き、十一月三十日、第十九回総会および安保理に報告書を提出し、(イ)南アに対する全面的経済制裁の決定、(ロ)武器禁輸、投融資の禁止、石油および石油製品、ゴム、化学製品、鉱物その他の原料の輸出禁止、および、南アよりの金、ダイヤモンドその他の鉱物の輸入禁止の実施、(ハ)南ア向け、もしくは、南アより入港する船舶に対する便宜供与の拒否、(ヘ)政治犯家族援助のための募金と委員会の設置、(ト)特別委員会の構成を拡大し、安保理常任理事国ならびに対南ア主要貿易相手国を含めること、等を勧告した。また、特別委員会は、一九六四年十月二十六日、全加盟国に対し、政治犯の家族救済のため拠金方要請した。(本要請に対しては、一九六五年二月末現在、インドおよびスウェーデンが募金に応ずる旨を回答している。)
(2) 一方、AA諸国の要請にもとづき本問題を審議した安保理事会は、一九六三年八月および十二月の二回に亘り、「南ア政府に対し、政治犯等の即時釈放を要請し、すべての国に対し、武器、弾薬および軍用車輌ならびにこれらの生産維持のための設備および資材の南ア向禁輸を要請する」趣旨の決議を採択し、さらに、一九六四年六月九日には、「南ア政府に対し、死刑を宣告された政治犯に対する刑の執行の停止と、大赦の授与を要請する」趣旨の決議を、また、六月十八日には、「安保理がとるべき措置の可能性、有効性について検討するため、現安保理事国をもって構成する『専門家委員会』を設置する」趣旨の決議を採択した。本決議にもとづき設置された「専門家委員会」は、同年七月から活動を開始したが、十月三十日、全加盟国に対し、南アとの経済関係について質問状を発し、(イ)一九六三年および一九六四年上半期における各国と南アとの主要貿易商品の数量と価額およびその全貿易に対する比率、(ロ)南アと貿易を断絶した場合、国内経済および貿易収支に及ぼす影響、(ハ)南アに対してとっている政治的、経済的措置および実施方法、ならびに、その経済的影響、(ニ)南アに対する軍事的、経済的援助および投資の内容、(ホ)安保理のとるべき方策の外部的、内部的影響に関するその他の意見、等につき回答方要請した。
(3) 南アの人種差別問題は、WHO、ILO、UPU等の国連専門機関においてもとり上げられ、南アのこれらの機関からの除名ないし参加拒否の動きが活発となっている。一九六四年七月のアフリカ諸国元首会議においても、南ア商品のボイコット、南ア航空機および船舶の入国拒否等に関する決議が採択され、さらに、十月の非同盟諸国首脳会議においても同様趣旨の決議が採択された。
(4) 第十九回総会は、前述の事情を背景として、前記「特別委員会の報告」および「政治犯家族の救済援助問題に関する事務総長の報告」の二議題の下に、本問題を審議することとなっていたが、実質的審議は行なわれないまま、一九六五年二月十八日の本会議において、前記特別委員会の報告書の受領を確認し、同委員会は、一九六五年度予算の範囲内で活動を継続するよう希望するとの事務総長ノートが反対なく承認されたのみであった。
しかしながら、多数の国が一般討論演説において、アパルトヘイト問題に言及し、激しくこれを非難し、とくに、AA諸国の多くは、南アに対し経済制裁を課すべきことを強調した。また、デンマーク、スウェーデン等は、本問題の平和的解決を希望しつつも、安保理専門家委員会の具体的提案を期待する旨の発言を行なった。南アは、憲章の内政不干渉の原則と自衛権の原則を尊重すべきことを強調するとともに、南アの実態は、複合人種というよりはむしろ複合国民社会であって、それぞれの国民的伝統や文化の健全な維持発展に重点をおいた分離的発展を計ることが最も肝要であることを述べた。なお、南アが登壇するや、AA諸国の大半は一斉に退場した。
(5) わが国は、従来より、人種差別に反対するとの基本的立場を維持し、本問題の解決のためには、国連が総意の支持のもとに、南ア政府に対して道義的圧力をかけて、その反省を求めつつ、関係者間における事態の改善についての努力を促すことが最善の方法であり、また、経済、外交関係の断絶、国連からの除名等の制裁措置は、安保理の専管事項であって、総会の権限外であるという態度を堅持してきている。
(1) 植民地独立付与宣言履行特別委員会
