経済に関する諸国際機関との関係

 

 

OECD(経済協力開発機構)との関係

 

1 加盟招請以後最近までの日本OECD問題の主要動向

(1) わが国がOECD条約に加盟するために必要な国会の承認

わが国がOECD条約に加盟するために必要な国会の承認は四月二十七日に行なわれ、翌二十八日パリにおいて加入書をフランス政府に寄托し、ここに日本はOECDの正式加盟国となったのである。加盟交渉開始当時は、昨年十一月下旬に開催された閣僚理事会に間に合うよう加盟することが一応の目途であったが、わが国の総選挙等の重要な国内事情により若干遅れを来たし、昨年十二月政府は国会に対し本件に関する審議を求め、その後本年一月二十日に再開された通常国会において審議に付せられたものである。なお六月一日に至りパリに森大使を長とする経済協力開発機構日本政府代表部が設置された。六月に入って一日より七日の間にわたりクリステンセン事務総長が新加盟国儀礼訪問をかね政府の賓客として訪日したが、右を機としてわが国のOECD活動参加は急速に増大することとなった。

(たとえば六月十六日の対日経済年次検討、同十八-十九日の経済政策委員会、七月十六日-十七日の貿易委員会等)

以下は、加盟招請後正式加盟に到るまでの日本とOECD関係の主要動向である。

(2) OECDとの協力状況(オブザーバー派遣その他)

一九六三年七月二十六日にOECD理事会はわが国の加盟を招請し、同時に日本・OECD間に了解覚書が署名された,その後、OECD側は、わが方の国会手続の完了を期待ししつつ、わが国のOECD活動への参加につき当初は積極的な態度を示し、後述の諸会議等に対するオブザーバーの派遣等を求め、わが方もこれに応じて次のとおりその殆んどの会議に出席した(従来より参加しているDAC及び開発センター関係の会議については省略する)。

(a) 科学問題大臣会議-一九六三年七月三十日における理事会で招請し、十月三日及び四日に開催、佐藤科学技術庁長官が出席した。

(b) 第二回、第三回及び、第四回造船業特別作業部会-一九六三年九月二十五、六の両日、十一月十九日-一九六四年四月七日-九日それぞれ開催、藤野運輸省船舶局長等が出席した(五月の第一回会議にも参加している。)

(c) 財政委員会-一九六三年九月二十四日から三日間にわたって開催された会議に大蔵省および在仏大使館の担当官が出席した(従来より、低開発国に対する投資促進のための税制上の優遇措置の問題が討議される場合にのみ、DACとの関連において出席してきたものであるが、今回は輸出入に関する国内税制上の調整措置および国際的資本移動に対する税制上の障害除去等の検討にも参加した。)

(d) 非鉄金属特別作業部会-一九六三年七月三十日の理事会において、従来より準備してきた非鉄金属および同屑の世界貿易に関する審議は、取敢えず日本の加盟実現が予想される一九六四年まで延期すること、他方右時期までに日本の加盟が不可能な場合には、日本側オブザーバーの招請につき再検討する旨を決定した。

(e) 海運特別会議-一九六四年二月十二日から三日間にわたる海運特別委員会で、米国海事委員会の文書提出要求が審議され、わが国もこれに参加した。

(f) 分担金問題-一九六四年度以降のOECD予算分担率算定方式に関しては、理事会の第三作業部会において策定作業がなされ、わが方代表も本件会議に参加してきたが、一九六三年十二月十日の理事会でわが国代表出席の下に新分担率策定方法が決定された。

(g) OECD側統計専門家シーゲル部長等の来日-一九六三年十月八日から約二週間にわたり、OECD事務局のシーゲル統計および国民経済計算部長他一名が来日し、人口・労働・農業・工業・外国貿易・国内取引・財政・金融等諸般の統計部門につき、わが国制度の現状およびわが方が今後統計報告を行なう場合の問題点を研究するとともに、OECDの統計活動全般にわたる説明を行ない、またわが国と機構との間における統計資料の迅速な交換のルート樹立を打ち合わせ、加盟実現後の円滑な相互協力に備えた。

(h) OECDフェイ経済部長等の来日-わが国のOECD加盟後、本年六月ごろ、対日年次経済検討が行なわれる予定であるが、これが下準備のため、三月十五日にOECD経済統計局フェイ経済部長とカストリアデス国別研究第一課長が来日し、一週間にわたり政府当局と種々打合せ協議を行なうとともに、BIAC日本委員会等とも懇談した。

(3) 日本側による了解堂書の実施準備

(a) 了解覚書付属書Bの第三部で言及した将来の自由化意図について、政府はこれを実現すべく準備を進め、一九六三年十月二十五日には円べース投資の実態調査を開始し、さらに貿易外取引の管理に関する大蔵省令等の改正を十一月二十日付をもって実施し、直接投資・海運・技術援助等OECD両自由化規約の受諾に関し、わが国が留保した若干項目を除き、OECD加盟準備の一環としての貿易外取引の自由化を行なう体制はほぼ完成した(なお、両自由化規約の各項日毎にわが国の新制度と将来の方針につき検討する作業を関係省庁間で行ない、その結果十二月二日-五日の貿易外取引委員会の会談に際しOECD事務局に通報した。)

(b) また、加盟招請以後にOECD理事会が採択した決定・決議・勧告等は、了解覚書第五条の規定に従い逐次わが方に通報されてきたが、おのおのにつき関係各省庁で検討の結果、諾否を先方に通知している。

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2 わが国のOECD加盟とその意義

(1) OECDは、世界的に重要な影響を及ぼすようなあらゆる経済問題を検討の対象とする機関であり、その検討は場合によっては国連、ガット(関税貿易一般協定)、IMF(国際通貨基金)その他の国際会議の討議に先立ち、あらかじめ先進工業国の間だけで意見の交換・調整をはかるという形で行なわれる。

