北 米 諸 国

 

1 米国との貿易の現状

一九六三年におけるわが国の対米貿易は、為替ベースで、輸出が前年比七パーセント増の一五億九、九〇〇万ドル(通関ベースでは一五億六〇〇万ドル)と戦後最高を記録し、輸入も前年比一七パーセント増の一九億一、三〇〇万ドル(通関ベースでは二〇億七、八〇〇万ドル)と過去の記録である六一年の一九億七、八〇〇万ドルに次ぐ高水準を示した。米国経済の繁栄期にあって対米輸出が六二年に比べ七パーセントの増加にとどまったのは、すでに六二年の実績が一四億九、〇〇〇万ドルと前年を三二パーセントも上回る成績を示したからでもある。

六三年の米国に対する輸出入がわが国の総輸出入に占める割合は、輸出が六二年の三二パーセントから三〇パーセントへ、また輸入が六二年の三六パーセントから三四パーセントへそれぞれ減少した。

商品別にみると、輸出では水産品および繊維品が前年に比べ若干減少したほかは、各商品とも増加または横ばいを示し、なかでも鉄銅(前年比五六パーセント増、通関ベース)、自動車(前年比八四パーセント増)、テープレコーダー(前年比四五パーセント増)等の伸長が著るしく、また輸入では鉱物性燃料を除き各商品とも増加し、とくに小麦、大豆、木材、鉄鉱石、機械類の増加が顕著であった。

今後の対米貿易の問題としては、対米輸出が増大するにつれ米国内の輸入制限運動が強化されるおそれがあり、とくに米国の国際収支対策と関連し、各種の輸入制限のほか、バイ・アメリカン政策の強化、援助支出の削減、米国関心品目のわが国に対する自由化要求等の問題が引続き起ることが予想される。

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2 米国での対日輸入制限の動き

(1) 議会の動き

一九六三年の第八十八議会第一会期では、輸入制限的効果をねらう各種の法案が上程されたが、これら法案のうち特にわが国対米輸出に関係のあるものは次とおりである。

(イ) 磨きステンレス・スチール・シートの関税率引上げを内容とする関税法の一部改正法案は)一九六三年六月下旬議会を通過し、成立した。この法案は、新関税分類法実施(一九六三年八月三十一日)までの極めて短い期間をカバーした立法である。

(ロ) 再包装した輸入品につき原産地表示を要求する関税法の一部改正法案は、一九六三年十二月十八日に議会を通過した。本法案成立の場合、わが国からのネジ類の輸出に影響を受けるところ大なので、日本政府は、米政府に対し、本法案がガット規定に反する等の理由を付し、成立阻止方申入れを行った。本法案は結局、同年十二月三十日ジョンソン大統領の拒否権発動によって不成立に終った。

(ハ) 現行の米財務省のダンピング調査に一定の期限を設け、硬直的な手続き枠をはめこむこと等を内容としたアンティ・ダンピング法改正法案、輸入鉄鋼で全部または大部分が製造された運送用容器に原産地表示を要求する鉄鋼運送用容器表示法案、輸入される織りネーム(Woven Label)につき製造国名を当該織りネーム中に織り込むことを要求する繊維製品品質表示法および毛製品表示法の一部改正法案、その他水産関係ではえびの関税引上げ法案、えびの国別輸入数量制限法案、米国の衛生基準以下の貝類の輸入禁止法案がそれぞれ提出されたが、何れも本格的審議に入らず、不成立となり、第八十八議会第二会期に持越され継続審議となっている。

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(2) エスケープ・クローズ(免責条項)調査

(イ) 関税調整援助申請

一九五一年の互恵通商協定法延長法には、関税引下げにより輸入が米国の産業に被害を与えるか、または与えるおそれがある場合には、大統領が関税委員会の報告に基いて、関税引上げ、その他の輸入制限措置をとり得ることを規定したエスケープ・クローズ(免責条項)があったが、この規定は一九六二年の通商拡大法成立により廃止され、類似の規定が、同法の関税調整として設けられた。

前記延長法によりエスケープ・クローズ措置のとられたものは、十品目あり、このうちわが国の関心品目は、体温計、金属洋食器、タイプライター用リボン・クロス及びウィルトン・カーペット及び板ガラスの五品目である。

