海外広報の現状
海外広報活動のうち、主な事業はつぎのとおりである。
海外広報用として外務省が発行し在外公館を通じ各方面に配布している刊行物のうち最も重要なものは、わが国の現状に関する基本的事実を全般的に説明した小冊子「今日の日本」である。この小冊子はカラー写真挿絵二〇ぺージ、白黒写真挿絵二〇ぺージを含む八○ぺージ余りのもので、昭和三十八年度には、英、仏、独、スペイン、ヒンデイ、ウルドウ、マレー、タイ、インドネシア、イラン、アラビア、トルコ、イタリア、スウェーデン、デンマークの一五国語により合計二七万一、○○○部を印刷した。このほか、すでに、中国、ロシア、ポルトガル語版も作成している。この「今日の日本」は内容、写真ともに海外各方面において多大の好評を博している。
「今日の日本」は高校生以上を対象としたものであるが、これを要約して、中学生程度を対象とするように編集した「今日の日本」縮小版を昭和三十八年度から発行することとし、英語版一五万六、○○○部、フランス語版三万八、○○○部、ドイツ語版一万二、○○○部、合計二〇万六、○○○部を作成した。
つぎに、主として小学生を対象としたリーフレットは昨年度と同様に英語版四〇万部、フランス語版一〇万部、スぺイン語版一五万部を、それぞれ作成した。また、各項目別に四ページ乃至八ぺージを当てて説明を行なっている基本資料ファクト・シーツは、現在までに三四種類作成されており、各種の照会に迅速適切に回答できるよう年々改訂を加えている。その他、日本紹介を目的とする各種ポスター、絵葉書、「いけばな」カレンダーなども作成しているが、特に色彩印刷の美しい「いけばな」カレンダーは昨年に引続き極めて好評であった。
また、わが国に関する各般の話題を定期的に紹介する英文インフォメーション・ブレティンを、毎月二回外務省で発行しており、在外公館はこれを基礎として、それぞれの駐在国の特殊事情および言語を考慮し、再編集の上これを発行、配布しているが、現在発行しているインフォメーション・ブレティンの部数は、一七カ国語により毎回合計五万部におよんでいる。
(1) 広報用映画
映画は、直接視聴覚にうったえるきわめて効果的な広報手段なので、できるだけよい広報映画を数多く作成して、世界各国の人々が日本の現状を理解するのに役立つよう努力している。外務省作成の広報映画には、英、仏、独、スペイン、ポルトガル、アラビア語などの各国語版があり、全在外公館に配布の上、在外公館主催の映画会、一般貸出し、テレビ上映、巡回映画用広報車による上映などを実施して、非常な好評を博している。
昭年三十八年度には、総天然色広報映画「今日の日本農業」、「日本滞在二週間」、「日本の庭園」、「日本のテレビ放送」および「日本の乗りもの」(いずれも上映時間一四分ないし二八分)の五本を作成した。また同年度中に来日した国賓の動静、および日本の現状をあわせ紹介する広報用記録映画「ベアトリックス・オランダ王女の訪日」、「タイ国王、王妃の訪日」および「ベルギー国王、王妃の訪日」(いずれもカラー、上映時間二〇分ないし三〇分)の三本を作成し、関係在外公館に配布した。
さらに諸官庁、団体、会社等が作成した映画中、海外広報上有効と認められる広報映画「闘魂の記録」(英、仏、スペイン語版)、「女王蜂の神秘」(英語版)、「雅楽」(英語版)等の一六ミリ・プリント二六種計二〇九本を購入し、在外公館に配布した。
右の外、一九六一年七月以降、外務省企画テレビ用映画「ジャパン・スクリーン・トピックス」(白黒一五分)を月間一本製作しており、在ニューヨーク総領事館、在カナダ、メキシコ、アルゼンティン、タイ、アラブ連合、スイスの各大使館など二二の公館に配布した。本映画は、配布先公館に所在する各国テレビ局から毎月定期的に放送されており、日本の現状紹介に大きな役割を果している。また在アルゼンティン大使館には、右テレビ用一六ミリ・プリントのほか、本映画の三五ミリ版プリントをあわせ配布しており、同プリントは同国映画常設館でニュース映画として毎月定期的に上映されている。
