五 貿易経済に関する諸外国との関係および国際協力の進展
諸外国との貿易経済関係の概観
一九六三年におけるわが国の貿易額は、前年にひきつづき次のとおり著しい増大を記録した。まず総輸出額は、五四億五、二〇〇万ドルと前年比で一〇・九%増加し、また総輸入額は、六七億三、六〇〇万ドルで、前年比一九・五%の増となった(通関ベース、以下特に断わらないかぎり通関ベース)。これで、わが国の貿易額は、一二〇億ドル台を突破するに至ったのである。
一九六三年度中において、わが国が締結、あるいは交渉等を行なった通商協定および貿易取決めは次の通りである。まず、一九六二年十一月に調印された日英通商航海条約が六三年五月発効し、英国はガット第三十五条の対日援用を撤回し、次いでエル・サルヴァドルとの間に七月、通商協定が調印され、六四年六月批准書交換が行なわれた。六三年八月にオーストラリアが、ガット第三十五条の対日援用の撤回に応じた結果、日豪間に新通商協定が調印され六四年五月に発効した。また、すでに一九五八年末締結されていたハイティとの間の通商協定は、六三年六月、ようやく先方の批准を得て発効の運びとなった。
つぎに、六三年五月、パリで署名された日仏通商協定および関係議定書は、六四年一月発効し、同時にフランスのガット三十五条対日援用は撤回された。このほか、メキシコとの間に通商協定締結につき交渉中であり、また、かねてからの懸案となっているフィリピンとの友好通商航海条約は、依然フィリピン側の批准が得られず発効の見通しは立っていないが、別途、暫定的取決めが検討されている。
貿易取決めについては、一九六三年八月ローデシア・ニアサランド連邦との間に新貿易取決めが発効し、同国はガット三十五条の援用を撤回したほか一九六三年四月、ギニアとの間に、五月、マダガスカルとの間に、十月、トーゴーとの間にそれぞれ取決めが調印された。また、ビルマ、カンボディア、スウェーデンとの間には貿易取決めの延長が行なわれたほか、イランおよびイラクとの貿易協定締結交渉において一応の合意がみられ、オーストリアとの間に貿易に関する公文の交換が昨年十二月行なわれた。最後に、本年二月東京において、ソ連との間に六四年度の貿易議定書が署名された。
各国との緊密な経済関係を深めていくためには、彼我財界の相互理解の増進がきわめて重要である。このため政府は、毎年経済使節団等を海外に派遣している。一九六三年度中には、次の各使節団が諸地域に派遣された。すなわち、九月、対アンデス諸国貿易使節団、十月、訪東欧貿易使節団、同じく十月、訪欧経済使節団、本年に入って三月、訪北アフリカ経済使節団、および訪米経済使節団である。このほか欧州に対しては、十月、経済統合調査チームが派遣された。
これに対し、諸外国からの経済使節団等の来日も多く、五月にはデンマークの経済使節団、タスマニア通商使節団およびスーダンの綿花使節団が、八月にはブルガリア経済使節団が、十月には英国民間貿易使節団がわが国を訪問した。また、本年二月には、中米経済使節団の一行が来日した。
海外諸地域において貿易関係を改善し、輸出の拡大を図るためには、政府の活動のみならず、ジェトロ、銀行、商社、メーカー等現地の民間駐在員、特に貿易の第一線に立つ商社と在外公館とが十分意見、情報等を交換し、緊密に協力することがますます必要となってきている、この見地から、外務省は関係省、日本貿易会等関係団体と協力して、昭和三七年度から欧州、中近東、アフリカ、ラテン・アメリカにおいて現地在外公館および関係各省の経済担当係官と現地民間商社員等との間で当該地域における貿易上の諸問題を討議する「貿易合同会議」を開催した。前年度にひきつづき、昭和三八年度においては開催地域を更に細分し、アジアではバンコック、ニュー・デリーで、大洋州ではシドニーで、中近東ではイスタンブールで、アフリカではナイロビ、ヨハネスブルグ、ラゴスで、ラテン・アメリカではリマで、欧州ではデュッセルドルフでそれぞれ実施された。その結果、現地各域における実情につき活発な意見が交換され、民間側から政府に対する各種の要望も出され、政府による今後の対策樹立のために役立つものとなっている。
また、日本商品に対し各種の輸入制限措置をとる欧米各国で、その実情を把握し、対策を考究することは最も緊要のことである、アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリス、ドイツ、フランスの各国におけるわが国在外公館では、特にこの種の活動に重点をおいて各種の組織的な活動を実施している。
わが国の輸出市場として、アジア地域は、北米につぐ重要性を持っているが、対低開発地域貿易における不均衡の例にもれず、フィリピン、マレイシア等一部を除き、いずれの国に対してもおおむねわが国の出超となっており、また、外貨事情の悪化が主因となって、わが国のこの地域との貿易とくにわが国の輸出の伸びは、他の地域に対するそれを下廻るものとなっている。すなわち、一九六三年におけるわが国の対アジア地域貿易において、輸出は一四億六、〇〇〇万ドル(為替ベース)で前年に比べ九・三%の増にすぎない。一方、輸入は九億九、六〇〇万ドル(為替ベース)で前年比二九%の増で著しい伸びを示しているが、これは砂糖をはじめとして起った一次産品の値上りが主要原因で、一時的現象にすぎないものとみられている。