したがって、現在解放経済体制への対処に努めつつあるわが国がこれに参加することは、これら重要国際経済問題の多角的解決に際して、わが国独自の事情をより良く認識させ、わが国の利益をより積極的に主張し得る場を確保するという点でその意義は大きい。

また、OECDは年平均四・一パーセントの成長率を目標とする決議を採択し、自由世界がその繁栄を維持発展させる能力を有することを示そうとしているが、年間五〇〇億ドル以上の国民総生産と、高い経済成長率を保持する日本を加えてこそ、OECDは初めて真に自由世界を代表し得ることになるわけである。

以上のような自由諸国間の経済面での協力の促進は、当然のことながら、政治面での一層の協調団結をもたらすものと思われ、OECD加盟によって、米加両国とともに、欧州諸国とも密接な協力関係を樹立する場を持つこととなり、わが国の国際的地位はさらに強固なものとなろう。

(2) わが国のOECD加盟に伴なう具体的利益は次の通りである。

第一は「経済政策委員会の調整」による利益である。OECDは当初より高度経済成長の達成を極めて重視し、一九六一年の第一回閣僚理事会において決定せられた年平均四・一パーセントの成長率を目標として、従来より諸方策を検討していたが、その過程において作成される各国の物価政策、農業の高度化、経常的貿易外取引および資本移動と経済成長との関連性等に関する資料、ならびにこれに基づく十分な討議は、わが国が国際的動向を勘案しつつ適時適切な施策を講ずるために重要である。

第二は「国際通貨金融問題の討議」であるが、OECD経済政策委員会第三作業部会には国際金融に決定的な影響力を有する九カ国が参加して、世界主要各国の国際収支状況を調査し、短期資本移動に伴なう撹乱的影響を排除するための政策について協議するほか、長期的視野からは各国金融当局間の各種取決めや国際通貨制度の改善強化策を討議する等、国際収支の均衡維持および国際金融機構の安定のための対策をIMF・BIS等と協調しながら検討している。

第三に挙げるべきは、「重要国際経済問題の事前協議」であって、一九六四年は特に三月下旬から秋にかけ、相次いで開催される予定の国連貿易開発会議およびガット関税一括引下げ交渉等に備え、OECD諸国間では詳細な事前打合せが行なわれているが、わが国がOECDに加盟すれば、これら討議に参加の上、先進諸国の情勢を知悉し、わが国の利益を擁護することができる。

この他、OECDは貿易・海運・工業・科学・農業・漁業・教育・税制等多くの分野にわたって活発な活動を行なっているので、他の先進諸国の業界の動向と各国政府のこれに対する施策を把握する上に有益である。

なお、わが国にとって特に関心の深い貿易および海運の面については、貿易委員会に積極的に参加することにより、ガットまたは二国間交渉におけると同様の努力を通じて、欧州諸国の対日差別待遇の改善に資することができる。また、OECD海運委員会においては、米国の海運政策の審議等、加盟各国が海運自由の原則を実施する上で遭遇している諸問題に関し、率直な討議が行なわれており、わが国も正式加盟後は、なお一層かかる場を通じて協力を進めてゆくことができると同時に、わが国の立場を明らかにすることもできるのである。

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ガット(関税および貿易に関する一般協定)との関係

 

1 ガット大臣会議

ガット大臣会議は、一九六三年五月十六日から二十一日までジュネーヴで開催され、ガット加盟国、仮加入国、特別参加国など五十余カ国から閣僚ないし閣僚級の代表が出席したほか、オブザーバーを含めると、その参加国は八五カ国にのぼった。(わが国代表は宮沢経企庁長官)

今回の大臣会議では、関税一括引下げ問題、農産物貿易拡大問題、後進国貿易促進問題の三つが議題とされたが、このうち農産物の問題は関税一括引下げ問題に関連して討議された。

(1) 関税一括引下げ問題

イ 討議の概要

(イ) 引下げ方式

引下げ方式については、一九六二年末以来三回にわたって開かれた作業部会においても、五年間一律五〇%引下げを主張する米国と、関税水準の格差是正を主張するEECとが対立して、検討が行き詰まっていた。

今回の大臣会議でも、米国は、均等一律引下げを交渉の原則とし、関税格差の問題はかかる格差によって貿易がゆがめられる可能性がある場合に限り考慮すれば足りるとの立場に固執し、一方EECは、関税格差を除去して各国の関税水準を平準化することが交渉の原則でなければならないとして鋭く対立した。

かかる状況において、その他の国の発言は少なかったが、わが国は、すべての国が満足し得るような引下げ方式について、双方が妥協に到達するよう協力する用意がある、と述べて注目をひいた。

米国とEECの話合いは最後まで難航したが、シャフナー議長、ウィンダム・ホワイト・ガット事務局長などの斡旋の結果、ようやくEECは均等一律引下げの原則をのみ、他方、米国も大幅な関税格差がある場合には、特別規則に従って引下げを行なうことを原則とすることに同意し、いわば双方の主張をともに原則として併記するという形で妥協が成立した。なお、引下げ幅、例外に関する規則、大幅な関税格差が存するか否かを決める基準およびかかる格差が存する場合の特別規則など具体的問題は、後記ロ(ロ)、の貿易交渉委員会が検討して六三年八月一日までに結論を出すこととされた。

(ロ) 農産物の取扱い

農産物を一括引下げ交渉の対象に含めるべきことについては、それまでの作業部会ですでに合意されており、また農産物の中でも穀物、肉などの特定の商品は、世界商品協定を締結して問題を解決するというアプローチが大多数の支持を得ていた。今回の大臣会議でも英国、カナダ、オーストラリア、ニュー・ジーランド等は、穀物と肉のグループをただちに召集して交渉を開始するよう希望し、大臣会議はこれを認めたほか、酪農品についても同様の理由でグループを新設することを決定した。

