資金を中心とする経済協力の現状

 

 

1 アジア諸国

(1) 対アジア経済協力の特徴と問題点

過去一年を通じて、いわゆる「南北問題」をめぐる最も顕著な動きは、低開発国の側から積極的に打ち出された第一次産品を中心とする輸出増大の要請であった。

国連貿易開発会議の開催は、正にこのような動きの集約的な現われであるが、輸出の不振による外貨収入の停滞が、増大する輸入需要を賄い切れず、経済開発の重大な障害となっている事態は、特にアジア諸国において著しい。

本年三月開催されたエカフェ第二十回総会は、この問題に最大の重点を置き、アジア諸国の経済開発にとって、外国援助は、当面最も必要であるが、これは過渡的な要請であるべきであり、経済開発が真に成功するためには、従来貿易に優先していた援助が、貿易に置き代えられねばならぬとしている。同じくエカフェの一九六三年度「アジア経済年報」がその内容の三分の二をあげて、「輸入代替と輸出の多角化」問題に当てているのもこのような「援助の前に貿易を」への志向の反映に外ならない。

わが国としては、従来からアジア諸国との経済協力には、特に大きな重点を置き、その強化に努力しているが、貿易面では、わが国の輸出超過によって、いわゆる片貿易の関係にある国が少なくない。従って上記のような南北問題の新局面を背景として、これらのアジア諸国からは、経済協力と貿易との有機的な結びつけへの要請が一層強く寄せられてくるものと思われる。世界貿易の再編成という大きな構造的変化と関連する問題だけに、わが国としても長期的な展望に立って、慎重に対策を練る必要があろう。

もっとも、わが国としては、経済協力を通じてアジア諸国からの輸入を増大させ、当該国の外貨収入の増大に寄与しようとする努力を、従来からも真摯に続けてきた。過去一年の間にも、インドネシアのスラウェシ・ニッケル開発や、タイの製糖事業に対する投資等は、その代表的な例であるが、この種の経済協力の実績は決して小さくない。一九六三年十二月末現在、わが国の対アジア経済協力の実績は、民間直接投資九、九一〇万ドル(実行済高九、六三〇万ドル、約束済未実行高二八〇万ドル)、借款ならびに延払輸出債権七億八、三七〇万ドル(実行済高三億三、五〇〇万ドル、約束済未実行高四億四、八七〇万ドル)計八億八、二八〇万ドルに達し、わが国海外投融資総額三三億一、三一〇万ドル(国際機関への出資を含む)の二七%を占め、ラテン・アメリカの一六%、中近東の九%をはるかに抑えて地域的には第一位にある。これは、わが国のアジアに対する重点施策を反映するものに外ならないが、とくに生産事業への民間投資および貸付債権の延びは目覚しく、前年末の八、〇〇〇万ドルから一億ドルへと二五%の増大を示しており、その延び額二、〇〇〇万ドルの二四%は前述の如き開発輸入的な性格を有する協力案件である。

次に過去一年間におけるアジア諸国との経済協力を国別に概観すると、先ずインド、パキスタン両国に対する円借款の供与が挙げられる(別項参照)。夫々、第三次の借款供与であるが、いずれも、世銀主催の援助国会議での討議を背景とし、自由諸国の協調による低開発国援助の典型的な例であり、わが国の行なっている経済協力の中で最も大規模且つ組織的計画的なものである。同じようにDACの場での国際的な話合を背景として、昨年十月には、インドネシアに対して、緊急援助として一、二〇〇万ドルの延払枠が供与された。これは、同国のひっぱくした外貨事情建直しのため、IMFの調査と勧告に基いて作成された同国の経済安定計画への寄与である。民間投資の分野では、マレイシア連邦の成立による広域市場の誕生を控えて、この地域への投資が著しく増大し、また従来から経済的、政治的に安定しているタイに対する投資も着実に増大している。

昨年度の本書においては、低開発国側からする援助条件の緩和と、いわゆるノン・プロジュクト援助供与の要請を注目すべき点として挙げたが、本年は、更に加えて冒頭に述べたとおり、援助と貿易の結びつきが大きくクローズ・アップされて来た。アジア諸国との経済協力をめぐるこれらの問題は、いよいよ開放経済に向って歩み始めたわが国にとって極めて重要な意義を有するものであり、長期的な施策の確立と、国内財政金融体制の整備強化に努めることが従来にもまして必要であろう。

(2) 民間企業による経済協力

わが国の民間企業がアジア諸国で実施している経済協力の内訳および件数は、一九六三年十二月末現在、つぎのとおりである。

証券取得による合弁事業(合計一六二件)