一九六二年十月に通商拡大法発効後、関税委員会で旧エスケープ・クローズ調査の判定が行われたものは、軟木合板、帽子用毛皮、家庭用陶器および磁器の三件で、いずれも却下されている。

また、通商拡大法発効後、同法に基く関税調整援助申請の行われたのは、カナダ・ウィスキーと洋傘および洋傘の骨の二件で、カナダ・ウィスキーは一九六三年四月に関税委員会で却下されており、洋傘については本年三月調査が開始された。

(ロ) 産業調整援助申請

通商拡大法では、米国の会社および労働者は、関税引下げの結果、被害を蒙った場合、輸入制限措置による救済ではなく、産業調整援助をうける途が開かれており、これが同法におけるエスケープ・クローズの一つの特色となっている。

現に、同法発効後、一九六四年三月末までに、鉱山、トランジスター・ラジオ、陶器、モザイク・タイル、カード糸綿布地、グルコン酸ソーダ等の工場労働者より計八件にのぼる産業調整援助申請が行われたが、関税委員会において何れも却下されている。

(ハ) 関税委員会の判定要件

前記のとおり関税調整および産業調整援助の申請が関税委員会において却下されているのは、旧通商協定法では、通商協定により関税を譲許した結果、輸入が増大するという現象があればよかったのに反し、通商拡大法では、譲許が輸入増大の主たる原因(・・・・・)であることを立証しなければならなくなったためであるとされている。

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(3) ダンピング調査

米国アンティ・ダンピング法によれば、ある輸入商品が公正価額以下で販売され、しかも輸入により米国の産業に被害を与えるか、または与えるおそれがある場合にダンピング税を徴収できることになっており、価格が公正であるかについては、財務省が判定し、国内産業に対する被害の有無は、関税委員会が判定することになっている。

一九六三年には、米国財務省は、米国国内業者の提訴に基き、わが国から輸出している鉄鋼線材、溶接鋼管、二酸化チタン、白色ポートランド・セメント、熱間圧延鋼板、冷延鋼板、大鮃の切身およびプラスチック製乳児運搬具の八品目に対し、ダンピング容疑の調査を行なったが、このうち鉄鋼線材および大鮃の切身の二品目については、ダンピングの事実なしとし提訴を却下した。また、二酸化チタンについては、ダンピングの事実ありと認定し、関税委員会に付託したので、目下関税委員会で調査中であり、その他の五品目については、目下財務省で調査中である。

なお、前記調査中の品目で関税評価差止め措置がとられているのは、二酸化チタン、白色ポートランド・セメント、プラスチック製乳児運搬具の三品目である。

なお、アンティ・ダンピング法には関税評価の差止め措置があるので、これが強力な輸入制限的効果を発揮し得ることに留意する必要がある。

前記のとおり、米国業界のアンティ・ダンピング法に基く提訴件数は、近年増加の傾向にあり、更に現行法による財務省の判定に強い不満を抱く米鉄鋼およびセメント業界は、政界に働きかけ議会に改正法案を提出せしめている。一方、財務省もアンティ・ダンピング法規則の改正を検討している模様であり、一九六四年一月に同法規則に関するレヴューのための公聴会を開催した。

これら米国側の動きに対し、政府は、業界に対し指導援助を行なう等の対策を講じつつ、提訴案件については、それぞれ適切な措置をとって対処している。

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(4) 国防条項に基く調査

通商拡大法の第二三二条に規定されているいわゆる国防条項によれば、ある商品が米国の安全が害される量または状態で輸入されている場合は、大統領は、緊急計画局(OEP、以前は民間国防動員局-OCDM)の調査に基いて、輸入制限等の措置をとることができることになっている。

国防条項による調査は、期限のついていないのが一つの特徴であり、状況如何によっては、極めて短期間に行われ、速やかに判定が下される場合もあるが、また長期にわたることもある。さらに救済措置についても、輸入クォータの設定、関税引上げなど如何なる形および限度の輸入制限措置をとることも可能であり、極めて広い裁量が大統領に与えられているので、輸入制限的見地から見れば、その効果は大きいものがある。

一九六三年には、OEP長官は、米国業界の申請に基き輸入フェロ・マンガン、フェロ・クローム及び水力タービンについて国防条項の調査を開始したが、このうち水力タービンについては、「米国の安全を害する恐れはない」と判定し、提訴を却下したが、他の二品目については、未だ判定が下されていない。

