二 国際連合における活動その他の国際協力
国際連合第十八回総会の審議
国際連合第十八回総会は、一九六三年九月十七日開会し、同年十二月十七日にその議事を終了して閉会した。
この総会を通じて見られた国連の動向とわが国の立場については、前章において一般的にふれたとおりである。ここでは、総会におけるわが国の活動を概観する。
国連第十八回総会に臨むわが国代表団の構成は、つぎのとおりであった。
政府代表 大 平 正 芳 外務大臣
〃 松 井 明 国連常駐代表
〃 福 島 慎 太 郎 ジャパン・タイムス社長
〃 牛 場 信 彦 駐カナダ大使
〃 千 葉 皓 国連代表部大使
〃 服 部 五 郎 駐セネガル大使
顧 問 高 橋 覚 外務省国連局長
代表代理 力 石 健 次 郎 外務省国連局参事官
代表代理 人 見 宏 国連代表部参事官
〃 横 田 弘 国連代表部参事官
〃 中 村 輝 彦 外務省国連局政治課長
〃 久 米 愛 日本婦人法律家協会会長
大平外務大臣は九月二十日の総会本会議において一般討論を行ない、概要つぎのとおりのべた。
(1) 全人類は今や生においても死においても互いに深くかかわり合い、真にその運命を共にするに至っている。われわれは是非とも平和を確保しなければならないが、対立を緩和し、あるいは不信を解消するためには忍耐をもって不断の努力を続けることが必要であり、この点については特に大国が重大な責任を有している。
(2) 八月五日、米英ソ三カ国によって調印された部分核禁条約は、地下実験を除外している点で不完全なものではあるが、目標に向って更に前進するための貴重な足掛りとなりうるという点にこの条約の重要な意義がある。わが国が他の諸国と共にこの条約に参加したのも、かかる条約の意義を認めたからに他ならない。
わが国は、従来から一貫して、核兵器実験禁止の問題を重視し、このため、すみやかに効果的な国際管理の原則に基づいた取決めを成立させるよう主張してきた。それは、かかる国際管理の原則に基づいた取決めの成立が、一般軍縮を促進する契機となると考えたからに他ならない。
(3) 全面完全軍縮問題については、第一に軍事力の均衡、安全保障上の要請を考慮し、第二に大国が責任をもって関与することが不可欠の要件である。例えば、核保有国でない国がいかに核非武装を唱えても、それのみによっては積極的解決とならない。この際特にこの面における大国の責任の重大さを指摘しておきたい。
(4) 植民地の独立は、現在国連が緊急に解決しなければならない問題である。植民地主義は人類の進歩に逆らうものとして、あくまでこれを排撃しなげればならない。この点において、第十五回総会が植民地独立付与宣言を採択したことは意義深く、この宣書の精神が十分に実現されるに至ることを切望する。
(5) 独立を達成したアフリカ諸国の進展を祝福したい。殊にアディス・アベバにおいてアフリカ諸国が採択したアフリカ統一憲章は、単にアフリカのみならず、世界の歴史にとって画期的な意味をもつものである。
(6) 人種による差別撤廃の問題も緊急に解決を要する問題である。最近、特定の地域において人種による差別が益々強化される傾向にあることは極めて遺憾なことである。関係国が国連憲章の精神に立ちかえり、人種による差別撤廃に向って努力するよう切望する。
(7) 開発途上にある諸国の経済的進歩と繁栄をはかることは、永続的平和を確保する基礎的条件として大きな意味をもっている。いわゆる南北問題の解決にこそ国連の果しうる重要な役割があり、国連貿易開発会議の開催は、この分野での国際的努力の現われと言えよう。わが国は、国際連合のかかる建設的な事業に対し引き続き積極的に協力し、開発途上にある諸国の経済的自立達成に寄与したい。ことにわが国と地理的に近接しているアジア諸国との経済協力、技術協力、には特別の考慮を払いたいと思う。
(8) 貿易の拡大については、先進諸国と後進諸国との間に調和的関係が保たれねばならない。貿易障害の撤廃については、すでに、ガット等の場を中心として国際的盛り上りがみられるが、開発途上にある諸国の側においても輸出可能な商品の発見、開拓につとめることが肝要であろう。
(9) コンゴーにおける国連の活動等、国連の平和維持活動は極めて重要な意義をもつものであるが、我が国としてはこの際、特に、国連の平和維持活動経費については集団責任の原則が貫かれねばならないことを強調しておきたい。
国連における中国代表権問題は第十八回総会においても実質審議に付されたが、その審議概要はつぎのとおりであった。
一九六三年九月十六日、従来、本件に関する議題採択要請を行なって来たソ連に代り、アルバニアは「国連での中華人民共和国の合法的権利の回復」と題する議題の採択を要請し、九月二十日の総会本会議において、これが正式に議題として採択された。次いで十月十一日、アルバニアは、本件に関し「蒋介石の代表をすべての国連機関から排除することを決議し、中華人民共和国政府に対し、国連のすべての機関において中国の席を占めるよう勧奨する」旨の決議案を提出した。十月十四日、右決議案にはカンボディアが共同提案国として参加した。
十月十六日、総会本会議は、中国代表権問題に関する審議を開始、同月二十一日まで一般討論を行なった。この間、総計五十一カ国が発言したが、我が松井代表は、十月十六日、「中国代表権問題は極東の平和と安全に密接に関連する問題であるので、慎重なる検討を必要とするが、アルバニア・カンボディア決議案は本件の平和的解決とは正反対の効果をもつものと考えられるので、強く反対する。本件の解決は中共・国府両政権の国連に対する態度を考慮に入れ、かつ、憲章の目的と原則とに照して、検討されねばならない」旨の発言を行なった。
十月二十一日、総会本会議は前記決議案を表決に付し、これを、賛成四十一、反対五十七(我が国を含む)、棄権十二、欠席一をもって否決した。
国連第十八回総会は、「核実験停止の緊要性」を議題として採択するとともに、第一委員会においてこれを審議した。
右審議においては、大多数の諸国より、「部分核禁条約の調印を歓迎し、できるだけ多数の国がこれに署名するよう要望するとともに、関係国がさらに全面核禁条約締結のため一層努力するよう要請する」趣旨の発言がなされた。
わが松井代表は、十月二十二日の第一委員会において、大要つぎのとおり発言した。
(イ) 有効な核実験禁止を実現するための我々の努力の歴史は、これまで希望と幻滅の連続であったが、今回の部分核禁条約の成立は、放射能害の危険を大幅に減じ、かつ問題解決に手がかりを与えるものであり、原爆被災国として国連加盟以来本件協定達成を訴えつづけてきた日本としては、喜びにたえず、関係諸国の尽力を多とする。