また、商品協定による解決に適さない農産物についても、何らかの形で輸入の増大をはかろうというのが、これまでの作業部会における大勢の意見であり、大臣会議は、このための規則および方法について、後記ロ(ロ)、の貿易交渉委員会に検討させ、六三年秋のガット総会までに結論を出すよう要請した。

(ハ) 関税以外の貿易障害の取扱い

本件については、個々の問題についての具体的な発言はみられなかったが、若干の国が関税以外の貿易障害撤廃の重要性をくり返した。ただ、わが国は、多数国による対日差別制限に言及して、かかる差別が撤廃されない限りわが国としては何らかの形で代償を要求する権利があると考える旨述べ、この問題を検討するための作業部会を設置するよう主張した。結局、大臣会議は、貿易交渉委員会に対して、関税以外の貿易障害の取扱いに関する規則およびその方法を検討して、同じく六三年秋のガット総会までに結論を出すよう要請した。

ロ 大臣会議の決議

最終日の二十一日採択された大臣会議の決議は、交渉の原則と今後の手続を次のように規定している。

(イ) 原則

(a) 貿易交渉を一九六四年五月四日からジュネーヴで開始する。

(b) 交渉は農産物を含むすべての産品を対象とする。

(C) 関税のみならず、関税以外の貿易障害についても交渉する。

(d) 関税引下げは実質的な一律引下げを基礎とし、例外は最少限にとどめる。また引下げ幅は均等とするが、大幅な関税格差がある場合には特別規則に従がう。

(e) 他の国に比べ、自国の受ける利益が均衡を失している国は、追加譲許の要求または自国の譲許の調整を行なうことができる。

(f) 一般的な関税水準が明らかに低い国については、相互主義の問題が生じ得る。

(g) 農産物の輸出増大のための合理的な条件が整えられるべきである。

(h) 後進国の輸出に対する障害の軽減にはあらゆる努力を払うものとするが、後進国に対しては相互主義は要求しない。

(ロ) 貿易交渉委員会の設置

今後の作業推進のための中心機関として、新たに「貿易交渉委員会」を設置する。同委員会は、前記(イ)に掲げる諸原則にてらして貿易交渉計画の細目を検討し、とくに引下げ方式については六三年八月一日までに、その他の問題についてはガット第二一回総会までに作業を完了すべきこととする。

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(2) 低開発国貿易促進問題

イ 討議の概要

今回の大臣会議では、六二年十一月のガット貿易拡大第三委員会で低開発国が提案した実行計画(八項目から成り、先進国に対し低開発国産品の輸入制限撤廃や熱帯産品の無税輸入を認めるよう要求したもの)を中心に討議が行なわれ、低開発国側は本大臣会議で実行計画についての具体的結論を出すよう要求した。これに対し、先進国側も米国、英国等は実行計画の妥当性を認めて成果をあげるべきことを主張したが、EEC諸国は、発展段階の遅れている連合諸国を他の低開発国との競争から守る必要があるとの見地から、実行計画を単なる目標としか認めないとの消極的態度を示し、これを全面的に留保した。

なお、わが国は輸入制限の撤廃で少数品目に留保を付したが、低開発国貿易問題の重要性、緊急性を認め、低開発国産品に対する貿易障害の軽減・撤廃に努力する用意があることを明らかにした。

ロ 大臣会議の結論

(イ) 「実行計画」の採択

実行計画については、その受諾がガットや国際商品協定の権利・義務を損なうものではないこと、また低開発国の輸出関心品目の関税引下げの問題はガット貿易交渉(ケネディ・ラウンド)で取扱うこと、との一般的了解のもとに、要旨次のような「実行計画」が採択された。(但しEECは留保したこと前述のとおり)

(a) 第一項 低開発国産品に対する関税障壁や輸入制限を新たに設けないこと。

(b) 第二項 低開発国産品に対する輸入制限を一九六五年末までに廃止すること。(なお、第二項については、前述のとおりわが国は若干品目につき留保した。)

(c) 第三項 熱帯産品の無税輸入を一九六三年末までに実施すること。

(d) 第四項 低開発国の一次産品に対する関税撤廃に同意すること。

(e) 第五項 低開発国産の製品および半製品の関税を三年間に最少限五〇%引下げること。

(f) 第六項 低開発国産品に対する内国税を一九六五年末までに廃止すること。

(g) 第七項 以上の諸措置の実施ぶりを毎年七月にガット事務局に報告すること。

(h) 第八項 低開発国が経済の多角化、輸出の促進等をはかるのを便にするための追加措置を検討すること。

(ロ) 実行委員会等の設置

さらに大臣会議は、前記実行計画の実施、推進に当たるために「実行委員会」を設置し、また、とくに実行計画第八項に関連して、低開発国の特定産品について先進国が低開発国に対し、また低開発国相互間で特恵待遇を与える問題を検討するために「特恵作業部会」を、また低開発国の貿易促進の見地からガットの規定や機構を再検討するために「規定・機構委員会」をそれぞれ設置することに合意した。

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2 対日ガット第三十五条援用問題

英国が一九六三年四月九日、ローデシア・ニアサランドが同年八月二日及びフランスが一九六四年一月十日それぞれ対日ガット第三十五条の援用を撤回したほか、オーストラリア及びベネルックス三国も通商協定改正議定書および貿易取決め改正議定書の発効をまって第三十五条の援用を撤回することを確約しているので、主要貿易国との第三十五条援用問題は概ね解決するに至った。

他方新たにガットに加入する新興独立国が独立時における旧宗主国のガットの権利をそのまま継承した形でわが国に対し第三十五条を援用するほか、スペインも同国のガット加入に際しわが国に対し第三十五条を援用したので、一九六四年二月末現在における対日第三十五条援用国は加盟六十一カ国中三十カ国にのぼっている。

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3 関税一括引下げ交渉(ケネディ・ラウンド)