なお、綿、毛、絹などの全繊維製品に対しても、一九六一年以来前記同様の調査が行われているが、これについても未判定である。

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(5) 不公正輸入禁止条項に基く調査

米国の関税法第三三七条によれば、ある商品が、特許権、商標権の侵害などの不正な方法で輸入が行われ、その結果、米国の産業に重大な被害を与え、または与えるおそれがあるときは、大統領は、関税委員会の調査に基いてその輸入を禁止できることになっている。

本条項に基く問題としては、一九五九年のシンガー・ミシン会社の関税委員会に対する家庭用自動ジグザグミシンの特許権侵害の提訴があるが、これは、関税委員会で侵害の有無に関する調査開始後、米政府がシンガー社を独禁法違反容疑で提訴したため、その結果が判明するまで調査を停止していたところ、一九六三年六月最高裁が独禁法違反であると判定したので、シンガー社の提訴取下げにより本件調査を打切った。

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(6) 関税評価の問題

米国に輸入される商品につき、米国関税法は、第四〇二条、第四〇二a条および第三三六条によって関税徴収の基礎となる輸入品の評価基準を規定しており、米国税関は、右条項にもとづき特定の種類の商品に対して、個々のインボイス価格に関係なく関税徴収のために画一的な評価を行い得るようになっている。この関税評価基準に関する条項は、本来輸入制限を目的としたものとはいい難いが、その運用如何では、極めて強い輸入制限的効果を発揮する。

これら米国関税評価制度で最近までに問題となったケースとしては、次のようなものがある。

(イ) 関税法第四〇二条

第四〇二条では、原則として輸出価額を輸入品評価の基準としているが、この輸出価額とは、輸出国の主要市場で同様の商品が通常の取引方法で米国への輸出向けに自由に販売され、またはオファーされる価格であり、更に本支店間のような系列取引は通常の輸出価額とは認めないと定義されている。

本条項に基き、米税関は、一九六二年十一月に日本製トランジスター・ラジオの最低評価基準(六ドル三〇セント)を設定したので、インボイス価格よりも高く評価された輸入業者は、関税の支払を拒否し、更に輸出入業者代表は、米関税当局に対し、現状を説明するとともに、善処を要請した結果、最低評価基準価格は五ドルの線まで引下げられたので、本件は解決した。

なお、最近本条項に基き日本製理美容椅子の評価基準の引上げが行われたので、目下わが方は米関税当局と折衝を行っている。

(ロ) 関税法第四〇二a条

第四〇二a条によれば、一九五六年関税簡素化法に基いて財務長官の発表した品目に対しては、関税局は、輸出国の国内価額を評価基準とすることができることになっているが、この規定は、運用の如何によっては、多大の輸入制限的効果を発揮することになる。よって、わが方政府としては、米政府に対し、機会あるごとに本条項の合理的運用を申入れている。

前記財務長官の発表した品目表は、化学薬品、機械類、電気製品、綿製品等約四〇〇品目に及んでおり、これら品目中には、真空管のほか、ベアリング、テレビ、ラジオ付電蓄、抵抗器などのわが国にとって関心の深い品目が含まれており、現にわが国から輸出している真空管に対して、米関税当局は、一九六一年末頃よりインボイス価格の約三倍にも達する評価を行っており、輸入業者は、関税当局に抗議を行ったが、受け入れられなかったため、この問題を関税裁判所に提訴し、目下係争中である。

(ハ) A S P

第三三六条によれば、外国産品と国内産品の生産原価の均等化を図るため、大統領は、関税委員会の調査に基き、関税率の五〇パーセント以内の増減を行うこと、これでも目的が達せられないときは、輸入品と同種の米国産品の米国内での販売価格(ASP)を基準として課税ができることになっている。

米側は、これに基き、ゴム履物、蛤罐詰、毛編手袋の三品目および関税定率法に基き、コールタールおよび同関連製品の計四品目に対し、ASPを基率とする課税を行っている。一般に米国品は、輸出品よりもかなり高価なため、実際に徴収される関税は、インボイス価格に比して高率なものとなっており、特に近年わが国から大量に輸出されているゴム底布靴の場合は、インボイス価格の六〇パーセントから一〇〇パーセントに相当する関税が徴収されている。これに対してかねてよりわが方業界は評価基準となっているゴム底布靴のASPが現状に即していない旨米関税当局に抗議を行っていたところ、米関税当局は、一九六三年二月以降関税評価差止めを行い、米国産品の卸売価格の実勢調査を開始した。しかし、一カ年を経過しても未だ本件調査の結論を出していないので、商取引に大きな支障を来たしており、わが政府としては、米側にその決定促進を要請している。