(ロ) しかしながら、本条約は地下実験による核兵器の開発を容認しており、また第四条の恣意的解釈による、実験の全面的再開の可能性を排除しておらず、その限りにおいて、全人類の熱望を完全に満たしているとはいえない。
(ハ) したがって、本条約の価値は充分評価しつつも、これを土台として、我々の依然当面している尨大な課題解決のため、さらに一層の努力を尽すことが必要である。この場合第一の課題は、部分核禁条約の未署名国を説得して本条約に加入せしめることであり、第二の課題は、条約の適用範囲を地下実験をも含む全面的なものとすることである。後者に関しては、検証および管理の問題が依然障碍となっているが、この点については、我々のすべてが、妥当な科学的証拠により、地下実験についてかかる措置が不要である旨を納得しない限り、有効かつ信頼しうる検証措置に関する合意達成のための努力を継続すべきであることを強調したい。
結局十一月二十七日の本会議において、フランスを除く十八カ国軍縮委全委員国および日本を含む三十カ国提出の決議案に基づく要旨つぎの決議が、一〇四(日本を含む)対一(アルバニア)、棄権三(中央アフリカ、フランス、ギニア)をもって、採択された。
「総会は、
核兵器実験問題に関する総会の責任および本件に関する世界の世論を十分認識し、
一九六三年八月五日米英ソ三国によって署名され、かつその後その他の大多数の国によって署名された部分核禁条約を承認し、
右条約前文において当事国が「核兵器のすべての実験的爆発の永久的停止の達成を求め」かつ「その目的のために交渉を継続することを決意」すると述べていることを満足をもって注目し、
1 すべての国に対し、条約の当事国となり、その精神および条項を遵守するよう要請し、
2 十八カ国軍縮委員会会議に対し、部分核禁条約前文に掲げられた目的を達成するため交渉を継続するよう要請し、
3 十八カ国軍縮委員会に対し、可及的速やかに、いかなる場合においても、第十九回総会までに、総会に報告するよう要請し、
4 事務総長に対し、核実験問題が討議された本会議および第一委員会会議の文書および記録を十八カ国軍縮委員会の利用のため提供するよう要請する。」
ジェネーヴ十八カ国軍縮委員会は、一九六三年二月十二日会議再開後六月二十一日まで、および七月三十日から八月二十九日まで、フランス欠席のまま、全面完全軍縮、部分的措置および核兵器実験禁止の各問題の審議を行い、同年九月一日から国連第十八回総会での核禁および軍縮関係議題の審議終了までの間第五次休会に入った。
右会期においては、全面完全軍縮問題については、東西の基本的立場に何らの変化もなく、格別の進展もみられなかったが、全面完全軍縮の達成に寄与すべき部分的措置の一つとして、米国が従来より提案していた偶発戦争の危険防止のための米ソ両国政府間の直通通信線いわゆる「ホット・ライン」の設置にソ連が同意するに至り、両国間において細目交渉が行なわれた結果、六月二十日「直通通信線の設置に関する米ソ両国間の諒解に関する覚書」が調印され、八月三十日、同通信線が開通した旨発表された。
国連第十八回総会は、「全面完全軍縮問題-十八カ国軍縮委員会報告」を議題として採択するとともに、これを第一委員会において審議した。
同委員会審議に先立ち、グロムイコ・ソ連外相は、総会一般討論において、(イ)一九六四年上半期における十八カ国軍縮委員会首脳会議開催および(ロ)一定限の核運搬手段および核弾頭の米ソ両国による、第三段階終了時までの、保有の承認、を提案するとともに、(ハ)宇宙空間における軍備競争を防止するため核兵器を装てんした物体を宇宙空間の軌道に打ち上げることを禁止する協定を米ソ間で締結することが必要であり、米国とそのための話合いを続ける用意がある旨述べた。これに対し、ケネディ米大統領も、同じく一般討論において、宇宙空間に大量破壊兵器を打ち上げないための取決めに関する提案についてのソ連の肯定的態度に歓迎の意を表明した。
第一委員会は、軍縮問題の審議にあたり、まずこの問題をとりあげ、十月十六日、フランスを除くメキシコ等十八カ国軍縮委構成十七カ国の共同提案に基づき、「核兵器その他大量破壊兵器の軌道打上げの意思なしとの米ソ両国の意向表明を歓迎するとともに、すべての国に対し本件行為を差し控えるよう要請する」趣旨の決議をアクラメーションをもって採択し、翌十七日総会本会議も同様アクラメーションをもってこれを承認した。
わが国は、右審議において、人見代表代理より、「日本は従来から宇宙空間の探査および利用が人類の福祉のために行なわれるべき旨および宇宙空間が平和目的に限らるべき旨強調してきたが、今般、大量破壊兵器軌道打上げ禁止につき関係国間に話合いがついたことを喜ぶ。本決議案には法的拘束力がなく、また査察の規定もないが、東西の緊張緩和、信頼感の回復、宇宙空間における軍備競争の防止に資し、宇宙空間における平和的秩序の確立のための重要な措置となるものであると考えられるので、関係国の叡知を賞し、事件決議案を支持する」との趣旨を発言した。
軍縮問題の審議においては、大多数の諸国より、ワシントン・モスクワ間の直通通信線の設置、部分核禁条約の調印および核兵器等大量破壊兵器の宇宙軌道打上げ禁止に関する総会決議の採択を歓迎し、これらの意義を強調するとともに、ジュネーヴ十八カ国軍縮委員会に対し、全面完全軍縮に関する交渉を継続する一方、とくに各種部分的措置の早期実現に努力するよう要望するとの発言がなされた。
結局、一月二十七日の総会本会議において、当初ナイジェリア、日本等四十七カ国から提出され、その後ソ連の意向を考慮して改訂された四十九カ国提出の、「十八カ国軍縮委員会に対し、善意と相互妥協の精神をもって全面完全軍縮に関する交渉を再開するとともに、国際緊張を緩和し、戦争の可能性を少なくし、かつ全面完全軍縮に関する合意を促進するに役立つ諸措置についての合意探究のため努力し、一九六四年九月一日までに包括的報告を総会に提出するよう要請する」趣旨の決議案がアクラメーションをもって採択された。
わが松井代表は、十月三十一日の第一委員会において、大要つぎのとおり演説した。
(イ) 本年に入り、軍縮交渉の歴史において非常に実質的意義をもつ三つの成果-ワシントン・モスクワ間の直通通信線設置のための合意成立、部分核禁条約の締結および核兵器等の宇宙軌道打上げ禁止に関する総会決議の成立-がみられた。これらはいずれも限定されたもので、真の意味における軍縮措置とはいえず、従って軍備競争の停止をもたらすものではないが、これらを過少評価することなく、全面完全軍縮の目標に向ってさらに前進するために生れてきた新しい精神を十二分に活用すべきである。