イ ン ド  鉄鋼業一、水産業一、繊維工業二、化学工業三、窯業三、機械工業四、電気工業四、その他八

パキスタン  窯業一、機械工業二、電気工業二、金属工業一

セイロン   水産業一、繊維工業四、窯業一、電気工業二、その他一

ビ ル マ  水産業一、窯業一、その他一

マ ラ ヤ  鉱業六、食品工業三、繊維工業一、化学工業一、窯業三、鉄鋼金属工業二、その他一

シンガポール 建設業一、化学工業二、窯業二、鉄鋼金属工業四、機械工業一、その他四、繊維工業(二)

タ   イ  鉱業三、建設業一、食品工業四、繊維工業五、化学工業二、鉄鋼金属工業四、機械工業三、電気工業二、その他一

ヴィエトナム 化学工業一、窯業一

英領ボルネオ 水産業二、鉱業一、その他一

フィリピン  鉱業二

香   港  水産業一、食品工業一、繊維工業八、鉄鋼金属工業三、電気工業三、その他三

台   湾  水産業一、建設業一、食品工業四、繊維工業四、化学工業十三、機械工業二、電気工業六、その他一

カンボディア 林業一

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2 ラテン・アメリカ諸国

ラ米諸国は、概して豊富な天然資源に恵まれ、比較的民度も高く経済的にも有望な将来性を有するが、慢性的な政治の不安定、社会体制の後進性などにより、従来この地域の経済開発は必ずしも順調に行われていなかった。かかるラ米諸国の経済社会開発を目的として、一九六一年故ケネディ大統領により提唱され、ジョンソン新政権に引継がれた「進歩のための同盟」計画は、種々の困難にもかかわらず米国およびラ米諸国の協力により一応の進捗をみせており、国際金融機関や米国以外の先進諸国によるこの地域向けの援助とも相俟って、徐々にその効果を生ずるに至っている。

また、ラ米諸国の域外輸出については、価格の不安定な熱帯性一次産品に対する依存度が大きすぎるという弱点は解消されていないが、国連を中心とする国際的な援助・協力の動きに期待が寄せられており、他方LAFTA(ラ米自由貿易連合)域内貿易は概ね順調な発展を示している。

しかしながら、ラ米諸国の多くは、経済開発、産業の高度化、多角化のためには今後とも先進諸国による大幅な資金、技術両面での協力を必要とし、このためラ米諸国は積極的に外国の資本と技術の導入に努力しているが、これに応じて欧米諸国は活発な協力を行ってきており、特にラ米諸国と政治的、経済的に密接な関係をもっている米国からの資本の進出はもっとも顕著で、最近増勢を示している欧州諸国からの投資に比しても、なおその規模において五対二の優位を占めている。

わが国とラ米諸国との関係は、欧米諸国に比べ地理的、歴史的にも比較的馴染がうすく、また経済的、文化的結び付きも未だ欧米諸国ほどには緊密となっていないが、人的、物的交流の促進によって近年着実に緊密の度を加え、わが国からこれら諸国に対して延払輸出・民間投資などの形によって行われている経済協力の実績を徐々に増加しつつある。

しかしながら、この地域の経済において重要な地位を占めるブラジル、アルゼンティン等においては、最近国内のインフレーションと国際収支の赤字とが相続き、欧米諸国およびわが国に対して債権の繰延を求める等の動きもあったので、わが国としてもこれ等の国に対する信用供与については慎重な態度をとらざるを得ず、一九六三年の両国に対する延払輸出実績は前年を下廻るに至っている。

ラ米地域に対するわが国の企業進出の状況については、一九六三年末現在で生産事業に対する直接投資は五八件、投資額合計九、一四四万ドルに達し、地域的、業種的にも広範多岐に亘っている。

わが国としては、今後とも貿易市場の拡大、重要原料の確保、海外投資の伸長等を目的として、ラ米諸国との経済関係を強化発展せしむべきであり、そのためには、地域内各国の経済情勢の推移、先進諸国の援助状況域内貿易の伸長などを十分注視しつつ、出来る限り民間企業の創意を生した経済協力を推進するのが望ましいと考えられる。

なお、国別進出企業数は次のとおり。

アルゼンティン  水産業二、繊維工業一、その他二

ブラジル     製鉄業一、水産業三、繊維工業五、機械工業八、その他一五

コロンビア    機械工業一、その他三

チリー      鉱業二

エル・サルバドル  繊維工業一

メキシコ     鉱業一、水産業一、機械工業三、その他三

エクアドル    農業一

グァテマラ    水産業二

ヴェネズエラ   水産業一

コスタリカ    製造業一

ニカラグァ    製造業一

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3 中近東諸国

中近東諸国は個々の国によってそれぞれ程度の差はあるが、概して保守的な社会環境の制約もあって、従来経済発展段階は低く、産業の開発も遅れていた。

この様な状態から脱却するため、中近東諸国は最近いずれも経済開発計画の実施に着手し、国内の経済開発および工業化に努力している。しかしながらこれら諸国は一部産油国を除いては対外支払能力に乏しいため、主要先進国からの資金援助を求めており、これに対し、伝統的に中近東諸国と、密接な経済貿易関係を有する西欧諸国およびこれと対抗して新たに中近東諸国への進出を試みようとする共産圏諸国等が活発な資金援助を行っている。