このような米国の関税評価制度は、米国の国内産業の保護に偏した旧時代的制度とされており、貿易自由化の理念に反するものであるので、政府としても機会あるごとに米政府の善処を求めている。

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(7) 新関税分類表の採用に伴う問題

米国政府は、一九六二年五月の関税簡素化法にもとづく関税分類法の成立によって、多年の懸案であった新関税表への切りかえのため法律手続を完了し、新関税表を一九六三年八月三十一日から実施した。

しかし、この新関税表への移行に伴いわが国から輸出している金属洋食器、綿製ジッパー・テープ及びスライド・ファスナー、ビニール手袋等は、米関税当局の分類解釈にもとづき旧関税表より大幅の税率引上げとなったので、わが方政府、業界ともに米側に善処を求めてきたが、受け入れられなかった。その後本年一月に米議会の下院歳入委員会が旧関税表より新関税表移行に伴い発生した問題について検討を行うため異議申立てを受付ける旨公表したので、わが方は前記品目を含む約二十品目につき異議申立を行った。なお、これらの品目については、ガット第二十八条にもとづく補償交渉により問題を解決する途が残されている。

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(8) 毛製品輸入制限の動き

最近米国では毛製品に関する輸入制限運動が活発化しており、特に米国業界には毛製品についても綿製品と同様の国際取決めを締結することを要求する声が強まっており、かつ一九六四年は大統領選挙の年にも当るため、業界よりの政府に対する突き上げが強くなることが予測されるので、わが国としてはその後の動きについて注視する必要があり、在外公館等を通じ情報の収集等に努めている。

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(9) バイ・アメリカン(米国品優先買付)政策の強化

なお、最近の傾向としては、米国の連邦政府ないし州政府のバイ・アメリカン政策が強化されており、見逃すことのできない問題となっている。(詳細はつぎの項3参照)。

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(10) その他の動き

以上のように、一九六三年から一九六四年三月にかけて、各種の輸入制限の動きがあったが、この他一九六三年十二月から本年三月に開催された米国関税委員会および通商情報委員会のガット関税一括引下げ交渉(ケネディ・ラウンド)に臨む米国のオファ・リスト作成のための公聴会で、米業界の殆どは関税引下げ反対を強く表明している現状に鑑み、今後も保護貿易主義の抬頭、各種の手段による行政府に対する米業界の圧迫などが強まることも考えられる。

政府としては、このような輸入制限運動の活発化を防止し、長期的な対米輸出の拡大を図るために、輸出秩序の整備強化に努めており、他方、外交機関を通じて米政府と意見の交換を行い、また米議会、業界団体などとの接触や米国市場の調査、米国民に対する広報活動等を行っている。

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3 ドル防衛とバイ・アメリカン政策

一九六〇年のアイゼンハワー大統領のドル防衛に関する指令以来、米国政府は一連のバイ・アメリカン政策の実施(外国品による域外調達の制限、海外駐留軍の家族削減、PX食堂等による外国品使用禁止等)によりドル支出の削減を強力に推進してきたが、最近ではこれと並んで、米国内の公共事業のための調達に関し米国品を優先使用すべきことを定めるバイ・アメリカン法の適用を強化しようとする動きが顕著となってきた(同法の施行細則たる一九五四年の大統領令は、(一)国産品の価格が外国品よりも六パーセント(不況地帯および中小企業よりの調達の際は一二パーセント)以上高い場合には、その価格は不合理とみなし、外国品を購入できること、(二)ただし各省庁長官は、国家利益のため必要と判断される場合には、右の規定にかかわらず国産品を購入できることを定めている)。

この傾向は国防省において特に著しく、例えば一九六三年一月米国防省の調達に係るオレゴン州、グリーン・ピータース・ダム発電用水ダムの入札においてわが国の企業が一番札をとったにもかかわらず、国防長官の裁定により同社よりも約三七パーセントも高い米国業者が契約した経緯があった。日本政府ではこの事態を重視し米国政府に申し入れを行なった。