(ロ) そのための最善の方法の一つは、各種のいわゆる部分的措置ないし側面的措置の審議を促進することである。かかる意味において、核兵器等の軌道打上げ禁止に関する総会決議の文書および精神が核保有国を含むすべての国によって遵守されるよう希望するが、米ソ直通通信線協定を補完し、偶発、誤算または奇襲による戦争防止の可能性を更に発展させるための措置として、地上監視所設置、軍事移動の事前通告ないし軍事ミッションの交換等の提案を慎重に検討すべきである。
(ハ) 核非武装地帯設置の問題については、各地域の特殊条件および世界全体の平和と安全におよぼす影響を十分考慮に入れつつ、その実効性という観点から検討しなければならない。前総会で明らかにしたとおり、非核地帯の現実的設置のためには、(a)当該地域が、核保有国から距離的に遠いかまたは核兵器が現に配備されていない地域であること、(b)核保有国を含む関係諸国すべての合意があること、(c)査察、検証を含む適切な保障措置が伴なうこと、および(d)当該地域を核非武装化することにより全世界的規模での力の均衡を崩さないこと、の四条件が満たされなければならない。
(ニ) 軍縮の一般原則としては、軍縮は、国際の平和と安全との関連において、厳格かつ有効な国際管理の下で、実行可能な措置から着手し、漸進的にその範囲を拡大していくべきであり、最近の諸事件はかかる方法の妥当性を明確に証明している。
(ホ) 核兵器運搬手段の撤廃時期に関するグロムイコ提案については、意見の相違を減少せしめるためのソ連の努力の証左として、これをテイク・ノートする。一時は克服困難と思われた見解の相違も大国の勇気ある努力により相当狭められた事実に注目せざるをえない。十八カ国軍縮委員会は意見の相違を一層縮少することの可能性の探究につき努力を継続していくものと確信する。
なお、同総会においては、前記のほか、「ラ米の核非武装化」および「核兵器使用禁止条約署名のための会議召集問題」の両議題が審議されたが、前者については、十一月二十七日の総会本会議において、ブラジル等ラ米十一カ国提出の「国連憲章及び地域的取極の諸原則に従い、かつ適当とする手段、経路を通じ、ラ米地域の非核武装に関する一九六三年四月のラ米五カ国首脳宣言の目的達成のための諸措置に関する研究をラ米諸国が適宜開始するようにとの希望を総会が表明する」趣旨の決議案が九一対〇、棄権十五をもって、また後者については、エティオピア等十四カ国提出の、「十八カ国軍縮委員会に対し、本件会議召集問題を緊急に検討し、第十九回総会に報告するよう要請する」趣旨の決議案が六十四対十八、棄権二十五をもって、それぞれ、採択された。
わが国は、ラ米核非武装化決議案については、(1)本決議は単にラ米核非武装化地帯設置のための諸条件に関するラ米諸国間の研究開始についての精神的支持を求めているものと了解する、(2)核非武装化地帯設置についてのわが国の見解は依然不変である、(3)わが国の本件賛成投票は他の地域における核非武装化地帯設置についての同種試みに対して先例を開くものと解すべきではない、との趣旨の投票理由の説明を行なって、賛成投票し、また、核兵器使用禁止条約署名のための会議召集問題に関する決議案については棄権し、投票理由の説明において、核兵器使用禁止の問題は他の軍縮措置と密接な関連を有し、従って本問題は全面完全軍縮との関連においてはじめて現実的に考慮しうるにもかかわらず、本決議案は十八カ国軍縮委に対し、これを他の軍縮措置と切り離してとりあげ、かつ本件条約の署名及びそのための会議召集という特定の問題を検討するよう要請しているので棄権した旨述べた。
南アフリカ共和国政府の人種隔離(アパルトヘイト)政策に起因する人種差別問題は、一九五二年の国連第七回総会以来毎総会において審議され、総会はその都度南ア政府に対し、その人種政策を再考するよう呼びかける決議を採択してきた。しかし、南ア政府は、このような総会の度重なる決議を無視し、各種立法措置を講じてその政策を推進し続ける一方、本問題を国連において審議することは、同国に対する内政干渉であるとの従来の主張を繰返し、第十六回総会を除き、特別政治委員会における本問題の審議に参加することを拒否してきた。
かかる南ア政府の態度は、AA諸国、とくに、ガーナをはじめとするアフリカ諸国の同政府に対する非難、攻撃を激化せしめ、南ア政府に対して強硬な制裁措置を求める動きを助長した。一九六二年の第十七回総会においては、AA諸国の提案により、南アとの外交・経済関係の断絶および国連からの除名を含む適当措置の検討、並びに、本問題を審議するための特別委員会の設置等を含む決議が採択されたが、南ア政府は、依然これを無視したのみならず、さらに、軍事警察力を増強する一方、一連の取締法令を施行してアパルトヘイト政策に反対する者およびその家族に対する弾圧を強化するが如き措置をとった。
このような事態を審議した「南アのアパルトヘイト政策に関する特別委員会」は、一九六三年五月、七月および九月の三回に亘り総会および安全保障理事会に報告書を提出し、南ア政府のアパルトヘイト政策の推進状況、人種紛争と住民弾圧の実態等を指摘して、事態の緊急かつ重大性にかんがみ、速やかに安全保障理事会を開催して然るべき措置をとるよう要請するとともに、総会がより強力な政治的、経済的および外交的制裁措置をとるよう要請した。
一方、安全保障理事会も、アフリカ諸国の要請に応じ、二回に亘って本問題の審議を行ない、八月七日には、「すべての国に対し、武器、弾薬、軍用車輛を南アに売却または積荷することを直ちに停止するよう要請する」趣旨の条項を含む決議を採択し、さらに、十二月四日には、「すべての国に対し、南アにおける武器、弾薬の生産および維持のための設備および資材を南アに売却または積荷することを直ちに停止するよう要請する」趣旨の条項を含む決議を採択した。
第十八回総会における本問題の審議は、十月八日から特別政治委員会で行なわれた。AA、とくに、アフリカ諸国は、南アに対する非難、攻撃を行なったが、更に、南ア政府のかかる政策の継続は、西欧諸国、とくに、南アの主要貿易相手国の責任であるとして、米、英、仏、伊、独、オランダ、ベルギー、わが国等を非難するとともに、南アに対してより強硬な制裁措置をとるよう強調した。北欧諸国は、南アに対する圧力を漸進的に強化する一方、アパルトヘイトに代えて、すべての者に平等な権利を与え、真に民主的な多人種社会を創設すべきであり、かかる改革への過渡期における諸計画立案のため、専門家グループを設置することを提唱した。また、西欧諸国は、総会は制裁措置をとるべきではなく、あくまでも説得により、アパルトヘイト政策を終止せしめるべきことを強調した。