またクウェイト、サウディ・アラビアの如く一部産油国による域内アラブ諸国に対する資金援助も行なわれ始めている。

わが国との関係について見ると、中近東諸国はわが国とは地理的に遠く、経済関係は必ずしも密接とは言えない。貿易面では、これら諸国に対するわが国からの輸出は繊維雑貨等の消費財が大半を占め、資本財プラント類は、これら諸国における工業化計画が未だ充分軌道に乗っておらず且つわが国産業技術水準に対する認識に乏しいためもあって、未だ小さな割合を占めているに過ぎない。

このような事情に鑑み、わが国はこれまで中近東諸国に対する資金協力に当っては専ら将来のより本格的な協力への基礎を築くことに努力を向け、わが国の産業技術水準に対する認識を高める上に特に効果のあるプロジェクトを選んで重点的に行うとともに、他方これら諸国の中でも比較的わが国との経済貿易関係が密接で且つ経済開発、工業化も進んでおり、資本財輸出振興の機会も豊富な若干の国に対しては優先的に資金協力を行う方針をとってきた。このような方針に基いてわが国はスエズ運河拡張計画やイラン電気通信網整備計画等を中近東における重点的プロジェクトとしてとりあげ、その具体化を図るとともにアラブ連合に対しては一九五八年に総額三、〇〇〇万ドルの延払枠を設定して、同国の工業化に積極的に協力してきた。このうち、スエズ運河拡張計画はすでにその第一期工事が完成し今後のわが国土建業の中近東進出の端緒を開いた。またアラブ連合に対する三、〇〇〇万ドルの延払枠は現在迄にその大部分が使用されるに至り、わが国の同国向プラン類輸出の促進に大きな効果を挙げている。

また一九六三年十一月世銀の主催でスーダンの経済開発十カ年計画に対する援助協議グループが結成されるや、わが国も同グループに参加した。

この他にわが国民間企業が行っている資金協力としては、アラビア石油がクウェイト、サウディ・アラビア間中立地帯において行っている石油開発事業を挙げることができる。一九五九年の試掘開始以来一九六四年三月末までに合計四五本の油井が掘さくされ、いずれも日産一、〇〇〇キロリットル以上の極めて豊富な油井であることが実証されている。一九六一年四月より産油の日本向積出が開始され、一九六四年三月までに合計約一、四六〇万キロリットルが積出された。

最後にわが国民間企業が中近東で実施している投融資活動の国別内訳を示すと次のとおりである。

(イ) 海外直接事業(一件)

クウェイトおよびサウディ・アラビア石油事業一

(ロ) 証券取得による合併事業(二件)

スーダン  繊維工業一   イ ラ ン 窯業一

イスラエル 水産業一

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4 アフリカ諸国(北アフリカ諸国を除く)

アフリカ諸国は近年相次いで独立を達成したが、経済的には依然としてかつての宗主国である西欧諸国その支配・依存関係から充分に脱し切っていない。

したがって、アフリカ諸国はいずれも経済的自立を目指して国内の経済開発に努力しているが、これら諸国の多くは豊富な天然資源に恵まれ、人口も多く、将来の発展の可能性は大きいので主要先進国、特にこれら諸国と伝統的に経済貿易関係の密接な西欧諸国は積極的に資金援助を行ってその経済開発に協力している。

わが国とアフリカ諸国との経済関係は未だ日が浅いが、近年顕著な進展を示しており、特にこれら諸国に対するわが国消費財輸出の飛躍的増大をみた。しかしながら、これはわが国とこれら諸国との間に深刻な片貿易問題を惹き起しており、その解決は焦眉の問題となっている。

このためわが国はこのような貿易関係を調整し、併せてこれら新興独立諸国の経済発展に寄与するため、技術協力と並行して資金協力を行うこととし、先ずその手始めとして民間業界より各種の調査団を派遣しわが国業界のこれら諸国に対する認識を深めることに努力してきた。

この結果わが国民間業界のアフリカ諸国に対する関心は次第に高まり、繊維産業水産業等の分野では企業進出等もおいおい実現を見つつある。

アフリカに対するわが国民間業界による企業進出の国別内訳を示すと次のとおりである。

証券取得による合弁事業(一四件)

ナイジェリア 繊維工業二、金属工業二、水産業一

ケ ニ ア  繊維工業一

タンガニイカ 繊維工業一

南ローデシア 鉱業二

南西アフリカ 鉱業一

象牙海岸   水産業一

マダガスカル 水産業一

エティオピア 繊維工業二

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