他方、連邦政府予算局ではかねてより一九五四年大統領令に代る新基準を検討していたが、新基準は現行基準よりも強化されようとの観測が強かったので、六三年六月十一日日本政府は米国政府に対し、今次の改定でバイ・アメリカン法の適用が強化されることのないよう希望する旨を文書で申入れた。

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4 利 子 平 衡 税

米国の国際収支は、一九六一年以降若干改善の傾向をみせていたが、六二年第四・四半期から再び悪化し、六三年上半期に年率四〇億ドルの赤字を出すことが明らかになるに及び、故ケネディ大統領は七月十八日議会に国際収支特別教書を送り、十項目にわたる国際収支改善対策を明らかにした。これらの対策は、貿易および貿易外収支、短期および長期の資本収支にわたる総合的なものであるが、その中で、わが国に対する影響が最も重大であると考えられたのは、利子平衡税創設の提案であった。

この利子平衡税の構想は、外国人が米国長期資本を調達する場合にその金利負担を実質的に一パーセント高めることにより、米国国内投資を抑制せずに国外への長期資本の流出を抑制しようとするもので、一九六一年以降急速に増大しつつあった米国資本の対日間接投資を実質的に阻害し、わが国の国際収支均衡維持を著しく困難にするものと受けとられた。すなわち昭和三十七年度においては、わが国の長期資本受取は、四億七、六〇〇万ドルに増大したのに引続き、三十八年度においては投資市場としての日本の安定性と成長性に対する関心がさらに高まり、日本国内における外資導入意欲の高まりとあいまって、六三年七月当時年約七億ドル程度の受取が見込まれる情勢にあったが、そのうちの八割強と予想されていた米国資本のうち、米市銀のローン、直接投資を除いたいわゆる証券投資、すなわち国債、ADRの発行および米国人の本邦市場経由の株式取得等が利子平衡税の影響をこうむるものと危惧された。

六三年度七月末、大平外相は急拠ワシントンに飛び、米国首脳に対して利子平衡税のわが国経済に及ぼすべき影響を説明、本邦に関する税の免除を要請したが、先方は利子平衡税の日本経済に及ぼすべき影響について必ずしも日本側の意見に同意せず、むしろ日米間の金利差、日本国内の資金需要の強さの故に、日本は平衡税が課せられても必要な米国資本を調達し得るであろうとの見解を示した。結局、日米共同声明において、世界通貨であるドル価値の維持が自由世界の安定と繁栄に不可欠であることを日米双方が認めると同時に、日本における健全なる成長政策の遂行が世界的重要性をもつこと、そのためわが国が毎年相当額の長期資本を米国において調達することが必要であることに合意し、利子平衡税によりわが国に深刻な経済上の困難が生じる場合には、平衡税の免除につき日米間で協議することに意見の一致をみた。

利子平衡税法案は六三年八月八日米議会に提出されたが、議会の審議はかなり遅れ、六四年三月五日に漸く下院を通過し、上院に送付された。

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5 日米綿製品交渉の妥結

わが国は、一九五六年以来対米綿製品輸出を自主的に、あるいは日米間の合意にもとづき規制してきたところ、一九六二年の日米二国間綿製品取決めの有効期間終了にともない、一九六三年一月一日からジュネーヴ綿製品長期取決めが日米間に適用されたので、米国政府はこれを機としてわが国の対米綿製品輸出の大部分を占める四十品目につき前記長期取決め第三条(市場攪乱条項)を援用して、一九六三年の規制レベルを決定するための協議を申し入れてきた。

よってわが方は、ジュネーヴ綿製品長期取決めの解釈、特に市場攪乱の問題についてわが方見解を強く米側に申し入れたところ、三月十九日にいたり、米政府は右に直接回答を行う代りに長期取決め第四条にもとづく二国間取決めのための交渉を提案してきたのでわが方もこれを受け、日米間で交渉が行なわれた結果、七月中旬には武内駐米大使、ルーズベルト商務次官の会談が行なわれ、さらに七月下旬には武内大使、西山公使、ルーズベルト商務次官、ジョンソン経済担当国務次官補および国務、商務、労働各省担当官が出席し細部にわたる検討の結果、一九六三年から一九六五年までの日米綿製品貿易取決めを実施するための書簡が八月二十七日ワシントンにおいて武内大使とジョンソン国務次官補との間で交換された。

