四 わが国の経済協力の現状と問題点
経済協力に関する国際協調の動き
DAC(Development Assistance Committee)は、低開発国への資金の流れを増大し、援助の有効性を高め、また加盟国の援助努力の調整を行なうことを主たる目的とするOECDの下部機関である。現在DACは米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、ベルギー、オランダ、ポルトガル、ノールウェー、デンマークおよび日本の十二カ国とEEC(欧州経済共同体)委員会から成っている。加盟国は大使級の常任代表をパリにおき、加盟国の援助努力および援助政策、あるいは特定国、特定地域または援助に関連して起る種々の問題について随時会合し、意見、情報の交換およびとるべき措置についての協議を行なっている。DACは前年に引き続き一九六三年においても積極的に活動を行なったが、その主要活動の概要はつぎのとおりである。(DAC成立の経緯およびこれまでの活動については「わが外交の近況」第七号一三一-六頁参照)
(1) 第二回年次審査の実施
DAC加盟国の援助政策と実績をコンフロンテーション方式によって検討する第二回の年次審査は一九六三年五月から六月にかけて実施された。わが国に対する審査の会議は六月四日に行なわれた。
年次審査終了後、DAC議長はDAC加盟国全体を通ずる援助実績および共通の問題点ならびにDAC加盟国に対する勧告を含む報告書を発表した。報告書は一九六二年における顕著な傾向としてつぎのような事実を指摘している。
(イ) DAC全加盟国から低開発国に向けられた政府資金の流れの総額は一九六二年には約六〇億ドルで、前年に達成した水準を維持した。これに民間資金を加えると総計八四億ドルになる。(第一表参照)
(ロ) 多くの加盟国について、その援助計画に一層の秩序と合理性を持たせる努力、たとえば、調査委員会の設置、議会における討議や行政組織の再編成や新たな政策決定が行なわれた。
(ハ) ますます多くの国が援助に関心を持ち、また援助活動に参加するようになり、そのため援助の配分や調整につき複雑な問題が生ずるに至った。
(ニ) 低開発国の債務返済能力、国際収支および将来の援助必要量との関連において、現行の援助条件から生ずる債務負担増大等の長期的問題に対する関心が高まった。
(2) 援助条件の検討
低開発諸国が受け入れる援助の量は次第に累積しているが、他方これ等諸国の債務償還能力は国際収支の悪化のため次第に低下しているので、利子支払および元本返済が困難な国が出てきている。このためDACは一九六二年十月援助条件に関する作業部会を設置してこの問題の検討を始め、一九六三年四月の第十六回会議でこの作業部会の作成した報告書を中心に低開発国向けの援助条件の問題を討議した。この結果低開発諸国の年間債務返済額は過去五年間に倍加し、一九六二年には年間二十五億ドルに達しており、この様な返済必要債務額中五年以下の輸出信用の返済が高い比率を占めていることが明らかとなった。このためDACとしては、今後ともこの問題につき一層の研究を続ける一方、加盟諸国はその供与する援助の条件を被援助国の事情に見合ったものとし、原則として各国の援助条件の間の差異を減少させるよう努力する必要のあることが確認された。
また援助資金による買付け先の制限は、被援助国による援助資金の効率的使用を阻害するおそれがあるので、同作業部会はこの問題も検討したが、国際収支上の困難のある国からかかる買付け先の制限を撤廃ないし減少させることは極めて困難であることが指摘され、採るべき具体的措置について結論をみるに至らなかった。
(3) 調整グループ活動
開発援助を一層効果的に実施するため、DAC諸国は随時特定の開発事業、開発計画および特定の低開発国または地域について意見、情報の交換を行ない援助の調整を行なっている。このような調整グループは特定国に対するものとしては、現在タイと東ア三国について設置されている。地域的な調整会議として一九六三年四月ラ米地域につき、また、一九六四年三月中近東地域、同四月西アフリカ地域について情報交換の会議が開かれ、それぞれ対象地域内諸国の開発計画、開発状況、開発に伴なう種々の問題の討議が行なわれた。
(4) 技術協力の調整
技術協力に関しては、一九六一年七月に技術協力作業部会が設置されて以来、技術協力に関する情報の交換、調整方法などの討議が行なわれている。
一九六三年三月には、同作業部会による技術協力に関する年次審査がパリにおいて開催され、加盟国の技術援助に関する政策、実績、将来の計画、行政機構などにつき国別の審査が行なわれた。
このほか同作業部会は、技術援助専門家の不足および派遣にともなう困難、技術協力に関するフィールド・コオーディネーション(現地調整)などの問題につき検討を行なっている。
(5) 民間投資の促進
DACはDAGの時代から低開発国に対する先進工業国からの民間投資の役割を重視し、その促進措置の検討をすすめてきた。