国連第十五回総会は、あらゆる植民地主義を急速かつ無条件に終結せしめる趣旨の植民地独立付与宣言を行ない、ついで第十六回総会は、右宣言の履行のため、一七カ国よりなる植民地独立付与宣言履行特別委員会(以下、特別委員会と略称)を設立、第十七回総会は特別委員会の構成国を更に七カ国増加して二四カ国とした。右特別委員会は、一九六三年、ポルトガル施政地域、南西アフリカ、南ローデシア、アデン等二十数地域について審議し、第十八回総会に報告書を提出、同総会は右報告書を基礎に審議を行ない、植民地一般事項に関する決議および前記地域等十地域に関するそれぞれ別個の決議を採択したが、これら決議は大体において施政国が総会の決議を無視していることを非難するとともに、植民地独立のため各加盟国が協力するよう要請している。
なお、特別委員会は、信託統治地域(ニューギニア、太平洋諸島、ナウルの三地域)、南西アフリカ、総会により非自治地域とされたが施政国が憲章に基づく情報を提出しない地域(ポルトガル領七地域と南ローデシア)および右情報を提出する非自治地域(五十二地域)の合計六十四地域を同委員会の審議対象地域リストに掲げていたが、同総会はこのリストを承認した。なお、これら諸地域のうち、ケニア、ザンジバルの二地域は一九六三年に、マルタ、ニアサランド(現マラウィ)、北ローデシア(現ザンビア)の三地域は一九六四年に、ガンビアは一九六五年二月にそれぞれ独立した他、北ボルネオ、サラワク、シンガポールの三地域は一九六三年マレイシアに併合されている。
(2) 国連第十九回総会
特別委員会は、一九六四年度には、五十五地域につき審議したが、同年度の報告書において、南ローデシア、ポルトガル施政地域、南西アフリカ、アデンの各地域の事態は危険かつ重大であると述べ安保理事会の注意を喚起した他、太平洋、太西洋、カリブ海の多数の小地域について、植民地独立付与宣言の完全な適用および国連視察団派遣の必要性を強調した。
同報告書は、国連第十九回総会において審議されることとなっていたが、同総会は、右報告書の受領を確認したのみで、九月一日まで長期休会に入ったので、同報告書の審議は第二十回総会まで持越されることとなった。
宇宙空間平和利用委員会は一九六三年に引き続き、法律問題(特に、宇宙飛行士と宇宙飛しょう体に対する救助とその返還、および宇宙空間に発射された物体によって生じた損害に対する賠償責任)および科学技術問題の両問題につき、それぞれの小委員会で審議を行なった。
科学技術小委員会はジュネーヴで一九六四年五月二十二日から六月五日まで開かれた。審議は六三年に引続き、情報交換、国際協力の奨励、教育と訓練、国際観測ロケット発射施設、宇宙実験の潜在的有害効果、の五項目につき、更に具体化し、詳細化した。
法律小委員会は一九六四年三月九日から同二十三日までジュネーヴで第三会期第一部を開き審議を重ねたが、審議未了のため、十月五日から同二十三日までニューヨークで第三会期第二部を開いた。しかしそれでも主として東西間の意見不一致のため法律問題に関する具体案合意に至らなかった。
主な論争点は次のとおりである。
総会決議一九六三(XVIII)は法的原則を将来適当な時に国際協定化するよう勧告する一方、具体的法律問題、特に前述の賠償責任問題と救助返還問題につき速やかに国際協定案を作るよう要請している。法律小委員会においてソ連などは法的原則の優先審議を主張したが、西側はこれに反対し、具体的法律問題の優先審議を主張した。結局、法的原則は一般討論で審議されたが、大部分の時間は具体的法律問題に向けられた。
救助返還問題には米国とソ連からそれぞれ協定案が提出され審議の対象となつた。内容についてはむしろ打上国と非打上国との間の論争が多かった。たとえば公海における救助作業はどうするか、自国内で必要な救助作業を行ないえない時はどうするか、打上げ国(打上げ物体の登録国)ないし打上げ国際機関の責任はどうなるか、救助返還費用はどこが負担するか、打上げ国は打上げ前または打上げ直後に必要情報を含め国連に登録すべき`ぽないか、といったような点が論議の対象となった。この問題審議は三月と十月の小委員会を経てかなりの部分につき合意が成立し、一部を残すのみとなった。