わが国は、従来から、基本的には人種差別政策に反対であるが、南ア政府をして、その政策を放棄せしめる最善の方法は、全加盟国の支持のもとに、南ア政府に対して道義的圧力をかけ、その反省を促すことであり、経済・外交関係の断絶、国連からの除名等の制裁措置は、関係諸国すべてが参加しない限り、実効を期し得ないのみならず、元来安全保障理事会の専管事項であって、総会の権限外であるからこれを支持し得ずとの立場を一貫してとってきており、福島代表は、十月二十三日、特別政治委員会における発言において、わが国が前記の立場から、第十七回総会において、制裁条項を含むAA決議案に反対した理由を説明するとともに、われわれの最大の関心事は、多数の南ア住民の基本的人権と自由を保証することであり、この意味で、北欧諸国の構想は検討に値するものであるので、南ア政府がこの北欧諸国の訴えに応え、気分を一新して、多人種社会創設に努力するよう強調した。
総会は、十月十一日、わが国を含むAA五十五カ国提案の、「南ア政府に対し、同国政府が行なっているアパルトヘイト反対者に対する恣意的裁判を即時停止し、すべての政治犯および投獄、拘禁その他の制約を受けている人々を無条件に釈放するよう要請する」趣旨の決議を、賛成九九、反対二、棄権〇で採択し、さらに、十二月十六日、AA諸国提案の、「南ア政府により迫害を受けているアパルトヘイト反対者の家族を救済、援助する」趣旨の決議を、賛成九九、反対二、棄権二で、また、「すべての国に対し、南ア政府をしてアパルトヘイト政策を思い止まらしめるための努力を強化するよう、また、一九六三年十二月四日の安全保障理事会決議を完全に履行するよう要請する」趣旨の決議を、賛成一〇〇、反対二、棄権一でそれぞれ採択した。
一九四五年に国連が創設された時の加盟国(原加盟国)は五十一カ国であったが、その後加盟国の数は逐年増加し、一九六三年末には一一三カ国となった。この加盟国増加の主因は、アジア・アフリカ地域において独立国が飛躍的に増加したことにあるが、他方、国連憲章は、安全保障理事会および経済社会理事会の議席数をそれぞれ十一および十八と規定した当時のままである。従って、AA諸国を主体とする多数の新規加盟国は、両理事会において公正に代表されていない現状にあり、かかる諸国は、近年、国連憲章を憲章第一〇八条の規定に従って部分的に改正し、両理事会の議席数を増加すべしとの希望を強く表明し、共産圏を除く加盟国の大部分も同様の意見をもっていた。
本問題は、一九五六年の国連第十一回総会において採り上げられて以来、しばしば審議されてきたが、とくに、一九五九年の第十四回総会においては、「新加盟国の公正な代表の機会を確保するため、両理事会の議席を増加することが望ましい」旨の決議が採択された。
一方、経済社会理事会においても、議席増加問題が懸案となっていたが、とくに、一九六三年夏の第三十六回理事会において、「アフリカ諸国の適正な代表を確保するために、総会があらゆる措置を講ずべきである」とのアフリカ地域経済委員会提出の決議案の審議を契機として、本問題が具体的に採り上げられ、結局、同理事会は、「国連加盟国の増加に鑑み、経済社会理事会の議席増加について、国連第十八回総会において必要な措置がとられるよう要請する」との趣旨の決議を採択した。
わが国を含むAA四十四カ国国連常駐代表は、一九六三年九月十六日付国連事務総長あて書簡をもって、「安全保障理事会および経済社会理事会における公平な代表問題」を第十八回総会の議題として採択方要請するとともに、「一九四五年以来六十の新独立国が国連に加盟したが、その大部分はアジア・アフリカ諸国であり、今やAA諸国は、全加盟国の半数以上を占めるに至った。かかる情勢の発展および将来加盟国数の増加が予想せられることにかんがみ、国連加盟国数の増加を反映するより公正な代表を確保するために、両理事会の構成について再検討することが必要となっている」趣旨の説明覚書を添付した。
第十八回総会における本問題の審議は、十一月二十七日から特別政治委員会において行なわれた。アルバニアを除く共産圏諸国が、中華人民共和国の代表権が回復され、同共和国が安全保障理事会の常任理事国として参加しない限り、両理事会の議席増加には応じ得ず、AA諸国等に公正な代表の機会を与えるためには、現存議席を再配分すれば十分であると主張したのに対し、AA諸国、ラ米諸国および西欧諸国の大部分は議席増加に賛意を表した。米、英、仏等は、適正規模での議席増加は支持するとの態度を表明しつつも、議席増加の規模について、各地域グループ間に意見の相違がみられるので、第十九回総会まで決定を延ばし、その間に各地域間で十分協議を行なうよう主張した。
この間、ラ米国諸国は、安全保障理事会および経済社会理事会の議席をそれぞれ十三および二十四に増加することを提案し、AA諸国は、それぞれ十五および二十七に増加することを提案したが、両グループ間で協議の結果、AA、ラ米両グループの共同提案として、「憲章の関係条項を改正して、安全保障理事会の議席を十五に増加し、非常任理事国十カ国の地域別割当てをAA五、東欧一、ラ米二、西欧二とし、経済社会理事会の議席を二十七に増加し、九追加理事国の割当てをAA七、ラ米一、西欧その他一とし、これらの改正につき、一九六五年九月一日までに批准を求める」趣旨の決議案が上提され、十二月十七日の本会議において、安全保障理事会関係については、賛成九七、反対一一、棄権四で、また、経済社会理事会関係については、賛成九六、反対一一、棄権五で、それぞれ採択された。
本決議案表決に際し、わが国を含むすべてのAA諸国、ラ米諸国、および、大部分の西欧諸国は賛成したが、アルバニアを除くすべての共産圏諸国とフランスは反対し、英、米等は棄権した。なお、ソ連は、一九六三年十二月二十二日の外務省声明等により、本問題に関する妥当な解決方法を見出すため、あらためて各国と協議したいとの意向を表明したが、この提案の真意ならびにこれに対する各国の反応は未だ明らかでない。
国連第十五回総会(一九六〇年)は植民地問題に関し、「その形態のいかんを問わず、あらゆる植民地主義を急速かつ無条件に終結せしめる必要を厳粛に宣書する」との趣旨の植民地独立付与宣言を採択したが、翌第十六回総会は、「植民地独立付与宣書の履行を確保するため、米、英、仏等植民地施政国およびアジア・アフリカの旧植民地より独立した諸国を含む十七カ国より成る植民地独立付与宣言履行特別委員会を設置し、未だ独立を達成していない地域における植民地独立付与宣言の履行状態を調査した上、これら各地城の独立問題に関する特別委員会の見解および勧告と共に、総会に報告することを要請する」趣旨の決議を採択した。
同特別委員会は、この後直ちに構成されて活動を開始し、報告書を作成したが、第十七回総会は、この報告を基礎として、本問題を検討した後、特別委員会の構成国を二十四カ国に拡大することを決定した。