わが国の対大洋州諸国貿易は、輸出入とも増大し、昨年五月には第一回日豪民間合同委員会も開催され経済貿易関係は緊密の度を加えた。しかし貿易は恒常的に大幅な入超であり、一九六三年に輸出は二四%増加したが、入超幅はむしろ増大した。
わが国の輸出については、重化学工業品への品目構造上の変化にもとづく成果に見るべきものがある。六三年輸出入実績は、輸出二億二、三〇〇万ドルに対し、輸入五億九、六〇〇万ドルである。
一九六三年中の対米輸出は、為替ベースで一五億九、九〇〇万ドルと戦後最高を記録、対前年比七%の増加を示した。これに対し、輸入も、前年比一七%増の一九億一、三〇〇万ドルとなり、対米入超幅は、三億一、四〇〇万ドルと前年の一億三、五〇〇万ドルを大幅に越えることとなったが、国内需要の増勢に拘わらず一九六一年の八億五、四〇〇万ドルに比べ比較的順当な水準にとどまった。他方、わが国総輸出入に占める対米輸出入の割合は、輸出三三%、輸入三七%と前年(輸出二八%、輸入三二%)に対し比重を高めた。米国政府は、国際収支の悪化に処する対策の一環として、七月十八日議会に対し特別教書を送って利子平衡税の構想を含む一連の構想を明らかにした。わが国の資本収支の上に多大の影響を及ぼすと考えられる上記の動きに対し、政府は、急拠大平外務大臣をワシントンに派遣、米国政府に対し折衝を行なった。第三回日米貿易経済合同委員会は、ケネディ大統領の死去によって本年に持ち越され、去る一月二十七、八の両日東京で開かれた。この会議において、利子平衡税問題、米側の貿易制限等が熱心に論議されたほか国際経済問題に関する日米間の緊密な協力関係の重要性が強調された。
対カナダ貿易は、一九六三年に入り更に入超の傾向が強まっており、輸出一億二、五〇〇万ドルに対し、輸入は三億一、九〇〇万ドルに上った。九月には第二回日加閣僚委員会が行なわれ、日加両国間の協力関係は一層緊密の度を加えた。一方、カナダのわが国に対する輸出自主規制の要求には根強いものがあり、両国政府間に年々困難な交渉が行なわれている。
ラテン・アメリカ諸国に対する輸出は、近年、三億二、九〇〇万ドル前後で停滞を示しているのに対し、輸入では五億五、六〇〇万ドルと増加しているためバランスの逆調をきたしているが、これは国際収支悪化による貿易制限が強化されたためだとみられる。
西欧諸国との貿易は、主要各国による引続いてのガット第三十五条の対日援用撤回、対日差別の軽減など輸出環境の改善とも相俟って、近年順調な伸びを示している。これを貿易額の数字の上から見れば、輸出七億一、二〇〇万ドル、輸入が六億七、〇〇〇万ドルである。これらはそれぞれ、四・九%、一一%の増加の結果であり、また、総輸出入額に対するシェアーも、輸出一三%、輸入一〇%となっている。しかしながら、日本産品に対する西欧諸国の伝統的警戒心は、依然として払拭されるにいたらず、大半の国が、輸出競争力の強いわが国産品に対する差別的輸入制限を、その品目数は漸次減少してきているとはいえ、今なお維持している。したがって、これらの撤廃についての強力な交渉が必要であることは言うまでもないが、それと並んで、わが方輸出関係者の秩序ある輸出体制を確立することが望まれる。特にEECは、その過渡的期間終了の後に備えて、わが国に対する共通通商政策につき検討を進めている。その焦点は、セーフガード及び共通のネガティブ・リストであり、わが国としても、これへの対処の方途が重要な案件となっている。
一九六三年におけるわが国の中近東地域に対する輸出は前年比一七・七%増加して大いに改善された。一方、輸入は七億九、五〇〇万ドルに上っているものの、そのうち石油が七億四、二〇〇万ドルを占め、これを除くことによって現われる片貿易問題は、今後に解決の待たれるものとなっている。
サハラ以南アフリカ諸国向け輸出は、リベリア向け船舶輸出を除けば二億九、九〇〇万ドル、輸入は、二億二、九〇〇万ドルとなっている。対アフリカ輸出では、繊維品が七〇%から八〇%を占めているが、域内各国における繊維産業の発展が見込まれていることにも鑑み、今後の輸出品目の多様化が望まれるわけである。またわが方の大幅出超となっている国が多く、片貿易是正のためわが方の一次産品買付増加の努力が課題となっている。また英仏の法的地位を承け継いだ新興国のガット第三十五条の対日援用の問題も、今後に残された案件となっている。
最後に、共産圏諸国との通商関係であるが、その実績から言えば、二億五、九〇〇万ドルの輸出に対し、輸入二億七、五〇〇万ドルで、いずれもかなりの伸びを示している。しかし、このうちソ連および中共との貿易が大半を占め、東欧諸国との貿易は極めて小さいものとなっている。