(1) 経 緯

一九六一年秋に開かれたガット大臣会議では、従来の関税交渉方式がほぼ限界に達し、充分な関税引下げの成果が期待できないことが指摘され、今後世界貿易をさらに飛躍的に拡大するためには、もっと大胆な関税引下げ方式の導入が必要であるとの認識から「関税一括引下げ」の構想が打出された。

かかる気運をうけて六二年秋には米国で画期的ともいえる通商拡大法が制定され、大統領に大幅な関税引下げ権限を付与することによって、米国はガットを通じて関税一括引下げの実現に乗り出す態勢を固めた。

右大臣会議の決議に基づいて、一括引下げ方式の具体的な内容を検討するため、ガットは六二年末から六三年春にかけて三回にわたり「作業部会」を開いたが、この会合を通じて米国とEECの考え方に大きな開きがあることが明らかになった。米国は関税引下げ方式として「五年間五〇%引下げ」を終始主張したのに対し、EECは関税率の高さには国によってかなりの格差が存在している点を強調し、本件交渉では単に関税の引下げのみならず、各国間の関税格差の調整が同時に達成されなければならないとの立場を固執した。

作業部会では、かかる米国とEECの主張が平行線をたどったまま、六三年五月に再び開かれた「ガット大臣会議」に持ち込まれ、ここでようやく米・EEC双方の歩み寄りによって一応の妥協が成立した。(前記1「ガット大臣会議」の項参照)

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(2) 大臣会議以後の動き

六三年五月の大臣会議で、本件交渉の準備に当たる中心機関として設置された「貿易交渉委員会」は、六三年六月に第一回会合を開き、具体的な交渉規則を検討するために問題別に四つの小委員会を設置した。すなわち、関税一括引下げの一般規則および大幅な関税格差が存在する場合の特別規則などを検討する「関税小委員会」、農産物貿易拡大のための規則を検討する「農業委員会」、数量制限など関税以外の貿易障害の取扱い規則を検討する「非関税貿易障害小委員会」、低開発国の本件交渉参加によって生ずる問題を取り扱う「低開発国問題小委農会」がこれである。

また、以上の小委員会のほかに、農産物の中でもとくに「穀物」、「肉」、「酪農品」については、世界商品協定を結んで貿易の拡大をはかることが大臣会議で決議されており、この協定締結交渉を推進するために、それぞれ三つの商品グループが設けられている。

現在までに各小委員会および商品グループで行なわれてきた検討の経緯と現状を概観すれば次のとおりである。

(イ) 関税小委員会

関税小委員会は六三年七月以降数回にわたり会合したが、討議はもっぱら関税格差問題に焦点がしぼられ、とくに、いかなる場合に大幅な関税格差の存在を認めるべきかという"格差の認定基準"をめぐって、米国とEECの意見が対立し、検討が行き詰まっていた。しかし、その後六四年一月の会合でEECから新提案が出され、次いで二月の会合では米国からこれに対する二つの対案が示されており、これら双方の提案をべ-スとして、今後米国・EEC間でいかなる形で妥協が成るかが注目されている。

このように関税格差問題が未だ解決されていないため、関税引下げの一般原則については「五年間五〇%引下げ」が一応作業上の仮定とされているにとどまり、また、例外品目の大きさについても「例外は国家的重要性を有する最少限にとどめる」との大臣会議決議の文言以上に立入った議論は行なわれていない。

(ロ) 農業委員会

農業委員会は六三年十一月、六四年二月の二回にわたり開かれたが、農産物の取扱いに関する基本的なアプローチの方法をめぐって、米国とEECの意見が対立し、討議が難航している。米国は従来から農産物についても工業品と同様の取扱いをすべきであるとの立場を堅持しているのに対し、EECは農産物の特殊性を主張して、農産物は工業品と異なる特別な取扱いを認めるべきであるとの立場に立ち、六四年二月の会合ではこの見地から独自の交渉方式を提案している。

このEECの提案によって、米国とEECの考え方および問題点の所在がほぼ明確になってきており、これを中心に今後さらに具体的な話合いが行なわれるものと思われる。

(ハ) 非関税貿易障害小委員会

非関税貿易障害小委員会は六三年十一月に第一回会合を開いたが、まず各国が交渉の対象としたい各種の貿易障害の内容を具体的に事務局へ通報した上で、次回会合でその取扱い手続を検討することになっている。

なお、わが国は従来から各国の対日差別制限の非を訴えてきたが、この会合でも対日差別の問題を取上げ、これが撤廃されない限り日本としては何らかの形で代償を要求する権利を有する、との考えを明らかにしている。

(ニ) 低開発国問題小委員会

六三年十一月に第一回会合が開かれ、低開発国が本件交渉にできるだけ参加し得るような条件を検討するために、今後も会合をつづける必要があるということが確認された。

(ホ) 商品グループ

現在までに穀物グループは三回、食肉グループは二回にわたり会合を開き、各国の国内支持政策や国際価格水準など商品協定で取り上げる基本的要素について検討が行なわれ、これらの問題点を中心に協定締結の可能性について更に検討がつづけられることになっている。また、酪農品グループも同様の目的で第一回の予備会合を開いている。

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4 低開発国貿易問題

(1) 貿易拡大第三委員会

貿易拡大第三委員会は、一九五八年設立以来、低開発国貿易促進問題を検討している。同委員会は、一九六三年三月二十六日から四月四日まで開かれ、低開発国提案の実行計画(わが外交の近況(第七号)五、ガット1参照)を基礎として低開発国貿易促進問題を討議した。右実行計画につき、英国は原則的賛成を表明し、米国、フランス、カナダ、スウェーデンもおおむね、この英国発言を支持した。また、低開発国側からの提案で、右実行計画第八項として、「ガット締約国は、経済の多角化、輸出力の増強および輸出所得の増大のための低開発国の努力を助成するため、その他の適当な措置を講じること」が付け加えられた。