海外投資に対する課税上の優遇措置については、OECD財政委員会の第二〇作業部会において、課税免除、課税猶予、課税控除、みなす外国税額控除等の各種優遇措置が民間資本の流れに及ぼす影響を中心に加盟各国の専門家による検討が行なわれてきた。しかし各国のこの問題に対する立場と原則が相違しているので、同委員会としては特定の措置を勧告するのではなく、各種措置の利害を並列的に記述する形で報告書をとりまとめることとし、来る五月の第一五回委員会においてOECD理事会に対する最終報告案を決定する運びとなっている。
投資保証に関する多角的機構については、DAG第五回会議(一九六一年)において世銀に対しその可能性の検討を依頼、一九六二年初頭、世銀からスタッフ・リポートの提出があり、爾後DACの場において検討が進められたが、一九六三年二月DAC第十四回会議において、各国専門家に技術的側面の検討を行なわせることになり、一九六三年五月および十二月、DAC主催の専門家会議が開かれた。多角的投資保証制度が低開発国の外資受入体制整備、海外投資促進の効果を有することは一般に認められるが、投資保証は通常の保険原則で律することができない性質のものであり、さらに関係各国間の投資方針や利害関係の不一致等の理由のほか、わが国、米国、ドイツにおいてはすでに国営投資保険を有していることからの特殊な問題があるため、再度にわたる専門家会議においても具体的結論を得るに至らなかった。専門家グループの作業結果は更にDAC会議の場において検討されることになっているが、前に述べたような複雑な問題点があるため、実行可能な多角的協調体制がどのような形になるか目下の処予測し難い。
(なお、DAC以外の場で検討されている民間投資促進のための国際的措置としては、OECDによる外国財産保護のための条約案の策定作業および世銀による投資紛争仲裁センター案の研究がある。)
(6) その他の活動
上述の諸活動のほか、DACにおいて討議が行なわれている問題には、つぎのようなものがある。
(イ) 援助計画作成基準
前記DAC議長報告書において特記されているように、主要援助国はその援助計画とその実施をできる限り合理的なものにすべく努力しているが、この問題に関するDAC加盟国の経験についての情報、意見の交換が一九六三年十二月のDAC第二十五回会議で行なわれた。この会議において、被援助国の選定、プロジェクト援助とノン・プロジェクト援助、現地工事費用の金融、開発計画、国際機関を通じる援助等の広範にわたる問題が検討された。
(ロ) パイプライン問題
一九六三年の年次審査の際、援助供与の約束と実際の支出との間に大きなずれ(パイプライン)が存在していることが明らかとなったので、DACはこの問題の実体と影響等を検討することになっている。
(ハ) 開発センター
OECD開発センターは、一九六二年十月OECD理事会の決議により設立されたが、(「わが外交の近況」第七号一三四頁参照)一九六三年には所長(前仏公共大臣ビュロン)、副所長(米ゴールドスミス教授)、フェロー、顧問(わが国から大来企画庁参与が顧問に就任した)の人選が決定した。今後同センターは先進国が経済開発に関し有する知識と経験を低開発国の利用に供すべく、セミナー、シンポジウムの開催、低開発国からの諮問に対する回答、およびセンター自身による研究活動を通じて幅広い活動を行なうことが予定されている。
(ニ) そのほかDACは国連による技術援助に関する問題、全米開発銀行(IDB)によるDAC諸国の資本市場利用問題等の検討を行なった。
(1) 世界銀行主催の援助国会議の動きとインド・パキスタンに対する円借款
世銀主催のインド及びパキスタンに対する援助国会議(コンソーシアム又は債権国会議とも呼ばれる)は、印パ両国の経済開発計画に対する参加国の援助の調達計画を調整し、援助供与国が、情報および意見を交換し、討議を行うことを目的として組織されたもので、日本始め、米、英、西独、加、仏、伊、オーストリア、白、オランダの十カ国、二国際金融機関(会議主催者たる世銀およびIDA[第二世銀])が参加し、IMFもオブザーバーとして出席する等、主要援助国を殆んど網らし、低開発国援助における国際協調の動きを代表するものである(「わが外交の近況」第七号一三六頁等参照)。
これら援助国会議は、インドについては、一九六二年の第五回会議までに、インド第三次五カ年計画(一九六一年四月-一九六六年三月)の当初二カ年分として総額二三億六千五百万ドルの援助調達に成功し、また、パキスタンについては一九六三年五月の第四回会議までにパキスタン第二次五カ年計画(一九六〇年七月-一九六五年六月)当初四カ年分として総額一三億七千万ドルの援助供与が約束されている。これら援助は両国がそれぞれの五カ年計画を遂行する上に必要としている外国援助の大半を占め、両国経済建設に大きな役割を果している(「わが国外交の近況」第七号一三七-九頁参照)。
上述の対パキスタン第四回会議に引続き、昨年六月から八月にかけてパリ及びワシントンで数回にわたり開催された第八回対インド援助国会議では、インド第三次五カ年計画第三年度への所要援助額が討議され、その結果、新規に一〇・五二億ドルの援助が約束され、インドが第三年度に必要とする外国援助の大半の調達の見とおしがついた。
これにより三カ年にわたるコンソーシアムの対印援助総額は三四・一七億ドルに達することとなった。