取決めの主な点は次のとおり。

(1) 一九六三年のわが国の対米綿製品の輸出総枠は、二億八、七五〇万ヤードとし、この総枠内で特定のグループ及び品目についてその枠および最高限度が定められている。

(2) 各グループ及び品目の枠または最高輸出限度は、一九六四年は一九六三年の三%増とし、一九六五年は一九六四年の五%増とする。

(3) 両国政府は、取決めの実施を効果的にするため、綿製品に関する統計資料を交換する。綿製品のグループの単位を平方ヤードに換算するための換算率表は取決めの付表として特記されている。

(4) 両国政府は、特定の枠または最高限度の設定されていない製品または特定の種類の織物で作られた日本製品が過度に集中して米国内市場を攪乱し、または攪乱する恐れがある場合に適用される手続について合意している。

(5) 両国政府は、また、取決めの対象となっていない商品について問題が起った場合に適用される手続についても合意している。

(6) 両国政府は、さらに、取決めの期間中に起るどのような問題についても協議することに合意している。なお、この取決めで特段の規定が設けられていない事項についてはジュネーヴ綿製品長期取決めの諸条項が両国間の綿製品貿易に適用される。

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6 日米海運問題

(1) 日米航路の現状

日米間航路は、米国海事法の海運同盟活動に対する厳重な規則下におかれているため、従来とも盟外船の出現により航路の不安定を招いているが、一九六三年においても盟外船の活動は引続き活発で、ニューヨーク航路往航貨物の約一六パーセントを積取っている。その上、米国海事局(MA)は、一九六三年八月、米国の被補助定期船会社は同盟に加盟していると否とにかかわらず、MAの承認がない限り同盟レートを守るべき旨の六二年二月の回章を撤回したため、被補助会社が盟外活動を行なう途が開かれることとなり、一九六四年三月米国欧州間の航路で米国の有力メンバーラインが同盟脱退の動きをみせるに至って、日米航路への波及が憂慮されている。

他方、一九六一年十月の米国海事法改正(ボナ一法)により同盟の盟外船対策の一つである二重運賃制(同盟船を専ら使用することを約した荷主には一般よりも安い運賃を適用する制度)が一定の枠内で合法化されたため、日米間航路の二同盟からも一九六二年七月来米国連邦海事委員会(FMC)に右制度採用につき承認申請が出されていた。その後FMCの右の申請に対する承認がのびのびとなっていたところ、一九六四年三月に至って、FMCエグザミナーが一部修正の上承認を可とする旨を決定し、正式承認への見通しが得られたことは一つの明かるい材料である。

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(2) FMCの運賃較差調査

一九六三年五月、米議会両院経済合同委員会は、米国鉄鋼業の国際競争力問題を審議していた過程で、鉄鋼の海上運賃が、米国から欧州または日本向け輸出の場合には欧州または日本からの輸入の場合の一倍半ないし二倍になっていることに着目し、これが米国産鉄鋼の輸出を阻害する要因となっているとして政府にその是正措置をとることを求めた。このためFMCは六月から鉄鋼運賃較差の調査を開始し、さらに十一月に至って、米国関係の十六の海運同盟(日米航路四同盟を含む。)に対し、輸出入運賃の較差を自発的に是正するか説明づけることを要求するとともに、海事法第二十一条に基づく命令を発して、運賃に関係のある広汎な文書および統計資料の提出を求めた。

これに対し、わが国および欧州海運国十カ国は、米国のかかる措置が、本来国際的性質を有する海上運賃への一方的干渉を目的としていること、米国外に所在する文書の提出をも要求する点で他国の管轄権を侵害するものであること等を理由として、十二月共同して米国政府に抗議を行なった。

この問題は、一九六四年二月パリで開催されたOECD特別海運会議(わが国も参加)にもちこまれ、有効な討議が行なわれたが結論を得るに至らず、引続き協議を行なうこととなった。

六一年のボナー法によりFMCに運賃に対する干渉権限が与えられた際、各国政府の反対に対して米国政府はそれが一種の安全弁にすぎないものだと説明したが、前記のような最近の動向をみると手放しの楽観は許されず、今後の運用如何が注目される。

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(3) シップ・アメリカン政策の強化

一九六三年には、シップ・アメリカン政策の一層の強化がみられた。すなわち、同年九月、余剰農産物処理法第四編の規定による長期借款取決めに基く農産物売却の場合にも、米船優先条項を適用することが決定された。

