中近東諸国
1 中近東諸国との貿易の現状(トルコ・北アフリカ諸国を含む)
一九六三年のわが国の対中近東輸出は一九六二年の不振から漸く立直り、前年に比し一七・七%増加して二億五、〇六七万ドル(通関統計)となった。これはわが国総輸出の約四・六%に当っている。
対中近東輸出が回復したのは一般にこの地域の農業生産が天候にめぐまれて近年の継続的な不作から立直ったこと、産油国の石油生産が前年比八・五%程度伸びたため石油収入が相変らず順調に増加していること等を背景として、わが国業界の輸出努力が実を結んでいったことが挙げられる。
しかし国別にみると必ずしも一様に増加しているわけではなく、
(1) 本地域最大の市場であるイランの対日輸入制限が、一九六三年一月において従来の数量制限から輸入特別税の形にかわったことにより、同国に対する輸出がかなりの回復を示したこと、
(2) 本地域最大の資本財輸出市場であるアラブ連合に対して資本財の輸出が伸びたこと、また、
(3) とくに従来わが国にとって比較的小さな市場であったレバノン、イスラエル、リビア等に対する輸出が前年比五〇%程度増加していること、
が注目される。
一方、一時わが国の化繊の有力な市場であったイラクに対する輸出が、対日輸入制限と政情不安定に起因する需要減退のため、減少しているのを始め、モロッコ、ジョルダン等においては、わが国の輸出が減少している。
輸入についてはわが国の一九六三年の輸入額は七億九、四七九万ドル(通関統計)で前年に比し約三〇%の大幅な増加となった。これは輸入額の九三%を占める石油類の輸入がわが国のエネルギー需要の変化、生産活動の上昇を反映して七億四、一七一万ドルと前年比三一%の著しい増加となったことが主因であるが、石油以外の品目の輸入も、アラブ連合およびスーダンからの棉花輸入増加を中心として、前年より一、二〇〇万ドル程度増加し、五、三〇八万ドルに達している。
このように石油類を含むわが国の対中近東貿易は約五億四、四〇〇万ドルのわが国の大幅な入超となっている。しかし石油類は国際石油会社によって開発されておりイラン、イラク等の産油国はこの輸出を通常の貿易管理の枠外にあるとして輸出に算入せず、わが国が石油以外の一次産品の買付について、欧米諸国に比べ不十分であることを理由として対日輸入制限を実施している。中近東貿易の最大の課題は、依然たるこのような対日輸入制限を撤廃させ、貿易関係を安定化することであって、このため、一次産品の買付を促進することが必要とされる。
これについては政府としても常に業界の協力のもとに在外公館あるいは使節団の派遣を通じ、これら一次産品の生産、貿易の実情を明かにし、関係業界の買付に対する関心を高めることに努める等、一次産品の買付増大をはかっている。
次に従来わが国輸出の大宗をなしていた繊維を中心とする軽工業品・消費財の輸出が、現地における自給度の向上と国産品保護のための諸措置および新たに進出し始めた新興国の製品との競争等によって一応限界に来たとみられるので、輸出品目の高度化、特にこれら諸国の経済開発にともない需要の見込まれる資本財の輸出に努めることが必要であると考えられる。このため政府は各国の開発計画とその実施状況を調査し、これに対するわが国業界参加の便を図り、さらに入札等に際しては側面的な援助を行なっている。
最後にアラブ諸国のイスラエル・ボイコット活動が最近再び活発化し、アラブ諸国はイスラエルと取引関係があると推定された相当数の会社をボイコット・リストに掲上し、これとの取引を禁止すると措置をとっている。政府としては本邦会社が不測の損害を蒙らないよう、業界の注意を喚起するとともに、その利益が不当におかされないよう、個々の案件に応じて関係アラブ諸国政府と接触を行なっている。
レバノンは従来わが国の商品五四品目に対し、普通税率の二倍に達する差別関税を適用していたが、わが国より再三撤廃方強く要請を続けた結果、一九六三年七月二十四日、繊維品を除く十九品目について差別関税を撤廃し、普通税率を適用することに決定した。
今回の措置から繊維品が除外されたのは、現在レバノンの国内繊維産業が、共産圏諸国からの安価な輸入繊維品に押されて不況に陥り、その救済のため政府が関税の引上げを検討中であるため撤廃を一時保留したもので、レバノン政府当局は、将来繊維品関税の引上げが決定すれば、対日差別関税も同時に撤廃されると言明している。
なお差別関税撤廃品目は、ゴム製手袋、プラスチック製旅行鞄、合板、ゴム靴底、傘、ガラス製照明器具、鋳鉄管、鉄鋼管、鉄鋼管の継手、金網類、石油コンロのバーナー、金属製照明器具、バックルおよび留め金類、エレベーター、電気洗濯機、蛇口およびコック類、電球類、ブラシおよび筆、ゴム風船、等である。今回の措置も一因となって、わが国の対レバノン輸出額は、一九六二年の九九〇万ドルから、一九六三年には一、四七〇万ドルと増大した。
わが国とテュニジアとの貿易取決めは、一九六〇年三月三日に調印され、同年四月一日発効したが、テュニジア政府は、同取決め第六条の規定に基づき、取決め実施により生ずる問題検討のため、両国間の混合委員会開催を申し入れて来たので、わが方もこれに同意し、昨年七月一日より七月三十一日まで、ローマにおいて混合委員会が開催された。
同委員会において、過去三年間における両国の貿易実績検討の結果、わが国の輸出超過の傾向が認められたので、テュニジア側は貿易バランス均衡のため、同国産品とくに塩の買付増大を要望した。また両国代表よりそれぞれの国の輸入制度について説明を行なった。
更に両国間の貿易関係増大のため、両国輸出入業者の密接な接触保持が重要であることに意見が一致し、テュニジア側は貿易使節団派遣の意向を表明したので、わが方はこれを歓迎する旨のべた。