(イ)実行計画、(ロ)貿易拡大第三委員会の活動範囲の拡大、同委員会検討品目リストの拡大、生産および市場化技術、国際貿易情報センターに関する同委員会報告は、理事会を経て五月のガット大臣会議に提出され、実行計画は、(a)対象品目は当面、貿易拡大第三委員会検討品目とする、(b)実行計画の受諾はガット及び国際商品協定に基づく権利義務を害するものではない、(c)一次産品、低開発国に関心ある半製品、製品の関税引下げに努力し、貿易交渉における譲許表に含める、(d)貿易障害現状維持を順守するが、やむを得ない場合は、関係低開発国との事前協議で現状維持の義務から逸脱できる、という条件付で合意された。ただし、EECは全面的に留保した。わが国は、右計画第二項輸入数量制限撤廃に関し、若干品目につき、その制限撤廃の困難性を指摘した。(1参照)

実行計画実施のため、実行委員会、特恵作業グループ、規定機構委員会が設立されることとなった。

貿易拡大第三委員会は、引き続き低開発国問題について一般的責任を有する機関として貿易問題のみならず、更に広範な問題を討議することとなり、十月の会合で、(イ)同委員会検討の低開発国輸出関心品目の貿易障害撤廃進ちょく状況審査、(ロ)低開発国関心輸出品目追加の検討、(ハ)低開発国開発計画の検討、(ニ)低開発国の輸出所得と輸入需要とのギャップを埋めるための融資問題についてガットの活動分野拡大の検討、(ホ)低開発国の輸出を援助する生産および市場化技術、(ヘ)国際貿易情報センター設立、(ト)低開発国における輸出補助金の採用、について討議した報告を作成した。

右のうち、とくに、(ロ)、(ニ)及び(ヘ)がその後の委員会の検討の中心となり、(ロ)低開発国関心品の追加については、低開発国提案の百数十品目を低開発国間で検討し、米、塩、砂糖、皮革等三十七品目にしぼった。右は、次回会合で検討される。(ニ)低開発国に対する資金援助問題については、アラブ連合が、(a)ガットにおいて先進国が低開発国に資金援助を行なう、(b)貿易保険基金設立、という提案を行ない、低開発国側は、右提案を支持したが、結局、先進国、低開発国から成る専門家グループを設立して、貿易と資金援助との関係に関するガットの役割を検討し、貿易拡大第三委員会に報告させることとなった。また、(ヘ)国際貿易情報センター設立についても、専門家グループを設けて検討し、貿易拡大第三委員会に報告させることとなった。((5)参照)

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(2) 実行委員会

実行委員会は、一九六三年五月のガット大臣会議の結論に基づき、実行計画の実施、推進および大臣会議で合意された諸点の提起、促進および調整にあたるために設立された。構成国は、わが国、米、英、ドイツ、フランス、ブラジル、インド、パキスタン、アラブ連合等三十二カ国でEECも参加する。同委員会の会合は六三年中に二回開かれた。

第一回会合では、(イ)実行計画実施ぶりの報告、(ロ)貿易障害の軽減撤廃以外の輸出促進策、(ハ)今後の作業計画につき討議した。また、ケネディ・ラウンドとの関係については、多くの先進国が一次産品の関税の大幅引下げないし撤廃および貿易拡大第三委員会検討品目は例外品目に含めない意向を表明したことが記録され、右表明を行なっていない国は早急の表明が要請された。更に、同委員会は、作業を促進するため、次の三小委員会を設け、次回会合に報告させることとした。

第一小委員会は、実行計画第一項ー第七項の実施につき実行委員会を補佐する。(わが国参加)

第二小委員会は、実行計画第八項実施のための作業に関し実行委員会を補佐する。

第三小委員会は、実行委員会と他のガット諸機関との連絡およびガット以外の国際機関の作業をフォローする。(わが国参加)

第二回会合では、第三小委員会から関係委員会における実行計画実施の審議状況報告を聴取し、その後各国における実行計画実施の進ちょく状況について討議した。ガット第二十一回総会では、右報告が審議されることとなっている。

第一小委員会の会合は、六三年中に二回開催され、第一回会合では今後の実行計画の実施につき討議し、作業計画として、(イ)事務局が品目別に輸入制限を維持している先進国表を各国に配布する、(ロ)関係先進国につき関係品目の自由化計画(自由化困難な場合はその理由)を詳細に検討し、協議する。(ハ)従来貿易拡大第三委員会で検討された品目に優先順位を付けて当該品目に関し実行計画の実施につき根本的に検討することが合意された。また、第二回会合では、前記(ロ)、(ハ)につき、わが国、オーストリア、デンマーク、スウェーデン、英、米、EEC六カ国の十二カ国と国別協議を行なった。わが国は、自由化の現状を通告したが、茶の関税、コーヒー、ココアの内国税撤廃困難について低開発国は不満を示した。

第二小委員会の会合は、十二月開かれ、貿易拡大第三委員会が実行計画第八項に関する問題について検討した結果を事務局長から聴取し、EECが低開発国の輸出所得の激動を回避するための措置および後進国の輸出所得拡大のため一次産品価格水準引上げ措置を支持するというEEC発言を記録し、更に、貿易構造の変化および後進国からの輸入増加に輸入国の産業を適応させるための援助機関設立を検討する旨合意した。

第三小委員会の会合も、十二月に開かれ、ガットの他の関係機関、特恵作業グループ、規定機構委員会、貿易拡大第三委員会、実行委員会第一、第二小委員会、後進国問題小委員会の実行計画に関する問題の審議状況につき、実行委員会に提出する報告を作成した。

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(3) 特恵作業グループ

特恵作業グループは、一九六三年五月のガット大臣会議で、実行計画第八項に関連し、低開発国の輸出関心のある半製品、製品に対する特恵付与の問題を検討することが合意されて設立されたもので、(イ)特定品目に関し、先進国が低開発国に対し特恵を付与すること、(ロ)特定品目に関し、低開発国が他のすべての低開発国に対し特恵を付与すること、の二つの問題の検討が付託された。構成国は、日本、米、英、ブラジル、ナイジェリア、インド、アラブ連合等二十三カ国である。(なお議長は日本)