損害賠償責任問題については米国案とハンガリア案とベルギー作業文書とが提出された。論争点としては、国際機関による打上げまたは共同打上げの場合の責任はどうするか、有限責任とするか無限責任とするか、過失責任とするか無過失責任とするか、賠償請求の期間、紛争処理条項、などであった。三月と十月との審議にも拘らず、合意成立に至らなかった。
右両協定案を通じて問題となったのはその加盟国の件で、ソ連らは核停条約にならってすべの国に開放すベしとし、米国は国連加盟国ないし国際司法裁判所の管轄権を認めた国のみにすべしとした。
またわが国を含む一部の国は宇宙の平和利用への限定を主張した。
一九六四年八月発効したいわゆる世界商業通信衛星系暫定協定につき、ソ連はかかる宇宙活動を民間会社に委ねることに反対であるとしたが、米国は同協定の親協定は政府間協定であるとして反駁した。
宇宙空間平和利用委員会第六会期は一九六四年十月二十六日から十一月六日までニューヨークで開かれ、法律および科学技術小委員会の審議結果などを承認し、これを同委員会報告として第十九回総会に提出したが、総会はこれを受理したにとどまり、実質的審議は行っていない。
放射線の影響に関する科学委員会は一九六四年二月二十四日から三月四日までと六月二十九日から七月十日までと二度開催され、「核実験による環境の放射能汚染」と「放射線による人癌の誘発」の二問題に関する報告書を作り、これを国連第十九回総会に提出したが、総会は、これを受理したにとどまり実質的審議は行なっていない。
科学委員会はこの報告の中で、「一九六一年九月から六二年十二月までの核実験再開により環境の放射能汚染が急増したが、実験停止により汚染増加は止んだ。成層圏内で核実験が行なわれたため、ストロンチウム90の成層圏蓄積量は五メガキューリーに増加した。長寿命核種の降下率は一九六三年に最高となりその後は減少するだろう。」と述べ、また人癌(特に白血病)の発生については、「広島や長崎の被曝者に対する研究データから、被曝線量が極度に大きい場合には白血病発生は被曝線量にほぼ比例することが大体言えよう。」と述べている。
なお、この委員会の活動には従来より我が国科学者は積極的な貢献を行なっているが、特に今回の報告の場合、我が国科学者の研究データが最も重要な部分を占めていることは注目に値する。
国連軍経費の不払いに伴う国連財政の危機は数年来のことであったが、一九六四年度においては一層深刻となり、ウ・タン事務総長は、一月十八日の本会議において、国連財政の窮状を報告し、その救済方法を緊急に見出すため各国が協力するよう訴える声明を発表した。一九六五年度通常予算については、事務総長は、前年度比三・三二%増、支出総額一〇四、六九三、七五〇ドルの見積り原案を有していたが(これに対して行政予算諮問委員会は一、七二九、五〇〇ドルの減額を勧告していた)、第十九回総会が前述の如く何ら実質的審議を行い得なかったので、事務総長に対し一九六四年度予算の範囲内での支払い権限を付与するとともに、各加盟国に対し一九六四年度各国分担金の八○%以上を前払いするよう要請する趣旨の決議を満場一致をもって採択するにとどまった。
わが国は、一九六四年度分として、通常経費分担金一、八六八、九六〇ドル(分担率二・二七%、加盟国中第七位)の他、平和維持活動経費としてスエズ経費四四七、四六四ドル、コンゴー経費三七二、八〇五ドル、サイプラス経費二〇〇、○○○ドルを支払った。又、わが国の一九六五年度分通常経費ならびに平和維持活動経費分担金及び拠出金は次のとおり。
(1) 通 常 経 費
一九六五年度には、わが国に対し、新分担率として二・七七%(全加盟国中第七位)が勧告されているので、一九六五年度の本邦分担金は通常経費二、四二九、○〇一ドル、運転基金二〇〇、○○○ドルとなる。
(2) 平和維持活動経費
(イ) スエズ国連軍
一九六五年度スエズ国連軍経費に対するわが国の義務的分担金は約四十七万ドルである。なお、同経費に対する自発的拠出分(低開発国減免分の補塡)として約五万ドルを予定している。
(ロ) サイプラス国連平和維持軍
一九六四年三月国連安全保障理事会の決議に基き設置され、その後、四期(各期三カ月)にわたり駐留が延長きれているサィプラス国連平和維持軍経費に対し、わが国は一九六四年三月、九月、及び、一九六五年三月、各一〇万ドルの拠出を行なった。