インド及びパキスタンはそれぞれ本年四月及び七月から、インドは計画第四年度、パキスタンは最終第五年度に入ることとなるが、両国に対する援助を討議するため、援助国会議も、インドについては本年三月パリにおいて準備会議を開いてインド経済のレビューと所要援助額を討議し、五月末ワシントンで本会議を予定しており、パキスタンについては五月末ワシントンで準備会議開催の予定となっている。
わが国は、両会議の当初からのメンバーとして上述会議に引続き参加し、インドに対しては上述の第八回会議で六千五百万ドル、パキスタンに対しては、三千万ドルの円借款を新規に供与する用意がある旨を表明し、これに基き昨年九月末および十月末それぞれインド、パキスタンと新規円借款の細目につき話合を行ない、両国政府と輸出入銀行及び借款参加の甲種為替銀行十二行との貸付契約が調印され発効している。これらの円借款は、五年の据置期間を含め十五年返済の条件で供与され、金利も従来の円借款より若干引下げられて年率五・七五パーセントとなっており、インドについては、ドルガプール特殊鋼工場、ゴラクプール及びクジラット両肥料工場その他のプロジェクト及び日本から輸入される機械部品等開発資材に使用され、パキスタンについてはチッタゴン製鉄所、東パキスタン・レーヨン工場、ソーダ灰工場、西パキスタンPVC工場、等に使用される予定である。
(2) 「協議グループ」の結成
世銀が斡旋して作られている援助国の協議機関のうち「援助国会議」は、ある国の経済開発計画自体を討議し、参加各国が援助を供与することを前提として各国の援助の調整と、所要援助額全体の調達を努力目標としているのに対し、「協議グループ」は、必ずしも援助の供与を前提とせず、世銀の調査、報告を中心として、各国援助努力の効率を高めるための協議、調整を図る場として組織されている。「協議グループ」の結成に際しては、DACの「調整グループ」との重複、競合をさけるため十分の考慮と事前の調整が行なわれており、国際金融機関としての世銀の経験とその機能を十分に活用できるよう配慮されている。
現在までに、ナイジェリア(一九六二年四月発足)、チュニジア(一九六二年五月発足)、コロンビア(一九六三年一月発足)、スーダン(一九六三年十一月発足)、の四国について協議グループがつくられているが、わが国も開発援助においての国際協調に協力する意味からナイジェリア、コロンビアおよびスーダンの「協議グループ」に参加している。これらの各「協議グループ」では、それぞれの国の経済開発計画に対する援助を中心に討議が進められている。
世銀は、前述の四国以外にもチリに対し調査団を派遣し、開発計画の検討をすすめており、「協議グループ」の結成を検討中である。
この種グループの活用は、DACの活動とともに、今後開発援助に関する国際協調・協議・調整を行なう有効な場となることが期待されている。
コロンボ計画は、南および南東アジア諸国の経済開発の促進と生活水準の向上を目的として一九五〇年に設立された協力機構であって、最高機関としての協議委員会とその下部機関としての技術協力審議会からなっている。協議委員会は、域内の経済開発の進捗状況および援助の実績を検討し、加盟諸国の経済協力の促進をはかるのに対し、技術協力審議会は、二国間方式で域内諸国に対して実施される技術援助の一般的調整と検討を行なう。コロンボ計画は、当初いずれも英連邦諸国のみを加盟国としていたが、その後同連邦以外の諸国も加盟し、現在、域内の被援助国十六と日本を含む域外の援助国六からなっている。このほか事務局があって、技術援助の実績の記録とコロンボ計画全般についての広報活動の任にあたっている。
わが国は、一九五四年に加盟して以来、右二機関において、この地域の開発問題の審議に積極的に参加するとともに、技術協力を活発に実施している。
コロンボ計画協議委員会の第十五回会議は、一九六三年十月三十一日から十一月十四日までタイのバンコックで開かれ、わが国からは古池郵政大臣が代表として出席した。
本会議で特に問題となった点は、次のとおりである。
(1) 加盟問題
今次会議では、アフガニスタンと英国の保護領マルディブ諸島がコロンボ計画機構への加盟を申請したが、マルディブ諸島の加盟のみ承認された。しかしながらその後、同会議でアフガニスタンの加盟を留保していたカンボディアが賛意を表明したので、一九六四年三月同国の加盟も実現した。
(2) 域内技術訓練顧問の設置
コロンボ計画では、かねてより「域内訓練の強化」が強調されていたが、この方策の一つとして事務局に域内技術訓練顧問(Adviser on Intra-Regional Training)のポストを設け、他方各国に連絡官をおいて域内の技術者養成拡大のためより有効な調整機能を果たさせることとなった。
(3) 人的資源開発計画の問題
特別議題「経済開発のための労働力計画」が審議され、中級レベル労働力の不足が指摘されるとともに、各国が経済開発計画の策定に際し、適正な人的資源の開発が重点事項として採用されなければならないことが強調された。
(4) 貿易と援助の問題
低開発国の経済開発のためには、援助より貿易の方が重要であることが指摘され、一次産品の価格安定と低開発国の輸出拡大・促進が強調された。
(5) 事務局長の選任
一九六三年十二月をもって松井事務局長の二年間の任期が満了となったので、新たに後任事務局長の選出が行なわれ、オーストラリアのアレンが任命された。