同グループの会合は、第一回(十月七日ー十一日)、第二回(十二月十一日ー十八日)、の二回開かれ、(イ)特恵の価値、(ロ)基準と手続、(ハ)性格と大きさ、(ニ)特恵付与対象国、(ホ)特恵付与対象品目、(ヘ)特恵の期間、(ト)第三国の利益、(チ)セーフガード、(リ)特恵付与にともなうガットの規定ないし機構の変更、について討議した。主として付託事項(a)先進国の対低開発国特恵が討議された。

第二回会合では、先進国側で、米国、カナダが特恵の価値を疑問とするという消極的態度を示し、低開発国側から攻撃を受けた。これに対し、EECは、早くから低開発国に対し特恵を与える用意がある旨明らかにした。また、低開発国側でも、比較的工業化が進み、その工業製品に特恵を必要とするインド、アラブ連合、ブラジル等は、特恵付与の対象品目を半製品、製品とし、対象国を全低開発国無差別としようとしており、これに対し、ナイジェリア、ガーナ、ウガンダ等は、一次産品をも対象品目に含め、低開発国の発展段階に応じて特恵に差別を設けるべきことを主張したが、大勢は、半製品、製品に限り、全低開発国無差別適用となっている。

(b)低開発国間特恵については、アラブ連合提案を基礎とした低開発国間打合せ会議議事録要旨は、(イ)特恵供与品目の選択は各低開発国の権利である。(ロ)他の低開発国の国内産業の利益に反するような特恵は期待してはならない、(ハ)本件特恵は品目ごとにきめられるべきである、(ニ)本件特恵マージンは現在一部先進国が低開発国に与えているものより大きくする、(ホ)本件特恵は全低開発国産品に無条件に供与される、(ヘ)本件特恵は低開発国のみに供与される。

第三回会合は、一九六四年二月二十五日から開かれ、ガット第二十一回総会に報告することになっている。

わが国は、低開発国に特恵を与える場合には、(i)あらかじめ対象品目を選定し、(ii)低開発国中でも成長産業品目を除き、(iii)全低開発国に無差別に適用すべきことを主張している。

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(4) 規定機構委員会

規定機構委員会は、前記ガット大臣会議の結論に基づき、低開発国の貿易拡大の観点からガットの条文を検討するために設立されたもので、構成国は、日本、米、英、EEC、アラブ連合、ブラジル、チリ、インド等二十一カ国である。同委員会の会合は第一回(十月十四日ー十八日)、第二回(十二月九日ー十七日)の二回開かれた。

第一回会合では、先進国側は、現行ガット規定はそのままとして低開発国に関する新章を設けることにより問題を解決することを考慮しているように見受けられたが、低開発国側は、現行ガット規定にとらわれず低開発国の貿易拡大の観点からガットの条文を広く審査し、規定の全面的改正を主張して合意に達しなかった。

第二回会合では、あらかじめ事務局がモデル草案を作成し、これを基礎にして討議が行なわれたが、各国から種々修正意見を提出し、特にブラジルは大部分について独自の修正案を提出して検討を要求したが、結局合意には達しなかった。

第三回会合は一九六四年二月二十八日から開かれ、ガット第二十一回総会に報告することとなっている。現在討議の基礎としては、米、インド、アラブ連合、チリ案および前記ブラジル案である。米国案はガット第十八条に低開発国に関する規定を追加しようとするものであるが、先進国の義務についてはできる限り拘束的規定を避けるよう考慮しており、インド案は実行計画の内容ないしそれ以上の義務または右計画に基づき設立された各種委員会、作業部会等で検討中の諸問題を直ちに法文化して拘束的なものにしようとしている。

わが国は、米国案の線で対処する方針である。

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(5) その他の活動

(イ) 熱帯産品特別グループの会合は、一九六三年四月に開かれ、三月に開かれたサブ・グループの報告(わが外交の近況(第七号)五、ガット7(2)参照)を審議してガット大臣会議に対する勧告を作成した。右勧告は、熱帯産品(コーヒー、ココア、茶、採油用種および植物油、熱帯性木材)について(a)一般的結論および(b)個々の産品に関する結論で、(a)は、(i)熱帯産品無税輸入原則の承認、(ii)価格不安定と所得不足の生産国にとっての重要性、(iii)現存貿易障害の現状維持、(iv)財政関税、内国税廃止促進の必要措置、(v)熱帯産品貿易の障害および消費抑制除去に必要な早期措置が採られない場合には貿易交渉の一環としての処理の決定、(b)は、茶および熱帯性木材については一九六三年末までの関税撤廃、コーヒーについては、国際コーヒー協定の効果的適用の意思を確認し、価格の適正レベルでの安定および消費拡大を図るべきことを確認すること。ココアについては、(i)価格安定、生産国の輸出所得増大を目的とする国際協定作成を承認し、すみやかに交渉すること、(ii)内国税、非関税障壁の一九六三年末までの撤廃、(iii)ココア協定に関連して関税撤廃の達成。バナナについては、FAOと協力して更に研究することの必要を認め大臣会議で消費国の消費増大の可能性を検討すること。採油用種及び植物油については、更に研究が必要であることを認め、(i)貿易交渉および国内農産物価格および生産政策に関する国際的討議の対象とすること、(ii)各国が農業政策樹立に当り本産品輸出が貿易障壁で妨げられない点に低開発国が特別の重要性を置いていることを考慮することとなっている。ただし、EEC及びその連合諸国は、茶と熱帯性木材について合意したのみで、他についてはすべて留保した。