昭和三十八年度中に在外公館に配布した映画プリント数は、総数一、六三六本で、その内訳はつぎのとおりである。
(イ) 広報映画(記録映画を含む) 一、一三九本
(ロ) テレビ用映画 二八○本
(ハ) 諸官庁、団体および会社等から受けた寄贈映画 二一七本
なお、広報映画による在外公館(アジア、アフリカ地域)の広報活動の強化、特に電気のない辺地での映画による広報活動を行うために、昭和三十五年度以降発電装置を備えた巡回映画用広報車を配布し、広報上大きな効果をあげている。三十八年度には、在タイ、フィリピンおよびアラブ連合各大使館に配布した。
本広報車を保有する公館は、前記三公館を加え、在インドネシア、マレイシア、パキスタン、セイロン、インドおよびナイジェリア各大使館の九公館となっている。
また在外公館において、本省より配布する広報映画の現地語版(ヒンデイ、デンマーク、タイ、シンハリ、インドネシア語等)を簡易に作成、利用できるよう磁気録音および再生装置付一六ミリ国産映写機を配布している。
(2) スライド
カラー・スライドの利用は、映画につぐ視聴覚広報手段として多大の効果があるので、在外公館保有スライドの充実と、その利用に努めている。在外公館では、日本事情紹介講演会、その他の催しに当ってスライドを利用し、また貸出しを行っている。
昭和三十八年度には、外務省企画カラー・スライド「東京に住む或る家族の生活」(四八枚一組)を作成した。
(3) 写 真
以上と併行して、広報写真の配布と利用に努めている。これらの写真は、各国の主要新聞、百科辞典、教育用図書および雑誌等に頻繁に掲載、利用されており、また各在外公館主催の写真展に展示され、大きな効果をあげている。
右のほか、三十八年には、壁写真「日本の建築」二組(白黒四六枚、カラー四枚計五〇枚)を作成し、アルゼンティンおよびブラジルで日本建築写真展を開いた。さらに在外公館展示用として、全紙大のカラー写真二六枚(昭和三十七年度には、白黒四〇枚、カラー一四枚)を作成し、全在外公館に配布した。また同写真用額縁を一、○○○枚(昭和三十六年度は、三、○〇二枚、三十七年度は一、一〇〇枚)を作成し、二〇公館に配布した。
海外の有力報道関係者をわが国に招待し、各分野にわたり視察、懇談などを斡旋することは、これら報道関係者が、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ等のミディアを通じ日本紹介を行なうことができるので、きわめて効果的な広報手段である。このため、外務省は、世界各国から年間約四〇名の報道関係者を招待している。三十八年度中に外務省の招待で来日した報道関係者は、つぎのとおりである。
昭和三十八年
四月 タイ、「チャオタイ」紙編集長、サティエン・パンタラングシ氏ほか二名。五月 スイス、「サン・ガーレン」大学教授、「ノイエ・チューリッヒャー・ツアイトウング」紙論説委員、エルンスト・E・W・クックス博士。六月パラグァイ、「パトリア」紙論説委員、ホセ・マルコス・ヴェラスケス氏。チリ、「ラ・ナシオン」紙主筆、オスヴァルド・サゲス・オリヴァレス氏。英国、著述家、講演家、バーナード・ニューマン氏。七月 デンマーク、教科書編集者カーレン・H・オルセン女史。八月 インドネシア、「ジャカルタ・メール」紙編集長、ロイ・ティアヘンガン氏。メキシコ、「エル・ウニベルサル」紙記者、エンリーケ・ガハルド氏ほか一名。ケニア、「イースト・アフリカン・スタンダード」紙編集次長、J・S・R・ルイス氏。九月 パキスタン、情報局新聞情報官、モハメド・N・U・ディーン氏。