同特別委員会は一九六三年、南北ローデシア、ニアサランド、南西アフリカ、英領ギアナ、アンゴラ等ポルトガル領非自治地域、ベチュアナランド等英国高等弁務官地域等二十数地域における植民地独立付与宣言の履行状況を調査した上、同委員会の見解および勧告を付して総会に報告書を提出した。
第十八回総会は、右特別委員会報告を基礎とし、植民地問題一般に関する検討を行なうと共に、委員会報告に盛られた各地域の問題について審議を行なったが、その審議概要は次のとおりであった。
なお、南ローデシア、南西アフリカ、ポルトガル領の三地域の問題は、それぞれ第四委員会において、別途審議された。
(1) 植民地独立付与宣言履行に関する一般問題の審議
総会本会議は、十一月二十七日より十二月十一日まで、同宣言履行に関し、各地域関係事項とともに、一般事項につき審議を行なった。
先ず、二十四カ国特別委員会のAA(アジア・アフリカ)諸国が作成した決議案がAA会議で審議され、これが十二月九日本会議に提出された。同決議案主文概要は次のとおりであった。
「総会は、(イ)特別委員会に対し、未だ独立を達成していないすべての地域に対して、植民地独立宣言が速やかに、かつ全面的に、適用されるための最良の方法を探究し、第十九総会までに報告を提出するよう要請し、(ロ)施政国が特別委員会との協力を拒否し、総会諸決議を無視し続けていることを遺憾とし、(ハ)特別委員会に対し、その権限内にあるすべての地域における国際の平和と安全を脅かす虞れのある事態に関し、安保理に通報するよう要請し、(ニ)全加盟国に対し、植民地独立宣言適用のため、特別委員会および総会が採択した諸決議の履行を妨げるいかなる行為をも慎むよう要請し施政国に対し、特別委員会に充分協力し、その施政地域を訪問するため特別委員会が設置する小委員会ないし現地調査団に対し、便宜を与えるよう要請する。」
本会議は、右決議案を、賛成九十五(わが方を含む)、反対〇、棄権六をもって採択した。
わが千葉代表は、投票理由の説明において、「一般事項に関し、大平大臣が一般討論演説で述べた如く、残存せる植民地主義は人類の進歩に逆行するものとして、あくまでも排撃しなければならないと考える。主文第三項(特別委員会の報告を承認)については留保せざるを得ないが、決議案の全体の趣旨は、本問題解決のため建設的であると考えるので、決議案全体に賛成する」旨述べた。
(2) 南ローデシア問題
総会は、南ローデシア問題を、南ローデシアに関する二十四カ国特別委員会報告と共に、先ず第四委員会において審議した。十月三日AA四十四カ国は、「英国政府に対し、いかなる権限および軍隊も南ローデシア現政府に移譲しないよう要請する」旨の決議案を同委員会に提出し、七日、これが賛成八十五、反対二(ポルトガル・南ア)、棄権十一(わが方を含む)をもって可決されたが、十四日本会議においても同決議案は賛成九十、反対二、棄権一三(わが方を含む)をもって採択された。
また、十月十六日、AA会議の起草小委員会の作成した南ローデシアに関する第二決議案が、第四委員会に提出された。右決議案は、AA等四十六カ国の共同提案によるものであったが、その主文要旨は次のとおりであった。
「総会は、(イ)南ローデシア住民の自決と独立の固有の権利を再確認し、(ロ)英国が南ローデシアに関する総会諸決議を履行しないことを遺憾とし、(ハ)英国政府に対し、南ローデシアにおいて普通選挙に基く多数支配が確立するまで現在の少数政府の独立への要求に応じないよう、また同地域のあらゆる政党の代表を含む独立のための制憲会議を開くよう要請し、(ニ)全加盟国に対し、南ローデシア住民の正当な要求を実現するため、できる限り影響力を行使するよう要請し、(ホ)事務総長に対し、同地域における和解を促進するための仲介を続けるよう要請する。」
十八日第四委員会は右決議案を賛成七十七、反対二(ポルトガル・南ア)、棄権十九(わが方を含む)をもって採択し、
本会議も十一月六日、これを賛成七十三、反対二(第四委と同じ)、棄権十九(わが方を含む)をもって採択した。
(3) 南西アフリカ問題
第四委員会は、十月二十二日より十一月八日まで南西アフリカ問題を審議し、十一月十三日、本会議において採択された決議一八九九(XVIII)に基いて南アが本問題に関する回答を事務総長に提出した後、再び本件の審議を行なった。
同委員会は、まず請願人の陳述を聴取した後、一般討論を行なったが、その際、わが千葉代表は、「世界の世論や度重なる総会決議にも拘らず、南ア政府が南西アフリカにおいてアパルトヘイト政策を強化し、南西アフリカ住民を弾圧していることは遺憾であり、われわれは効果的な国連プレゼンスの設立のための、積極的かつ実際的な方法に注意を集中すべきである」との趣旨の演説を行なった。
十一月五日AA三十八カ国は、主文要旨下記の如き決議案を第四委員会に提出した。
「総会は、(イ)南西アフリカ住民の国家的独立と主権に対する固有の権利を厳粛に再確認し、(ロ)南ア政府が、国連憲章の諸原則の履行と総会決議の実施につき国連への協力を拒否しつづけていることを再び非難し、(ハ)南西アフリカの領土の一部または全部を併合しようとするいかなる試みも侵略行為を構成するものと考え、(ニ)南西アに現存する危険な事態につき安保理の注意を喚起し、(ホ)すべての国に対し、いかなる兵器、軍需品の供給およびいかなる石油ないし石油製品の供給をも禁止する等の措置をとるよう要請し、(ヘ)二十四カ国特別委員会に対し、事務総長および国連の諸機関と協力して、南西アフリカに利権を有する鉱業およびその他の国際企業の活動のもつ意義につき検討し、これら活動が及ぼす経済的、政治的影響およびその運用の態様を調査し、これら問題に関し、国連第十九回総会に報告することを要請し、(ト)事務総長に対する南アの回答提出直後、本問題の審議を再開する。」
これに対し、米国は、「前文の『南西アフリカにおける危険な事態の継続は国際の平和と安全に対する重大な脅威となることに関心を表明する。』との部分を、『南西アにおける事態は国際摩擦の危険な原因となることに関心を表明する』と改め、前記要旨の(ハ)の部分を『南ア政府が、南西アの領土の一部または全部を併合しようとする試みは委任統治条項と国際法に反するものである』とし、同(ニ)の部分を、『南西アにおける事態は国際摩擦の危険な原因となるものであることを決定する』とし、同(ホ)の後半の石油および石油製品の禁輸の部分を削除し、同(ヘ)の部分を削除し、新たに、『事務総長に対し、南西アにおける鉱業およびその他の国際企業ならびにこれらが南西ア住民に及ぼす影響につき調査のための準備をするよう要請する』との規定を設ける」との修正案を提出したが、十一月八日、第四委員会は同修正案の全項目を否決した後、本決議案全体を賛成八十二、反対六、棄権十六(わが方を含む)をもって採択し、本会議も十一月十三日、本決議案を賛成八十四、反対六、棄権十七(わが方を含む)、をもって採択した。