右勧告は、理事会を経てガット大臣会議で若干修正されただけで合意された。ただし、EEC及び連合諸国は茶と熱帯性木材以外については留保した。

なお同グループは六四年二月会合を開き、六三年の国連ココア会議が失敗したこともあり主としてココアについて討議した。同会合において後進国側はココア会議失敗の原因を、先進国間の意見の対立にありとしたのに対し、先進国側は生産国と消費国の根本的立場の相違にありとした。ナイジェリアは採油用種および植物油に特恵が考慮されることを要望し、記録にとどめられた。

(ロ) 資金援助問題に関する専門家グループ((1)参照)の会合は、六四年一月開催された。構成国は、先進国側から米、英、EEC及び日本、低開発国側からアルゼンティン、アラブ連合、ガーナ及びインドで、国連、IMF、世銀およびOECD代表も招待された。

この会合では、アラブ連合提案を基礎として討議されたが、右提案中(i)貿易保険基金、(ii)補償融資計画および(iii)国際借款団につき、米、英、EEC、世銀から批判的発言が行なわれ、特に(i)、(ii)については国連貿易開発会議で取り上げられることになっているので、今回の短期間会合では討議からはずされた。

ガットの果すべき役割についての討議で、ガットは借款機関と緊密な連絡をとりつつも、役割および責任は貿易にあり、長期的観点からは貿易が資金援助より重要であるとの空気が強かった。

(ハ) 国際貿易情報センターに関する専門家グループ((1)参照)の会合は、六四年二月に開かれ、(a)最も効果的な設立および運営の方法、(b)貿易情報センターが最初に行なうべき仕事、(c)設立および運営に要する資金の算定について討議した。ブラジル、カナダ、ドイツ、イタリア、オランダ、スウェーデン、英、米からは専門家が出席した。わが国はオブザーバーとして参加した。

本センター設立が低開発国にとって有用であるという点につき合意された後、同センターは情報サービスに加えて、貿易促進のための助言サービスも行なうべきことが認められた。ただその規模は漸次拡大されることとなり、とりあえず次の機能をもって五月に発足し、経験と各国からの示唆により更に具体的サービスの方法と方向を検討するため、発足半年後再度会合を開くことが合意された。

(i)本センターはクリアリング・ハウスとして行動する、(ii)ドキュメント・センターとして貿易拡大第三委員会等の関係資料を収集しそのリストを定期的にサーキュレートする、(iii)コレスポンデンス・アンサーリング・サービスとして各国の貿易障害規則等に関する質問に対し情報を提供する、(iv)一九五九年以来休刊の国際貿易ニュース・ブレティンをとりあえず半月刊する。

このほか、(i)低開発国の輸出促進に関する技術修得のためのトレーニング方法についての研究、(ii)各国政府は本センターとの連絡担当官を指名すべきことという提案のセンターにおける検討の二点も合意された。

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5 綿製品貿易問題

(1) 綿製品貿易の秩序ある拡大と、市場かく乱防止を目的とするガット綿製品長期取決めは、一九六二年十月一日より発効している(発効までの経緯については「わが外交の近況」第七号二五三頁以降参照)。右取決めには、一九六四年二月末現在、つぎの二五カ国が加入している。

日本、米国、カナダ、英国(香港を含む)、フランス、西独、イタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ、オーストリア、スウェーデン、ノールウェー、デンマーク、インド、パキスタン、ポルトガル、スペイン、イスラエル、

アラブ連合、メキシコ、オーストラリア、コロンビア、ジャマイカ、中華民国。

(2) 本取決めをめぐる一九六三年中の動きとしてあげられるものは、同取決め第八条の規定にもとづく「綿製品委員会」の第一回会合が一九六三年十二月二日より六日まで、ジュネーヴにおいて開催されたことである(右委員会取決め全参加国の代表により構成)。第八条は、「綿製品委員会」は、取決めの運用ぶりをレヴューするために、一年一回会合し、結果をガット総会に報告することとなっている。

右委員会では、綿製品長期取決め初年度の運用ぶりのレヴューの他に、綿製品貿易の構造および長期的展望、取決めにもとづく各種通報義務の履行の問題が討議された。

(イ) 運用ぶりのレヴュー

ここでいちばん問題となったのは、綿製品輸入国、とくにその大宗たる米国の木取決めの運用ぶりについてであった。わが国も、本取決めが運用宜しきを得れば、良い取決めであることを認める一方、米国の綿製品輸入による市場攪乱の認定の仕方、綿製品の定義、規制枠の定め方につき若干の不満点を指摘した。これらの諸点は、インド、パキスタン、香港、ジャマイカ等の綿製品輸出低開発国も同様に指摘したところであるが、これに対し、米国は、最近、低開発国からの対米綿製品輸入が著増し、米国綿業が困難に当面している事実に言及した。

(ロ) その他の議題について、綿製品貿易の構造の問題に関連し、わが国は、その国内綿業の調整促進に努めており、紡機の四〇パーセントを封緘しており、おそらく、その大部分は廃棄されることが予想されることに言及し、日本の綿業調整推進のためにも、他の先進輸入国側が日本産の高級品に対し、もっと市場を開放すべきことを強調した。この点に関連し、米国、EECが自国の綿業の産業調整について比較的消極的であることにつき、低開発国側より批判的な発言がなされた。

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6 輸出補助金に関するA宣言の受諾

三月三十一日輸出所得控除制度の廃止に伴い、わが国は「ガット第十六条の規定を実施する宣言」(二次産品に対する輸出補助金を廃止する宣言でA宣言とよばれている)を受諾した。

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IMF(国際通貨基金)との関係

 

 一九六三年度のIMF対日年次協議とわが国の八条国移行問題

一九六三年度のIMF対日年次協議は、一九六三年十一月十一日から同二十二日まで東京で行なわれた。右協議にはIMF側からフリードマン為替制限局長ほか三名が、日本側から鈴木大蔵省財務調査官ほか外務、大蔵、通産、経企、農林、運輸、労働、日銀の各関係者が出席し、鈴木理事がオブザーバーとして参加した。