さらに十月、故ケネディ大統領は、米国産小麦約四〇〇万トンを民間業者を通じソ連、東欧諸国に売却することを決定したが、その際これを米船積みとすることが条件とされ、これをめぐってソ連側との交渉が難航したが、結局商務省は米船が利用可能である限り、少なくとも五〇パーセントはこれを使用することの条件で輸出許可を行なった。

わが国および欧州海運十カ国は、十二月、このような措置はシップ・アメリカン政策の商業貨物への拡大適用であるとして強く抗議したが、米国政府は今回の措置は全く特異なケースであって、商業貨物の積取を自由とする原則を変更するものでないと回答するに止まった。さらに、一九六四年に入って小麦の積出が開始されると、米国港湾労組は、米船の使用が五〇パーセントをはるかに下まわっているのは公約に反するとして外国船の荷役をボイコットし、ついにジョンソン大統領は五〇パーセントをこえるウェーバーは認めないことを約束した。

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(4) 第二回日米海運会談

前記のごとき日米間の海運諸問題を政府レベルで話合うために、一九六四年一月三十、三十一日の両日ワシントンで第二回日米海運会談が開催された。(第一回会談は六二年七月東京で開催。)この会談には、わが方から若狭運輸省海運局長らが、米側からハーレーFMC委員長らが出席し、日米航路の安定、米国の海運同盟規制、シップ・アメリカン問題、わが国の海運再建に伴う企業集約化等の議題について活発な意見の交換が行なわれた。

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7 第三回日米貿易経済合同委員会の開催

日米貿易経済合同委員会は、日米間の貿易経済関係を一層緊密化し、かつ両国の経済閣僚が相互に直面する諸問題につき理解を深めることを目的として、一九六一年に設立され、第一回会合は、六一年十一月に箱根で、第二回会合は、六二年十二月にワシントンでそれぞれ行われた。

第三回会合は、六三年十一月東京で開催されることになっていたが、ケネディ大統領の不慮の死により延期され、本年一月二十七、二十八日の両日東京の外務省講堂で行われた。会議には日本側から大平外務大臣、田中大蔵大臣、赤城農林大臣、福田通商産業大臣、綾部運輸大臣、大橋労働大臣、宮沢経済企画庁長官および黒金官房長官の各委員が出席し、米側からは、ラスク国務長官、ホッジス商務長官、ワーツ労働長官およびヘラー大統領府経済諮問委員会委員長の各委員並びにブリット財務次官補、カー内務次官およびマーフィー農務次官が出席した。

第三回委員会の討議は、大平外務大臣が議長となり、次の六つの議題について行われた。

(イ) 日米経済の現状と見通し

(ロ) 財政金融および国際収支事情

(ハ) 日米間の貿易経済関係の推移

(ニ) 国際貿易経済関係の推移

(ホ) 低開発諸国の経済開発における協力

(ヘ) その他

以上の各議題につき活発な意見の交換と自由討議が行われた結果、資料編掲載の日米共同声明が採択された。

今回の会議により日米両国の貿易経済関係ならびに両国の直面する国際経済問題に関する見解について相互理解が深められ、今後の両国貿易経済関係の一層の緊密化に資するところが大きいものと予想される。

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8 カナダとの貿易の現状

わが国の対カナダ貿易は、戦後毎年入超を続けているが、一九六三年に入ってからは特にこの傾向が著るしくなった。すなわち、一九六二年は通関実績で輸入は二億五、五〇〇万ドル、輸出は一億二、六〇〇万ドルと、入超額は一億二、九〇〇万ドルであったのに対し、一九六三年には輸出は一億二、五〇〇万ドルと前年比一・一パーセントの減少を示し、他方輸入は三億一、九〇〇万ドルと前年比二五パーセントの増加を示したため、入超額は一億九、四〇〇ドル(対前年比六、五〇〇万ドル増)と大幅に増加した。主な輸入品は一億ドルに達する小麦のほか、亜麻仁種、鉄鉱石、石綿、石炭、銅などの工業用原材料品であるが六三年度は特に非鉄金属、大材等の輸入が激増したため、かかる入超幅の増大を来した。他方主な輸出品は、繊維、合板、ラジオ等の消費物資であり、鉄鋼および電気関係機械など資本財の輸出も近年徐々に増大しつつある。しかし、この輸出総額の約四分の一程度に対しては、カナダ側の要請により、わが国で輸出自主規制を行なっており、これら規制商品の輸出については大幅な伸張は困難な状況にある。また同時に最近わが国消費物資は国内諸経費の値上りを反映してコスト高となり、あわせてカナダ市場に対する香港・台湾・東欧諸国等からの激烈な輸出攻勢もあって、対加輸出は総じて伸び悩みの状態にある。