なお、右決議案と同時に、第四委員会および本会議において、同地域における請願に関する決議案および特別訓練計画に関する決議案が、それぞれ異議なく採択された。
わが国は、第四委員会における前記三十八カ国決議案表決に先立ち、要旨左記の如き投票理由の説明を行なった。
「わが国は、決議案の一般的動機をよく理解しており、総会が、南アの国際義務違反を遺憾とし、アパルトヘイト政策への強化につき関心を表明することには深く同情しており、わが国としては、南アが世界の世論に応え、国際的責任を自覚するよう強く望みたい。本決議案の主文第七項(b)(前述の(ホ)の後半)は、南アに対し、制裁の第一歩を課すものとの印象を与えるが、かかる制裁は、本来、安保理の権限に属するものであって、総会がこれを行なうことには疑問なしとしない。また、主文第八項(b)(前述の(ニ))については、二十四カ国委員会に対し決議案に云う如き特殊活動を要求することは適当でないと考える。わが国としては、上記二点につき、その態度を留保せざるを得ず、したがって現在の形での決議案には棄権するほかない。」
なお、南西アフリカにおける国連プレゼンス設立については、第十七回総会において、事務総長に対しこの目的のため努力するよう要請する決議が採択され、前述の第十八回総会決議においても、この旨の要請が再び繰返されているが、南アは、国連プレゼンスの設置には全く応じなかった趣である。本件経緯に関する事務総長報告は第十八回総会終了間際に提出されたが、AA諸国は、右報告に基ずき南西アフリカ問題の審議再開を要求すると共に、十二月十二日第四委員会において、「(イ)南ア政府が植民地独立宣言の履行につき国連との協力を拒否し、南西アフリカに関する諸総会決議を順守していないことを非難する、(ロ)安保理事会に対し、南西アフリカにおける危機的事態につき審議するよう要請する」趣旨の決議案を提出した。同決議案は、直ちに、第四委員会において表決に付され、賛成八十六(我が国を含む)、反対二、(ポルトガル・南ア)、棄権三をもって採択された。なお、右決議案はその後、本会議においても、賛成八十九(我が国を含む)、反対二(第四委員会におけると同じ)、棄権三をもって採択された。
(4) 植民地独立付与宣言履行特別委員会報告中その他の地域に関する問題
本会議は、十一月二十七日より十二月十一日まで、前述の一般事項とともに、二十四カ国特別委員会報告中前記の地域を除く他の地域、即ちアデン、マルタ、フィジー、北ローデシア、ニアサランド、英高等弁務官三地域、英領ギァナ等について一括審議した。
十二月十一日、特定地域別の決議案が、AAグループよりそれぞれ提出され、二、三の例外を除き、ほとんど異議なく採択された。
これら、決議は、地域により、それぞれある程度の相違はあるが、大体において、当該地域住民の自決と独立の固有の権利を確認し、施政国に対し、当該地域住民に速やかな独立を許与するため必要な措置を即時実施するよう要請している。
わが千葉代表は、十二月十一日、一般事項および特定地域別決議案に関し、一括して投票理由の説明を行なったが、特に、特定地域別決議案に関しては、「植民地主義には強く反対し、このような時代錯誤と不正の早期除去を希望するものであり、植民地主義下の住民の自由と独立への願望に深く同情し、できるだけ速やかに彼等の目的を達成するためあらゆる援助を行うべきであると考えるが、現時点においては、そのあるものはあまりにも急であり、援助するよりも非植民地化の促進を妨害していると考える」旨の発言を行なった。
宇宙空間平和利用に関しては、一九六二年には科学的・技術的分野において将来の国際協力に関する礎石が置かれたが、一九六三年には法律問題につき大きな第一歩が踏みだされた。
まず法律問題に関して基本原則問題を先議すべしとするソ連の主張に米国が譲歩して基本原則問題が先議された。
宇宙空間平和利用委員会第三会期(六三年二月~三月開催)の決定に従い、宇宙空間平和利用委員会の法律小委員会はニューヨークで一九六三年四月半ばから五月初めまで開かれた。この会期でソ連は従来各国が行なった法的基本原則に関する提案を可能な限り盛り込んだ新提案を行なった。このソ連の新提案は多くの点で各委員国の同意を得たが、なおかつ(1)戦争などを誘発するような宣伝の禁止、(2)他国の平和的宇宙活動に有害と思われる宇宙実験については関係国間の事前協議と同意を要すること、(3)国家のみが宇宙活動を行ないうること(民間企業による宇宙活動の禁止)、(4)人工衛星による諜報収集の禁止、(5)基本原則は宣言という形をとるがこれを国際約束として条約的効力を持たせるか、あるいは法的拘束力のない国連総会決議とするか、の諸点につき東西間に意見の喰違いがあった。またこのほか、(6)宇宙空間の探査と利用は平和目的に限定すべし、との意見がわが国を含む諸国から出されたが、米ソ両国はこの問題は軍縮委員会の管轄事項だとして反対した。この法律小委員会の会期では討議の結果、これらの相違点のいくつかにつき妥協の可能性が見出されたにとどまった。
宇宙空間平和利用委員会第四会期は九月開かれ国連第十八回総会に対する報告をまとめたが、その報告の中で委員会は法律問題につき関係諸国は今後も意見交換と協議を継続し、国連総会で本件が審議される時までに何らかの合意に達するよう望む旨が表明された。
その後米ソ両国は非公式協議を重ね、両国合意にもとづくところの宣言草案を作成した。よって宇宙空間平和利用委員会は十一月二十二日に第五会期を開いて審議し、この草案をそのまま承認の上、総会に対し追加報告として提出した。この審議においては、この草案は米ソ両国の妥協の産物であり各国にとり必らずしも満足すべきものではないと各委員国から指摘されたが、米ソ両国はこの宣言案をもって今後の法律問題進歩の第一歩とすべく、よってこれを承認するよう要請し、各委員国もまたこれを了承してこの宣言案を承認した。
総会の第一委員会は、十二月初めこの議題を審議して右宣言案を承認した。また米国、ソ連および日本を含む二十七カ国共同提案による「宇宙空間の平和利用における国際協力」に関する決議案を承認した。総会本会議は十二月十三日これらの宣言案と決議案とを満場一致で採択した。
