ラテン・アメリカ諸国
一九六三年におけるラテン・アメリカ経済を概観すると、一般に前年に比し工業生産は上向いているものの、農業生産が期待されたほどには伸びず、全体として経済活動は停滞の域を完全に脱しきれず、国際収支も依然軟調であった。
すなわち、メキシコ及び中米諸国は、それぞれLAFTA及び中米共同市場の進展に伴い域内輸出の伸びが顕著であり、これに刺激された製造工業の設備新設、拡張にかなりの活況を示した。カリブ海諸国は、砂糖、コーヒーに依存するモノカルチュアを脱しきれず、依然経済が伸び悩んだ。アンデス諸国は特に、工業化、産業多角化を促進した結果、資本財輸入が激増したが、鉱産物輸出も好調だったので、国際収支は悪化を免れた。ブラジルにおいては、工業化のテンポが若干ゆるみ、国際収支改善及びインフレ収束に種々の方策を図ったが、情勢は悪化を続け、これが一九六四年四月の政変の一つの原因となったとみられている。アルゼンティンは、農産物輸出の好況が数年ぶりに国際収支の堅調をもたらし、イリア新政権の下に経済は立直りの兆候をみせ、対外信用の回復とともに外国投資の動きが活発化し、外国系石油資本との契約破棄問題も一まず収束されたことが情勢に明るさを加えている。
ラ米諸国の政情は全般的にみて安定の方向に向い国内経済状勢の好転、現実的な経済政策の推進に伴い、わが国の貿易・経済協力にとり、好ましい環境が徐々に整備されつつあるものとみられる。ただし、ブラジルのコーヒー、アルゼンティンの羊毛の如く市況の堅調に伴い交易条件がかなり改善されたものもあるが、全般的に見ればラ米の主要産品である一次産品の交易条件の好転は早急には期待し難く、各国の国際収支の大幅改善にはなお多くの困難があると思われる。現在ラテン・アメリカ諸国は、わが国に対し依然無差別の通商政策をとっているが、コスタ・リカ、コロンビア、ジャマイカ等の対日入超国においてはわが国の一次産品買付けが少ないことを不満としてその買付けを強く要望している。
ラテン・アメリカ諸国とわが国との貿易の現状を見ると、わが国のラテン・アメリカ諸国に対する輸出は一九六二年以降停滞を示している(一九六一、六二及び六三年につき毎年三億二、九〇〇万ドル)のに対し、輸入は増加傾向にあり、(前記三年につき、それぞれ四億七、八○○万ドル、四億七、一〇〇万ドル及び五億五、六〇〇万ドル)、入超額は年々増大し、六三年には二億二、七〇〇万ドルに達した。
主要品目についてみると、輸入については中米、メキシコの綿花、ペルー、チリの鉄、銅鉱石等が大きく、食品ではエクアドルのバナナが増加している。輸出については、鉄鋼製品、機械等のいわゆる重工業製品が従来の輸出の大宗たる繊維製品に並んで増加してきている。また地域的に見ると、一九六二年以降、中米・カリブ海諸国への輸出が好調である。
前述のような一九六三年におけるわが国のラ米諸国に対する入超幅の増大は、わが国工業発展に伴い同地域からの原材料輸入が急増した反面、これに見合うだけの輸出がなされなかったことを理由としている。そこで、わが国の対ラテン・アメリカ輸出を阻害する要因を考えると、第一に、ブラジル、アルゼンティン、チリ、コロンビア、ペルー等多くの国で、新興の国内産業の保護と外貨収支の改善の両面から、関税引上げ、輸入ライセンス制の拡大、為替管理の強化等が行なわれたこと、第二にLAFTA、中米共同市場など地域的な経済の結びつきが強化されて域内産品と競合する品目については条件がますます厳しくなりつつあること等があげられる。この他、特にわが国が輸出競争上欧米に比して著しく不利な諸点としては、同地域が伝統的な欧米の市場で、その結びつきが極めて根強く、取引系列がほぼ確立されていること、各国とも外貨事情が悪く、大口商談についての延べ払い要求に関して長期低利な欧米の信用供与条件に対抗するのは容易でないこと等があげられる。