今後わが国として対加輸出の拡大をはかるためには、輸出商品の多様化、特に重化学工業製品等を中心とする資本財の輸出に努力を払う必要があるが、この点近時平原三州およびB・C州等で主として資源開発を目的として、日加間の企業提携、合弁事業などの機運が熟しつつあるのは注目される。

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9 カナダでの対日輸入制限の動き

(1) 一九五四年、日加通商協定締結以来、日加貿易は順調に発展してきたが、わが国の対加輸出が増大するに伴い、カナダ側の輸入制限運動も激化した。わが国商品の進出により影響を受けた国内産業は、カナダ政府に働きかけ、わが国産品の輸出規制を要求し、その結果一九六三年現在、繊維製品・金属洋食器・防水靴・布靴・合板・トランジスターラジオ・真空管およびポリエステルボタンが対加自主規制の対象とされている。

一九六三年の対加輸出規制交渉は、六二年十二月からオタワにおいて開始され、その間四月に行なわれたカナダの総選挙のため交渉のテンポは若干遅れたが、六月七日にいたり妥結をみた。

一九六三年度規制交渉の結果、従来からの規制九品目中一品目(ビニールレインコート)については規制が撤廃され、残余の八品目については六二年比五パーセント強の規制枠の増加が実現した。なお、規制品目の六二年対加全輸出中に占める割合は二三パーセント(実額二、八○○万ドル、六一年の割合は三二パーセント)であり、対加輸出の多様化の進展がうかがわれる。また六三年交渉が六二年に比し、比較的順調にまとまった理由としては、(イ)六二年来のカナダ経済の好況(国民総生産は名目八パーセント・実質七パーセントの伸び)、(ロ)わが方規制品と競合するカナダ国内産業界の好況、(ハ)過去四回の規制交渉を通じ、あるいは六三年一月開催の日加閣僚委員会を通じ、日加双方の交渉関係者が相互の事情について理解を深めたこと等が挙げられる。

(2) カナダには緊急輸入制限措置として関税法上の任意評価権制度(輸入が国内産業に被害を与えるようなかたちで行なわれていると認められる場合、その輸入品の関税上の価格を任意に高額に評価できる制度)があるが、わが国としては、秩序ある輸出の実施につとめ、任意評価権の発動を未然に防いでいる。(現在までのところわが国の輸出産品に対し、任意評価権が発動された例はない。)

他方、カナダは、伝統的に輸入品のダンピング問題に強い関心を示しているが、近年、わが国の対加輸出品のなかには、ダンピング容疑により、カナダ政府による公正市場価格の調査を受ける事例が増加している。

この調査は、輸出国の国内販売価格や生産費について行なわれるものであり、六三年中に、カナダ国税省がわが国につき調査を行なうこととしたものは、繊維製品・鉄鋼製品・化学品等二六品目で、調査対象は五〇社近くにのぼった。

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10 日加閣僚委員会第二回会合の開催

一九六一年六月両国首相間で合意をみた「日加双方閣僚の相互理解増進」を目的とする日加閣僚委員会は、六三年一月東京での初会合にひきつづき、同年九月二五、二六の両日、オタワのカナダ国会議事堂において第二回会合が行なわれた。日本側から赤城農林、田中大蔵、福田通産各大臣、島外務次官、牛場駐加大使、カナダ側からマーチン外務、ゴードン大蔵、シャープ通商、ヘイズ農林、ロビショー漁業各大臣およびバウァー駐日大使が出席した。

委員会の討議はマーチン外相司会のもとに

(イ) 国際情勢一般

(ロ) 国際貿易経済に関する諸問題

(ハ) 日加貿易経済関係

(ニ) 日加経済の現状と見通し

(ホ) そ の 他

の五議題について行なわれた。

各議題毎に日加双方から活発な発言があり、相互理解の増進に寄与したものと認められる(日加共同声明は資料篇に掲載)。

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