採択された法的原則宣言の骨子は次のとおりである。すなわち前文では、宇宙空間の平和的探査と利用とに対する全人類共通の関心を認め(第二項)、宇宙空間の探査と利用は人類の福祉と各国の利益のため行なわれるべきであると信ずる(第三項)旨述べている。また前に述べた戦争宣伝の禁止については、前文で、平和への脅威、破壊または侵略行為を誘発するような宣伝を非難した総会決議一一〇(II)が宇宙空間にも適用される(第六項)旨妥協されている。主文は前文より規範的なものであるが、宇宙空間の探査と利用は全人類の福祉と利益のため行なわなければならない(第一項)、宇宙空間と天体に対する探査と利用の自由(第二項)、宇宙空間と天体はいずれの国の所有にも属さない(第三項)、宇宙空間における国家活動は国際法に従わなければならない(第四項)、宇宙空間活動については国家が国際的に責任を負う(第五項)、民間企業の活動には国家の許可と継続的監督を要する(第五項)、国際的機関の活動の場合はその機関と参加国とが責任を負う(第五項)、ある国の宇宙空間活動または実験が他の国の平和的宇宙空間活動に潜在的に有害な干渉を及ぼすおそれがあると信ぜられる場合は事前に適当な国際的協議を行なう(第六項)、発射された物体の登録国はその物体と乗員に対し管轄権と支配を保有する(第七項)、このような物体またはその部分で登録国領域外で発見されたものは登録国へ返還されなければならない(第七項)、物体の発射国は物体が外国または外国人に与えた損害につき国際的な賠償責任を負う(第八項)、宇宙飛行士が遭難した場合各国はあらゆる可能な援助を与え、また登録国へ安全かつ迅速に送還しなければならない(第九項)、などの九項からなる。
また決議一九六三(XVIII)の第一部は、法的原則を将来、国際協定化するよう勧告する一方、法的諸問題、特に損害賠償責任、および宇宙飛行士と宇宙飛しょう体に対する救助とその返還の二問題につき速やかに国際協定案を作るよう要請している。この要請に従い、法律小委員会は一九六四年三月ジュネーヴで第三会期を開き、この二問題を審議した。
科学技術面の国際協力については、一九六二年に合意された諸事項(情報交換、国際的計画の奨励、国際観測ロケット発射施設、教育と訓練)が更に前進させられ、具体化したほか、法律面でも問題となった潜在的有害な宇宙実験に関し科学的な面から審議された。また世界気象機関は通常の気象データと人工衛星による気象データとの双方を利用する世界気象観測組織(ワールド・ウェザー・ウォッチ)の設立に関し努力中であり、国際電気通信連合は宇宙通信用の電波を割当てるなどしている。
一九六二年国連第十七回総会に第二次総括報告を提出した原子放射線の影響に関する国連科学委員会は、同総会により事業を今後も継続するよう要請された。この要請に従い科学委員会は一九六三年一月に第十二会期を開き、今後の事業計画として
(1) 放射線による人間に対する癌、特に白血病の発生
(2) 核実験による放射性降下物による人体および環境の汚染
の二事項につき国連第十九回総会に報告を提出することを決めた。
国連第十八回総会は一九六三年十月三十一日特別政治委員会において「放射線の影響」の問題を審議し、日本およびカナダが中心となって各国に共同提案するよう呼掛けた決議案(十八カ国共同提案)を承認し、ついで十一月十一日総会本会議は全会一致これを採択した。
この決議案は、科学委員会に対して、すべての線源からの原子放射線の水準および影響に関する知識増大のため委員会の事業計画を続行するよう要請している。また世界気象機関による大気中の放射能測定計画についても、世界気象機関に対し同計画を実施するよう促している。
科学委員会第十三会期は本年二月下旬から三月初めまで開かれ、前記の二事項に関する作業を行なった。
わが国は科学委員会委員十五カ国の一つであるが、委員会活動に常に積極的貢献を行なっている。
国連総会において経済問題は第二委員会の討議に付されているが、第十八回総会では合計二〇の第二委員会関係決議が採択された。
採択された決議には、低開発国援助拡充、工業開発、土地改革促進、文盲除去、国連資本開発基金設立促進、軍縮の経済的社会的影響、国連調査訓練研修所設立準備促進等の決議が含まれており、低開発国の経済社会開発促進を目的とするものが多かった。
第二委員会のわが牛場代表の一般発言の骨子は次のとおりである。
(1) 国連科学技術会議のフォローアップとしての科学技術諮問委員会の設置を支持する。
(2) 国連貿易開発会議については、準備委の討議の結果低開発国貿易促進の必要性が一層明らかになった反面、これに伴う困難も明らかになった。要するに先進国および低開発国の双方が相互依存の精神に徹し、忍耐と信頼と善意をもって最大限の努力をすることが解決への道である。わが国は先進国に属するとはいえ国内に多くの問題を抱えているが、本会議に関してはできる限りの範囲で協力するよう努力したい。
(3) わが方は低開発国に対する経済協力に努力しており、特に東南アジア諸国との協力を推進している。
(4) 「開発の十年」特別調整委の作業を歓迎する。
本件会議の開催は一九六二年の国連第十七回総会決議一七八五(XVII)をもって決定されたが、以来三回の準備委員会およびECOSOC、国連総会の審議等を通じて会議の準備作業が進められ、いよいよ一九六四年三月二十三日から、約十二週間の予定をもって開催される運びとなった。
第一回の準備委員会は一九六三年一月二十二日から二月五日までニューヨークで開催され、貿易開発会議の仮議題について一応の合意に達した。その主な内容は次の通りである。
(1) 低開発国貿易開発問題全般
(2) 一次産品問題(貿易障害撤廃、商品協定の拡充等)
(3) 低開発国の製品半製品輸出の促進(特恵問題を含む)
(4) 低開発国貿易外収支の改善
(5) 地域統合の対低開発国貿易効果
(6) 開発援助問題(補償融資を含む)
(7) 既存の国際機構の活動評価と機構改善問題
(8) 最終議案書の採択
第二回の準備委員会は、一九六三年五月二十一日から六月二十八日までジュネーヴで開催され、右の仮議題毎に予備的討議を行った結果、多くの具体的提案、示唆、問題点が提出され、実質的準備作業をほぼ終了した。
第三回の準備委員会は本年二月三日から十四日までニューヨークで開催され、主として会議運営方法、役員ポストの割振り等の事項につき最終的打合せを行った。
プレビッシュ貿易開発会議事務局長は、一九六三年秋、主要国を歴訪して、本件会議に対する各国政府の見解を集めると共に、経済学者の意見等をも広く聴取し、かかる背景の下に自己の構想抱負を盛った総括的報告を配布した。この「プレビッシュ報告」は準備事務局の配布したその他多くの資料と共に今次会議の重要な討議資料である。