ヴェネズェラ、「エル・ウニヴェルサル」紙記者、トリニータ・カサド・アルカラ女史。ペルー、「エル・コメルシオ」紙コラムニスト、S・サラザール・ボンデイ氏。ブラジル、「オ・エスタード・デ・サンパウロ」紙農業部主幹、J・ビェレンバッハ・デ・カストロ氏。ギリシャ、「カシメリーニ」紙記者、ジョージ・レオツァコス氏。十月 カナダ、「ウィンザー・スター」紙記者、モーリス・ジェファリース氏。英国、「スウォンジー」大学教授、アラン・デイヴィス氏。デンマーク、著述家、グンナー・ニボリ・イェンセン氏。十一月 タイ、陸軍テレビ放送局渉外部長、パタナ・パヤカニティ氏夫妻。タイ、「世界日報」社長兼編集長、饒迪華氏ほか三名。フランス「フランス・スワール」紙外信部長、モーリス・ドラリュー氏。十二月 フィリピン、情報大臣レオンシオ・R・パルンガオ二世氏ほか六名。
昭和三十九年
一月 英国、「デイリー・メール」紙記者ヴィンセント・マルクローン氏。二月 アメリカ、「ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン・シンジケート」コラムニスト、ロスコー・ドラモンド氏夫妻。デンマーク、「ベルリンスケ・ティデンデ」紙国際問題担当主筆、ベント・サリー氏。ドイツ、「フランクフルター・アルゲマイネ・ツアイトウング」紙論説委員、ハリー・ハム氏。パキスタン、「エコノミック・オブザーバー」誌編集兼発行人、ハッサン・アーマド・ラジ氏。三月 ブラジル「ジョルナル・ド・コメルシオ」紙日曜経済欄主筆、フェルナンド・C・ナバロ氏。ネパール、「ザ・コモナー」紙編集長、ゴパール・D・スレスタ氏。ブラジル、「ディアリオス・ノデイアス」紙記者、ルイス・ウイヅニッツアー氏。英国「ダーラム」大学講師、ルイス・アレン氏。
そのほか、外務省の招待によらないで来日した報道関係者のうち、在外公館を通じての依頼、あるいは本人の直接の依頼により外務省が工場見学、インタヴューなどのあっせん、その他種々の便宜供与を行なったものの数は、昭和三十八年度で約六〇名にのぼった。
海外においては、各在外公館が資料の配布、映画の上映、日本事情に関する照会の処理、講演の実施などにより広報活動を行なっているが、とくに重要な国には順次広報文化センターを設けて広報活動の拡充強化をはかっている。現在、ニューヨーク、ロンドン、バンコック、ジャカルタ、ブェノス・アイレス、ジュネーヴおよびニュー・デリーの七カ所に、このような広報文化センターを設置しているが、昭和三十九年度半ばにはカイロに広報文化センターが新設されることになっている。
観光の振興は、国際収支の観点からますます重要となっている。このため在外公館において観光資料の配布、観光映画の上映を通じて観光日本の宣伝に努めている。特に、在仏大使館、在ニューヨーク総領事館など、観光宣伝に重要と考えられる在外公館(現在一〇公館)には、日本紹介デスクをおき、観光関係照会の処理、情報資料の提供などを行なっている。また、観光関係各省と緊密な連絡を保ちつつ、本邦関係機関の海外事務所による観光宣伝活動にも十分協力している。
諸外国で発行され、使用されている教科書ならびに著名な百科辞典の日本に関する誤った記述を是正することは、次代の諸国民の正しい対日理解を育てる意味できわめて重要である。この目的のために設立された財団法人国際教育情報センターと緊密な連絡を保ちつつ、影響力の大きいとみられる国から順次重点的に、在外公館を通じ、資料、写真等を提供して、誤った記述を是正するよう呼びかけている。
以上のほか、わが国の実情に関する照会の処理(外務省に直接照会してくる向も月一〇〇件以上を数える)ならびにNHKの行なう国際放送に関する照会および中南米諸国との放送番組交換の仲介なども行なっている。