今回の対日協議はIMF第十四条に基づく最後の協議であるとともに、わが国のIMF八条国移行のための討議も並行して行なわれたが、その際IMF側の指摘せる主要問題点としては次のようなものがあった。

第一には、わが国が国内経済の成長をはかりつつ、国際収支の均衡を維持することは、国際的な見地からも重要であり、このためには財政金融政策と物価賃金政策の適切な運用が大切である。

第二には、経常取引、特に貿易外収支の赤字は、できるだけ早く貿易収支を黒字にすることによって解決することが望ましく、また八条国移行後は円に対する信用を守るため、日本国政府としては国際収支危機の発生前に適切な措置をとることが一層重要である。

第三には、日本がこれまで輸入自由化に際して示してきた努力、および一九六四年中に更に自由化を進める予定である、との確約を多とする。他方、貿易外取引、とりわけ観光旅行に対する制限の緩和は歓迎すべきことではあるが、今後更に自由化を進めることが日本の八条国移行に際して望ましい。

これに対し、わが方は今回の協議において外貨予算制度をできるだけすみやかに、遅くとも八条国移行までに廃止する旨明らかにするとともに、日韓オープン勘定についても、わが方としてはできるだけ早く現金決済に移す方針であるが、先方の事情もあり一方的に廃止し得ない旨説明した。

ただ、懸案の観光旅行の自由化については、日本側が社会的観点からも、また国際収支上の理由からも、一人年一回五百ドルの基本線をくづすことは難しい旨強調したのに対し、IMF側はこのような基礎割当額を設けることは経常取引に対する制限をなすものであり、またわが国が為替制限によらずしてこうした問題に対処し得ることが八条国移行に際して重要であると反論し、結局この問題は今後の課題として残されたまま、今回の対日協議は終了した。

その後、わが方は関係各省間でわが国の八条国移行問題につき協議した結果、昨年二月六日のIMF理事会の決定を受入れることとし、本年二月十七日所要の国内手続を経て田中大蔵大臣(わが方IMF総務)よりIMF専務理事に対し、「日本は一九六四年四月一日からIMF協定第八条第二、三および四項の義務を受諾する」旨正式に通告した。その結果、わが国のIMF八条国移行問題は本年三月十一日のIMF理事会で審議の上、正式に承認された。なお、観光旅行に対する制限および日韓オープン勘定の存続についてはIMFにより特別承認された。

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商品問題に関する国際協調の動き

 

1 国連砂糖会議

一九六三年七月三日および四日の両日ロンドンで国連砂糖会議が開催されたが、同会議は「一九五八年の国際砂糖協定」の一部規定を二年間延長適用し、その間に新砂糖協定の締結作業を促進する趣旨の議定書を採択した。

この議定書は、一九五八年の国際砂糖協定の中間改正が、加盟輸出国に対する輸出割当をめぐって合意に達しなかつたために、その善後策としてとられたものであるが、同議定書により適用停止になつた規定は輸出割当等価格安定に関する経済条項(第三条(2)及び(3)、第七条ー第二五条、第四四条(4)及び(7))であり、その他の規定(いわゆる組織条項)はそのまま二年間継続適用されることになつている。なお、この議定書は、一九六四年一月一日に四十四カ国(輸入国十一カ国、輸出国三十三カ国)の加盟を得て発効しており、新らしい国際砂糖協定の準備作業もすでに進められている。

わが国は、米、英につぐ砂糖の大輸入国として、一九五四年に発効した戦後最初の国際砂糖協定に加盟して以来終始この協定による活動に積極的に参加してきたが、今後とも国際糖価安定のための国際的措置に協力するため、この議定書を受諾している。

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2 一九六三年の国際連合ココア会議

ココアの価格安定等を目的とする国際ココア協定を作成するため、国連事務総長の招請による国際連合ココア会議が一九六三年九月二十六日からジュネーブで開催された。同会議には、わが国を含む主要消費国十二カ国、主要生産国二十一カ国三十三カ国が参加した。会議は、FAOのココア研究部会の起草による協定案に基づいて行なわれたが、審議の過程において価格問題等主要事項について、生産国と消費国の見解に根本的な相違があることが判明し、審議を継続しても妥結に至る見込がないため、十月二十四日一旦会議を中断し、今後事態の推移によつて双方の見解が近接した場合に再開することを決議して散会した。

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3 国際綿花諮問委員会第二十二回総会

一九六三年四月二十九日から五月八日まで、国際綿花諮問委員会第二十二回総会はインドが主催国となってバンガロールで開催され、四十カ国の代表とオブザーバーが参加した。わが国からは在インド服部公使を代表として七名から成る代表団が出席した。

会議は、世界の綿花事情、綿花生産・消費、価格等の問題を検討した。

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4 一九六二年の国際コーヒー協定への参加

一九六二年九月二十八日成立した国際コーヒー協定(わが国は同日署名した。)に対し、わが国はこの協定が多数のコーヒー生産国の経済発展に資する重要性にかんがみ、一九六三年五月九日、閣議決定に基づき、国会の承認を条件としてこの協定を受諾するよう努力する旨の通告を行ない、同協定に暫定的に参加した。同協定は、七月一日所要の条件を満たして暫定的に効力を発生し、今後五カ年にわたって世界におけるコーヒーの需給均衡および価格の安定を図る国際協力の第一歩を踏出すこととなった。

七月二十九日からロンドンで開催された第一回国際コーヒー理事会には、わが方代表も民間業界顧問とともに出席した。コーヒーに関してはその消費が少ないわが国ではあるが、その市場の将来の伸張に対する期待も大きく、わが国のこの協定への積極的参加は、多数の生産国より好感をもって迎えられている。なお、協定は十二月二十七日確定発効の条件を満たしたが、わが国は第四十六回通常国会において加入の承認を得たので、本年四月六日に加入書を国際連合事務総長に寄託し、同日より正式の加盟国となった。

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