わが国は先進国とはいえ、国内的には多くの困難な分野を抱えており、低開発国貿易開発促進のため寄与しうる分野は限られているといわざるを得ないが、低開発国の開発促進と先進国の発展は両者が相互に関連し合って、全体として世界経済を繁栄に導びくとの認識に立って、今回の会議を通じて低開発国問題解決へのいとぐちを見出すべく、できる限りの協力を行うとの基本的立場で会議に臨む方針である。なおわが国は準備委員会の委員国に選ばれ、過去三回の準備委員会に参加し、可能な範囲内の貢献を行って来ており、本会議においては、アジア地域より、副議長に立候補した。
(1) 社会人権問題は総会第三委員会で審議され、わが国からは久米愛女史が代表代理として同委員会に出席した。
一九六二年の第十七回総会決議に基づき人権委員会が作成した「人種差別撤廃に関する宣言案」については、第三委員会で種々意見が出て大幅に修正されたのち、本会議で全会一致で採択された。同宣言は前文および主文十一カ条から成り、あらゆる形の人種差別を禁止し、そのために各国に対し必要な立法、行政その他の措置をとることを要請したものである。ことに同宣言第九条には主として西欧諸国の反対にも拘らず、人種差別を宣伝、煽動したり、暴力を用いたりする団体を非合法化することを求める趣旨の規定が設けられた。わが国は同条は言論の自由を侵すおそれがあるとの理由で、その採択には棄権したが、同宣言は法律的義務を課すものではなく、また、宣言は人種差別撤廃に大きく寄与するとの理由から宣言全体の採択には賛成した。
(2) 世界人権宣言が採択されてから一九六三年十二月で十五周年になるので、これを機会に人権思想の一層の普及をはかるため、国連を中心としてニューヨークの国連本部をはじめ世界各地で記念行事が行なわれた。しかし、世界人権宣言は各国に対して人権尊重を道義的に要求しているに過ぎず、法的には拘束力がないので、人権問題を法的拘束力のある条約で規制する目的で一九五五年の第十回総会以来「国際人権規約案」が第三委員会で継続的に審議されてきた。一九六三年の第十八回総会で漸く同規約案の実質条項の審議が終ったので、一九六四年の第十九回総会では同規約で保障した各種の人権を確保するための方法を規定した実施条項の審議が行なわれることになっている。
ここ数年来の国連の財政危機は、一部の加盟国が、スエズ国連緊急軍経費や、コンゴー経費の負担を拒んでいることにもよるが、第四回国連特別総会および国連第十八回総会においては、両経費の分担方式につき、従来の方式に代わる新方式が採択せられたが、その財政審議状況は、次のとおり。
(1) 第四回国連特別総会
第四回特別総会は、国連の財政問題を審議するため、一九六三年五月十四日より六月二十七日まで、ニューヨーク国連本部において、開催された。議論の中心は、一九六三年後半期のコンゴー国連軍ならびにスエズ国連緊急軍経費の分担方式および将来の国連平和維持活動経費分担方式に関するものであった。結局、これらの問題についての舞台裏で行なわれた先進西欧諸国と低開発諸国との交渉がまとまって、次の七決議案が六月二十七日の本会議で採択された。
(1) 尨大な支出をともなう将来の平和維持活動経費分担方式についての基本原則に関する決議
(2) 一九六三年度後半期スエズ国連緊急軍経費分担方式に関する決議
(3) 一九六三年度後半期コンゴー国連軍経費分担方式に関する決議
(4) スエズ国連緊急軍およびコンゴー国連軍経費分担金滞納分の支払に関する決議
(5) 国連公債の売出期間延長に関する決議
(6) 平和基金設置に関する決議
(7) 二十一カ国委員会(平和維持活動経費の分担方式を検討するため安全保障理事会常任理事国、および地理的配分の原則に従って総会議長が指名した国とされ、わが国もこれに指名されている)の継続存置に関する決議
前記の(1)および(2)の決議に基づくスエズ国連緊急軍およびコンゴー国連軍経費に関する新分担方式の概要は次のとおり
(イ) 総額を、スエズ国連緊急軍については九五〇万ドル、コンゴー国連軍については三三〇〇万ドルと見積り、このうち、スエズ国連緊急軍につき二五〇万ドル、コンゴー国連軍につき三〇〇万ドルは、全加盟国に対し国連分担率どおり割り当てる。
(ロ) 残りの分(スエズ国連緊急軍については七〇〇万ドル、コンゴー国連軍については三〇〇〇万ドル)については、先進国は国連分担率どおり分担し、低開発国は国連分担率に基づく分担額を五十五パーセントだけ減免される。この低開発国に対する減免分は先進国の国連分担率を基準とする自発的拠出金により充当する。
(ハ) ここで先進国とは、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、白ロシア、カナダ、チェッコスロヴァキア、デンマーク、フィンランド、フランス、ハンガリー、アイルランド、アイスランド、イタリア、日本、ルクセンブルグ、オランダ、ニュー・ジーランド、ノールウェー、ポーランド、ルーマニア、南アフリカ、スウェーデン、ウクライナ、ソ連、英国および米国の二十六カ国であり、低開発国とは右二十六カ国を除いたすべての国連加盟国である。
なお、わが岡崎代表は、六月二十一日の演説において、わが国は、右二経費につき国連分担率どおりの分担に加えて、応分の自発的拠出を行なう用意がある旨を明らかにした。
その後、わが国は、一九六三年度後半期スエズ国連緊急軍経費分担金、二一五、三〇六ドル、自発的拠出金、一九、一一六ドル、同コンゴー国連軍経費分担金、七四七、九〇三ドル、同拠出金、八一、九二七ドルの支払を完了している。
(2) 国連第十八回総会
国連第十八回総会における財政問題の審議については、国連平和維持活動経費分担方式につき、第四回特別総会において採択された新方式と、ほぼ同様な方式がスエズ、コンゴー両経費について採択されたほか、一九六四年予算見積に関する決議等関係議題に関する決議が採択された。主な決議と概要は次のとおり
(1) 一九六四年度予算に関する決議(総額一〇一、三二七、六〇〇ドル。わが国の分担率二・二七%として、わが国分担額は一、八六八、九六〇ドル)
(2) コンゴー国連軍経費に関する決議(一九六四年一月から六月までの本件経費の内、一五百万ドルを加盟国に割り当てる。但しその際低開発国については、分担額を五五%減免することとし、その減免分は、先進国二六カ国(前記)に割り当てる。わが国の分担金三三九、三八〇ドル、自発的拠出金三三、四二五ドル)
(3) スエズ国連緊急軍経費に関する決議(一九六四年度経費総額として、一七、七五〇千ドルと見積り、そのうち二〇〇万ドルは全加盟国に国連分担率どおり割り当て、残り一五、七五〇千ドルについては、低開発国に対し五七・五パーセントだけ分担額を減免し、その減免分は先進二六カ国(前記)の自発的拠出金により充当する。わが国の分担金は四〇一、六〇〇ドル、自発的拠出金四五、八六四ドル)
なお、右のわが国の分担金、拠出金は、全額すでに支払済みである。